エダニク
ハイリンド
シアター711(東京都)
2018/12/07 (金) ~ 2018/12/16 (日)公演終了
満足度★★★★★
男三人の暑苦しいハイテンション会話劇が素晴らしい。
ドハマリのキャスティングでそれぞれの背景が浮かび上がる。
ほろにがラストがなかなか素敵で、女じゃこうはいかない。
ネタバレBOX
舞台は食肉センターの一室。
休憩室でもあるこの部屋で、沢村(伊原農)と玄田(有馬自由)が話していると
そこへ一人の青年が入って来る。
伊舞(比佐一平)という、ニートだったが最近就職したこの青年は
実は食肉センターの大手取引先会社の跡取りだった。
立場がくるくる入れ替わり、強気になったり下手に出たり、
恫喝まがいになったり懇願したり、3人の男たちは
次第に自分をさらけ出してぶつかり合う。
利害の絡む、守るべきものを持つ男たちの闘いの結末は・・・?
ドンピシャのキャスティングに惹かれて怒涛の台詞について行く感じが心地よい。
それぞれが守りたいものに固執するあまり、矛盾に気づかない様が面白い。
そこを相手が容赦なく突いてくると、敵意をむき出しにして突っかかって行くところが
男のストレートで可愛いところ。
女ではこうはいかないし、女なら別の描き方をするだろう。
男3人の芝居の面白さを堪能した。
差別の歴史を持つ職業にありながら
絶対的な技術と自信を持って臨む彼らの複雑な誇りが謙虚で清々しい。
そこへ「命の重み」を持ち込んで「残酷だとは思わないのか」となじる若造が
次第に尊敬の念を抱き始める、に違いないと思わせるラストが秀逸。
このあたりの素直さもまた男芝居のたまらなく面白いところ。
熱量の大きいこの芝居も折り返し地点にさしかかった7公演目。
台詞もノッて来て、とてもリズムが良かったと思う。
残念ながら私はiakuの舞台を観ていないが
どんな役者、どんな演出にも染まり得る素晴らしい脚本だ。
逆に言えば、「やってみたい」と思わせる台詞満載の本。
ハイリンド、ぜひまた観たい劇団が増えた。
お父さんの休日
劇団娯楽天国
駅前劇場(東京都)
2018/11/21 (水) ~ 2018/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★
三十周年記念特大号のしっかりしたパンフレットからもその歴史が感じられる。
舞台となる山奥の鄙びた(ぽっとんトイレの)旅館(名前はリゾートホテル)がきっちり再現され、
久しぶりに作り込んだセットを観た。
無理くり感はあるものの、ドタバタの中にいつの時代も変わらない
“人の心の揺れ”が描かれていて温かい。
番頭さんと女将さんがいいキャラだったなあ。
またオチが秀逸。
ネタバレBOX
思いっきり古い例を挙げるなら、どこかむかーし昔の「てんぷく笑劇場」みたいな、
レトロなフライヤーそのままの、騒々しくもほのぼのとした人情噺。
リストラされて、クビではないが系列会社のラーメン屋の店長になれと言われた
傷心のサラリーマンが主人公。
東北弁の女将に癒されているうちに、
家にいるはずの妻と娘や、会社の若い社員と連れの女、自殺願望のニューハーフ、
自撮り娘二人組、マタギの熊吾郎、ホストクラブの先輩後輩、そして
耳が遠くて腰の曲がった番頭の徳治郎が入り乱れて大騒ぎ。
宿は風吹と雪崩に見舞われて孤立してしまうが、無事助かって
一同めでたし、というお話。
24年前に初演した作品の再演だが、
“敢えて”の古めかしさが昭和のムードを醸し出して懐かしい。
半端なレトロは古臭さを感じさせるが、振り切れているので逆に定番の安定感がある。
オチを知ってから舞台を辿ると、そう言えば…ということがいくつも出てきて
あらためて巧いなあ、と思う。
気弱なサラリーマンを演じた鷲津知行さん、
ラスト近くの独白がとても良かった。
これがあるから単なるドタバタではなく
居場所を失くしたお父さんの悲哀が強く印象に残る。
しんみりと良い台詞だったと思う。
コテコテの濃いキャラが行き交う中、
女将の着付けがとてもきれいで、ユーモラスな訛りとは裏腹に洗練された所作が美しい。
番頭さんの“耳が遠い”キャラを都合よく使い分けている辺り、ただ者ではない。
「ホテルマンのマナー」、良かったっす。
30周年を迎えた劇団の、益々のご活躍をお祈りいたします。
遺産
劇団チョコレートケーキ
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2018/11/07 (水) ~ 2018/11/15 (木)公演終了
満足度★★★★★
独立した作品ながら、9月に上演した「ドキュメンタリー」とゆるやかに繋がる内容。
普通の人間が“組織”や“命令”を理由に凄惨な実験を繰り返した731部隊。
あの現場を嫌悪しつつも、研究者として至福の時だったと回顧する老医師の告白が
淡々としているだけに、彼の背負ったものの重みを感じさせる。
選び抜かれた台詞が素晴らしい。
本編終了後に浅井さんのひとり芝居があり、狂気とはまた別の顔を見せてくれた。
ネタバレBOX
1990年、死の床にある一人の老医師とそこに現れる過去の亡霊たち。
旧満州ハルビン市郊外のピンファンに、陸軍の細菌兵器開発を担う巨大施設があった。
731部隊と呼ばれた集団を率いたのは石井四郎。
彼の強力な推進力のもと、中国人を“マルタ”と呼んで実験に使った。
まさに唾棄すべき行為であったが、同時に研究者にとっては至福の時でもあった。
老医師の死後、貸金庫から彼が遺した一つの資料が発見される。
その“遺産”を託された青年医師のもとに
かつて老医師とともに731部隊にいた男が現れる・・・。
老医師が告白するように、あの数年間は“耐えがたくも至福の時”であったという
まさにそれこそが最も恐ろしい事だ。
そして731部隊の幹部全員が、細菌兵器の研究成果と引き換えに
戦犯訴追を逃れ、米軍の要望に応える形で血液銀行を創業、
幹部の多くは731部隊出身者であった。
高々と理想を掲げて多くの人々の人生を狂わせた連中の、この要領の良さ!
