みさきみさの観てきた!クチコミ一覧

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ソウル市民五部作連続上演

ソウル市民五部作連続上演

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2011/10/29 (土) ~ 2011/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

ソウル市民
投稿が前後してしまったけれど、こちらが一番最初。

1909年、夏。日韓合併を翌年に控えたソウルで文房具店を営む篠崎家の一日を淡々と描いた作品。日本植民地支配下で平凡な日本人一家の下に働く朝鮮人女中は一見、差別もなく自由に幸せそうに働いているかのように錯覚しがちだか、彼女らの名前は日本人名をつけられ、同じ日本人女中と篠崎家の子供達の会話の中から、悪意のない朝鮮人への侮蔑が入り混じって発言される。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX


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これらの言葉は日本人たちが意識していないという「悪意なき罪」なのだが、この無意識の行為こそが問題なのだとこの舞台で提起した作品だと思う。また篠崎家の長男・謙一が朝鮮人女中を巻き込んで駆け落ちするシーンでも、謙一の行為を家族はまたか・・、と思うなど遊びをはらんだ家出だが、どうやら謙一と付き合っていたトシ子(朝鮮人女中)は真剣な様子で、その双方の心のギャップも浮き彫りにされていた。

篠崎家の文学少女である長女の愛子がヒューマニズムという言葉を吐くのも滑稽だった。彼らの生活を通して、植民地支配の本質と、植民地に生きる人々を滑稽に描いた物語だ。第一話では手品師を篠崎家当主が招き入れるがこの手品師は見えないものが見えるとのたまい、作品にシュールなコミカルさを強調させていた。

この物語の続きはソウル市民1919へ。
岸田國士傑作短編集

岸田國士傑作短編集

文学座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2011/11/04 (金) ~ 2011/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

家族の機微
戯曲賞の冠にもなっている岸田國士は、文学座の創立メンバーだ。その彼の短編を3本一気に観れるチャンスなのだから、観ておくにこしたことはない。なんつって偉そうに(岸田を既に呼び捨て!笑)言っちゃう!
またセットの画が素晴らしい。モチーフはクリムトの「接吻」だ。美術:奥村泰彦。
また今回のキャストは「連結の子」で拝見したキャストらが登場しており、なんとなく勝手に親しみを感じた。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX


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『明日は天気』
海岸の旅館に避暑にやってきた一組の夫婦。雨に降り込められ暇を持て余す2人の会話はことごとく噛み合わない。とある夫婦の等身大の会話を描写したシンプルな物語だ。夫を演じるのは浅野雅博。本当に良くしゃべる夫で、ほぼしゃべりっぱなし。笑
夫が妻の幸せをいつも考えているセリフが温かい。
また、浅野の声のトーン、ちょっとした視線の配り方、そして“間”が絶妙だった。また浴衣の下に着ていた夫の水着が囚人のようにヨコシマで、思わず仰け反った。オマエは楳図かずおかっ!!


『驟雨』
倦怠期が見え隠れする夫婦。ある日、新婚旅行に旅立ったはずの妻の妹が突然訪ねてくる。離婚したいという妹に狼狽する妻を尻目に、普段無口な夫は雄弁に語りだす。相変わらずセリフに含まれる男と女の気持ちのズレが絶妙で、なおかつ夫婦の秘訣みたいなセリフも勉強になった。夫婦の日常の生活に起こるさざ波ような出来事があったからこそ、夫婦の機微を今一度確認するような物語だった。

『秘密の 代償』
休暇をとって海辺の避暑地の別荘にやってきた高級官吏・池田一家。本宅から連れてきていた小間使いのてるが唐突に暇を申し立てる。妻は夫か息子がてるに手を出したのではないかと疑い、ふたりを試そうとするが、大枚を盗んで逃げようとしていたてるは、妻の疑いを利用して夫と息子の気持ちをたぶらかし、まんまと大枚を持って逃げてしまう。その後、警察から大枚を持った女が駅に居ると通報があったものの、池田家では世間体を重んじて盗まれた大枚を追求せず、てるのほうが強かで一枚も二枚も上手だったという物語。

今回の3本の戯曲はどれも夫婦の秘めた心の内を表現した舞台だったと思う。美しい日本語のセリフと同時にエロスを色濃く漂わせ、また人生に於いての見損ないや、男とは困った生き物だという夫婦にしか解らない独特の空間が楽しかった。所々、クスッと笑える箇所もあり、演技力も充分だった。
不文律

不文律

643ノゲッツー

劇場HOPE(東京都)

2011/11/01 (火) ~ 2011/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

同じカッコー
この舞台を観終わって思い出したのが「 カッコーの巣の上で 」という映画だ。映画の中で
ジャック・ニコルソンは最終的に廃人にさせられてしまう。閉鎖的な精神病院の出来事を綴った映画だ。英語でカッコー「cuckoo」という単語には、鳥の名前であると共に、形容詞として「気が狂って、馬鹿な」という意味があるけれど、今日の舞台も映画と似たような終わり方である。そして同じようにアル中や精神的に病んだ人たちが入所している施設が舞台だ。

ネタバレBOX

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ここでは表向きは自然治癒を行う施設として存在し、裏の事業として患者を人体実験させていたクローンの人体研究所として機能していた。二人の医師、大橋と沢田はかつての師の意思を継ぎこの研究を継続し患者をクズと言い放ち人体実験をしている。これに気付いたもう一人の正義感の強い医師・西尾がこの間違いを訂正しようとしたが逆に西尾は廃人にさせられてしまう。

この舞台を観て感じたことは、患者たちは施設の中である意味心地よいともいえる諦めに浸っておりそこから出ようとはしなかったことと、狂人たちは一つの秩序をそこで構築し独白を始める場面もあることから、外に出て生きるという意欲が完全に失っているようにも思えた。

そんな中、二人の医師は100年後の未来を見つめて研究するあまり、今の多少の犠牲はやむ終えないと考え、研究に間違っているという言葉はないと言う。研究にあるのは成功か失敗かのどちらかだと・・。

研究と倫理の狭間で揺れ動く不文律は、きっとその昔、原爆を作った博士の不文律を覚えているだろうか。研究者というのは留まるところを知らない。一つの成功のその次も見たくなるものが研究者だ。そして二人の師である松浦先生の娘は「父は以前こんなことを話していました。人は物心がついたときに解ることがある。人はいずれ死ぬ。」と話す。

タイトルが素敵だ。そして全体をとりまく演出も素晴らしい。音響、照明も、勿論、キャストらの演技力も。特に終盤を衝撃的に飾った西尾役の海老根理があまりにも素晴らしい。ワタクシの大好きな谷仲恵輔の重厚な演技力にも満足した。本当に良いものを観たと声を大にして言いたい。東君、腕をあげたなぁ。。とつくづく嬉しい舞台だった。カンペキ!
ソウル市民五部作連続上演

ソウル市民五部作連続上演

青年団

吉祥寺シアター(東京都)

