太子堂のサーカス【公演終わりました。ご来場、ご声援ありがとうございました!】
タテヨコ企画
sancha teatretto(東京都)
2014/07/03 (木) ~ 2014/07/13 (日)公演終了
満足度★★★★
河童とサーカス
副題にある「愛をこめて。地の下を流れる河より。」とあるのは
今は暗渠となり、緑道と名を変えているが、かつてはその水面を見せて流れていた
いくつもの川のことを指している。
表に出なくなっても脈々と流れ続ける地下深い流れ、
それをたゆたう人の心に重ねたような繊細な心理と台詞が印象的。
この日、外の雨も芝居の一部になったかのような演出が新鮮だった。
ネタバレBOX
祖父と同居する予定で建てたのに、その祖父が亡くなってしまい
柳沢(久行しのぶ)は広い家にひとりで住んでいる。
烏山川探険隊は、暗渠となった川を探検するというマイナーかつゆるいサークルで
丸谷(舘智子)と寺島(向井原徹)の3人がメンバー。
今日は柳沢の同僚室田(郷本直也)が押しかけメンバーで加わり4人で活動した。
寺島と婚約していて妊娠中の丸谷は、柳沢に「結婚式に出席してほしい」と頼むが
彼女は頑なにそれを拒んでいる。
訪ねて来た妹(大塚あかね)や丸谷達二人にも心を閉ざした柳沢だが
室田の思いがけない言葉に、初めて柳沢の心が動く…。
柳沢の「孤独と、一人でいたいという気持ちは共存できると思う」
という意味の台詞にひどく共感を覚えた。
「結婚式に呼ばれたら喜んで出るものだ」とか
「いつまでひとりでいるつもりなの?」と心配されることとか
彼女は周囲の思惑や価値観に対して表面上だけでも迎合することが出来ない。
無理して合わせるくらいなら敢えて拒絶し、自ら孤立しようとする。
まっすぐで、世の中をうまく泳げずにいるような柳沢に
年下の室田が思いがけない包容力を見せるところがさわやかで嬉しくなる。
いや、もしかしてこれはファンタジーなのか?と思わせる辺りがまた面白い。
強気に出るが、実は心細くてならない柳沢役の久行しのぶさんが上手い。
室田を演じた郷本直也さん、出だしの恐縮して小さくなっている時と
後半の唐突ながら誠意にあふれた言葉とのギャップが良かった。
背も高く、存在感大。
ガラスの引き戸を開けて靴を脱いで上がる劇場をそのまま生かし
一軒家の出入口にして、外の雨をもそのまま取り入れた演出が新鮮。
開放的で素敵な空間だった。
それにしても“大人のサークル活動”、楽しそうでいいなあと思った。
うちの犬はサイコロを振るのをやめた
ポップンマッシュルームチキン野郎
駅前劇場(東京都)
2014/07/04 (金) ~ 2014/07/13 (日)公演終了
満足度★★★★★
衝撃のラスト
ポップンのスタイルがさらにはっきりと確立されたような気がする。
明確なテーマを掲げ、リアルで冷徹な描写をしながら
もう一方では毒気たっぷり、許容ラインギリギリのところで笑い飛ばす。
そして権力の影でひたむきに生きる人を愛情こめて描く。
脱いだり見せたり笑わせたり、でもやっぱり泣かせるポップンの舞台。
脚本もいいし演出もいいが、何よりこの発想の素晴らしさ。
犬のメイクがマジ可愛くて、思わず連れて帰りたくなる。
ゴルビーグッズ、あれば買ったのになあ、ぬいぐるみとか。
この劇団を観ると、かぶりものの威力を改めて思い知る。
まったく心温まるヒドイ話だった。
5つ目の★は、吹原氏の素晴らしい発想に捧げる。
ネタバレBOX
例によって客入れの時間帯から舞台上では小芝居が始まっている。
BGMはある種の共通点を持つ歌手の歌だけが流れている。
岡本さんは以前のモモクロパフォーマンスがすごかったのでちょっと寂しく感じた。
「YAH YAH YAH!」は素敵だった♪
“何でもあり”の隣国で、もっと驚くべき人体実験をしていたのは日本軍。
人間に施したその手術では被験者がみな自殺してしまったので
次は犬なら大丈夫だろうとシベリアンハスキーのゴルバチョフが選ばれた。
その結果、未来を視ることができるようになってしまった彼の人生は大きく変わる。
そして出会ったシヅ子や仲間たちとの幸せな日々。
しかし、その手術にはある秘密があった…。
まず着想が素晴らしく、オチの衝撃がハンパない。
犬がしゃべるとか、R18指定とか、見えたとか丸見えとか、
そんなことがどうでもよくなるほど(よくはないか、この日を選んで行ったんだし)
ラスト20分の展開がシリアスで衝撃的だ。
“誰かのために自分を捨てる潔さ”を、今作品では犬が見せてくれる。
加藤慎吾さん演じるゴルバチョフは、衣装もメイクも素晴らしく魅力的だ。
彼のキャラが本当に泣かせるんだなぁ。
シュールな設定にもかかわらず説得力をもって引っ張るのは
振れ幅大きいがきちんと台詞を届ける役者陣である。
躍進目覚ましい増田赤カブトさんは、歌も台詞も安定感が増して来てとても良かった。
サイショモンドダスト★さんのキワモノぶりが素敵、その声と台詞回しにはほれぼれする。
野口オリジナルさん、細い身体を惜しげもなく晒して表情豊かに踊るところが素敵。
荻野崇さん、この人の登場で作品の持つダークな面の格が上がった感じ。
そして横尾下下さん、あまりにリアルな演技が素晴らしく目が釘付けになった。
ポップンはこういう芝居のできる人が集まっている集団なのだ、と改めて実感。
ダンスや歌を多用するのはキャバレーが出て来るからなのかもしれないが
あのくらいの割合で用いるならば、もう少し精度を上げて欲しい気がする。
ダンスのキレ、習熟度にばらつきがあるのはちょっと残念。
アニメーションによるメンバー紹介など、相変わらずセンスが良くて洗練されている。
下ネタサービスやギャグにケラケラ笑っていると、がつんとやられて立ち上がれなくなる。
吹原幸太さんは、すごい本を書く人だ。
この人のバランス感覚について行けるように、私も足腰を鍛えたいと思う。
星の結び目
青☆組
吉祥寺シアター(東京都)
2014/07/04 (金) ~ 2014/07/09 (水)公演終了
満足度★★★★★
氷星
冒頭の10分間で一族の栄枯盛衰を見せてしまう渋谷はるかさんが素晴らしい。
この人の持つ品の良さと、背負っているものを感じさせる深い台詞が
吉田小夏作品との相性も良く、その世界観を余すところなく表現している。
叔母・姪の二代に渡って女中として仕えた梅子を演じた福寿奈央さんが
時代を行きつ戻りつしながら「~ございます」調で語る構成もメリハリがあって良い。
登場人物一人ひとりのドラマが魅力的なのは役者の力量もあると思う。
吉永家を吹き抜ける風のような、あっという間の2時間15分。
ネタバレBOX
吉祥寺シアターの広い舞台は、高さを抑えた階段で屋敷の広がりを創り出している。
冒頭、かつて吉永家の女中だった梅子(福寿奈央)が、戦後開いた和菓子屋を
すっかり落ちぶれて地味ななりをした吉永静子(渋谷はるか)が訪れる。
羽振りの良かった時代の面影もない静子が登場すると
その仕草や言葉から過ぎ去った30年余りが色濃く立ちのぼるようで誠に素晴らしい。
梅子の懐妊を素直に祝う静子自身の、喪ったものの大きさを思うと
物語はまだ始まっていないのに、切なさに涙がこぼれる。
この後梅子が、大正・昭和に渡る吉永家の出来事を生き生きと語り始める…。
事業に成功して一代で財を成した初代吉永甚五郎と、
その“直感と閃きで物事を決断する”気質を受け継いだ次男信雄の二役を演じた
荒井志郎さん、共通項の多い親子ながら微妙な違いを丁寧に見せてとても良かった。
不器用で横柄で、静子の支えなしには店をやって行けない二代目甚五郎役の
多根周作さん、人より遅い成長を遂げる男を温かく演じていて巧い。
先代から吉永家に仕える小池桂吉を演じた藤川修二さん、
勤勉な仕事ぶりや、障がいのある娘に対するまなざしに加えて、
血の通った台詞がいかにもあの時代の奉公人を彷彿とさせて秀逸。
この作品で圧倒的な存在感を示す渋谷はるかさん、
