ごきげんさマイポレンド
ゴジゲン
駅前劇場(東京都)
2014/11/13 (木) ~ 2014/11/23 (日)公演終了
満足度★★★★★
次も観たい
いやー、面白かったわ。
なんでこんなに笑ったんだろ?
これアドリブなのか?と思わせる台本が巧み。
“変な友達んちで変な人たちの話を聞いて知らない人のことを
一緒に指さして笑った”感じ。
ゴジゲン、次もやるならまた観に行きたい。
ネタバレBOX
駅前劇場で靴を脱いだのは初めてだった。
舞台を囲む客席は、椅子席と桟敷席が混じっている。
舞台上、畳の部屋には収納ボックスみたいな箱が4つほどあるのみ。
裸足の役者さんがぱらぱら集まってしゃべりながらなにげに始まる。
「いやー久しぶり!お前この3年何やってたんだよ~!」
と集まった6人の男たちが、ひとりずつ3年間を語り始めると
全員でその再現ビデオ(?)にかかる。
不倫して裁判になっている男、就職したけど辞めた男、3回芸名を変えた男、
ついに童貞を捨てた男、車で旅に出た男、農業やってた男…。
この再現ビデオが巧い。
再現シーンに切り替わるタイミングや、観客と同じ目線でコメントするところ。
ツッコミどころが一致して観ている私の気持ちを代弁してくれる所が快感。
重い話もきちんと聞いて、でも最後は笑って「ハイ次行こ、次!」。
テンポよく進む超リアルな友だち会話が生理的・心理的に心地よい。
この台詞臭を極力排した台詞が秀逸。
私はアニメやゲームに詳しくないが、合体変身戦闘場面には笑った。
役者さんみんな身体使ってるよな~。
ラスト、「これ台詞だよね」みたいな一連の会話があったが
あれはなくても良かったのではないか、と思った。
取り出して説明しなくても観客はその面白さを十分感じている。
座組みの楽しさが伝わってくるような作品。
松居さん、次もやってください。
あの部屋が燃えろ
MCR
小劇場B1(東京都)
2014/10/29 (水) ~ 2014/11/03 (月)公演終了
満足度★★★★
案外過酷な青春の日々
冒頭の無茶苦茶なやり取りやテンポよく交わされる台詞に笑っているうち
青春のほろ苦い日々というには、あまりにもリアルな痛みにがつんとやられる。
そのリアルを再現するだけでなく少しシュールな香りを漂わせながら
人の力ではどうしようもない運命をクールに描くところがMCRのすごいところ。
役者陣がよくそろっていて隙が無い。
櫻井氏の奥行きのある台詞がくやしいほど泣かせる。
笑いと理屈とどうしようもない哀しみ、このバランスが素晴らしい。
ネタバレBOX
舞台はしょぼいアパート…のはずがひ、広い…。
あたしんちより広いんじゃないかという、“あずましい”畳のワンルームが広がっている。
客席がコの字型に囲むこの部屋の主は澤(澤唯)だが、隣の友人小野(小野ゆたか)や
共通の友達堀(堀靖明)はもちろんのこと、彼女(?)やら下っ端やくざやら
管理人の娘やら、果てはよくわからない人々まで
いろんな人が出入りする、勝手に冷蔵庫をあける、人のベッドで寝る、
壁にドリルで穴をあける、罵詈雑言を交わす。
そんなとき、小野の彼女あすか(後藤飛鳥)ががんを宣告されているという
超シリアスな現実が明らかになる。
彼女の葬儀の日、澤の部屋にはあすかが現れてにこやかに小野とのことを報告する。
組から追われていたやくざが床下から澤の部屋に入ると、
ようやく結婚を決めた澤は部屋を引き払った後だった。
「誰かいないの?!」と叫ぶやくざに、隣室からドリルで穴をあけて小野が応える…。
澤は5分先が視えるのだが、周囲が期待するほどのドラマチックな展開はない。
ただ、時折強い既視感にとらわれて思わず立ち止まる、という感じ。
いつも運が悪くてシナリオが作品化に至らない小野の焦燥感も
その彼女のあすか(後藤飛鳥)ががんになって死んでしまうことも
なすすべもなく見守ることしかできない。
澤を演じる澤唯さんは青白い顔で、手に負えない運命というやつを冷やかに視ている。
5分先が視えたくらいで誰かを救うことなどできないのだという
無力感に苛まれる澤の冷めた視線を上手く伝えている。
2階に住む漫画家トリオの一人が櫻井さんで、例によって他人の心情を鋭く分析、
容赦なくかき回して「嘘つくんじゃねーよ」的な台詞が当たってるだけにイタ可笑しい。
今回もそれを堀靖明さんが上手く受けていて、憎めないキャラがこれまた可笑しい。
堀さんの緊張感の途切れない演技がいつもながら素晴らしく、櫻井さんの台詞が活きる。
無茶苦茶でしょうもない男たちが暴れる中、がつんと泣かせるところが2度あった。
組から追われることになったやくざの本井(本井博之)が澤に別れの挨拶をするところ。
「俺をバカにしないで普通に付き合ってくれてありがとう!」という意味のことを言って
澤に頭を下げる場面。
掛け算の九九を一生懸命おぼえようとする冒頭のシーンと相まって、
根は善良だが落ちこぼれた人の、切ない一面を短いシーンで見せる。
もう1回は、がんで入院する前にあすかがダメ彼氏小野に「どこに行っても応援してる」
と伝えるシーン。
ベタな場面なのに、彼女が「どこに行っても」を繰り返すたび泣けた。
管理人の娘を演じた伊達香苗さん、いいキャラだったなー。
“出会って4秒シリーズ”には笑った。
なりきりぶりが素晴らしかった。
男の“破天荒”レベルが、スケール小さい割に乱暴でちょっと違和感を覚えた。
あすかがあそこまで純粋に小野を応援する気持ちが理解し難くなってしまう。
とはいえ、MCRらしいシリアスとナンセンス、無茶苦茶としんみりのバランスは最高だった。
火宅の後
猫の会
「劇」小劇場(東京都)
2014/10/22 (水) ~ 2014/10/26 (日)公演終了
満足度★★★★★
無頼でなければ面白くない
作家檀一雄をモデルにした“昭和無頼派評伝劇”とのことだが、まさにそれだった。
自分を切り売りするような作品しか書けない作家の苦しみ、
彼を取り巻く編集者や家族の思いと葛藤が鮮やかに描き出される。
時空を超えたかのような謎の男を狂言回しのようにも使った演出も面白い。
斜めに傾いた丸い居間、そこに敷き詰められた白い砂の感触が
観ている私の足裏にさらさらと伝わってくる不思議。
作家役、謎の狂言回し役、太宰治役の3人が強烈な印象を残す。
作品も人生も、“無頼でなければ面白くない”と思わせる説得力が素晴らしい。
ネタバレBOX
舞台中央に作られた居間は円形、手前に向かって傾斜しているのは目の錯覚?