2011/10/29 (土) ~ 2011/12/04 (日)公演終了

満足度★★★★★

ソウル市民1919
1919年3月1日、ソウル(当時の呼び名は京城)。この街に住む日本人の一家、篠崎家の人々は、今日も平凡な日々を過ごしている。ただ、今日は少しだけ外が騒々しい。噂では、朝鮮人たちが、通りにあふれているという。篠崎家からも少しずつ朝鮮人の雇用者が姿を消していく。三・一独立運動を背景に応接間で唄い、この独立運動を「まさか・・」なんて嘲笑し合う支配者日本人の「滑稽な孤独」を鮮明に表した物語。


以下はネタばれBOXにて。。

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やがて、「まさか・・」なんて本気にしなかった日本人らの耳にも朝鮮が本当に独立したという情報を朝鮮人女中から聞くことになる。そしてお世話になりました。と、次々に去っていく朝鮮人女中達。2話となるこの作品でも相変わらず浮世離れした篠崎家の女性たちが露呈される。そして篠崎宗一郎の長男・謙一が文房具店店主となった2話ではキャストの入れ替えがあった為に、慣れるまで戸惑ってしまった。

こういった続きの物語はキャストは継続して同じ役柄を演じて欲しかった。「ソウル市民」の篠崎慎二(叔父)を山内健司が演じていたが、「ソウル市民1919」では山内は篠崎謙一を演じており、極めつけは天明留理子が「ソウル市民」では謙一の義理の母を演じているのに、「ソウル市民1919」では謙一の妻を演じているのだ。オマエ、いつのまに義理の母親と結婚したんだよ!みたいな錯覚。

またこの回は余興として力士を登場させる。力士といったら青年団のなかで島田曜蔵ほどどんぴしゃの役はない。すもう=島田なのだ。いっそのこと島田金剛山みたいな名前のほうが良かったくらいだ。しかし島田が登場しても「あれ?島田じゃないな・・」と感じたほど髪を上げるとガイジンっぽい。だけれど青年団に島田ほどのデ、巨漢はいないはず!なんてジーーーっとガンミしていたら、発した声が島田だった。笑

そんなこんなで「ソウル市民1919」は島田力士のお陰でバカ馬鹿しくも滑稽なお話に出来上がっていた。

さてこの続きは「ソウル市民昭和望郷編」にて。。
Birthday

Birthday

天才劇団バカバッカ

ギャラリーLE DECO(東京都)

2011/10/04 (火) ~ 2011/10/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

舞台は渋谷のお花屋さん。

店主である父親は入院しており、この花屋を受け継ぐ形で父の留守を守り、切り盛りしていた三兄妹だったが、突然、過去の父の行いを恨みに思っていたフラワーアーティストの神石から罵倒された文章を雑誌に載せられる。この神石にはそれなりの影響力があり、途端に花屋は落ちぶれてしまう。

以下はネタばれBOXにて。。

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それでも家族一丸となって、この状況を打破し、知人達の思いやりも加味されてなんとか乗り切っていく、といういい話だ。三兄妹を取り巻く人々の風景、特に、農業高校での生徒達の情景がコミカルで楽しかった。どうして学園ものって、こう、胸が締め付けられるほど素敵なんだろう・・。そして、オカマバーでの描写も楽しく可笑しい。

花とともに、蘇る三人の思い出をナビするのは、欄(河野真紀)だが、今回の河野はひじょうに自然で素晴らしい演技だった。この物語はまだ始まっていない。欄が母親のお腹の中で見た未来図だ。だから、これから生まれて今見た未来を歩みだす。という設定だ。
欄たちの運命に彩られた今後を予想した未来を描写した物語なのだ。

舞台にはキャストが演じる後ろ手でアーティストたちが生の絵を舞台セットとして沢山の花を描いてゆく。考えたら、これはとっても素晴らしい芸術的な舞台だ。ワタクシはこの手作り感溢れる舞台を観られただけで喜びだった。
相変わらず、天才劇団バカバッカの笑のセンスが好きだ。そして導入音楽もバッチリ。
スピンドクター

スピンドクター

劇団 東京フェスティバル

OFF OFFシアター(東京都)

2011/12/15 (木) ~ 2011/12/20 (火)公演終了

満足度★★★★★

緊張感溢れるストレートプレイ
総理官邸にある総理大臣執務室を舞台に突然、発覚した官房長官の女性スキャンダルの裏に潜む、日本を揺るがすエネルギー問題が隠されていた。先日観たチャリT企画公演で鉢呂大臣ネタがあったが、この舞台でも鉢呂ネタが仕込んであってなんとなく繋がりを感じた。笑

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初の女性総理誕生をキッカケに内閣支持率は急上昇し、中川総理自身もただのお飾り総理ではなく、MOIL(藻が作るオイルの俗称)によって世界のエネルギーを変えようとする九州エネルギープラント構想に取り組んでいた。そんな折、官房長官の女性スキャンダルが発覚した。これが記事になることを阻止するべく、組織「内閣情報調査室」の内閣情報官が奔走する。そしてこれを補佐すべく、またスピンドクター(=メディア対策アドバイザー)として夕刊タブロイド紙「東京TODAY」の編集長を抜擢する。

しかし、内実は官房長官の女性スキャンダルではなく、総理のMOIL構想を知った各エネルギー関連会社がMOILの発売を阻止しようと「MOILは危険だ」という捏造を企んでいた。
同時に「東京TODAY」には多方面から圧力がかかり、企業の広告収入源が撤退することに。更に追い討ちをかけるように総理の献金疑惑が持ち上がる。

一度、メディアの標的になったら報じる側にとっては、それが悪でも善でも同義的責任を追及できるから、献金を受けてようが受けまいが関係ない。国民を洗脳する操作くらい簡単だ。というようなセリフには観ているこちらにもそれなりの緊張感があった。

このようなメディアの餌食やエネルギー関連会社の軋轢から逃れる為には日本の未来を変えられるという壮大な構想・MOILの栽培のノウハウを公開するほかないという結論に達し、総理は迷いの中、この決断をし公開するが、内閣情報官の塚原が総理より上手で次の時代は自分だと次の座を密かに狙っている様子を見せながら幕を降ろす展開は流石だった。

どのキャストも素晴らしい。特に中川総理役の矢代朝子のふてぶてしい演技力が、あまりにも素晴らしかった。同時に強かさを兼ね備えたデキル男的な演技力で魅せた天宮良が抜群だった。

脚本といい演出といい、ワタクシが観た劇団東京フェスティバルの舞台では一番良かったと思う。きたむらけんじ、素晴らしい!!
切り子たちの秋

切り子たちの秋

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2011/10/21 (金) ~ 2011/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

流石は青年座
恥ずかしながら、切り子(キリコ)って人の名前かと思った。そしたら金属を削ったときに出る螺旋状の金属くずのことだって。いあいあ、まだまだ勉強が足りませんな。苦笑!