時代の空気をまとった凛とした台詞、丁寧な語尾、隙のない仕草など
作者の世界観を見事に具現化していると思う。
店の番頭、榎本三郎(西村壮悟)が出征する時、何かを言いかけた
一瞬の躊躇と諦めが、彼女の人生で唯一“やり残した”ことだろうか。
劇中唄われる「花嫁人形」と「星の流れに」が効果的。
照明の繊細さと間が、余韻を残して素晴らしい。
かき氷に砂糖をかけるという繊細な食べ物や
亡き人の残した手紙、移ろいゆく季節の花など
儚く消えて行くものたちに対する悲痛なまでの愛着が感じられる。
全てはもう存在しない。
存在しないが忘れることができない。
吉田小夏作品には、“なかった事になどできない”という思いが満ちている。
それを共有したくて、また劇場へ足を運ぶのである。
毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」
鵺的(ぬえてき)
小劇場 楽園(東京都)
2014/06/12 (木) ~ 2014/06/23 (月)公演終了
満足度★★★★★
君臨する女王(Bプログラム)
あの安部定事件を、逮捕直後の取調室で検証するという設定。
かみ合わず強張っていた刑事と定のやりとりが、次第に変化していく様が面白い。
“女王のように君臨する定”の周りで、理解不能な事件に男たちはおろおろする。
だが定の心情に触れ、変化をもたらしたのもまた、その男たちであった。
たたみかけるような淀みない台詞のやりとりが素晴らしく、ぐんぐん惹き込まれる。
すっきりと美しいハマカワフミエさんの定が、君臨するに相応しい強い意志を感じさせ、
単なる猟奇事件の犯人を超えたキャラを立ちあがらせる。
谷仲恵輔さんが、人間味と余裕を合わせ持つ刑事を演じていて大変魅力的。
ネタバレBOX
平日のマチネ、客席は立錐の余地も無いほどぎっしり入っている。
楽園のあの柱が、セットなのか劇場の一部なのかわからないような装飾を施されている。
私は楽園で初めて、柱の存在を忘れた。
明転すると、取調室の入口に近い小さな机の上に定が正座している。
刑事たちは奥の大きい机の周りにいる。
署の外には、定を一目見ようと群衆が押し寄せている。
惚れた男の首を絞めて殺し、その性器を切り取って持ち去った女に
「男に対する殺意と憎しみがあったはずだ」と決めつける輿石刑事(平山寛人)、
「まあまあそう言わずに、お定さんも話してくれませんか」
と辛抱強く問いかける浦井刑事(谷仲恵輔)。
そこへ突然内務省の役人(瀬川英次)が「自分も取り調べに混ぜてくれ」とやって来た。
2人の刑事と1人の役人は、定の心情に迫るため事件を再現しようと試みる。
だが所詮定の真意には届かず、取り調べは行き詰ってしまう…。
文字通り君臨する定の強さ、迷いの無さ、理屈を超えた情の深さに圧倒される。
自分の物差しで測れない女を、ただ嫉妬に狂ったか金のもつれかくらいにしか
想像できない男たちの代表が輿石刑事だが
その理解できないもどかしさ、忌々しさがビシビシ伝わって来た。
定の話に「理解出来ないが、邪念が無かったということは解った」という
浦井刑事との対照的なスタンスが鮮やか。
そこへ好奇心丸出しでテンション高く定に接する役人が加わり
事態は俄然面白くなってくる。
定になり切って事件を再現しようとする役人の
稀代の犯罪者を目の前にしてミーハーっぽいテンションの上がり方が可笑しい。
瀬川さんの振り切れ方が素晴らしく、一気に「静」から「動」へ切り替わった。
取調室がワイドショーのスタジオになったようで
“わけがわかんないほど大騒ぎする”大衆の心理を代弁する感じ。
「吉さんとは終わっていません、続くんです」と主張する定に対して
終盤、攻防に疲れた浦井刑事がついに個人的な感情をぶつける。
そこから定の態度が一変するラストまで見ごたえがあった。
劇中BGMも無く、台詞も決まった言い回しが繰り返される。
だがそれが不自然でなくむしろ共感を持って聞けるのは
役者陣の説得力ある台詞と絶妙な間の力である。
すっぱりと切り落としたような終わり方で
むしろここから先を観たくなるような印象さえ受けた。
定の、わずか6年で出所してからの人生がどこか投げやりなまでに自由奔放なのは
捕まるまでの人生に満足して、あとはどうでもよかったからではないかという気がする。
ハマカワフミエさんの安部定は、それほどまでに孤高の女王だった。
パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!
おぼんろ
ワーサルシアター(東京都)
2014/06/11 (水) ~ 2014/06/22 (日)公演終了
満足度★★★★
5人の呪文
“絶対的な欠落と喪失の世界にあって、譲れない物を探し求め守る”という
おぼんろの価値観がドラマチックに展開する。
話がシンプルな分、登場人物の変化する内面が魅力的で共感を呼ぶ。
役者の力量でここまで魅せることに感動した。
ネタバレBOX
未来の世界には食べられる自然の食物は存在せず、生き物は皆飢えている。
工場で飼育されるニワトリを狙って、飢えた2匹のキツネが忍び込むが
そこで出会ったのは生まれたばかりのヒヨコ、そして
冷徹な工場長と、生き延びるためにメンドリを装う一羽のニワトリだった。
出荷される運命にあるニワトリたちは、今日もコンテナに乗せられて行く…。
衣装をつけた役者5人が案内してくれるいつものおぼんろスタイル。
演劇は日常の延長線上にあって、しかもある時を境に非日常に切り替わる。
その境界線上にある微妙な時間が楽しめるひととき。
ストーリーはシンプルだが、その分登場人物の変化を追うのがメインになる。
情け容赦ない工場長(さひがしジュンペイ)の、奥行きのある表情と台詞が素晴らしい。
冒頭から時間を遡る構成で、彼が単なる悪役でないことは判るが
声にだんだんと疲労感や迷いが滲み出してくるあたりがとても良かったと思う。
生きるためにオンドリである事を隠し、メンドリを装うリンリン(高橋倫平)の
愛情表現が切なくて泣かせる。
“オネエ”な芝居なら世間にあふれているが、作り過ぎない自然な女らしさがあり
笑いを超えた説得力あるラブストーリーになった。
病気の兄弟に栄養のある物を食べさせたいと、
仲間のキツネと一緒に工場へ忍び込むキツネメグメを演じたわかばやしめぐみさん、
途中から業を煮やしてひとりで決行しようと決める時の表情に迫力があった。
追いつめられた者の必死の闘いが、哀しくなるほど迫って来る。
生歌もとても素敵だった♪
もう1匹のキツネトシリモを演じた藤井としもりさん、
いい加減で嘘つきで軽やかなキャラクターを生き生きと演じて素晴らしい。
彼の変化がストーリーを牽引すると言ってもいいだろう。
生まれて初めて自分を信じてくれた相手は、食べてやろうと思っていたヒヨコだった、
というセンチメンタリズムをドラマチックな行動で完結させる。
おぼんろの価値観を体現するキャラクターとして、その変化が鮮やか。
「どうしてうまくいかないことばっかりなんだ!」(たしかそういう意味)
という台詞が忘れられない。
工場で生き伸びたヒヨコ、タックを演じた末原拓馬さん、
無垢で世間知らずで、信じては裏切られる純な役はやはりぴたりとはまる。
ラストはやっぱり泣かせるなあ。
作品全体としては、「ゴベリンドンの沼」の“負の存在”、“人の悪意”等のダークさや
「ビョードロ」のジョウキゲンのような強烈な設定に比べると
みんながいいヤツでややインパクトが弱まった印象か。
その分登場人物の内面に集中出来たのは役者陣の力だと思う。
演出的には少し“走り過ぎ”かな(笑)
ゴベリンドンのような上下の動きを一度観てしまうと
2階部分が一ヶ所だけであとは平面を走るだけ、というのが普通に見えてしまう。
過去公演の記憶と期待値という厄介なものと闘わねばならないわけで
会場や客席の問題も含めて、そのハードルは常に高いままだろうと思う。