と思ってよく見るとやはり傾斜している。
開演後まもなく、絨毯のように見えた床が
実はさらさらとした砂のようなものらしいことが判る。
歩くと足跡がつき、縁側に見立てた淵から立ち上がればそこから砂がこぼれる。
この不思議な空間で、女と別れて戻ってきた作家、その妻、息子、作家志望の書生、
編集者たちが、ある時は攻防を繰り広げ、ある時は理解し受け入れ合う。
作家の死後、編集者が残された妻に思い出話を聞きに通っている、という設定で始まり
過去に遡って当時を再現、再び現在に戻って冒頭と同じ会話を交わして終わる。
同じ台詞が、最初と最後ではまるで違ったニュアンスに聞こえる…。
“遠くて近い妻”が見てきた作家が浮かび上がる、この構成が効いている。
無頼派の作家篠井五郎を演じる高田裕司さんが素晴らしい。
悪びれもせず放蕩を繰り返しながら平然とまた帰ってくる男、息子には良き父親で、
時には料理をふるまって編集者をも魅了し、人の才能をいち早く見出してはそれを怖れ、
自分の人生を切り売りしながら血の出るような作品を書く男。
すっきりとした立ち振る舞いや豪放磊落な物言いが、
無頼派らしく枯れない中年を感じさせる。
お行儀よく、他人の思惑と空気を読むことに汲々としている
昨今の草食系とは対照的で、非常に魅力的である。
まるで不審者のように登場して、作家や編集者の深層心理を暴き波風を立てる、
謎の“ファン”積木を演じる贈人(ギフト)さんの存在が大変面白い。
「あなたは将来命と引き換えにこの小説を書き上げて
読売文学賞を取るんです!」なんて言い切ったりする。
戯曲を書いた北村耕司さんの分身であろうこの男は、作家の一番の理解者であり
彼の作品を評価する後世の代表者である。
少々強引でシュールなこの展開がリアルな説得力を持つのは、
演じる贈人さんの台詞の素晴らしさだろう。
編集者としての在り方や、作家自身が気づかないスランプの理由を
ズバリ指摘する場面、あの熱のこもった台詞は、
北村さんの檀一雄とその作品に真摯に寄り添った末の声だ。
贈人さんは身のこなしも軽やかにその声を見事に体現している。
作家に自分の作品を見せるため津軽から出てきた青年(後の太宰)
を演じる牧野達哉さん、
登場してすぐ、観客も共演者も聞き取れないような声でしゃべるところが可笑しかった。
女中の久美子(徳元直子)が津軽弁で叱咤するのも可笑しくて、
とても巧いシーンだと思う。
この聞き取れないような声でしゃべる青年が後年自死した後、
作家の元を訪れて語る場面が秀逸。
この時は、出てきた時から“太宰治”以外の何者でもない風貌にまず驚き、
打って変わってクールで明快な語り口に驚いた。
才能を見出した篠井五郎自身が、最も怖れ嫉妬した作家だけあって、
短いシーンながら観る者の心を一発でわしづかみにする。
編集者原役の保倉大朔さんはじめ、周囲を固める役者陣の充実が素晴らしく
作家の我儘に振り回され、私生活を詮索されることに激しく反発しながらも、
その作品によって生活している人々の忸怩たる思いがじわりと伝わってくる。
こんな風にアプローチされた檀一雄という作家の幸せを思わせる舞台だった。
猫の会、次の作品が待ち遠しい。
暴走ジュリエット/迷走クレオパトラ
柿喰う客
あうるすぽっと(東京都)
2014/10/17 (金) ~ 2014/10/26 (日)公演終了
満足度★★★★
アニメ風ロミジュリ
おなじみのストーリーをスピーディーに、14人の女優陣がキメキメポーズも鮮やかに見せる。
見た目の男らしさは一切追わず、髪の長さや身長など女性の可愛らしさを敢えてそのまま、
「マジ」とか言いながら声優風にテンション高くセーラー服のジュリエットが叫べば
“アニメ ロミオとジュリエット”が完成した感じ。
小柄で華奢なロミオが「け、け、けっこん!」なんて言うと、ちょっと前に
女であることを隠して男子校へもぐりこんだ堀北真希ちゃんのドラマを思い出す。
でもそれが、ツッコミどころ満載の事件の愚かしさと若い二人の哀れさを強調するから面白い。
柿の女優3人の力量が突出して素晴らしく、劇団員総出の公演が観たいと思った。
ネタバレBOX
舞台中央に丸いお立ち台。
セーラー服の少女(深谷由梨香)が登場してテニスのラケットを振ると
グッドタイミングで豪快な効果音、これが気持ち良くて
のっけからこのリズムに巻き込まれる。
この少女は、“恋を知らないロミオ”が今夢中になっている相手だが
すぐにロミオはジュリエットと出会い、心はそちらへ飛んでしまう。
後は早送りのようにロミジュリストーリーが展開。
要所々々の演出が面白い。
たとえばジュリエットの死を知ったキャピュレット家の人々が
丸いお立ち台の周りをごろごろ転がっていくシーンや
決めポーズにビシッと当たるライトなど
“柿風様式の美”がおなじみのストーリーにメリハリをつけてくれる。
ジュリエット役の佃井皆美さんは声も体のキレも良くて熱演だと思う。
キャピュレット夫人(七味まゆ味)、乳母(葉丸あすか)、ロレンス神父(深谷由梨香)、
この3人が出てくるとその貫禄と存在感で舞台が落ちつく。
ラスト悲劇の恋人たちが死ぬところでは、やはり原作の持つ台詞の力がものを言う。
軽いノリで来た舞台が究極の選択で終わる、その残念な結果が原作の台詞で際立つ。
そして大事な人を喪って初めて目が覚める人間の愚かさが残る。
中屋敷さんの演出は、悲劇というより“哀しい喜劇”としてのロミジュリのテイストを
上手く伝えている。
若干コンパクトにまとめすぎの印象も受けたが、人気劇団の力を感じた。
“女体シリーズ”って、女優にある種のパワーを要求する。
美しく華奢なだけでは役が細って、“女子高演劇部”になってしまう。
小柄でも“全身ドヤ顔”くらいの力強い表現がなければ、観る側はずいっと入り込めない。
中屋敷さんの、次の作品も観てみたいと思った。
イエドロの落語 其の弐9月 目白 古民家ゆうど公演
イエロー・ドロップス
ゆうど(東京都)
2014/09/06 (土) ~ 2014/09/07 (日)公演終了
満足度★★★★
構成・演出に、あの二人
古典落語を下敷きにトンデモナイ夫婦の顛末を見せる、イエドロの落語第二弾。
コーディネーター林勇輔さんの構成と、映像を上手く使った演出が秀逸。
あの殺風景な空間が江戸の貧乏長屋になり、寂しい峠の道になり、
あの世との境になるために、
番傘に映写される映像や巧みな照明の効果が重要な役割を果たしている。
怠け者でろくに仕事もしない亭主(さひがしジュンペイ)と
女房(わかばやしめぐみ)のやり取りがテンポよくて勢いがあって可笑しい。
9月の「黄金のコメディフェスティバル」で最優秀俳優賞を受賞したわかばやしめぐみさんの
素晴らしいコメディエンヌぶりが印象的。
さひがしさんがここでは主軸となって、その周りをわかばやしさんが自在に回る感じ。
