幻書奇譚 公演情報 ロデオ★座★ヘヴン「幻書奇譚」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    65分の濃密な会話劇は、コンパクトでガッと集中できる理想的な時間だ。
    澤口さんがキレのある口跡とたたずまいで冒頭から惹きつける。
    「ナノ文書」って一体どんな書物なんだ、と興味を抱かずにいられない展開が見事。
    緊張感溢れるストーリーに笑いを差し込むセンスもさることながら
    そもそもこのオチが、脚本・柳井氏の“大人の余裕”を感じさせて秀逸。

    ネタバレBOX

    アクティングスペースには7つの丸椅子と小さなテーブル、
    その上には遺跡から発掘された土器のような器と、薄い木箱が置かれている。
    ここは博物館の会議室。
    これから「ナノ文書」と呼ばれる書物をめぐって激論が交わされることになる。

    「ナノ文書」は、12年前に日本の調査団がとある国で発掘した“書物”だ。
    詳細な鑑定の結果2400年前のものと判った。
    “世界最初の書物発見”、と大々的に報道され、専門家による解読が待たれたが、
    ある時から「ナノ文書」は忽然と姿を消してしまった。
    調査も打ち切られ、「やはり捏造だったのだ」という噂が独り歩きを始める。
    マスコミに糾弾された関係者は病死、失踪、失職などに見舞われ
    謎は謎のまま12年が経った。
    その「ナノ文書」が博物館の倉庫から発見された、というので
    世間は再び「捏造疑惑」に沸いているのである。

    集まったのは、博物館の副館長をはじめとする研究員や事務局のスタッフ5名のほか、
    元新聞記者で今は実家のうどん屋を継いでいる面堂(鶴町憲)と
    日本考古学研究所の主任安西(澤口渉)。
    実は、7人は皆「ナノ文書」に翻弄され、今もその中途半端な幕切れを引きずっていた。
    やがてそれぞれが抱えていた秘密が明るみに出て、「ナノ文書」の内容が明かされる・・・。

    おっと、そういう理由か!というオチが面白かった。
    「ナノ文書」は“世界平和の鍵を握る最古の書物”ではなく
    “世界最古の職業”のための指南書であった。
    人類は今も昔も変わらぬ愛おしい俗物であり、社会も政治家も成熟していない社会では
    それを笑って受け容れることが、何としても出来ない。

    この笑えない真面目な人々の失敗を
    極めて真面目に議論し追及し、最後に「ナノ文字」を解読できる元新聞記者が
    手袋をはめ、そーっと書物を開いて読み始める時の緊張感こそが
    この作品の最大の山場であり、次の瞬間の爆笑とのギャップが冴え渡る。

    失意のうちに亡くなった「ナノ文字」を解読した女性研究者ゆかりの人々が
    立場を隠して博物館にもぐりこみ、真実を探ろうとしていた、という設定も
    登場人物の単なる正義感だけでない必死な思いに繋がっていて説得力あり。

    ロデオの音野さん、澤口さんのキャラの造形が鮮やかで
    体幹がしっかりしているから、鶴町さんのアツさがはみ出さない。
    全体を牽引するような鶴町さんの台詞は相変わらず素晴らしい。
    副館長役の福田真汐さん、ほっそりしているがとても“らしい”キャラで
    華やか且つリアルな存在感。

    人知を超えた現象を扱ったり、未知の生物が出てきたりと
    柳井作品の辛口ファンタジーはいつも魅力的だが
    こんな風に“身から出サビ”をもファンタジーにして
    “勝手に期待して勝手に失望する”人間の可笑しさを描くとは!
    柳井さん、次はどの方向からファンタジーにアプローチするのか、マジで楽しみです。



    0

    2018/10/07 01:58

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大