久しぶりに5人集結という高揚感が伝わってくるような公演だった。
「パダラマ・ジュグラマ」という呪文の意味、それはそのまま
おぼんろのメンバーが日々胸にいだいている言葉ではないかと思った。
サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】
劇団チョコレートケーキ
駅前劇場(東京都)
2014/06/11 (水) ~ 2014/06/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
テロリストたち
「世界大戦勃発の発端」として、その地名ばかりが記憶に残っていたサラエヴォ。
主義・思想を超えて“不満”で繋がる若者たちのエネルギーが生々しく描かれ
“大人の事情”に利用されていく過程がリアルで迫力があった。
生き残った二人の回想というかたちで現在と過去を行き来する構成が秀逸。
怒涛の事件当時と、老人の振り返りの対比が鮮やか。
こういうテーマに普遍性と現在を重ねる制作側の視点に感動する。
ネタバレBOX
劇場に足を踏み入れると、舞台には既にひとりの老人がいる。
上手側、作業台のような大きい木製のテーブルの上には資料らしきもの、
それを手にとって確かめたり直したり、ゆっくりと落ち着いた動作。
やがて白髪のその人が西尾さんと判った。
サラエヴォ事件の実行犯は「青年ボスニア」のメンバー7人だった。
オーストリア領ボスニアでセルビア民族主義を謳う彼らを結びつけたのは、
貧困と結核、そして自国を変えるために何か行動を起こしたいというエネルギーだった。
軍内部の秘密結社「黒手組」は、彼らの暴走するエネルギーを利用し
オーストリア次期皇帝フランツ・フェルディナントを暗殺しようと企てる。
しかしその「黒手組」をも利用しようとする、さらなる大きな力がうごめき始める。
そして1914年6月28日、ついにサラエヴォ事件が起こる…。
7人のメンバーのうち生き永らえた2人の老人が再会して
人生の最後に“あの事件“を総括する、というストーリー。
思い出を語る現在と、事件当時の再現とが交互に演じられる。
この構成が非常に効果的で巧い。
巻き込まれたような怒涛の出来事が、老人の時を経た冷静な分析によって
時折自嘲気味に笑いを交えながら語られ、二つの時代の対比が鮮やかになる。
年老いた二人、西尾友樹さんと岡本篤さんは、帽子ひとつで若かりし日に飛ぶ。
それが滑らかで無理がなく、複雑な出ハケも気にならない。
岡本さんは昔を語る時、時に話し方が若々しく傾くが
西尾さんは一貫して年寄りの話すテンポ、おっとりした口調が変わらない。
二人の狂言回しとしての切り替えの上手さが構成・演出にぴたりとはまっている。
「黒手組」の幹部、アピス大佐を演じた佐瀬弘幸さん、
こんなに軍服の似合う役者さんも珍しいのではないかと思う。
極端な思想や強い主張を、組織という枷の中で通そうとする人物を演じる時
軍服の内に秘めた人間の弱さや汚れた部分を出すのがとても巧い方だと思う。
同じく「黒手組」のタンコシッチ少佐を演じた浅井伸治さん、
アピス大佐を諌める場面の説得力、最後の潔い軍人ぶりが感動的。
ちょっと舞台が見えにくく、声だけで筋を追っていた前半が残念。
ラスト、「たとえ話」は無くても良かった気がする。
語り続ける西尾さんの声が次第に音楽にかき消されていく終わり方は良かった。
下手のセットが浮び上るところなど、照明の巧さ、センスが素晴らしかった。
チョコレートケーキらしさ全開の“歴史の当事者とその裏側”は確かに独壇場だ。
個人的な好みを言えば、例えば先日の「楽屋」のような
全く別の方向から時代に光を当てた作品も観てみたい気がする。
チョコレートケーキの描く“一方的に翻弄される人生”の
哀しみと図太さもまた、ひどく魅力的にちがいないと思うから。
妻らない極道たち
ホチキス
吉祥寺シアター(東京都)
2014/06/05 (木) ~ 2014/06/10 (火)公演終了
満足度★★★★★
婚活するなら任侠
設定の面白さ、キャラの豊かさ、そして時に泣かせる台詞が素晴らしい。
小玉久仁子さん演じる権藤組の組長が最高!
あのキャラが無理なくはまる設定はそう無いと思うが、
オーバーアクトも男ことばも、その正体も(笑)、全てがドンピシャだ。
ドヤ顔オンパレードの台詞と展開に大いに笑ったが
時折光を放つ真実を突いた台詞に思わず泣きそうになる。
このバランスが秀逸で、第一級の“極道エンターテイメント”になっている。
組長を取り巻く人々が実に魅力的で、セットや衣装も良かった。
初日から完成された舞台に、任侠もののだいご味を堪能した。
組長、結婚相談所って、情報ではなく“心”を探すところなんだね。
ネタバレBOX
上手と下手から緩く弧を描く大階段が二階スペースに繋がっている。
舞台上はスナックのカウンターとソファ、
カウンター上の壁にはなぜか十字架と神棚。
スナックのママあけみ(細野今日子)とパパ(村上誠基)は
やくざに金を借りたことから店を取られそうになる。
それを助けたのは常連客、権藤組の組長(小玉久仁子)とその子分たちだった。
そして権藤組は助成金目当てにここで“結婚相談所”を開くことを思いつくが
真実の愛を熱く語る組長の魅力に相談所は繁盛、カップルが次々誕生する。
ところがそこに結婚詐欺師や、騙された女、敵対する組長の愛人が来てひと騒動。
義理人情を重んじる組長は、ついに禁断の手を使って殴り込みに行く…。
スナックのママとパパが面白い。
美人のママにゲイのパパ、という時折見る設定を超えたなりきりぶりが素晴らしい。
衣装の可愛さ、キメのポーズにオネェ言葉も、あざとくなく笑わせるのは役者の力量。
気持ちのすれ違いから仲間割れする子分たちが
最後は組長の下に集結する任侠路線もいいし、
住む世界を超えた恋の成就も楽しい。
子分(山崎雅志・福井博章・高木俊・加藤敦)達の個性の描き分けもメリハリがある。
そして何と言っても小玉さん演じる組長の魅力的なこと!
誠心誠意人を幸せにしてやろうと熱くなるなんて、それ極道のすることか?
いや、本来極道とは“人の道を極める”ことなのかもしれないけど…(笑)
登録にやって来る人の気持ちを揺さぶり、価値観を覆して人生を変える、
そんな小玉組長がまたいい台詞を言うんだな。
「女の身体が丸っこいのは何故だかわかるか?」って、その答えが泣かせるのだ。
このキャラ、シリーズ化して何度も観たい!
歌のレベルが高いのも非常にポイント高し。
設定の妙とケレン味のあるテイストに、テンポの良さ、ほろりとさせる台詞が乗る。
この絶妙のバランス、第一級のエンターテイメントだと思う。
組長、私もクイックル号に乗せてやっておくんなせぇやし!
キャベティーナ
劇団鋼鉄村松
d-倉庫(東京都)
2014/05/28 (水) ~ 2014/06/01 (日)公演終了
満足度★★★★
キャベティーナ、ナゲテ-ナ!
客席に置かれたキャベツがよく出来ており、説明を聞いて参加を楽しみに待った。
ストーリーの本筋は見え辛かったが、登場人物の豊かなキャラと
役者陣の力で、むちゃくちゃな行動にも説得力が生まれた。
ムラマツベスさん、村松かずおさんの熱演が光る。
何気にシリアスなキャロラインの人生と、養父ともおのスタンスが印象的。
ボス、前売り1500円に込められた20周年の気概、しかと受けとめました!
ネタバレBOX
全ての客席に、パンフレットとキャベツが置かれている。
(重いの持って帰るのか…)と思ったが、新聞紙を丸めて緑色に塗ったものだった。
良く出来てるし、舞台に向かってこれを投げるという参加型も楽しい。
トコロザーワの人々は年に一度のキャベティーナを楽しみに生きている。
トマトではなくキャベツを投げ合うこの収穫祭では
毎年キャベツの妖精を1人選ぶのだが
30歳になってもキャロライン(後藤のどか)はまだ妖精になれるのか…?