この血液バンクは、やがて薬害エイズを引き起こし
再び研究優先、利益優先、研究者の天国は繰り返されることになる。
岡本篤さん演じる老医師は、終始淡々と自己の半生を振り返る。
己の利己主義に絶望し大学の研究職に未練なく別れを告げる潔さが、彼の覚悟を物語る。
その誠実さから、その後の人生をどこか諦めている風が良く似合ってはまり役。
戦後も731部隊での研究を巧みに加工して論文を発表しようとする
同僚(渡邊りょう)との対比が鮮やかで、作品の救いである彼の良心が際立つ。
浅井伸治さん演じる天野軍医少将は、石井軍医中将を信奉して迷いが無い。
組織と教育・命令の根深さや日本特有の責任の所在を曖昧にしたがる性を考えさせる。
端正な口跡が本当に魅力的でいつも惹きつけられる。
無駄のない台詞で緊張感を保ちながら一気に魅せる脚本はさすがで
時空を行き来する演出も違和感なくついていける。
ラスト、片言の日本語を話す“女マルタ”が踊るところだけ、
いたずらにセンチメンタルを絵にした印象で、ちょっと違和感を覚えた。
部隊が全て引き上げた後、証拠隠滅のために300人のマルタを処分し
延々と遺体を焼き続ける傭人役の佐瀬弘幸さんが味わい深い。
その下で手伝いをする少年隊員役足立英さんの瑞々しさが救い。
こういう題材に果敢に取り組む姿勢がまず素晴らしい。
私のように「ボーっと生きてる」者でも考えさせられる、
演劇にはこういう力があるのだといつも改めて思う。
だから劇チョコが見せてくれるものを追いかけたくなる。
愚か者。たがらもの【尻軽娘に愛と無関心のブルースを】
獏天
Geki地下Liberty(東京都)
2018/10/12 (金) ~ 2018/10/21 (日)公演終了
満足度★★★★★
圧倒する役者陣の熱量、洗練されたダンス、昭和なヤクザと人情が入り混じった
このテイストが最大の魅力。
一二三(にのまえ ふみ)という名前もフルってる警視庁キャリアのキャラが最高!
カラオケボックスが住居兼事務所という設定もいい。
ヘイ&ジューという、エリートコースに背を向けた二人の破天荒な日常が
作品全体を振れ幅の大きいドラマにしていて面白い。
だから事件の落としどころも、非現実的ながら感情的にはすんなり受け入れてしまう。
ネタバレBOX
舞台には四角い木箱のようなボックスが数個のみ。
このさっぱりしたセットは、探偵事務所、警察署、ヤクザの組事務所にと
変幻自在で、しかも蹴っても投げつけても壊れないという優れもの。
廃れたカラオケボックスを住居兼事務所にしている探偵コンビ。
平吾は元警察官、十蔵は東大出で元外務省官僚というエリート二人が、
なぜカラオケボックスの月30,000円かそこらの家賃が払えない人生になったのか?
その原因となったのはどうやら「スモーキースマイル」という謎の人物らしい。
数年前企業や政治家の悪行をネット上に晒して日本中を席巻、その後地下に潜った。
今回、そのスモーキースマイルが久しぶりに活動を再開したかと思われる事件が起きた。
ヤクザの手助けをする闇の医師や、AVビデオに出演させられた女、
平吾と警察大学で同期だった警察庁のキャリア、腐れ縁の地元のヤクザなどが入り乱れて
舞台は大混乱、大アクション、大喧嘩、大汗かいてのアツいエンタメとなった。
平吾役の太田雄路さん、ストーリーを牽引するキレの良いアクションと
硬軟併せ持つキャラが魅力。
十蔵役の汐谷恭一さん、正統派の二枚目ながら美人に惚れると呆けたようになる
ギャップが可愛い。
警察庁キャリア役の谷岡由扶子さん、スタイル抜群で美人なのに
実は複雑な過去を持つ二三(ふみ)の切なさが伝わって来た。
シリーズ化に必須の、魅力的なキャラが揃っている。
メンツを重視するヤクザや、情に傾いた解決など、昭和テイストとも言える
ちょっと“懐かしいテレビドラマ”のような手触り。
単純なヒーローものには無い温もりを感じさせてとても心地よい。
このセンスがいいなあと思う。
「スモーキースマイル」というダークな存在もまた謎めいていてすごく惹かれる。
これって法で裁けない悪者に制裁を加える“闇の仕事人”的な?
いずれにしても主役二人の人生を狂わせた理由が知りたい!
と思っていたらエピソード0を2019年秋に上演するという。
え、1年も待つの?
幻書奇譚
ロデオ★座★ヘヴン
新宿眼科画廊(東京都)
2018/09/28 (金) ~ 2018/10/08 (月)公演終了
満足度★★★★★
65分の濃密な会話劇は、コンパクトでガッと集中できる理想的な時間だ。
澤口さんがキレのある口跡とたたずまいで冒頭から惹きつける。
「ナノ文書」って一体どんな書物なんだ、と興味を抱かずにいられない展開が見事。
緊張感溢れるストーリーに笑いを差し込むセンスもさることながら
そもそもこのオチが、脚本・柳井氏の“大人の余裕”を感じさせて秀逸。
ネタバレBOX
アクティングスペースには7つの丸椅子と小さなテーブル、
その上には遺跡から発掘された土器のような器と、薄い木箱が置かれている。
ここは博物館の会議室。
これから「ナノ文書」と呼ばれる書物をめぐって激論が交わされることになる。
「ナノ文書」は、12年前に日本の調査団がとある国で発掘した“書物”だ。
詳細な鑑定の結果2400年前のものと判った。
“世界最初の書物発見”、と大々的に報道され、専門家による解読が待たれたが、
ある時から「ナノ文書」は忽然と姿を消してしまった。
調査も打ち切られ、「やはり捏造だったのだ」という噂が独り歩きを始める。
マスコミに糾弾された関係者は病死、失踪、失職などに見舞われ
謎は謎のまま12年が経った。
その「ナノ文書」が博物館の倉庫から発見された、というので
世間は再び「捏造疑惑」に沸いているのである。
集まったのは、博物館の副館長をはじめとする研究員や事務局のスタッフ5名のほか、
元新聞記者で今は実家のうどん屋を継いでいる面堂(鶴町憲)と
日本考古学研究所の主任安西(澤口渉)。
実は、7人は皆「ナノ文書」に翻弄され、今もその中途半端な幕切れを引きずっていた。
やがてそれぞれが抱えていた秘密が明るみに出て、「ナノ文書」の内容が明かされる・・・。
おっと、そういう理由か!というオチが面白かった。
「ナノ文書」は“世界平和の鍵を握る最古の書物”ではなく
“世界最古の職業”のための指南書であった。
人類は今も昔も変わらぬ愛おしい俗物であり、社会も政治家も成熟していない社会では
それを笑って受け容れることが、何としても出来ない。
この笑えない真面目な人々の失敗を
極めて真面目に議論し追及し、最後に「ナノ文字」を解読できる元新聞記者が
手袋をはめ、そーっと書物を開いて読み始める時の緊張感こそが
この作品の最大の山場であり、次の瞬間の爆笑とのギャップが冴え渡る。
失意のうちに亡くなった「ナノ文字」を解読した女性研究者ゆかりの人々が
立場を隠して博物館にもぐりこみ、真実を探ろうとしていた、という設定も
登場人物の単なる正義感だけでない必死な思いに繋がっていて説得力あり。
ロデオの音野さん、澤口さんのキャラの造形が鮮やかで
体幹がしっかりしているから、鶴町さんのアツさがはみ出さない。
全体を牽引するような鶴町さんの台詞は相変わらず素晴らしい。
副館長役の福田真汐さん、ほっそりしているがとても“らしい”キャラで
華やか且つリアルな存在感。
人知を超えた現象を扱ったり、未知の生物が出てきたりと
柳井作品の辛口ファンタジーはいつも魅力的だが
こんな風に“身から出サビ”をもファンタジーにして
“勝手に期待して勝手に失望する”人間の可笑しさを描くとは!
