はじめ ゆうの観てきた!クチコミ一覧

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グッドバイ

グッドバイ

バストリオ

SNAC(東京都)

2013/07/03 (水) ~ 2013/07/06 (土)公演終了

満足度★★

舞台芸術の新潮流の一つを観る
バストリオは、メンバーが遊園地再生事業団(宮沢章夫氏の
演劇ユニット)に客演したり、参加していて気になってました。

この間の『ユリイカ』の特集で、佐々木敦氏がナカゴーや
ブルーノプロデュースらと一緒に注目の劇団としていたのが
今回の鑑賞に直接つながった形です。そうか、こういうのが
最先端を行く「演劇」「舞台芸術」の一つなんだ、と、腑に落ちる
部分がありました。

ネタバレBOX

本作の元となった太宰治『グッドバイ』(新潮社)は、不勉強
ながら未読なのでハッキリとはいえないですが、そこから
台詞を拾って、自分たちの言葉と有機的に結び付けることで
多分、太宰の時代から私たちが生きる時代まで変わることの
ない「グッドバイ」の持つ意味を一本にまとめ上げようと
試みたんだと思います。

時折挟み込まれる劇団側で作った台詞は少し壮大で、感傷的で、
そしてロマンチックだと思いました。多分、書いた人は
純粋な人なんだと思う。「人は死んだら、重量だけがそこに
残る」という台詞は、真実を衝いていて面白い、と感じました。

SNACの、内部だけでなく、外まで縦横無尽に使って行われる
舞台は、ただただすごいな、と。SNACの前って、普通に人が
通っているし、現にじろじろ見られていたし。役者にとっても
負担にならなかったのかな。

人の動かし方や小道具の扱い方に、遊園地再生事業団、もっと
いうと、宮沢章夫氏の影響は見て取れますが、かなりの部分、
物語性を排除しているため、演出の自由度は飛躍的に高まった
反面、なかなか観ている側の感情を揺り動かして、引き込むのは
難しいのでは、と感じました。

時間が約70分ということでしたが、そういうこともあって、実際には
2時間の舞台を見せられたような気がしました。そこが何とかなれば。。

本作を評価する、ある一つの指標となっている佐々木氏の
『批評時空間』(新潮社)もまだ未読なので、それを読んだ後、
再度、この作品を考え直していきたいと思います。
象

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/07/02 (火) ~ 2013/07/21 (日)公演終了

満足度★★★

全く古びない不条理演劇の代表作
日本の「不条理演劇」の大家であり、今も最前線で活動を
続けている別役実氏の代表作を、「桃園会」の深津篤史氏が
演出した作品。言葉が面白く、たどればたどるほど、迷路に
入っていくような感覚に襲われました。

ネタバレBOX

この作品『象』は、原爆によって背中に出来たケロイドを
人々に向けて見世物にすることで喜びを得ている男と、
その行為を止めなさいとたしなめる男、二人を軸にして
展開していきます。舞台は病院で、一人は、そして後半では
二人とも入院することになりますがその経緯も詳しいことは
分からない。状況が全く説明されない。

他にも。一面に分厚く古着が折り重なる舞台装置の上に
溶け込むように倒れている人々。あまりに一体化し過ぎていて、
最初どこから台詞が発せられているのか、分からなかったです。

そう、この劇、『象』ではハッキリしていることは何もない。
もしかしたら、二人の男は、精神を病んで、この病院に
いるのかも知れない。ただ一つ、おぼろげながら分かるのは
カフカ『城』のように、「あの町」があって、ケロイドの男は
そこでかつてのように見世物をしたい。もう一人の男は
男を「あの町」に行かせないようにしている事、くらい。

正直、後半の中盤部分に差し掛かるまでは、脈絡が全く
ない会話に、しょっちゅう変わる場面、追うことの
困難なストーリーなど、集中力がいる物語でしたが、

見世物の男が、また町に出て行って、昔のように見世物を
したい! と言い出すことから、一気に話が動き出します。

最後、着物の山の中から、死者の群れが無言のまま
現れてはくず折れていく様は、まるで、原爆投下の
もののみならず、全ての一瞬立ち上がってはすぐに
消えていく記憶そのもののようでした。

すごく恐ろしく見えるのは、往々にして、私たちの
中に想起される記憶が、甘美なものではなく、その逆、
二度と思い出したくないものに他ならないことを
はしなくも語っているようでした。演出家の深津氏の
並々ならぬ演出力の高さを目の当たりにして感激しました。

この劇、会話は全く脈絡が無いのですが、選ばれている
言葉の噛み合わせは印象的なのが多かったです。
例えば、以下のような。

「…死にたいとは、思わないのですか」
「自分で死ぬより、誰かに殺される方がいいな」
「どうしてですか」
「それって、とっても情熱的なことじゃないか」

痺れるような台詞のやり取りと、ラストのシーンの
不気味さだけで十分にお釣りがくる舞台だと思います。
つく、きえる

つく、きえる

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/06/04 (火) ~ 2013/06/23 (日)公演終了

満足度★★

「あの日」以来、気が付いたもの
作者、シンメルプフェニヒの作品は、倉持裕氏が演出した
『昔の女』を観ていますが、あの時のホラーっぽい内容とは
一転、本作『つく、きえる』は寓意に満ちた、結構難解な
作品になっています。

一応、「3.11」をふまえた作品だということになっていますが、
注意深く観ていくと、そこを超えたメッセージが見えてくる。
そのメッセージをどう思うかで、この作品の印象は大きく
変わってくるでしょう。

ネタバレBOX

あらすじは、ある月曜日、三組のカップルが不倫の逢瀬を
重ねる、港沿いのホテル。

滑稽なことに、三人のカップルは同じホテルを使っているのに
来る時間帯が異なってたり、偶然が一致していたりと、お互いの
存在に気が付かない。

そして、ホテルの若いオーナーは、少し離れた先の灯台守の
女の子、「ミツバチ」とお互いの仕事があり、会うことが出来ない
ために、もっぱらメールのやり取りだけでを繰り返している。
「会いたい」「いつ会えるのか」 言葉は繰り返されるけど、一向に
会えそうにない、そんな時間がずっと繰り返されるような、日常。