賑やかな収穫祭をめぐる地元の人々と
東京へ出て自分探しの真っただ中にあるまさくに(ムラマツかずお)が
不本意ながら仕事で故郷のトコロザーワへ戻って来たことから起こる騒動。
キャベティーナに燃える町の人々の喧騒をよそに
“キャベツ畑に置き去りにされていた”という出自や
“生まれてから20年近く盲目だった”という
キャロラインの特異な人生が突出してシリアスな設定。
彼女を拾って育てたともお(廣岡篤)のスタンスも含めて
この設定を暗くならずフツーに語っているところが秀逸。
祭りのバカ騒ぎとシリアスな生い立ちという好対照だけでも
結構なアイテムなのに、ちょっと盛り込み過ぎたような印象を受けた。
年表出して説明するより、
盲目→手術→目に見える世界による混乱→グレる→立ち直る
というプロセスは、血のつながりの無い親子の会話で再現してほしかった。
ともおの淡々とした態度がキャロラインを変えたのだろうと思うし
ボスの哲学がいい台詞になるだろうと想像するから。
話の本筋が埋もれてしまった分
ストーリーを牽引するのは魅力的な登場人物のキャラである。
魅力的なキャロラインを演じた後藤のどかさん、ガンバさん役のムラマツベスさん、
まさくに役の村松かずおさん、コーセー役のバブルムラマツさんもいい味出してた。
突飛な行動の裏に“信念”がチラリと見えて“いいヤツじゃないか!”と思わせる。
主力が退団するのは残念だけれど、他にも力のある役者さんがいるのだから
どかんと笑ってマジ考えさせるような、振れ幅の大きい脚本を期待している。
個人的には「けつあごのゴメス」みたいなのが好きです。
ボス、また観に行きますから頑張ってください。
10978日目の鏡
おちないリンゴ
小劇場 楽園(東京都)
2014/05/22 (木) ~ 2014/05/25 (日)公演終了
満足度★★★★
女の誕生日
30歳の誕生日は、うるう年を入れると生まれてから10978日目になるのだという。
積み重ねた10978日のてっぺんで大揺れに揺れるひとりの女性の1日を
5つのエピソードで見せる構成が巧い。
肯定と否定をくり返し、焦ったり開き直ったり、闘ったり疲れ切ったり、
それでも人は生きて行くという視点が優しく、赤裸々な台詞とのバランスが良い。
最後のエピソードは、まとめに入ったような説明調になった感があり、ちょっと残念。
やはりテンポ良く息の合った台詞の応酬が、この作品の最大の魅力。
ネタバレBOX
白いボックスが10個ほど置かれた舞台。
壁際のタンスの引き出しからは色とりどりの服がきちんとしまわれずにぶら下がっている。
エピソード1「ベッドにて」 作・黒川陽子
ベッドで男に不満をぶつける女。
「この1週間毎晩誘ってるのに、あなたはちっともその気になってくれないじゃない!」
セックスレスの話かと思っていると、やがてこの男が女の妄想によって創り出された
「眠り」であることが解って来る。
彼女はこの1週間不眠に悩まされており、その原因を「眠り」を司る彼のせいにしている。
2人の関係の種明かしの前後でニュアンスが変わってくる台詞が面白い。
「眠り」役の柳澤有毅さん、清潔で真摯なキャラが活かされているが
もっと色気が出たらさらに面白くなると思う。
エピソード2「1DKの冒険」 作・坂本鈴
片づかない部屋に住む女に、モノたちが反乱を起こす。
「お茶が飲みたいならシンクにいっぱいのカップを洗え~!」
「英会話教材、ダイエットグッズ、とりあえずまた押し入れに入れるのかぁ~!」
って調子で仮面ライダーとショッカーみたいに何とか光線で闘いを繰り広げる。
片づけなくてもこのままでいいのだ、と囁く悪の魔王(渋谷崇博)がまた素敵。
このヒーローショーのような展開が可笑しくて客席から笑いが絶えなかった。
最後は“明日、いつか、と言いつつ何もしない自分を認め、諦めて捨てる”という
結論に達したこの家の主が勝つ、という話。
努力し学び向上するはず、と自分に期待しては挫折する心理の描き方が秀逸。
エピソード3「脳内女子会」 作・坂本鈴
以前振った男が参加する飲み会に行くかどうか返事をためらいながら
エロ・アプリのヒカルくんをオカズに一人エッチをする女の脳内を描く。
この女5人による姦しい脳内発言が赤裸々で大変面白かった。
もう現実の男なんて要らないとか、たぶん向こうはまだ好きなんだとか、
傷つきたくないなら行かなければいい、
いやヒカル君が本命なら浮気として行けばいい…。
かくして女は、都合のよい解釈全開で出かけるのであった。
エピソード4「てのひらマクベス」 作・黒川陽子
きれいはきたない、きたないはきれい…とマクベスのセリフをふんだんに織り込み
かつての英会話仲間との飲み会に参加した女が現実に打ちのめされる顛末を描く。
5年前自分に告白した男を「夢ばかり追っている」と見下して振ったが
今やその男は、夢を実現して海外進出を果たすことになった。
職場の後輩は資格を取ってあこがれの部署に異動する夢に一歩近づく。
翻って自分はどうだ?通訳になる夢はどうなった?自分は何をしている?
愕然として自己を深く見つめ直すのに、大仰なマクベスの台詞がとても効果的。
劇的な表現と小さな自分とのギャップがやたら可笑しい。
エピソード5「10978日目の鏡」 作・黒川陽子
人は、自分に期待して初めて夢を持てるのだ、
問題は夢破れた期待外れの自分をどうするかだ。
かつて上から目線で振った男が既に結婚していると知った女は
ぐったり疲れて帰宅する。
財布の中のレシートもアプリの履歴も、全ては自分を映し出す鏡だ。
私たちは毎日自分自身と向き合い、その情けない姿を見せつけられている。
「そういう自分を認めることが課題だ」と女は日記に書いて、誕生日の1日を終えた…。
30歳の誕生日を迎えた女の1日を5つのエピソードでつなぐ構成が良い。
ひとりの女を複数の役者が演じ、微妙な30歳という年齢の女性の心理を
様々な側面から見つめている。
1時間50分でエピソード5本という長さの割に台詞量が多く役者さんは大変だろう。
初日の硬さと台詞に詰るシーンがいくつかあったが
こなれて来たらもっと面白くなると思う。
最後のエピソードは少しスタイルが違って説明的になった。
それまでに十分彼女の内面の葛藤は描かれていたと思う。
総集編みたいにしなくても、日記を書いて1日が終わっても良かった気がする。
年代によって抱える葛藤や向き合う現実が違ってくるから
“女の誕生日シリーズ”もまた面白いだろうなあと思った。
ルーシアの妹
ライオン・パーマ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2014/05/15 (木) ~ 2014/05/18 (日)公演終了
満足度★★★★
タイトルの意味
人は「正義」だけで幸せになれるのか?
「正義」だけで国を治めることはできるのか?