柳井さん、次はどの方向からファンタジーにアプローチするのか、マジで楽しみです。
ドキュメンタリー
劇団チョコレートケーキ
小劇場 楽園(東京都)
2018/09/26 (水) ~ 2018/09/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
劇団員3人による生チョコみたいに濃密な会話劇。
キャラの設定がドンピシャで、特に岡本篤さんの老医師がはまり役。
「ようやくこの時が来たか」という“開き直り”と“待ってた感”がないまぜになったような
淡々とした覚悟が素晴らしい。
浅井伸治さんの正義感に突き動かされる実直なプロパーも良かった。
ラスト、もう少しドラマチックになるかと思ったが、これもドキュメンタリーということか。
ネタバレBOX
舞台はフリーライター(西尾友樹)が先輩ライターから借りた仕事部屋。
ある日、ここをひとりの男(浅井伸治)が訪れる。
グリーン製薬のプロパー(営業)で、「内部告発をしたい」というその男から
話を聴くためだった。
グリーン製薬は、血友病患者が使用する血液製剤を製造するトップメーカー。
他国が安全な加熱製剤に切り替えた後も、日本は非加熱製剤を使い続けた。
グリーン製薬の在庫を売りさばくため、エイズ感染の可能性を知りながら・・・。
プロパーの男は、この事実に耐えられず、告発したいと言う。
そしてもうひとり会社の裏側を知る男、グリーン製薬を辞めて小児科医を開業する
老医師(岡本篤)にコンタクトを取り、彼からも話を聴くことになる。
彼の語る会社の体質は、あの731部隊の恐るべき実態に繋がるのだった・・・。
正義感溢れるフリーライターが話を聞き出す形で進むが
若干前のめりなキャラとはいえ、彼が一人で動き回るのがちょっと不自然に映った。
が、それがあまり気にならなくなるほど、明らかになっていく事実に衝撃を受ける。
製薬会社のルーツが、あの731部隊にあるということ、
かつて人を“マルタ”として扱ったように、在庫処分のため危険な血液製剤を売り続ける。
根底にある実験優先、科学優先、利益優先の精神は全く変わっていなかった。
研究者にとって、常軌を逸したあまりに自由な現場は、彼らに黒い狂喜を覚えさせ
その記憶は製薬会社にそのまま持ち込まれたのだ。
ところがラスト、あれほど内部告発に燃えていたプロパーから、
「やはりできない」という電話が入る。
暗澹とするフリーライター。
「どうしますか、二人でやりますか?」と問う老医師・・・。
難しい歴史的事実に果敢に切り込むチョコレートケーキだが、今度はこれか、という驚き。
そしてそれをエンタメに仕上げるには「明快な理由が必要」と言う古川氏の言葉に納得。
史実としては「謎」だが、演劇で相変わらず「謎」と言われては社会の教科書と同じだ。
豊かな創造力による「明快な理由」があって初めて観る者は共感する。
チョコレートケーキの作品を観た時の「そうだったのか!」という深い共感は
これ故だったか、と思った。
たとえそれがフィクションであっても、である。
したたかな反面、人生の最後に自らを総括したいという老医師のたたずまいが素晴らしい。
単純な批判だけでは済まない人間の業を感じさせる。
実直なプロパーの緊張と憤りが伝わるような視線、表情がリアルで一緒に肩に力が入った。
彼の心変わりの変遷がどうしても知りたいと思わせる。
牽引役となるフリーライターの台詞、冒頭の録音シーンから事の重大さが伝わる。
迷いなく突き進んできた彼の、ラストで茫然とするシーン、このギャップが次を期待させる。
演劇の力を見せつけるテーマの選択、これからもずっと見続けたい。
それを具現化する役者陣の素晴らしい台詞に酔いながら。
白雪姫という女
ライオン・パーマ
駅前劇場(東京都)
2018/08/23 (木) ~ 2018/08/26 (日)公演終了
満足度★★★★
浅いようで深い、深いようで浅い(?)ライパらしさ全開の作品。
白雪姫が王子の愛によって生き返るという美談に隠された驚愕の真実。
客演の丹羽隆博さんが、濃い悪役を魅力的な声と台詞回しで演じている。
お妃さまの心理がリアルで面白い。
終わってみれば、何だかめちゃくちゃ素敵なラブストーリーじゃないの!
ネタバレBOX
毒りんごを食べさせられた白雪姫(絹川麗)が、
王子(石毛セブン)のキスによって生き返ってから20年、
二人は小さな村の鏡工場で働きながらひっそりと暮らしていた。
ところが、あのお妃(比嘉建子)にもう一度嫉妬の炎を燃え上がらせ
再び毒りんごを買いに来るよう画策する男たちが居た。
ミスタ―小助川(丹羽隆博)とりんご農園主バトラー(加藤岳仁)である。
今回毒りんごを食べさせられるのは誰か、
そして20年間誰も知らなかった秘密とは・・・!?
冒頭の“意味深・実はナンセンス”な会話で
悪者小助川を演じる丹羽さんの声に魅了された。
鏡男(瀬沼敦)の佇まいも良い。
この作品一番のキモは、“20年間秘密を抱えて来た王子”ではないか。
白雪姫を純粋な愛情で生き返らせたのではなく、
計画的に毒消しを注入しただけだったという、その事実は王子を長く苛んできた。
鏡工場で働く王子の仕事は「目視」、完成した鏡に自分を映して曇りや傷を見つけること。
それはそのまま自分自身の弱さと向き合うことだった。
その辛さに耐えられず多くの者が「目視」を続けることが出来なかった。
王子だけが、許せない自分自身から逃げずに向き合い続けた。
真実を知った白雪姫が、一度はショックを受けたものの
「一緒にいたこの20年間こそが愛情の証」と気づいて
刑務所に送られた王子を待ち続ける。
刑期を終えて出て来た王子は白髪交じり、迎える白雪姫の髪も真っ白。
この愛が軸にあるから、周囲がおちゃらけても心に残るものがある。
それともう一つ、悪役の妃を支える健気なマテス(草野智之)の純な気持ちが
人間の多面性を描いて深みがあった。
ライオンパーマが大人の恋愛を描くとこうなるのか、と新たな発見!
