うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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スィートホーム

スィートホーム

トム・プロジェクト

赤坂RED/THEATER(東京都)

2015/02/04 (水) ~ 2015/02/09 (月)公演終了

満足度★★★★

少年
14歳の少年が祖母と両親を殺害するという実際に起こった事件に想を得た作品。
安易な楽観主義に陥らない展開は、暗いかもしれないがその分共感を覚える。
これまでチョコが得意としてきた、“歴史上の大事件から個の感情へフォーカスする”
ダイナミックさは無いが、きわめて個別の、特殊なケースの中に私たちとの共通点を見出す、
繊細な作品になった。
西尾さんの役が、「親愛なるわが総統」と終始ダブってしまったのは私だけか?

ネタバレBOX

上手に事件現場らしい居間、下手に一段上がって
殺風景な机とパイプ椅子のある部屋…。
劇場に入ってすぐ、現在と過去のいきさつが交互に描かれるのだろうと想像した。

両親と祖母を殺害した少年は、少年院を出る日が近づいているが、
後悔しはているものの、奪ったものの大きさに今一つ思い至っていないように見える。
そしてただひとり生き残った祖父に、彼を受け入れる気は毛頭なかった。
少年院で彼を見守り続けた精神科医は、敢えて祖父に少年との面会を強く要請する。
最初は拒んでいた祖父もついに面会を承諾し、小さな部屋で少年と向き合う。
だが最初の面会は「(おじいちゃんも)殺しておけばよかった」
という言葉でさらに亀裂を深くする。
精神科医は、少年の言動を更生のプロセスとして受け容れ、祖父に理解を求める。
祖父は「いったいあの時何があったのか」と初めて当時の少年の立場に思いをはせる。
それは、すれ違う家族の感情を一身に受け止めるという、
14歳の心には過酷な日々だった…。

祖父を演じる高橋長英さんの演技が落ちついていて、舞台に安定感が増す。
揺れに揺れているはずの心中を、時に露わに、時に沈痛な表情で豊かに表現する。
孫に過剰な愛情を注ぎ、嫁と奪い合う祖母を演じた大西多摩恵さんが素晴らしく
ねっとりとまとわりつくような、うっとうしい愛情を見事に声にのせる。
常に自分の理由を最優先する世代ともいえようか、
短絡的な行動に出た少年を演じた辻井彰太さん、
最初、“同級生にけがをさせて反省している”ような顔をしていた彼が
ラスト、墓参に通う彼を待っていた祖父と再会する場面で、
爆発するような苦渋の表情を見せる。
この変化が鮮やかで素晴らしかった。

祖父と少年の間に横たわる深い溝を埋めようと奔走する精神科医を演じる西尾友樹さん、
情熱を持ち、辛抱づよく温かいアプローチを続けるキャラがぴったりなのだが、
どうしても昨年観た劇団チョコレートケーキの「親愛なるわが総統」を思い出してしまう。
戦後収監されたアウシュビッツ強制収容所の初代所長ルドルフ・フェルナント・ヘースの
心の底深く分け入っていく精神科医の役だった。
理想の人間像とはいえ、よく似た人物造形であったこと、
せっかくの味わい深い台詞が少し早口だったことが気になった。

「母と祖母の間で板挟みになる少年の立場に立って考えてみてください」
という精神科医のアドバイスで、家族を顧みなかった祖父が初めて当時の状態を知る…
という展開は、ちょっと中学校の道徳の時間みたいな印象を受けた。

過去と現在を行き来しながら、死者の声も織り込むという構成は
奥行きが出てよかったと思う。
いつものチョコレートケーキのごつごつした手触りが、すこし角が取れた感じだが
この少年がモンスターでもなんでもなく、私たちと多くの共通点を持つ
感情の持ち主であるという温かなまなざしが感じられて、
こういう視点を持つ作者に尊敬の念を覚える。




つくづくな人間

つくづくな人間

マニンゲンプロジェクト

小劇場 楽園(東京都)

2015/01/28 (水) ~ 2015/02/01 (日)公演終了

満足度★★★★

そこにいる理由
デリヘル譲が待機する事務所で繰り広げられる様々な人間模様。
キャラの立った登場人物と、それぞれの事情が面白い。
シリアスな状況中でも、くすりと笑わせる台詞と間にセンスが感じられる。
ただ、もう少し台詞を整理し絞っても良かったのではないか。
いくら言葉を重ねても言い足りないという作者の気持ちはわかるが
饒舌は時に焦点をぼやけさせる。

ネタバレBOX

オルゴールを手にした男が、3年前のことを語り始める。
借金抱えていた彼は、デリヘル譲たちが待機する事務所で
電話応対や送迎の仕事をしていた。
ここで働く女たちもそれぞれに理由があった。
交通事故で幼い子どもを死なせてしまい、その親にお金と花を送り続けている女。
稼いだ金でダメダメミュージシャンの恋人を支える女。
クールで常に周囲とは距離を置き、事務所の社長の愛人でもある女。
何となくデリヘルになったが、客から“チェンジ”される女。
たまたま事務所にラーメンを届けに来た出前持ちは
ひょんなことからこのデリヘル事務所の人々に鋭く問いかける。
「お前はいったい何だ?!」

冒頭3年前を回想する男の一人語りが、ちと長かった。
デリヘル譲たちとその彼氏や、“世間代表”みたいなオヤジなど
キャラのバリエーションが面白い。

「あきらめてる」と言う人に限って激しく執着している。
「どうでもいい」と言う人に限って全然どうでもよくない。
自分をどこかへ追い込む人に限ってもう十分だよと言って欲しいのだ。
彼らのジレンマは極めて普遍的で、その極端な態度にも共感の余地はある。

そんな中で「お前はいったい何だ?!」と問いかけるラーメン屋は
改めて自分の内面に向き合うきっかけを与える存在なのだが
ここでも少し台詞がくどくなってインパクトに欠けるのが残念。
ヤクザな社長が出てきてからの展開や変化などはとても良かったと思う。

「何食べる?」と聞かれると「何でもいい」と答えていた10代のころ。
好きな人が「これを食べたい」と言えば
自分もそれが食べたいような気がして疑いもしなかった。
あの頃「お前はいったい何だ?!」としつこく聞かれることもなかったが
この舞台の後、微かな反響が耳に残っている。




鬼のぬけがら

鬼のぬけがら

ナイスコンプレックス

OFF OFFシアター(東京都)

2015/01/21 (水) ~ 2015/01/26 (月)公演終了

満足度★★★★

救済
人は誰でも鬼になる時がある。
何かひとつ自分のことにとらわれて、他者を顧みなくなる時である。
父と子と、そのまた子へとつながる命の連鎖の中で、
鬼のぬけがらもまた受け継がれていく。
世代の移り変わりと、父が語る「昔ばなし」の重なりが最初わかりづらいが
テーマは骨太、語り口は繊細である。
おぼんろの主催、末原拓馬さんとのコラボレーションが成功している。
この人のファンタジーを地上に降ろして語るセンスが、
上手く生かされて奥行きが出た。

