満足度★★★★★
ドアの開閉の演出意図は?
ずっと気になっていた谷さんの演出作品、初めて拝見しました。
まず一言で言うなら、「呆れるほどの佳作」です。
サイン、コサイン、タンジェント、√あたりが出て来た頃から、算数得意少女の足を洗い、すっかり数学音痴女子学生に成り下がった還暦目前おばさんとしては、観てわかる芝居なのかと大変恐怖心を抱いて観に行きましたが、全く心配いりませんでした。
これは、人間関係の照明劇なんですね。心と体が融合して、それが一つの形に結びつくまでの綿密な公式を提示されたような芝居でした。
何よりも驚いたのは、山本さんの役者としての資質の芳醇さ。声に力があり、声優としてもご活躍だということが納得できました。
先日、従弟の長男が、アニソングランプリで、準グランプリになった映像を観たのですが、彼も、容姿が山本さんにそっくりでしたから、声優向きの体躯というのがあるのかもしれないと思いました。
他の公演を観ていないので、比較できませんが、この芝居、ハル役の俳優の演技如何で、作品の成果が全く違ってしまうと思うので、その点からも、山本さんのキャスティングは大成功だと感じました。
遠野さんも、宝塚ご出身とは思えない自然な演技が、姉役のスタンスを的確に表現されて、お見事でした。
ただ、一つ、非常に気になったのが、庭に出るドアの開閉のジェスチャーが、人によって、状況によって、あまりにもマチマチなこと。架空のドアを開閉する動作が数えきれない程繰り返されるので、もしかしたら、ここにも谷さんの緻密な演出意図が隠されている可能性も感じたのですが、そこまで、深読みできないと、逆に、演者の動きが気になって、演技の粗のように感じられる欠点とも受け取られ兼ねず、むしろ、ドアはない設定での芝居にした方が、芝居の中身にドップリ浸れるのではないかと感じました。