うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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親愛なる我が総統【ご来場ありがとうございました!次回は4月!】

親愛なる我が総統【ご来場ありがとうございました!次回は4月!】

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2014/09/12 (金) ~ 2014/09/15 (月)公演終了

満足度★★★★★

私は人間だ…
「熱狂」「あの記憶の記録」とともにナチス関連作品三部作をなすという本作品は、
逮捕の後ポーランド政府に引き渡されたアウシュビッツ強制収容所の初代所長
ルドルフ・フェルナント・へースが絞首刑に処せられるまでの日々を描いている。
へースを演じる浅井伸治さんの台詞が素晴らしい。
淡々としていながら、ただ真面目に“仕事”をして来た平凡な男がそこに居て
この世に悪魔などいない、“悪魔の所業”は全て人によるものであるという
明確なメッセージを全身から発信している。
過ちを繰り返す愚かな人間全てに向けたメッセージである。
緊張感あふれる“間”が素晴らしい。

ネタバレBOX

舞台中央一段高くなったところに四角い机、上手の高い位置に
格子のはまった小さい窓があって光が差し込んでいる。
ここが独房のような部屋である事がわかる。

逮捕されたへースは、ここポーランドで裁判にかけられる予定だが
この1年近く彼に聞き取りを行ってきた2人のうち
シマノフスキ(岡本篤)はもうこの職務にうんざりしている。
早く死刑にしてしまえばいいのだと、憎しみを露わにする彼を
上司であるノヴァク(谷仲恵輔)はたしなめる。
精神科医のバタヴィア(西尾友樹)もまた、へースの裁判を前に
彼の精神状態を確かめるため参加する。
残酷な所業を平然と行って来たへースは悪魔なのか人間なのか、
それは3人だけでなく、へース自身も答えを求めていたことだった…。

激しい怒りと憎しみを露わにするシマノフスキに対して冷静なノヴァク。
先入観なくフラットに接しようとする精神科医バタヴィア。
三者三様のアプローチによって次第にへースの人格が浮び上る構成が秀逸。
それはごく普通の父親であり、職務に忠実な真面目な男であった。

その三者の変化がまた面白い。
冷静に見えたノヴァクが、実は「死んだ者が戻るわけではないし、どうでもいい」という
虚無感にとらわれて日和見的な去就をするのを目の当たりにして
憎しみの塊だったシマノフスキの方が、へースの心に歩み寄って行く。
終盤、精神科医バタヴィアの言葉に突然激高し、その後混乱を極めるへースは
そこに至って初めて“人間として死ぬ”という望みが叶う。
終始淡々と己の職務を語ってきたへースが、死を前にして
爆発するように怖れおののく様には、人の弱さを見せつけながら
鬼気迫るものがあった。

「ハイル ヒトラー」と小さくつぶやく台詞で始まった舞台は
その唯一の拠りどころを否定しようとして
「私は人間だ」というのたうちまわるような現実を受け入れて終わる。
何と過酷な現実だろう。

観客の知りたい事を聞いてくれるバタヴィアの質問が心地よく、
納得しながら進む。
80分というコンパクトな長さも緊張感を保つのに相応しく
無駄のない演出と効果的な照明が素晴らしい。

へース自身が「手記を残したい」というその理由が全てを物語っている。
「お前なんか人間ではない」と罵るシマノフスキに向かって
「私もあなたと同じ人間だ」と言い、人間誰もがこの過ちを犯す可能性がある、
だから後世に伝えたいというのである。
生きている人間には自分たちの過ちを伝える義務がある。
それを忘れた途端、人はまた同じ道を辿るだろう。
そのはるか先頭に、ヒトラーの影が小さく見える。


獏の棲家

獏の棲家

異魂

OFF OFFシアター(東京都)

2014/09/09 (火) ~ 2014/09/14 (日)公演終了

満足度★★★★

不気味な咆哮
“家には獏が棲んでいる”という設定が面白く、獏の存在が不気味に効いている。
現実にはあり得ないほどいくつもの“びっくり再会”が重なるという不自然な展開も、
コメディ仕立てにしたことで笑って受け入れられる。
コメディ要素の割合や配分は、もう少し工夫の余地があるような印象を受けた。
隙なく振り切れた演技を見せる中山絵里さんが面白い。
衣装や照明が繊細でとてもよかった。

ネタバレBOX

冒頭、幸せな4人家族の人形劇は、父親がよその女と出て行ってしまうという展開に。
その長女薫(希久地沙和)は、今不動産会社で働いている。
腐れ縁の彼氏に金をせびられながらも別れたくない一心で尽している。
担当する狭小建売住宅はまだ更地だが、それでも内覧が引きも切らない。
ある日内覧に来た客の男は、かつて薫と結婚の約束をしながら
勝手に式場をキャンセルした澄夫(安達俊信)だった…。

獏は、そこに住む人の夢を全て食べつくすと、次はその住人を食べてしまうのだという。
だから人は100%の満足をせず、常に夢を持っていた方がいい…。
そう同僚に語る薫自身は、絵に描いたような同じ過ちを繰り返し
結婚の夢を抱いては打ち砕かれている。
そして彼女が結婚を夢想する度に、どこからか不気味な咆哮が響き渡る。

コントのように無理やりな人間関係と展開が、過ちを繰り返す愚かさを浮き上がらせる。
終盤、薫が語るひとつの事実が、痛ましくも衝撃的だ。
夢とはイコール“望んでも手に入らないもの”であり“他人への勝手な期待”なのだろうか。
喪ったもの、欲しいものを誰かが囁くと簡単に騙される薫は、きっとまた騙されるだろう。
どこかで解っていながら“騙されに行く”姿は、何かコワい気さえする。

隣の奥さんを演じた中山絵里さんが隙のない振り切れた演技で大変面白かった。
中途半端だったら白けただろうが、徹底ぶりが素晴らしい。

衣装の変化で、隣の奥さんの力の入り方や
時間の経過が判る辺り細やかで良かったと思う。
獏の咆哮が響くたびにドラマチックに切り替わる照明も良かった。


HOTEL CALL AT

HOTEL CALL AT

メガバックスコレクション

南大塚ホール(東京都)

2014/09/06 (土) ~ 2014/09/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

いつか行くホテル
第25回池袋演劇祭「優秀賞」受賞による公演ということで代表作を観る機会が得られた。
小さい劇場で舞台いっぱいに作り込むいつものセットも迫力あるが、
こういう大きな空間を100%活かす作品の選択、高低差と奥行きのあるセット、
空間を飾る豪華な衣装、ドラマチックな照明と、まずその舞台作りが素晴らしい。
早い段階でタネ明かしをした後の展開に深みがあり、そこはメガバの真骨頂だが、
一方軽妙な笑いも散りばめられていて、そのバランスが秀逸。

ネタバレBOX

入口で背の高い青い髪の男性に「ようこそ」と迎えられた時から
メガバ・ワールドは始まっていた。
彼の足元には酔っ払いのような男がひとりごろんと横になっている。
客席の後ろの方で「ごめん遊ばせ、ここより後ろの席は全て買い取っておりますの」
という張りのある声が何度か響く。
舞台上では白塗りの男がトランプタワーに挑戦している…。
客席に混じった出演者のキャラが自然に伝わってくる客入れの演出が巧み。
そして青い髪の男が、このホテルの主トライアラスキー伯爵であることが判る。

トライアラスキー伯爵(キリマンジャロ伊藤)と
その右腕フェイズランド(野口広之)が取り仕切るこの「HOTEL CALL AT」に
今夜は8人の団体客が来る。
彼らは皆同じバスに乗り合わせた客たちだったが
やがて驚愕の事実が明らかになると、客たちはパニックに陥り大混乱になる…。

不思議なホテルを舞台に、“生への執着”と“自己の存在意義”が交差する。
自分の存在意義が信じられない者は生への執着が薄くなる。
一人ひとりの人生が浮び上るような展開と台詞が素晴らしく、惹き込まれた。

