KAEの観てきた!クチコミ一覧

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リチャード三世

リチャード三世

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/10/03 (水) ~ 2012/10/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

真っ当なシェークスピア劇
「ヘンリー六世」から観ているので、いつもは、同じ名前の人物がたくさんいて混同したりする部分がわかりやすくて、すぐに、物語の世界に入り込めて、その分、じっくり堪能することのできた「リチャード三世」でした。

やはり鵜山さんの演出は傑出している。今まで、たくさんの「リチャード3世」を観て来たのですが、今回程、シェークスピアの書いた台詞が時を越えて、胸に沁みた経験はなかったように思います。

それは、個々の役者さんが、台詞を自分の身に落として、きちんと消化した上で発しているからだと思うのですが、そういう演出をできる鵜山さんの才能には感嘆するばかりです。

落魄れたマーガレットが、恨みを込めて、この舞台の登場人物の悲劇を俯瞰して眺めている様を、中嶋さんが壮絶に凄みを込めて演じていて、迫力がありました。

母の悲哀を全身で表現した倉野さん、那須さんと、少ない女優陣が、大健闘し、これまでになく、女性視点からも深みのある「リチャード三世」でした。

今回もまた、城全さんの声に圧倒されました。

リッチモンドの浦井さんは、品が良く神々しく、存在感が傑出しているのですが、たぶん、楽屋待機時間が長いのが影響されたのか、ややお顔がふっくらし過ぎていたのが、ちょっと惜しいなと思いました。

ネタバレBOX

服装や椅子など、当時とは逸脱した、現代風のものもたくさんあり、かと思えば、きちんと当時を再現する衣装もありで、きっとそのあたりにも、細かい演出意図が隠れていそうでした。

現代にも通じる人間の性を描く部分には、普遍的な衣装や小道具を多様したのかもしれません。

リチャード三世の描き方も、極悪非道な悪党という部分より、生まれながらに、不幸を背負って、母にも愛されなかった人間の哀しさを浮き立たせた演出だったように感じました。

それにしても、中嶋さんのマーガレットが、呪いの言葉を口にする長台詞、たくさんのエドワードが登場するのですが、よどみなくおっしゃっていて、脱帽ものです。きちんと、自分の息子のエドワードと別のエドワードを意識の中で選別していらっしゃるから混同しないんでしょうね。

中嶋さんに限らず、この舞台の役者さんは、皆さんが、役になりきって台詞をご自身の心の中で咀嚼して声に出してくださっているので、いつもの亜流シェークスピア劇で、耳にするような、単に長台詞を頭に叩き込んだだけといった感じの芝居とは、全く、観客としての体感が異なりました。

リッチモンドが、戦争前夜、軍隊に向かって鼓舞する演説は、そのまま、客席の我々に向けて発せられているような高揚感があり、体が震えさえしました。

リチャードに殺された人物達が、入れ替わり立ち代り、「絶望して死ね。」「生きて栄えよ。」と、眠るリチャードとリッチモンドに交互に浴びせる台詞には、私も、心の中で、「○○は絶望して死ね」と唱和してしまいそうになりました。
実際、現実生活で、恨みのある人物を殺すわけにはいかないので、こういう演劇の世界で、仮想仇討ちできて、心が落ち着くのかもしれないと思ったりしました。

殺されたリチャードの兄弟役のお二人が、幽閉された王子の役を人形を手に、演じられたのも一興でした。私は、子役を出さなかったのは成功していたと思います。
PHANTOM 語られざりし物語~The Kiss of Christine~

PHANTOM 語られざりし物語~The Kiss of Christine~

Studio Life(スタジオライフ)

シアターサンモール(東京都)

2012/10/06 (土) ~ 2012/10/23 (火)公演終了

満足度★★★★

山本芳樹さん圧巻
山本エリックのプレビュー公演、拝見しました。

私がスタジオライフのファンになったきっかけは、山本さんと及川さんと石飛さんだったのですが、本当に、今回のエリックも素晴らしくてなりませんでした。

「オペラ座の怪人」は、四季では市村さんは見逃していて、その後何度か観た四季版では、一度も満足できるレベルのものはありませんでした。

ミュージカル原作が、人間ドラマが希薄なのかと思っていたら、昨年映画で観た50周年記念コンサートが素晴らしかったので、ミュージカルの不出来は、上演劇団の演出に起因するものだとわかりましたが…。