わかばやしさん、特に死神が女房に憑依した場面での切り替えと演じ分けが見事だった。
どこか厳かな死神と下世話な女房の対比が素晴らしく鮮やか。
さひがしさん、ラスト「あ~…」という残念な理由で死んでしまうところが情けなくて可笑しい。
江戸弁の威勢の良さが物語をけん引するあたり、シリーズが板についてきた証拠だと思う。
おぼんろとは全く違ったテイストが共存する両氏のセンスは貴重だ。
それにしてもなんと息の合ったコンビだろう。
台詞といい歌といい、次はどんなことをしてくれるだろうと楽しみになる。
NO MOON,NO SUN
Trigger Line
劇場MOMO(東京都)
2014/10/04 (土) ~ 2014/10/13 (月)公演終了
満足度★★★★
プリンセスの孤独
2年ぶりの新作はダイアナ元皇太子妃の交通事故死をモチーフに、
フィクションとノンフィクションを織り交ぜたという作品。
一つの事件を複数の視点と思惑から照らし出す展開は、スピーディーで緊張感に満ちている。
登場人物がいずれも魅力的で、キャラの立った悪役も素晴らしい。
が、男3人の友情、“プリンセス”の自我、暗躍する保安機関、ホテルマンたち、と
エピソードのバランスが良すぎて、形が整った分印象が薄くなった感あり。
ジョエル役の林田さん、やさぐれても品があって髪の色までうまく役にはまっている。
“最悪な死に方”をする藍原直樹さんのぶれない視線が素晴らしい。
ネタバレBOX
向かい合った客席に挟まれた舞台はほぼ裸舞台に近く、
小さな木製の台が一つだけ置かれている。
物語はあの衝撃的な交通事故の場面から始まる。
離婚して王室を出たプリンセスダナエ(染谷歩)と
エジプトの大富豪の息子ラシード(西岡野人)の恋は、あまりに注目されすぎていた。
自分の居場所を求めていたダナエ、父親から自立したいラシード、
ダナエを妃候補として見出した時から見守ってきたキングストン卿(桝谷裕)は
理解者であるが、彼女の自由を求める気持ちを許すことができず、
それはほとんど偏執的だ。
かつて英国諜報部員として生死を共にした3人の男は今や敵味方に分かれている。
ジョエル(林田一高)、ヒース(藍原直樹)、トラヴィス(経塚よしひろ)は
全く違う立場からこの事件に深くかかわることになる。
そして事件の背景にはダナエ自身の捨て身の計画があり、
またジョエルにもある計画があった…。
舞台となるホテルの経営補佐ルイ・バレ役のヨシケンさんが巧い。
ヤな奴だけど仕事は確かに出来て、正論を吐く。
自分勝手だが他人の自由もまた認める。
単純な善悪を超えた人物像が立体的で、誇張気味の演技が成功していると感じた。
一方ダナエの自由を英国の危機と見てその行動を阻止しようとするキングストン卿と
彼が率いる民間保安機関ペルソナのメンバーヒースは
一貫して“イッちゃってる目つき”が素晴らしい。
こういう目をした人間でなければできないであろう行動に説得力を持たせる目つきだ。
そしてそれがラストの死に方をよりドラマチックに見せる。
ちょっとドラマチックにしようとし過ぎた感があったのは
ダナエとラシードが対角線上に見つめ合う“マイウェイ”のシーン。
あれは役者さんもきついのではないかと思うほど長かった。
また、ダナエの衣装が“日本人のリゾートウェア”みたいな
印象を受けたのは私だけだろうか。
男性陣のいでたちがそれぞれリアルにはまっていたので余計にそう感じてしまった。
事故現場の写真を撮ろうとするパパラッチにジョエルが叫ぶシーンは
“大衆の最後の良心”に訴えるものがあって思わずぐっと来た。
視力を失ったジョエルが死を思いとどまるラストシーンも救いがあってほっとする。
群像劇として完璧なバランスだけに、整い過ぎた物足りなさを感じるのは
贅沢というものだろう。
でもどれか一つのエピソードを突出させることで、
凄みが増した舞台も観てみたい気がする。
たとえば彼女が最期に発したとされる「もう放っておいて」というひとことで
号泣するような、夫を除く世界中から愛された女性の孤独の物語などを。
殿(しんがり)はいつも殿(との)
ポップンマッシュルームチキン野郎
シアター風姿花伝(東京都)
2014/09/18 (木) ~ 2014/09/29 (月)公演終了
満足度★★★★★
最高のタイトル
タイトルからしてもうやられた感じで、早く殿に会いたいと思っていたが
さすが吹原幸太さんの脚本が巧い。
時空を超えた行き来の見せ方や、賑やかなキャラの登場、
それでいて最後はやっぱりほろりとさせるバランスの良さ。
CR岡本物語さんのマジな殿様ぶりが意外にはまってとてもよかった。
立ち回りにも迫力があり、脱がなくてもとっても素敵(笑)
細くてきれいな野口オリジナルさんも今回はずっと服着てた…。
家康を演じたNPO法人さんのたぬき親父ぶりも良かった。
サイショモンドダスト★さんの贅沢な使い方も含めて、
ポップンは役者の魅力を引き出すのが上手いと思う。
そして何と言っても、この“荒唐無稽な設定”とほのかな“夫婦の情愛”を
45分にきっちり収める吹原幸太さん、やっぱりすごいわ。
ネタバレBOX
開演前に客席で(!)メイクを手伝わせていた、ニワトリの着ぐるみの
サイショモンドダスト★さん、台詞の練習までしていたのに本編に出てこないという
この辺からしてもう可笑しい。
期待させて外す、期待させて期待通り…そして期待以上の細やかな情愛。
この構成が巧いので、時空を超えた荒唐無稽な展開もすんなり入ってくる。
登場人物が多いのもポップンの特徴だが、机だのやかんだのというキャラ軍団だから
キャラが混同しない、っていうか混同しようがないので本筋を邪魔することがない。
シリアスな本流からナンセンスや下ネタ(今回は封印?)などの支流が細かく分かれ
45分後には観客を巻き込んで怒涛の勢いで海へと流れ込む→そして感動の夕凪…(涙)
吹原幸太さん30代前半だというが本当は45歳くらいじゃないかと思うほど
このあたりが練れていて素晴らしい。
当然のようでもありますが、優勝おめでとうございます。
次はもっと危なくて、ブラックで、すっぽんぽんな舞台を期待しています!
U&D&O
おぼんろ
シアター風姿花伝(東京都)
2014/09/18 (木) ~ 2014/09/29 (月)公演終了
満足度★★★★
ウドの選択
初コメディ挑戦、しかも二人芝居とあって楽しみにしていたが
実におぼんろらしいファンタジーにダークなスパイスが効いて洒落た作品。
シュールな展開の中に“若者の反発・自立・成長”という普遍的なテーマが
わかりやすく組み込まれていて大変楽しかった。
相変わらず達者なわかばやしめぐみさんが台詞、歌ともに素晴らしい。
期待に応える代わりに自我を通したウドの選択にぐっとくる。
また末原拓馬さんが、本公演で見せるキャラとはまた違ったキャラで、
声も台詞も変化に富み新しい魅力を見せた。
おぼんろ、マジで唄えば?