トライアラスキー伯爵を演じるキリマンジャロ伊藤さんが大変魅力的。
謎めいたホテルの中、ドラマチックな台詞が際立って、物語を牽引する。
白塗りのフェイズランド役の野口広之さんも強烈な印象を残す。
客入れ時から一貫してフェイズランドのキャラを保ち、伯爵との息も絶妙で見事。
金と宝石に執着するウェイン夫人役の大里冬子さん、
声の表情が豊かで、後半の心の変化がくっきりと浮き彫りになった。

高低差のあるホテルのセットが、不思議な雰囲気を醸し出していて素晴らしい。
ドアの向こうの光など、照明に工夫がありとてもドラマチックで良かった。

滝一也さんの本は、いつも“人の心の変化”をとらえて提示してくれる。
辛く苦しい選択を強いられる人の、受け入れて再び歩き出す強さを見せてくれる。
メガバックスが描く過酷な設定は、そのための試練なのだと思う。
創り手の“人生を肯定する”真摯な姿勢にいつも心惹かれる。
シットアウト

シットアウト

tubbing

キッド・アイラック・アート・ホール(東京都)

2014/08/29 (金) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

軽いのに深い
極小空間で交わされる台詞がまるで“正確な矢”のように素晴らしい。
目指す相手にきちんと届く、それも無駄なく最短の距離で。
崖っぷちでそれぞれ切羽詰っている3人の会話はテンポ良く弾み、
三者三様の「ないものねだり」が丁寧に浮かび上がる。
脚本・演出、そしてキャスティングの妙を堪能した。
鮮やかな初日の充実ぶり、終演後の拍手がそれを端的に表している。

ネタバレBOX

ひとりの画家が死んで1年、一番弟子だった開人(大沼優記)のアトリエを
画家のマネジメントをしていた彩音(小玉久仁子)が訪れる。
画家の一人息子走(末原拓馬)もやって来て久々の再会をする。
だが実は3人とも、それぞれに追いつめられた状況にいた。
詐欺にあって大切な絵を失いそうな彩音は一発逆転を狙っている。
今や漫画家として順調な走はやはり絵を諦め切れずにいる。
そして開人は画家として致命的な症状に苦しんでいた。
画家が残した最後の絵を巡って、3人の思惑と過去が交差する…。


かつてアトリエでいつも一緒に過ごした3人は
それぞれ自分の才能と格闘しながら生きている。
誰かの才能を信じ、その才能を愛し、そしてどこかで妬んだりする。
人の才能より自分の才能を信じる方が難しいものだ。
だから誰かもう一人、一緒に信じてくれる人が欲しくなる。
その心細さやジレンマと闘い続ける芸術家の孤独が、普遍性を以て迫る。

亡くなった画家の、絵も人間性も全てを愛した彩音の独白に惹き込まれた。
小玉さんの台詞は抜群のタイミングで繰り出すテンポと勢いが魅力だが
中盤、亡き人を想って静かにくり返す「会いたい…」という台詞がひときわ光る。
毒を吐きつつ、大事なところでは素直になる彩音のキャラがはまり役。

大沼優記さん、“画家として決定的な欠落”を抱える男を淡々と演じて上手い。
元カノ彩音とのビミョーな会話も、小玉さんに上手く絡んでとても楽しい。
小玉久仁子が元カノって設定だけでもすごいのに、台詞で負けてないからまたすごい。

血筋も才能もあって、その気がなくても何だか上手くいっちゃうお坊ちゃま走。
彼の中に潜む“否定された故の執着”が首をもたげる様がリアル。
末原拓馬さんの“育ち良さ”と相まって生き生きとしたキャラがとても魅力的。

これはアテ書きだろうか、脚本の米内山陽子さんが生み出したキャラが
役者に素晴らしくハマっている。
小さな空間で3人それぞれの思いにスポットライトを当てる広瀬挌さんの演出も巧い。
軽妙な台詞の応酬で笑わせながら、人の心の深いところを突いて来る。
座組みの相性の良さも気持ちよく、忘れられない作品になった。

安部公房の冒険

安部公房の冒険

アロッタファジャイナ

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2014/08/23 (土) ~ 2014/08/31 (日)公演終了

満足度★★★★

噛んでもすごい
“芸術を媒介とした恋愛関係”は、その言い訳も高尚で芸術的だ(笑)
“共通の志を抱いているのだ”という大義名分を信じればこそ、
3人とも長きにわたって気持ちを保てたのだろうという気がする。
家庭と愛人を行き来する自己中な男を、許し愛する2人の女の“縄張り”が
美しいセットと照明によって浮び上る。
理想と現実を近付けようとシャカリキになる中年男の台詞が質・量共にすごい。
脚本家と俳優の力がストレートに感じられる舞台だった。

ネタバレBOX

安部公房(佐野史郎)は小説家として評価を得ている一方、
大学で演劇ゼミを担当している。
学生結婚した妻(辻しのぶ)は彼の芸術の良き理解者であり、
彼の仕事に欠かせないパートナーでもある。
にもかかわらず、安部公房は次第にゼミの学生あかね(縄田智子)に溺れて行く。
ひとりの男を巡り20年間にわたって対峙する2人の女。
芸術を媒介にした恋愛の顛末を描く…。

佐野史郎さんの台詞は内面からほとばしるようで、芸術家の身勝手な理屈にも
普遍的な男の欲望が感じられてどこか愛おしい。
時折言い間違いや噛んだりするところもあったが
それを吹き飛ばす感情の勢いが伝わってくる。

妻役の辻しのぶさんは笑い声に満足感や優越感をにじませるのが巧み。
言葉以外の方法で豊かな感情を表現するところが素晴らしい。

大ベテランの流石の台詞術に挟まれて、愛人役の縄田さんの台詞は
それがフレッシュな魅力と言えるのかもしれないが
淀みない分若干表面的な印象を受けた。
もっとしたたかな面を見せても良かった気がする。

最初は少し違和感を覚えた狂言回しの道化(内田明)が、
愛人に絡み始めてからは、やはり必要な存在なのだと感じた。
ちょっと濃いソースがないと、有名人ではあるが所詮“三角関係”の話は
普遍的なだけに“想定の範囲内の味”で終わりがち。
その意味でメリハリのある声と台詞がとても良かった。

小説と演劇、妻と愛人、理想と現実の間で、
時に自説をぶち上げ、時に右往左往する安部公房が極めて人間らしく魅力的。
いったいどんな舞台を作ったのだろう、ちょっと気になる。
『穴の中 或は、■の中』ご来場ありがとうございました。

『穴の中 或は、■の中』ご来場ありがとうございました。

演劇ユニットG.com

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/08/13 (水) ~ 2014/08/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

穴の外
劇場の機能を100%活かした演出が素晴らしい。
床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、トイレやエレベーター、
劇場入り口のドアに至るまで、劇場の全てが無理なく役者の動きに組み込まれている。
不条理っぽい出だしをいたずらに引っ張らず、巧みに状況を説明すると
そこから普遍的なテーマをびっくりするほどストレートに問いかけてくる。
ピザ屋よ、あなたのそのまっすぐな声が3人の、いや“神”も含めて4人の
価値観を変えたのだ。

ネタバレBOX

受付を済ませて階段を降りるところから、もう既に“危険な世の中”が始まっている。
開演直前、ひょっとこの面をつけた黒子がひとつずつ■い穴のふたを外して行くと
ついに5つの穴が口を開け、スモークが漂ってくる。
ひょっとこの思わせぶりで儀式のような動きに期待が高まる。
開演前に珍しく何人かの客がエレベーターで劇場に降りて来て、案内されていた。
後から思うとエレベーターの存在を何気にアピールする、あれも演出だったか?