設定と、少女が旅を通してさらに成長していく様は面白いし説得力がある。
「正義」の対極にある”大人になることのほろ苦さ”も際立っている。
ただ2時間越えは少し長く感じた。
もう少しコンパクトにして、その分“こなす”ように早口で流れてしまった台詞を
丁寧に立てたら、味わいある台詞がさらに活かされると思う。
ギャグのセンスと間が良くて、大いに笑った。
なぜこのタイトルなのか、観終わってひどく納得。
ネタバレBOX
その国にはもう3年も国王がいない。
噂では森の中に、王になるべき者が試される道があると言うが真実は解らない。
母の病気に効く青い花を取りに行くべく、ルーシアの妹エミリーが旅立つ。
彼女の行く手に立ちはだかる試練と、乗り越える度に強くなっていくエミリー。
その陰には、本当に民のための国王を選ぼうとする者たちの真摯な思いがあった。
そしてエミリーの、足の悪い姉ルーシアの秘密が明らかになる…。
正義だけで理想を実現させようとしても無理がある、
だから闇の部分を引き受ける者が存在し、彼らはその秘密を墓場まで持って行く…
という“大人のリアル”が前提にあって説得力を持つ。
試される各ステップが明確なテーマを持っていて面白い。
フラッシュバックのように、姉ルーシアの時のことが再現されるのが良い。
そのエピソードによって、試練の過酷さと選抜された理由が伝わってくる。
ただルーシアの魅力がもっと強く出るシーンが、再現場面の他に欲しかったと思う。
最後のステップで、エミリーが何を選択したのかが明かされないところがまた
為政者の取るべき道を考えさせる。
姉妹の父親役の草野智之さん、滑舌良く
汚れ役を引き受ける覚悟を語る長台詞も良かった。
前国王の息子でありながら国王にならないと決めた男を演じた橋本一郎さん、
理想を追い求める高潔な精神の男を、融通の効かなさも含めて好演した。
その娘で、父を尊敬しながらも大きな嘘を背負うことを選ぶアリ役の柳瀬春日さん、
アニメキャラのような可憐な容姿とよく通る声、表現力ある台詞で存在感大。
作品全体が筆の進むままに饒舌になっていった感があり、
もう少しコンパクトになったらメリハリがついてもっと面白くなったような気がする。
それにしてもあの歌を、皆さんよく笑わないで歌えるものだと関心した(笑)
フサエ、100歳まであと3年
小松台東
OFF OFFシアター(東京都)
2014/05/08 (木) ~ 2014/05/13 (火)公演終了
満足度★★★★
宮崎弁の台詞
台詞がいいなあ。
宮崎弁の柔らかなトーンが、人の営みの棘やストレスを包み込むように優しい。
達者な役者陣がまた絶妙の間で返し合う。
若干初日の硬さが見られた気もするが、
そんなものを吹き飛ばすことばの魅力に惹き込まれた。
ネタバレBOX
舞台はフサエおばあちゃん(松本哲也)が暮らすケアハウスの部屋。
(確かケアハウスだったと思う)
日頃は娘の真知子(山像かおり)が訪れるくらいだが、今日はちょっと様子が違う。
真知子に呼ばれて帰って来ている孫の康太(野本光一郎)は33歳でバイト暮らし。
姉久美子(笹峯愛)は、そんな弟が歯がゆくて、会えば喧嘩ばかりしている。
久美子は夫(佐藤達)の仕事について来月ドバイへ移住することになっており、
その前に家族が集まる形になった。
ケアスタッフの須藤(尾倉ケント)、見合いが嫌で飛び出してきたいとこの光(冨永瑞木)、
週に一度やってくる牧師の聡美(伊達香苗)らが加わってますます賑やかに…。
登場したフサエおばあちゃんが、ガタイが良くて97歳に見えない(笑)。
そんなにリアルでなくても良いが、もう少し年寄りっぽさが出ても良いと思う。
作り過ぎない年寄りの方が台詞の面白さが生きるけれど、
杖こそついているが姿勢や話しぶりは70歳くらいの印象を受けた。
年寄りがベッドに座った時、足が床に着かなくてぶらぶらするのも
ちょっと不自然かな。
その違和感が徐々に薄れるのは、その後の台詞のやりとりが面白いからである。
康太が姉の夫と話すシーンや、牧師の聡美とつきあい始めて1週間の須藤の会話、
そして何と言ってもフサエと真知子は、相手の台詞を受けとめる呼吸が絶妙で
“受ける芝居”の大切さを教えてくれる。
この二人が他の会話の“暴走”をうまく収めている。
姉がひとりになる母を心配するあまり、頼りない弟に強く当たる気持ちが
もう少しことばになっても良かったのではないかと思う。
終始不機嫌な顔で、性格が悪く見えてしまいそうなのは残念だから。
ちょっと変なダンナが、何だかいい人じゃないの、ってなるところは巧い。
フサエと真知子のキャラが魅力的で、宮崎弁の台詞が生き生きと立ち上がる。
この台詞、温かくて懐かしくて、ぜひまた聴きたいと思う。
エレクトリックおばあちゃん
渡辺源四郎商店
ザ・スズナリ(東京都)
2014/05/03 (土) ~ 2014/05/06 (火)公演終了
満足度★★★★★
笑ったら泣け
社会問題を扱ってこんなに笑わせるのはなべげんくらいだろうと思う。
舞台を二層に分けて二つの世界を並走させる構成と演出が素晴らしい。
笑った分だけ結末の衝撃が大きい作品。
その中心にいるのはちっちゃなおばあちゃんを演じる三上春佳である。
ほとんど“作ってる感”ゼロ、まるで素のように座っているのに
完璧な“間”と柔らかな津軽弁で、現代日本の高齢者のありようを抽出して見せる。
終演後台本を買って、下北沢から電車に乗っても私は涙が止まらなかった。
変なおばさんと笑わば笑え、私は今日なべげんを観たのだ。
ネタバレBOX
上手と下手には待機する役者が座る椅子が6脚ずつ椅子が置かれている。
舞台中央に一段高い四角い箱があり、ちゃぶ台のあるおばあちゃんの居間になっている。
地震により青森県の南むつエネルギー・センターで事故が発生、青森全域が停電する。
混乱する町立病院の医師、看護師たち。
居間では80代後半のきい(三上春佳)が突然電気人間と化し、発電できるようになる。
最初は100Wの電球が点くだけだったが、次第に発電量が増え
やがて南むつ町全体、そして青森県全域の電力を“安定供給”するようになる。
一方病院では、混乱が広がり避難命令を受けて患者とスタッフがバスで避難を始めるが
ただ一人、移動は反って危険と言う理由で病院に取り残されようとしている患者がいた。
最後まで連れて行こうと主張する看護師もついには折れて、バスは出発する・・・。
次第に電気のコードが増えて行くきいの周囲には、様々な人が訪れる。
孫(夏井澪菜)、嫁(工藤由佳子)、電気屋の社長(北魚昭次郎)、社員(工藤良平)。
一方病院ではスタッフがボケた患者の孫や母親、ボーイフレンドという役割を演じていた。
その患者も今やたくさんのチューブに繋がれた状態となり、
全員が避難する中、ひとり病院に置き去りにされようとしている。
舞台一階部分、病院の混乱が地震・深刻な事故発生という現実世界で、
二階部分で繰り広げられるのはきいの記憶・妄想・願望の世界ということだろうか。
並走する二つの世界がやがてひとつに繋がるまでのテンポと伏線が素晴らしい。
母親のエピソードや嫁との確執、子どもに戻ったりまた老婆になったりという
きいの時空の移動が全く無理なくなめらかに行われる。
電気のコードが増えて行くのが、実は病院のチューブという比喩が秀逸。
力まず軽く、だが味わい深いきいの台詞が素晴らしく、
若い三上春佳さんの力量に驚嘆する。
嫁役の工藤由佳子さんが、“東京もん”らしい都会的な雰囲気と
確執のある“嫁の毒気”をたっぷり含んでいて巧い。
1970年発売のザ・スパイダースの歌「エレクトリックおばあちゃん」を
全員で歌い踊るパフォーマンスは明るく屈託が無い。
だがラスト、きいの「ここで死ぬんだもん」という台詞には痛切な選択があって
“死に場所を選びたいなら、孤独がもれなくついてくる”という
私たちにはまだ見ぬ不安と怖れに心臓を思いきり掴まれる思いがする。
