舞首ー三つ巴の里ー 公演情報 鬼の居ぬ間に「舞首ー三つ巴の里ー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    ごろん
    独特で迷いのない世界観は主宰で作・演出の望月氏の
    ぶれないスタンスによるものだと思う。
    設定も展開も暗澹とした物語だが、全ては人間の慾から生じたもので
    その普遍性が共感を呼ぶ。
    スピーディーな出ハケや的確な照明でとても解り易く進行する。
    過酷な掟と里を束ねる浅水の因縁や葛藤が描かれたら
    さらに奥行きが出たかと思う。
    浅水のキャラが魅力的なだけに、もっと彼女のことが知りたいと思わせる。
    島田雅之さん、山本佳希さんが強く印象に残る。
    冒頭の読経が厳かで大変良かった。ありがたや。

    ネタバレBOX

    薄暗い舞台の奥に、鬱蒼とした木と巴淵と呼ばれる深い淵がある。
    巴の里は貧しく、田畑の共同作業、食べ物も配給制である。
    赤ん坊が生まれれば、誰かひとりが巴淵に身を沈めなければ立ち行かなくなる。
    里を治める里長・浅水(吉田多希)はこの掟に疑問を抱いているが
    30年間助役として里を取り仕切ってきた貞蔵(山本佳希)は必要悪と割り切っている。
    ある日「新・助役を募る」という知らせが幸平(島田雅之)と播磨(生野和人)の元に届く。
    二人はそれぞれ自分が助役になってこんな掟を廃止してやると意気込むが
    貞蔵は、自分以外の者にこの任が務まるはずはないと、退く気もない。
    かつて里長・浅水と幸平の姉静祢(長藤粧子)はよく遊んだ仲であり、
    野犬に襲われた浅水をかばって静祢が負傷、以来足を引きずっている静祢は
    里のお荷物として、今度赤ん坊が生まれる前に口減らしに巴淵へ沈む運命だ。
    幸平は何としてもこの姉を助けたい一心で、死んだと見せかけ自宅にこっそりかくまう。
    しかしそれを播磨が知ってしまった…。

    仏教の「三毒」“慾と怒りと愚かさ”をそれぞれ3人の男たちに当てはめて
    「絵本百物語~舞首~」の“死して尚口から火を吹いて諍う妖怪”「舞首」に重ねる。
    この構造が3人の男たちの煩悩を鮮やかに浮き彫りにする。

    弱者であるはずの姉を頼る幸平の優しさと不甲斐なさがリアルで切ない。
    掟を破るというとんでもないことをしでかすのも、
    全てはこの姉に生きていて欲しい一心であり、
    島田雅之さんの甘えん坊な弟キャラが、次第に狂気を帯びる変化が素晴らしい。
    姉の死後、仏像を彫りつつ「笑ってくれない」と悲しむ様が哀れの極み。
    この純粋さが、究極の手段までためらわず突き進む理由かと思わせて説得力がある。

    30年の汚れ仕事で里を運営してきた自負と利権を手放すことが、
    何としても受け入れられない貞蔵の固執ぶりがリアル。
    山本佳希さんの押し出しの良い立ち姿も見事で、政治家と言う人種を見せて秀逸。
    一瞬、職を解かれて家族の元に戻ったかに見えながら、
    やはり隙あらば復活してやるという展開に、業の深さが見事に露わになる。

    幸平の姉を演じた長藤粧子さん、常に死を覚悟して生きる姿勢が表情や言葉にあり
    芯の強さと潔さを感じさせて上手い。

    男言葉で必要最低限の言葉しか発しない超クールな里長・浅水役の吉田多希さん、
    たぶんこの里でもっとも孤独な立場の人物をよく頑張ったと思う。
    この謎の里長のことをもっと知りたいと思わせるものがあった。

    結局首が3つごろんと落ちたが、巴淵の底で尚諍いは続くのだろう。
    さてこれでこの里は不条理な掟がなくなって平和になるのだろうか…?
    それとも歴史はいつか再び繰り返すのだろうか…?
    仏の教えによって誰も救われていないという事実も虚しい。
    暗い余韻の残る作品だった。

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    2015/05/09 00:37

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