KAEの観てきた!クチコミ一覧

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三人吉三

三人吉三

松竹/Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/28 (土)公演終了

満足度★★★★★

18代目が、目を細めているのが目に見える
天国の18代目勘三郎さんが、仲間たちとの酒宴の席で、「あいつら、よくやってるよな」といつもの調子で、笑いながら祝宴をしている図が思い浮かび、目頭が熱くなる舞台でした。

本当に、勘九郎さんの躍進ぶりが頼もしい限り。七之助さんも、「白波五人男」の弁天小僧菊之助や、今回のお嬢𠮷三などの系譜の役が板につき、更に魅せる役者に進化されています。
松也さんは、歌舞伎役者としては、まだ新参者の域を出ませんが、このお坊𠮷三役は、お坊ちゃん気質が任に合って、声も容貌も文句なく、彼の出世作になりそうな予感がしました。

過去二度上演されているコクーン歌舞伎の「三人吉三」ですが、今回は、照明を極力暗くして、スポットライトを当てたり、影を作ったりする技巧が駆使されて、より、幕末の退廃美を印象づける舞台構成でした。

静寂の「三人吉三」が、因果応報の悲劇と、三人の盗賊のやむにやまれぬ絆と苦悩をより提示して、お見事でした。

本当に、勘三郎さん、あの世で、目を細めて見守っていることでしょうと確信します。

ネタバレBOX

勘三郎さんに淡路屋の屋号を頂いた、笹野さんが、知らない観客は、本当に歌舞伎役者さんだと思い込みそうな程、伝吉の苦悩を好演されていて、嬉しくなりました。

真那胡さんの、海老名と久兵衛の演じ分けもお見事です。

演出の串田さんの交流の広さのお蔭で、コクーン歌舞伎ならではの、こうした、異種役者さんの出演が、最近は、無理なく定着しつつあるようで、最初からコクーン歌舞伎をずっと応援してきた観客の一人として、この上なく嬉しい出来映えを見せて頂き、感無量です。

三人が、血の盃を酌み交わし、盟約を誓う場面で、歌舞伎座に復帰された仁左衛門さんに言及されたり、歌舞伎ファンとして、頬を緩めたくなるサービスもふんだんにありました。

その義兄弟の契りの場面の後で、三人夜鷹の盟約パロディを見せるなど、暗い芝居の折々に、笑える場面が、さりげなく配置されているのにも、演出の遊び心を感じ、嬉しくなりました。

歌舞伎の下座音楽を廃した、現代楽器のみの効果音も、今回の舞台では、悪目立ちすることなく、自然とマッチしていて、お見事でした。

ともすれば、最後の火の見櫓の場の立ち回りは、パフォーマンスに傾きがちなきらいもありますが、今回の舞台の三人の終焉の見せ方は、私としては一番好みだったように思います。和尚の悲しい決断によって、完成した三人の盗賊の真の盟約が、因果応報の縄を断ち切るかのようなお互いの刺違えによって、完結するラストシーンは、美しくも力あるドカ雪の降雪と共に、視覚的にも申し分ない名場面として、今後長く記憶に残りそうです。

良くやった中村屋兄弟に、心からの祝杯を!!
関数ドミノ

関数ドミノ

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2014/05/25 (日) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★

初演とは趣が異なる時代性
ちょうど、先月にアメリカのサンタバーバラで起こった、エリオット・ロジャーの事件を思い出してしまいました。

人は、合わせ鏡のようなもので、誰の視点で、誰を見るかによって、一つの事象がどうにでも解釈できるのだという手法の芝居は数々観ましたが、先日の「昔の日々」のように、全く皆目見当がつかない芝居と違って、前川さんの作品は、誰が観ても、描かれている世界が、等身大で、わかりやすいので、助かります。

安井順平さんは、今や、彼が出演していなかった頃のイキウメを思い出せないくらい、この劇団になくてはならない存在だと思います。
浜田さんの演技力にも、更に磨きが掛かっていました。

新田直樹役の新倉ケンタさんは、上手な役者さんだとは思うのですが、他のキャスト陣と演技の質が異なる点が、やや惜しいと感じました。

私個人の思いとしては、初演の「関数ドミノ」の方が好みでした。今回の作品は、前川作品に馴染みのない人でも、後半の展開が予測できてしまうのではないかなと思いましたが、どうなんでしょう?

芝居によって、うまいのかそうでもないのか、いつも判断jに迷う、森下さんが今回の土呂役の演技では、群を抜いて素晴らしく感じました。本当に、不可思議な役者さんだなといつも感心してしまいます。

ネタバレBOX

いつも、思い通りに事が運ばず、周囲に存在するドミノのせいで、浮かばれない人生だと思い込んでいる真壁が、「バカのくせにドミノだったりするから…」と不遇を嘆く台詞に、ちょっとだけ共感し、自分もかなり病んでいるなと自覚したりしました。

ヒットラーは、ドミノだったという説には納得してしまいます。

浜田さん演じる塾の人気講師左門のデフォルメした演技は、秀逸の極みでした。ただ、弟の彼女にパスタを食べさせるシーンは、官能的な印象を狙ったのでしょうが、先日の「昔の日々」や自転車キンクリートの、台詞のみで、レイプシーンを再現した芝居を観た時程の衝撃には及びませんでした。
きっと、浜田さんも、吉田さんも、まだお若い役者さんだから無理はないとは思いますが…。

前川さんの作品は、予測不能の展開にスリリング感を感じるので、今回の舞台は、私には、やや平板に感じられました。形よくまとまり過ぎた印象で、特に、真壁こそがドミノだとわかる終盤以降の展開を凡庸にしたきらいが見えて、ちょっとだけ、残念な劇後感でした。
昔の日々

昔の日々

梅田芸術劇場

日生劇場(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/15 (日)公演終了

満足度★★★

正直、私には理解不能ですが
何だか、五感で体感する芝居という気がしました。

台詞に官能性があり、言葉で愛撫されているようなゾクゾク感で、気持ちがざわつきました。

デウ゛ィット・ルウ゛ォーの演出作品は、感覚的に好みですが、何せ、私には、ハロルド・ピンターを理解できる頭脳は皆無のようで、3人の登場人物の誰が実在の人物なのか、もしかしたら、3人とも不在なのか、果たして、女性は二人存在するのか…等々、さっぱりわからず仕舞いでした。

ただ、わからないながら、エキサイティングで、スリリングであることは、確か。3人の配役も絶妙で、堀部さんが、とてもセクシーに感じました。

久しぶりに遭遇してしまった、伝説のブラボーおばさんが、彼女特有の、あり得ないリアクションで、一人高笑いし、最後には、一人だけスタンディングして、にんまり笑っていらしたのには、まるで不条理劇の置き土産風で、さすがのハロルド・ピンターをさえ、あの世で驚かせたのではと思いました。

予想通り、この作品を、日生劇場で、上演したのには、賛成出来かねました。
上演時間も短いし、これは小劇場で観たい作品でした。

ネタバレBOX

開演前から見える舞台セットに、かつて、ルウ゛ォー演出で観た「人形の家」を彷彿とさせられました。

台詞だけで、語られる3人の男女の過去の記憶が混とんとして、実際にいわゆるベットシーンとかはないに等しいのに、何故か、スワッピングシーンを垣間見てしまったかのような、官能的な衝撃を受けました。

頭で理解する芝居ではなく、体感で、理解したかのような気持ちにはなれる作品でした。

麻実さんは、ルウ゛ォーの手に掛かると、魔法を掛けられたかのように、服をまとわない女性の性を想像させる力を発揮され、お見事でした。

若村さんも、同性の私から見ても、大変魅惑的で、彼女に誘われて、落ちない男性はいないでしょうというぐらい、女子力が半端ない!