で、かねてより、日本の怪人には辟易していたので、山本さんのエリックには、苦悩と存在感と、愛の渇望が痛いほど伝わり、後半は、涙を禁じえませんでした。

ただ、怪人がオペラ座に住むようになるまでの場面が、やや冗長だったのが残念でした。

オペラ座が完成してからの、バックのスクリーン映像が素晴らしく、ため息が出ました。ちゃんと前面にいる役者とフィットして、全く映像とは感じさせないリアルさがありました。

ただ、人間ドラマとしての完成度から言えば前回の「ファントム」前篇の方がクオリティが高かった気かします。

ミュージカルでは、ただの変質者ストーカー的にも見受けられかねない怪人の人となりや周囲の人間の彼に対する関わり方が丁寧に描かれているので、ミュージカルのファンの方にも腑に落ちる作品になっていると思います。

ネタバレBOX

当パンに、前回のあらすじが書いてあるのは親切でした。

とは言っても、全く今まで「オペラ座の怪人」の内容を把握していない人が観た場合、ややわかりにくい構成ではあったように思います。

特に、「プロローグ」と「抗い難し者」の場面の流れが忙しく、登場人物の出はけが工夫なく、頻繁なため、高校の学園祭レベルのような印象を受けました。

エリックが、オペラ座の建築に関わる場面からは、一気に人間ドラマの趣が強くなり、画面の美しさとも相まって、引き込まれました。

岩崎さんのラウルが予想より、適任で、とても良かったのも嬉しく感じました。
ただ、初日だったせいか、最後の場面の大事な解説台詞で、たぶん「クリスティーヌ」の名を口にする箇所を間違えられたようで、論旨が噛み合わないところがあったのが、残念でした。

最後にちょっと登場する、林さんのシャルルの存在感はさすがです。

個人的には、及川さんの登場が少なかったのがとても残念。でも、あの壊れかけたバイオリン人形が及川さんだったとは、帰って当パン見るまで気づかず、御見逸れしましたと拍手しました。

息子が以前共演させて頂いた佐藤さんのナーディルも好人物を丁寧に演じ手好感が持てましたが、石飛ナーディルもさぞや良かっただろうと想像します。

とにもかくにも、初日で、あれだけ、台詞が完璧に入って体に落ちている山本さんには、ただただ感服するばかりです。

55年以上の観劇人生ですが、山本さんの役者力は、私のベスト10に入ると改めて思いました。
橋からの眺め

橋からの眺め

Artist Company響人

テアトルBONBON(東京都)

2012/10/04 (木) ~ 2012/10/10 (水)公演終了

満足度★★★

役者は一流なのに、当制が素人でした
初日だから、仕方なかった部分もあるのでしょうが、自分への対応も含め、当制スタッフの方の不手際が目立ち、せっかくの役者さんの好演にドロを塗るようなシーンが多々見受けられ、残念に思いました。

テアトルBONBONで、こんな客席配置ができるのかと驚きの客席で、至近距離で、役者さんの熱演を拝見できたのは、嬉しかったのですが、私の席の周囲は、お仲間ばかりで、開幕前、あちこちで、挨拶が声高に交わされ、まるで、新しく転校した学校の休み時間の教室にいるような居心地の悪さを感じました。(会話の内容も、中学生並みでしたし…)

そういう、悪環境の中で、始まった芝居は、メーンの役者さんが、皆さん、好演されていたので、とても、見応えのある舞台でした。

特に、宮さん、斉藤さん、末次さんのお三人の居住いが素敵でした。
中嶋しゅうさんの存在感は、言わずもがなですが、初日故か、台詞の言い間違えがあった点が、やや残念ではありました。

ネタバレBOX

驚くことに、私が案内された席は、舞台上でした。

「ベガーズ・オペラ」や、「ジェーン・エア」では、経験ありますが、こうした小劇場で、舞台上で観劇するのは、かなり緊張するものですね。

私のお隣の席の方の同伴者が、後からみえたら、繋がりの席がなく、席の番号をスタッフが認知していなかったため、7分以上、そのお客様は、舞台袖で待ちぼうけを食わされ、お気の毒でした。(C3という席が、何故か配列されていなかったようでした)