ネタバレBOX
コメディという括りにはあまりはまらないかもしれない。
強引な展開そのものがコメディと言えばコメディか。
“シュールな中に普遍的な哀しみが光る”いつものおぼんろテイストはそのまま、
それがとても良かったと思う。
ウドの大木、禁断の光を浴びるという素朴な選択の力強さが心に残る。
真っ白なまま食されることよりも、役に立たない大木となって何年もグギャを待つことを
選んだウドの心が切なく、ラストシーンが一層際立つ。
わかばやしめぐみさんの魅力的な台詞と歌声が素晴らし、く最優秀俳優賞も超納得。
末原拓馬さんは客演を重ねるたびに、みるみる幅が広がってきている感じを受けた。
この方の屈託のない素直な笑顔や人懐っこさといった“素の部分”を
忘れさせるような芝居も観てみたいと思った。
親愛なる我が総統【ご来場ありがとうございました!次回は4月!】
劇団チョコレートケーキ
サンモールスタジオ(東京都)
2014/09/12 (金) ~ 2014/09/15 (月)公演終了
満足度★★★★★
私は人間だ…
「熱狂」「あの記憶の記録」とともにナチス関連作品三部作をなすという本作品は、
逮捕の後ポーランド政府に引き渡されたアウシュビッツ強制収容所の初代所長
ルドルフ・フェルナント・へースが絞首刑に処せられるまでの日々を描いている。
へースを演じる浅井伸治さんの台詞が素晴らしい。
淡々としていながら、ただ真面目に“仕事”をして来た平凡な男がそこに居て
この世に悪魔などいない、“悪魔の所業”は全て人によるものであるという
明確なメッセージを全身から発信している。
過ちを繰り返す愚かな人間全てに向けたメッセージである。
緊張感あふれる“間”が素晴らしい。
ネタバレBOX
舞台中央一段高くなったところに四角い机、上手の高い位置に
格子のはまった小さい窓があって光が差し込んでいる。
ここが独房のような部屋である事がわかる。
逮捕されたへースは、ここポーランドで裁判にかけられる予定だが
この1年近く彼に聞き取りを行ってきた2人のうち
シマノフスキ(岡本篤)はもうこの職務にうんざりしている。
早く死刑にしてしまえばいいのだと、憎しみを露わにする彼を
上司であるノヴァク(谷仲恵輔)はたしなめる。
精神科医のバタヴィア(西尾友樹)もまた、へースの裁判を前に
彼の精神状態を確かめるため参加する。
残酷な所業を平然と行って来たへースは悪魔なのか人間なのか、
それは3人だけでなく、へース自身も答えを求めていたことだった…。
激しい怒りと憎しみを露わにするシマノフスキに対して冷静なノヴァク。
先入観なくフラットに接しようとする精神科医バタヴィア。
三者三様のアプローチによって次第にへースの人格が浮び上る構成が秀逸。
それはごく普通の父親であり、職務に忠実な真面目な男であった。
その三者の変化がまた面白い。
冷静に見えたノヴァクが、実は「死んだ者が戻るわけではないし、どうでもいい」という
虚無感にとらわれて日和見的な去就をするのを目の当たりにして
憎しみの塊だったシマノフスキの方が、へースの心に歩み寄って行く。
終盤、精神科医バタヴィアの言葉に突然激高し、その後混乱を極めるへースは
そこに至って初めて“人間として死ぬ”という望みが叶う。
終始淡々と己の職務を語ってきたへースが、死を前にして
爆発するように怖れおののく様には、人の弱さを見せつけながら
鬼気迫るものがあった。
「ハイル ヒトラー」と小さくつぶやく台詞で始まった舞台は
その唯一の拠りどころを否定しようとして
「私は人間だ」というのたうちまわるような現実を受け入れて終わる。
何と過酷な現実だろう。
観客の知りたい事を聞いてくれるバタヴィアの質問が心地よく、
納得しながら進む。
80分というコンパクトな長さも緊張感を保つのに相応しく
無駄のない演出と効果的な照明が素晴らしい。
へース自身が「手記を残したい」というその理由が全てを物語っている。
「お前なんか人間ではない」と罵るシマノフスキに向かって
「私もあなたと同じ人間だ」と言い、人間誰もがこの過ちを犯す可能性がある、
だから後世に伝えたいというのである。
生きている人間には自分たちの過ちを伝える義務がある。
それを忘れた途端、人はまた同じ道を辿るだろう。
そのはるか先頭に、ヒトラーの影が小さく見える。
獏の棲家
異魂
OFF OFFシアター(東京都)
2014/09/09 (火) ~ 2014/09/14 (日)公演終了
満足度★★★★
不気味な咆哮
“家には獏が棲んでいる”という設定が面白く、獏の存在が不気味に効いている。
現実にはあり得ないほどいくつもの“びっくり再会”が重なるという不自然な展開も、
コメディ仕立てにしたことで笑って受け入れられる。
コメディ要素の割合や配分は、もう少し工夫の余地があるような印象を受けた。
隙なく振り切れた演技を見せる中山絵里さんが面白い。
衣装や照明が繊細でとてもよかった。
ネタバレBOX
冒頭、幸せな4人家族の人形劇は、父親がよその女と出て行ってしまうという展開に。
その長女薫(希久地沙和)は、今不動産会社で働いている。
腐れ縁の彼氏に金をせびられながらも別れたくない一心で尽している。
担当する狭小建売住宅はまだ更地だが、それでも内覧が引きも切らない。
ある日内覧に来た客の男は、かつて薫と結婚の約束をしながら
勝手に式場をキャンセルした澄夫(安達俊信)だった…。
獏は、そこに住む人の夢を全て食べつくすと、次はその住人を食べてしまうのだという。
だから人は100%の満足をせず、常に夢を持っていた方がいい…。
そう同僚に語る薫自身は、絵に描いたような同じ過ちを繰り返し
結婚の夢を抱いては打ち砕かれている。
そして彼女が結婚を夢想する度に、どこからか不気味な咆哮が響き渡る。
コントのように無理やりな人間関係と展開が、過ちを繰り返す愚かさを浮き上がらせる。
終盤、薫が語るひとつの事実が、痛ましくも衝撃的だ。
夢とはイコール“望んでも手に入らないもの”であり“他人への勝手な期待”なのだろうか。
喪ったもの、欲しいものを誰かが囁くと簡単に騙される薫は、きっとまた騙されるだろう。
どこかで解っていながら“騙されに行く”姿は、何かコワい気さえする。
隣の奥さんを演じた中山絵里さんが隙のない振り切れた演技で大変面白かった。
中途半端だったら白けただろうが、徹底ぶりが素晴らしい。
衣装の変化で、隣の奥さんの力の入り方や
時間の経過が判る辺り細やかで良かったと思う。
獏の咆哮が響くたびにドラマチックに切り替わる照明も良かった。
HOTEL CALL AT
メガバックスコレクション
南大塚ホール(東京都)
2014/09/06 (土) ~ 2014/09/07 (日)公演終了
満足度★★★★★
いつか行くホテル
第25回池袋演劇祭「優秀賞」受賞による公演ということで代表作を観る機会が得られた。
小さい劇場で舞台いっぱいに作り込むいつものセットも迫力あるが、
こういう大きな空間を100%活かす作品の選択、高低差と奥行きのあるセット、
空間を飾る豪華な衣装、ドラマチックな照明と、まずその舞台作りが素晴らしい。
早い段階でタネ明かしをした後の展開に深みがあり、そこはメガバの真骨頂だが、
一方軽妙な笑いも散りばめられていて、そのバランスが秀逸。
ネタバレBOX
入口で背の高い青い髪の男性に「ようこそ」と迎えられた時から
メガバ・ワールドは始まっていた。
彼の足元には酔っ払いのような男がひとりごろんと横になっている。
客席の後ろの方で「ごめん遊ばせ、ここより後ろの席は全て買い取っておりますの」
という張りのある声が何度か響く。
舞台上では白塗りの男がトランプタワーに挑戦している…。
客席に混じった出演者のキャラが自然に伝わってくる客入れの演出が巧み。
そして青い髪の男が、このホテルの主トライアラスキー伯爵であることが判る。
トライアラスキー伯爵(キリマンジャロ伊藤)と
その右腕フェイズランド(野口広之)が取り仕切るこの「HOTEL CALL AT」に