爆発音が響く中、私はひとり取り残されることを選べるだろうか…。
ひとつだけ、「エレキ幸福の会」のくだりは必要性がイマイチ良く解らなかった。
非常時にあっては宗教観も変わるのが日本人かもしれないけれど。
私の好きな斎藤千恵子さんが伝道師としてはじけてるのを観るのは楽しかった。
新しい本拠地を求めて奔走中と言う渡辺源四郎商店、
ぜひ良き所を得て、私のようにぼんやりしてる人間を
がつんと目覚めさせてくれるような作品をこれからも創ってください。
畑澤先生、ありがとうございました。
さらば、仏の顔
アフリカン寺越企画
新宿ゴールデン街劇場(東京都)
2014/04/25 (金) ~ 2014/04/27 (日)公演終了
満足度★★★★
いちめんの般若心経
あのアフリカン寺越が名実ともに“坊主”になるという究極の設定。
人間関係においては、それが小さな集団であればあるほど
発生する力関係が、どうしようもなく人の人生を支配する。
宗教の現場という“救い救われる”はずの空間で起こる“救われない”話。
熱量の男アフリカン寺越の、台詞のない場面の視線に惹き込まれた。
ネタバレBOX
畳敷きの舞台、正面の壁いっぱいに書き初めみたいな半紙が貼られている。
書かれているのは般若心経だ。
先代の娘が継いだ寺は廃寺寸前、毎日売らないかと営業(松前衣美)が来る。
ここはその離れで、英生(えいしょう・アフリカン寺越)が
不登校の少女あかり(清水理沙)に写経と座禅を教えている。
女住職(羽鳥友子)は、あかりが希望を見いだせるまで寺は売らないと決めている。
この寺ではかつて僧たちによる暴力事件が起こっており
英生はその被害者、先輩の佑人(ゆうじん・末廣和也)は
次のターゲットにされるのを怖れて加害者側に回ったという過去があった。
最近入って写経を始めた東(宇徹菊三)という男は、
手癖は悪いが人の本音を見抜くところがあった。
英生の言葉とは裏腹にくすぶり続ける復讐心に気付き、
自分が代わりにその復讐をはたしてやる、とある行動に出る…。
壁一面の般若心経につい見入って、意味の解りそうな一文を探してしまう。
英生の矛盾と葛藤が全編を通じて重く問いかけて来る。
あの時加害者側に回った先輩に対して「もう赦しています」と答え続けながら
いまだに小さなボディタッチにもびくっと反応してしまうトラウマの影。
不登校のあかりを「いつか変われる、きっとできる」と励ましながら
自分はどうかと省みれば、結局大人になっても何も変わっていないじゃないか。
女住職は賢く理解ある魅力的な人物だが、それでも
“佑人は英生を庇って暴力に加担しなかった”と聞かされそれを信じている
愚かで善良なところも持ち合せていて、この辺りの世間の描き方がリアル。
結局東が英生と佑人の隠された本心をむりやり引きずり出して
白日のもとに晒したために、二人は再び対決することになる。
「先輩はなぜあのとき…」
「いつまでもトラウマとか言いやがって…」
そして禁じられていた暴力が待っていたように火を噴く。
いつまでも先輩面して英生の上に立ち、
「もうあの時の事は赦しています」と言わせ続けることでしか
自分を保つことが出来ない佑人の虚ろな人生が浮き彫りになる。
この手の輩が発信する無責任な発言が、たとえ一時的にでも
女住職のような立場の人間の信頼を勝ち取り、
誰かの人生を翻弄するということに対して
観ている側のいら立ちと怒りがMaxになったところで
寺の売却を知った英生がついに離れに火を放つ。
火を放つまでの英生にあと一歩近づきたかったと思う。
それは例えば、「これ以上佑人と一緒にいたくない」とか
あかりに対して「だめかもしれないけど自分も一緒にがんばるから」という
英生自身から出る最終宣言が聞きたかったということでもある。
誰にも真実を語らず弁明もせずに火をつける、という行為は
ひとつステップを飛ばしてしまったような未消化な印象を受けた。
もっともそれこそが英生の抱える一番大きな問題なのかもしれない。
“声を上げる”事さえ出来ていたら、そもそも彼は
いじめや暴力に晒されずに済んだかもしれない。
そう考えると、この結末は英生らしいとも思える。
アフリカン寺越の一瞬の緩みも無い表情が素晴らしい。
どんな場面でも“いじめと暴力の過去を背負った人間”の顔をしている。
それはたとえ嬉しいことがあって部屋をぐるぐる歩き回る時にも、である。
女住職を挟んで、先輩に嘘を強要する視線を送られるシーンの繊細な視線も良かった。
その先輩を演じる末廣和也さん、中途半端でいい加減な、
それでいて誰かの上に位置しなければ自分の存在を確認できない人間を
いや~な感じの台詞で表現していてとてもよかった。
結構前方の席だったが、肝心の火をつけるシーンが
前の人の頭でよく見えなくて残念だった。
少し煙が立ったかと思ったら燃え広がるような照明で、
アフリカン寺越の表情を下から照らし出したところが素晴らしかった。
改めてこのタイトル、巧いよなあ。
仮面音楽祭
江古田のガールズ
赤坂RED/THEATER(東京都)
2014/04/16 (水) ~ 2014/04/20 (日)公演終了
満足度★★★★
強烈、三軒茶屋ミワ
客入れの時の選曲が素晴らしく、どストライクにその世代である私は
井上陽水の艶のある声に溺れ、ちあきなおみの「喝采」に涙がにじんだ。
こういう歌を良しとする26歳が書いて演出するのか…、と期待が膨らんだ。
多少強引な展開もあるが、“突然歌い出す”という
ミュージカルの特徴(?)を存分に活かす設定の巧さに笑った。
終演後に登場し「小音楽祭」として3曲歌った三軒茶屋ミワが
今観た芝居が吹っ飛んでしまうほど強烈な印象を残したのは
いいんだか悪いんだか…って素晴らしかったんだなこれが!
ネタバレBOX
舞台はカラオケ店の1号室。
ドアを開けて出ると喫煙スペース、ぐるりと廊下があり、階段奥にはトイレがある設定。
この1号室に常連客が来て8名の予約をするが、自分は酔っぱらって帰ってしまう。
実はここで夜中の12時から朝の5時まで合コンをすることになっており、
呼ばれた男女8人が集まってくる。
彼女と同棲3年目のニート男(あずましゅん)も参加していたが、
やがて遅れて来た女がその同棲相手(相良康代)だったことから
合コンは一気に険悪な雰囲気になる。
そして乾杯の酒が入ると、参加者の仮面が徐々に剥がれて行くのであった…。
重大(?)な局面になると歌が始まるのだが、
場所が場所だけにマイクも照明も自然で、流れに違和感がないのが妙に可笑しい。
同棲カップルの鉢合わせでいきなり本音モードに入ってからはテンポも上がる。
化粧が落ちたり落としたり、素顔も本音も露わになって互いを攻撃したりする。
“昔はJJのモデル、今はお仏壇のはせ○わのモデル”(清水ひとみ)とか
“池袋のヘルス嬢”(荒弓倫)とか、それぞれのバックグラウンドにも悲哀がにじむ。
みんなさんざん嫌な部分やダメダメなところを晒したあと
朝になるとまたけろりと自分の日常へ戻って行く。
そこが何ともいいんだなあ。
タンバリンを持って歌う男(佐川誠)、歌も上手だったし
(タンバリンをあんなに上手に叩く人初めて見た)力の抜けた風体も○。
店のバイト(熊野利哉)が沢田研二よろしく宙を舞う演出など、
サービス精神にあふれていて楽しい。
役者陣は皆達者で良かったが、歌に関しては
本編の後の三軒茶屋ミワ(山崎洋平)に持ってかれた感じ。
シャンソン3曲目の「ミロール」では、その複雑で豊かな表現力に圧倒された。
26歳でこんな人生の悲哀が歌えるものなのかと思った。
選曲や冒頭の映像の使い方などがセンスを感じさせる。
カラオケや懐メロを扱ってダサくならないのはこのセンスが洗練されているから。
ただもう少し台詞を絞ったらもっと効果的かなと思う部分があった。
あるインタビューで、山崎洋平さんがご自分の原点について
「WAHAHA本舗と美輪明宏さんです」と語っていたが