開演予定時刻を5分押してから、スタッフの注意事項が述べられ、「休憩はないので、用はお済ませ下さい」と言ったら、それから、トイレに立つ方が多く、驚くことに、舞台上の席の若い男性も、「おしっこ行ってこよ」と席を立つので、開演は、10分以上押しました。

一事が万事、とても、プロの制作のお仕事とは思えず、とても、残念な印象を受けました。

脚本は、アーサー・ミラーなので、今更文句も言えませんが、展開が読めてしまう点が、今の芝居を見慣れた身には、やや物足りなく感じる部分でした。

小川さんの演出は、このぐらいのキャパの劇場だと、とてもしっくりして、素敵にまとまっていると感じました。

斉藤さんの出番が少なかったのは、個人的にちょっと残念でした。

シリアスな芝居なのに、舞台上の若い観客が、「ヒャヒャヒャヒャ」と、品のない笑い方をするのも、やや耳障りでした。こういうリアクションをされる関係者は、普通の席の方にされたら良かったのではと思います。
満月の人よ

満月の人よ

トム・プロジェクト

紀伊國屋ホール(東京都)

2012/09/22 (土) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

老齢者向き、安定感ある舞台でした
行かないと言いつつ、そっと観て来てしまいました。

隠れ村井ファンなので…。

天狗に攫われるとか、ネズミに引かれるとか、神隠しに遭うとかは、私の幼少期には、東京でも、祖母が二言目には言っていた台詞でしたし、とりもちも、蠅をたくさん採って、見た目が気持ち悪いと思いながら、すごいなあと感心したりしていました。

ですから、東京育ちの私にも、どこか、郷愁を覚える作品でした。

村井さんと岡本さんの自然体の演技と九州弁が、とにかく心地良く拝見できます。

池田さんも、作品によっては、ややデフォルメした演技がわざとらしく感じる時があるのですが、今回の舞台では、両親思いの人の良い息子ぶりがとても自然で素敵でした。

謎の女性を演じる、川崎さん含め、この4人のキャストの塩梅が全てに亘って、観客を心地良く舞台世界に誘う水先案内人的スタンスでいらっしゃいました。

特段、驚くような展開があったり、ドラマチックだったりはしないのですが、終始、居心地良く観劇できた作品でした。

ただ、これ、もしも、招待で行かれた観客は、十分満足される舞台だとは思いますが、チケットを買って、どうしても観たいと思わせるだけの吸引力は、どこか不足しているように思うのです。

演劇興行の難しさを痛感しました。

ネタバレBOX

私の生家は、以前、島田正吾さんのお宅だったせいか、納戸に、舞台道具だの、天狗のお面だの、いろいろなモノがありました。

私が悪さをすると、祖母が、そういう舞台道具を使って、私を脅かした記憶が蘇りました。

村井さんが、天狗のお面を被って、屋根に上がり、「天狗さんよ、どうか、もう大切な人を連れて行かんでくれ」と、空に向かって、叫ぶ場面が、村井さんのあまりにも秀逸な演技故に、涙が零れて仕方ありませんでした。

描かれている舞台は、70年代。もうこういう美しい日本は取り戻せないのかと思うと、村井さんの声に、自分の心の声を重ねてしまうところがありました。

西鉄ライオンズの芝居の時にも、感じましたが、私は、東さんの、劇団での作品より、こういう一般大衆向きな作品の方が、断然好みなのだと、改めて自覚致しました。
ワルツ

ワルツ

ペテカン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/09/21 (金) ~ 2012/09/30 (日)公演終了

満足度★★★★

本田さんの心優しいウイットが好き
もう18年も、劇団を存続させていらっしゃるペテカンさん。

私は、シアタートップスさよなら公演で、お目当ての劇団にさよならして、逆に、その時、このぺテカンさんを見初めた、新米ファンですが、拝見する度、近頃の小劇場の傾向と相反する、劇団の心根を感じて癒されています。

今回の作品も、小さなオチが幾つも散りばめられているのですが、それがどれも、観客を不快にさせない素敵なオチばかりで、本田さんて、良い人なんだろうなと思わされました。