堀部さんも、プロの役者さんかと思うくらい、こんな難解な芝居で、自分を封印して、役になりきっていらっしゃる姿に胸を打たれました。

難解過ぎて、さっぱりわからないけど、三人の見せ方が素敵で、やはり演出家の才能は偉大だと感服します。

開幕前は遠かったセットが、舞台が始まると、せり出して来て、遠景の暖炉とかは見えなくなります。観客の至近距離の中で、二つのベットが象徴的に印象づけられ、終幕で、また暖炉などが見える、元のセット体系に戻ります。
これが、演出家のこの芝居の解釈提示なのかもしれないと思えました。

あー、だけど、ルームメイトの、ケイトとアンナは、同性愛の恋人同士なのか、それとも、二人の女性は、ケイトの夫の脳内産物で、記憶の妻の二面性を表していただけなのか、誰が実在する人物か…、わからないことだらけで、誰かに正解を教えてほしくなってしまう。非常に、スッキリとしない劇後感で、未だに心がざわついています。
請願

請願

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2014/06/04 (水) ~ 2014/06/17 (火)公演終了

満足度★★★★★

今だからこそ胸に響く作品
確か10年ぐらい前に、鈴木瑞穂さんと草笛光子さんで、この作品を観た記憶があります。

その時には、夫婦関係に視点が行って、核兵器反対の請願に関しては、あくまでも、話のお膳立てとして、捉えて観ていたように思います。

ところが、震災で、原発事故が起こり、原発再稼働や、集団的自衛権の問題など、今後の日本の方向を憂慮するような諸問題が山積している今観ると、三田さん扮するエリザベスの台詞の一言一言が、痛烈に、心臓を鷲掴みにして、居たたまれなくなる気持ちになりました。

こういう芝居を、高校の演劇鑑賞会とかで、取り上げて、多くの日本人に是非観て考えて頂きたいと強く思います。

夫婦間の暗黙の距離の置き方、言わない誠実さ、言い放ってしまった言葉は消せないという事実の重さ…、家族の在り方に正解はないけれど、夫側の立場で観るか、妻側の立場で観るかで、感想も様々かもしれません。

エドムンドも、エリザベスも、お互いに、それぞれの価値観で、相手を尊重し、家族関係を壊さないように、自分の大切な居場所を守る努力をしていたのでしょう。
巧みな脚本の台詞の応酬によって、観客にも、二人の思いの深さが痛いほどに伝わるだけに、終幕近くに、つい夫が妻に対して言い放ってしまった一言は、女である私の胸にも、グサッと突き刺さって、衝撃的な台詞でした。
エドムンドさん、それを言っちゃおしまいでしょ!と心で、叫んでしまいました。

本当に、素晴らしい完成度の作品です。
高校生以上の全ての年代の方に、是非是非観てほしいなあ!

ネタバレBOX

家族という狭い世界の中でさえ、お互いの胸の内は、なかなか分かり合えないのだと、痛切に感じます。

50年以上も、表立って諍いをすることもなく、仲良く平穏に寄り添って生きて来た夫婦でさえ、妻の死期が迫る土壇場になるまで、お互いの思いを封印し、事を荒立てないように、日々工夫して、過ごして来たのだなあということが、練られた台詞を通して、刻々と観客に伝わる精密なストレートプレイ。

作者にも、見事に夫婦の機微を演じている、加藤さん、三田さんにも、瞠目しました。

核は、子供達の未来を守るために、絶対廃絶すべきだと主張する、エリザベスの台詞には、何度も相槌を打って観てしまいました。
彼女が言う、「核推進者の論理は奇妙奇天烈」という発言内容は、まさに安倍政権にそのまま投げつけたい台詞でした。

子供達の命を守るために、本当にしなければならないこと、してはいけないことを、国民の一人一人が、エリザベス同様、真剣に考えてほしいと切に思います。


夫婦関係という小宇宙、これからの人間の未来という大宇宙。二つの大切な居場所を、懸命に守ろうと苦慮する二人の登場人物に、今の日本に暮らす自分の思いが重なり、心に深く刻まれる名舞台でした。
毒舌と正義

毒舌と正義

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/12 (木)公演終了

満足度★★★★

やや無理はあるが、他にはない妙味
今回の作品は、教師ものということで、興味があったので、急遽当日券で、観に行きました。

やはり、この劇団の、芝居には、他にはない妙味があります。

何よりも、構成が緻密。最後まで、終幕の予想がつかないスリルがあります。

以前、ムーブメントありきのような習性に縛られている面も見受けられましたが、今回のムーブメントは、芝居の本質を捉えて、効果的でした。

ただ、先に書きたいものがあって、それに沿ったやや強引なストーリー展開があり、いつもより、虚構度の強い芝居でもありました。

劇団の役者さんが、いつもながら、パーフェクトな演技の中、老舗劇団所属の俳優さんが、台詞を噛んだり、忘れたりしたのは、大変残念な部分でもありました。

ネタバレBOX

修学旅行中に問題が起こり、ベットルームでの職員会議のシーン、最初、渡会先生と、瀬木先生が、まさか別室にいるとは気づきませんでした。

渡会先生が、教師たちが真剣に苦慮している中、いきなり、野球の素振りをし出して、おやっと思った瞬間、実は二人は、別の寝室にいるのだと、気づかされます。

この劇団、ずいぶん観て、やり方を知っていた筈なのに、してやられた感。

こういう、古城さんの遊び心溢れた、仕掛けが好きです。

阿久津先生の起こした訴訟と、生徒が起こした二つの事件が、やがて、繋がり、一つに帰結する構成は、実に手際が良く、お見事!職人技だなあと、感服しました。

ディズニーランドで、殴られた女子生徒の担任が、各部屋を回って、事態の報告をするシーンを、一度で済ますのも、小洒落た演出で、観客の理解度に敬意を払って下さってることに、嬉しくなります。