そこに、「3.11」を思わせるような、ホテルを海の底に一瞬にして
変えるような、そんな大きな津波が襲いかかってくる。津波が
本筋ではないので、最初、何があったのかよく分からない位に
幻想的な台詞と演出で描かれていて、スクリーンに波の映像が
使われていなかったら、津波とも気が付かなかったと思う。

一瞬の津波に飲まれ、命を失い、しかしそのことに気が付かず
家に帰る人々。大きな波によって余計なものが洗い流された
かのように、三組のカップルの間にも、元の相手に対する
別の感情、初めて相手に抱く関心、理解、温かい感情が
まるで火を点したかのように浮かび上がってきます。

それは暗く、鈍色をした、生命が全て死に絶えたような
舞台の中でほんのりと存在感を放っています。でも、
これって「津波」があったからのことで、もしその存在が
なかったら…? そう考えると皮肉な気がします。

ホテルの若いオーナー、「クジラ」のもとを、「ミツバチ」が
訪れるきっかけとなったのも、「津波」あったのことだし、
まるで当たり前のように繰り返されてきた日常は、脆い
ものであるが、私たちを取り巻く日常という枷が外れたとき、
真に自分が欲していたものが見える、だから、全くの悲劇と
いうものは、厳密には存在しない。そういわれているような
気がしましたね。

台詞は難解で、意図的に似た場面が繰り返されるため、
全貌はよく理解できなかったのですが、後半、一気に
シンプルになった展開を見て、そう感じました。
磁界

磁界

浮世企画

新宿眼科画廊(東京都)

2013/05/17 (金) ~ 2013/05/22 (水)公演終了

満足度★★★

「うわぁ、いるいる!」系の人たちの物語
浮世企画は、主宰の方がカムヰヤッセン『やわらかいヒビ』の
初演に客演した時から気になっていました。今回観ることが
出来て本当に良かった。というか、いちいち爆笑してしまった。。

ネタバレBOX

とにかくダメダメな男たちばかり出てくるのがいいです(笑

一番笑ったのは、登場人物の一人が勤めている町工場の、
二代目若社長。どうせ俺なんて…系の、なにかすごい勢いで
こじらせている、かなり面倒くさい人なのに、アイドル(しかも
14歳!)にだけは熱くなる、という、相当なアレっぷりに笑った。

でも、この作品、一番すごいのは、中盤の山脇唯でしょう。

「人間AIBO」からはじまって、恋人の浮気相手がマンションを
訪れた時の、ハイな飛ばしぶりは、客席のほとんどの人の記憶を
一気に奪い去ったと思う(笑 すごい勢いで笑いが起こり、正直
他のシーンの記憶が。。。

最前列だったので、「この泥棒猫がっ!」って叫んだ時、耳が
すごいことになりました。あと、「一軒目はハワイアン~」
すっごく笑いました、ナイス。

チケットが連日完売した本作品。後味もよく、上演時間もちょうどよく
佳品といってもいい話だと思います。
獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)

獣の柱 まとめ*図書館的人生(下)

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2013/05/10 (金) ~ 2013/06/02 (日)公演終了

満足度★★★

「異質なモノ」が「当たり前のもの」になる過程
見る者を幸福の渦中に突き落としてしまう、謎の柱をめぐる
人々の物語。というより、寓話に近いと思います。

百年前と現在とで、人々の柱のとらえ方がまったく
違っていることに、今自分が生きている現在でも
同じことってあるんだろうな、とふと感じていました。

ネタバレBOX

なかなかに考えさせられるテーマを持つ作品でした。

天から、神話の世界よろしく、人々に刹那の幸福を与える柱が
落ちてからというもの、目にするだけでマトモな日常生活を
送れなくなるような幸福感に包まれ続けるため、それまでの
文明社会は崩壊、

人々はそれこそ神話の世界のように都市部から田舎へ群れを
成して逃げていくが、ある程度の人口が確保されると同時に、
柱はそこにも落ちてくる。まるで「天の目」によって監視されて
いるかのように…。

百年前は災いを呼ぶ存在であったはずの柱が、現在では
人々の悩みを解消させる神として、「ミハシラサマ」として
信仰の対象にまでなっている皮肉、

百年前、それを見越した、田舎の村の代表者が、逃げてきた
研究者に柱を分析させる中で言い放った言葉、「悪い予感が
する。今、君たちがやっていることは意味のあることだ。柱の
存在についてはこれからの未来、何かイヤな感じがする。
ヘンに特別な存在として認識されるのはよくないよな」。

はたまた、柱が降る前に、同じ効力を持った隕石や変化した
看板などの登場で警告がなされていたにもかかわらず、
数少ない警告は無視され、黙殺されていた事実。

そして、百年後の現在、「柱は人々に幸福を与えてくれる、
尊い存在だ」という考え、というより思い込みが主流となり、
誰もそれを疑わない、昔に村の代表者が懸念したことが
事実となり、柱を見ることができる人、柱の神性を疑う人は
村八分にされること。

逆に、柱を乗り越えることが人類の発展と信じてやまない人も
立場が反対なだけで、実は柱を信仰している人と変わらない、
ということ。

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なんか、今の日本を深く考えてしまいそうな、そんな内容でした。

ラスト、柱を見ることが出来る子たちが、自分たちを利用しようと
している大人たちの手を離れて、新しい世界に踏み出していこう
とする姿は、

この日本で、ひそかに芽生えつつある、新しい視野や考えを持った
世代の台頭をひそかに感じたような気がして興味深かったです。
レミング ~世界の涯までつれてって~

レミング ~世界の涯までつれてって~

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2013/04/21 (日) ~ 2013/05/16 (木)公演終了

満足度★★★★★

ものすごく心地良いヂャンヂャン+寺山
先日行われたイベントで知りましたが、5月4日が寺山修司没後
30周年なんですね。寺山の仕事の中では圧倒的に演劇が好きです。
不条理で夢幻的な展開がカフカっぽくてかなりツボ。

本作『レミング』は、ファンにとっては天井桟敷の最終公演作品として
... 有名なのですが全く未見で、それだけに気になっていました。今回
観ることができて、本当に嬉しかったです! そしてその期待どおりの
作品でした。

ネタバレBOX

この舞台、演出が本当に面白かった。奇妙にねじれたような、でも
すごく癖になるBGMにかぶせた、役者達の5・7拍子で取られた動き、
そこで鳴らされる足音や台詞の響き、その全てが音楽的に、整然と
機械的にかっちりと演出されていて。