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舞台は1974年秋、東京都大田区にある従業員がたった2人の佐久間製作所。流石は青年座です。セットの作りこみが素晴らしい。物語は下町で起こる人情劇だ。

亡き父親のあとを継いだ出戻りの幸子と職人たちの熟練で細々となんとかやってきた町工だったが、親会社の倒産によって諸に打撃を受けた佐久間製作所は工場の存続の為に駆けずり回っていた。そんなある日、光子(幸子の姉)は杉山(光子の夫)を連れ立って実家の佐久間製作所にやってくる。

それは、小さな工場が集るこの一角を新しい工場町として立て直すことだった。「もう町工場の時代じゃないんだよ。コンピュータがあれば職人なんていらない」と、技術革新の波を引っさげて土地買収にやってきたのだ。

従業員も家族同様の扱いをされて和気藹々と頑張ってきた佐久間製作所は大きな帰路に立たされるも、幸子は姉夫婦の提案を頑として受け入れることが出来なかった。それは亡き父と姉夫婦の間で過去に起こった出来事を含め、姉夫婦の考え方に共感できなかったからだ。そして何よりも幸子自身がここでの暮らしを幸せと感じていることだった。

そんな幸子に職人の伸吉はプロポーズのような言葉、「二人で一緒に工場を続けて行きませんか?自分ももっと最先端技術を習得します。」と告白し、これを受けて幸子は大きく頷く。町工を営む昭和の家族にも温かな明るい日差しが射した場面だ。

職人たちと家族の絆を描いた物語だったが、全てのキャストの演技力が秀逸で、町工の風景を鮮やかに彩っていた。満夫を演じた山崎のキャラクターにも笑わせてもらったし、舞台上に立つ役者の役年齢も相応で違和感がないというのが観ていて自然だった。
ほのぼのとしたいい物語だと思う。
トラベルモード

トラベルモード

*pnish*

サンシャイン劇場(東京都)

2011/11/02 (水) ~ 2011/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

た、た、楽しい!
パニッシュの舞台は縁あって何度か観ているが今回は特に面白かった!
演出は毛利亘宏(少年社中)だったからキャストらへの小細工が効いていて笑いにパンチがあった。

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17世紀初頭、フランス北部の港町に建つホテルに三銃士がお忍び旅行にやってきた。
ルイ13世直属の銃士隊の中でも剣豪として有名なアトス、ポルトス、アラミス。有名人がご宿泊!!とあって支配人やベルボーイは大喜び。大層なおもてなしで大歓迎を受けるが、宿泊している事をおおっぴらにされたくない3人は戸惑い気味。それもそのはず。実はこの三銃士、真っ赤なニセ者だったのだ。

彼らは支配人に「自分達はフランスの任務でここにお忍びでやってきている。だから我々の事は他言無用だ。」と釘を刺すも、おしゃべりの支配人は、街中に触れ回ってしまう。そして三銃士の宿泊にあやかって上手くするとホテルの宣伝にもなるという売名行為も加味して、町で三銃士祭りをするという企画まで立ち上げてしまった。

弱る偽三銃士。そしてそんなパニックの中、フランスの敵であるリシュルの使者がホテルにやってくる。そこに使者を追って銃士隊に憧れるダルタニャンもやってくる。どちらも本物の三銃士を知ってる連中だ。偽三銃士は大慌てで、自分達の身の上がバレないように画策するも、エディー(偽三銃士)はかつて三銃士に憧れてダルタニャンと共に銃士隊を目指した仲だった。

これらの出来事が三重にも四重にも加わり、偽三銃士は自分達のついた嘘がばれないように嘘の上塗りをして、にっちもさっちもいかなくなる。結局薬局、大きな悪さはできない偽三銃士はルイ13世を守る為に、ダルタニャンと共に本当の三銃士のようにリシュルの悪巧みを止めようとする。

「1人は皆の為に、皆は1人の為に」の言葉を掲げながら、戦わずして英雄になれたのは、ルイ13世を暗殺してイギリスと手を組むというバッキンガム公に宛てた密書と偽三銃士がベルボーイを三銃士にするという紹介状を間違えた為だったというオチ。笑

果たして彼らは真の英雄になる事が出来たのだが、ここまでに到着する経過のコメディがまったくもって面白いのだ。偽三銃士の三馬鹿トリオっぷりも可笑しいし、キャストらが放つ仕草もいちいち可笑しい。ひじょうに楽しく解りやすい舞台だった。何でも器用にこなすパニッシュの鮮やかな舞台。お勧め。次回も観たい!
エレジー

エレジー

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2011/10/13 (木) ~ 2011/10/19 (水)公演終了

満足度★★★★★

あまりにも素晴らしい!
会場に入ると個々の観客椅子にラップで綺麗に包んだ真紅のバラが置いてある。
およそ生まれてこのかた、真紅のバラなんてプレゼントされたことがないワタクシは、なんだかとっても嬉しくなった。そして平幹二朗主演の舞台を4000円というチケット代で観られるという設定も良心的だと思う。そのせいもあってか、この日はキャンセル待ちの観客が受付で列になって並ぶという反響振り。

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当日パンフは舞台上の登場人物が映されていたが、あちこちの劇場で置きチラシしてあったフライヤーに映ってる平はリア王の平。笑
手抜きにもほどがあるのだが、やっぱ4000円だから?笑

キャストは5人。今更ながら平幹二朗の厚みのある演技力に感動した。

偏屈でがんこな老父・平吉(平幹二朗)は凧の研究家であり、昔は高校の生物教師だった。現在の平吉の家は八年前に平吉が頭金を出し、息子の草平がローンを支払うということで買った古家だが、その後、草平は平吉の意にそぐわない女優の塩子(山本郁子)を伴い、家を飛び出す。平吉が死ねば、家は草平の手に入るため、家を離れた後も草平はローンを払い続けた。残酷で荒涼とした家族の姿は、草平の急死で浮上した残りのローンの支払い問題により、大きく変化することになる。

ある日、ローンの督促状を持って塩子が平吉の家にやってくる。対立する平吉と塩子の間に、やがて奇妙な愛情が生まれ、平吉の弟(坂部文昭)、塩子の伯母(角替和枝)、塩子に求婚する青年医師(大沢健)を巻き込んだドラマに展開していく。 という筋だが、この物語に登場する女性2人はノイローゼだ。一方で平吉はあるはずのない踏切が見えて、平吉の弟に鐘が鳴ってるから渡らないように注意を促す。この注意を弟はボケたと勘違いする。ちなみに登場人物の5人とも独身。


・・・というように物語全体が「老い」をテーマに孤独な老人がどう生きるかを見つめなおそうとした作品だ。老いて尚且つ、一人で暮らしてるような人間は知らず知らずのうちに自由な精神が宿ってしまうから、他人と暮らすこともおっくうになり、と同時に孤独も噛みしめるはめになるのだ。そうして一人で気楽に暮らしていると、いつのまにか周囲と適応できなくなり、本人にとっては周囲の方がねじくれているように感じてしまう。

一方で塩子と平吉は嫁舅以上の感情を持ち始める。終の棲家にもならんとする家を巡っての人間模様、失った息子への悔い、残された息子の嫁に対するほのかな恋心などを盛りつつ主人公・平吉の頑固で孤高なたたずまいが美しい。