まさにその両方を目指しているのがとても良く解る舞台。
シリアスな人生の苦みを踏まえた上で、あえて笑い飛ばすスタンス。
彼の笑いには深い観察眼があって、それが台詞と間に表れている。
シャンソンは、そんな作者にぴったりな音楽表現だったのだと思う。
一部の芝居と二部の歌(8:2くらいだけど)というのは、
なんだか演歌歌手の公演みたいだが
作者山崎洋平全開、彼の「娯楽」が100%伝わる最強の構成であると思う。
ケンゲキ! 宮沢賢治と演劇
シアターオルト Theatre Ort
こまばアゴラ劇場(東京都)
2014/04/03 (木) ~ 2014/04/13 (日)公演終了
満足度★★★★
テーブルの上の銀河鉄道
劇団単体で宮沢賢治演劇フェスティバルを行うという企画もユニークだが
切り口を「銀河鉄道の多様性」と「賢治の言葉の音楽性」の2つに絞ったのが鋭い。
演劇と宮沢賢治の関わりを端的に表していると思う。
白木の長テーブルに並んだ食事の支度が美しい。
ミートローフやマッシュポテト(に見えた)、水、りんご、ミニトマト、皿とナイフとフォーク。
その周囲にレールがめぐらされ、おもちゃのSLが、かたかたと小さな音を立てて走る。
三方から囲んだ舞台奥には天井から白い布が流れていて、
まさに天の川という見立てに相応しい。
東北の豊かな恵みを食卓にのせ、自分はそこを鉄道で走り抜ける…。
死を問い続ける賢治を乗せた、はるか銀河への旅である。
ネタバレBOX
「青森挽歌」が挿入されたことで、“友人の死を受け入れる”ジョバンニの苦悩に加え
“死を選択した”カンパネルラが、死とは何かと問う悩みが深くなった。
ジョバンニを演じる八代進一さんのすっきりとした軽い立ち姿が
シリアスな命題を際立たせてとてもよかった。
“カンパネルラは君を助けるために死んだ”と級友から言われたザネリは
“彼は力がなかったから手を離してしまったんだ”という意味のことを平然と答える。
「最後にお父さん、お母さんと言っていた」とまでザネリに言わせている。
カンパネルラの犠牲的精神と、ザネリの利己的な態度を対比し強調することで
作者の北村氏自身が「本当のこと」を突き付けてくる。
この創作を喚起するのは、やはり原作の豊かさ大きさという気がする。
鳥捕り(舘智子)とサソリの話をする女(藤谷みき)が面白くて良いバランス。
客席の近くまで来て演技することが多かったので
全員衣装の布の美しさがよく見てとれた。
照明もドラマチックできれいだった。
「カンパネルラ!」とジョバンニが叫ぶと、やっぱり泣いちゃうんだなぁ。
イエドロの落語 其の壱
イエロー・ドロップス
新宿カールモール(東京都)
2014/03/08 (土) ~ 2014/04/11 (金)公演終了
満足度★★★★
粋なふたり
おぼんろのメンバーでもある
さひがしジュンペイさんとわかばやしめぐみさんのユニットで、
そのスタートはおぼんろよりずっと古い。
落語の有名な演目という明確な元ネタを3つ合わせた構成と、
濃い色合いの芝居が超個性的。
二人とも洗練された端正な顔を躊躇なく崩して芝居するところが素晴らしい。
“始末の唄”最高♪
ネタバレBOX
「始末の極意」
始末=節約の大家に教えを請う者が、
「扇子の半分を5年使い、次の5年は残りの半分を使えば10年もつ」と言うと
大家は、「自分は孫子の代まで伝える。扇子を動かさずに顔を動かす」と答える。
「品川心中」
品川の女郎お染は、季節の行事にかける金が無いので後輩から馬鹿にされる。
悔しまぎれに死のうと決め、どうせ死ぬなら心中しようと相手を金蔵に決める。
純朴な金蔵と一緒に桟橋へ行き、ためらう金蔵を突き落とした時、
店の若い者が「金が出来た」と知らせに来て止められ、お染は思い直して店へ戻る。
一方金蔵も、遠浅だったため死にそびれていた…。
「転宅」
お妾さんにお金を渡して旦那が帰って行くのを聞きつけ、泥棒が忍び込む。
ところが鉢合わせした妾のお梅から
「自分は元泥棒、あの旦那には愛想が尽きたから一緒に逃げて」と誘われる。
その気になった泥棒は、妻となるお梅に今日の売上(?)を巻き上げられた上
二階にいる用心棒を怖れて、明日また来る約束をして帰る。
約束通り泥棒が翌日行ってみると、お梅は引っ越しした後で
近所中の人が間抜けな泥棒を待ちうけていた。
3つの古典落語をつないで“お染金蔵”の二人が
心の隙間を埋めるまでの旅路を辿る。
この構成にイエドロ独自のエピソードとパフォーマンスを挿入するところが面白い。
声がもったいないからと、端折ってところどころ発声せずに歌う“始末の唄”が最高!
また「品川心中」と「転宅」の段では、
わかばやしめぐみさんが仕掛ける側になって
あの魅力的な口跡と表情で大いに魅せられた。
白塗りって一度素顔を隠しているのに、逆に豊かな表情が際立つから不思議だ。
心中の相手に選ばれてしまった男も、金を巻き上げられる泥棒も
その人の良さが表情からにじみ出る。
拍子木の音でメリハリをつけた演出も息がぴたりと合って芝居っぽさ全開。
江戸っ子の口調を気持ちよく再現して落語好きには大変楽しかった。
噺家が創る“粋な世界”を芝居仕立てにするのはとても難しいことだ。
本当に大好きで深く研究し工夫したのだなあと思う。
両親も私も大ファンだったので、古今亭志ん朝師匠の独演会には何度も行った。
師匠が亡くなった時「葬儀に行くから会社休む」と言って周囲に説得されたのも懐かしい。
ひとつ難点は会場の狭さ。
あのスペースにあの人数、あの椅子、傾斜が無いから難しいのだろうけれど
やっぱりちょっとキツイなあ。
末原拓馬さんが細やかに気を使って下さっていたが
もう少し観る側の快適さも考慮していただけると嬉しい。
「其の弐」も楽しみにしてるからさ♪
私の好きな「野ざらし」とかいい女も出て来るし、どうでしょうか?
英霊だヨ!全員集合
劇団東京ミルクホール
SPACE107(東京都)
2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了
満足度★★★★
圧巻のドリフ再現
第20回本公演で解散公演って、ホントですか?!って感じだけど
圧巻のドリフネタが素晴らしく、笑った笑った。
このクオリティで再現されるとリアルタイムで観ていた“全員集合世代”は泣けて来る。
浜本ゆたかという人の、肉体的・精神的な運動神経の良さとセンスが際立つ。
「今のうちに出来ることは全部やりたい」とぬかすアバ・シンザブロウ首相、
漫画のように良く似たイシバさんを巧みに真似て
政権を揶揄しつつ「ふざけるな!」というメッセージを発信する。
で、時々やけにいい台詞を言ってまた泣かせる。
バビ市、なんでやめるのよ…。
ネタバレBOX
靖国神社で出会った8年間ひきこもりのネット右翼青年と韓国人青年。
2人は、英霊でありながら靖国に入らず彷徨っている
他の英霊を探す手助けをすることになる。
英霊たちが再び集結してもう一度やりたいこと、それは「点呼」であった。
あのドリフの伝説のネタである…。
アバ首相に「国民がお国のために死ぬには靖国が必要だ」と言わせるあたり
相変わらずドタバタしながら鋭い批判の目が光る。
「靖国より千鳥ヶ淵の方が居心地がいいんだよ」と彷徨う英霊が言うのも良かった。
自分の存在価値を見出せないひきこもり青年が変化していく様も感動的だ。
お馬鹿な展開の中でびっくりするような正論を吐き、
すごいなと思ってるとすぐくだらないことを始める。
この“あざなえる縄の如き両極の混在”がミルクホールの魅力だ。
そこにダンスが入るといい感じに句読点が打たれる。
浜本さんは他の人のギャグの間も視線が緩まない。
アドリブで間をつないでいる時も目は素になっていない。
そのプロに徹したところがいいんだな。
ハリマオもいいけど短髪軍服も似合ってた。
ダンスのキレもいいし、泣かせる台詞も上手い。
バビ市、劇団員だけで小さいところでコメディやってくれませんか?