洞窟のようにも、都市の摩天楼のようにも見える舞台装置や、
宮沢賢治っぽい、どこか夢幻感のある衣装。すごく良かったです。
寺山が観たら、多分絶賛していたと思う。あくまで多分だけど。

あのミニマリズムは慣れてくると心地良くて、ずっとこの空間にいたい…
そう思えるようになってきますね。違うかもしれないけど、四つ打ちの
ダンスミュージックに身を任せるような、そんな高揚感があります。

ダンスミュージックで思ったけど、寺山の扱う言葉は多分にヒップホップ的、
今回の作品の演出に合わせて、細かく分解された流れで台詞を耳にして
実感しました。言葉の意味ではなく、流れや響きを重視していると思しき
ことや、韻をふんでいるようなかけ合いかたとか、

多分、今、寺山が生きていたら、ジャズの流れで間違いなくヒップホップに
傾倒していたと思いますね。そして20歳若かったら、絶対にその作風は
「ままごと」や「マームとジプシー」のそれと近かったはず。抒情的な彼等と
違って、冷ややかで即物的な作品に演出されそうな気がしますが。

物語は意外と笑える要素が多い、というか、笑いどころばかりでした。
八嶋・片桐のコンビネーションがよくて、いいタイミングで台詞を
差し込んできて、結果、客席大爆笑。

一番笑ったのは、無くなった壁の代わりに、修理人がサルトル『壁』を
置いていったのに対して、こんなステップで超えられそうなの、壁じゃ
ないだろっ! ほらっ、ほらっ! って、必死に八嶋が飛んでみせる場面と

松重豊扮する主人公の母親が分裂して、片桐がモグラ叩きよろしく
追っかけて回る場面かな。客席も、その笑いを誘う様子にドッと
沸いてたな。

最後、狂気に意識が分裂し始めた八嶋が静かに眼鏡を外してニヤっと
笑い、ボソッと台詞を呟いた刹那、けたたましく鳴り響く音楽と一緒に、
舞台上の狂気が一気に客席にまで拡散していくような気がして、思わず
ぞぞっと鳥肌が立ちました。なかなかない希有な体験をしました。
また、生で観てみたいな。そうしたら、もっと別の構造が見えるのかも。
効率学のススメ

効率学のススメ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/04/09 (火) ~ 2013/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

「効率」という看板の向こうに見えるもの
「効率」という、分かったようでいて、その実よく分からないものを
めぐってのドタバタの喜劇、というのがこの作品、『効率学の
ススメ』に一番合った紹介ではないかと。

目に見えないものに、いかに人がよくも悪くも翻弄されるのか、
その一端に触れたような気がします。

ネタバレBOX

表面上はうまくいっているようで、実際三者それぞれが
違う方向を向いてしまっている研究所の職員たち。
そこに、「最大効率化こそがわが使命」と自ら恃んで止まない
ビジネス・アナリストのケン・ローマックスが送り込まれてきた。

関わった先では、数々のリストラや事業縮小が引き起こされ、
その名がとどろくケンを目の前に、研究所の所員たちも
自分達も「効率化」の名の下にリストラを迫られるのではないか、と
疑心暗鬼を抱くようになる…。

という話。ここまで書くと、なんか凄惨な話を想像する人も多そうですが
自称「イケメン」研究員のジェスパーと、なんとか威厳を保とうとしつつも
実は小物だったという研究所の責任者ブラウン氏の存在が、なかなかに
いい味を出しています。

ブラウン氏の場合、奥さんまで巻き込んで、ケンを懐柔しようと
しているのに、全然うまくいかない、そのダメぶりが、もう何というか…。

「効率」の守護神のようなケンが徐々に変化して、ラストでは
「ブラウン氏の非効率的な運営こそが、最大の効率化を生むのです」
「そのため、ただちに、ブラウン氏を昇格させて、もっと多くの部下を
持たせ、さらなる効率化を図りなさい」と提案するのは、

映写された「科学的発見の第三段階:人は間違った人物に功績を
認める」の一文とあいまって、すごくよく効いていましたね。

ただ…ケンという人物が、どのくらい「効率主義」の権化なのか、
序盤をのぞき、描写が無かったので、「効率」「効率」と連呼しても
伝わらなかったかも…。普通に所員たちと長話をしているし(笑

テーマは面白かったんだけど、そういうところも含めて、ツメの甘さが
目立ちました。でもラストはなかなかに微笑ましくていいです。
ジェニファーがジェスパーに電話番号を書いた紙を叩きつけて
出ていく場面とか。ケンが必死に天気の話を予習するところとか。
ああいうの、いいなぁ。
長い墓標の列

長い墓標の列

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/03/07 (木) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

理念か現実か
本作の初演は1957年ですが、約55年が経過した現代においても
舞台の設定を変えるだけで、そのまま今の日本の状況をものの
見事に説明しているような気がして、正直少しぞっとしました。

何故なら、本作の最後は、「理想の死」と、最早逃れられない
「破滅」と、醒め切った「現実の蔓延」で幕切れを迎えるからです。

それを客席から観ている自分にとっては、現在の日本の未来は
まったく同じ地点に帰結するのではないかという考えがひしひしと
するのです。

ネタバレBOX

物語のあらすじは「説明」にある通りです。

この作品で最も重要と思われるところは理想的自由主義的
社会主義を掲げ、「人間の可能性は無限大だ」を奉じる山名と、
その弟子である城崎の対立でしょう。

あくまで、「人間の可能性は無限大で、負ける闘いでも闘い
続けなければいけない」とする山名に対して、

城崎は全く違う意見、「万人が先生のような正しさに
生きているわけではない」、「既に終わってしまった大学でも
教えを請いに来ている学生はいる。彼らを自分の理念だけで
見捨てるわけにはいかない」、「そもそも先生の発言はつまらない
ヒロイズムに過ぎません」を言う。

観ていて、太宰治の「駆込み訴え」を思い出しました。

「理念に生き、美しいままでありたい」とする山名に対して、
人間はそうなれるほど強くはないとする城崎の対立。
城崎が最後、山名を裏切り、大学に復職するところが
イエスを裏切った、弱いユダを思い起こさせました。

もちろん、山名の確固たる姿勢にも瑕疵がないとはいえません。

「理想に生き、美しいまま生をまっとうする」というのは、自らの
理想的民主主義的社会主義の立場からみれば、人間本来の
精神に則った、発展的、進歩的な生き方かもしれませんが、