だが、平吉の頑固さ故に塩子からの独白を受け入れられなかった矢先、塩子は交通事故で亡くなってしまう。亡き息子の草平が何とか人の期待に応えようとするあまり、裏目に出てしまう人生やこれと似たり寄ったりの平吉の弟、相反する強い精神の平吉の生き様も描写しながら、笑いと悲しみの中で、親子や兄弟関係をはじめ様々な人間関係のゆがみが浮かび上がる。そして終盤は孤独な老人2人の姿を映して終わらせる。

舞台は笑いも随所に散りばめながら重厚で考えさせられる物語だった。角替和枝のトボケタ役も素敵だった。老人となった平のハマリ役な舞台だったが、現実に亡くなった息子・沖雅也との幻影と被ったような作品で平自身、想うところもあったに違いない。
それにしても素晴らしい舞台だった。
【追加公演決定しました!】『B4 paper books 2』

【追加公演決定しました!】『B4 paper books 2』

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2011/10/26 (水) ~ 2011/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

【赤の章】を観た。短編2つからなる。

相変わらずの劇団海賊ハイジャックらしい屈折と狂気と残酷ぶり。笑) 一見するとこの物語は観客の好みに分かれてしまう。それというのも鮮血やら殴り合いや、不条理な殺され方で人がバタバタと死んでいくし、挙句、口汚い言葉での罵りや、あるいは吐き捨てるセリフで眉根をよせてしまう観客も少なくないからだ。しかし、遠目で距離を置いて全体像を眺めるとこれほど滑稽でバカバカしい物語はないのだ。だから刺激的なコメディとして観劇するとひじょうに楽しめる。

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『dogma』
学び舎では毎日が戦場で教師は生徒にとって絶対の存在で生徒は服従を強いられていた。ここでは教典に基づいて生徒を教育し、全てのテストに100点満点を取らなければ死が待っている。397人居た生徒が今では模範生8人のみになってしまっていた。
卒業式の日、8人の生徒を試す試験(教典の中から出題される問答)が行われる。ここで合格すれば晴れて栄光の卒業生となるが、不合格しても合格しても、殺される運命だ。要は死の卒業式なのだが、これは教典に基づいた教えでもあった。

ここで観客はなんで?なんて新たな疑問が沸々と沸き起こるが、免疫のない優等生たちが学園の外の世界に出たら、不条理な差別に出会い落胆し絶望し生きていけないだろう・・と説く教師がいた。笑
まあ、世の中を痛いほど熟知していると思われる宇野の台本でのセリフだ。

しかしここで五大先生(川添美和)が教典の逆説、つまり真実を暴き出す。それは校長の生き様について綴った物語だった。この物語にワタクシはひじょうに感動し落涙したほど素晴らしく美しい話だ。生きることに真摯に立ち向かい朽ち果てるまで生きるという執念を感じた不幸な男の話だ。男が歩んできた鮮やかな場面が想像され、それらが、まるでしんしんと降り積もる雪のように・・・やがてずっしりとワタクシのこころを満たす場面だ。自己犠牲的な物語でもある。

悪しき風習を継承した学舎を舞台とした驚異の学園活劇は五大先生の逆説によってその縛りを放たれ生徒らは巣立っていく。終盤でいい話だったなぁ。と感動する物語でもある。

『テッドとリチャード』
連続殺人事件の被疑者として告発されたリチャードは「やったのは俺じゃない。悪魔の仕業だ。」と直訴を始めた。悪魔崇拝とヘヴィメタルに魅了された異常者は、端整な風貌と快活な弁舌を併せ持っていた為、彼の愁情に斟酌した愚昧な聴衆は一躍彼を担ぎ、量刑の裁断を待たずしてスターに祭り上げた。そのころ真犯人テッドが自供し死刑執行されることになる。

リチャードは晴れてシャバに戻りヘヴィメタルの演者としてスターダムに乗っかり贅沢三昧を繰り返していた。テッドの死刑執行の日、執行官は「最後の望みをいいなさい」という。テッドはリチャードに合いたいと希望し、そして被害者の関係者のリストを手渡すのだった。テッドは「俺は君が言った被害者の家族、友人、上司、あらゆる関係者に謝りたい。といった言葉に感動して君の身代わりになった。獄中に居たら謝りに行けないだろう?だからこれからは君が一人ずつに謝りに行くんだ。」と残す。

ほんとうの真犯人はリチャードだったが、彼の身代わりになって死んだテッドの代わりになって被害者の関係者らに謝りにいくという、なんとも複雑で苦悩に満ちた物語。
死刑執行が電気椅子との設定だった。海外では一人の執行官がアームを引くのだろうか?日本では確か3人の執行官がそれぞれボタンを押す仕組みだから、執行官が鬱になるのを防ぐように出来ているが・・。

また電気椅子での死刑の場合、頭に被せる帽子の下に水を湿らせたスポンジを乗せて死刑囚の頭が黒焦げになるのを防ぐのじゃなかったかしら?
どちらにせよ、死刑執行されてしまった場合、事件そのものが終わってしまったという理由で真犯人が解っても罰せられないという法の抜け穴は不思議としかいいようがないのだが・・。

ここに登場する警察官が頼りなくてはちゃめちゃ。ものすっごく弱腰だ。笑
川添は赤と黒で膨大なセリフを吐くが、よく頑張ったと拍手を贈りたい。こういった2バージョンは役者泣かせだけれど、川添はちっさな体で本当に根性があります。演出もお見事!
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プロデュースユニット四方八方

d-倉庫(東京都)

2011/12/07 (水) ~ 2011/12/11 (日)公演終了

満足度★★★★★

絶妙な間合い!
初のオムニバス公演ということで、ものすっごく期待していたのだけれど、開演時間を14時と間違えて行ってしまった為、1話を見逃してしまった。ホント残念だった。そしてなんだかんだいって、4話目の「リハビリ」、これがめっさ、面白い!