教師も、人間。自分でも、気づかない内に、自分の保身に動いたり、責任転嫁をしようとしたり、細かいエピソードの見せ方が、大変巧みでした。

でも、その一方で、校長にあまりにも連絡が取れなかったり、修学旅行に、教頭までが出向いたり、生徒が、阿久津先生の裁判記録を盗んだり、阿久津先生の辞職を撤回させるための嘆願書を、修学旅行先まで、持ち込んだり…といった、ややあり得ない設定が多かったのには、ちょっと、いつになく、芝居の綻びを感じたりもしましたが。

この時代の生徒が、一丸となって、阿久津先生のための嘆願書にサインするというのも、ちょっと信じ難いオチでした。まして、既に、辞めている進学校の生徒までが署名に加わっているというのは、あまりにも、無理があるような気がしました。

でもでも、そういう綻びを全て許容したくなる、構成の妙と役者さん達の自然な演技に裏打ちされて、やはり、結果的には大満足してしまう作品に仕上がっていました。

冒頭のシーンでの、奥村さんのムーブメントには、阿久津先生の教師力がまさしく表出された仕草で、最後の生徒達の嘆願書の存在理由の証明にもなっていて、本当にお見事な演技表現だったのだと感嘆しました。
龍馬疾風録

龍馬疾風録

オフィスワンダーランド・(一社)演劇集団ワンダーランド

新宿村LIVE(東京都)

2014/06/06 (金) ~ 2014/06/08 (日)公演終了

満足度★★★

脚本は面白い
竹内さんの作品は、息子の初舞台で、一度、二度とこの劇団は観たくないと思った作品で、一度、そして今度で、三度目の観劇になります。

群像劇がお得意なんだと思います。そうして、よくもこれだけの多勢の出演者を整理して、視覚的にも、ストーリー的にも、破綻なく見せる技術に長けているなと、観る度、感心します。

この作品を、演技力に長けた役者さんだけで上演されたら、どんなに面白かっただろうと思うと、その部分において、やや残念な仕上がりでした。

時代劇を演じるには、やはり日頃の鍛錬が必要な気がします。
冒頭からしばらくは、役者さん達の所作の酷さに、気恥ずかしくなって凝視できないところがありました。

今日のチームの初日のせいか、役者さんが台詞を忘れたり、龍馬ご自身が、ご自分の名前を「りゅうま」と発音されたりと、失点も見受けられました。

開演前の、数人が、順番に、注意事項を述べるところも、どうせなら、もっと流麗にして頂きたかった気がします。あそこで、皆さんの息が揃うだけでも、芝居に対するワクワク感が違って来ると思うので。(それに、開演時刻を10分も過ぎてから、始まった注意事項読み上げで、これからトイレタイムを取る方がいないかと質問して、実際、促されてトイレに立つ方がいたのには呆れました。幾ら知り合いだらけの客席だとしても、一応有料公演である以上、こういうプロ精神に悖る行為は、それだけで、減点要素だと思います。)

ネタバレBOX

若き日の龍馬を主人公にした、空想活劇の趣き。

生麦事件の真相を、作者が、オリジナルの味付けをして、史実と違和感なく、ストーリーを創造する手腕に感服しました。

あの時代の有名人をうまく配置して、出演人物を設定し、フィクションの関係性を創造した部分も、あり得るかもと思わせる範囲のリアル感もあり、お見事でした。

たぶん、今回の作品は、竹内さんは、監修程度のスタンスで、中島さんが、大半を造型されたのかなと思いますが、次回は、是非、中島さんの単独作を拝見したいなと楽しみです。

ただ、花魁達の、遊女言葉がちょっと変な印象がありました。

男優陣の刀捌き、遊女達の、所作を、もう少し、修行して頂けたらと思います。
プルーフ/証明

プルーフ/証明

DULL-COLORED POP

サンモールスタジオ(東京都)

2014/05/28 (水) ~ 2014/06/04 (水)公演終了

満足度★★★★★

ドアの開閉の演出意図は?
ずっと気になっていた谷さんの演出作品、初めて拝見しました。

まず一言で言うなら、「呆れるほどの佳作」です。

サイン、コサイン、タンジェント、√あたりが出て来た頃から、算数得意少女の足を洗い、すっかり数学音痴女子学生に成り下がった還暦目前おばさんとしては、観てわかる芝居なのかと大変恐怖心を抱いて観に行きましたが、全く心配いりませんでした。

これは、人間関係の照明劇なんですね。心と体が融合して、それが一つの形に結びつくまでの綿密な公式を提示されたような芝居でした。

何よりも驚いたのは、山本さんの役者としての資質の芳醇さ。声に力があり、声優としてもご活躍だということが納得できました。
先日、従弟の長男が、アニソングランプリで、準グランプリになった映像を観たのですが、彼も、容姿が山本さんにそっくりでしたから、声優向きの体躯というのがあるのかもしれないと思いました。

他の公演を観ていないので、比較できませんが、この芝居、ハル役の俳優の演技如何で、作品の成果が全く違ってしまうと思うので、その点からも、山本さんのキャスティングは大成功だと感じました。

遠野さんも、宝塚ご出身とは思えない自然な演技が、姉役のスタンスを的確に表現されて、お見事でした。

ただ、一つ、非常に気になったのが、庭に出るドアの開閉のジェスチャーが、人によって、状況によって、あまりにもマチマチなこと。架空のドアを開閉する動作が数えきれない程繰り返されるので、もしかしたら、ここにも谷さんの緻密な演出意図が隠されている可能性も感じたのですが、そこまで、深読みできないと、逆に、演者の動きが気になって、演技の粗のように感じられる欠点とも受け取られ兼ねず、むしろ、ドアはない設定での芝居にした方が、芝居の中身にドップリ浸れるのではないかと感じました。

ネタバレBOX

天才的な数学者を父に持つ、キャサリンとクレアの姉妹。妹のキャサリンは、数学者の資質を父から受け継ぎ、父子という関係を超えた師弟関係も育んで、痴呆の進む父親の介護のために、学業を断念して、父親の住む家に戻って来ました。
姉のクレアは、家族への情愛が薄いわけではないのですが、妹と父親の関係にある意味嫉妬めいた感情もあるのか、二人とは距離を置いて、経済面で、父親と妹の生活をサポートしてきました。
父親が亡くなり、父親を敬愛していた教え子であるハルが、父親の残した研究ノートを整理読破する目的で、キャサリンの所へやって来ます。
奇しくも、その日は、キャサリンの誕生日。かつてキャサリンがハルと初めて会ったのも、誕生日の日でした。

父親の研究ノートは、103冊とかあったそうで、まず小保方さんの研究ノートの数との落差に、勝手に受けてしまいましたが、ハルとの性的結合が成立した後で、キャサリンが彼に渡す1冊のノートが明るみに出た一幕ラストから、急激に舞台の空気が一変します。

二幕は、果たしてこのノートは誰の手によるものかという視点から、舞台が周り出し、そのことが証明されるまでの過程で、登場人物3人の意識や、関係性が、より具体的に、観客に向けて提示されて行きます。

何という、スリリングで、知的で、巧妙な脚本かと、兜を脱ぐ思いがしました。

カラダが結ばれたことで、心も同時に結ばれたと思ったキャサリンが、心を許して彼に渡した秘密のノート。紆余曲折ありながら、ラストシーンでは、再び、二人の心は結ばれたと暗示して、幕となります。

小粋!素敵!ブラボー!!