この「理想」を「八紘一宇」、もしくは「大東亜共栄圏」の理想に
置き換えてしまえば、なんのことはない、意見を異にする、
革新派の立場とそう変わることはないのです。

現に、憑かれたように研究を重ね、命をも燃焼させている
山名の姿に、私は気高さというより、妄執のようなものすら
覚え、そら恐ろしさすら感じました。

そこにあるのは、城崎がいみじくも言い放った、「ヒロイズム」であり、
日本民族の未来は我にあり! とする、旧来的な知識人階級の全人
善導型の指導体系に過ぎないのです。

その、単純に過ぎない対立が、本作『長い墓標の列』であり、山名と
城崎―「理想主義」と「現実主義」の終わることのない対決は、現代
日本の潮流の中にあっても脈々と生き続けていると言える気がするのです。
範宙遊泳展

範宙遊泳展

範宙遊泳

新宿眼科画廊(東京都)

2013/02/16 (土) ~ 2013/02/27 (水)公演終了

満足度

一つにした方が良かったのでは…。
山本卓卓の一人芝居「楽しい時間」、残りのメンバー二人での
「幼女X」の二本立てで行われた本作。

少しだけSF設定入っているような「楽しい時間」も、男の鬼気迫る
独白がなかなか面白く、幻想的なラストの「幼女X」も、主に時間の
問題で、まさに「帯に短し、たすきに長し」の状態で、なんか
食い足りない、物足りない印象でした。

ネタバレBOX

「楽しい時間」の方は、明らかに「3.11」以降の状況を意識した、と
みられる、放射能の雨が降り続き、外出警戒令が発動されるような
近未来を舞台にした話。

舞台が始まる直前に、観客から、「雨の日は何をして過ごすのが
一番楽しいですか」のような内容のアンケートが配られてそれに
回答するのだけど、そこで書かれた内容が舞台での一小道具に
過ぎなかった、というのはちょっと肩すかしだった。

せっかく、雨の日でも、外にわざと出ていく人たち(一種の愚連隊?)
「雨歩(あまふ)」の存在もあったのに、活かされていないのが残念。
絡めれば、もっと面白かった気がする。

「幼女X」は、テーマは「コンプレックス」なのかな?
大橋一輝のテンション高めの若干一人コント入ったような演技は、
静かな空間に笑いの効果を生んでいて。

そして、背景の映像や文字とリンクさせた演出もスタイリッシュで
驚きだったけど。

実験性に重きを置きすぎて、お話の方は…だった。
ラスト、幼女暴行犯を襲撃した男が自殺し、その血が海になっていく、
という幻想的なくだりは小説っぽくて綺麗だな、と少し思ったけど。
次回作に今回の作品の試みはぜひ活かして欲しい。特に映像回りは。
IN HER TWENTIES 2013

IN HER TWENTIES 2013

TOKYO PLAYERS COLLECTION

インディペンデントシアターOji(東京都)

2013/02/06 (水) ~ 2013/02/11 (月)公演終了

満足度★★★★★

女性の人生
20歳になったばかりの「私」から30歳間近の29歳の「私」まで。
10人の「私」が自分史をそれぞれに語っていくという、登場人物が20代の
女優のみという、かなり異色の作品。すごく面白かったです!

最初は賑やかに、笑えて、でも最後は切なくも希望に満ちた、
良い意味で演劇の王道、そんな作品。

ネタバレBOX

20歳になりたての「私」は音大に通う、トランペットを演奏する子。
将来は海外への留学を経て、有名なオケで演奏する夢を語る。

29歳になった「私」は編集者。淡々とした語り口で、さらっとした
口ぶりからは、人生の酸いも甘いもある程度知った大人の女性の
顔をのぞかせる。

この二人を軸に、20代前半の「私」5人と、20代後半の「私」5人が
円陣を組んで、それまでの人生を振り返りつつ、夢や恋愛、仕事に
自分にとって大切な存在をゆっくり語っていく…

って言えればいいんですけど、この作品、笑いの要素も多くて。

25歳の「私」が大失恋して凹んでいるところに、26歳と27歳の
「私」がま、時が経てば忘れるって、って慰めに入るも、25歳からは
お前らが今そうしていられるのも、私が土台にいたからじゃないか! と
喰ってかかられたり、

27歳と24歳の自分とが価値観の違いから激しく応酬し合ったり、

同じ自分でもこんなに違ってしまうのだな、とほとほと感じました。

でも、女性ばかりわいわい賑やかにやっている舞台って華があって
いいですね、楽しくなります。単純に観ていて面白いです。

なんかこの作品観ていると、人生行路、脇道にそれたり、違う道に
紛れ込んだり、新しい道を作ってみたりと、最初考えていたのと
違うところに進むことはよくあっても、人間、最終的には、それなりの
ところ、必然あるところに落ち着いていくのだな、と。

劇中でも、大切な人はそんなに広がってはいかなかった、って
28歳の私がしみじみと語るのを観て、自分の人生まで考えて
いってしまいました。

最後、結構しんみりしてくる終わり方といい、この作品は笑って
感じて自分の中で温めて。そして、時に思い出すのが素敵な
楽しみ方のような気がします。
地下室

地下室

サンプル

こまばアゴラ劇場(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/02/03 (日)公演終了

満足度★★★★★

7年経っても全く古びない傑作
数年前の作品の再演だというのに、古びるどころか、
ある部分では、現実が劇の世界にゆっくりと近づいていっている。
そんな気配すら感じました。広いと思っていたはずの自分の周りの
世界が、実は閉ざされ切っている、でも、それに気がつかない。
滑稽なようでいて、誰にでも在り得るその恐ろしさに震えが走りました。

ネタバレBOX

サンプル立ち上げ前に、「青年団若手自主企画」として2006年に
初演された作品、『地下室』の再演。サンプル大好きなので期待
していました。

劇団『サンプル』の大まかな特徴は、
①閉鎖された狭い空間の中での、不条理で飛躍する物語展開
②直接的、かつ極端な性的表現
③引きこもり、閉じた、コミュニケーション不全の病んだ登場人物達
④ごみ袋をひっくり返したかのように雑然とし、でも大胆な舞台美術