以下はネタばれBOXにて。。

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2話「昼夜」
男(高野アツシオ)と女(石田麻織恵)がシェアする部屋での光景。
男は警備会社に努め、女とは昼夜逆転した暮らしぶり。そのうち男はジャージを脱ぎっぱなしで洗濯もしない。当然、部屋は汚れ放題で、シェアする女はストレスが溜まる。そんな女の気持ちは御構いナシで、男は脱いだジャージで絵模様を作って遊び始める。こういった男のロマンというか、遊び心は男にしか出来ない描写だ。しかし、女はそんな男を懲らしめるために、少年のような悪戯を決行する。男と女の奇妙で心温まる二人芝居。高野アツシオのお尻が美しい。笑


3話「管理人」
男(関幸治)の借りた部屋に、シェア希望の女(宇佐美恵子)が転がり込む。女は彼に振られたばかりで同じように男も彼女と破局を迎えたばかり。お互いになんとなくお互いを利用しているような心もちだったが、男はアプリ開発をしながら、女を共存としてではなく単体としての行動を管理して留守中にビデオに収め記録していた。これを知った女は「今度は私が管理してあげる」といって男の手首を自分の手首に縛り付ける。シェアも相手によっては危険を伴うというデンジャラスな描写。

4話「リハビリ」
実はこれがめちゃんこコメディだった作品。勿論、笑い転げて楽しんだ。
シェアしていた畑(村尾俊明)が出て行ってしまってから、残されたオカマと男2人は畑サンプルを設定して彼の扱いを巡ってシュミレーションを行う。このシュミレーションの情景がとにかく可笑しい。セリフの間合い、言葉選び、キャストらの表情、特に村尾俊明のダルさ満点の演技力が素敵だ。ウザイと感じていたメイト達が静か過ぎるシュミレーションでは、かえって畑が気を遣ってしまうさまや、賑やかで畑が巻き込まれているさまの光景がなんとなく温かみのある芝居だった。

このぶんなら「ままごと」も素晴らしかったに違いない。どの短編も違ったカラーが楽しめて絶妙な舞台だった。コメディのセンスが抜群なオムニバス!役者が素晴らしい!物語は分かりやすい。終演後、拍手が鳴り止まなかったのははやり他の観客受けも良かったのだ。シェア、場合によってはいいなぁ。してみたいなぁ。。
明け暮れ狂想曲

明け暮れ狂想曲

劇団キンダースペース

劇団キンダースペース アトリエ(埼玉県)

2011/10/05 (水) ~ 2011/10/10 (月)公演終了

満足度★★★★★

「どん底」そのもの
舞台は「どん底」をモチーフに再現しており、キャストの演技力も抜群だった。 地下の傾きかけた木賃宿で暮らす貧困層の人々のその日暮らしを描いた物語。

以下はネタばれBOXにて。。

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宿主・コストゥイリョフを雁次郎、その妻ワシリーサをお万、ワシリーサの情夫ペーペルを権八、ナターシャをお花とし、日本名に置き換えているところは実に馴染みやすかった。

人生の底辺に暮らす人々の可笑しくも悲しい人間模様と、貧困という牢獄から抜け出すことを夢見ながらも、抜け出せない彼らは誰一人幸福になることがなく、どん底にいる市民たちは、歌と酒だけを娯楽に日々の生活を送っていく。

ここでは、鍵屋の女房や役者は登場しないが、他人を当てにして自らは何も行動しようとしない3人の暮らしの描写だけでも充分に可笑しみを表現していた。その悲惨な姿は悲しみを通り越し異様なほど面白いのである。

舞台セットは木賃宿の湿った不潔感や泥臭い雰囲気が見事に演出されていて、見応えのあるお芝居。また、ここの劇場は初めて来たが30~40人程度の客席で、まさに眼の前、直近で演じられる濃厚なお芝居を堪能した。是非にお勧めしたい。
ぼくはだれ

ぼくはだれ

RISU PRODUCE

シアター711(東京都)

2011/10/06 (木) ~ 2011/10/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

流石はプロ集団!
2009年に行なわれた第19回下北沢演劇祭の際に上演した作品の再演。この年の同じ舞台を観ていることから懐かしさでひとしお。
また同年の7月に大阪で行われているロクソドンタフェスティバル2009にも参加し参加団体24団体の中、見事グランプリを受賞し同時に最優秀脚本&作品賞の三冠賞を獲得した作品でもある。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

裏日記はこちら http://ameblo.jp/misa--misaki/

ワタクシにとっては再演による観劇だったが、すこ~し脚本をイジッタようで、初演よりはずっと解り易かった。しかし、初演の作品はそれはそれで衝撃的な舞台だったし、今回もストーリーは覚えていたが、まったく新鮮で技能的な舞台でもあった。
プロ集団!と名乗るだけあってキャストらが演じる緊迫感は客席を飲み込み、コホン!と咳も出来ないような状況の中、確かにズシン!!と心に響いた問題作でもあった。

ストレイトプレイ会話劇。
強盗放火殺人事件の被疑者として逮捕された主人公と、刑事達との11日間の攻防。
作品はかなりリアルに作られており、専門用語も飛び出す。この劇団の持ち味は序盤に観客の全てを目の前に強引に引き込む力があることだ。今回も浜谷康幸が演じる刑事が被疑者に本気でビンタをハルシーンで度肝を抜かれる。浜谷の巨人のような大きな手でだ。苦笑!

こういった場面を見せつけられると、役者同士の本気のぶつかり合いがこれから始まる舞台の物々しさを予感させるに充分な演出だ。8人のキャストで繰り広げられた取調室での攻防劇だが、8人全員の演技はお見事で大迫力だ!

強盗放火殺人事件の被疑者として逮捕された亀谷被疑者は潔白を主張するも、これを真っ向から「人殺し」と決め付け暴言を吐く刑事が居た。この刑事が奥田刑事だ。

妻と子供を殺害された過去を持つ奥田刑事は被害者意識が強く、過去の事件を未だに許せなかった。その為、犯人逮捕に執念を燃やし、その執念はやがて自白の強要や密約、脅しなどで無実の人間を有罪にしてしまうのだった。

刑事達と犯人との取調室での攻防や被疑者と弁護人のやり取りに緊張感が走り、一瞬たりとも目が離せない舞台だ。まるで映画を観ているような綿密なやり取りに、緊迫感が走る。

本の練度も秀逸で隙がない。また、それぞれのキャストがこの役を演じる為に生まれてきたように思え、まったく違和感がない。刑事との密約によって被疑者の証言が二転三転する感情の襞のぶれも良く理解できて、素晴らしい舞台だった。その証言の反転に翻弄される弁護人。被疑者を助けたい、と心から思う弁護人は被疑者と刑事の密約を知って、刑事に嵌められた事を悟り、愕然とする。証言を何度も変える被疑者に対して弁護人は呟く。

「いったい、貴方は誰なんだ?」

また一方で、殺された家族の復讐の為に殺人を犯した犯人と刑事との攻防では、刑事の人間らしさが垣間見られて、素晴らしい舞台だった。犯人の心情もしかり。
前回同様、感動で震えた。

また、終焉後に松本匠が「小劇団というのは中々恵まれないものでして・・、それでもこの舞台をご覧になって、来てよかったと感じて頂ければ幸いです。またこれをきっかけに、舞台で何かを感じ取って頂きましたら、他の小劇場の舞台も是非に観てください。」との実に誠実なコメントがありました。お人柄を感じさせるコメントでした。

現在、同作品がドラマ化へ向け、企画が進行中でもある。とのこと、こちらも素晴らしいですね。
獅子吼〜シンハナーダ〜

獅子吼〜シンハナーダ〜

innocentsphere

ザ・ポケット(東京都)

2011/10/05 (水) ~ 2011/10/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

あまりにも素晴らしい!
2007年、紀伊國屋サザンシアターで好評を博した「獅子吼」の再演。
以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX

