「ヴルルの島 」 公演情報 おぼんろ「「ヴルルの島 」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ロボットに笑いロボットに泣く
    大変完成度の高い作品。ビジュアルと音楽の美しさ、陰影のあるキャラ、
    ドラマチックなストーリー展開と、全てがそろった素晴らしいエンターテイメント。
    ポンコツロボット「アゲタガリ」のキャラはとしもりさんの新たな当たり役だと思う。
    無表情と少ない台詞でボロ泣きさせる、“ズルい”キャラだ。
    別サイドからもう一度観たいと思わせる空間の使い方も秀逸。

    ネタバレBOX

    中央には小高いスペース、そこから四方に伸びる通路、
    通路の先にもまた高さのあるアクティングスペースが設けられている。
    いつもより少し広めのスペースで客席もゆったりしている。
    役者が駆け抜ける風を感じながらの観劇が心地よい。

    美しい世界にゴミは相応しくないと、人々はゴミ捨て場を探し
    見つけた場所がヴルルの島だった。
    原住民を殺戮して島を征服、そこにあらゆるゴミを船で運んで棄てるようになった。
    その船に、追われる盗人ホシガリ(末原拓馬)が逃げ込む。
    船はそのままヴルルの島へ到着、ホシガリはそこで奇妙な仲間たちと出会うことになる。
    しかし彼らもまた哀しい歴史を背負い、復讐の炎は消えていなかった。
    彼らの本心は、そしてホシガリの意外な出自が明らかになる…。

    現実の世界を映すような“美しい世界とゴミの島”という設定がまず説得力ありまくり。
    見たくない物は見えなくすればいい、欲しい物は奪ってやる、という現代人のエゴと
    力で制圧され、幸せを奪われる弱者の心が見事なコントラストを見せる。
    ホシガリの、奪っても奪っても「これは俺の欲しい物じゃない」という虚しさがあり、
    生き残った原住民ジャジャの、復讐に燃えながらも
    島の外の世界を見たいという素朴な欲求があって
    みな矛盾と葛藤の中で生きていることをうかがわせる。

    島の怪物“壊れかけの軍用ロボット”のキャラが素晴らしい。
    藤井としもりさん演じるこのロボットは、「コレアゲル」とゴミのようなものをあげたがる。
    スターウォーズに出てくるロボットみたいだが、寡黙で大事なことしか言わない。
    素のとしもりさんを想像させて、どこか愛らしく、不器用な鼻歌は絶品。
    彼の最期が、ターミネーターのシュワちゃんばりに自己犠牲を厭わず、
    淡々と島に残る選択をするところにボロ泣きさせられた。
    機械であるはずのアゲタガリが、完全にヒトと化している。
    あれでラスト、もう一度あの鼻歌が流れたりしたら
    泣いちゃって立ち上がれなかったと思う。
    無表情なロボットのブレないキャラが、実はこの物語の中心だった気がする。

    さひがしジュンペイさん演じる、元はヴルルの島を攻略した軍人で、
    今はゴミを運ぶ船の船長が渋くて疲労感あり、でとても良かった。
    初めて大切なものを失う恐怖に駆られるところ、ダークな顔でありながら
    実はピュアな心を隠しているというキャラがぴったりでとても良かった。
    メンバー5人が並んだ写真のビジュアルが素敵で、
    この人の今後の役どころに期待が高まる。

    わかばやしめぐみさんは、精霊(?)に憑りつかれる女と、憑りつく側の精霊の二役、
    メリハリある台詞で演じ分けが見事。
    全身真っ白な衣装も美しく、この点は予算が増えて楽しくなったなあ。
    「トナカイ」と「仲居」には爆笑したが、こういうところにもめぐみさんのすごさが現れる。

    高橋倫平さん演じる原住民のジャジャ、今回もまた普通の話し方が出来ない役で(笑)
    大変だったとは思うけれど、衣装も可愛くて大好き。
    相変わらず身体能力の高さをちらりと見せて、謎めいた存在の効果絶大。
    復讐を貫くことが出来ない代わりに、仲間を得て新しい世界へ踏み出す、
    でもその前にストレートに号泣するジャジャには感情移入せずにいられない。

    末原拓馬さん演じる盗人「ホシガリ」は、稼業のわりに育ちの良さが出ていて
    素の拓馬さんを彷彿とさせるキャラが面白い。
    今回の作品には、身勝手な現代人の価値観に対する痛烈な批判と同時に
    奪う側と奪われる側、双方の矛盾と葛藤が描かれている。
    ファンタジーに人間の本質を潜ませる、この素晴らしいスタイルを、
    これからもあっと驚く設定で見せて欲しいし、魅せてくれるものと期待している。

    4人が島を脱出して無事帰れるといいなあ。
    そして「アゲタガリ」がいつかどこかに流れ着いて、ガチャリと動き出さないかなあ、
    とずっと思っている。




    0

    2016/12/03 23:29

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大