暗転ののち、そのエレベーターで宅配ピザ屋(菊池豪)が降りて来る。
声をかけても誰も出てこない、と思うと穴のひとつから白衣の男(志村史人)が顔を出す。
そしてなぜかピザ屋は拳銃のようなもので胸を撃たれ、手錠をかけられて
彼の穴に監禁され、謎の男は嬉々として出て行く。
半狂乱のピザ屋に助けは来ない。
やがて他の2つの穴から“マダム”(佐藤晃子)と“殿様”(吉田朋弘)が出て来る。
どうやらさっきの男は“博士”で、何かの研究をしていたらしい。
やがて博士の研究が“不老不死”の薬の開発であること、
穴の住人が何百年、何千年と生き続けていること、
なぜかこの穴に居る限りそれが可能であることが解って来る。
そしてあとの2つの穴には、それぞれピザ屋の同級生(内山真希)と
“神”と呼ばれるものが住んでいた…。

のっけから設定の面白さに釘付け。
“不老不死”を至上の幸福と信じている人々に対して、
「いつか死ぬと思うから頑張れる、永遠に頑張るなんてきっとできない」と言う
ピザ屋の自己評価や人生目標、ジレンマは平凡だが、同時に極めて普遍的だ。
その切々と吐露するように語る言葉が、リアルで説得力を持っていて素晴らしい。
生きる意味や目的を追い続けるという人間の宿命の切なさ、しんどさに
激共感してしまう。
そう、私たちは皆穴の外で限られた人生を歩んでいるのだ。

登場人物のキャラが思いっきり濃くて強烈なのも良い。
みんな何かに追いつめられていて、その切羽詰り具合が観ていて可笑しいのだが
緊張感の合間に台詞の面白さが効いていてくすりとさせられる。
終盤、全身白タイツの“神”がついに穴から出て来てピザを食べるところでは、
ひと言も台詞がないのにその動きと素晴らしい“間”に大いに笑った。
そしてその直後に見せる“神”の選択…。
観る者に深い問いかけが残るような展開が秀逸。

床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、エレベーターもトイレも出入口も
劇場空間の機能全てが駆使された作品。
照明の変化が謎をいっそう深め、
ばらまかれた不老不死の試作薬は闇に浮び上ってこの上なく美しい。

構想、脚本、演出、役者、全てがバランスよくそろって大変楽しかった。
”殿様”、あの「越天楽」カッコ良くて最高です!
殉職の夢を見る

殉職の夢を見る

アフリカン寺越企画

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2014/08/07 (木) ~ 2014/08/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

文句なしの○
観劇後、アンケート用紙に“アフリカン寺越の演技”をまた観たいと思えば○、
そうでなければ×をつけて、○が過半数なければ次の舞台は無いものとする、
という崖っぷち企画。

もし×でも、また仕切り直して新たに企画を練り上げるまでだと思うが
ご祝儀アンケートではなく、文句なしの○をつけた。
題材の選び方が巧いのと、脚本の完成度が高いことが理由。
開演後まもなく、この小さな空間の役割と人間関係がすんなり理解出来て
話の展開にずいっと入り込める。

閉鎖的な社会における特異なキャラクターに寄り添うスタンスが優しく
作者の取材の賜物だと思うが、役者陣も難しい設定によく応えて素晴らしい。
例によって“善い人・悪い人・普通の人”の境界線をクールに描く視点が鋭く
この点でも進化していると感じた。

ネタバレBOX

ゴールデン街の極小空間は、病院内にある畳敷きの粗末な警備員室になっている。
ある日警備員(アフリカン寺越)が、患者のひとり蛭田(橋本亜紀)の自殺を
未然に防いだことから、この部屋には蛭田を始め、瓜生(澤原剛生)、鵜飼(森由月)ら
患者が出入りするようになった。
警備員はあの日から子どもの頃の夢だった警察官になることを目指して勉強している。
しかし医師の星川(末廣和也)、看護師(村田明子)は、ある葛藤を抱えて
患者たちに日々に接していた。
次第にここでの仕事に意義を見いだし始めた警備員の心に変化が訪れ、
それが思わぬ事態を引き起こす…。

自殺願望の強い患者が入院する精神病院が舞台である。
患者のひとりを演じる橋本亜紀さんが秀逸。
幻覚に苛まれる姿を人に見せたくないという心理、
先に退院してシャバへ帰って行く仲間に対する微妙な心理が伝わってくる。
“きっと死んでしまう”自分を抑えむ姿が痛々しく切なく、思わず泣けてしまった。

終盤、“子どもの頃から弱い人をいじめてきた”医師と
“子どもの頃助けられなかったから今度こそ警官になって弱い人を助けたい”警備員。
実は“弱い人より優位に立っている自分を確認したい”という点で
大して変わらないのだ、と指摘されて愕然とする。
この境界線上に、社会の多くの人がひしめいているのが現実なのだ。
境界線上にいる大衆のひとりとして暗澹たる思いにとらわれた。

ちょっと唐突な印象を覚えたことがいくつかあって、
コミュニケーションが取れなかった患者鵜飼が退院を前に急に饒舌になったこと。
警備員の心の変化を見て自殺してしまう、蛭田の行動に飛躍が感じられたこと。
彼女の死を医師が解説するというあのまとめ方はちょっと残念。
蛭田の変化は解ったが、その理由を蛭田の言葉や態度で伝えて欲しかった。
院長と話し合った末、驚きの方針を決定した医師と看護師の
使命感と現実の葛藤があまり語られなかったこと。
これらのプロセスがもう少し丁寧に語られたら、より説得力を持っただろうと思う。

澤原剛生さん演じる患者の切羽詰った粗暴さ、
大切なものの守り方を知らないままそれでも守ろうとする素朴さが良かった。
医師役の末廣和也さん、
いつもながら“嫌なヤツだけど実は単なる悪人じゃない”的なキャラが巧い。
そして警備員役のアフリカン寺越さん、
何かが正しいと信じて猪突猛進する男を演らせたら天下一品、
その純粋さゆえに盲目的であり、物の見方が一方的なキャラが見事である。

ラスト、自殺を止められた蛭田が初めて警備員室を訪れた日の
再現シーンが素晴らしかった。
警備員にとっては希望を得た日であり、
蛭田さんにとっては新たな苦痛の始まりの日であった。
人は誰も“照り返し”で救われることがある。
誰かの努力する姿、誰かが変化する姿、その理由の一端を担った者として
その姿を見ていると嬉しくて幸せな気持ちになることがある。
だからそれを一方的に断ち切られると、途方に暮れてしまうのだ。
人は様々なかたちで誰かに頼って生きているのだと、今さらながら感じた舞台だった。

「犯罪者」「宗教」「精神病院」と来た作・演出の鮒田直也&アフリカン寺越のコンビ、
次はどんな切羽詰った男を描くのか、楽しみでならない。




Vol.1『BGS~バックグラウンドストーリー~』

Vol.1『BGS~バックグラウンドストーリー~』

ド・M(マリーシア)野郎の宴

Geki地下Liberty(東京都)

2014/07/31 (木) ~ 2014/08/03 (日)公演終了

満足度★★★

表と裏
舞台本番中の楽屋で、スタッフ、出演者、関係者の思惑が交錯する。
“舞台と楽屋”が人間の“表と裏”を表す如く
もう少し“裏の毒っ気”みたいな部分を見せても良かったと思う。
だが登場する個々のキャラ設定はなかなか魅力的だった。
冒頭の”つかみ”が弱いのが残念。

ネタバレBOX

本番中の楽屋は結構リラックスしている。
出演者の出ハケに加えて、スタッフや脚本家の作品を待つ編集者も出入りする。
立ち上げ当初から一緒の脚本家(大浦力)と役者田端(森山匡史)は
高校時代からの友人同士なのに
いつの頃からか険悪な仲になり、他のメンバーも気をもんでいる。
巷にはトランク爆弾魔が出現し、世間を騒がせている折も折、
楽屋の通路に1つのトランクケースが置かれていた…。