舞台は海に囲まれた南国の島の洞窟。

洞窟の中で暮らし、洞窟を出る日を待ちわびている十数人の男女は、ある日、自分たちが死んでいる、という事実を知る。しかし彼らは死んだ記憶がなかった。私たちは、何者か?なぜ、ここにいるのか?
彼らは、かすんでゆくそれぞれの記憶を手繰り寄せながら、自分たちの過去を「芝居」として演じることで、記憶の奥、闇に包まれた真実を、解き明かしていくことを決意する。

演じながら彼らは敵の攻撃を受けて死んだ、とするも何かが違う。過去の記憶は何者かによって作為的に操作されているかのようにも感じる。そして壕の中で起こった事柄を何度も演じなおすことで彼らの記憶が鮮やかに蘇ってくるのだった。

神の国として日本全体を統合していったが為の軍人達のマインドコントロールされた独特の意識は、日本人の誇りや恥や敵に屈しない自害精神を高く掲げ個人の死など所詮意味を持たないなどと言い放つ日本帝国陸軍徳之沖島地区隊の小隊長のセリフが痛い。

一方で小隊長に対して、「自分に陶酔しているだけ。この混沌とした世界を導こうとするなら、この自分が生きて導かねばならない。」と吐くユタのセリフがズシン!と響く。
こうして彼らは記憶のピースが繋がり一つの絵画となったとき、彼らの彷徨い続けた魂を回収するかのようにその記憶も彼ら自身も消えてなくなるのだ。

素晴らしい舞台だった。導入音楽、照明、舞台衣装、演出、キャストらの欠点のない演技力。これらが一つにまとまり芸術的舞台だった。特に照明の川口の仕事が神がかり。
【追加公演決定しました!】『B4 paper books 2』

【追加公演決定しました!】『B4 paper books 2』

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2011/10/26 (水) ~ 2011/11/06 (日)公演終了

満足度★★★★★

【黒の章】を観劇
【黒の章】を観劇。
『きこりと木の精』 が異常に良かった!

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX



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『ジャック・ザ・リッパーたるために』
1888年、ロンドンを震撼させた切り裂き魔ジャック。しかし、その正体は定まらなかった。 これは一挙に怪しまれた4人の被疑者が、切り裂きジャックたるための供述を記した記録寓話である。

・・・から始まるこの物語は5人目を殺したのは俺じゃない。これは贋作だと言い張るジャックの言葉を受けて、4人の被疑者が5人の娼婦をどのように殺したかを再現したものだ。実際、殺されたのは長い事ブサイクに甘んじて生きてきたババアだ。しかし、ここでババアに演じてもらうわけにいかない。今回は此奴らにババアの役をやってもらう・・・と、あと10年もすりゃあババアになる女優たちが演じるのだ。

それぞれの女優たちは男に殺されるまでを演技するのだが、あまりにも倒れ方が美しいのが川添だ。川添は死んだ後の絵のような画を鏡で見ながら練習したのだろうか?


『きこりと木の精』
3篇の中で一番好みだったのがこの物語だ。大人の童話さながら美しいファンタジーであった。
男は長くきこりとして俗世から遁れていたためか、目に映る人々の中に木人が混ざっているような気がしていた。中にはすでにしっかりとした木の幹になっているものもいたので、きこりとしては伐るしかなかった。そうだ、家を建てよう。・・・きこりを演じたのが中尾僚太。彼はこれを演じる為に生まれてきたような男だ。物語の中にしっかりと溶け込み、きこりの鬱積した生き様を見事に演じていた。

またこの物語をファンタジックに魅了したのが演出力だ。きこりが木人を伐った址には木の足首と赤い靴が取り残されていた。青い靴でなく赤を使うところが実に素晴らしい。そして31名の行方不明者は森に居るんじゃないか?と説いた刑事が木の幽霊に誘い込まれ、自身も木人になってしまうシーンは残酷だが妖しくて美しい。そしてキャストの全員が全身タイツで蠢くさまはエロく官能的だ。木人は流れるように自分たちで家を建てて築き上げる。死体を隠すなら死体の山を作れ!
照明も素敵な大人の寓話。


『黒髪と魚の足とプレシオサウルス』
サーカス団はフタバの人体切断マジックで大好評を博した。しかしこれはマジックではなく実際にフタバの足を切断していたのだった。やがて何度も切断してはくっつけしているうちに、思うようにくっつかなくなり、サーカス団員のフィッシュとフタバが提案したのは人魚による遊泳ショーだった。フィッシュを想うあまり犠牲的精神で自分を切り刻んできたフタバの怪奇と狂気の生き様を描いた物語。
残酷ショーをみているような気分になって、正直言って、こちらはあまり好みではなかった。

黒と赤を観て気が付いたことだが、何かが足りない・・とずっと考えていた。そしてそれはコメディと狂気を分け隔てる空気の遮断だ、と思う。どの物語にも狂気とコミカルさが点在している。だからそこに漂う空気感がぐだぐだになってどっちつかずになってしまうことだった。これをどうにかしないと狂気と滑稽の繋がりも曖昧になってしまう恐れがある。ここ、どーにかならないだろうか・・。
タイム・フライズ

タイム・フライズ

ミュージカル座

THEATRE1010(東京都)

2011/12/01 (木) ~ 2011/12/06 (火)公演終了

満足度★★★★★

熱い時代の申し子たち
オープニングがめっちゃカッコイイし、流石にミュージカル座だけあって歌があまりにも素晴らしい。

以下はネタばれBOXにて。。

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平成生まれの哲平と大輔は就活するもなかなか決まらず、なんとなく過ごしていた。そんなある日、ひょんなことから平成から昭和にタイムスリップしてしまった二人は1968年、安保粉砕!権力反対!ベトナム反戦!!などとシュプレヒコールする学生運動の真っ只中に入り込んでしまう。

当時の世相や風俗を散りばめながらコメディタッチに描きつつも、昭和と平成、二つの時代の若者の姿を対比させて描いた熱く沸き立つようなミュージカルだ。一方でこの闘争に参加していた哲平と大輔は、若かりし頃の大輔の両親が、過激に学生運動を繰り返していたのを見つけて驚く。当時の両親がどんな思いで学生運動に参加したのかにも焦点を当てながら、ほっこりとした温かいエピソードも交える。

世の中の矛盾を感じて国を変えようとした彼らの行動をみて、平成生まれの哲平と大輔が感じたものは、自分達はあれほどの情熱を持って社会に立ち向えただろうか?ということだ。個人的には彼らのような恵まれた能力を暴力に使うのではなく自分が権力の一部になって国を変えたらどう?なんて安易に思ってしまう。

やがて平成の二人はタイムスリップして過去に行ったときと同じようにひょんなことから現代に戻ってくる。昭和の激動の時代を体験した二人は、少しだけ大人になった。今は平和だけれどちょっぴり生温い感覚も感じながら、哲平はNPOとしてアフガニスタンに活動の場を求め、そこでかつての学生運動のリーダーだった神崎に合う。大輔は「いつか小さな会社を持ってみたい」との夢を叶えた父の会社の跡を継ぐことに。