機会があれば、演劇を愛する大切な家族に是非見せたいと思える、素晴らしい舞台作品でした。
風間杜夫ひとり芝居『正義の味方』

風間杜夫ひとり芝居『正義の味方』

トム・プロジェクト

本多劇場(東京都)

2014/05/27 (火) ~ 2014/06/01 (日)公演終了

満足度★★★★

風間ファンの空気感が心地よい
私が風間さんの舞台を初めて拝見したのは、紀伊国屋ホールで、つかこうへい事務所の「熱海殺人事件」を観た時。

あれから、何十年経ったのでしょう?

風間さんも、ファンも歳を重ねました。

絶賛された、一人芝居3部作よりも、緩い作りの新作一人芝居は、今の私の心境には、あまり熱すぎず、適度な笑いに満ちて、とても心地よい精神緩和剤に感じられました。

ネタバレBOX

「銭湯」と「戦闘」を掛けたのかな?

100歳近い、風間さん扮する銭湯のおやじさんは、見た目、内田裕也さん風でしたが、私は、マルハニチロの農薬混入犯人の風貌もちょっと思い出してしまいました。

戦争体験のある卯三郎は、戦地に行っていた間に、別の人に嫁いでしまった婚約者の実家の銭湯を引き継ぎ、戦後の日本の生き字引のような生き方をしてきたお爺さん。

銭湯に来る客に、落語を交えて戦争体験談を語ったり、時勢を揶揄したカルタ遊びを発案したり、95の今でも、恋をしたり、毎日元気に周囲を楽しませて明るく生きています。

でも、戦争は二度とごめんだと思っている卯三郎でも、ごみ屋敷の住人を一度はとっちめようと正義心に逸ったりします。これは、集団的自衛権行使を叫ぶのと同じ心理なんでしょう。東京大学の才媛女子大生に諭されて、正義を振りかざす暴力を思いとどまってくれて、ほっとしました。

カルタ会の場面で、客席のご高齢の女性が、心地よさそうに、大きな寝息を立てていらして、まるで、客席までが、高齢客で賑わう銭湯の延長線上のような雰囲気で、何だか微笑ましく感じられました。

卯三郎が、小保方さんに好意的なのは、作者の水谷さんが、男性だからでしょうね。(笑い)

卯三郎の生きて来た戦後の道のりが、映像で流れますが、何も説明がなくても、どの映像も全てあの日のことと認識できる自分に、改めて、自分も高齢者になったのだなあと認識させられました。

全体的に、ある種の問題提議をしながら、それ程肩の凝らない作りの芝居で、心地よかったのですが、ただ一点気になったのは、戦時中の場面で、「コンテスト」とか「マイク」とかの敵性語を卯三郎が口にした点。当時は、英語を使用すると大変なことになったと聞いているので、やや違和感がありました。

さりげなく、風間さんの演じる卯三郎に、客席が共感できる素敵な舞台作品だったと思います。50代以上の方にはおススメ作です。
太陽王 ~ル・ロワ・ソレイユ~

太陽王 ~ル・ロワ・ソレイユ~

宝塚歌劇団

東急シアターオーブ(東京都)

2014/05/17 (土) ~ 2014/06/02 (月)公演終了

満足度★★★★

星組は人材の宝庫
前回公演のナポレオンで、すっかり柚希さんに魅了されてしまったので、二度目の星組公演に参上致しました。

今回は、ルイ14世に関わった女性達が、何人も登場するので、俄かファンで、パンフレットも買わない私には、どの役を娘役トップの方が演じられたのかもわかりませんが、まあ、登場する女性達が、皆さん素敵で、本当にこの組は人材の宝庫だなと実感しました。

柚希さんは、声良し、歌良し、演技良し、ダンス良し、容姿端麗…と、男役トップとして、非の打ちどころのない魅力を兼ね備え、10年に一人のスターだと認識しました。

在位の長いルイ14世ですが、この舞台では、女性関係を中心に描き、その分、やや脚本が弱く、ストーリー展開は平板に感じられましたが、楽曲も良く、キャストは皆さん、実力派ばかりなので、宝塚の舞台としては、成功作だろうと感じました。

ネタバレBOX

ルイ14世が最初に恋する読書好きな女性、マリー・マンチーニ。フランスの国益のために結婚させられたマリー・テレーズ。人妻でありながら、何人も王の子を産んだモンテスパン侯爵夫人。この夫人の生んだ子の教育係で、後に最後の女性になるマントノン侯爵夫人。

主にこの4人の女性との関わりを中心に、劇作家モリエールの回顧という形で、舞台が進行して行きました。

ストーリー構成的には、ルイ14世が主役と言うよりは、4人の女性達の群像劇といった感じの舞台でした。

星組は、男役も娘役も、皆さん、近年の宝塚には珍しく、歌唱力も演技力も申し分ない方ばかりで、安心して、舞台の世界観に陶酔できるのが嬉しくなります。

夫との愛情交流がないことを悩む王妃マリー・テレーズを、マントノン夫人フランソワーズが、自分の亡き夫との心の交流を例に挙げて、慰める歌が、心に沁みました。

星組は、昔から、ダンスが一番綺麗な組ですし、当分、追いかけたくなるメンバーが結集した組だなと、二度目の観劇で、更に魅了された次第です。
ペテカンのコント『諸々そこんところ2』

ペテカンのコント『諸々そこんところ2』

ペテカン

コア・いけぶくろ(旧豊島区民センタ-)(東京都)

2014/05/23 (金) ~ 2014/05/25 (日)公演終了

満足度★★★

好感の持てる笑いネタ
個人的に、ぺテカンの役者さん全員のファンなので、取り立ててものすごく面白いとは言えないコント集でしたが、終始楽しく拝見しました。大笑いするタイプのコントではなく、好感の持てる、クスッと笑うタイプのコントでした。