群像劇の底深く沈んでいた秘めた感情が、ある非日常的なきっかけで露わになり、
素直に向き合って確執がほどけて行く…というストーリーは
過去のマリーシアにもあったパターンで、その設定は悪くないと思う。
この劇団の特徴のひとつ、バラエティに富んだキャラの面白さは健在で
例えば淡路島出身の福留(吉田哲也)が
“他のみんなには「最寄駅どこ?」って聞くのに俺には「最寄りの港どこ?」って聞いた”と
ブチ切れるところ、故郷が何より大事な人間にとっての異様なこだわりが可笑しかった。
ただせっかくの面白い台詞が流れやすいところはちょっと残念。
もう少し客に伝わりやすいように“聴かせる”事が必要かと思った。

後半、本番中に全員が楽屋に集まってしまうという緊急事態を引き起こしながら
“ゲイのカミングアウト”を強行する服部(土屋洋樹)も面白かった。
そこに至るまでの微妙な行動が上手い。
ユルい、脱力系の面白さは、スパイスがあってこそ際立つものだが
前半のユルさと後半の激白のコントラストがとても良かったと思う。
夏目漱石の"I love you"のエピソードが効いていて笑った。

細かいコントのような会話の連なりは、会話の一瞬の面白さはあるものの
その場限りに終わりやすくて、ちょっとバラケた印象が否めない。
脱力系にもテンポとメリハリは必要で、そこが少し弱い気がした。

チラシやBGMのセンス、そしてこの劇場が観やすくて好き♪
三三さん、脱力してるくせに忘れられない台詞を放つような作品、期待してますよ!


旅人と門【全公演終了いたしました!ご来場ありがとうございました!」

旅人と門【全公演終了いたしました!ご来場ありがとうございました!」

くちびるの会

ギャラリーLE DECO(東京都)

2014/07/23 (水) ~ 2014/07/27 (日)公演終了

満足度★★★★

船出
声を出すと気持ちいいの会の山本タカさんが新たに立ち上げたくちびるの会は
“社会に対しての強いメッセージを幻想的な台詞回しと虚構性の高い物語に乗せて
描き出す”寓話のような作品が特徴という単独プロデュースユニットだ。
なるほどタイムリーな時代性を感じさせる内容だが、ちょっと解りにくさも感じた。

ネタバレBOX

ルデコ5Fの柱のある空間には何のセットも無い。
5歳の哲は父と母から聞いた壮大な昔話に夢中になるが
ある日その夢を河童に盗まれてしまう。
するといきなり25歳になって親のローンを背負わされ現実に放り出される哲。
そして人間界にやって来た河童プラトンと一緒に便所から河童の世界へと旅立つ。
哲は夢を取り戻すことが出来るのか、哲がのぞいた河童の世界とは…。

ファンタジーかと思うと不条理みたいな、不思議な手触りの作品。
言葉遊びが面白い。
河童は盗んだ夢から理屈を取り出してレンガを作り、それを積み重ねて壁を作る。
理屈に合わない屁理屈の“屁”の部分はエネルギーとして蓄えられる。
つまり河童にとって大切なのは“屁”であり、
これが“屁の河童”の所以かと思えば可笑しくなる。
河童の動作や、柱をうまく使った動きなどキレとスピードがあって面白かった。

言われた通り何の疑問も抱かずに理屈のレンガを積み続ける河童に対し
「二の足を踏め!」と叫ぶ哲とプラトン。
大衆から夢を奪って理屈の壁を作るのは政治家か?Aさんか?
二の足も踏まず、後ろから押し出されるように前進するのは愚かな国民か?

もはや進化しているのか退化しているのか判らなくなっているのは河童ばかりではない。
人間だって近頃劣化しているようにしか見えないじゃないか。

壁は崩れて門が出来、旅人は新たな旅に出る。
硬直した価値観に新しい思想が流れ込み、人は外へと目を向ける。
桜井哲は「自分がソクラテスであること」を思い出して船に乗る。
人は夢を失えば一気に5歳から25歳に老けこむのだ。
新たな拠点からひとりこぎ出した山本タカさん、
何とも明るい、若い船出である。

「廃墟の鯨」

「廃墟の鯨」

椿組

花園神社(東京都)

2014/07/12 (土) ~ 2014/07/23 (水)公演終了

満足度★★★★

花園の鯨
29年目となる夏の恒例イベントは、桟敷童子の東憲司さん作・演出という
観る前から相性よさげな今年の野外劇。
ダイナミックな創りは、粗さも含めて芝居の原点を見せてくれる。
主人公の内面に迫るシーンがもうひとつ欲しかったけれど
相変わらず“人生意気に感ず”みたいな展開がシンプルに心を揺さぶってくる。

ネタバレBOX

「ここ花園神社は新宿区の避難所に指定されております、
皆様は最初から避難所にいらっしゃるわけです!」という
定番の前説を聞くと、今年も野外劇が始まる前のわくわくした気分になる。

戦後のスラムを舞台に“肉の防波堤”と言われた娼婦たち、
彼女らを束ねGHQと繋がろうと抗争に明け暮れるやくざ、
娼婦もやくざも忌み嫌いながら社会の底辺でもがく人々…。
そこへ満州帰りのひとりの女が現われる。
金とピストルを持ち、冷たい目をして人助けをしようとする謎の女番場渡(ばんばわたり)。
彼女の出現は周囲に波紋を呼び、それは次第に広がって行く。
そして渡の意外な素性が明らかになる…。

徹底的に弱者の視点から時代を見つめる設定、
“桜”や“鯨”が象徴的に使われる演出など
ストーリーの運びは安心して観ていられる。
そこへせっかく超異分子的な番場渡(松本紀保)が投入されながら
彼女の内面がバックグラウンドを語るだけで終わってしまった感じが残念。
先の短い命と知りながら誰かのために闘う孤独な心情を、もっと吐露してほしかった。
受け手となり得る八幡(山本亨)、能嶋(恒松敦巳)、早乙女(鈴木幸二)がいるのだから
強い渡がいっとき崩れて弱さがこぼれ出るような場面があったら、と思った。

今年は“鯨”だけに、上手・下手にひとつずつプールを設け、水を使った演出が新鮮。
冒頭の大勢がうごめくところや、エネルギッシュな群舞の面白さは
振り付けのスズキ拓朗さんのセンスを感じさせて秀逸。
ラストの白鯨の張りぼてがまた、もう少し早く出て来ても良かった気がするが
たっぷり待たせて泳いできた時はやっぱり嬉しかったなあ。

渡役の松本紀保さんはさすがの立ち姿で、寡黙で孤高の人を魅力的に演じる。
親分に可愛がられながらも敵対するやくざに寝返る
日和見的な嵯峨野を演じた粟野史浩さんが素晴らしかった。
昨年鄭義信さんの「秋の蛍」でも、時代を感じさせるいでたちと台詞に魅了されたが
今回も汗臭い群れの中で、ひとり風呂上がりのような清々しい風貌と口跡の鮮やかさが
自信たっぷりにのし上がっていく新しいタイプのやくざをリアルに見せた。
“自分が組に引き入れた新人やくざに刺されて死ぬ”
という最期に説得力を持たせるキャラが見事。

飲んだくれのヘエボウを演じた椎名りおさん、飛び道具的な役ながら
振り切れた演技が素晴らしく、群像劇にメリハリがついた。

当日パンフに外波山文明さんの書かれている通り
“いまだ戦後であり、いつの日か戦前とならないことを祈る日々。
きな臭い政治の世界に怒りを抱きつつこの芝居をお送りする!“
そんな気持ちをいっそう強くさせる力のある作品だった。
パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!

パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!