バンブーオブビッグ
劇団マリーシア兄弟
Geki地下Liberty(東京都)
2018/08/16 (木) ~ 2018/08/19 (日)公演終了
満足度★★★★
劇団10回目の記念すべき作品は、お笑いライブが開催される劇場の楽屋が舞台。
芸人たちのキャラがバリエーション豊かで作品に奥行きが生まれている。
この作品の笑いと涙を一手に引き受けている感じの、お笑いの場面が秀逸。
男だらけの“暑苦しい”作品の中、ミドリの淡々とした言動が涼やかで魅力的だ。
ネタバレBOX
本番前の楽屋では、先輩後輩コンビ、来ない相方を待つ者、ピン芸人、
落語家、事務所の社長二人、そして不穏な空気漂う二人が出番を待っている。
カエデ(佐々木祐磨)とヨウヘイ(中島健人)のコンビのうち、ヨウヘイだけが
映画に出演することになり、しかもそれが“別のお笑い芸人と組んで漫才をやる”役
ということで、カエデは甚だ面白くない。
腹立ちまぎれに「もうお前とは組まない」と口走るカエデ、
ヨウヘイも「映画も辞める、芸人も辞める」と言ってしまう。
本番は刻々と迫ってくる・・・。
自分も何らかの問題を抱えながら、衝突する二人をなだめたり説教したりして
二人を見守る周囲のキャラが良い雰囲気。
“徹底的にヤな奴”が登場しないのはマリーシアの特徴だろうか、
そういう”育ちの良さ”も、私がこの劇団が好きな理由のひとつだ。
誰も悪くないのに上手くいかないのが世の中ってやつで、そのほろ苦さを
社長のミドリ(大浦力)が体現している。
前作「Green Peace」で“辞めたいと言う相方を引き留めなかった”ミドリが
今、同じ状況の若い芸人にどんなアドバイスをするのか、というのも
今作の見どころとなっている。
そこにもう一人、ミドリの過去を知るカラキ社長(歳岡孝志)が絡むのが面白い。
演じる歳岡さんが自然体ながら、この人の台詞になると舞台が落ちつく。
一度この方の劇団Please Mr. Maverickを観てみたいと思った。
久々にマリーシアに合流した佐々木祐磨さん、勢いのある台詞がメリハリを生む。
今日一番ウケたのはキヒラユウキさんの“コーライッキ飲み”じゃないか?
作品中のお笑いの台本がとても良く出来ていて楽しい。
ナンセンスな一発フレーズに頼ったりするのではなく、
きちんとストーリーがあって、客の気持ちが一緒に動くようなお笑い。
終盤ネタを離れて二人の関係が変化する辺り、構成の上手さも光る。
通常マリーシアの台詞はリアルで細かいやり取りが持ち味だが、
その分ストーリー展開がもたつきがちな時がある。
それがお笑いの台本になると必要最低限の会話で、一気に話が早くなる。
作品全体の緩急を生み、ラストが締まる。
「バンブーオブビッグ」というよくわからないタイトルの意味が明かされた時
考えてるなあ、と軽い衝撃を受けた。
ミドリ社長、あなたは自分を大切にしていますか?
息子を心配するような気持で、オバサンは劇場を後にしたのだった。
『首無し乙女は万事快調と笑う』&『漂流ラクダよ、また会おう』
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアターサンモール(東京都)
2018/08/10 (金) ~ 2018/08/15 (水)公演終了
満足度★★★★★
「漂流ラクダよ、また会おう R18」を鑑賞。
テイストの違う短編が問いかけてくるのは「存在」ではないか。
信じていた「自分」が相手には「別の自分」として映っていた。
自己の存在のはかなさ、自己主張の虚しさ、
所詮自分は“相手に委ねられている”ことの腹立たしさ・・・。
自分を見失いがちなのも当然、私たちは“人の思惑”で生きている。
そんな真面目なテーマを内在させながら、R18で崩してみせる、
このバランスがいつも楽しいんだな。
少々の下ネタでブレるようなテーマではないから出来ることなのだろう。
「君といつまでも」の静かな狂気に寄り添う哀しみが素晴らしい。
ネタバレBOX
R18の回の楽しみは、そのナンセンスな笑いを織り込んだアドリブっぽいやり取りと、
にもかかわらず結構シリアスな本流がブレずに貫かれているのを観ることだ。
“R18の看板”井上さん、いつもありがとうございます。
手に汗握る活躍でした(笑)
ひとりの作家が、謎の知的生命体(作家にはラクダに見える)と交信、
互いの星の物語を語る、というかたちで短編作品がくり広げられる。
全編を通して問われているのは「存在」、
そして「存在」は「相手からどう見えているか」が全てである、ということ。
自分が信じる「自分」よりも「相手にとっての自分」が優先するという理不尽が
面白く、皮肉っぽく、また痛切に語られる。
いつも華奢な身体を惜しみなくさらけ出す野口オリジナルさんが
誰だかわからないようなラクダメイクで熱演、骨太の知的生命体になった。
声も太く、表現の幅を感じさせた。
「私の彼は甲殻類」の増田赤カブトさん、観る度に上手くなるなあ。
ひとり芝居をここまで集中させ、笑わせるようになったかと、母の気持ち(笑)
台詞も間も、ほんとに面白かった。
「老婆と椅子」の吉田翔吾さん、心を持つ椅子の気持ちが伝わって切ない。
結局夕子は望み通り幸せな死を迎えられるのだと暗示していてほっとする。
「君といつまでも」の加藤慎吾さん、ストーリーを知って観ると
冒頭からその表情や台詞に苦いものが混じっていることがわかる。
認知症の進んだ妻が自分に見ているのはかつての恋人であり、
自分はどこにもいない、という絶望的な状況がどれほど人を苛むことか。
それでも病む妻に寄り添っていこうという決意が辛く哀しい。
この老夫婦の後日談が観たいと思わせる。
自分の存在を否定する妻を、夫はどこまで受け入れるのか、
それは愛情と呼べるのか・・・?