があると思っていますが、本作は劇団最初期の作品なので、まだまだ
平田オリザ直系の現代口語演劇、ちゃんとしたプロットのある物語に
なっています。が、既に、作者である松井周氏の個性は確立されてますね。

『地下室』は、特殊な製法の水で話題を集めつつある自然食品会社の
閉鎖的な地下室を舞台に、そこで住み込み制で働く人々の、一種異様な
集団原理を描いた作品です。

閉ざされた空間では集団も閉ざされる。コミュニティの中では、「一人は
集団のもの」という「共有(シェア)」の原理が確立され、守れない者には
厳しい追及が待ち受けている。

揚げ足を取られ、激しく消耗し、集団の言葉、規則は絶対であると、
真っ白になってしまった頭に叩き込まれた後は、店長による、
「イニシエーション」という名の「交わりの儀式」が行われる…。

ここまで読んで、「これってカルト教団や過激派のコミュニティで
起こっていてもおかしくないよね」と思うかもしれません。まさに
そうで、集団の中でしか通用しない不条理なルール、外部からは
コミュニケーション不全に見える組織構造、やたら性的に乱れて
ぐちゃぐちゃになった人間関係など、

ある種の、人間の集まりの赤裸々な姿をのぞき見たような気分に
陥りました。

個人的には、現在の日本社会で一部叫ばれる、「私欲から共有へ」、
「お金より大切なものはある」という言葉が、本作では、歪み切った
コミュニティをつなぎ止める一種のマジックワードになっているところが

あぁ、今の時代の空気感を見事にすくい取っている傑作だな、全然
古びていないな、と強く思わせる要因になり、非常に楽しめました。

登場人物の一人が叫んだ、「今、目を開いたって、外の世界は汚い
ものばかりじゃないか!」、「お前もいい加減目を閉じろ!」という
台詞、あまりに秀逸過ぎてうまい感想が思い浮かばないほどでした。
演劇集団 砂地 『Disk』

演劇集団 砂地 『Disk』

演劇集団 砂地

シアタートラム(東京都)

2013/01/24 (木) ~ 2013/01/27 (日)公演終了

身近に感じられなかった
逃げてばかりの人達の話だと思いました。
別に「逃避」が悪いという話ではないのだけど、この手の
テーマは過去に数多くの作品が生み出されているので、
新機軸が欲しかったです。あと、全体的に演出過多。
滑稽を狙っていたのかもしれないけど、かえって作品の
雰囲気を壊している気がしてもったいないな、と思いました。

ネタバレBOX

亡くなってずいぶん経つ恋人の幻影にとらわれ、一歩も前に
進めないイラストレーターの男と、相手に過度に依存し、結果、
どうしようもない男ばかり拾ってしまう、普通にいそうな感じの妹、

それに、本人は自由人らしい生き方を貫いているようにうそぶいても
人からはどこか逃げているようにしかみえない、タイ在住で日本一時
帰国中の男、

エロアニメ声優で、自分のつくっている作品の意味や意義について
密かに思い悩んでいる、妹の腐れ縁、

の4人が主要人物ですね。この中では一番、妹の腐れ縁の清水が
一番理解しやすかったかも。どんな状況でも、何をやっていても、
たとえ自分がそれを選んでいても、誰かに認められて、存在の
意義を感じて欲しい、というのはありますよね。

でも、清水を含めて、みんなあまりに自分のことだけしか
考えてないので、後半、なかなかに単調で。一人くらい
変化の移り変わりを出していって、そこで他の3人との
対立点みたいなのをつくり出していった方が面白かったのでは。

主人公の男の恋人が、男が理想化し、自分だけを見てくれている、と
いう思い込みとは違って、実際は誰とでも簡単に寝るような女性だった、
っていうのはなかなかキツさが効いていて、ここは結構掘り起こせそうな
ネタだと思ったけど、

意外と妹とのエピソードも大きく絡んでくるので、主題が分散して
なんだかよく分かんなかった。

妹が海外に行って、人に左右されて気疲ればかりしていた頃から
打って変って、自分の生に気付いて兄に話しかける、という結末も
後で考えると空虚ですよね。演出はそれを狙っていた可能性も
あるけど、やっぱりありきたり過ぎる気がしました。

作・演出がほぼ同年代なので、どうしても作る世界観や主張に
世代特有の未成熟感が色濃く漂っていて、さすがにこの手の
作品はなかなか今の自分の歳では厳しくなってきたな、って
いうのが正直な感想です。
やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】

やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】

カムヰヤッセン

シアタートラム(東京都)

2013/01/17 (木) ~ 2013/01/20 (日)公演終了

満足度★★★★

生まれ変わった「やわらかいヒビ」
本作品は、2010年に三鷹市芸術文化センター「星のホール」で
初演されたものの再演となる、劇団の代表作であり、また初の
シアタートラム進出作品でもあります。

私は2年前の初演も観ているのですが、当時相当の衝撃を受け、
以来、「カムヰヤッセン」という劇団名が脳裏に刻まれるなど、
本当に想い出深い作品です。今回の再演でも変わりません。

むしろ、ある部分では、再演の方が深く切り込んでいるかもしれない。

ネタバレBOX

本作品『やわらかいヒビ』ですが、

舞台は近未来の日本。そこでは数々の社会問題に対応する為に
各分野の頭脳を集めた施設「アカデミー」があり、主人公、牧の妻、
上谷はその中でも圧倒的な才能を発揮し、空間輸送用ブラックホール
開発に日々精魂を傾けていた。

ところが、本人の研究以外に周囲を顧みる事の一切無い性格や、
妬みから、同僚の計略でアカデミーを追放された上谷の体に、
原因不明の不調が起こる…

といったもの。ジャンルでいうと…一種のディストピアSFですね。

初演では、主演の板倉チヒロの絶叫し、時には鼻水涙を
まき散らしながら泣き叫ぶ渾身の演技、

裏切り、妬み、嘘、偽善といった負の感情・要素が一体で
襲いかかってくる、ラストの破局に向かって突き進んでいく、
一切の希望無しの絶望的なストーリー展開、

そしてその悲しみと余りの美しさが一部で「伝説」になっている
ラストシーンが大いに話題を集めた作品なのですが、

今回、再演に当たって、大幅に脚本が直されています。
重要な役割を果たす人物も新たに加えられて、作者の
言う通り、「まったく別の作品」に生まれ変わりましたね。
劇団員も入れ替わって、役者も大幅に替わっています。