役者さんに思い入れのないお客さんにとっては、わざわざ劇場に足を運んでまで、観る価値はないのかもしれませんが。

下ネタのコントもありましたが、ダイレクトなネタではないので、嫌な気持ちにはなりませんでした。

お子さんが、何度も楽しげに声を立てて笑って観ていたので、万人向けのコント芝居だと感じます。

前回、入団されたばかりの新人女優さんが、おめでたとのことで、出演せず、助手役だったのには、驚きました。
でも、そんな新人さんを温かく見守っている感じの劇団先輩メンバーの様子に、更に、ぺテカンファン度がアップしました。

今年の公演は、これでおしまいとのこと。来年の本公演を首を長くして、楽しみに待ちたいと思います。

ネタバレBOX

個人的に大いに共感したのは、「再配達」。そうなんです。自動オペレーション通話でどこかに電話をすると、度々、実に理不尽な扱いを受けるんですよね。私も、何度もそういう目に遭ったので、ずっと頷きながら観てしまいました。

最初の「出産祝い」も、現実を揶揄した面白さがあります。集団で、誰かにお祝いなど送ると、じゃ、あの人もこの人も…と、どんどん拡大しなきゃならなくなって、線引きが難しいですね。

ある大手事務所のタレントさんへの気遣いも、業界では、常識なんでしょうが、改めて、ネタにするところが愉快でした。

「ウオルトの意思」では、いち早く「アナと雪の女王」をネタに取り入れたりして、時機を得たコントもありました。

最後の「カーテンコール~これ、やりたかったんです。」は、たぶん、詳しく書くと、問題発生しそうなので、やめておきますが、ミュージカルファンの私にとっては、まさにサプライズプレゼント並の企画でした。キャスティングが、的確。もう少し歌唱力があれば、皆さんそのままご出演できそうな程、適任配役でした。
だけど、私は受けたけど、他のぺテカンファンの皆さんには、どうだったかしら?とはちょっと思いました。衣装も、なかなか力作でしたけれど。
五月花形歌舞伎

五月花形歌舞伎

松竹

明治座(東京都)

2014/05/02 (金) ~ 2014/05/26 (月)公演終了

満足度★★★★

奮闘染五郎10役早替り
澤瀉屋さんが復活上演した初回から、何度か観た「伊達の十役」、今回は染五郎さんが演じるとのことで、興味深く拝見しました。

最初の口上で、染五郎さんご自身で、十役の解説をして下さるので、人物関係がわかりやすく、歌舞伎にあまり馴染みがないお客さんには、大変親切な導入だったと思います。(いきなり始まると、染五郎さんが、十人もの登場人物を早替りで演じていることにすら気が付かないお客さんが相当数いるかもしれませんから)

序幕は、人物紹介を兼ね、ふんだんな早替りの趣向の醍醐味で、観客の興味を引き、二幕目以降は、一人の人物を長く丁寧に演じて、芝居の奥行きを感じさせる舞台構成が見事だと、改めて思いました。

先代の猿之助さんは、早替りに重きを置くタイプで、十役の演じ分けが、今ひとつに感じられましたが、染五郎さんは、十役それぞれのキャラクターをかなり工夫して、演じていらっしゃると思いました。

ただ、ハードな舞台のせいか、声が、いつもより掠れて、伸びも悪く、時として、台詞に力が籠らなかったのは、やや残念でした。

それと、これはもろ刃の剣的なことですが、早替りがあまりにもお見事過ぎて、難なくこなされているせいか、違う役で瞬時に登場された時のワクワク感をそれほど感じないのが、肩透かしにも感じてしまいました。

ネタバレBOX

早替りは、いつでもお見事でしたが、特に、序幕最後の、道哲から船の与右衛門に替る場面は、喝采ものの出来映えでした。本当に、瞬間移動みたい!

3幕目のラスト、仁木弾正が、宙乗りで、3階席に退場する際の、袴捌きが美しく、さすが、松本流の家元だけのことはあると感心しました。

先代萩で有名な、政岡や仁木弾正、細川勝元などの人物造型は、やはり、名人芸の玉三郎さんや仁左衛門さんなどの先達と比較してしまって、やや物足りなさも感じましたが、染五郎さんの各役柄を大切に演じられている様子が伝わって、胸を打つものがありました。

4幕目に登場する、弾正の化身の鼠が、巨大過ぎて、一瞬、ライオンかと錯覚しそうになりましたが、よくよく見ると、かなり精巧な作りで、まるで、テーマパークの人口動物並の出来映え。なかなかスペクタクルで、見た目にも楽しさがありました。

染五郎さん、初役にしては上出来!、とても、任にあっていると思いました。
更に精進されて、長く持ち役にしていただけたらと期待大です。
ミュージカル 『レディ・ベス』

ミュージカル 『レディ・ベス』

東宝

帝国劇場(東京都)

2014/04/11 (金) ~ 2014/05/24 (土)公演終了

満足度★★★★★

リアルさに貢献する首切り役人
先日も書きましたが、アンブーリンの登場場面に必ず現れる首切り役人役の方が気になって、とうとう2000円もするパンフレットを購入してしまいました。
(父の存命中は、常に東宝のパンフレットには原稿を執筆していましたから、生まれつき、パンフレットを購入するという観念がなく、実に久々の自腹パンフでした)

笠原竜司さんというジャパンアクションクラブ出身の俳優さんでした。この方の筋肉隆々の佇まいが、本当に首切り役人らしさ満載で、彼が、和音さんの横で存在するだけで、アンブーリンからべスに伝わる悲劇の連鎖を具象化していて、観劇する度に感嘆します。

3度目の観劇でしたが、アンサンブルの進化が著しく、舞台が活性化していました。

育三郎さんのロビンには、べスへの愛情が増し、平方さんのフェりぺ王子には、楽しんで役を演じられる余裕が生まれ、吉野・石川コンビの悪役ぶりには更に拍車が掛かり、二人の掛け合いの楽曲は、絶品の境地に…。
ロビンの仲間の3人組は、舞台を明るくする役割をきちんと務められ、花總べスには益々気品が具わりました。

後5回ぐらい観たくなる、素敵な作品に成長していて、これが、世界初演作であることが、ちょっと日本のミュージカルファンとして、誇らしい気持ちになってしまいました。

3回目にして、口ずさめる楽曲も数曲できたので、初ミュージカルとしては、大成功ではないでしょうか?