おぼんろ

王子MON★STAR(東京都)

2014/07/09 (水) ~ 2014/07/21 (月)公演終了

満足度★★★★★

今こそ呪文を
八幡山ワーサルシアターの後、岡山・島根と回って帰って来た王子公演。
ハコが変わると何かが変わるのか、42公演の40公演目を観に行った。
長丁場にも関わらず疲れを感じさせない声と
緊張感あふれるパフォーマンスが素晴らしい。
そしてわかっているのにやっぱり泣いちゃう。
リンリンの哀しい恋と、メグメが切々と歌う無念さ。
タックと一緒に空を見上げて、タックの知らないトシリモを想って…。

ネタバレBOX

天井の高いドーム型の劇場は、空間が凝縮されて
天井から光が差し込む場面がいっそうドラマチックになる。
工場長(さひがしジュンペイ)が懐中電灯を手に降りて来る場面では
その高さと距離感が十分に活かされていた。

スタートして5公演目を観た時より、人物像が濃くなっている。
それぞれのキャラから紡ぎ出される糸の色が
たっぷり染まって深みを増した感じ、と言ったらいいだろうか。
微妙に振れ幅が大きくなった台詞、
アドリブや客いじりの絶妙な加減のせいかもしれない。

2度目の観劇で改めて感じたことは
藤井としもりさんの声の魅力的なことだ。
艶のある声が良くコントロールされていて
次第に変化していくトシリモの心情が豊かに伝わってくる。
絶望的な世界で生きる者の、“絶望的な希望”とでも言うべき選択を
体現していて素晴らしいと思う。

必要悪の負の部分を一手に担う工場長は
冷徹さが増して、その分苦悩がいっそう濃くなった台詞が味わい深い。
さひがしジュンペイさんのリンリンに向ける慈愛のまなざしや
ベルトコンベヤーから落ちたタックを助けた顛末を語るところ、
絶望の中で工場長自身が救いを求めていることを感じさせる。

今回私はたまたま椅子席に座れたが、2時間半超を体育座りはキツイ。
シアターコクーンを目指すのであれば
どんな劇場でも自分たちのアクティングスペースを構築すること
その上で快適な客席を設営すること、が必須条件になるだろう。
誰かを誘いたい時、座席がネックでためらうのはあまりにもったいない。

末原拓馬さんの描く世界は深く示唆に富み、魅力的だ。
私としてはいつか彼に“純真無垢でない”ダークなキャラなんかも演って欲しい。
5人の創る世界は孤独な私たちを魅了する。
観客動員数4194人を達成できるかどうかわからないが
千秋楽は数字なんか忘れて行こう。
そして今こそ呪文を唱えよう。

「パダラマ・ジュグラマ」と…。






Heavens ~夜と夜と音楽~

Heavens ~夜と夜と音楽~

天幕旅団

【閉館】SPACE 雑遊(東京都)

2014/07/11 (金) ~ 2014/07/14 (月)公演終了

満足度★★★★

ふたりのアリス
笑劇ヤマト魂で2003年に初演、天幕旅団で2009年に再演、そして今回の再々演。
役者ひとりで何役もこなしながら目まぐるしく場面が変わる面白さはあるものの、
同じような場面が何度も繰り返され、話の進展に時間がかかる。
人形を使った演出や緻密な動線、衣装等に工夫があって感心した。
天幕旅団の特徴は10年前からしっかりとあったのだと思う反面
今の天幕の方が登場人物の造形がずっと深いという印象も受けた。

ネタバレBOX

囲み舞台の内側にもう一つ囲みがある二重構造の舞台。
開演前から舞台上には転々と人形が置かれ、舞台下には小道具が準備されている。
役者は演じている時も、舞台下で待機している時も、小道具を準備している時も
いつもながら全て観客の前にその姿をさらすことになる。

「アリス」と呼ばれるのは、スカートをはいているが
「ボク」と自称する少年(加藤晃子)である。
父親殺しの疑いで拘束された彼は、弁護士(渡辺望)にも心を開かない。
そして彼は突然現われた兎(佐々木豊)に誘われ深い深い穴の中へとおちて行く。
途中「アリス」と名乗る分身(渡辺実希)に出会うが、
分身のアリスはハートの女王(佐々木豊)に囚われてしまう。
「ボク」は本当に父親を殺してしまったのか?
そして囚われたもう一人のアリスとは・・・?

「不思議の国のアリス」をベースに、少年の心の奥深く入って行くのだが
印象に残ったのは、裁判で検察官(佐々木豊)と弁護士(渡辺望)が対峙する場面と
盗賊団の首領マザー(加藤晃子)が分身のアリス(渡辺実希)に語る場面。
原作の雰囲気を出そうとすれば多くのキャラクターが登場するのは当然だけれど
周辺エピソードが多くて、2時間弱の途中ちょっと集中力が途切れそうになった。
韻を踏む台詞やハートの女王のキャラは面白かった。

もうひとつ加藤晃子さんの台詞が、例えば落下する時の情景描写や
記憶を辿るところで語尾が聞き取りにくい事があった。
繊細な、静かに語るところだが、主人公の心理に迫る部分だけにちょっと残念。

定番のアリスの衣装を、二人のアリスに対照的に配したところが巧み。
袖やソックスの色など“ふたりでひとり”のイメージがとても上手く出ている。
アリスが「ボク」と言うところも違和感はさほどなく
むしろ加藤晃子さんの髪型は、これまで私が見た中で一番女の子っぽかった。

照明のタイミングが素晴らしく、舞台をドラマチックに盛り上げる。
ダークな感じはやや薄いが、天幕旅団の原点としての要素が満載の作品。

太子堂のサーカス【公演終わりました。ご来場、ご声援ありがとうございました!】

太子堂のサーカス【公演終わりました。ご来場、ご声援ありがとうございました!】

タテヨコ企画

sancha teatretto(東京都)

2014/07/03 (木) ~ 2014/07/13 (日)公演終了

満足度★★★★

河童とサーカス
副題にある「愛をこめて。地の下を流れる河より。」とあるのは
今は暗渠となり、緑道と名を変えているが、かつてはその水面を見せて流れていた
いくつもの川のことを指している。
表に出なくなっても脈々と流れ続ける地下深い流れ、
それをたゆたう人の心に重ねたような繊細な心理と台詞が印象的。
この日、外の雨も芝居の一部になったかのような演出が新鮮だった。

ネタバレBOX

祖父と同居する予定で建てたのに、その祖父が亡くなってしまい
柳沢(久行しのぶ)は広い家にひとりで住んでいる。
烏山川探険隊は、暗渠となった川を探検するというマイナーかつゆるいサークルで
丸谷(舘智子)と寺島(向井原徹)の3人がメンバー。
今日は柳沢の同僚室田(郷本直也)が押しかけメンバーで加わり4人で活動した。
寺島と婚約していて妊娠中の丸谷は、柳沢に「結婚式に出席してほしい」と頼むが
彼女は頑なにそれを拒んでいる。
訪ねて来た妹(大塚あかね)や丸谷達二人にも心を閉ざした柳沢だが
室田の思いがけない言葉に、初めて柳沢の心が動く…。

柳沢の「孤独と、一人でいたいという気持ちは共存できると思う」
という意味の台詞にひどく共感を覚えた。
「結婚式に呼ばれたら喜んで出るものだ」とか
「いつまでひとりでいるつもりなの?」と心配されることとか
彼女は周囲の思惑や価値観に対して表面上だけでも迎合することが出来ない。
無理して合わせるくらいなら敢えて拒絶し、自ら孤立しようとする。

まっすぐで、世の中をうまく泳げずにいるような柳沢に
年下の室田が思いがけない包容力を見せるところがさわやかで嬉しくなる。
いや、もしかしてこれはファンタジーなのか?と思わせる辺りがまた面白い。

強気に出るが、実は心細くてならない柳沢役の久行しのぶさんが上手い。
室田を演じた郷本直也さん、出だしの恐縮して小さくなっている時と
後半の唐突ながら誠意にあふれた言葉とのギャップが良かった。
背も高く、存在感大。

ガラスの引き戸を開けて靴を脱いで上がる劇場をそのまま生かし
一軒家の出入口にして、外の雨をもそのまま取り入れた演出が新鮮。
開放的で素敵な空間だった。
それにしても“大人のサークル活動”、楽しそうでいいなあと思った。
うちの犬はサイコロを振るのをやめた

うちの犬はサイコロを振るのをやめた

ポップンマッシュルームチキン野郎

駅前劇場(東京都)