笑いながらこんな重いテーマを突き付ける、
だから吹原幸太さんの作品から目が離せないのだ。
ブラックマーケット1930
ユニットR
こまばアゴラ劇場(東京都)
2018/06/27 (水) ~ 2018/06/30 (土)公演終了
満足度★★★★★
岸田理生カンパニーのメンバーを中心とした結成されたユニットで、
ユニット名の“R”は理生さんのRだという。
初めて観たユニットRは、言葉の一つひとつが刻々と色を変えて粒立っていた。
台詞の強さと美しさが、カニバリズムのグロテスクな内容を際立たせる。
浮浪者の女が、やがて女王のように君臨する皮肉が素晴らしい。
ネタバレBOX
舞台中央には、血にまみれた肉屋の“仕事場”らしき台が横長に置かれている。
それがそのまま別のシーンでは食卓になり、肉に飢えた客が料理を堪能する。
戦後の食糧難の中で、肉などどこにも売っていないのに
その肉屋に行けば肉が手に入る・・・。
肉屋は人を屠るときだけ、“生の実感”を得ることが出来た。
だがある日、浮浪者の女に脅される。
「ここに一緒に住まわせて。もし私が死んだら友達が私の手紙を警察に持って行く」
女はまもなく肉屋を操るようになる。
「そろそろ狩りに行っておいで」
そして客を集めて美味しい料理を出すのだった。
だが肉屋はもはやかつてのように屠る喜びを得ることが出来なくなっていた・・・。
繰り返される「肉」「飢え」、その「肉」と引き換えに「性」を売るのは
食欲と性欲が同列に並ぶからに他ならない。
そして人は欲望に忠実な時だけ、真の喜びを味わうことが出来る。
命令されたり、システム化されたりすると、途端に喜びは半減し、苦痛と化す。
肉屋を見ているとそれが良くわかる。
前説の諏訪部仁さんがソフトな挨拶をして頭を下げ、その顔を上げないうちに
最初の台詞が発せられる。
その不気味なまでのギャップで、いきなり異世界に引きずり込む導入が巧い。
実在するのかしないのか不明な幻覚の男、強烈な存在感で忘れがたい。
浮浪者だが、肉屋を脅して人肉の調達を強要する女を演じた江田恵さん、
殺人鬼に対して、不敵なまでの上から目線が素晴らしい。
殺した人間を肉として売れば証拠はなくなるが
それをよりおいしく食べよう、という発想は肉屋の上を行くと思う。
ある意味、人間を牛豚鶏と同等に考えて“仕入れ”を命令しているよう。
どんな世界にも「マーケット」はあり
そこに「ブラックマーケット」も存在する。
永遠に正当化されない、だがあからさまに欲望に忠実な人間が
店頭に並んでいるのだ。
ユニットRの隙の無い役者陣、魅力的な台詞と声、ぜひまた観たい。
ツヤマジケン
日本のラジオ
こまばアゴラ劇場(東京都)
2018/06/05 (火) ~ 2018/06/10 (日)公演終了
満足度★★★★
犯罪史上名高い大量殺人事件の犯人を「同席させて」舞台が始まる。
女子高生のまっすぐな身勝手さと、孤立を恐れる気持ちが交差する。
期待していた人に裏切られると、身体のどこかでじわりと殺意が芽生える恐怖。
ネタバレBOX
携帯の電波も入らない山奥に、合宿のため女子高の演劇部がバスでやって来る。
途中部員のひとりがバスに乗り遅れて、到着してから大騒ぎになる。
ちゃらんぽらんな顧問の教師、ツンデレの演劇部長はじめ、
全員が何らかの思惑を持って、誰かを観察しながら行動している。
そんな中、部屋の隅に“その男”を見つけたのはキコ(藤本紗也香)だった…。
懐中電灯を頭につけたあのいで立ちで客席から登場し、部屋の隅にうずくまる男ムツオ。
津山事件の犯人の名前は都井睦雄、バスに乗り遅れた生徒の名前は都井。
そう思って当日パンフの人物相関図を見ると、登場人物は全員
世を騒がせた殺人事件の犯人と同じ名字を持っている。
偶然合宿所の管理人の男の秘密を知ってしまった生徒が彼に襲われ、
目撃した生徒も襲われ、ついに殺人事件が起こってしまう。
「好きな人が幸せになるのも、不幸せになるのも見たくない」という生徒の台詞、
最初に、大好きだった祖母の首を斧で切り落とした睦夫の行動。
身勝手な思い入れが先行する彼らの行動は
勝手に他者に期待して、その期待を裏切る者は許さないという
自己中心的な点で共通している。
孤立するのを極端に恐れ、それを避けるためなら嘘をつくくらい何でもない。
時折笑いを織り交ぜながらイマドキの女子高生をリアルに描き
ふとしたきっかけで振れ幅が度を越せば、津山事件のようなことも起こり得る、と思わせる。
「あと10人くらい…」と言いながら客席を抜けて去っていくムツオ。
その思いを受け継ぐかのように、懐中電灯を頭に付け日本刀を持つキコとユキ。
二人がこれからどうするのか、教師と部員たちに制裁を加えるのか、
というところで舞台は終わる。
女子高生の誰もが煮詰まって爆発する可能性を秘めているところがキモ。
その爆発の連鎖が見たかったかな。
殺戮シーンが見たいわけではないが、隅からじっと見つめるムツオの不満が
彼女らに乗り移るような相互交流がもっとあればと思った。
キコとユキがラスト、津山事件を思わせるいで立ちで出ていくのが若干唐突な感じ。
キコを演じた藤本紗也香さんが巧い。
とらえどころのない浮遊感があって、存在感大。
ヤバいことをしている管理人の松本役の野田慈伸さん、それがばれた時の
緊張感が素晴らしく、一気に客席も緊張した。
ひたむきで世間知らずで、でもしたたかな女子高生たちが、実は一番怖いのかも。
堀が濡れそぼつ
MCR
ザ・スズナリ(東京都)
2018/05/18 (金) ~ 2018/05/22 (火)公演終了
満足度★★★★★
まったくこれじゃ堀は濡れそぼつしかないじゃないか、というお話。
久しぶりに櫻井さんのブラック全開な展開がめちゃめちゃ楽しい。
複数の強烈な個性が生き生きと躍動する感じは役者のテンションと巧さの賜物。
みんなパワーあるなあ、中でも堀さんのテンション・コントロールはさすが。
ハイスピードで繰り出す台詞の中にピュアなスピリッツが見える。
飛び道具的キャラも効いているし、舞台の作り・場転もうまい。
ネタバレBOX
妻にはかつて恋人がおり、彼は自分の親友だった。
彼が死んでしまって、自分はその彼女と結婚した。
妻は妊娠している、郊外に一軒家を立てた、自分たちは幸せだ。
ところが押しかけ隣人や昔の友達、怪しい霊媒師、出所して来た夫の友人など
おかしな人々が出入りして平和なはずの新居に波風が立つ…。
“何となく避けて通っていること”をおせっかいで意地悪な人々が
容赦なくえぐり出してくれる“余計なお世話感”満載。
おかげで夫婦は言うつもりの無かったことまで口に出し、溝に発展する。
その中で堀のスタンスはぶれない。
時々小さくぶれるのだが、芯はぶれない。
だから孤独で切なくて、結果堀(堀靖明)は濡れそぼつ。
そんな彼を、そして怪しい霊媒師(澤唯)に騙されて
壺やらなにやら買わされている妻(笠井幽夏子)を救うのは
意外なことにちょっと困った出所したばかりの友人櫻井(櫻井智也)だ。
“人を殺すことを何とも思わない”この友人が黙って彼らを救う。
さんざん言われっぱなしやられっぱなしだったからスカッとするラストが秀逸。
めでたしめでたしで何だかとても嬉しくなる。
この“世直しヤクザ”なキャラ、スピンオフで何かやって欲しいくらい。
いつもながら伊達香苗さんのダイナマイトボディが存在感大。
人の幸せを妬んで壊したがるキャラを遠慮なく演じて効果絶大。
超年齢不詳な子ども(加藤美佐江)が飛び道具的に面白く、効いている。
堀の妹の婚約者でAV男優(長瀬ねん治)が味わい深い。
櫻井さんのキャラが久々に突き抜けて実に爽快。
そして堀さん、いいヤツだなあ、末永くお幸せに!