大仕掛けでなくても、きっと台詞で笑わせる舞台になると思う。
男女両方いけるんだし人数も少なくて済むでしょう?(そういう問題じゃないか…)
ひきこもり青年を演じた最年少の星浩貴さん、初々しい若さが好感度大。
生着替え(?)ありがとうございました。
ミルクホールの皆さん、また「おいっす!」と勢ぞろいするのを待ってます。
Re:verse
アヴァンセ プロデュース
本多劇場(東京都)
2014/04/02 (水) ~ 2014/04/06 (日)公演終了
満足度★★★★
かくも過酷な生存
“生き残る”ということは、かくも過酷なことなのか。
東日本大震災の翌年、再び巨大直下型地震に見舞われた関東地方を舞台に
ひとりの女性ジャーナリストがインタビューを試みる。
家族を喪った被災者を怒り狂わせ、二度目の試練を与えるかのような彼女の質問。
答えるうちにのたうちまわるように乱れていく被災者たちの心情。
緊張感ありまくりの展開となぜそこまで、という疑問が解けるラストが秀逸。
生き残った人々は皆、自分に出来なかったこと、出来たはずのことを探し
自分を“許されざる者”として糾弾し続ける。
それは“助かって良かった”という安堵の感情からは程遠いものだ。
ネタバレBOX
舞台中央にテーブルと椅子が置かれている。
まるで足場を組んだような金属製の階段と2階部分が
それを見下ろすように囲んでいる。
女性ジャーナリストが夫と子どもを置いて家を出るまでの顛末のあと、
その女性が被災者にインタビューをする場面に移る。
父を救えなかった男、義母を喪った嫁、津波にのまれて娘の手を離してしまった母、
仲間を置き去りにして逃げた消防団の男など、皆胸に暗部を抱えている。
ジャーナリストは彼らに容赦無い疑問を投げかける。
例えば「元々不仲だったのではありませんか?」と。
「たとえそのために死人が出ても真実が知りたい」と言って憚らないその態度には、
マスコミの人間特有の傲慢さが前面に出ていると感じさせるが
やがて彼女自身、置いて来た夫と息子たちを喪った身であり
同じような立場の人たちが一体どうやって生きているのかを知りたいという
悲痛な思いで質問しているのだと判る。
そして彼女を強く批判していた消防団の男が、全てを話したあと自ら命を絶つ。
誰もが巻き戻せない時間の中で、後悔の海で溺れるようにもがいている…。
被災地の人々の心の裏にあるのは、喪失感と同じくらいの“後悔の念”であったと思う。
こんな喪い方をするなら、別の選択をすれば良かったというどうしようもない後悔。
あまりに唐突で暴力的な奪われ方をすると、もはや死者に非を見出すことなど
不可能であり、非は全面的に生者に移行する。
背負いきれない自己否定と闘い続ける苦しみは、生きる意味も気力も奪う。
作者は徹底的に“後悔する人間”に密着し、フラッシュバックのように繰り返す
「あの時別の選択をしていたら」という思いを肯定するかのように描く。
それは“後悔してもはじまらないから前を向いて生きよう”という世間の流れや
時間が経って次第に薄れる記憶と真っ向から対立する。
人は後悔する生き物なのだ。
私は前回の公演を観ていないが、大きな空間を良く作っていると思った。
群像の中で、ひとりのジャーナリストが真ん中で喧嘩を売るように挑んでいく姿が
やがて同じ喪失感を共有する者の必死な思いであったと判る構成も上手い。
冒頭から子役が達者なのだが、技術が勝っているような印象を受けた。
死ぬ前にカメラの前で語った消防団の男の告白には泣けた。
他人には「生きるんだよ」と言いながら、家に帰って首を吊る男。
人間の抱える矛盾の優しさと切なさを感じさせるキャラが素晴らしい。
配役表があったらな、と思った。
毒っ気を振り撒く作者のイメージと重なりながらも
根本にある“不完全な人間を受容する”姿勢が感じられて、
他の作品も観てみたくなった。
『あら、救急車』 『夜まわり隊』
ATラボ
高田馬場ラビネスト(東京都)
2014/03/27 (木) ~ 2014/03/30 (日)公演終了
満足度★★★
マリオネット
運悪く関わり合いになってしまった人にはえらい迷惑なことだが
傍で見ている分にはイライラしながら笑っていればよい、という人間模様。
オチがイマイチはっきりしなくて「そこが見たい、知りたい!」的な欲求が残るのは
作者ギィ・フォワシィ氏の意図するところなのか…?
ネタバレBOX
①「夜まわり隊」
夜中に散歩していた男がとっつかまったのは「夜まわり隊」と称するこん棒を持った男。
警官みたいに尋問された挙句、私生活をあれこれ詮索される。
駐車場に止めた車からカーナビ等を盗まれないよう不審者を捜している夜まわり男は、
異様に疑り深く、おまけに傍若無人な男だった…。
「お前の家を家宅捜索する」と言われてついにキレた男は
夜まわり男に突進して二人とも倒れ込むが、そこで暗転…。
その後どうなった?
あの叫び声はどっちのもの?
結局どっちが勝ったの?
と、野次馬としては知りたい事だらけ。
身の潔白を証明するのは、自由な国と言えども極めて難しいのだと痛感。
②「あら、救急車」(土屋直子さんの回)
“誰も死なない老人ホーム”がキャッチフレーズのホームの一室で、
「もうすぐ死ぬ」と騒ぐ歩けない岩崎さんは、ひとりで死ぬことを極度に怖れている。
別室の入居者のぶ子さんを呼びつけてはかみ合わない会話を交わし、
わがままを言って人をこき使い、挙句の果てにいつも悪態つき合って大騒ぎ。
結局看護師に叱られて、薬を飲んでいびきをかいて眠る日々。
ある日のぶ子さんが窓から外を見て「あら、救急車」と言ったその一言がきっかけで
岩崎さんが“身代わり脱出作戦”など計画したところから、事態は思わぬ方へ…。
孤独な老人の本音がわがままいっぱいに描かれていて
昨今のものわかりの良い年寄りとは一線を画すキャラが面白い。
だけど妄想もわがままも度が過ぎると、後が大変なことになって、
自分の首を絞めることになるんだよ、ふぉっふぉっふぉっ…って話。
ブラックな終わり方でこちらの方がちとすっきりはするが
のぶ子さんが見た救急車って、本当は何だったの?
看護師のダークなキャラがリアル、実は一番怖いのはこの人か…。
「40 Minutes」
TABACCHI
スクエア荏原・ひらつかホール(東京都)
2014/03/21 (金) ~ 2014/03/24 (月)公演終了
満足度★★★★
サムライ三様
企画自体はとても面白いし、投票制も興味深い。
小さいハコでやった方が、より作品が活かされると思う。
さらに共通のテーマを設けず「40分」という時間の縛りだけでも
個性が十分発揮されて、劇団のカラーが際立つかもしれない。
ネタバレBOX
① 劇団チョコレートケーキ 「○○六○猶二人生存ス」
客入れの時から波の音が流れている。
特攻兵器、人間魚雷「回天」の訓練基地で起きた事故の犠牲者を描く。
舞台中央、横長に置かれた机の上、上手側に閉じ込められた二人、
回天の生みの親とも言える黒木大尉(西尾友樹)と樋口大尉(岡本篤)が座っている。
下手側には整備担当の後藤(浅井伸治)がストーリーテラーとして立ちつくしている。
海底に沈んで取り乱す樋口に、黒木が告げる。
「冷静な遺書を書け、自分たちの死を美談にすることで
後に続く者はためらわずに死んで行ける」
何かを守るため、誰かのために死ぬのは当然という時代の空気が、
あの時多くの人の命を奪った。
”潔く死ぬのがサムライ”である事を徹底的に利用したのである。
極限状態にあって尚驚くべき強じんな精神力を保てるのが
そのサムライ精神教育の賜物であることは何とも皮肉なことだ。
生き残った後藤の「空気が、多くの若者を殺した」という
苦渋に満ちたその叫びこそが作者の訴えるものであろう。
これは反戦と言うより、“反空気”とも言うべき、現代への警鐘にも聞こえる。
“なんとなく、ねばならぬ”という胡散臭さへの。
「サムライ」とは机上の理想のために死ぬものなのか。
無駄の無い台詞と圧縮したような時代の息苦しさが素晴らしい。
出来れば、少し舞台を見下ろすような位置から観てみたかった。
舞台のさらに机の上の演技を見上げるよりも、彼らの絶望を俯瞰してみたいから。
浅井さんの端正な語り口に後悔と苦渋がにじんで秀逸。
② JACROW 「刀と天秤(はかり)」
東電OL殺人事件の被害者渡邊泰子を描いた作品。
東電の管理職にあるOLが、夜は円山町で客を引いていた、
しかも4年間ほぼ毎日、一晩にお客4人と自らにノルマまで課して。
世間を驚愕させたあの女性の心理に迫ろうとしたのは解るが
作家が「この場面をやります」と語りながら進行し、時には作家も演じる
という構成にする必要性があまり感じられなかった。
もっとシンプルに泰子にフォーカスし続けても良かったような気がする。
衣装を着替えなくても泰子の頑ななまでにストイックで孤独な生活は伝わる。
映像で場所を示すのがスタイリッシュで判り易く、それで十分場転は可能かと。
仁王立ちになって、全く卑屈さを感じさせない客引きの様子を見ても
何か強い信念を持って選択した結果だろうと思わせる。
それは亡き父への尊敬と思慕なのか、その父を軽んずる母への反発なのか。
「サムライ」が岡田以蔵のように誰かを喜ばせたくて人を斬るのだとしたら
喜んでくれる人を失った後は、もう自分の存在価値など見いだせなくなるだろう。
あの孤高の立ち姿を、作者が人斬り以蔵に重ね合わせたというのも
何となくわかるような気がする。
彼女には、幸せになろうとする気持ちが微塵も感じられない。
③ 電動夏子安置システム 「召シマセ腹ヲ」
初めての電動夏子は、なるほど“ロジカルコメディ”と言われる劇団だった。
最大与党の「保民党」、「新党もののふ」っていうのが可笑しい。
オーバーアクトで徹底的に政治家を揶揄するところも良い。
広報担当スタッフを演じるなしお成さんの歯切れの良い台詞と
ラストの黒い思惑が効いていて、“おぬしやるのう感”が楽しい。
「サムライ」とは腹を括って嘘をつく人々のことか。
ちょっと中華の出前男が黙って突っ立っている時間が長くて不自然だったかな。