冒頭から平成の大学生コンビ(松原剛志、中本吉成)がコメディタッチで演出され楽しくてかわいくてとっても素敵だ。素晴らしい歌声と共に舞台全体が回転する鉄骨3階建ての舞台美術もド迫力だった。

笑いあり、涙あり、昭和な時代を感じて平成の時代を考える熱いHOTなミュージカル。
ユーリンタウン-URINETOWN The Musical-

ユーリンタウン-URINETOWN The Musical-

流山児★事務所

座・高円寺1(東京都)

2011/10/14 (金) ~ 2011/10/30 (日)公演終了

満足度★★★★★

今村洋一と関谷春子がいい!
アングラミュージカル。
地球上の干ばつにより、節水を余儀なくされた近未来のある街が舞台。ここでは有料公衆トイレの使用を義務付けられており、立ちションなどをすると警官ロックストックらに逮捕され、誰もが恐れている「ユーリンタウン」(実はあの世)に送り込まれることになっている。全てのトイレを管理しているのはUGC社。この法律はUGC社長クラッドウェル(塩野谷正幸)が賄賂で作り上げたもの。

以下はネタばれBOXにて。。

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貧民街の公衆便所NO9では今朝も、金がなくてトイレを使用できないホームレス達が大騒ぎ。そんな中、管理人助手ボビーの父親(大久保鷹)が我慢しきれず、立ちションをし、「ユーリンタウン」に送られてしまう。ボビー(今村洋一)は失意の中、美しい娘ホープ(関谷春子)に出会い、恋に落ちるも自分が今何をすべきかに気づく。それは自由を求めて「革命」を起こすこと。ボビーは立ち上がり、ホームレス達はこれに賛同し、街は大混乱となる。

ボビーがついにクラッドウェルらと対峙した時、ホープが彼の愛娘だと知るが、二人の思いはいっそう強くなるのだった。ホープを人質にクラッドウェルと交渉するボビーだったが、クラッドウェルの陰謀によってあっさりとボビーはうっしっしビルの屋上から警官ロックストックらに突き落とされてしまう。息をひきとる前にボビーはホープに宛てた遺言をリトル・サリー(坂井香奈美)に託す。それは未来に対しての希望や夢や自由の言葉だった。

これを受けてホープはボビーの意思を継ぎ、革命の主導者となり、父のクラッドウェルをうっしっしビルの屋上から突き落とし、晴れて自由を勝ち取るのだった。

UGC社を引き継ぎ社長となったホープは愛とか正義に有頂天になって、肝心の水を管理する能力に欠けていた為、水を枯れさせてしまう。人々は倒れ街は消滅しやがてホープ自身もカラカラに干乾びてしまった。というお話。

物語に悲壮感はない。全体的にコミカルにパッショナブルに進んでいくため凄く楽しめるエンタメだ。入場すると、女子警官ロックストックらがエロい格好で、トイレや携帯電話の諸注意や客席誘導をしてくれる。ちょっとした大衆キャバレー風の衣装だ。笑

舞台は生音楽と同時に始まるが、とにかくキャストが秀逸だ。舞台セット、衣装、そしてミュージカルとしてちゃんと成り立っており、キャストらの気迫がビンビン伝わってくる舞台だ。主役を演じた今村洋一と関谷春子が特に素晴らしい。歌も素敵だ。今村洋一は小劇場の舞台で何度も観ているが今回の舞台では水を得た魚のように益々、活き活きとしていた。関谷にいたっては、初見の女優だがポップでキュートな雰囲気を上手く演じていて好感の持てる女優だと思う。そして警官バレルの清水宏もいい。彼を何度も舞台で観ているが相変わらず客イジリのヒットメーカーでどこの舞台でも同じようにインパクトがあり演技力も豊だ。警官ロックストックの別所哲也もサービス精神旺盛で、観客を楽しませよう、楽しませようと努力していて、その使命感が素敵だった。

役者が吐くセリフにはハートに聞けとか、愛は信じるものとか、自由を求めてとか、ベタでしびれるセリフが羅列する。解りやすいエンタメだ。このちょっとクサイ、アングラ的なセリフで観客は感動し泣けるのだ。革命を象徴する自己批判や自由、人種差別や階級のセリフも盛り込み、全ての民は罪人。と括るところは中々上手い。一人がみんなのためにみんなが一人の為に革命し、自由を勝ち取り、やがて水不足で死んでしまう愚かな人間たちの狂想曲!笑

全席指定4800円 2時間40分 ミュージカルとしては破格でリーズナブルだ。観劇して大満足だった。お勧めの舞台。
鳥ト踊る

鳥ト踊る

はえぎわ presents 真夜中

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/10/26 (水) ~ 2011/10/31 (月)公演終了

満足度★★★★★

アートな女
なんすか、この面白さは。笑
幕が開けると一人の女(男優)が頭上1メートル上の高さに吊るした扇風機の羽に髪の毛が絡まり身動きがとれなかった。
もう、この情景を観た途端、プッ!!と噴出してしまい可笑しくなってしまったワタクシ。笑

以下はネタばれBOXにて。。

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そしてみたからにその光景は完璧なアートとしてそこに存在し、女の髪は天を目指して竜巻のように扇風機の羽にくっついてる。こんな見せ方はノゾエの感覚の素晴らしさで、これだけでワタクシがノゾエの作品にぞっこんなのが解るというものだ。

こうして、ひょんなことから身動きのとれなくなった女に遭遇した男は、たぶん、一目で彼女を気に入ってしまったのだろうと推測する。なぜって、女はとても可愛いのだ。そして女のワタクシが見ても表情やら仕草がやけに色っぽくてキュートなのだ。こうして男は手が不自由だと女に嘘をついてまで、彼女の髪を扇風機の羽から解きたくないようだった。

男は作家だといいながら、本のネタを女と一緒に考え、相変わらず、女の髪を解こうとしない。そして女も携帯電話があるのに警察にも連絡せずに先輩にどーでもいいような電話をかける。笑
とにかく男と女の会話がシュールで不思議で必死で滑稽なのだ。やがて男は毎日少しずつ女の元に数時間、髪を解きにやってくる。男の企みは、こうして誰にも女を渡さず女の髪を毎日少しずつ解く日々を送りながら女の感情が自分に向くことを期待して通い詰めるのだ。笑

要は宝引きと同じで、そうあっさりと手(髪)を放してしまわないほうがよろしいようだ。じっくり粘ったらハズレが当たりに変わることもあるように、律儀に逢瀬を重ねて口説けば、女もだんだんとほだされていつの間にか一番心を許す相手になっていたという話をよく耳にする。

だから男はせっせと通いつめ、女の人の身体は衰弱していくが、そうした日々を送っているうちに男と女は同じ感情が芽生え、身体が近寄る数時間を楽しむ二人になっていった。そして、チューをする二人。「また明日。」・・・男はこういって女の元を去るが、もし男が不慮の事故で死んでしまったら、女はくる日もくる日も男を待ち続けるのだろうか。