観ていて感じたのが、この劇団特有の人間の酷さ、残酷さ、
非情さを示すような台詞、演出、展開は書き改められて
よりトラムに相応しい「広がり」を覚える作品になったな、と。
初演では確か用いられる事のなかった音楽が、ここでは
より深く感情を揺さぶる効果をもたらしています。

夫婦の息子、慧吉と牧の関西弁を介してのやり取りが
コミカルで、緊迫感が大分緩和されているのもあるけど
初演ではほぼ無かった、「まだ見ぬ未来への可能性」を
今回は強く感じられるようになってて。

劇中、牧と上谷、二人の夫婦のきずなが問われる場面が
あるのですが、初演では、それは先に待ち受ける悲劇を
より強める効果にしかなっていなかった気がします。

今作では、初演のエモーショナルさはそのままに、一層
台詞が身に入って来る感じ。

アカデミーを追放されて絶望する科学者の妻に向かって、
牧が言った「m+1の公式はmが0なら成り立たない。+1は
mという今があるからこそ、出来るんだ」「あなたは…俺より
頭が良いんだから理解出来るはずだ」と必死に訴える、
あの場面、

初演では全然来なかったけど、今回は目頭が痛くなりました。

伝説のラストシーンは今回削除され、より未来の希望を
感じさせる終わり方になっていました。ここは賛否両論
あると思いますが、初演のはどうにもならない悲劇の上に
咲いた、美しい一輪の華のようなものなので、

より「人間を、未来の可能性を信頼する」ようになった、
今回の上演では無くて良かったのかもしれません。

最後に、本作は本当に傑作で、シアタートラムも良い劇場です。
カムヰヤッセンが現在激推しの劇団であることを差し置いても
この作品は観て損が無いと、私は確信を持って言えますね。
見渡すかぎりの卑怯者

見渡すかぎりの卑怯者

ジェットラグ

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/12/08 (土) ~ 2012/12/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

卑怯者はいったい誰なのか?
「箱庭円舞曲」という劇団の作・演出を手掛けている古川貴義氏の
手による、結構ブラックでシリアスな演劇作品。

古川氏は、以前に『11のささやかな嘘』という作品の演出を
手がけていたのを観て、これは! と思ってから、ずっと注目
していた才能です。

それだけに、ものすごく期待していたのですが、それをさらに
上回る完成度で、すっかり大満足。今後の活動への期待も
一気に高まりましたね。

ネタバレBOX

本作は、孤独な創作に苦悩し、周囲からの批判にも絶賛にも過敏になり、
とうとう姿を見せないのにあれこれ言ってくる自分以外の存在がそのまま
「見渡す限りの卑怯者」に映るようになってしまった画家が殺人未遂を
起こして精神病院に強制入院させられるところから始まります。

脚本は、かなり綿密に練られていて、幾つも伏線が張られていますね。
そのなかで何が「正常」なのか、何が「狂気」なのか、観ている人の
既成観念はどんどん揺るがされていきます。

他には…こういう作品を観ると、つくづく自分に「表現する」「創造する」
欲望が欠けていて良かったと思いますね。表現者、芸術家なら必ず
襲われ続ける、過剰に肥大化し続ける自意識や他人の評価からの
苦しみが、リアルに伝わってくる。

身をよじって、「自分の作品」「芸術家としての生き方」の辛さや苦しみを
絞り出すように叫ぶ様子が痛々しかったです。

端々にブラックでビターなユーモアが挟み込まれているけど、正直
笑いどころがちょっと… ラストの展開はかなり暗くて、しかもすごく
怖かったですね。古川氏は、自分の劇団でホラーをやるべきだと
思います。

これからも、皆がつくらないような作品を生み続ける古川氏には
大いに期待していきたいと思います。「箱庭円舞曲」もこれから
チェックですね。今は駅前劇場ですが、すぐにトラムに進出出来ると思う。
The Library of Life まとめ * 図書館的人生(上)

The Library of Life まとめ * 図書館的人生(上)

イキウメ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/11/16 (金) ~ 2012/12/02 (日)公演終了

満足度★★★★★

さすがの、この安定感
イキウメは、個人的に大好きだというのもありますが、かなり「推し」です。
場面転換や演出が綺麗なのも凄いし、なにより(特に最近の作品では)
笑いの要素がかなり多めで、難しく考えずに楽しく観られるからですね。

今回もかなり色々なところがツボで笑いました♪ 台詞回しが本当にいい!

ネタバレBOX

今回は、

感情表現が顔ではなく、体の動きに出てしまうことを隠している
新婚の男の悲喜劇、『東の海の笑わない「帝王」』、

過去未来の輪廻転生の姿をのぞき見できるタイムマシンを
発明した男達の物語、『輪廻TM』、

など、全7作品を分けずに、上手く結合&暗転ほぼ無しの
場面展開で一気に繋いでいます。

あまりにそれが上手く、どの話の途中からからどの話に飛んだのか、
序盤では分からずに混乱するので、会場のパンフレット参照を推奨。

図書館を模した舞台美術がとにかく素敵だった。その図書館が、
「人間の知恵を集めた場所」=「過去現在未来の人間の記憶を
集めた場所」として描かれ、それが物語の中心を成しています。

その図書館では、誰もが「自分」について書かれた一冊の本を
必死に探して、いつしか出る事ができない、迷宮に陥っている中、
一人の男が別の探し物をしに図書館を訪れ。

ラストではささやかな感動までプレゼントしてくれます。
こういうところが、洒落てて、早くも来年の(下)が楽しみです。

しかし、安井さんの、抜群の笑いとる力は尋常じゃないです。
鬼役、スリ役と立場は違うのに、既にこの人がいないと、
違和感を感じるレベルの、安定した演技ですよ、本当に。
震災タクシー

震災タクシー

渡辺源四郎商店

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度

う~ん、これはちょっと…。
震災当日に演出家が遭遇した出来事を(ほとんど)そのまま
作品化したもので、そのため、事件らしい事件も起こらず、
淡々と進む。それを興味深く観られるかで、この作品の
評価は決まって来るかと思います。自分には無理でしたね。