今夜は8人の団体客が来る。
彼らは皆同じバスに乗り合わせた客たちだったが
やがて驚愕の事実が明らかになると、客たちはパニックに陥り大混乱になる…。
不思議なホテルを舞台に、“生への執着”と“自己の存在意義”が交差する。
自分の存在意義が信じられない者は生への執着が薄くなる。
一人ひとりの人生が浮び上るような展開と台詞が素晴らしく、惹き込まれた。
トライアラスキー伯爵を演じるキリマンジャロ伊藤さんが大変魅力的。
謎めいたホテルの中、ドラマチックな台詞が際立って、物語を牽引する。
白塗りのフェイズランド役の野口広之さんも強烈な印象を残す。
客入れ時から一貫してフェイズランドのキャラを保ち、伯爵との息も絶妙で見事。
金と宝石に執着するウェイン夫人役の大里冬子さん、
声の表情が豊かで、後半の心の変化がくっきりと浮き彫りになった。
高低差のあるホテルのセットが、不思議な雰囲気を醸し出していて素晴らしい。
ドアの向こうの光など、照明に工夫がありとてもドラマチックで良かった。
滝一也さんの本は、いつも“人の心の変化”をとらえて提示してくれる。
辛く苦しい選択を強いられる人の、受け入れて再び歩き出す強さを見せてくれる。
メガバックスが描く過酷な設定は、そのための試練なのだと思う。
創り手の“人生を肯定する”真摯な姿勢にいつも心惹かれる。
シットアウト
tubbing
キッド・アイラック・アート・ホール(東京都)
2014/08/29 (金) ~ 2014/08/31 (日)公演終了
満足度★★★★★
軽いのに深い
極小空間で交わされる台詞がまるで“正確な矢”のように素晴らしい。
目指す相手にきちんと届く、それも無駄なく最短の距離で。
崖っぷちでそれぞれ切羽詰っている3人の会話はテンポ良く弾み、
三者三様の「ないものねだり」が丁寧に浮かび上がる。
脚本・演出、そしてキャスティングの妙を堪能した。
鮮やかな初日の充実ぶり、終演後の拍手がそれを端的に表している。
ネタバレBOX
ひとりの画家が死んで1年、一番弟子だった開人(大沼優記)のアトリエを
画家のマネジメントをしていた彩音(小玉久仁子)が訪れる。
画家の一人息子走(末原拓馬)もやって来て久々の再会をする。
だが実は3人とも、それぞれに追いつめられた状況にいた。
詐欺にあって大切な絵を失いそうな彩音は一発逆転を狙っている。
今や漫画家として順調な走はやはり絵を諦め切れずにいる。
そして開人は画家として致命的な症状に苦しんでいた。
画家が残した最後の絵を巡って、3人の思惑と過去が交差する…。
かつてアトリエでいつも一緒に過ごした3人は
それぞれ自分の才能と格闘しながら生きている。
誰かの才能を信じ、その才能を愛し、そしてどこかで妬んだりする。
人の才能より自分の才能を信じる方が難しいものだ。
だから誰かもう一人、一緒に信じてくれる人が欲しくなる。
その心細さやジレンマと闘い続ける芸術家の孤独が、普遍性を以て迫る。
亡くなった画家の、絵も人間性も全てを愛した彩音の独白に惹き込まれた。
小玉さんの台詞は抜群のタイミングで繰り出すテンポと勢いが魅力だが
中盤、亡き人を想って静かにくり返す「会いたい…」という台詞がひときわ光る。
毒を吐きつつ、大事なところでは素直になる彩音のキャラがはまり役。
大沼優記さん、“画家として決定的な欠落”を抱える男を淡々と演じて上手い。
元カノ彩音とのビミョーな会話も、小玉さんに上手く絡んでとても楽しい。
小玉久仁子が元カノって設定だけでもすごいのに、台詞で負けてないからまたすごい。
血筋も才能もあって、その気がなくても何だか上手くいっちゃうお坊ちゃま走。
彼の中に潜む“否定された故の執着”が首をもたげる様がリアル。
末原拓馬さんの“育ち良さ”と相まって生き生きとしたキャラがとても魅力的。
これはアテ書きだろうか、脚本の米内山陽子さんが生み出したキャラが
役者に素晴らしくハマっている。
小さな空間で3人それぞれの思いにスポットライトを当てる広瀬挌さんの演出も巧い。
軽妙な台詞の応酬で笑わせながら、人の心の深いところを突いて来る。
座組みの相性の良さも気持ちよく、忘れられない作品になった。
安部公房の冒険
アロッタファジャイナ
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2014/08/23 (土) ~ 2014/08/31 (日)公演終了
満足度★★★★
噛んでもすごい
“芸術を媒介とした恋愛関係”は、その言い訳も高尚で芸術的だ(笑)
“共通の志を抱いているのだ”という大義名分を信じればこそ、
3人とも長きにわたって気持ちを保てたのだろうという気がする。
家庭と愛人を行き来する自己中な男を、許し愛する2人の女の“縄張り”が
美しいセットと照明によって浮び上る。
理想と現実を近付けようとシャカリキになる中年男の台詞が質・量共にすごい。
脚本家と俳優の力がストレートに感じられる舞台だった。
ネタバレBOX
安部公房(佐野史郎)は小説家として評価を得ている一方、
大学で演劇ゼミを担当している。
学生結婚した妻(辻しのぶ)は彼の芸術の良き理解者であり、
彼の仕事に欠かせないパートナーでもある。
にもかかわらず、安部公房は次第にゼミの学生あかね(縄田智子)に溺れて行く。
ひとりの男を巡り20年間にわたって対峙する2人の女。
芸術を媒介にした恋愛の顛末を描く…。
佐野史郎さんの台詞は内面からほとばしるようで、芸術家の身勝手な理屈にも
普遍的な男の欲望が感じられてどこか愛おしい。
時折言い間違いや噛んだりするところもあったが
それを吹き飛ばす感情の勢いが伝わってくる。
妻役の辻しのぶさんは笑い声に満足感や優越感をにじませるのが巧み。
言葉以外の方法で豊かな感情を表現するところが素晴らしい。
大ベテランの流石の台詞術に挟まれて、愛人役の縄田さんの台詞は
それがフレッシュな魅力と言えるのかもしれないが
淀みない分若干表面的な印象を受けた。
もっとしたたかな面を見せても良かった気がする。
最初は少し違和感を覚えた狂言回しの道化(内田明)が、
愛人に絡み始めてからは、やはり必要な存在なのだと感じた。
ちょっと濃いソースがないと、有名人ではあるが所詮“三角関係”の話は
普遍的なだけに“想定の範囲内の味”で終わりがち。
その意味でメリハリのある声と台詞がとても良かった。
小説と演劇、妻と愛人、理想と現実の間で、
時に自説をぶち上げ、時に右往左往する安部公房が極めて人間らしく魅力的。
いったいどんな舞台を作ったのだろう、ちょっと気になる。
『穴の中 或は、■の中』ご来場ありがとうございました。
演劇ユニットG.com
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2014/08/13 (水) ~ 2014/08/17 (日)公演終了
満足度★★★★★
穴の外
劇場の機能を100%活かした演出が素晴らしい。
床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、トイレやエレベーター、
劇場入り口のドアに至るまで、劇場の全てが無理なく役者の動きに組み込まれている。
不条理っぽい出だしをいたずらに引っ張らず、巧みに状況を説明すると
そこから普遍的なテーマをびっくりするほどストレートに問いかけてくる。
ピザ屋よ、あなたのそのまっすぐな声が3人の、いや“神”も含めて4人の
価値観を変えたのだ。
ネタバレBOX
受付を済ませて階段を降りるところから、もう既に“危険な世の中”が始まっている。
開演直前、ひょっとこの面をつけた黒子がひとつずつ■い穴のふたを外して行くと
ついに5つの穴が口を開け、スモークが漂ってくる。
ひょっとこの思わせぶりで儀式のような動きに期待が高まる。
開演前に珍しく何人かの客がエレベーターで劇場に降りて来て、案内されていた。
後から思うとエレベーターの存在を何気にアピールする、あれも演出だったか?
