追憶のアリラン【ご来場ありがとうございました!】 公演情報 劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン【ご来場ありがとうございました!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    個の魂VS政治の愚
    ハードルがどんどん上がる宿命を背負う劇団になったチョコが、
    シアターイーストの広い空間をどのように見せるのか楽しみにしていた。
    正統派の構成、性善説に則ったストーリーと、奇をてらわない作りながら
    日韓双方の国民の思いが粒立ったように鮮やかに描かれる。
    強烈に脳裏に焼き付いたのは、浅井伸治さん演じる朴(パク)青年。
    その姿勢、声や肩からも、誠実さと信念がこぼれるようで本当に素晴らしい。
    今日本で一番軍服の似合う俳優(と私が勝手に思っている)佐瀬弘幸さんはじめ、
    艶のある声で権力を語る大内厚雄さん、人間味溢れるオヤジを演じた辻親八さんら
    充実の役者陣が繰り出す無駄のない台詞が、わかっているのにこうも泣かせる。
    こういう題材を選んで、無難で浅いだけの作品にならないのは
    登場人物全ての人の本音を、隠さずきちんと言わせているから。
    その上で“完璧でない理想像”豊川(佐藤誓)に
    終盤あの爽快な台詞を言わせるから効き目抜群。
    私の中で間違いなく2015年の忘れられない1本になった。

    ネタバレBOX

    三方囲み舞台の中央奥には、階段が幾重にも重なった
    高さのあるセットが組まれている。
    所々に踊り場のようなスペースがあり、そこが様々な場面の舞台となる。
    階段の下も、その手前の広場も、的確な照明によって効果的に使われる。

    ラジオから「挑戦動乱の収束間近・・・」というニュースが流れる。
    朝鮮から日本に帰国した豊川(佐藤誓)と妻(月影瞳)は、
    ひとりの青年のことを思い出していた。
    かつて豊川は朝鮮総督府の検事局に赴任、三席検事である彼についたのが、
    事務官の朴(パク)(浅井伸治)だった。
    検事局の主席検事(岡本篤)や次席検事(菊池豪)、四席検事(渡邊りょう)らは皆
    朝鮮人を差別しなかったが、憲兵隊長荒木(佐瀬弘幸)だけは弾圧の姿勢を崩さない。
    やがてソ連が日本領に侵攻して日本軍は敗走、荒木は真っ先に民間人と船で逃げ出す。
    残された日本人の動揺を抑えるため、検事局の4人は身柄を拘束されるのを覚悟で残る。
    そして日本人に対する裁判が始まり、豊川も裁判にかけられることになった。
    人民裁判委員(大内厚雄)の元、日本人への報復を誓う取調官(西尾友樹)の厳しい
    取り調べが続く中、朴青年は、豊川の誠実さと正義感を信じ、彼を救おうと奔走する。
    身の危険をも顧みずに・・・。

    “統治”という言葉は知っていたが、実際現地でどのような心情が交差したのか、
    荒木憲兵隊長の言動や豊川の正義感が裏目に出るあたりがとてもリアル。
    豊川を信じ彼の家族の安全を見届けてから、再び平城へ戻って行く朴の
    恩返しと言うには余りに危険な行動が強く潔い。
    「友達を助けたいから平城へ戻る」と言う朴に、その友達が夫のことだと気づきつつ敢えて
    「お友達もきっとわかってくれる、行かない方がいい」と告げる豊川の妻もまた強く賢い。

    憎しみが先行して事実関係など二の次になりがちな朝鮮人の中で
    朴の説得に心動かされて証言を撤回する老人を演じた
    辻親八さんが味わい深く素晴らしい。
    人を見る目を持った人物はどこの国にもいるのだと感動する。

    大内厚雄さん演じる“ソ連の犬”と罵られながらもしたたかに生き抜く人民裁判員が
    日朝関係だけにとどまらず大国の意思に翻弄される国の複雑さを表していてよかった。

    浅井伸治さんはチョコレートケーキの中で、役になりきる度合いの濃い人だと思う。
    セリフ回しとか抑揚とか以前に、たたずまいそのものが違う。
    登場人物の中で最も抑制の効いた人物が、静かだがプラスのオーラを放ち感動を呼ぶ。

    西尾友樹さん演じる取調官が、日本人への憎しみだけで生きているような
    少々平板なキャラだったのが残念。
    証言を翻した老人や、裁判委員の言葉に、明らかな変化を見せて欲しかった。

    夫を日本人に殺された朝鮮人の妻を演じた永井若葉さんには少し違和感を覚えた。
    この人の芸風(?)はハイバイで“異質なもの”として突出するから面白いのであり
    民衆や日常に埋もれて生きる生活感のある人間には合わない感じがした。

    スピーディーな展開や緩急の効いた台詞の応酬、爽快感を呼ぶラストの対立など
    エンタメとしての要素もたっぷり、改めて古川氏の脚本の力を見せつけられた思いがする。
    “極限状態にあって人はどうあるべきか、どうありたいか”
    古川氏の作品にはいつもそれを問われているような気がする。

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    2015/04/13 02:34

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