ネタバレBOX

昔、父が幼い成美に聞かせる昔ばなしの中に「鬼のぬけがら」という話があった。
自分の欲のために、鬼のぬけがらを着込んで悪さし放題の与助は、
やがて村から孤立しぬけがらが脱げなくなってしまう、という話だ。
東京でライターをしている成美は、もうすぐ生まれてくる子どものためにも、
大きな仕事をしなければと焦りを感じている。
そんな時、3.1.1.震災の被災地アラハマに住む父が、
がんで余命いくばくもないと聞く。
母と離婚したり、避難所でもめ事を起こして地域から孤立したり、という父を理解できず
会えば対立、以来父とは距離を置いてきた成美だが、
記事のネタになりそうだと、身重の妻に運転させて父に会いに行く。
そこで様々な人に出会い、父の所業にある深い意図があったことを知る…。

震災の記事で一躍名を馳せたがその後低迷している成美の焦りが上手く出ている。
妻にも父にも母にも、思いやりのかけらもなく当り散らすような態度で接する成美は
もうその時点で十分鬼なのだが、
震災直後の混乱の中で“誰もが鬼となった瞬間”に出合いたいと
人の気持ちをえぐるように聞きただす彼は
その先に“ライターとしての手柄”しか視ていない。

あんなに批判して憎んでさえいたのに、その父と同じことをしている自分。
しかも父の行動には深い理由があり、それを誰にも話さずにきた。

童話「泣いた赤おに」は私が4,5歳の頃読んでボロ泣きした物語である。
自己犠牲のもと、誰かの孤立を救うという、子ども心には救いのない話で
「じゃあ、青おにはこれからずっと誤解されたままひとりぽっちなのか」と考えると
解決策の浮かばない子どもの頭には辛くてならなかった。
このモチーフが“鬼がら伝説”とうまく絡んで鬼の苦悩と救済が浮かび上がる。

昔ばなしに出てくる与助のイメージが大きく鮮烈。
ダークなファンタジーの中に人間の欲と浄化を見せる
末原拓馬さんの作品に通ずるものがある。
かつての自分のように鬼と化した息子を、諦めつつ眺める父の寂しい表情が印象的。
鬼も救われる時が来るという結末は、私もほっと安堵の思いで観た。

津波の被害者たちの出ハケが気になったことと、
最後になってまとめを急いだ感じが惜しい気がした。
あそこまで教科書みたいにまとめなくても良かったのではないか。
ちょっと政府の復興支援政策PRみたいになってしまったのが残念。


男は二度死ぬ・その一度目!!~その三~

男は二度死ぬ・その一度目!!~その三~

ライオン・パーマ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2015/01/15 (木) ~ 2015/01/19 (月)公演終了

満足度★★★★

再生
かつて一世を風靡した男たちが、再び熱く立ち上がろうとする再生の物語。
ボクシングの元チャンピオンや役者、歌手など、落ちぶれ感漂う人々のキャラが楽しい。
いつもながらひと工夫ある前説に始まり、会話の間とセンスの良さが
随所にちりばめられていてクスリとさせられる。
男たちの物語を書くライターが完全な狂言回しにもなりきれず少し中途半端だったか。
キャラが明確なのですぐ話に追いつけるが全体の時間の流れが若干判りにくかった印象。
一度死んだ男たちの、それゆえの優しさが温かく、やはりライオンパーマの持ち味にぴったり。
ひよこのエピソードとか、すごく好き。

ネタバレBOX

冒頭の“前座”は良かった(笑)
それがラストにつながるというのも良かった。
前説からもう「あー、ライオンパーマだぁ!」と楽しくなる。

人は一度死んでからの生き方に、その真価が表れる。
それほど強くない人間が、仲間と一緒ならまた戦ってみようかという気持ちになれる。
笑っているうちにいつの間にか登場人物たちを応援しているのは、
個々のキャラに感情移入しやすいからだ。
”突飛な設定なのに共感できるキャラ”のつくり方が上手いと思うし、
そこがライオンパーマの“らしさ”の一つかと思う。

スリム役の石毛セブンさん、いつもながら口跡・滑舌が良く颯爽とした役どころが似合う。
当日パンフの“役名と役者名”の欄に、少し説明がついたら
もっと解りやすくて個別のコメントがしやすい。
例えば、「滝・加藤岳仁・・・ひよこの男」みたいに。
ご一考いただけたら嬉しいです。

フタリニミエタ

フタリニミエタ

Oi-SCALE

駅前劇場(東京都)

2014/12/10 (水) ~ 2014/12/15 (月)公演終了

満足度★★★★

死と暴力の気配
小さな町で一晩に起こった3つのエピソードをオムニバス形式で描きながら
最後はそれらがひとつに繋がっていく。
濃密な死と暴力の気配が観る側にも緊張感を呼ぶ。
ラップや朗読形式などバラエティに富んでいる一方、若干唐突な感じも受けるが
表現に立体感があって3Dな空間はOi-SCALEらしい気がする。
それにしても林灰二さんって“、飄々としてるけど実は怖いおじさん”を演らせたら天下一品だ。
ほかの出演者も“危ない雰囲気”がすごく出ていてビビる心理がリアルに伝わってきた。
映像の使い方がユニークで面白いと思っていたら、ラストですんごい驚かされた。


ネタバレBOX

久しぶりに町へ戻って来た男と、彼を迎える昔の仲間らしい男達の話から始まる。
「久しぶり~」な感じの会話が次第に町を牛耳る一族の報復を恐れる話になる辺りから
不穏な空気が流れ始める緊張感のつなぎ方が上手い。
男が“出所して戻って来た”という事情が分かってから
ますますヤバい雰囲気はエスカレート。
「うわっ」となったところで暗転する演出も嫌いじゃない。
相模の強くて怖くて面白いキャラクターを林灰二さんが魅力的に演じていた。

2つ目のエピソードは、事故で精神に障害を負った弟と
彼を気遣いながら過干渉になったあげく仕事と生活のバランスを崩していく兄の話。
必要と依存の微妙な境界を見誤る二人に、さっき痛めつけられた男、
相模が軽く絡む。

3つ目は自分が棄てた女が、交通事故で死んだと聞かされた男の話。
女はある男のバイクの後ろに乗っていて死んだ、そしてバイクの男は生きている。
相手の男を「ぶっ殺してやる」と息巻くならなぜ女を棄てた、という話だが
理不尽で身勝手な思考回路をねじ伏せるだけの、
やり場のない怒りと哀しみが伝わって来る。
身勝手な河口を演じる森田哲矢さんの途切れない緊張感が素晴らしい。
この河口が自分自身事って死んでいくとき、
最期に見る風景が映し出されるシーンが秀逸。
映像のセンスが良く、しかもウィットに富んでいて大変驚いたし面白かった。