Brand new OZAWA mermaid!
EPOCH MAN〈エポックマン〉
APOCシアター(東京都)
2018/05/05 (土) ~ 2018/05/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
小沢道成さんのひとり芝居観劇は2回目だが、今回も素晴らしかった。
世間知らずな少女の“期待しすぎな”夢と好奇心がまぶしい。
なんて綺麗な人魚、そして脚なんだろう!
人魚は軽やかに東京を目指すが、
パーカッションのドラマチックな演出が彼女の選択の重大さを表している。
ライブならではのアクシデントをものともせず、
たたみかけるような台詞とテンションでむしろパワーアップさせるのはさすが。
ひたむきな“平成人魚姫”が東京を泳ぎ渡る。
ネタバレBOX
黒い舞台の奥にドラムセット。
波の音が次第に高くなる中、開演を待つ。
ティア―ドスカートの人魚は、海の底で人間世界の情報を収集している。
「an an」を読んだりして地上の生活をシミュレーションするのが可笑しい。
18歳を迎えた姉たちは、次々と広い海へ出ていく。
決して人間に近づかないように、と注意を受けて…。
やがて一番下の人魚が18歳になった日、彼女は海に落ちた人間の男を助ける。
それが彼女に“人間になる”決心をさせる…。
「人魚姫」は可哀想すぎる、という小沢さんの
「純真さへの愛おしさ」が作品に満ちている。
“東京イマドキ王子”とのあるある感満載の会話や
情報に振り回される若い女性の心理が細やかに描かれてとてもリアル。
日本中毎日どこかでこんなやり取りが交わされているだろう。
演出的には
一大決心をして“足”を手に入れた時のシーンが圧巻。
姉たちの人形も笑った。
冷蔵庫や水族館の演出も巧み。
劇場を活かして目いっぱい楽しい演劇体験をさせよう!という
気概にあふれている。
ドラムのマルシェⅡ世さんが、にこやかに人魚を見ているのがまたいい。
ラスト、海辺で花火を見上げる人魚は何を思っただろう。
これからどうするのだろう。
小沢人魚は泡になったりしない気がする。
海へ還るより、東京を自在に泳ぐ方がずっと似合っている。
ひとり芝居でありったけの想像力を結集させる小沢さん、
次は何だろう、絶対また観に行きます。
いたこといたろう
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2018/05/01 (火) ~ 2018/05/06 (日)公演終了
満足度★★★★★
「なべげんイタコ演劇祭」と名付けた今回の公演、
GW唯一の休みに、2本立てのうち1本を観ることが出来て観劇感激!
青森に伝わる特異な文化“イタコ”という「生者と死者”をつなぐ者」が
なんと強烈かつ優しい存在であることか。
経文と憑依のシーンがキモだが、人の本音が迫力満点で迫り素晴らしい。
「イタコ体験ツアー」とかあったら絶対行きたい!
ネタバレBOX
舞台中央から奥は大きな祭壇、階段状にぎっしりと並んだ神仏の類い。
両脇にはたくさんの白い着物や制服など、亡くなった人のものだろうか。
祭壇中央には深紅の細い珊瑚みたいなものが炎のように立っている。
イタコ(林本恵美子)の元をひとりの女性が訪れる。
このサトウハナ(三上晴佳)はホトケオロシを依頼するが、実は深い事情があった・・・。
冒頭からイタコの唱える経文に惹き込まれた。
インチキか、超現象か、という議論を超えた土着のリアリティが素晴らしい。
もうひとつの見どころは憑依する場面、イタコの師匠でありハナの育ての親の登場だ。
子を“捨てた”者、“捨てさせた”者、そして“捨てられたが大切にされた”者が交差する。
イタコを通して、つまり人知を超えた存在から告げられる真実は
恨みつらみを生むのではなく、聞き手に自然な受容の姿勢をとらせる。
生きている者から言われると受け容れ難いことも、死者の声として告げられると
どこかからりとした雰囲気ですんなり入って来る。
アフタートークで畑澤氏が「3.11で被災しなかった東北人としての表現を探った結果」
のひとつが「イタコ」であったという話が心に残る。
「イタコ」も「カミサマ」も風土と結びついた文化である。
“生きている者同士では上手くいかない世の中”にあって、人はこんなかたちで
救い、救われるすべを生み出した。
そこに演劇表現の原点を見い出した畑澤氏に感服。
これからもイタコ劇作家として様々な作品を見せて下さい。
タバコの害について/たばこのがいについて
劇団夢現舎
新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)
2018/04/20 (金) ~ 2018/04/24 (火)公演終了
満足度★★★★
会場ではアントン・パヴロヴィッチ・チェーホフの名にちなんで「行灯パブろびっち」を開店。
受付でドリンクを注文し、小さなおつまみと共に頂きながら開演を待つ。
休憩をはさんで30分のオリジナル作品と60分の「タバコの害について」の二本立て構成。
“キャリアウーマンの妻と生活力のない偏食男”の攻防が始まる。
ネタバレBOX
2016年の公演ではチェーホフの人物像を楽しく見せてくれた後、本編となった。
今回はまず夫妻の日頃のやり取りが再現される。
客席近くに舟形の白い物体、「パブろびっち」の行灯がいくつか吊るされている。
好き嫌いの多いチェーホフと、健康のために野菜を摂らせようとする妻の闘い。
人参・ブロッコリー・ピーマン・ゴボウ、それにキノコが大嫌いなチェーホフに
妻は毎日それらの入ったメニューを出し続ける。
そして次第に若かりし頃のチェーホフと現在の情けない有様を比較して嘆く。
白いバスタブで飼っているピラニアの野生を、夫はとうに喪っている。
そして学校を経営するやり手の妻に命じられて“社会に有益な講演”をすることになった彼は
「タバコの害について」と題して語り始めるのだが・・・。
30年間の結婚生活を嘆く“結婚ぶっちゃけ話”に終始する講演、
これに説得力を持たせる前半の“夫婦の日常”という構成が面白い。
悪妻VS大作家、に見えるが、30年も一緒にいて7人の娘がいるという現実に
“それなりに幸せな男のぼやき”ともとれる。
久しぶりに観る益田さんは以前よりさらに緩急自在、