そんな愛おしい物語にも、やがて最後はやってくる。男は案の定、不慮の事故で死んでしまうのだ。しかし、男はここを出る前に髪を切るハサミを置いていったのだ。

ワタクシが観たのはA「男」:男優×「女」:男優バージョン。
大人の童話さながら、美しい夢物語でファンタジーだ。このまま、童話になりそうな繊細で楽しい本だ。男と女の感情の機微を絶妙に描写したこの本は、好きな女を自分の手元に置いておきたい男の心理を表現した「コレクター」でもあった。

惜しむらくはキャストが噛んで聞き取れないセリフがあったこと。しかし全体的に好みだった作品だから許せる範囲。
「極めてやわらかい道」千穐楽!23日は13時開演!!当日券アリマス

「極めてやわらかい道」千穐楽!23日は13時開演!!当日券アリマス

ゴジゲン

駅前劇場(東京都)

2011/10/06 (木) ~ 2011/10/23 (日)公演終了

満足度★★★★★

書きの苦しみ!笑
脚本家というのは書くのが苦しいのだろうか?およそ作家に程遠い位置にいるワタクシは書くことを商売にしていない次元なので、そういった苦しみは解らない。当日パンフの 松居大悟の言葉は、書くのが限界だったが今回の本は自分に素直に作れた、とあった。松居はめちゃくちゃ陰の人間っぽいから、自分を押し殺して、陽気な台本やポップな内容に仕上げようとすると恐らく免疫という危険分子が松居自身をプレッシャーに追い込むのだろうか?笑

以下はネタばれBOXにて。。

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そんな 松居大悟 の描く世界はストーカーだ。彼らが姫と言っている対象はピンサロに努める大橋紀美子という30を過ぎたブスらしいが、彼らの中では姫なのだ。その姫を守ると称して、彼女の行動や買い物を全てチェックし、ゴミ袋から姫の捨てたゴミを収集する。姫の現カレを王子として崇め奉る彼らは、姫の元カレたちだ。笑

彼らは変態じゃない。彼らは独自の国家を作り姫を守るも姫に干渉しないという、これまた独自のルールを遂行する、云わばヲタ集団だ。だから姫を共有し守るという姿勢が彼らの趣味みたいなもので、常時、姫を監視し、だけれど干渉せずに、常にワーワーと騒いでる男たちだ。つまり姫の近くで姫を覗き見できる彼らのアジトは、俗に言う秘密基地みたいなものだ。

同じ目的を持ち、同じ空間を共有する彼ら自身は案外、楽しいのだろうな・・とも思う。この時点で孤独感はなく皆で遊びに興じる格好だ。そして誰もが恋の仕方を解らず、自分の中で姫を過大妄想してしまう。秘密基地に居る間は彼らは孤独でもなく、また変態でもない。彼らの国ではこれが普通なのだ。そのうち抱きしめられる、という行為を経験しない彼らは、自分を抱きしめた相手に恋してしまう。相手が男でもだ。ハグ。なんて素敵な行為だろう。だから愛情に飢えていた彼らはハグされ恋に落ちてしまうのだ。笑

こうして、小さな国家の中に居る彼ら住民は、家族のように緩やかに穏やかに独自の精神世界で遊びまわるのだが、ここに訪れたチンピラも、その世界の虜になってしまう。少年時代のような世界に。間違った遊びはどんどん拡大し、やがて、自傷する男、逃げ出す男、姫に刺される男などが出てくる。そして、姫自身の自殺をきっかけに、この危険な遊びは遂に解散し、ちりじりに散っていくのだが、そういった後の不条理を伴う空虚感は松居の本の素晴らしいところだとも思う。

ワタクシ自身は存外陽気な人間だ。だから内に篭るという感情も、勿論、引き篭もるという行為も解らないが、誰かを思い詰めて鬱になる感覚は解らないでもない。面白い作品だと思う。また登場するキャストのキモい演技力も流石だ。松居の世界感を表現する次の作品も楽しみだ。次回も、観客まるごとブチかまして欲しい。笑
ある日の出来事

ある日の出来事

リブレセン 劇団離風霊船

ザ・ポケット(東京都)

2011/11/09 (水) ~ 2011/11/13 (日)公演終了

満足度★★★★★

あまりにも素晴らしい!!
1983年の旗揚以後、大橋泰彦さんと伊東由美子さん、二人の座付き作家の作品を 上演し続けている劇団離風霊船。おおよそ30年の歴史を誇るだけあって、ものすごおく素晴らしい作品でした。まさに圧巻!7年ぶりの伊東さんの新作公演は「あっ」と驚く構造と演出を盛り込んだ作品展開や舞台仕掛けが特徴で、テーマは、人間の善悪やエゴイズム。

以下はネタばれBOXにて。。

ネタバレBOX


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現代社会に対して投げかける「伊東由美子版 罪と罰」ともいえる作品だ。当初、劇団の名前を読めなかったが「りぶれせん」という。その描写はおどろおどろしい印象でもあり、アングラ的な香りもあって次第に、じわーっと深い味が広がってくるのが体感できる。選曲も素晴らしく、幕開けと同時に殺人シーンから魅せる舞台は観客をいきなり舞台に引きずり込む力量がある。

物語は主人公・市川がゴミのような仕事に就いてから、自分自身を卑下し、また回りの同僚達もおのずと自分達はクズのような人間だと嘆きながら、自らの人生をこんなはずじゃなかったと後悔し愚痴を吐く。こんな掃き溜めのような職場で独裁的で嫌われ者の主任を殺してやりたいと常々考えていた市川はある日、本当に主任を殺してしまう。

実際に手を下した人間と、手は下さないけれど、死ねばいい。と考えてる人間のその差は何だろう?などと同僚は言う。そして同僚は市川に主任を殺すことを共感し、そのように囃し立てる。また市川自身が母親と妹から多大な期待をかけられていたことも重荷となっていた。

やがて市川が主任を殺してから市川自身が妄想の世界に入り込み、何度もこの描写が繰り返される。現実と妄想と過去を錯綜するかのように市川の小学生の過去にもフラッシュバックして市川の心の闇も映し出される。

市川は「前にもきっとあんたを何回も殺してるんですよね。こんな馬鹿げた繰り返しはもう止めにしたいけれど、ここだけは変わらない。」と青光りした眼で人を見るようにのたまう。
それが仕組まれた輪廻で抗えないかのように・・。

物語は二重にも三重にも複雑な構造を仕掛けながら人間と言う奴は何かが重なって殺意に変換するさまも見せ付ける。やがて・・市川が刑務所で母親と面会するシーン。この物語だけではこれほど感動しなかったと思う。一にも二にも演出が飛びぬけて素晴らしい。更に劇中に導入されるダンスも面白い。秀逸な芸術作品だった。願わくばもう一回観たいほど。全てのキャストの演技力も秀逸で文句のつけようがない。特に山岸諒子の演技が神的だ。

劇団離風霊船、噂には聞いていたけれど、あまりにも素晴らしい舞台だった。大絶賛!

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