ゴベリンドン 公演情報 おぼんろ「ゴベリンドン」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    陰影あるキャラに魅了される
    改めて脚本の素晴らしさを思い知らされる舞台だった。
    吉祥寺シアターの高さのある空間、舞台の穴を上手く利用した設定も効果的だ。
    複雑で深い陰影を見せる登場人物が実に魅力的。
    異形の者、ゴベリンドンのなんと愚かしく哀しい、孤独な姿だろう。
    高橋倫平という役者の身体能力を100%生かした動きが、彼の苦悩をリアルに体現する。
    欲と孤独がミルフィーユのように層を成す“死体洗いのザビー”(さひがしジュンペイ)、
    弟に呼びかける第一声が、もう既に愛情と苦悩に満ちている兄トシモリ(藤井としもり)、
    運命を告げる慈愛に満ちた“沼の精”(わかばやしめぐみ)の歌声は、
    一瞬で劇場の空気をミステリアスな色に変える。
    そして無邪気な弟(末原拓馬)は、最後に究極の選択をして“大人になる”…。
    “あの感動をもう一度”、という意味では確かに成功している。
    分かっていてもやっぱり泣けてしまう。
    だがあの“なんだ、この廃工場でやってる芝居は!”という驚きは鳴りを潜めた感があって、
    そこが大きくなった劇団に共通の課題なのだろうと思う。
    再現の一歩先を見せて欲しい、という我儘と期待感で★は4.5とします。


    ネタバレBOX

    四方囲み舞台の中央は深い穴、吉祥寺シアターの地下へと続く穴が、
    この物語の沼の淵となっている。
    天井からは“一反もめん”みたいな布が何枚も膨らんで吊り下げられている。
    いつものように「目を閉じて想像してください」と物語へ誘うあたりは手慣れたもの。
    所々笑いをはさみながら、ダークな物語へと引き込んでいく。

    その村には武器がなかった。
    昔ある王様が「この世で一番美しい銃を作った鍛冶屋を残し、ほかの者は死刑にする」
    というお触れを出した。
    娘のためにも死にたくない鍛冶屋は、殺した人間の血で銃を作るが
    どうしても望む銃が作れない。
    99人の血を以てしてもダメだったが、ある日理想の銃が完成する。
    王様から「お前の銃が最も素晴らしい」と言われて命が助かった鍛冶屋は
    喜び勇んで娘に知らせようとすると、釜の前に娘の髪飾りが落ちていた。
    100人目の血が娘のものであったと知り、鍛冶屋は気がふれて以後行方不明になった。

    そんな言い伝えが残る村に、タクマとトシモリの兄弟が住んでいた。
    タクマの成人式を前にしたある日、トシモリが姿を消した。
    やがて平和な村で次々と人が行方不明になる。
    タクマはトシモリを捜して“決して入ってはいけない”と言われていた森に入っていく。
    そしてそこで、魔物と呼ばれるゴベリンドンと出会う・・・。

    廃工場での衝撃的な初演を観ていると、どうしても比較したくなるけれど
    あれは“よく知らない劇団がびっくりするほど面白い芝居を見せた”公演だった。
    以後注目度も格段に増し、期待値Maxでみんなが“採点”しようと固唾をのんでいる状態で
    “さらにびっくりさせてくれ”という厳しい条件の元での本公演。
    気になったのは、あの廃工場の「ゴベリンドン」をできるだけ忠実に
    再現しようとした演出だろうか。
    初演は、限られた選択肢の中での公演だった。
    場所も美術も衣装も、“手に入るもので何とかやりくりした”結果の大成功だった。
    工夫すればこんなすごいことが出来るのかと、心底驚いた。
    今回、衣装もメイクも目に見えてお金がかかっていて、それは美しく素敵だった。
    広くなったスペースを縦横無尽に走るスタイルも、高低差を生かした演出も健在。
    再現された「ゴベリンドン」はやっぱり圧倒的に絶望的で美しくて哀しい物語だった。

    ただ、少し違う演出で観てみたいという気もした。
    例えば三方囲み舞台だったら、
    例えばある場面は中央の小さい空間で芝居をしたら、
    例えばあの魅力的な沼の精の歌を、あと1回増やしたら…。
    といろいろ考えて想像してしまうのも、若干芝居が“拡散”した印象があるから。
    もっと接近戦でぶつかる場面があってもよいのではないか。
    兄弟のシーンを除けば、離れたところから呼びかけるような台詞が多かったように思う。
    ハコが大きくなったらそこが気になった。

    力のある脚本だけに、ハコが変われば見せ方も変わるようなバリエーションが欲しい。
    強力な普遍性を持つこの美しい物語を、何度も再演を重ねて欲しいから。




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    2015/05/27 23:00

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