昇太さんや松金さんをもっとメーンに据えた芝居なのかと思いきや、いつもどおりのペテカンらしいお芝居で、そういうところにも大変好感が持てました。

演出が、ややわざとらしく、ギクシャクした感があったけれど、もしかしたら、それさえ本田さんならではのウイットに富んだ演出なのかもしれません。

ネタバレBOX

とにかく、いろいろ出来事は起こっても、最終的に悪人が一人も登場しないというのが、大変気持ちの良い終わり方です。

権ちゃんの亡き妻を演じた羽柴さんの可愛さが光りました。ずっと、夫の妄想の中で、元気に振舞っていた菊ちゃんが、夫が自分の妹を愛し始めたことを知って、ラストワルツを踊る時の涙にグッと来てしまいました。

妹役の植栗さんもとても魅力的で、素敵でした。ずっと妻を忘れられずに引きこもっていた義兄が、彼女に惹かれて行くのが納得できてしまいます。

その3人が、繊細に描かれる一方で、他のダンス教室のメンバーは、ややデフォルメされて描かれるのですが、この二刀流の筆捌きが鮮やかで、違和感を感じさせないのが、本田さんのテクニックではと感心しました。

職人気質と頭を気にする植木屋さんのミスマッチなキャラクターも愉快でした。

悪い人間で、権ちゃんを騙していたかと思った、濱田さん演じる漫画家が女子校生による冤罪だったというオチや、松金さん演じる老ダンス教師が、元気に、堂島さんとローマの休日を楽しむオチも、最近の小劇場の芝居の流行とは真逆で、観客の予想を良い方に裏切るオチばかりで、気持ちが明るくなりました。

特に、私が一番嬉しかったのは、植木屋さんに鞍替えしたかに見えた芝居青年の大吾君が、芝居を諦めることなく、20年も劇団を続けているという真相でした。(笑い)

それにしても、野田さんの次の首相は石原さんというのは、あれは、本田さんの予想なのかしら?あの台詞は、深読みすべきなのかと、変に悩まされてしまいました。
華麗なるミュージカル音楽の世界 ガラコンサート2012~サットン・フォスター来日記念スペシャル~

華麗なるミュージカル音楽の世界 ガラコンサート2012~サットン・フォスター来日記念スペシャル~

サンライズプロモーション東京

新国立劇場 中劇場(東京都)

2012/09/15 (土) ~ 2012/09/16 (日)公演終了

満足度★★★★★

申し訳ないような気分
トニー賞を2度も受賞された、サットン・フォスターさん、皆さん、日本のミュージカルシンガーが口を揃えて、「可愛い!」とおっしゃっていた通り、お人柄も素敵な雰囲気で、日本キャストの中にも自然に溶け込んで、全てに魅力的な女優さんでした。

歌良し、ダンス良し、演技良し、スタイル良し、性格良しで、非の打ち所がない感じ。

他の日本側の出演者も実力派揃いで、日本にいて、こんなチケット代で、堪能させて頂けるなんて、幸せな一夜でした。

ネタバレBOX

サットンさんは、特別枠で、ご出演なのかと思っていたら、普通に、日本キャストと同じ配分で、歌唱曲数も、出演時間も、特別扱いなし。

それを、嫌な顔もせず、真面目に、ステージを務めて下さる姿に、一目でファンになりました。

毎年、トニー賞の授賞式はテレビで観ているので、目の前に、本当にサットンさんがいるだけで感激!夢のようでした。

いつもなら、しゃしゃり出過ぎな俳優さん達も、サットンさんがいるからか、悪目立ちする人もなく、静かに、ミュージカルの名曲を、心ゆくまで、堪能することが出来ました。

サットンさんは、もちろんのこと、いつもより10歳は若返って見えた綜馬さん、
歌がどれもピッタリだったシルビアさん、キュートな昆さんと藤岡さんの微笑ましいデュエット、保坂さん真骨頂の「マンマミーァ」、姿月さんの「レベッカ」、石井さんと彩乃さんの「ウェストサイド」のデュエットなど、見どころ、聞き所満載でした。

玉野さんも、「クラブ7」が終ってすぐの振り付け、ご出演で、大変だったでしょうに、見事に、統一の取れたステージを見せて下さいました。
最後の、サットンさんの「モダン・ミリー」は、日本キャストの上演を観なくて正解だったとつくづく思わされました。英語の歌詞はわからなくても、表情と歌い方で、彼女が如何に演技力が素晴らしい方か、存分に思い知らされた歌唱に息を呑みました。