2014/07/04 (金) ~ 2014/07/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

衝撃のラスト
ポップンのスタイルがさらにはっきりと確立されたような気がする。
明確なテーマを掲げ、リアルで冷徹な描写をしながら
もう一方では毒気たっぷり、許容ラインギリギリのところで笑い飛ばす。
そして権力の影でひたむきに生きる人を愛情こめて描く。
脱いだり見せたり笑わせたり、でもやっぱり泣かせるポップンの舞台。
脚本もいいし演出もいいが、何よりこの発想の素晴らしさ。
犬のメイクがマジ可愛くて、思わず連れて帰りたくなる。
ゴルビーグッズ、あれば買ったのになあ、ぬいぐるみとか。
この劇団を観ると、かぶりものの威力を改めて思い知る。
まったく心温まるヒドイ話だった。
5つ目の★は、吹原氏の素晴らしい発想に捧げる。

ネタバレBOX

例によって客入れの時間帯から舞台上では小芝居が始まっている。
BGMはある種の共通点を持つ歌手の歌だけが流れている。
岡本さんは以前のモモクロパフォーマンスがすごかったのでちょっと寂しく感じた。
「YAH YAH YAH!」は素敵だった♪

“何でもあり”の隣国で、もっと驚くべき人体実験をしていたのは日本軍。
人間に施したその手術では被験者がみな自殺してしまったので
次は犬なら大丈夫だろうとシベリアンハスキーのゴルバチョフが選ばれた。
その結果、未来を視ることができるようになってしまった彼の人生は大きく変わる。
そして出会ったシヅ子や仲間たちとの幸せな日々。
しかし、その手術にはある秘密があった…。

まず着想が素晴らしく、オチの衝撃がハンパない。
犬がしゃべるとか、R18指定とか、見えたとか丸見えとか、
そんなことがどうでもよくなるほど(よくはないか、この日を選んで行ったんだし)
ラスト20分の展開がシリアスで衝撃的だ。
“誰かのために自分を捨てる潔さ”を、今作品では犬が見せてくれる。
加藤慎吾さん演じるゴルバチョフは、衣装もメイクも素晴らしく魅力的だ。
彼のキャラが本当に泣かせるんだなぁ。

シュールな設定にもかかわらず説得力をもって引っ張るのは
振れ幅大きいがきちんと台詞を届ける役者陣である。
躍進目覚ましい増田赤カブトさんは、歌も台詞も安定感が増して来てとても良かった。
サイショモンドダスト★さんのキワモノぶりが素敵、その声と台詞回しにはほれぼれする。
野口オリジナルさん、細い身体を惜しげもなく晒して表情豊かに踊るところが素敵。
荻野崇さん、この人の登場で作品の持つダークな面の格が上がった感じ。
そして横尾下下さん、あまりにリアルな演技が素晴らしく目が釘付けになった。
ポップンはこういう芝居のできる人が集まっている集団なのだ、と改めて実感。

ダンスや歌を多用するのはキャバレーが出て来るからなのかもしれないが
あのくらいの割合で用いるならば、もう少し精度を上げて欲しい気がする。
ダンスのキレ、習熟度にばらつきがあるのはちょっと残念。

アニメーションによるメンバー紹介など、相変わらずセンスが良くて洗練されている。
下ネタサービスやギャグにケラケラ笑っていると、がつんとやられて立ち上がれなくなる。
吹原幸太さんは、すごい本を書く人だ。
この人のバランス感覚について行けるように、私も足腰を鍛えたいと思う。




星の結び目

星の結び目

青☆組

吉祥寺シアター(東京都)

2014/07/04 (金) ~ 2014/07/09 (水)公演終了

満足度★★★★★

氷星
冒頭の10分間で一族の栄枯盛衰を見せてしまう渋谷はるかさんが素晴らしい。
この人の持つ品の良さと、背負っているものを感じさせる深い台詞が
吉田小夏作品との相性も良く、その世界観を余すところなく表現している。
叔母・姪の二代に渡って女中として仕えた梅子を演じた福寿奈央さんが
時代を行きつ戻りつしながら「~ございます」調で語る構成もメリハリがあって良い。
登場人物一人ひとりのドラマが魅力的なのは役者の力量もあると思う。
吉永家を吹き抜ける風のような、あっという間の2時間15分。

ネタバレBOX

吉祥寺シアターの広い舞台は、高さを抑えた階段で屋敷の広がりを創り出している。

冒頭、かつて吉永家の女中だった梅子(福寿奈央)が、戦後開いた和菓子屋を
すっかり落ちぶれて地味ななりをした吉永静子(渋谷はるか)が訪れる。
羽振りの良かった時代の面影もない静子が登場すると
その仕草や言葉から過ぎ去った30年余りが色濃く立ちのぼるようで誠に素晴らしい。
梅子の懐妊を素直に祝う静子自身の、喪ったものの大きさを思うと
物語はまだ始まっていないのに、切なさに涙がこぼれる。

この後梅子が、大正・昭和に渡る吉永家の出来事を生き生きと語り始める…。

事業に成功して一代で財を成した初代吉永甚五郎と、
その“直感と閃きで物事を決断する”気質を受け継いだ次男信雄の二役を演じた
荒井志郎さん、共通項の多い親子ながら微妙な違いを丁寧に見せてとても良かった。

不器用で横柄で、静子の支えなしには店をやって行けない二代目甚五郎役の
多根周作さん、人より遅い成長を遂げる男を温かく演じていて巧い。

先代から吉永家に仕える小池桂吉を演じた藤川修二さん、
勤勉な仕事ぶりや、障がいのある娘に対するまなざしに加えて、
血の通った台詞がいかにもあの時代の奉公人を彷彿とさせて秀逸。

この作品で圧倒的な存在感を示す渋谷はるかさん、
時代の空気をまとった凛とした台詞、丁寧な語尾、隙のない仕草など
作者の世界観を見事に具現化していると思う。
店の番頭、榎本三郎(西村壮悟)が出征する時、何かを言いかけた
一瞬の躊躇と諦めが、彼女の人生で唯一“やり残した”ことだろうか。

劇中唄われる「花嫁人形」と「星の流れに」が効果的。
照明の繊細さと間が、余韻を残して素晴らしい。

かき氷に砂糖をかけるという繊細な食べ物や
亡き人の残した手紙、移ろいゆく季節の花など
儚く消えて行くものたちに対する悲痛なまでの愛着が感じられる。
全てはもう存在しない。
存在しないが忘れることができない。
吉田小夏作品には、“なかった事になどできない”という思いが満ちている。
それを共有したくて、また劇場へ足を運ぶのである。

毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」

毒婦二景「定や、定」「昭和十一年五月十八日の犯罪」

鵺的(ぬえてき)

小劇場 楽園(東京都)

2014/06/12 (木) ~ 2014/06/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

君臨する女王(Bプログラム)
あの安部定事件を、逮捕直後の取調室で検証するという設定。
かみ合わず強張っていた刑事と定のやりとりが、次第に変化していく様が面白い。
“女王のように君臨する定”の周りで、理解不能な事件に男たちはおろおろする。
だが定の心情に触れ、変化をもたらしたのもまた、その男たちであった。
たたみかけるような淀みない台詞のやりとりが素晴らしく、ぐんぐん惹き込まれる。
すっきりと美しいハマカワフミエさんの定が、君臨するに相応しい強い意志を感じさせ、
単なる猟奇事件の犯人を超えたキャラを立ちあがらせる。
谷仲恵輔さんが、人間味と余裕を合わせ持つ刑事を演じていて大変魅力的。

ネタバレBOX

平日のマチネ、客席は立錐の余地も無いほどぎっしり入っている。
楽園のあの柱が、セットなのか劇場の一部なのかわからないような装飾を施されている。
私は楽園で初めて、柱の存在を忘れた。