ネタバレBOX

震災後、仕事の関係でいわきに向かわなければいけない主人公は
うまく人を集めてタクシー相乗りで料金を安くしつつ、いわきに向かう
事に成功。

この話は、ほとんどがそのタクシーの中での主人公とタクシー運転手を
含む、大人5人と少女1人の会話で進行していきます。いくのですが。

直接的に震災の悲惨さや大変さに言及する事は無く、やれ、道が
凸凹で大変だ、通行止めで迂回を余儀なくされた、という、かなり
普通の話になっています。

作家や演出家の話によると、あの日震災に遭遇した人も、どこで
会ったか、どんな体験をしたかで、その受け取り方は違う、という事で
敢えて普通にしているのでしょうが、いかんせん平坦過ぎて
ちょっとつまんなかったです。

途中、休憩中に寄った高台から見える福島第一原発について、
「絶対安全って言われているんだから~」という、当時の実感なのか、
それとも若干の皮肉も入っているのか、判断に困るやり取りも
ありましたが、結構流されていった感じでしたね。

それにしても、途中の「走れメロス」ネタは何なんだろう。劇団の
過去作からの引用っぽいけど、正直、一見さんにはどういう意味を
持っているのか、全く分からないので、別のネタにして欲しかったです。

全体的に、いつの間にか始まって残尿感を残したまま終わる感じで
何だかな、っていうのが感想です。皮肉っぽいコメントを同乗の
客たちに鋭く投げかけいく女の子だけ面白かったな。
F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

F/T12イェリネク三作連続上演 『レヒニッツ』 (皆殺しの天使)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2012/11/09 (金) ~ 2012/11/10 (土)公演終了

満足度★★

隠ぺいの構造
終戦直前のオーストリア・レヒニッツ村で発生した、ナチスによる
ユダヤ人の虐殺を背景とした、ひとつの事件が隠ぺいされ、

それどころか、記憶まで書き換えられていく。その様が舞台として
再現された本作。観ていて、最近上演されたNODA・MAP『エッグ』と
テーマ的には被る部分が多いと強く感じました。

ネタバレBOX

過去は、人が記憶に留めておく以上、時の経過によって
改変されていく。それは仕方のないことです。

なら、意図的に集団ぐるみで隠ぺいされたら一体どうなるのか。
いや、隠ぺいされるなら、まだいつか、真実が白日の下にさらされる
日が来る可能性があります。じゃあ、記憶が書き換えられていったら
どうなるのか。

犠牲者たちが望む真実が大勢の前にさらされる時は永遠に
来ないでしょう。「彼らを見る視線は無く、彼らの視線もまた
無い」のであり、ここに犠牲者たちは二度殺されます。

実際の当事者たちは、過去の衣服を次々に脱ぎ捨てて、新しい
姿に転身して指弾を逃れ、トカゲのしっぽ切りよろしく、下っ端の
人間だけが裁かれる構図は、まさに『エッグ』でも描かれた構造で、

ただし、『レヒニッツ』では忘れ去られるのではなく、隠ぺいされ
「噂」として消費されることにより、一層真実が分からなくなっている。

その現在が、簡素な舞台装置に秘められた皮肉とともに、巧みに
演出されていました。

ただイェリネクのテキストはお世辞にも整理されているとはいえず、
これは狙ってのことなのでしょうが、正直、集中力の面では、
なかなかに厳しかったです。

後半、イェリネクの視点から、事件が総括され始め、指弾される
くだりでは、がらっと変わって激越な筆致になり、そこからは結構
引き付けられたのですが。歴史やドキュメンタリーに興味がある人は
必見ですが、それ以外となると、どうでしょうね…。
イントレランスの祭

イントレランスの祭

サードステージ

シアターサンモール(東京都)

2012/10/30 (火) ~ 2012/11/11 (日)公演終了

満足度★★★★

色々と考えさせる作品
「不寛容」「差別」の問題を正面から扱うなら、いろいろ意見が
あると思うけど、この位が限界なのではないかと思います。
これ以上やってしまうと、陰惨でかつ重い、エグい作品に
なってしまう危険性があるので…。

入場時に配っていた、鴻上氏の、英国留学体験を交えた
挨拶文、恐ろしくリアルで、本作に対する見方が変わるほどです。

ネタバレBOX

ラスト直前で、「宇宙人を殺せ!」コールと共に、ケンゴが
花束でホタルを殴りつけるシーン、結構辛くて正視に
たえなかったんですが、これ以上にリアルにすると
後味が悪すぎますよね…。

本作『イントレランスの祭』ですが、

地球人と宇宙人、見かけ、そして立場の違いから生まれる、
区別、差別、「不寛容」―イントレランスを扱った作品で、

宇宙人と地球人の区別を気にしないケンゴが、安心を得て
太ってしまったホタルの姿をなかなか受け入れようとしない。

逆に宇宙人にとっては人物の痩せ太りはさほど気にならない
問題なのが、ホタルの皇位継承権第9位という立場は自分達の
統合のために何が何でも必要なもので、

そのためにはケンゴの「路上アーティスト」という肩書は釣合が
取れない、抹殺すべきもののように映る。

ある場面では区別・差別されるものが別の場面では区別・差別し、
区別・差別するものが、またある場面では区別・差別される立場に
変わる。

自分が重く区別・差別される立場でありながら、敢えて差別集団
ジャパレンジャー」に肩入れし、自分たちへの差別感情をよそへ
持っていこうとするテレビディレクターの男の姿に、ただの正義では
割り切れない、この問題の複雑さをひしひしと感じさせました。

威勢のいいことを言っていた「ジャパレンジャー」の隊長が、自分が
想っていた弁当屋のバイトの娘が宇宙人のホタルと気が付いてからの
狼狽えようが笑えるけど、悲しい。そして、見えない敵と闘っている、
この手の存在の滑稽さが、こうして客観的に見せられると痛々しい。

ラストは爽やかに終わったと思いきや、結構、人物たちの言葉の
端々から、それでいいのか!? という思いを募らせられる、なかなかに
苦い物語になっていました。

今、思ったけど、花束で殴っていたのは、この後の永遠の別れを
想ってのことだったのかな? そうだとすると悲恋の話でもありますね。。

演出は…正直、ちょっと古い感じがする。でも、その古さ、いなたさが
逆にいい味を出していた場面もあるので、一概にはいえないですね。

結構、殺陣のシーンなんかは楽しめたくちです。あれだけ激しい動きを
綺麗に見せられる劇団員はやっぱり凄いな、と思いますね。次回作にも
歌と踊りは入れてほしいと思ってます。
アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