サットンさん主体の選曲なので、無理もないのですが、最初に、日本のミュージカルファンには、比較的馴染みの少ない、コール・ポーターの曲を集中させた点と、「エニシング・ゴーズ」で、アンサンブルのタップの音がややうるさかった点を除けば、選曲、構成共に、充実した内容だったと思います。

ただ、欲を言えば、綜馬さんと石井さんの「チェス」の女性デュエット曲の選択は、やはり選曲ミスではと感じました。

先日の「ミリオンダラーカルテット」と言い、トニー賞受賞者を3人も、日本にいながらにして拝見できて、何だか申し訳ないような気分です。

そうそう、気になっていたことがあり、演劇ライフを見たら、じゅれさんのご感想で、腑に落ちました。レミゼの「ワンディモア」のアンジョルラスの陰声はどなたかと思っていたら、どうやら姿月さんだったようです。
今思えば、2度と拝聴できないレミゼカンパニーですね。しっかり記憶に留めます。でも、できれば、姿月さんのアンジョルラス、肉眼で観たかった!
(以前、記念公演の余興で拝見した、大浦アンジョの雄姿が未だに忘れられません。)
ミリオンダラー・カルテット

ミリオンダラー・カルテット

TBS

東急シアターオーブ(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/17 (月)公演終了

満足度★★★★★

陰の名プロデューサーの悲哀に涙
たぶん、日本広しと言えど、こんな気分で、泣きながら、この舞台を観ていたのは、私一人だけかもしれない。

この歴史的一夜の出来事は、私がまだ2歳の冬。ですから、当然、この出来事に個人的思い入れも皆無なら、プレスリーを、当時、テレビ映像で観た以外は、後の3人の歌手のことはほとんど知りません。

では、何故、こんなに、涙が頬を伝うのでしょう?

それは、この作品が、陰の名プロデューサーの悲哀をきちんとドラマ化しているからだと思うのです。

祖父や父や叔父や主人を通して、これまで、たくさんの無名な名プロデューサーのその世界(出版界、演劇界、映画界、音楽界)への愛情と悲哀の歴史を、山ほど見聞して来ました。

先日も、演歌界のゴタゴタのニュースを見たりしました。

だから、この舞台に登場する、サン・レコードのサムが、私には、祖父や父や夫の姿に見えました。何もかも、心の琴線に触れて、涙を堪えることができませんでした。

ロックンロールの上手い下手はよくわからないのですが、キャスト陣、噂に違わず、超一流揃いでした。

もっと、物真似ショー的なステージを想像していたのですが、さにあらず!
本当に、素晴らしい人間ドラマでした。

何だか、宣伝が、画一的で、ロックンロールファンでないと、観る価値がなさそうに感じる宣伝の下手さが、この作品の素晴らしさを一般に伝えていない気がして、非常にもったいないなと思いました。

経済とHの佐藤さんが、現地でご覧になった感想をネットで発表されていて、大絶賛はされていなかったので、逆に、観てみたいと思ったのですが、行って本当に良かった!!劇場も、大変観易くて、素敵でしたし、これは音楽ファンでない方にも、是非おススメしたい舞台でした。

ネタバレBOX

構成が、なかなか巧みでした。

奇跡のセッションの単なる物真似ショー的な、ストーリー性の弱いステージを想像していましたが、全く違います。

細かい部分まで、登場人物の心象表出がしっかりと演出されています。

ところどころで、サムの回想シーンをうまく織り交ぜ、4人のシンガーの代表曲の披露などもあり、エンタメと、人間ドラマの交互の見せ方が上手でした。

プレスリー役のエディーさんの歌唱は、耳に覚えのあるプレスリーにそっくり。ジョニー・キャッシュ役のデレクさん、プレスリーの恋人役の女優さんの歌が抜群!カール役のリーさん、サム役の男優さんの演技の確かさ、ジェリー・リー・クライス役のリーウ゛ァイさんは、演技も、ピアノ捌きも文句のつけようがない、芸達者ぶり。