暗転ののち、そのエレベーターで宅配ピザ屋(菊池豪)が降りて来る。
声をかけても誰も出てこない、と思うと穴のひとつから白衣の男(志村史人)が顔を出す。
そしてなぜかピザ屋は拳銃のようなもので胸を撃たれ、手錠をかけられて
彼の穴に監禁され、謎の男は嬉々として出て行く。
半狂乱のピザ屋に助けは来ない。
やがて他の2つの穴から“マダム”(佐藤晃子)と“殿様”(吉田朋弘)が出て来る。
どうやらさっきの男は“博士”で、何かの研究をしていたらしい。
やがて博士の研究が“不老不死”の薬の開発であること、
穴の住人が何百年、何千年と生き続けていること、
なぜかこの穴に居る限りそれが可能であることが解って来る。
そしてあとの2つの穴には、それぞれピザ屋の同級生(内山真希)と
“神”と呼ばれるものが住んでいた…。
のっけから設定の面白さに釘付け。
“不老不死”を至上の幸福と信じている人々に対して、
「いつか死ぬと思うから頑張れる、永遠に頑張るなんてきっとできない」と言う
ピザ屋の自己評価や人生目標、ジレンマは平凡だが、同時に極めて普遍的だ。
その切々と吐露するように語る言葉が、リアルで説得力を持っていて素晴らしい。
生きる意味や目的を追い続けるという人間の宿命の切なさ、しんどさに
激共感してしまう。
そう、私たちは皆穴の外で限られた人生を歩んでいるのだ。
登場人物のキャラが思いっきり濃くて強烈なのも良い。
みんな何かに追いつめられていて、その切羽詰り具合が観ていて可笑しいのだが
緊張感の合間に台詞の面白さが効いていてくすりとさせられる。
終盤、全身白タイツの“神”がついに穴から出て来てピザを食べるところでは、
ひと言も台詞がないのにその動きと素晴らしい“間”に大いに笑った。
そしてその直後に見せる“神”の選択…。
観る者に深い問いかけが残るような展開が秀逸。
床に開いた5つの■い穴はもちろんのこと、エレベーターもトイレも出入口も
劇場空間の機能全てが駆使された作品。
照明の変化が謎をいっそう深め、
ばらまかれた不老不死の試作薬は闇に浮び上ってこの上なく美しい。
構想、脚本、演出、役者、全てがバランスよくそろって大変楽しかった。
”殿様”、あの「越天楽」カッコ良くて最高です!
殉職の夢を見る
アフリカン寺越企画
新宿ゴールデン街劇場(東京都)
2014/08/07 (木) ~ 2014/08/10 (日)公演終了
満足度★★★★★
文句なしの○
観劇後、アンケート用紙に“アフリカン寺越の演技”をまた観たいと思えば○、
そうでなければ×をつけて、○が過半数なければ次の舞台は無いものとする、
という崖っぷち企画。
もし×でも、また仕切り直して新たに企画を練り上げるまでだと思うが
ご祝儀アンケートではなく、文句なしの○をつけた。
題材の選び方が巧いのと、脚本の完成度が高いことが理由。
開演後まもなく、この小さな空間の役割と人間関係がすんなり理解出来て
話の展開にずいっと入り込める。
閉鎖的な社会における特異なキャラクターに寄り添うスタンスが優しく
作者の取材の賜物だと思うが、役者陣も難しい設定によく応えて素晴らしい。
例によって“善い人・悪い人・普通の人”の境界線をクールに描く視点が鋭く
この点でも進化していると感じた。
ネタバレBOX
ゴールデン街の極小空間は、病院内にある畳敷きの粗末な警備員室になっている。
ある日警備員(アフリカン寺越)が、患者のひとり蛭田(橋本亜紀)の自殺を
未然に防いだことから、この部屋には蛭田を始め、瓜生(澤原剛生)、鵜飼(森由月)ら
患者が出入りするようになった。
警備員はあの日から子どもの頃の夢だった警察官になることを目指して勉強している。
しかし医師の星川(末廣和也)、看護師(村田明子)は、ある葛藤を抱えて
患者たちに日々に接していた。
次第にここでの仕事に意義を見いだし始めた警備員の心に変化が訪れ、
それが思わぬ事態を引き起こす…。
自殺願望の強い患者が入院する精神病院が舞台である。
患者のひとりを演じる橋本亜紀さんが秀逸。
幻覚に苛まれる姿を人に見せたくないという心理、
先に退院してシャバへ帰って行く仲間に対する微妙な心理が伝わってくる。
“きっと死んでしまう”自分を抑えむ姿が痛々しく切なく、思わず泣けてしまった。
終盤、“子どもの頃から弱い人をいじめてきた”医師と
“子どもの頃助けられなかったから今度こそ警官になって弱い人を助けたい”警備員。
実は“弱い人より優位に立っている自分を確認したい”という点で
大して変わらないのだ、と指摘されて愕然とする。
この境界線上に、社会の多くの人がひしめいているのが現実なのだ。
境界線上にいる大衆のひとりとして暗澹たる思いにとらわれた。
ちょっと唐突な印象を覚えたことがいくつかあって、
コミュニケーションが取れなかった患者鵜飼が退院を前に急に饒舌になったこと。
警備員の心の変化を見て自殺してしまう、蛭田の行動に飛躍が感じられたこと。
彼女の死を医師が解説するというあのまとめ方はちょっと残念。
蛭田の変化は解ったが、その理由を蛭田の言葉や態度で伝えて欲しかった。
院長と話し合った末、驚きの方針を決定した医師と看護師の
使命感と現実の葛藤があまり語られなかったこと。
これらのプロセスがもう少し丁寧に語られたら、より説得力を持っただろうと思う。
澤原剛生さん演じる患者の切羽詰った粗暴さ、
大切なものの守り方を知らないままそれでも守ろうとする素朴さが良かった。
医師役の末廣和也さん、
いつもながら“嫌なヤツだけど実は単なる悪人じゃない”的なキャラが巧い。
そして警備員役のアフリカン寺越さん、
何かが正しいと信じて猪突猛進する男を演らせたら天下一品、
その純粋さゆえに盲目的であり、物の見方が一方的なキャラが見事である。
ラスト、自殺を止められた蛭田が初めて警備員室を訪れた日の
再現シーンが素晴らしかった。
警備員にとっては希望を得た日であり、
蛭田さんにとっては新たな苦痛の始まりの日であった。
人は誰も“照り返し”で救われることがある。
誰かの努力する姿、誰かが変化する姿、その理由の一端を担った者として
その姿を見ていると嬉しくて幸せな気持ちになることがある。
だからそれを一方的に断ち切られると、途方に暮れてしまうのだ。
人は様々なかたちで誰かに頼って生きているのだと、今さらながら感じた舞台だった。
「犯罪者」「宗教」「精神病院」と来た作・演出の鮒田直也&アフリカン寺越のコンビ、
次はどんな切羽詰った男を描くのか、楽しみでならない。
Vol.1『BGS~バックグラウンドストーリー~』
ド・M(マリーシア)野郎の宴
Geki地下Liberty(東京都)
2014/07/31 (木) ~ 2014/08/03 (日)公演終了
満足度★★★
表と裏
舞台本番中の楽屋で、スタッフ、出演者、関係者の思惑が交錯する。
“舞台と楽屋”が人間の“表と裏”を表す如く
もう少し“裏の毒っ気”みたいな部分を見せても良かったと思う。
だが登場する個々のキャラ設定はなかなか魅力的だった。
冒頭の”つかみ”が弱いのが残念。
ネタバレBOX
本番中の楽屋は結構リラックスしている。
出演者の出ハケに加えて、スタッフや脚本家の作品を待つ編集者も出入りする。
立ち上げ当初から一緒の脚本家(大浦力)と役者田端(森山匡史)は
高校時代からの友人同士なのに