3つのエピソードの底を流れる死と暴力の匂いが、
露骨な描写なしで濃く立ちのぼるところが好きだ。
途中ラップや朗読スタイルが入ったのはちょっと唐突感が否めなかった。
だが常に挑戦的な姿勢は必要だし、ラストシーンのように大成功するものもあるから○。
林灰二さんという強烈な個性が牽引する劇団はやはり目が離せない。


みえない雲

みえない雲

ミナモザ

シアタートラム(東京都)

2014/12/10 (水) ~ 2014/12/16 (火)公演終了

満足度★★★★★

美しい照明に浮かび上がる怒り
原発事故の責任と、健忘症で一過性の国民、そして何より、
起こったことをどんどん忘れていく自分自身にも、
これでよいのかと厳しく問いかける作品。
作者の分身である女性を狂言回しに、ドイツで書かれた
架空の原発事故の物語を再現し現代日本とリンクさせる脚本がうまい。
息をのむほど美しい照明が素晴らしく、時空を自由に行き来する構成が映える。
人形を使った演出は、そのサイズ感と複数人数による台詞により効果絶大。
終盤ストレートすぎるかと思うほどに作者の怒りが前面に出るが
これを言わずにいられない強烈で真摯な思いが、愚直なだけにじかに伝わってくる。
ドイツ人の少女を演じた上白石萌音さん、過酷な現実を受入れ
もがきながら成長していく姿が初々しく力強い。
彼女に厳しく接しながらも、結局は一番応援している叔母を演じた大原研二さん、
意外なキャスティングだが、キャラが立って細やか、最後の泣かせ方は一級品。

ネタバレBOX

作者自身が原作との出会いを語る場面から始まる。
ドイツを舞台に架空の原発事故を描いた本「みえない雲」と出会った作者(陽月華)は
ついにその原作者に会いに行こうと決意する。

「みえない雲」はチェルノブイリ以後にドイツで書かれた架空の原発事故の物語だが
社会の混乱と人々の反応のリアルな描写ゆえに、3.11を経験した私たちには
まるでドキュメンタリーを観るような趣がある。
14歳のヤンナベルタが両親と離ればなれになり、避難の途中で幼い弟を亡くし、
やがて両親の死を受入れ、髪が抜けた頭を隠しながら生きる人生はあまりに過酷だ。
心を寄せていた青年は、社会から受ける理不尽な差別に絶望して自殺しまう。
ヤンナベルタは、後に弟の遺体を埋めた被爆地を再び訪れる。
上白石さんがアカペラで歌う声の美しさが忘れられない。

ラスト、作者自身と社会への怒りがストレートに表現されたが
あの“素の部分”はなくても良かったと思う。
原作には、否応なく日本の現実と重なる十分すぎるほどのリアリティと力がある。
ただ、作者が“これだけは言わずにいられない”という気持ちが
原動力となった作品であることは確かであり
その愚直までにまっすぐな姿勢を敢えて評価したい。
こういう気持ちを失うことこそが、私たちの一番の欠点であるから。





遺失物安置室の男/改

遺失物安置室の男/改

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2014/11/22 (土) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★

2度目はここが違ってた<2度観>
“2度観”を推奨している劇団夢現舎、二度目の観劇である。
「2度来てください」というだけあっていろいろ変えてくるのが夢現舎のすごいところ。
台詞も増えてるし、ラストの演出も違う、美術もヨゴシを加えているらしい。
パリでの公演を視野に入れているというが、このタイプは万国共通ではないか。
そちらはまたどんなふうに変化させるのか、興味津々。
海外公演バージョンも観る機会があったらいいなあ。

ネタバレBOX

男がバイオリンと交わす会話がさらに加えられている。
切々と“安置するより弾いてほしいのだ”と訴えるバイオリン、
それを一生懸命説得して厳かに安置する男。
不思議な言語で交わされるこのやり取りは、黒子によって文字で示される。

崩壊した彼の城と衝撃のラストのあと、天井から降ってくる白い紙片。
「あなたは安置されました」という言葉が書かれた紙が、客席にひらひらと舞ってくる。
そうか、私は持ち主が手放した引き取り手のないモノになったのか。
持ち主は誰だ?
その持ち主は自分で自分を証明することができるのか?

モノを偏執的に愛し、一方的に愛情を注ぐ人は多い。
コレクションという形で所有したがる人もたくさんいる。
だがモノの声に耳を傾けるという謙虚さを持ち合わせている人は少ないだろう。
荒廃した心が引き起こす事件の数々や、環境問題、自然破壊など
謙虚さを失った人間の過ちが次々とカードで文字になって提示されると
改めて日頃自分がないがしろにしていることに思い至る。

これは私個人の問題かもしれないが、無言のやり取りが続く間、
時々集中力が途切れそうになってしまう。
後半、バイオリンの音や娘の「お父さん、思い出して!」と叫ぶ声が入ると
やはり空気がピリッとする。

忽滑谷氏の謎に迫るエピソードも知りたくなる。
キーワードが抽象的・観念的なので、彼の存在に現実世界との接点が見えたら
ラスト、あの選択の衝撃がより身近に感じられるかなと思った。

しかし同時に、この観念的な世界を舞台に上げてかたちを与えようとする、
この劇団の取り組みにはいつも感心させられるし、独自の世界は素晴らしい。
赤い照明に照らし出された安置室で、男が見せる恍惚の表情が
まぶたに焼き付いている。


牛山ホテル〜ご来場誠にありがとうございました!〜

牛山ホテル〜ご来場誠にありがとうございました!〜

劇団東京乾電池

アトリエ乾電池(東京都)

2014/11/27 (木) ~ 2014/12/04 (木)公演終了

満足度★★★★

長崎弁
昭和の初めに書かれた戯曲だが、その新しさに驚く。
敢えてドラマチックな出来事が起こらない結末がとてもリアル。
全編長崎弁で語られ、異国の地で肩寄せ合って暮らす
日本人の閉鎖的な社会とそこで交差する人間関係がせつなく描かれる。
方言の力を感じさせる戯曲が面白い。

ネタバレBOX

仏領インドシナで牛山よねが経営するホテルには
この地で暮らす日本人や“からゆきさん”が日常的に出入りする。
真壁はフランス人の妻と別居中で、さとは彼の妾だが
年季が明けたさとを日本へ帰すか、このままとどまらせるかどうかで
揺れている真壁に対し、さとは潔くひどい父親のいる日本へ帰る決心をする。
身体の不自由な写真師の岡部はさとに思いを告げ、せめて写真を撮らせてほしいと頼む。
船が出る日、真壁は寝過ごしてさとの船を見送ることもできずまた部屋へ戻って行く。

もしこの話が標準語で書かれていたらと想像すると
インパクトのない退屈な風景しか浮かばない。
地域性、閉鎖性を表す意味でやはり長崎弁の力は大きいと思う。

しかし冒頭、強い訛りはともかく、その発声の強さでちょっとびっくりした。
細かいニュアンスよりも、日本の外で肩に力を入れて生きる日本人の気負い
みたいなものを表現するためだろうか。
力んで棒読みになってしまった感じが残念な気がした。

