「廃墟の鯨」 公演情報 椿組「「廃墟の鯨」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    花園の鯨
    29年目となる夏の恒例イベントは、桟敷童子の東憲司さん作・演出という
    観る前から相性よさげな今年の野外劇。
    ダイナミックな創りは、粗さも含めて芝居の原点を見せてくれる。
    主人公の内面に迫るシーンがもうひとつ欲しかったけれど
    相変わらず“人生意気に感ず”みたいな展開がシンプルに心を揺さぶってくる。

    ネタバレBOX

    「ここ花園神社は新宿区の避難所に指定されております、
    皆様は最初から避難所にいらっしゃるわけです!」という
    定番の前説を聞くと、今年も野外劇が始まる前のわくわくした気分になる。

    戦後のスラムを舞台に“肉の防波堤”と言われた娼婦たち、
    彼女らを束ねGHQと繋がろうと抗争に明け暮れるやくざ、
    娼婦もやくざも忌み嫌いながら社会の底辺でもがく人々…。
    そこへ満州帰りのひとりの女が現われる。
    金とピストルを持ち、冷たい目をして人助けをしようとする謎の女番場渡(ばんばわたり)。
    彼女の出現は周囲に波紋を呼び、それは次第に広がって行く。
    そして渡の意外な素性が明らかになる…。

    徹底的に弱者の視点から時代を見つめる設定、
    “桜”や“鯨”が象徴的に使われる演出など
    ストーリーの運びは安心して観ていられる。
    そこへせっかく超異分子的な番場渡(松本紀保)が投入されながら
    彼女の内面がバックグラウンドを語るだけで終わってしまった感じが残念。
    先の短い命と知りながら誰かのために闘う孤独な心情を、もっと吐露してほしかった。
    受け手となり得る八幡(山本亨)、能嶋(恒松敦巳)、早乙女(鈴木幸二)がいるのだから
    強い渡がいっとき崩れて弱さがこぼれ出るような場面があったら、と思った。

    今年は“鯨”だけに、上手・下手にひとつずつプールを設け、水を使った演出が新鮮。
    冒頭の大勢がうごめくところや、エネルギッシュな群舞の面白さは
    振り付けのスズキ拓朗さんのセンスを感じさせて秀逸。
    ラストの白鯨の張りぼてがまた、もう少し早く出て来ても良かった気がするが
    たっぷり待たせて泳いできた時はやっぱり嬉しかったなあ。

    渡役の松本紀保さんはさすがの立ち姿で、寡黙で孤高の人を魅力的に演じる。
    親分に可愛がられながらも敵対するやくざに寝返る
    日和見的な嵯峨野を演じた粟野史浩さんが素晴らしかった。
    昨年鄭義信さんの「秋の蛍」でも、時代を感じさせるいでたちと台詞に魅了されたが
    今回も汗臭い群れの中で、ひとり風呂上がりのような清々しい風貌と口跡の鮮やかさが
    自信たっぷりにのし上がっていく新しいタイプのやくざをリアルに見せた。
    “自分が組に引き入れた新人やくざに刺されて死ぬ”
    という最期に説得力を持たせるキャラが見事。

    飲んだくれのヘエボウを演じた椎名りおさん、飛び道具的な役ながら
    振り切れた演技が素晴らしく、群像劇にメリハリがついた。

    当日パンフに外波山文明さんの書かれている通り
    “いまだ戦後であり、いつの日か戦前とならないことを祈る日々。
    きな臭い政治の世界に怒りを抱きつつこの芝居をお送りする!“
    そんな気持ちをいっそう強くさせる力のある作品だった。

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    2014/07/24 14:51

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