CALL AT の見える桟橋 公演情報 メガバックスコレクション「CALL AT の見える桟橋」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    見事な台詞の応酬 (Aを観劇)
    シンプルだが良く出来たセットと、ユニークな異形の者たちが面白い。
    キリマンジャロ伊藤さんと小早川知恵子さんによる
    脚本の面白さを100%生かした見事な台詞の応酬が素晴らしい。
    笑っているうちに、作者の死生観や哲学に裏打ちされた深い意図が浮き彫りになる。
    これが、メガバックスコレクションの最大の魅力であり、強みだと思う。

    ネタバレBOX

    客席に足を踏み入れると、既に不思議な生き物たちが会話している。
    意味は解らないが感情は伝わってくるような不思議な言葉に、
    ファンタジックな雰囲気満載。
    人間ではない彼らのうち、二人はセットの一部みたいに動けない状態。
    檻の中にもひとり、正面には時々動く男が鎖につながれている。
    何が始まるんだろう、とわくわくしながら開演を待つ。

    暗転の後、この桟橋で4人の人間が次々と意識を取り戻す。
    追っ手を振り切りながら車に乗っていた泥棒(キリマンジャロ伊藤)。
    恋人を追いかけて時計台から転落したエンターテイナーの女(小早川知恵子)。
    鉄棒から落ちて首から下が動かなくなり長く入院していた少女(久下綾香)。
    戦場で、故郷へ帰る直前に撃たれた無線兵の男(松尾祥磨)。
    ほどなく皆、自分が死んだことに気付いてここがどういう場所なのかを探り始める。
    背が高く白塗りの顔をした男が、船で彼らをあの世へ連れて行くらしい。
    そして異形の者たちはそれぞれ未練・嘘・夢・罪を主食としていることが分かる。
    限られた時間内に戻れば生き返ることが出来ると知って、危険な賭けに出るか、
    船の修理が終わったらおとなしくあの世へと旅立つか、4人の苦悩が始まる…。

    似たような設定の物語は過去の作品にもあったのに
    どうしてこんなに毎回感動するんだろう。
    生への執着や、生きる意味を見出せないこと、大切な人を失った絶望、
    そしてあと少しで助けられたのに、という後悔の念。
    それらを抱えたまま突然命を絶たれた人間の心情が、
    威勢のいい台詞の応酬の中に丁寧に織り込まれている。
    この期に及んでまだ真実を隠そうとする心理も自然で共感を呼ぶ。

    人間って弱い、だけど優しくて素敵だ。
    いや、弱いからこそ優しいのかもしれない。
    個々のエピソードが良く出来ていて、一人ひとりに感情移入できる。
    作者の死生観や哲学が無かったら、エピソードがブレると思うが
    生死を俯瞰するような視点が貫かれており、
    結果的に一人ひとりの生きていた時間が鮮明に立ち上がる。

    泥棒とエンターテイナーの台詞に含蓄とユーモア、
    ラブコメのテイストがあって大変楽しかった。
    死んだ方が自由に動けていい、と言う少女の本心と
    最後の決断に至るプロセスには
    説得力と愛情があふれていて涙があふれた。

    鎖でつながれて人間の未練を食べる男(奈良勇治)、表情はほとんど見えないが
    最初から最後までモンスターらしい言動が貫かれていて素晴らしかった。
    死後の世界への案内人(卓巳)が無表情にも関わらず、実は真実を見る目と
    温かな心を持っていることが伝わる微妙な台詞が巧い。
    上司(?)からの電話に「はい、夫婦なので」と言う台詞には笑った。
    紅白の小林幸子みたいに装置と化しているモンスター(鈴木ゆん・本澤雄太)が
    異次元の世界観を表していて大変効果的。ころころ笑う声はBGMのよう。
    嘘を食べるピンクの女(ザッちゃん)の、嘘の暴き方が痛快。
    話を思いがけない方向へと転がすきっかけになるところが面白かった。
    船の修理をする男(井上正樹)、人間なのにモンスター達に近しい感じが
    良く出ていて面白かった。

    改めて「HOTEL CALL AT」をもう一度観たいと思わせる作品だった。
    メガバックスが次はどんな世界を提示してくれるのか、もう心待ちにしている。

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    2016/07/08 01:24

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