さとは、はっきりと引き留めてくれない男をあきらめて日本へ帰るが
別居中のフランス人妻は彼の曖昧さを許さない。
拳銃で彼にけがを負わせるという行動に出る。
このあとこの夫婦はどうなるのか、そのあたりも放りっぱなしだ。

さとをどうしたいのか、迷い続ける自分を解説する
真壁の理屈を聞いていると、これって不条理劇の入り口か?とも思えてくる。
ハッピーエンドみたいな芝居の“作り事感”を排して、
“リアルな人間の理屈”を描くと不条理になるという
不思議な現象が面白く新鮮だった。









『さらば! 原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』

『さらば! 原子力ロボむつ ~愛・戦士編~』

渡辺源四郎商店

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2014/11/28 (金) ~ 2014/11/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

何度でも観たい
2012年に一度観ているのにも関わらずこの衝撃は何だろう。
世の中全体があの記憶を薄れるに任せている現状にあって
ますます明快な問題提起を突き付け、しかもその手法はあまりに鮮やか。
効果音や歌、そしてロボむつの声を担当する高校生たちが素晴らしい。
さんざん笑ってあのラスト、孤高の戦士はあまりにも孤独だ。
そしてTOKIOもNIPPONもただただ情けない。

ネタバレBOX

青森県の人口が減る一方の町で、新しく町長になったエイスケは
核廃棄物の受け入れを決定、10万年かかるというその無害化を見届けるため
自らコールドスリープに入る。
しかし科学の発達を信じてエイスケが何度コールドスリープを繰り返しても
“やばっちもの”(核廃棄物)は相変わらず危険なまま、それどころか
施した処理のせいで毒性が増していることが判る。
“やばっちもの”を無害化した“アズマシウム”を造り出すはずのロボむつは
今や壊れたまま放置され危険物質を垂れ流すだけの巨大な塊となっている。
やがて人類が死に絶え、ロボットの寿命が尽き、ロボむつとも交信が絶える。
コールドスリープを繰り返すたびに細胞が生まれ変わったエイスケだけが
ひとり取り残される…。

必要なものは何でも地方に作らせる東京と
それを受け入れなければやっていけない地方との対比が見事。
冒頭、強烈な(英語よりわからない)津軽弁がその落差を端的に表していて
作品のベースにある“東京=国に対する屈折した怒り”が
ストレートに伝わってくる。

最初は受け入れを渋ったものの、いざ核廃棄物を受け入れてみれば
莫大な収入をもたらし、やがて世界中から廃棄物を受け入れることを決定、
ついに青森県は独立国家となる、という荒唐無稽な展開が説得力をもつのは
日本に脈々と流れる“お決まりの思考回路”を浮かび上がらせているから。
しかし同時にりんごもイカも今や誰も食べたことがない、
過去の記憶となってしまうという
手にしたものと失ったものとの提示が巧みで、
この辺りは笑いながらだんだん苦味が増してくる。

脚本の巧みさに加えて、アンサンブルの高校生たちが繰り出す
効果音の素晴らしさ。
特に、ロボむつの声を大勢で唱和する演出は、
不気味でありながら哀しみがにじんで秀逸。
“サツキ”と“ミナヅキ”の2人のロボットが、完璧なハモリで
同じ台詞を言うのも感動的だ。

「中央と地方」、「得るものと失うもの」、「責任と無責任」、それらを
シンプルかつ明確に対比させる解りやすい構造なのに、深く考えさせ、
あんなに笑って観ていたのに暗澹として終わる…。
社会的メッセージ性とエンタメ精神が
これほどバランス良く配されている作品を私はほかに知らない。

セットもなく、衣装もジャージの上にマントを引っかけただけの王様だったりするが
そんなことは舞台表現に何ら関係ないことを教えてくれる。
いつもながら安定した演技を見せる大人たちはもちろんのこと、
まだ10代の高校生が「カッコ良く見せよう」とか「褒められたい」ではなく
作家の意図に共感して「伝えたい」という思いで演じていること、
しかもその思いがけた外れに強いのだということに気づく。
だから、彼らが全身全霊で鉄腕アトムの歌を歌っているだけで
感動の行き場を失った私はもう涙が止まらなくなるのだ。

遺失物安置室の男/改

遺失物安置室の男/改

劇団夢現舎

新高円寺アトラクターズ・スタヂオ(東京都)

2014/11/22 (土) ~ 2014/12/07 (日)公演終了

満足度★★★★

忽滑谷(ぬかりや)さんっ!<1度観>
様々な遺失物を預かる場所は、“据え置いて祀る”という意味の安置室となっている。
そこを管理するのは記憶を失くした、物と会話する男…。
“人よりモノを優先する”という価値観が面白く、普通の人々とのずれが可笑しい。
益田さん、声を封印するとはまた何という縛りだろう。
声なき声を聴きたかった…と思わせるラストが秀逸。

ネタバレBOX

遺失物安置室の男は変わり者だ、引き取りに行っても返してくれない…。
物と会話する男は、物の感情を理解し、ひいては持ち主の感情をも見通している…。
そんな噂の男は、確かに人よりモノを優先し、モノたちが寝ている日中は
探し物に来た人々が声を発することも許さない。
ある日彼を「お父さん」と呼ぶ少女が訪れ、男は混乱する。
やがてこの部屋が役所の通達により取り壊されることになる。
モノたちの行く末、そして男の行く末は…。

声を出さずに交わされるやり取りが、台詞が聴こえるようでやたら可笑しい。
益田喜晴さんの全身を使った豊かな表現力が素晴らしい。
イラつく高橋正樹さんの台詞も変化に富んで面白い。
不気味な安置室の照明、上から吊るされたメッセージの数々、
黒子が示す音のない台詞など、
演出に様々な工夫がされており、台詞以外の舞台表現に関心した。

自分の記憶を失うのと引き換えに、彼はモノと会話する力を得たのだろうか。
人を拒否した結果、モノに心を寄せるようになったのかもしれない。
モノを通して、人の身勝手さを痛感していたのかもしれない。
モノは自然へ、環境へ、地球へと広がる入り口の象徴となっている。
ラスト、遺失物安置室の崩壊は私たちの行く末を暗示しているようで慄然とする。

それにしてもあの終わり方、思わず彼に問いかけたくなった。
「忽滑谷さん、あなたの人生にいったい何があったのか」と。




メイン・ストリート・ボーイズ

メイン・ストリート・ボーイズ

劇団マリーシア兄弟

Geki地下Liberty(東京都)

2014/11/21 (金) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★

微妙な金持ち
下北沢のGeki地下Libertyで劇団マリーシア兄弟の「メイン・ストリート・ボーイズ」を観る。
シャッター商店街に悩む町の青年たちが町おこしを企画するという物語。
マリーシアらしさが出てきた半面、パターン化してきた感もあって
容易に次が読める展開がもったいない。
時々台詞が流れて聞き取りにくいところがあったのが残念。
金髪のロックンローラーや無口な男などはっきりしたキャラは面白かった。