いつの頃からか険悪な仲になり、他のメンバーも気をもんでいる。
巷にはトランク爆弾魔が出現し、世間を騒がせている折も折、
楽屋の通路に1つのトランクケースが置かれていた…。
群像劇の底深く沈んでいた秘めた感情が、ある非日常的なきっかけで露わになり、
素直に向き合って確執がほどけて行く…というストーリーは
過去のマリーシアにもあったパターンで、その設定は悪くないと思う。
この劇団の特徴のひとつ、バラエティに富んだキャラの面白さは健在で
例えば淡路島出身の福留(吉田哲也)が
“他のみんなには「最寄駅どこ?」って聞くのに俺には「最寄りの港どこ?」って聞いた”と
ブチ切れるところ、故郷が何より大事な人間にとっての異様なこだわりが可笑しかった。
ただせっかくの面白い台詞が流れやすいところはちょっと残念。
もう少し客に伝わりやすいように“聴かせる”事が必要かと思った。
後半、本番中に全員が楽屋に集まってしまうという緊急事態を引き起こしながら
“ゲイのカミングアウト”を強行する服部(土屋洋樹)も面白かった。
そこに至るまでの微妙な行動が上手い。
ユルい、脱力系の面白さは、スパイスがあってこそ際立つものだが
前半のユルさと後半の激白のコントラストがとても良かったと思う。
夏目漱石の"I love you"のエピソードが効いていて笑った。
細かいコントのような会話の連なりは、会話の一瞬の面白さはあるものの
その場限りに終わりやすくて、ちょっとバラケた印象が否めない。
脱力系にもテンポとメリハリは必要で、そこが少し弱い気がした。
チラシやBGMのセンス、そしてこの劇場が観やすくて好き♪
三三さん、脱力してるくせに忘れられない台詞を放つような作品、期待してますよ!
旅人と門【全公演終了いたしました!ご来場ありがとうございました!」
くちびるの会
ギャラリーLE DECO(東京都)
2014/07/23 (水) ~ 2014/07/27 (日)公演終了
満足度★★★★
船出
声を出すと気持ちいいの会の山本タカさんが新たに立ち上げたくちびるの会は
“社会に対しての強いメッセージを幻想的な台詞回しと虚構性の高い物語に乗せて
描き出す”寓話のような作品が特徴という単独プロデュースユニットだ。
なるほどタイムリーな時代性を感じさせる内容だが、ちょっと解りにくさも感じた。
ネタバレBOX
ルデコ5Fの柱のある空間には何のセットも無い。
5歳の哲は父と母から聞いた壮大な昔話に夢中になるが
ある日その夢を河童に盗まれてしまう。
するといきなり25歳になって親のローンを背負わされ現実に放り出される哲。
そして人間界にやって来た河童プラトンと一緒に便所から河童の世界へと旅立つ。
哲は夢を取り戻すことが出来るのか、哲がのぞいた河童の世界とは…。
ファンタジーかと思うと不条理みたいな、不思議な手触りの作品。
言葉遊びが面白い。
河童は盗んだ夢から理屈を取り出してレンガを作り、それを積み重ねて壁を作る。
理屈に合わない屁理屈の“屁”の部分はエネルギーとして蓄えられる。
つまり河童にとって大切なのは“屁”であり、
これが“屁の河童”の所以かと思えば可笑しくなる。
河童の動作や、柱をうまく使った動きなどキレとスピードがあって面白かった。
言われた通り何の疑問も抱かずに理屈のレンガを積み続ける河童に対し
「二の足を踏め!」と叫ぶ哲とプラトン。
大衆から夢を奪って理屈の壁を作るのは政治家か?Aさんか?
二の足も踏まず、後ろから押し出されるように前進するのは愚かな国民か?
もはや進化しているのか退化しているのか判らなくなっているのは河童ばかりではない。
人間だって近頃劣化しているようにしか見えないじゃないか。
壁は崩れて門が出来、旅人は新たな旅に出る。
硬直した価値観に新しい思想が流れ込み、人は外へと目を向ける。
桜井哲は「自分がソクラテスであること」を思い出して船に乗る。
人は夢を失えば一気に5歳から25歳に老けこむのだ。
新たな拠点からひとりこぎ出した山本タカさん、
何とも明るい、若い船出である。
「廃墟の鯨」
椿組
花園神社(東京都)
2014/07/12 (土) ~ 2014/07/23 (水)公演終了
満足度★★★★
花園の鯨
29年目となる夏の恒例イベントは、桟敷童子の東憲司さん作・演出という
観る前から相性よさげな今年の野外劇。
ダイナミックな創りは、粗さも含めて芝居の原点を見せてくれる。
主人公の内面に迫るシーンがもうひとつ欲しかったけれど
相変わらず“人生意気に感ず”みたいな展開がシンプルに心を揺さぶってくる。
ネタバレBOX
「ここ花園神社は新宿区の避難所に指定されております、
皆様は最初から避難所にいらっしゃるわけです!」という
定番の前説を聞くと、今年も野外劇が始まる前のわくわくした気分になる。
戦後のスラムを舞台に“肉の防波堤”と言われた娼婦たち、
彼女らを束ねGHQと繋がろうと抗争に明け暮れるやくざ、
娼婦もやくざも忌み嫌いながら社会の底辺でもがく人々…。
そこへ満州帰りのひとりの女が現われる。
金とピストルを持ち、冷たい目をして人助けをしようとする謎の女番場渡(ばんばわたり)。
彼女の出現は周囲に波紋を呼び、それは次第に広がって行く。
そして渡の意外な素性が明らかになる…。
徹底的に弱者の視点から時代を見つめる設定、
“桜”や“鯨”が象徴的に使われる演出など
ストーリーの運びは安心して観ていられる。
そこへせっかく超異分子的な番場渡(松本紀保)が投入されながら
彼女の内面がバックグラウンドを語るだけで終わってしまった感じが残念。
先の短い命と知りながら誰かのために闘う孤独な心情を、もっと吐露してほしかった。
受け手となり得る八幡(山本亨)、能嶋(恒松敦巳)、早乙女(鈴木幸二)がいるのだから
強い渡がいっとき崩れて弱さがこぼれ出るような場面があったら、と思った。
今年は“鯨”だけに、上手・下手にひとつずつプールを設け、水を使った演出が新鮮。
冒頭の大勢がうごめくところや、エネルギッシュな群舞の面白さは
振り付けのスズキ拓朗さんのセンスを感じさせて秀逸。
ラストの白鯨の張りぼてがまた、もう少し早く出て来ても良かった気がするが
たっぷり待たせて泳いできた時はやっぱり嬉しかったなあ。
渡役の松本紀保さんはさすがの立ち姿で、寡黙で孤高の人を魅力的に演じる。
親分に可愛がられながらも敵対するやくざに寝返る
日和見的な嵯峨野を演じた粟野史浩さんが素晴らしかった。
昨年鄭義信さんの「秋の蛍」でも、時代を感じさせるいでたちと台詞に魅了されたが
今回も汗臭い群れの中で、ひとり風呂上がりのような清々しい風貌と口跡の鮮やかさが
自信たっぷりにのし上がっていく新しいタイプのやくざをリアルに見せた。
“自分が組に引き入れた新人やくざに刺されて死ぬ”
という最期に説得力を持たせるキャラが見事。
飲んだくれのヘエボウを演じた椎名りおさん、飛び道具的な役ながら
振り切れた演技が素晴らしく、群像劇にメリハリがついた。
当日パンフに外波山文明さんの書かれている通り
“いまだ戦後であり、いつの日か戦前とならないことを祈る日々。
きな臭い政治の世界に怒りを抱きつつこの芝居をお送りする!“
そんな気持ちをいっそう強くさせる力のある作品だった。
パダラマ・ジュグラマ終演いたしました!総動員3672人。ありがとうございました!
