やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】 公演情報 カムヰヤッセン「やわらかいヒビ【ご来場ありがとうございました!!】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    生まれ変わった「やわらかいヒビ」
    本作品は、2010年に三鷹市芸術文化センター「星のホール」で
    初演されたものの再演となる、劇団の代表作であり、また初の
    シアタートラム進出作品でもあります。

    私は2年前の初演も観ているのですが、当時相当の衝撃を受け、
    以来、「カムヰヤッセン」という劇団名が脳裏に刻まれるなど、
    本当に想い出深い作品です。今回の再演でも変わりません。

    むしろ、ある部分では、再演の方が深く切り込んでいるかもしれない。

    ネタバレBOX

    本作品『やわらかいヒビ』ですが、

    舞台は近未来の日本。そこでは数々の社会問題に対応する為に
    各分野の頭脳を集めた施設「アカデミー」があり、主人公、牧の妻、
    上谷はその中でも圧倒的な才能を発揮し、空間輸送用ブラックホール
    開発に日々精魂を傾けていた。

    ところが、本人の研究以外に周囲を顧みる事の一切無い性格や、
    妬みから、同僚の計略でアカデミーを追放された上谷の体に、
    原因不明の不調が起こる…

    といったもの。ジャンルでいうと…一種のディストピアSFですね。

    初演では、主演の板倉チヒロの絶叫し、時には鼻水涙を
    まき散らしながら泣き叫ぶ渾身の演技、

    裏切り、妬み、嘘、偽善といった負の感情・要素が一体で
    襲いかかってくる、ラストの破局に向かって突き進んでいく、
    一切の希望無しの絶望的なストーリー展開、

    そしてその悲しみと余りの美しさが一部で「伝説」になっている
    ラストシーンが大いに話題を集めた作品なのですが、

    今回、再演に当たって、大幅に脚本が直されています。
    重要な役割を果たす人物も新たに加えられて、作者の
    言う通り、「まったく別の作品」に生まれ変わりましたね。
    劇団員も入れ替わって、役者も大幅に替わっています。

    観ていて感じたのが、この劇団特有の人間の酷さ、残酷さ、
    非情さを示すような台詞、演出、展開は書き改められて
    よりトラムに相応しい「広がり」を覚える作品になったな、と。
    初演では確か用いられる事のなかった音楽が、ここでは
    より深く感情を揺さぶる効果をもたらしています。

    夫婦の息子、慧吉と牧の関西弁を介してのやり取りが
    コミカルで、緊迫感が大分緩和されているのもあるけど
    初演ではほぼ無かった、「まだ見ぬ未来への可能性」を
    今回は強く感じられるようになってて。

    劇中、牧と上谷、二人の夫婦のきずなが問われる場面が
    あるのですが、初演では、それは先に待ち受ける悲劇を
    より強める効果にしかなっていなかった気がします。

    今作では、初演のエモーショナルさはそのままに、一層
    台詞が身に入って来る感じ。

    アカデミーを追放されて絶望する科学者の妻に向かって、
    牧が言った「m+1の公式はmが0なら成り立たない。+1は
    mという今があるからこそ、出来るんだ」「あなたは…俺より
    頭が良いんだから理解出来るはずだ」と必死に訴える、
    あの場面、

    初演では全然来なかったけど、今回は目頭が痛くなりました。

    伝説のラストシーンは今回削除され、より未来の希望を
    感じさせる終わり方になっていました。ここは賛否両論
    あると思いますが、初演のはどうにもならない悲劇の上に
    咲いた、美しい一輪の華のようなものなので、

    より「人間を、未来の可能性を信頼する」ようになった、
    今回の上演では無くて良かったのかもしれません。

    最後に、本作は本当に傑作で、シアタートラムも良い劇場です。
    カムヰヤッセンが現在激推しの劇団であることを差し置いても
    この作品は観て損が無いと、私は確信を持って言えますね。

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    2013/02/02 07:13

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