ネタバレBOX

人口の流出を食い止められない町で、商店街青年部のメンバーが
町おこしと夏祭りの企画会議を始める。
高校時代からの因縁ある2人の主要メンバーのほか、
女房に逃げられた男や、女房に経営する旅館を売られそうになる男、
「ロックは生き方だ!」と吠える金髪青年、気弱な文房具屋、
何度描いてもゆるキャラの絵が下手な男、新しい幹事、
太った不動産屋(すいません)などが
出たり入ったりしながら会議が進む。
やがてこの町の将来を左右するような情報がもたらされる…。

様々な事情を抱えた男たちが集まって一つの目標に向かう、というのは良いが
彼らも認めているように、“そこそこ金はある”若い商店主が町の将来を心配しても
切羽詰まった感がなくて必然性が薄いのがまず弱い気がした。
追いつめられた男たちがあれこれ企画を出すからこそ、
対立や秘密の暴露、過去の因縁、勝ち組負け組、表に出さない友情などが
ボロボロこぼれ落ちて面白くなる。

展開はユルくても、ギャグ満載でもよい、町おこしが失敗したら後が無いという
男たちの背景は欲しかったなと思う。
なまじ苦労話にしないところはリアルな若者らしいけれど、盛り上がりに欠ける。

キャラのバリエーションは面白かったと思う。
ロックンローラーだけど雇い主には弱い男(佐々木祐磨)とか
その雇い主であり、クリーニング店を営む極端に無口な男(森山匡史)とか
いつもとは違ったキャラを楽しそうに演じているのが良かった。

マリーシア兄弟が男同士の絆のかたちを描くとき、
その表現のセンスが私は好きなのだが
それを際立たせる展開にもう一工夫欲しいところ。
そうすれば台詞も絞られてくると思う。

“常に一発で仕留める男”を演じた大浦さん、その場面を見せて欲しかった。
腕、細そうだけど…(笑)

捨て犬の報酬 終演しました!どうもありがとうございます!

捨て犬の報酬 終演しました!どうもありがとうございます!

おぼりん

pit北/区域(東京都)

2014/11/16 (日) ~ 2014/11/16 (日)公演終了

満足度★★★★

信じる者は愚かなのか
おぼんろの高橋倫平さんが演じるひとり芝居、私には2度目のこの作品は
改めて面白い脚本だなあと思う。
“一番キレキレの17:00”を観たのだが、身体能力の高さが活きた
緊張感あふれる舞台だった。
ただこのひとり芝居を定期的に続けるならば(続けてほしいので)
前説や1時間足らずという上演時間などに、今後工夫が必要かとも感じた。

ネタバレBOX

バーミンガム闘犬場で勝ち残った老犬に対し
数多くの飼い犬を殺してきたことや、その残虐性、そして彼が
“吠えることができない”こと等を理由に、主催者側は優勝を認めようとしない。
老犬はかつて宝石泥棒の男に拾われ、相棒として共に仕事をしてきた過去を語り始める。
やがて彼の前にいるこの闘犬場のオーナーこそが、その宝石泥棒であったことが判る…。

ジャンプしてタイトルが書かれた垂れ幕が落ちる瞬間が良い。
ダイナミックな題字をもう少しよく見たいと思うのだが
あっという間にしまわれて残念なほど。
あのくらいがかっこいいのかもしれないが、もう少し
あの大きなうねりを感じていたいなあ。

犬の耳がついた帽子をとって、宝石泥棒の男になるところが自然でよかった。
相変わらず身体能力の高さを感じさせるキレの良い動きが魅力的だが
作品全体がシャープになった印象を受けたのは
メリハリのついた演出の効果だと思う。
ラストの遠吠えがマジで泣かせる。
26年間の恨み哀しみ孤独のすべてを解放するような、赦し救われる瞬間が素晴らしい。

この作品には、“闘犬場へのいざない”あるいは“闘犬場へようこそ”
みたいな硬派な前説が似合うと思う。
恭しく礼をする案内人、そこからもう私たちは競技場の観客になる…
みたいな入り方。

もうひとつは時間的なことで、あの時間と価格ならばもう1本観たいところ。
たとえば「宝石泥棒の男」から見た捨て犬の話、
男はどうしてあの夜約束の場所に来なかったのか、
闘犬場のオーナーになったいきさつなどを語る「もうひとつの物語」と
セットにするとか。

エンディングの微妙な演出で何通りもの解釈が可能なこの作品は
それだけでも再演の魅力があると思う。
“毒殺バージョン”や“銃殺バージョン”、あるいは“涙の再会バージョン”や
“謝罪バージョン”あるいは”謝罪拒否バージョン”など
観客からすれば泣ける展開がいくつもありそうで興味がわく。
って単なるファンの我儘か…(笑)

ひとり芝居って役者の力はもちろんだが、作品の力がもろに出る。
「信じる者は愚かなのか」人よりずっと純な犬が問いかけるこの物語は、
長く語り継がれる作品だと思う。








ごきげんさマイポレンド

ごきげんさマイポレンド

ゴジゲン

駅前劇場(東京都)

2014/11/13 (木) ~ 2014/11/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

次も観たい
いやー、面白かったわ。
なんでこんなに笑ったんだろ?
これアドリブなのか?と思わせる台本が巧み。
“変な友達んちで変な人たちの話を聞いて知らない人のことを
一緒に指さして笑った”感じ。
ゴジゲン、次もやるならまた観に行きたい。



ネタバレBOX

駅前劇場で靴を脱いだのは初めてだった。
舞台を囲む客席は、椅子席と桟敷席が混じっている。
舞台上、畳の部屋には収納ボックスみたいな箱が4つほどあるのみ。
裸足の役者さんがぱらぱら集まってしゃべりながらなにげに始まる。

「いやー久しぶり!お前この3年何やってたんだよ~!」
と集まった6人の男たちが、ひとりずつ3年間を語り始めると
全員でその再現ビデオ(?)にかかる。
不倫して裁判になっている男、就職したけど辞めた男、3回芸名を変えた男、
ついに童貞を捨てた男、車で旅に出た男、農業やってた男…。

この再現ビデオが巧い。
再現シーンに切り替わるタイミングや、観客と同じ目線でコメントするところ。
ツッコミどころが一致して観ている私の気持ちを代弁してくれる所が快感。
重い話もきちんと聞いて、でも最後は笑って「ハイ次行こ、次!」。
テンポよく進む超リアルな友だち会話が生理的・心理的に心地よい。
この台詞臭を極力排した台詞が秀逸。