パンフレットによれば、首切り役人の登場は、演出の小池さんのご発案だそうで、この作品、東宝の手で、小池さんの演出で、世界初演できて、ラッキーだったのではと思いました。

ネタバレBOX

改めて思うのですが、吉沢さんて、確執のある女性同士が、お互いの気持ちが通じ合う瞬間に歌う楽曲に、いつも才気を見せつけて下さる女優さんですね。
「ルドルフ・ザ・ラストキス」の時もそうでしたが、今回の舞台でも、憎んでいた腹違いの妹べスに、自分の気持ちを吐露して、憎しみが徐々に癒えて行く過程での歌唱に、心が籠っていて、何度観てももらい泣きしてしまいます。

花總さんのべスは、最初の頃観た時より、べスの成長の変化をより丁寧に演じていらしたと感じました。ロビンに誘われて、男の振りをして街の様子を見に行くシーンで、ロビンの演技指導に、男っぽくする所作が、少女べスの楽しさを感じさせて、こちらまで嬉しくなりました。

本当に、皆さん進化して、どんどん素敵な舞台になりつつありますので、是非、近い将来、また再演して頂きたいと願わずにはいられません。
昭和レストレイション

昭和レストレイション

パラドックス定数

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2014/05/16 (金) ~ 2014/05/25 (日)公演終了

満足度★★★

意外でした
2・26事件が題材ということで、きっとかなり終始息を呑むようなストーリー展開なのだろうと予想していましたが、意外も意外!

途中までは、コントめいた雰囲気で話が進むので、会場には笑いが絶えませんでした。

井上さんの「ムサシ」に似た劇構成のようにさえ感じられました。

野木さん流の、機知に富む2・26事件の切り口の斬新さには感嘆しましたが、でも、この事件の本質をあまり良く知らない観客が観ると、作者の作劇意図が全く見えて来ないのではと、危惧する部分も多々ありました。

パラドックスの役者さんの中で、近藤さんは浮いてしまうのではないかと心配でしたが、それは全く杞憂に過ぎず、見事に溶け込んでいらっしゃいました。

若い将校達の居住まいが、それらしく、この劇団の役者力はいつもながら、卓越しているなと思いました。

シュールで、アイロニーに満ちた野木版、2・26事件芝居です。

ネタバレBOX

上からの命令で、意味を深く理解しないままに、敵と思った対象に、猪突猛進する若き将校達。若さ故の無知と、猛進の末の悲劇的顛末。

この芝居を観ながら、全然状況は違うのに、何故か、セオール号の事故の犠牲者の修学旅行生を想起してしまいました。大人を信じていた若者というところに、共通点を感じてしまったのかもしれません。

一見和やかそうに見える、雪合戦のようなラストシーンは、逆に、痛切に、深い哀切さが胸に迫りました。

襲撃に向かう将校達に、道行く庶民がおにぎりを恵んでくれたという意味合いを、何度も反芻する若い上等兵の言葉に、今の日本の国民の意識を連想したり…。

さらっと観ていた場面の所々に、まだまだ気づかない作者の示唆が含まれていたように感じられ、もう一度、吟味しながら、再見したい気もしました。
見よ、飛行機の高く飛べるを

見よ、飛行機の高く飛べるを

劇団青年座

本多劇場(東京都)

2014/05/10 (土) ~ 2014/05/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

青年座の女子力を実感
安藤瞳さんを、初めて、研究所の実習公演で拝見した時、この方には、この作品がお似合いだと直感めいたものが芽生えました。

それ以来、いつか安藤さんが、のぶを演じて下さる日が来ることをずっと心待ちしていたので、今回の観劇は心底楽しみでした。

期待通り、安藤さんののぶはピッタリでしたが、他の女子生徒達も、それぞれ、役柄にドンピシャリのキャスティングで、いつの間にか、青年座は、若手女優さんの宝庫になったなあと実感しました。

青年座は、私と同い年。演劇評論家だった亡父が、学生時代から、東恵美子さんと親友だったため、創立の時には、ずいぶん助力を惜しまなかったと、幼い頃から聞かさせて育ったので、創立60周年の公演を、息子と同期生だった安藤さん主演の舞台で、観劇することができて、個人的にも感慨深い思いがありました。

のぶは、永井愛さんのお祖母様、初江は、市川房枝さんがモデルだと伺っています。どこまでが、史実で、どこからが永井さんの創作かは知る由もありませんが、選挙権を得てから、市川さんが政界引退されるまで、ずっと投票してきた身なので、この芝居の中の初江のありかたに、一々頷く部分が多くありました。

たまたま、今日は、首相の意図的な図入りの集団的自衛権の解説などが報じられ、この芝居の時代に逆行しそうな世間の雰囲気に、観劇中も、心がざわつく不安がよぎりましたが、この劇団の役者力のお蔭で、舞台自体は、終始ワクワクと観ることができ、3時間の上演時間もあっという間に感じました。

ネタバレBOX

この作品は、以前、加藤健一事務所の研究所の卒業公演で、初見したのですが、その時も、作品の深さに感動した記憶が残っています。

今回は、演技力に何の心配もない、青年座の役者陣の好演で、なおのこと、作品の描く、女子学生達の青春の輝きと挫折が、ダイレクトに胸に沁みる名舞台になっていました。

安達先生の遠藤さん、山森の黒崎さん、小暮の高橋さん、マツの尾身さん達の、夜の女子会のメンバーも、本当に各人大変魅力的な役作りでした。

そして、主役のお二人、安藤さんと小暮さん、共に、明治の女性の気概を思う存分、舞台に再生してくださいました。

是非また近い将来、再演して頂きたい舞台です。

でも、ただ一つちょっと残念だったのは、客席を占めていた、多くの高齢客が、その年齢にも関わらず、何故か、全く時代背景に無知な方がほとんどだったようで、大逆事件や「青鞜」のことも、田山花袋の「布団」も、何のこっちゃい的にご覧になっている様子で、この作品の意味合いを解しかねていらっしゃる風情だった点でしょうか。

この芝居を観て、改めて、市川さんは、初志貫徹の女性闘士だったんだなあと、感動してしまいました。
実際の永井愛さんの祖母様は、新庄先生のモデルの男性と結婚されたのでしょうか?そんな余計なことまで、気になる程、各登場人物が、リアルに舞台上で生き生きしていました。
ミュージカル 『レディ・ベス』

ミュージカル 『レディ・ベス』

東宝

帝国劇場(東京都)

2014/04/11 (金) ~ 2014/05/24 (土)公演終了

満足度★★★

数人キャストが替るだけで
同じ内容の芝居なのに、こうも雰囲気が変わるものかという驚きがありました。

前回拝見したキャスト陣の方が、それぞれ、強い個性があったので、芝居の流れに、緊迫感や、緩急があったようで、今日の舞台はやや平板に感じました。

期待した加藤さんは、予想の通り、見栄えは素晴らしいロビンでしたが、演技や歌唱では、やはり育三郎さんに軍配が上がる気がしました。ただラブシーンの世界観では、加藤さんの方が勝っているようにも感じます。

加藤さん、平方さん、未来さん、更に、情感を込められた舞台進化に期待したいと思います。

特に、加藤さんは、まだ、演出の通りに、演技して歌って動いて…という演じ手の素顔が見え隠れしている感じがするので、もっと公演を重ねて、役を生きられるようになられた頃が楽しみだなと思いました。