おぼんろ
王子MON★STAR(東京都)
2014/07/09 (水) ~ 2014/07/21 (月)公演終了
満足度★★★★★
今こそ呪文を
八幡山ワーサルシアターの後、岡山・島根と回って帰って来た王子公演。
ハコが変わると何かが変わるのか、42公演の40公演目を観に行った。
長丁場にも関わらず疲れを感じさせない声と
緊張感あふれるパフォーマンスが素晴らしい。
そしてわかっているのにやっぱり泣いちゃう。
リンリンの哀しい恋と、メグメが切々と歌う無念さ。
タックと一緒に空を見上げて、タックの知らないトシリモを想って…。
ネタバレBOX
天井の高いドーム型の劇場は、空間が凝縮されて
天井から光が差し込む場面がいっそうドラマチックになる。
工場長(さひがしジュンペイ)が懐中電灯を手に降りて来る場面では
その高さと距離感が十分に活かされていた。
スタートして5公演目を観た時より、人物像が濃くなっている。
それぞれのキャラから紡ぎ出される糸の色が
たっぷり染まって深みを増した感じ、と言ったらいいだろうか。
微妙に振れ幅が大きくなった台詞、
アドリブや客いじりの絶妙な加減のせいかもしれない。
2度目の観劇で改めて感じたことは
藤井としもりさんの声の魅力的なことだ。
艶のある声が良くコントロールされていて
次第に変化していくトシリモの心情が豊かに伝わってくる。
絶望的な世界で生きる者の、“絶望的な希望”とでも言うべき選択を
体現していて素晴らしいと思う。
必要悪の負の部分を一手に担う工場長は
冷徹さが増して、その分苦悩がいっそう濃くなった台詞が味わい深い。
さひがしジュンペイさんのリンリンに向ける慈愛のまなざしや
ベルトコンベヤーから落ちたタックを助けた顛末を語るところ、
絶望の中で工場長自身が救いを求めていることを感じさせる。
今回私はたまたま椅子席に座れたが、2時間半超を体育座りはキツイ。
シアターコクーンを目指すのであれば
どんな劇場でも自分たちのアクティングスペースを構築すること
その上で快適な客席を設営すること、が必須条件になるだろう。
誰かを誘いたい時、座席がネックでためらうのはあまりにもったいない。
末原拓馬さんの描く世界は深く示唆に富み、魅力的だ。
私としてはいつか彼に“純真無垢でない”ダークなキャラなんかも演って欲しい。
5人の創る世界は孤独な私たちを魅了する。
観客動員数4194人を達成できるかどうかわからないが
千秋楽は数字なんか忘れて行こう。
そして今こそ呪文を唱えよう。
「パダラマ・ジュグラマ」と…。
Heavens ~夜と夜と音楽~
天幕旅団
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2014/07/11 (金) ~ 2014/07/14 (月)公演終了
満足度★★★★
ふたりのアリス
笑劇ヤマト魂で2003年に初演、天幕旅団で2009年に再演、そして今回の再々演。
役者ひとりで何役もこなしながら目まぐるしく場面が変わる面白さはあるものの、
同じような場面が何度も繰り返され、話の進展に時間がかかる。
人形を使った演出や緻密な動線、衣装等に工夫があって感心した。
天幕旅団の特徴は10年前からしっかりとあったのだと思う反面
今の天幕の方が登場人物の造形がずっと深いという印象も受けた。
ネタバレBOX
囲み舞台の内側にもう一つ囲みがある二重構造の舞台。
開演前から舞台上には転々と人形が置かれ、舞台下には小道具が準備されている。
役者は演じている時も、舞台下で待機している時も、小道具を準備している時も
いつもながら全て観客の前にその姿をさらすことになる。
「アリス」と呼ばれるのは、スカートをはいているが
「ボク」と自称する少年(加藤晃子)である。
父親殺しの疑いで拘束された彼は、弁護士(渡辺望)にも心を開かない。
そして彼は突然現われた兎(佐々木豊)に誘われ深い深い穴の中へとおちて行く。
途中「アリス」と名乗る分身(渡辺実希)に出会うが、
分身のアリスはハートの女王(佐々木豊)に囚われてしまう。
「ボク」は本当に父親を殺してしまったのか?
そして囚われたもう一人のアリスとは・・・?
「不思議の国のアリス」をベースに、少年の心の奥深く入って行くのだが
印象に残ったのは、裁判で検察官(佐々木豊)と弁護士(渡辺望)が対峙する場面と
盗賊団の首領マザー(加藤晃子)が分身のアリス(渡辺実希)に語る場面。
原作の雰囲気を出そうとすれば多くのキャラクターが登場するのは当然だけれど
周辺エピソードが多くて、2時間弱の途中ちょっと集中力が途切れそうになった。
韻を踏む台詞やハートの女王のキャラは面白かった。
もうひとつ加藤晃子さんの台詞が、例えば落下する時の情景描写や
記憶を辿るところで語尾が聞き取りにくい事があった。
繊細な、静かに語るところだが、主人公の心理に迫る部分だけにちょっと残念。
定番のアリスの衣装を、二人のアリスに対照的に配したところが巧み。
袖やソックスの色など“ふたりでひとり”のイメージがとても上手く出ている。
アリスが「ボク」と言うところも違和感はさほどなく
むしろ加藤晃子さんの髪型は、これまで私が見た中で一番女の子っぽかった。
照明のタイミングが素晴らしく、舞台をドラマチックに盛り上げる。
ダークな感じはやや薄いが、天幕旅団の原点としての要素が満載の作品。