明転すると、取調室の入口に近い小さな机の上に定が正座している。
刑事たちは奥の大きい机の周りにいる。
署の外には、定を一目見ようと群衆が押し寄せている。
惚れた男の首を絞めて殺し、その性器を切り取って持ち去った女に
「男に対する殺意と憎しみがあったはずだ」と決めつける輿石刑事(平山寛人)、
「まあまあそう言わずに、お定さんも話してくれませんか」
と辛抱強く問いかける浦井刑事(谷仲恵輔)。
そこへ突然内務省の役人(瀬川英次)が「自分も取り調べに混ぜてくれ」とやって来た。
2人の刑事と1人の役人は、定の心情に迫るため事件を再現しようと試みる。
だが所詮定の真意には届かず、取り調べは行き詰ってしまう…。

文字通り君臨する定の強さ、迷いの無さ、理屈を超えた情の深さに圧倒される。
自分の物差しで測れない女を、ただ嫉妬に狂ったか金のもつれかくらいにしか
想像できない男たちの代表が輿石刑事だが
その理解できないもどかしさ、忌々しさがビシビシ伝わって来た。
定の話に「理解出来ないが、邪念が無かったということは解った」という
浦井刑事との対照的なスタンスが鮮やか。

そこへ好奇心丸出しでテンション高く定に接する役人が加わり
事態は俄然面白くなってくる。
定になり切って事件を再現しようとする役人の
稀代の犯罪者を目の前にしてミーハーっぽいテンションの上がり方が可笑しい。
瀬川さんの振り切れ方が素晴らしく、一気に「静」から「動」へ切り替わった。
取調室がワイドショーのスタジオになったようで
“わけがわかんないほど大騒ぎする”大衆の心理を代弁する感じ。

「吉さんとは終わっていません、続くんです」と主張する定に対して
終盤、攻防に疲れた浦井刑事がついに個人的な感情をぶつける。
そこから定の態度が一変するラストまで見ごたえがあった。

劇中BGMも無く、台詞も決まった言い回しが繰り返される。
だがそれが不自然でなくむしろ共感を持って聞けるのは
役者陣の説得力ある台詞と絶妙な間の力である。

すっぱりと切り落としたような終わり方で
むしろここから先を観たくなるような印象さえ受けた。
定の、わずか6年で出所してからの人生がどこか投げやりなまでに自由奔放なのは
捕まるまでの人生に満足して、あとはどうでもよかったからではないかという気がする。
ハマカワフミエさんの安部定は、それほどまでに孤高の女王だった。
パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!

パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!

おぼんろ

ワーサルシアター(東京都)

2014/06/11 (水) ~ 2014/06/22 (日)公演終了

満足度★★★★

5人の呪文
“絶対的な欠落と喪失の世界にあって、譲れない物を探し求め守る”という
おぼんろの価値観がドラマチックに展開する。
話がシンプルな分、登場人物の変化する内面が魅力的で共感を呼ぶ。
役者の力量でここまで魅せることに感動した。

ネタバレBOX

未来の世界には食べられる自然の食物は存在せず、生き物は皆飢えている。
工場で飼育されるニワトリを狙って、飢えた2匹のキツネが忍び込むが
そこで出会ったのは生まれたばかりのヒヨコ、そして
冷徹な工場長と、生き延びるためにメンドリを装う一羽のニワトリだった。
出荷される運命にあるニワトリたちは、今日もコンテナに乗せられて行く…。

衣装をつけた役者5人が案内してくれるいつものおぼんろスタイル。
演劇は日常の延長線上にあって、しかもある時を境に非日常に切り替わる。
その境界線上にある微妙な時間が楽しめるひととき。

ストーリーはシンプルだが、その分登場人物の変化を追うのがメインになる。
情け容赦ない工場長(さひがしジュンペイ)の、奥行きのある表情と台詞が素晴らしい。
冒頭から時間を遡る構成で、彼が単なる悪役でないことは判るが
声にだんだんと疲労感や迷いが滲み出してくるあたりがとても良かったと思う。

生きるためにオンドリである事を隠し、メンドリを装うリンリン(高橋倫平)の
愛情表現が切なくて泣かせる。
“オネエ”な芝居なら世間にあふれているが、作り過ぎない自然な女らしさがあり
笑いを超えた説得力あるラブストーリーになった。

病気の兄弟に栄養のある物を食べさせたいと、
仲間のキツネと一緒に工場へ忍び込むキツネメグメを演じたわかばやしめぐみさん、
途中から業を煮やしてひとりで決行しようと決める時の表情に迫力があった。
追いつめられた者の必死の闘いが、哀しくなるほど迫って来る。
生歌もとても素敵だった♪

もう1匹のキツネトシリモを演じた藤井としもりさん、
いい加減で嘘つきで軽やかなキャラクターを生き生きと演じて素晴らしい。
彼の変化がストーリーを牽引すると言ってもいいだろう。
生まれて初めて自分を信じてくれた相手は、食べてやろうと思っていたヒヨコだった、
というセンチメンタリズムをドラマチックな行動で完結させる。
おぼんろの価値観を体現するキャラクターとして、その変化が鮮やか。
「どうしてうまくいかないことばっかりなんだ!」(たしかそういう意味)
という台詞が忘れられない。

工場で生き伸びたヒヨコ、タックを演じた末原拓馬さん、
無垢で世間知らずで、信じては裏切られる純な役はやはりぴたりとはまる。
ラストはやっぱり泣かせるなあ。

作品全体としては、「ゴベリンドンの沼」の“負の存在”、“人の悪意”等のダークさや
「ビョードロ」のジョウキゲンのような強烈な設定に比べると
みんながいいヤツでややインパクトが弱まった印象か。
その分登場人物の内面に集中出来たのは役者陣の力だと思う。

演出的には少し“走り過ぎ”かな(笑)
ゴベリンドンのような上下の動きを一度観てしまうと
2階部分が一ヶ所だけであとは平面を走るだけ、というのが普通に見えてしまう。
過去公演の記憶と期待値という厄介なものと闘わねばならないわけで
会場や客席の問題も含めて、そのハードルは常に高いままだろうと思う。

久しぶりに5人集結という高揚感が伝わってくるような公演だった。
「パダラマ・ジュグラマ」という呪文の意味、それはそのまま
おぼんろのメンバーが日々胸にいだいている言葉ではないかと思った。


サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】

サラエヴォの黒い手【ご来場ありがとうございました!!】

劇団チョコレートケーキ

駅前劇場(東京都)

2014/06/11 (水) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★★★

テロリストたち
「世界大戦勃発の発端」として、その地名ばかりが記憶に残っていたサラエヴォ。
主義・思想を超えて“不満”で繋がる若者たちのエネルギーが生々しく描かれ
“大人の事情”に利用されていく過程がリアルで迫力があった。
生き残った二人の回想というかたちで現在と過去を行き来する構成が秀逸。
怒涛の事件当時と、老人の振り返りの対比が鮮やか。
こういうテーマに普遍性と現在を重ねる制作側の視点に感動する。

ネタバレBOX

劇場に足を踏み入れると、舞台には既にひとりの老人がいる。
上手側、作業台のような大きい木製のテーブルの上には資料らしきもの、
それを手にとって確かめたり直したり、ゆっくりと落ち着いた動作。
やがて白髪のその人が西尾さんと判った。

サラエヴォ事件の実行犯は「青年ボスニア」のメンバー7人だった。
オーストリア領ボスニアでセルビア民族主義を謳う彼らを結びつけたのは、
貧困と結核、そして自国を変えるために何か行動を起こしたいというエネルギーだった。
軍内部の秘密結社「黒手組」は、彼らの暴走するエネルギーを利用し
オーストリア次期皇帝フランツ・フェルディナントを暗殺しようと企てる。
しかしその「黒手組」をも利用しようとする、さらなる大きな力がうごめき始める。
そして1914年6月28日、ついにサラエヴォ事件が起こる…。