カテコの後に、プレゼントコーナーなどがあり、出演者の楽屋グッズが、抽選で、12名の方に当たりましたが、こういう催しがあると知らずに、帰られた方もずいぶん見受けられました。
せめて、幕間に告知すればいいのにと思います。

ネタバレBOX

先日も思いましたが、簡素なセットの使い方が、機知に富んで本当にお見事。円盤を何通りにも使って、背景を映したり、後方の舞台として活用したり、場転の度に、心の中で、感心してしまいます。
その都度の照明の美しさにも息を呑みます。

べスの母親が、亡霊として登場する度に、処刑役人の男性が、首切り道具を持って現れますが、その方の筋肉隆々の腕が、死刑執行人として大変リアルで、こういう細部にも、適任の役者さんを配したスタッフの心意気が嬉しくなりました。
ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」

ミュージカル「ラブ・ネバー・ダイ」

TBS

日生劇場(東京都)

2014/03/12 (水) ~ 2014/04/27 (日)公演終了

満足度★★

前評判通りの
ストーリー的には、三流昼メロみたいな展開で、やはり、「オペラ座の怪人」で感動した人にはちょっとおススメ出来かねる作品でした。

かと言って、「オペラ座の~」を観てない人には、余計面白くない作品だし…。

どっち道、あまり推薦はできないかも。

ファントムとクリスティーヌが主役と言うよりは、メグ(オペラ座のラストで、仮面を手に取る踊り子)と、クリスティーヌの息子グスタフが主役のスピンオフ作品みたい。

とは言え、オペラ座より更に難曲だらけで、よりオペラチックな歌曲を、各キャストが流麗に歌いこなす様はお見事で、一見の価値(一聴の価値)あり。

残念ながら、市村さんのファントムは拝見したことがないので、あのオペラ座の方のファントムに脳内変換して、彼の名唱に浸りました。

濱田クリスティーヌ、笹本メグ、香寿マダム・ジリー、松井グスタフも、皆さん歌唱も演技も文句なし。初ミュージカルの橘さんも、演技も大健闘されていました。

このキャストで、「オペラ座の怪人」の方を観られたら、どんなに良かったことか…。まあ、実際ありえない願望ですが。

ネタバレBOX

あれほど感動した私の気持ちをどうしてくれるの?と言いたくなるストーリー。

四季のではなく、15周年コンサートの映像を何度も観て、「オペラ座の怪人」に心酔しきりの自分にとっては、このキャラクター設定や、三文小説のような展開には、どうしても納得が行きませんでした。

クリスティーヌが、ファントムにキスしたのは、そういう意味ではなかった筈。それが、男女の下世話な三角関係もどきにすり替えられ、マダム・ジリーやメグの本心も、あり得ないような設定に置き換えられ、本当に、この脚本、ロイドウエバー自身が手掛けたのか?と疑心暗鬼にさえなりました。
○沢さんのDNA鑑定とか、日頃のワイドショーを思い出すようなストーリー展開に唖然とするばかりでした。

ファントムが、オスカーハマースタインの名前を騙って、ラウル夫妻をアメリカにおびき出すところで、ラウルが何度も、ハマースタインの悪口を言うので、もしかして、ロイドウエーバーさん、彼にコンプレックスでもあるのかしら?と余計な詮索までしてしまいました。
ミュージカル 『レディ・ベス』

ミュージカル 『レディ・ベス』

東宝

帝国劇場(東京都)

2014/04/11 (金) ~ 2014/05/24 (土)公演終了

満足度★★★★★

天にも昇る気持ち
何しろ、ずっと待ち侘びていた花總さんの主演舞台復帰作、拝見できただけで、夢見心地でした。

花總べス、山崎ロビン、吉沢メアリー、古川フェりぺ、石丸アスカムのキャストスケジュール日でした。

一番目を奪われたのはセットの美しさ。簡易なセットなのにもかかわらず、映像と照明で、その場をそれらしく感じさせるスタッフ技術に息を呑みました。

べスにとっては、敵役の、石川、吉野コンビの見事な息の合い方にも拍手喝采もの。

曲は、難解なものも多く、訳詞があまりはまっていないようにも感じましたが、全体的に、キャストがすこぶるはまり役ばかりで、これは、久しぶりに、リピートしたくなるミュージカルでした。

ネタバレBOX

先日、別の劇場で、「9デイズクイーン」を観たばかりだし、たまたまテレ東の歴史情報番組で、ヘンリー8世の知識を仕入れた矢先だったので、幾らヨーロッパの歴史に疎い私でも、人物関係が容易く理解できて、助かりました。

「9デイズクイーン」の後日譚でもあり、その舞台では、上川さんが演じたロジャー・アスカムを石丸さんと山口さんが演じています。

濡れ衣を着せられ処刑された、悲劇の王妃アン・ブーリン役の和音さんの透き通るような歌声が、わが子べスを見守る亡霊として、慈愛に満ちて、素晴らしい歌唱ぶりでした。

べスを亡き者にしようと画策する、ガーデイナーの禅さんと、シモン・ルナールの吉野さんの名コンビが、相性ピッタリで、歌も、台詞も息の合い方が気持ちいい!二人のデュエットシーンは、極上の一言でした。

ロンドン塔に幽閉されて以降の、花總さんのべスには、気品と威厳が供わり、待ち侘びた甲斐があったと、心が舞い上がる心地でした。

ロビンは、虚構の人物なんでしょうか?これまで観たエリザベス関連の映画や舞台では、知らなかった人物ですが、彼が、どうしてべスの心を射止めたのか、今ひとつ理解できず、二人のラブシーンにはあまり共感できないのですが、育三郎さんよりは、加藤さんの方がこのシーンには向いていそうなので、急遽、加藤ロビンも拝見する予定を立てました。

先日の、テレ東の番組で、ロンドン塔を実際観ただけに、べスが、船着き場に着くシーンが胸に沁みました。幽閉された壁だらけの寒そうな部屋から、ちょうど断頭台が見下ろせるのですね。あの部屋で、精神の異常をきたさずに、しっかりと自分を保つことができたエリザベスは、やはり、偉大な女王になるべき運命だったのだろうと、実感します。
いのうえ歌舞伎 「蒼の乱」

いのうえ歌舞伎 「蒼の乱」

劇団☆新感線

東急シアターオーブ(東京都)

2014/03/27 (木) ~ 2014/04/26 (土)公演終了

満足度★★★

疾走感皆無の要因
いつもの新感線の舞台には必ず感じる、疾走感が、残念ながら、皆無に近い状態でした。

その要因を昨日からずっと考えていました。

脚本は、いつもながらの、大テーマに沿うものだし、演出も悪いわけではない。とすれば、幾つかの要因が重なって、新感線の醍醐味を感じにくい舞台になってしまったのだと思いました。