私はアニメやゲームに詳しくないが、合体変身戦闘場面には笑った。
役者さんみんな身体使ってるよな~。

ラスト、「これ台詞だよね」みたいな一連の会話があったが
あれはなくても良かったのではないか、と思った。
取り出して説明しなくても観客はその面白さを十分感じている。
座組みの楽しさが伝わってくるような作品。
松居さん、次もやってください。
あの部屋が燃えろ

あの部屋が燃えろ

MCR

小劇場B1(東京都)

2014/10/29 (水) ~ 2014/11/03 (月)公演終了

満足度★★★★

案外過酷な青春の日々
冒頭の無茶苦茶なやり取りやテンポよく交わされる台詞に笑っているうち
青春のほろ苦い日々というには、あまりにもリアルな痛みにがつんとやられる。
そのリアルを再現するだけでなく少しシュールな香りを漂わせながら
人の力ではどうしようもない運命をクールに描くところがMCRのすごいところ。
役者陣がよくそろっていて隙が無い。
櫻井氏の奥行きのある台詞がくやしいほど泣かせる。
笑いと理屈とどうしようもない哀しみ、このバランスが素晴らしい。




ネタバレBOX

舞台はしょぼいアパート…のはずがひ、広い…。
あたしんちより広いんじゃないかという、“あずましい”畳のワンルームが広がっている。
客席がコの字型に囲むこの部屋の主は澤(澤唯)だが、隣の友人小野(小野ゆたか)や
共通の友達堀(堀靖明)はもちろんのこと、彼女(?)やら下っ端やくざやら
管理人の娘やら、果てはよくわからない人々まで
いろんな人が出入りする、勝手に冷蔵庫をあける、人のベッドで寝る、
壁にドリルで穴をあける、罵詈雑言を交わす。
そんなとき、小野の彼女あすか(後藤飛鳥)ががんを宣告されているという
超シリアスな現実が明らかになる。
彼女の葬儀の日、澤の部屋にはあすかが現れてにこやかに小野とのことを報告する。
組から追われていたやくざが床下から澤の部屋に入ると、
ようやく結婚を決めた澤は部屋を引き払った後だった。
「誰かいないの?!」と叫ぶやくざに、隣室からドリルで穴をあけて小野が応える…。

澤は5分先が視えるのだが、周囲が期待するほどのドラマチックな展開はない。
ただ、時折強い既視感にとらわれて思わず立ち止まる、という感じ。
いつも運が悪くてシナリオが作品化に至らない小野の焦燥感も
その彼女のあすか(後藤飛鳥)ががんになって死んでしまうことも
なすすべもなく見守ることしかできない。
澤を演じる澤唯さんは青白い顔で、手に負えない運命というやつを冷やかに視ている。
5分先が視えたくらいで誰かを救うことなどできないのだという
無力感に苛まれる澤の冷めた視線を上手く伝えている。

2階に住む漫画家トリオの一人が櫻井さんで、例によって他人の心情を鋭く分析、
容赦なくかき回して「嘘つくんじゃねーよ」的な台詞が当たってるだけにイタ可笑しい。
今回もそれを堀靖明さんが上手く受けていて、憎めないキャラがこれまた可笑しい。
堀さんの緊張感の途切れない演技がいつもながら素晴らしく、櫻井さんの台詞が活きる。

無茶苦茶でしょうもない男たちが暴れる中、がつんと泣かせるところが2度あった。
組から追われることになったやくざの本井(本井博之)が澤に別れの挨拶をするところ。
「俺をバカにしないで普通に付き合ってくれてありがとう!」という意味のことを言って
澤に頭を下げる場面。
掛け算の九九を一生懸命おぼえようとする冒頭のシーンと相まって、
根は善良だが落ちこぼれた人の、切ない一面を短いシーンで見せる。

もう1回は、がんで入院する前にあすかがダメ彼氏小野に「どこに行っても応援してる」
と伝えるシーン。
ベタな場面なのに、彼女が「どこに行っても」を繰り返すたび泣けた。

管理人の娘を演じた伊達香苗さん、いいキャラだったなー。
“出会って4秒シリーズ”には笑った。
なりきりぶりが素晴らしかった。

男の“破天荒”レベルが、スケール小さい割に乱暴でちょっと違和感を覚えた。
あすかがあそこまで純粋に小野を応援する気持ちが理解し難くなってしまう。
とはいえ、MCRらしいシリアスとナンセンス、無茶苦茶としんみりのバランスは最高だった。










火宅の後

火宅の後

猫の会

「劇」小劇場(東京都)

2014/10/22 (水) ~ 2014/10/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

無頼でなければ面白くない
作家檀一雄をモデルにした“昭和無頼派評伝劇”とのことだが、まさにそれだった。
自分を切り売りするような作品しか書けない作家の苦しみ、
彼を取り巻く編集者や家族の思いと葛藤が鮮やかに描き出される。
時空を超えたかのような謎の男を狂言回しのようにも使った演出も面白い。
斜めに傾いた丸い居間、そこに敷き詰められた白い砂の感触が
観ている私の足裏にさらさらと伝わってくる不思議。
作家役、謎の狂言回し役、太宰治役の3人が強烈な印象を残す。
作品も人生も、“無頼でなければ面白くない”と思わせる説得力が素晴らしい。

ネタバレBOX

舞台中央に作られた居間は円形、手前に向かって傾斜しているのは目の錯覚?
と思ってよく見るとやはり傾斜している。
開演後まもなく、絨毯のように見えた床が
実はさらさらとした砂のようなものらしいことが判る。
歩くと足跡がつき、縁側に見立てた淵から立ち上がればそこから砂がこぼれる。
この不思議な空間で、女と別れて戻ってきた作家、その妻、息子、作家志望の書生、
編集者たちが、ある時は攻防を繰り広げ、ある時は理解し受け入れ合う。

作家の死後、編集者が残された妻に思い出話を聞きに通っている、という設定で始まり
過去に遡って当時を再現、再び現在に戻って冒頭と同じ会話を交わして終わる。
同じ台詞が、最初と最後ではまるで違ったニュアンスに聞こえる…。
“遠くて近い妻”が見てきた作家が浮かび上がる、この構成が効いている。

無頼派の作家篠井五郎を演じる高田裕司さんが素晴らしい。
悪びれもせず放蕩を繰り返しながら平然とまた帰ってくる男、息子には良き父親で、
時には料理をふるまって編集者をも魅了し、人の才能をいち早く見出してはそれを怖れ、
自分の人生を切り売りしながら血の出るような作品を書く男。
すっきりとした立ち振る舞いや豪放磊落な物言いが、
無頼派らしく枯れない中年を感じさせる。
お行儀よく、他人の思惑と空気を読むことに汲々としている
昨今の草食系とは対照的で、非常に魅力的である。