この誇張された初老の男の嘆きを余裕をもって演じているように見える。
金にならない作品を書き続けていられるのはこの妻のおかげ、
野菜を食べなさいと口うるさい妻の言い分ももっともなことで、
子どもの喧嘩みたいな夫婦のやり取りも愛情の裏返しと見ることが出来る。
講演会場に怖ろし気な妻の人形を持ち込んだのには笑った。
逃げ出したいんです、何もかも放り出して逃げ出したいんです・・・というのは
夫に限らず、妻も密かに夢見る普遍的な野生の夢ということか。
妻役の三輪さん、ろびっち店主の高橋さん、何だかとても洗練された印象。
久しぶりの夢現舎はおもてなしも行き届いていて、
この世界観はやっぱり特別な劇団だ。
R老人の終末の御予定
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2018/04/18 (水) ~ 2018/04/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
人間が滅びた後、ロボットは人間に限りなく近づいていくのか。
“ロボットのアダムとイブ”となったカップルのいきさつが秀逸。
それにしても被り物もここまで来れば怖いものなし。
私が好きなのはブレーカーです。
ネタバレBOX
冒頭から同じ衣装の老人二人が登場。
死期が近い天才科学者辰郎(加藤慎吾)と、彼が作ったロボットメカ辰郎(NPO法人)である。
残される妻八重子(小岩崎小恵)を思ってのことだった。
そしてメカ辰郎は、順調にその役目を果たして行く。
辰郎と八重子の時代からおよそ千年後、地球はロボットと家電の世界になっている。
ヨドバシファミリーのエレキギター・グレコ(野口オリジナル)と
ビックファミリーのポット・ハミー(平山空)は、
まさにロミオとジュリエットのような恋人同士だが、両家の争いはついに全面戦争に突入。
二人の恋の逃避行のさなか、グレコは古いチップを見つけ装着してみる。
それは千年前、最初のロボットを創った人間の記憶が読み込まれたチップだった。
両家の戦争は、そしてグレコは傷ついたハミーを救うことが出来るのか…。
相変わらずバカバカしい被り物軍団が、キラリと光る真実をついている素晴らしさ。
それにしても良く出来た衣装(?)だなあ、ポットとか洗濯機とかダイソンとか。
衣装が大きく特殊なので、誰も落とした小物を屈んで拾うことができず、
とうとう「えーい!」と足で袖へ蹴り込んでしまうのは、演出かなのかアクシデントなのか(笑)
当日パンフで配役を見ないと誰が演じているのかわからないほど顔を塗っているが
エレキのグレコ役・野口オリジナルさんが、いつもの華奢なイメージを覆す骨太な存在感。
声も力強く新たな一面を見せつけて強烈な印象を残す。
相変わらず達者な老けぶりを見せるNPO法人さん、
楽しんで演じている余裕が伝わって来る高橋ゆきさん、
共に安定感があり、安心して観ていられる。
荒唐無稽な設定と見た目の可笑しさの中に鋭く問いかけて来るのは
「ロボットの進化とは、限りなく人間に近づくことなのか?」という疑問だ。
限りなく人間に近づくことは共存を困難にすることを意味し、
その結果人間はロボットに滅ぼされてしまったのだ。
ロボットは互いを攻撃しないという設定を超えて、
メカ辰郎は古くなって故障した妻、ロボット八重子の電源を引き抜く。
そして新婚旅行で行った熱海の海岸で、自らの電源をも引き抜いて息絶える。
安楽死や自殺という本来設定に無い行為に及んだ時点で、
ロボットは限りなく人間に近づき、もはやロボットではなくなっている。
こういう場面では横尾下下さんの何気ない台詞が、実に深い意味を持つ。
ロボットにも死後の世界があり、夫婦は又会える、と告げる場面がいい。
最古のロボットリオ(加藤慎吾)の孤独な最期も忘れられない。
吹原幸太さんは、いくつもの層を掘り当てながら観る楽しみを与えてくれる。
それはそのまま作者の洞察の深さと、鋭い観察眼を表している。
ホント、人は見かけによらないなあといつも拍手しながら思う。
吹原さん、ありがとう。
青春超特急
20歳の国
サンモールスタジオ(東京都)
2018/04/19 (木) ~ 2018/04/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
以前、国王の竜史さんが客演した他劇団の舞台を観て、とても興味を惹かれた。
無駄のない台詞と構成の上手さ、そして熱量の凄さに圧倒された。
“青春を懐かしんで”演じているのではない。
“青春真っ只中感”満載で、全員が突っ走っている。
オバサンはその超特急に同乗し、ラスト、フラカンの「深夜高速」で号泣したのだった。
ネタバレBOX
スチールの机と椅子が並ぶさっぱりした舞台。
オブジェのように椅子が積み重ねられた一角がゲートのようになっている。
この机と椅子を巧みに移動し、重ねることで場面が変わる。
卒業式当日、3年間の思い出をたどる超特急に乗って時間を遡る構成。
文化祭や部活、恋、進路などに燃えつつ揺れるいくつかのカップル、
青春ど真ん中を行く彼らの姿が大人目線でなく、臨場感たっぷりに描かれる。
斉藤マッチュさんの“登場しただけでキャラが見える”たたずまいが素晴らしい。
他の劇団で何度も観ていたが、身体能力の高さを発揮するダンスや
ハスに構えていながら、いい子ぶらずに母親思いをちらりと見せるのもいい。
ラスト、千里(山脇唯)との電話のやりとりに温かさと清潔感があって大好きなシーン。
鉄男(岡野康弘)のキャラが秀逸。
鉄道をただの乗り物として眺めていた物静かな彼が
「人がいて初めて鉄道は生きる、と気づいたんだ」と語るところ。
恋やたばこ、ゲーセンやカラオケには縁の薄い彼が
ひとりで哲学して、孤独のうちに成長していく様に感動を覚える。
こんな全力疾走もあるのだと気づかされる。
発車を告げる駅員のアナウンスとのギャップも素晴らしい。
野球部の丸山(古木将也)の最後の語り、泣かせるなあ。
こんな風に一生懸命になる高校生がどれほどいるかわからないが
なんて純粋な気持ちなんだろうと思う。
説明的台詞無しに豊かなキャラを立ち上げる竜史さんのセンスが光る。
この青臭さ、要領の悪さ、全てが愛おしく輝いている。
20歳の国に行かなければ絶対観ることのできない景色を観た思いがする。
フラカンの「深夜高速」をありがとう!