後半、天海さんが、男前になられてからは、俄然、舞台に躍動感が発生しました。早乙女兄弟の殺陣は、美しく、壮絶で、冷や汗の連発で、圧巻の見応え。橋本じゅんさんは、あまり活躍の場がなくて、残念ですが、今回も、じゅんさんの演技には、涙を誘われました。

ラストシーンの美しさが、ずっと印象深く、目に残像のように焼き付いて離れません。

いつの世も、時の為政者の犠牲になるムコの民という構図は、今回の舞台でも同じですが、最後に少しだけ希望が持てる展開は、中島さんの思い描く希望の形なのかもしれないと感じました。

ネタバレBOX

たとえ、大河ドラマで1年間主役を務められた俳優さんであっても、これだけの舞台役者の中に立つと、その魅力が埋没してしまうんだなという事実を痛感しました。何しろ、声が違います。他の役者さん達は、それぞれ、声が響くのですが、彼の声にだけ存在感が希薄でした。殺陣もハラハラ見守らなければならないし、観客としては、彼が登場する度に、余計な邪念に囚われて、これまでの新感線舞台のように、気持ちが作品世界に釘付けにならないのです。

何度か、新感線の舞台で、男前の魅力を発揮している天海さんも、今回はたぶん制作側が、彼女の健康に配慮したのだと推測しますが、あまりアクションシーンがなく、2幕になるまでは、天海ファンが喜ぶような活躍の場がありません。

そして、舞台人として、稀有の存在の平さんの演技。もちろん、二役の性格の違いなどもしっかり表現され、それ自体は、やはり重鎮の名演技だと感嘆するのですが、台詞の一つ一つを工夫され、かみ砕いた台詞回しが、まるで、重厚なストレートプレイを観るようで、新感線の舞台展開のスタイルにはやや
そぐわない感じも受けてしまいました。

こういう些細な要因の積み重なりが、今回の舞台の疾走感のなさの理由ではないかと感じます。

相変わらず、新感線の舞台に、独特の魅力を表出する、粟根さん、じゅんさん、高田さん方、劇団の役者さんの舞台力には、感服するばかりです。

国とか、出自とかではなく、誰もが自分の生きる世界を大切にする心に忠実に生きれば、いつか未来の世界では、人々の共生も可能でしょうか?そんな問題提議を、作者はそっと観客の一人一人に問いかけていたのかもしれません。それを象徴するような、ラストシーンの蒼い海と草原の碧のコントラストが、美しく、ずっと心の目に焼き付いて離れないような気がしました。
Broadway Musical 『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』

Broadway Musical 『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』

ニッポン放送

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2014/04/04 (金) ~ 2014/04/20 (日)公演終了

満足度★★★

1幕は眠いけど、2幕は最高!
1幕は、ダンスは切れが良くて、視覚的には乗れるものの、何せ、歌詞が、たとえラップにしろ、あまりにも字余り過ぎて、聞き取れず、ストーリーに付いて行けなくて、これは、年甲斐もない会場に迷い込んだかのアウエイ感を感じたのですが、2幕になると、示唆に富んだ楽曲が並び、人物関係も鮮明になって、いきなり、舞台が動き出した感がありました。

ベテラン女優陣と、若いエネルギーが混然としながら、均衡を保った素敵なステージでした。

ニーナ役の梅田さんの歌声が、ありえないくらい魅力的。AKB,御見それしました。
大塚ちひろさんは、舞台の度に、全く別のキャラクターを体現され、本当に、実力の凄さを痛感します。

カミラの樹里さん、ダニエラのマルシアさん、そして、もちろん、前田美波里さんのお婆ちゃん、演技も歌も安心していられる女優さんが3人も揃って、贅沢なキャスティングが、嬉しくなります。

若い役者陣のダンスは、本当に切れが良くて、観ているだけで、パワーを頂きました。

少し、気持ちが若返れた気分でした。

ネタバレBOX

1幕は、人物紹介に比重が置かれ過ぎて、登場の度に歌われるソロナンバーの度に、眠気に襲われたのですが、2幕になると、ストーリーが動き出し、俄然、目も耳も釘付けになりました。

移民の人達の、その街で、生き辛い中での共同体の温かさに、心がほっこりします。

最後の、ペンキアーチスト少年の傑作には、ちょっと涙を誘われました。

カミラが、夫を叱咤激励する歌が、とても愉快で、共感もしました。

歌詞を書かれた、KREVAさんは、ヒップホップ界の第一人者とのこと。もう少し、演劇向きに歌詞を精査して頂いて、是非また再演して頂けたらと思いました。
 アダムス・ファミリー

アダムス・ファミリー

パルコ・プロデュース

青山劇場(東京都)

2014/04/07 (月) ~ 2014/04/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

アンサンブルの活躍が楽しい
東京楽日!

あたりまえですが、先日の公演よりずっと進化していました。

キャストの動きが自然になって、自然と、アダムスファミリーの夜会に誘われた気分になります。

キャスト、スタッフの一体感が心地よく、現実の憂さをしばし忘れさせてくれる、楽しい舞台でした。

改めて、台詞の一つ一つを注意深く聞くと、とても深読みできる作品だということも認識できました。

人間の多様性も、相手を優しく許容できる愛さえあれば、環境や価値観の違いなんて踏み越えられるというメッセージを受け取りました。

ネタバレBOX

先日も書きましたが、このミュージカル、アンサンブルの、ご先祖様達の活躍が顕著です。各場面で、スタッフさながらの大活躍で、セットの移動や、ダンスシーンのエキストラから、何でもござれの大奮闘です。役名がことさらなくても、誰一人不可欠の存在感があり、こういう、端役に至るまで、大事にしてくれる演出が、とても嬉しく、舞台を活気づかせます。

前回はまだたどたどしかった、ゴメスとモーティシア夫妻のタンゴが、今日は息もピッタリで、見た目にも美しく感動的でした。

マルとアリス夫妻、ウエンズデーとルーカスのカップルも、しっくりと相性良く、フォワっと愛嬌のあるフェスター叔父さんとお月さまとのラブシーンは、ファンタジー演劇のお手本のような、素敵な一瞬を演出してくれました。

鷲尾さんのグランマは、益々チャーミング。姉を思う、バグスリーの弟心の表現も、ちょっとウルッとするものがあり、アダムスファミリーファンにいつの間にかなっている自分に驚きました。

ずっと「ウーウー」としか言わなかった、執事のラーチが最後に突然歌いだすシーンは、何故か心がジーンとしてしまいます。

また、いつか、是非このメンバーでのファミリーのご帰還を念じています。

それにしても、グランマは、結局どちらの母親だったのでしょう?(笑い)

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