7人のメンバーのうち生き永らえた2人の老人が再会して
人生の最後に“あの事件“を総括する、というストーリー。
思い出を語る現在と、事件当時の再現とが交互に演じられる。
この構成が非常に効果的で巧い。
巻き込まれたような怒涛の出来事が、老人の時を経た冷静な分析によって
時折自嘲気味に笑いを交えながら語られ、二つの時代の対比が鮮やかになる。

年老いた二人、西尾友樹さんと岡本篤さんは、帽子ひとつで若かりし日に飛ぶ。
それが滑らかで無理がなく、複雑な出ハケも気にならない。
岡本さんは昔を語る時、時に話し方が若々しく傾くが
西尾さんは一貫して年寄りの話すテンポ、おっとりした口調が変わらない。
二人の狂言回しとしての切り替えの上手さが構成・演出にぴたりとはまっている。

「黒手組」の幹部、アピス大佐を演じた佐瀬弘幸さん、
こんなに軍服の似合う役者さんも珍しいのではないかと思う。
極端な思想や強い主張を、組織という枷の中で通そうとする人物を演じる時
軍服の内に秘めた人間の弱さや汚れた部分を出すのがとても巧い方だと思う。

同じく「黒手組」のタンコシッチ少佐を演じた浅井伸治さん、
アピス大佐を諌める場面の説得力、最後の潔い軍人ぶりが感動的。

ちょっと舞台が見えにくく、声だけで筋を追っていた前半が残念。
ラスト、「たとえ話」は無くても良かった気がする。
語り続ける西尾さんの声が次第に音楽にかき消されていく終わり方は良かった。
下手のセットが浮び上るところなど、照明の巧さ、センスが素晴らしかった。

チョコレートケーキらしさ全開の“歴史の当事者とその裏側”は確かに独壇場だ。
個人的な好みを言えば、例えば先日の「楽屋」のような
全く別の方向から時代に光を当てた作品も観てみたい気がする。
チョコレートケーキの描く“一方的に翻弄される人生”の
哀しみと図太さもまた、ひどく魅力的にちがいないと思うから。
妻らない極道たち

妻らない極道たち

ホチキス

吉祥寺シアター(東京都)

2014/06/05 (木) ~ 2014/06/10 (火)公演終了

満足度★★★★★

婚活するなら任侠
設定の面白さ、キャラの豊かさ、そして時に泣かせる台詞が素晴らしい。
小玉久仁子さん演じる権藤組の組長が最高!
あのキャラが無理なくはまる設定はそう無いと思うが、
オーバーアクトも男ことばも、その正体も(笑)、全てがドンピシャだ。
ドヤ顔オンパレードの台詞と展開に大いに笑ったが
時折光を放つ真実を突いた台詞に思わず泣きそうになる。
このバランスが秀逸で、第一級の“極道エンターテイメント”になっている。
組長を取り巻く人々が実に魅力的で、セットや衣装も良かった。
初日から完成された舞台に、任侠もののだいご味を堪能した。
組長、結婚相談所って、情報ではなく“心”を探すところなんだね。


ネタバレBOX

上手と下手から緩く弧を描く大階段が二階スペースに繋がっている。
舞台上はスナックのカウンターとソファ、
カウンター上の壁にはなぜか十字架と神棚。
スナックのママあけみ(細野今日子)とパパ(村上誠基)は
やくざに金を借りたことから店を取られそうになる。
それを助けたのは常連客、権藤組の組長(小玉久仁子)とその子分たちだった。
そして権藤組は助成金目当てにここで“結婚相談所”を開くことを思いつくが
真実の愛を熱く語る組長の魅力に相談所は繁盛、カップルが次々誕生する。
ところがそこに結婚詐欺師や、騙された女、敵対する組長の愛人が来てひと騒動。
義理人情を重んじる組長は、ついに禁断の手を使って殴り込みに行く…。

スナックのママとパパが面白い。
美人のママにゲイのパパ、という時折見る設定を超えたなりきりぶりが素晴らしい。
衣装の可愛さ、キメのポーズにオネェ言葉も、あざとくなく笑わせるのは役者の力量。

気持ちのすれ違いから仲間割れする子分たちが
最後は組長の下に集結する任侠路線もいいし、
住む世界を超えた恋の成就も楽しい。
子分(山崎雅志・福井博章・高木俊・加藤敦)達の個性の描き分けもメリハリがある。
そして何と言っても小玉さん演じる組長の魅力的なこと!
誠心誠意人を幸せにしてやろうと熱くなるなんて、それ極道のすることか?
いや、本来極道とは“人の道を極める”ことなのかもしれないけど…(笑)
登録にやって来る人の気持ちを揺さぶり、価値観を覆して人生を変える、
そんな小玉組長がまたいい台詞を言うんだな。
「女の身体が丸っこいのは何故だかわかるか?」って、その答えが泣かせるのだ。
このキャラ、シリーズ化して何度も観たい!

歌のレベルが高いのも非常にポイント高し。
設定の妙とケレン味のあるテイストに、テンポの良さ、ほろりとさせる台詞が乗る。
この絶妙のバランス、第一級のエンターテイメントだと思う。
組長、私もクイックル号に乗せてやっておくんなせぇやし!
キャベティーナ

キャベティーナ

劇団鋼鉄村松

d-倉庫(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

キャベティーナ、ナゲテ-ナ!
客席に置かれたキャベツがよく出来ており、説明を聞いて参加を楽しみに待った。
ストーリーの本筋は見え辛かったが、登場人物の豊かなキャラと
役者陣の力で、むちゃくちゃな行動にも説得力が生まれた。
ムラマツベスさん、村松かずおさんの熱演が光る。
何気にシリアスなキャロラインの人生と、養父ともおのスタンスが印象的。
ボス、前売り1500円に込められた20周年の気概、しかと受けとめました!

ネタバレBOX

全ての客席に、パンフレットとキャベツが置かれている。
(重いの持って帰るのか…)と思ったが、新聞紙を丸めて緑色に塗ったものだった。
良く出来てるし、舞台に向かってこれを投げるという参加型も楽しい。

トコロザーワの人々は年に一度のキャベティーナを楽しみに生きている。
トマトではなくキャベツを投げ合うこの収穫祭では
毎年キャベツの妖精を1人選ぶのだが
30歳になってもキャロライン(後藤のどか)はまだ妖精になれるのか…?

賑やかな収穫祭をめぐる地元の人々と
東京へ出て自分探しの真っただ中にあるまさくに(ムラマツかずお)が
不本意ながら仕事で故郷のトコロザーワへ戻って来たことから起こる騒動。

キャベティーナに燃える町の人々の喧騒をよそに
“キャベツ畑に置き去りにされていた”という出自や
“生まれてから20年近く盲目だった”という
キャロラインの特異な人生が突出してシリアスな設定。
彼女を拾って育てたともお(廣岡篤)のスタンスも含めて
この設定を暗くならずフツーに語っているところが秀逸。

祭りのバカ騒ぎとシリアスな生い立ちという好対照だけでも
結構なアイテムなのに、ちょっと盛り込み過ぎたような印象を受けた。
年表出して説明するより、
盲目→手術→目に見える世界による混乱→グレる→立ち直る
というプロセスは、血のつながりの無い親子の会話で再現してほしかった。
ともおの淡々とした態度がキャロラインを変えたのだろうと思うし
ボスの哲学がいい台詞になるだろうと想像するから。

話の本筋が埋もれてしまった分
ストーリーを牽引するのは魅力的な登場人物のキャラである。
魅力的なキャロラインを演じた後藤のどかさん、ガンバさん役のムラマツベスさん、
まさくに役の村松かずおさん、コーセー役のバブルムラマツさんもいい味出してた。
突飛な行動の裏に“信念”がチラリと見えて“いいヤツじゃないか!”と思わせる。

主力が退団するのは残念だけれど、他にも力のある役者さんがいるのだから
どかんと笑ってマジ考えさせるような、振れ幅の大きい脚本を期待している。
個人的には「けつあごのゴメス」みたいなのが好きです。
ボス、また観に行きますから頑張ってください。

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