もうそれだけで泣けてもうた。
僕をみつけて/生きている
かわいいコンビニ店員 飯田さん
OFF OFFシアター(東京都)
2018/04/04 (水) ~ 2018/04/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
「僕を見つけて/生きている」のうち「生きている」を観る。
2つ目の「進軍、ブラック社畜兵」が圧巻の面白さ。
怒涛の台詞とスピーディーな展開が素晴らしい。
“ドナドナ状態”にあるひとの哀しみと開き直りが三様に描かれる作品集。
ネタバレBOX
「俺とお前の生きる道」
妻に内緒で会社を辞めた夫とそれを知ってキレる妻の会話。
不利な立場の夫が結果的に妻を味方につける辺り、“持って行き方”が上手い。
それをビミョーで繊細な間で魅せる。
冒頭もう少しテンポを上げたら、もっと早くから引き込まれたかもしれない。
短編は早い段階でストーリーが見えた方が面白い。
「進軍、ブラック社畜兵」
ブラック企業の営業マン2人が、過酷なノルマや労働条件の下でもがく姿を描く。
対照的なホワイト企業のエリート社員も、実は組織の陰湿なやり方に取り込まれている。
支配する者とされる者、立場の強い者と弱い者、様々な力関係が浮かび上がる構造が秀逸。
弱い者同士、一度は団結して「辞めてやる!」と決意するも、
結局脱落も許されない運命が皮肉でもあり、哀しく愛おしい。
熱い台詞の応酬と、リアルな営業マンぶりが素晴らしい。
辻響平さん、熱いっすね!
「Gの家」
愛する飼い主から捨てられたペットたちの棲む家。
飼い主たちの経済状況や価値観に翻弄されるペットたちの心情が
細やかに描かれていて切ないし、何といっても彼らがキュートなのだ。
片桐はづきさんのぷっくりしたシルエットが最高に可愛い。
被り物の楽しさ満載。
かわいいコンビニ店員飯田さんってどんなネーミングだと不思議だったが、
当日パンフを見て素朴な優しい気持ちを大切にしているんだなあ、と思った。
それは作品にも反映されているような気がする。
ブラック社畜の土橋さんの潔癖なところや、Gのピュアなところ、
人の弱さを肯定し、受け容れながら前へ進むところ。
人生はドナドナだけど、明日の朝は顔を上げて歩こう、という気持ちにさせてくれる。
『椿姫』『分身』
カンパニーデラシネラ
世田谷パブリックシアター(東京都)
2018/03/16 (金) ~ 2018/03/21 (水)公演終了
満足度★★★★
「椿姫」
流れるように舞台を滑る椅子とテーブル、それを自在に操る役者たちの動きに目を瞠った。
感情を細やかに伝える身体表現はとても素晴らしく、時折挟まれる台詞も効果的。
その反面あらすじを知らないとストーリーを追うことは難しいと感じた。
どちらを主にするか、ということなのだろう。
ネタバレBOX
客入れの時からタンゴの音楽が流れ、ドラマチックな舞台を予想させる。
中央に椅子が置いてあるのがほんのり判る程度の暗い舞台。
冒頭、なめらかに椅子を滑らせて、男女の駆け引きを見せるダンスが秀逸。
不安定でしたたかで、でも拒絶し切れない心情が鮮やかに揺れて
一気に椿姫の世界に惹き込まれる。
オペラの「椿姫」のあらすじは知っていたが、それでもオークションの場面などは
あまりよくわからなかった。
知っていればより楽しく深く観ることが出来るだろうけれど
安易な解りやすさは敢えて削り、濃い感情だけを抽出して見せたような感じ。
この潔いバランスが新鮮だった。
このBARを教会だと思ってる(千秋楽満員御礼、終幕しました!ご感想お待ちしております)
MU
駅前劇場(東京都)
2018/02/21 (水) ~ 2018/02/26 (月)公演終了
満足度★★★★
4つの章から成る長編、とのことだがまさに長編。
サイコロを四方八方から見るように、ひとつの事象を多面的に見る視点が効いている。
一人ひとり深堀りすれば、登場人物の誰もがスピンオフの主役になりそう。
ガールズバーの面々がきゃあきゃあする、よくある場面でもシラケないのは
キャラの濃さに台詞がちゃんとついて行くから。
その意味で隙の無い配役が素晴らしい。
何でも屋の西川康太郎さん、いいやつだな、惚れてまうがな!
ネタバレBOX
舞台中央、横に長いカウンター、下手にはソファとテーブル
正面奥には本棚が壁状に置かれ、店の中と外を隔てている。
さっぱりしたモノクロの舞台。
第1章
浮気を疑って身辺調査を依頼する一方で、派手な結婚式を挙げたいから金を貸してほしい、
と姉に頼み込む妹。
不安を払しょくしようと無理矢理理想の結婚式をしたがる心理が上手い。
姉(古市みみ)の男前なキャラが魅力的。
「無敵だよ」の一言が秀逸。これ大ウケだった。
第2章
帰宅拒否男4人組の、バーのアイドルみかちゃんをめぐる攻防。
現実逃避と癒しへの渇望、特別扱いしてほしいという甘え満載の男たちが滑稽。
第3章
さざなみの上にあるガールズバーの面々がやって来て
カウンターでそれぞれの悩みを打ち明ける。
みんな厳しい現実を背負って、ガールズバーで働いている。
そして店での「現実じゃない方」が楽しくなってきた、と語り合う。
彼女たちのリアルと、対極にある嬌声、そのどちらもが彼女たちの人生だ。
決して饒舌ではないのに、一人ひとりの人生が立ち上がってくるのは
無駄の無い台詞と役者陣の力量。
とてもいいシーンだった。
第4章
思いがけない展開で、さざなみとガールズバーの接点が明らかになる。
MUらしいエンディングは、もやもやする反面考えさせる。
しかし「何でも屋」の男、いいキャラだ。
彼の方がよほど人を救う気がする。
「明るい謙虚さ」を持った男が好きなので大変楽しかった。
西川康太郎さん、他の舞台も観たいと思った。
BARと教会はやはり似ているね。
どちらも秘密を話して楽になりたい人間が集まってくるところ。
他人の秘密を聴いて短いコメントをするしかない人間が待っているところ。
そして、何も変わらないけれどちょっと一休みするところ。