アミール・レザ・コヘスタニ [イラン]『1月8日、君はどこにいたのか?』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/11/02 (金) ~ 2012/11/04 (日)公演終了

満足度★★★★

イランを覆う閉塞感の片鱗を垣間見る
映画『ペルシャ猫を誰も知らない』、『これは映画ではない』からも
その一端が分かる、現イランの生活全般にわたる、目に見える・
見えない形で行われる抑圧。

本作は、その抑圧が一気に強まった2009年の大統領選挙前後の
イランの空気を、実験的な手法で見事に表現したものです。その
閉塞感はもしかしたら、現在の日本にも通じるものかもしれません。

ネタバレBOX

『1月8日、君はどこにいたのか?』は、兵役からの休暇で
戻ってきた恋人が不用意に持ち出した銃を盗み出した
女性たちが電話でやり取りする、その模様を舞台化した
なかなか実験的な作品になっています。

最初、銃を盗み出した理由が分からない上、次々に電話を介して
登場人物や場所が移っていくのについていけず戸惑いましたが、

徐々に会話から伝わる、銃を盗むに至った理由が判明すると
ともに、イラン社会の封鎖性と閉鎖性、保守性がよその国の
私たちにもひしひしと伝わる内容となっています。

基本的に、男は権威的で、すぐに逆上して怒り出すくせに
真実を衝かれると、すぐに怯えてしまうような、情けない
存在として描かれています。さながら、権力をまとった、
張り子の虎のよう。

その男たちが動かす、イランの国家も、見せかけだけの
中身が伴わない存在と指弾しているかのようでもあります。

登場人物たちは、目の前に対する暴力的な抑圧に対して、
抵抗するすべを持たない。例え、銃を手にしても、それで
戦おうという意思は希薄で、手にした武器でますます
自分の壁を高くして閉じこもってしまう、

そんな絶望的な、何もできない、閉塞感すらじわじわと
伝わってくる、そんな作品でした。

若い芸術家、サラが銃を手にして何をするか、と問われた
ときに、自分の血を使って作っている作品に向かって、
血液を入れた袋を銃で撃って撒き散らしたら真に迫るでしょ、と
答えた時、私は限りない切なさを思わず感じてしまいました。

そういうやり方でしか、抵抗を示せない状況下におかれているのかと。
でも、彼女は芸術を通して、自分の意見を開陳できる力を少なくとも
備えているわけで、その背後には、数え切れないほどの声なき声を
持つ女性たちの存在があると思うと、なんだか、ね。

最後、偶然、銃を手にすることになった、不法占拠した
土地に住む明らかに弱い立場の若者は、観客に向かって、
自分の家が取り壊されようとしていることを告げ、言う。

「家の塀を乗り越えてきたら、これを見せて、家を
壊したかったら、まず自分を殺してからにしろと言うんだ」
「家を潰したかったら、自分も一緒に潰してしまえばいい」

劇は、この若者が最後の電話を誰かにかける場面で
終わるのですが、鳴り響く呼び出し音が到底、最後の
脱出口になりえない、それどころか破局へのトリガーにすら
聞こえ、衝撃的な作品を観た、という気持ちを覚えましたね。
アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

アールパード・シリング [ハンガリー]『女司祭―危機三部作・第三部』

フェスティバル/トーキョー実行委員会

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2012/10/27 (土) ~ 2012/10/30 (火)公演終了

満足度★★★

宣伝で失敗した作品かも
ハンガリーの地方を舞台とした、そして背景に形骸化した
キリスト教があるにもかかわらず、遠く離れた、別の文化圏の
日本に住む若者にも十分にリアルに伝わる作品でした。

それだけに、本作について、十分に内容を伝えられなかった
F/Tは、他に宣伝面で何か有効なことが出来たのでは、と
本当に残念な気持ちになりました。

ネタバレBOX

本作は、ただ観客が席に座って観ているだけのタイプの
演劇ではなく、途中で、出演者による問いが客席に向けられ、
考えて応えることを要求される、インタラクティブなものと
なっています。つまり、ある程度の心の準備が必要だということです。

しかし、事前に主催者側からの案内が無かったため(もしかしたら
そういう意図なのかもしれませんが)、突然投げかけられる問いに
客席はしんと静まり返り。

ほとんどの客が突発的な事態に反応できずに終わってしまい、
円滑にコミュニケーションが取れなかった。そんな気がします。

演劇は、演者と観客双方で作りあげていくものとしては、甚だ
不本意な結果となってしまったように思います。もっと事前に
どういうタイプの作品か分かるように宣伝してくれたら良かった。

翻訳者は日本人を立てた方が良かったかもしれないですね。
健闘されていましたがニュアンス的に分かりずらいところがありました。

作品自体は、ブタペストから離れた田舎町で、未だにキリスト教的
価値観(何時の隣人を愛せよ)に縛られ、現代の急速な流れの中から
取り残されて閉塞していく学校空間に、自由主義的な発想を持つ
演劇教師が赴任してくることから始まります。

ここ、東京と、地方都市の関係を考えると、そのニュアンスが
分かりやすいと思います。その先詰まり感や圧迫感は。

演劇教師は古株の事なかれ主義の教師や、現実に対応できずにいる
ローランド神父と対立しながらも、古い価値観しか知らなかった子供の
目を開かせ、徐々に慕われていくようになる。

教師が去った後、10年後、15年後、どうなるのだろう? 私(教師)と
子供達との間に接点はあるのだろうか? という映像が流れますが
これは前を向いて前進するのか、はたまた過去に逆走していくのか
そういう意味の問いかけもあるのではないかと感じました。

観ていて感じたのは、ハンガリーにおけるジプシー(ロマ人)への
見え隠れする差別感情、未だに根深いキリスト教価値観、そして
実は隠れつつも抱かれている「ヨーロッパ人ではない」という意識。

また、映像や観客との相互やり取り、また即興も多く含んだ作品は
いつしか目の前で行われているのが「演劇」なのか、「ドキュメンタリー」
なのか、境目を分からなくさせていきます。不思議な作品でした。

それだけに、F/Tの事前準備、劇団とのやり取りが円滑に行って
いなかったのでは、という疑いを持ってしまったのが悔やまれます。

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