まるで不審者のように登場して、作家や編集者の深層心理を暴き波風を立てる、
謎の“ファン”積木を演じる贈人(ギフト)さんの存在が大変面白い。
「あなたは将来命と引き換えにこの小説を書き上げて
読売文学賞を取るんです!」なんて言い切ったりする。
戯曲を書いた北村耕司さんの分身であろうこの男は、作家の一番の理解者であり
彼の作品を評価する後世の代表者である。
少々強引でシュールなこの展開がリアルな説得力を持つのは、
演じる贈人さんの台詞の素晴らしさだろう。
編集者としての在り方や、作家自身が気づかないスランプの理由を
ズバリ指摘する場面、あの熱のこもった台詞は、
北村さんの檀一雄とその作品に真摯に寄り添った末の声だ。
贈人さんは身のこなしも軽やかにその声を見事に体現している。

作家に自分の作品を見せるため津軽から出てきた青年(後の太宰)
を演じる牧野達哉さん、
登場してすぐ、観客も共演者も聞き取れないような声でしゃべるところが可笑しかった。
女中の久美子(徳元直子)が津軽弁で叱咤するのも可笑しくて、
とても巧いシーンだと思う。
この聞き取れないような声でしゃべる青年が後年自死した後、
作家の元を訪れて語る場面が秀逸。
この時は、出てきた時から“太宰治”以外の何者でもない風貌にまず驚き、
打って変わってクールで明快な語り口に驚いた。
才能を見出した篠井五郎自身が、最も怖れ嫉妬した作家だけあって、
短いシーンながら観る者の心を一発でわしづかみにする。

編集者原役の保倉大朔さんはじめ、周囲を固める役者陣の充実が素晴らしく
作家の我儘に振り回され、私生活を詮索されることに激しく反発しながらも、
その作品によって生活している人々の忸怩たる思いがじわりと伝わってくる。
こんな風にアプローチされた檀一雄という作家の幸せを思わせる舞台だった。
猫の会、次の作品が待ち遠しい。




暴走ジュリエット/迷走クレオパトラ

暴走ジュリエット/迷走クレオパトラ

柿喰う客

あうるすぽっと(東京都)

2014/10/17 (金) ~ 2014/10/26 (日)公演終了

満足度★★★★

アニメ風ロミジュリ
おなじみのストーリーをスピーディーに、14人の女優陣がキメキメポーズも鮮やかに見せる。
見た目の男らしさは一切追わず、髪の長さや身長など女性の可愛らしさを敢えてそのまま、
「マジ」とか言いながら声優風にテンション高くセーラー服のジュリエットが叫べば
“アニメ ロミオとジュリエット”が完成した感じ。
小柄で華奢なロミオが「け、け、けっこん!」なんて言うと、ちょっと前に
女であることを隠して男子校へもぐりこんだ堀北真希ちゃんのドラマを思い出す。
でもそれが、ツッコミどころ満載の事件の愚かしさと若い二人の哀れさを強調するから面白い。
柿の女優3人の力量が突出して素晴らしく、劇団員総出の公演が観たいと思った。

ネタバレBOX

舞台中央に丸いお立ち台。
セーラー服の少女(深谷由梨香)が登場してテニスのラケットを振ると
グッドタイミングで豪快な効果音、これが気持ち良くて
のっけからこのリズムに巻き込まれる。
この少女は、“恋を知らないロミオ”が今夢中になっている相手だが
すぐにロミオはジュリエットと出会い、心はそちらへ飛んでしまう。
後は早送りのようにロミジュリストーリーが展開。

要所々々の演出が面白い。
たとえばジュリエットの死を知ったキャピュレット家の人々が
丸いお立ち台の周りをごろごろ転がっていくシーンや
決めポーズにビシッと当たるライトなど
“柿風様式の美”がおなじみのストーリーにメリハリをつけてくれる。
ジュリエット役の佃井皆美さんは声も体のキレも良くて熱演だと思う。
キャピュレット夫人(七味まゆ味)、乳母(葉丸あすか)、ロレンス神父(深谷由梨香)、
この3人が出てくるとその貫禄と存在感で舞台が落ちつく。

ラスト悲劇の恋人たちが死ぬところでは、やはり原作の持つ台詞の力がものを言う。
軽いノリで来た舞台が究極の選択で終わる、その残念な結果が原作の台詞で際立つ。
そして大事な人を喪って初めて目が覚める人間の愚かさが残る。
中屋敷さんの演出は、悲劇というより“哀しい喜劇”としてのロミジュリのテイストを
上手く伝えている。

若干コンパクトにまとめすぎの印象も受けたが、人気劇団の力を感じた。
“女体シリーズ”って、女優にある種のパワーを要求する。
美しく華奢なだけでは役が細って、“女子高演劇部”になってしまう。
小柄でも“全身ドヤ顔”くらいの力強い表現がなければ、観る側はずいっと入り込めない。
中屋敷さんの、次の作品も観てみたいと思った。

イエドロの落語 其の弐9月 目白 古民家ゆうど公演

イエドロの落語 其の弐9月 目白 古民家ゆうど公演

イエロー・ドロップス

ゆうど(東京都)

2014/09/06 (土) ~ 2014/09/07 (日)公演終了

満足度★★★★

構成・演出に、あの二人
古典落語を下敷きにトンデモナイ夫婦の顛末を見せる、イエドロの落語第二弾。
コーディネーター林勇輔さんの構成と、映像を上手く使った演出が秀逸。
あの殺風景な空間が江戸の貧乏長屋になり、寂しい峠の道になり、
あの世との境になるために、
番傘に映写される映像や巧みな照明の効果が重要な役割を果たしている。

怠け者でろくに仕事もしない亭主(さひがしジュンペイ)と
女房(わかばやしめぐみ)のやり取りがテンポよくて勢いがあって可笑しい。

9月の「黄金のコメディフェスティバル」で最優秀俳優賞を受賞したわかばやしめぐみさんの
素晴らしいコメディエンヌぶりが印象的。
さひがしさんがここでは主軸となって、その周りをわかばやしさんが自在に回る感じ。

わかばやしさん、特に死神が女房に憑依した場面での切り替えと演じ分けが見事だった。
どこか厳かな死神と下世話な女房の対比が素晴らしく鮮やか。
さひがしさん、ラスト「あ~…」という残念な理由で死んでしまうところが情けなくて可笑しい。
江戸弁の威勢の良さが物語をけん引するあたり、シリーズが板についてきた証拠だと思う。

おぼんろとは全く違ったテイストが共存する両氏のセンスは貴重だ。
それにしてもなんと息の合ったコンビだろう。
台詞といい歌といい、次はどんなことをしてくれるだろうと楽しみになる。

NO MOON,NO SUN

NO MOON,NO SUN

Trigger Line

劇場MOMO(東京都)

2014/10/04 (土) ~ 2014/10/13 (月)公演終了

満足度★★★★

プリンセスの孤独
2年ぶりの新作はダイアナ元皇太子妃の交通事故死をモチーフに、
フィクションとノンフィクションを織り交ぜたという作品。
一つの事件を複数の視点と思惑から照らし出す展開は、スピーディーで緊張感に満ちている。
登場人物がいずれも魅力的で、キャラの立った悪役も素晴らしい。
が、男3人の友情、“プリンセス”の自我、暗躍する保安機関、ホテルマンたち、と
エピソードのバランスが良すぎて、形が整った分印象が薄くなった感あり。
ジョエル役の林田さん、やさぐれても品があって髪の色までうまく役にはまっている。
“最悪な死に方”をする藍原直樹さんのぶれない視線が素晴らしい。

ネタバレBOX

向かい合った客席に挟まれた舞台はほぼ裸舞台に近く、
小さな木製の台が一つだけ置かれている。
物語はあの衝撃的な交通事故の場面から始まる。

離婚して王室を出たプリンセスダナエ(染谷歩)と
エジプトの大富豪の息子ラシード(西岡野人)の恋は、あまりに注目されすぎていた。
自分の居場所を求めていたダナエ、父親から自立したいラシード、
ダナエを妃候補として見出した時から見守ってきたキングストン卿(桝谷裕)は
理解者であるが、彼女の自由を求める気持ちを許すことができず、
それはほとんど偏執的だ。
かつて英国諜報部員として生死を共にした3人の男は今や敵味方に分かれている。
ジョエル(林田一高)、ヒース(藍原直樹)、トラヴィス(経塚よしひろ)は
全く違う立場からこの事件に深くかかわることになる。
そして事件の背景にはダナエ自身の捨て身の計画があり、
またジョエルにもある計画があった…。

舞台となるホテルの経営補佐ルイ・バレ役のヨシケンさんが巧い。
ヤな奴だけど仕事は確かに出来て、正論を吐く。
自分勝手だが他人の自由もまた認める。
単純な善悪を超えた人物像が立体的で、誇張気味の演技が成功していると感じた。

一方ダナエの自由を英国の危機と見てその行動を阻止しようとするキングストン卿と
彼が率いる民間保安機関ペルソナのメンバーヒースは
一貫して“イッちゃってる目つき”が素晴らしい。
こういう目をした人間でなければできないであろう行動に説得力を持たせる目つきだ。
そしてそれがラストの死に方をよりドラマチックに見せる。

ちょっとドラマチックにしようとし過ぎた感があったのは
ダナエとラシードが対角線上に見つめ合う“マイウェイ”のシーン。
あれは役者さんもきついのではないかと思うほど長かった。
また、ダナエの衣装が“日本人のリゾートウェア”みたいな
印象を受けたのは私だけだろうか。
男性陣のいでたちがそれぞれリアルにはまっていたので余計にそう感じてしまった。

事故現場の写真を撮ろうとするパパラッチにジョエルが叫ぶシーンは
“大衆の最後の良心”に訴えるものがあって思わずぐっと来た。
視力を失ったジョエルが死を思いとどまるラストシーンも救いがあってほっとする。

群像劇として完璧なバランスだけに、整い過ぎた物足りなさを感じるのは
贅沢というものだろう。
でもどれか一つのエピソードを突出させることで、
凄みが増した舞台も観てみたい気がする。
たとえば彼女が最期に発したとされる「もう放っておいて」というひとことで
号泣するような、夫を除く世界中から愛された女性の孤独の物語などを。





殿(しんがり)はいつも殿(との)

殿(しんがり)はいつも殿(との)

ポップンマッシュルームチキン野郎

シアター風姿花伝(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/29 (月)公演終了

満足度★★★★★

最高のタイトル
タイトルからしてもうやられた感じで、早く殿に会いたいと思っていたが
さすが吹原幸太さんの脚本が巧い。
時空を超えた行き来の見せ方や、賑やかなキャラの登場、
それでいて最後はやっぱりほろりとさせるバランスの良さ。
CR岡本物語さんのマジな殿様ぶりが意外にはまってとてもよかった。
立ち回りにも迫力があり、脱がなくてもとっても素敵(笑)
細くてきれいな野口オリジナルさんも今回はずっと服着てた…。
家康を演じたNPO法人さんのたぬき親父ぶりも良かった。
サイショモンドダスト★さんの贅沢な使い方も含めて、
ポップンは役者の魅力を引き出すのが上手いと思う。
そして何と言っても、この“荒唐無稽な設定”とほのかな“夫婦の情愛”を
45分にきっちり収める吹原幸太さん、やっぱりすごいわ。

ネタバレBOX

開演前に客席で(!)メイクを手伝わせていた、ニワトリの着ぐるみの
サイショモンドダスト★さん、台詞の練習までしていたのに本編に出てこないという
この辺からしてもう可笑しい。

期待させて外す、期待させて期待通り…そして期待以上の細やかな情愛。
この構成が巧いので、時空を超えた荒唐無稽な展開もすんなり入ってくる。
登場人物が多いのもポップンの特徴だが、机だのやかんだのというキャラ軍団だから
キャラが混同しない、っていうか混同しようがないので本筋を邪魔することがない。

シリアスな本流からナンセンスや下ネタ(今回は封印?)などの支流が細かく分かれ
45分後には観客を巻き込んで怒涛の勢いで海へと流れ込む→そして感動の夕凪…(涙)
吹原幸太さん30代前半だというが本当は45歳くらいじゃないかと思うほど
このあたりが練れていて素晴らしい。

当然のようでもありますが、優勝おめでとうございます。
次はもっと危なくて、ブラックで、すっぽんぽんな舞台を期待しています!

U&D&O

U&D&O

おぼんろ

シアター風姿花伝(東京都)

2014/09/18 (木) ~ 2014/09/29 (月)公演終了

満足度★★★★

ウドの選択
初コメディ挑戦、しかも二人芝居とあって楽しみにしていたが
実におぼんろらしいファンタジーにダークなスパイスが効いて洒落た作品。
シュールな展開の中に“若者の反発・自立・成長”という普遍的なテーマが
わかりやすく組み込まれていて大変楽しかった。
相変わらず達者なわかばやしめぐみさんが台詞、歌ともに素晴らしい。
期待に応える代わりに自我を通したウドの選択にぐっとくる。
また末原拓馬さんが、本公演で見せるキャラとはまた違ったキャラで、
声も台詞も変化に富み新しい魅力を見せた。
おぼんろ、マジで唄えば?

ネタバレBOX

コメディという括りにはあまりはまらないかもしれない。
強引な展開そのものがコメディと言えばコメディか。
“シュールな中に普遍的な哀しみが光る”いつものおぼんろテイストはそのまま、
それがとても良かったと思う。

ウドの大木、禁断の光を浴びるという素朴な選択の力強さが心に残る。
真っ白なまま食されることよりも、役に立たない大木となって何年もグギャを待つことを
選んだウドの心が切なく、ラストシーンが一層際立つ。

わかばやしめぐみさんの魅力的な台詞と歌声が素晴らし、く最優秀俳優賞も超納得。
末原拓馬さんは客演を重ねるたびに、みるみる幅が広がってきている感じを受けた。
この方の屈託のない素直な笑顔や人懐っこさといった“素の部分”を
忘れさせるような芝居も観てみたいと思った。







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