久しぶりに、質の高い来日ミュージカルに魅了されました。

最後に、サムが育てた歌手が、皆自分から離れて行くことを知らされた彼が、「記念写真を撮ろう!」と提案して、シャッターを切った瞬間、一瞬場内が暗くなり、フラッシュがたかれ、明るくなると、実際の4人の本物の記念写真が壁に映し出され、客席に歓声が沸きあがりました。

何と、感動的な幕切れかと、更に涙で、見えなくなってしまいました。

その後の、カーテンコールでの、ミニコンサートは、往年のファンの方には溜まらないスペシャルサービスのひと時でした。
DADDY LONG LEGS ダディ・ロング・レッグズ

DADDY LONG LEGS ダディ・ロング・レッグズ

東宝

シアタークリエ(東京都)

2012/09/02 (日) ~ 2012/09/19 (水)公演終了

満足度★★★★★

大人向きの足長おじさん、素敵尽くめ!
小学生で、読みふけり、中学生で再読。アニメ化されたら、子供に託けて夢中で観た、大好きな物語。
それを、ケアードさんがどんな風に、ミュージカル作品として、アレンジされるのかが楽しみで観に行きました。

素敵!佇まいが圧倒的に、素敵な舞台作品になっていました。

奥様の今井麻緒子さんの翻訳、訳詞も素敵でした。ご夫妻で、こういう共同作業ができて、素敵!

井上さんと真綾さんの初共演も、なかなか相性良かったと思いました。

陰に隠れていた演奏者がカテコで、舞台に登場されたら、その中に、林アキラさんがいらしたのも、素敵!

最後の、足長共同基金へのお願いも、素敵な方法で、これなら、自然に募金したくなるなと思いました。

久しぶりに、いろいろ憧れていた少女時代に気持ちがタイムスリップして、ウキウキルンルンで、劇場を後にしました。

秋に再演が決まっている「ジェーン・エア」とセットで観ると、更に、楽しめる要素が強くなりそうな予感がします。

ネタバレBOX

全く、二人だけの登場人物。場転でスタッフさえ出て来ないのが、気が利いていて、お洒落な佇まいの、佳品ミュージカル作品でした。

最初は、ジルーシャ一人の独白から始まり、養護施設の先生の口真似などもするので、こういう風に、ずっと進むのかと、やや落胆したら、井上さんのジャーウ゛ィス登場後は、二人の掛け合いで、進行し、素敵な舞台空間が、演出されていました。

メロディは、やや単調で、印象に残る楽曲は少ないものの、二人の心象描写が丁寧なので、むしろ、ストレートプレイのような雰囲気で、歌詞の1つ1つが、胸に残りました。

ジルーシャが、「知らなかった」と歌う文学や歴史事項を、今の自分は、ほとんど知っていて、「ジェーン・エア」のストーリーもわかっていたのは、観劇の役に立って、余計面白さが加速した感じでした。

ジャーウ゛ィスが、足長おじさんは実は自分だと告白できずに、苦悩して歌う「チャリティ…」の歌は、歌詞が殊の外沁みて、目頭が熱くなりさえしました。

子供の頃は、児童文学としての印象しかなかったのですが、こうして観ると、なかなか社会派の、大人の恋愛模様としても傑作物語なんだなと、溜飲が下がりました。男女の恋の駆け引きとか、教育、政治の問題、身分制度などの社会問題等、台詞の中に、たくさん含蓄を含む言葉が詰まっていました。

いいなあ!ケアードさんの演出!以前、昨日観た芝居の演出家が、ケアードさんを「才能のない演出家」呼ばわりされていましたが、私は、ケアード演出の方が、ずっと才気溢れていると感じます。

できれば、毎日でも観たくなるような、素敵な舞台作品でした。

井上さんの足が、本当に長いのが、これまた素敵!
コーパス・クリスティ 聖骸

コーパス・クリスティ 聖骸

ネルケプランニング

青山円形劇場(東京都)

2012/09/06 (木) ~ 2012/09/17 (月)公演終了

満足度★★★

ずっと傍観していました
個人的に大嫌いな、役者が開幕前から、舞台内容とは無関係な無駄話をダラダラしているという形式の舞台で、こういうのって、青年団や蜷川さんがよくなさるけれど、今回の舞台ほど、その演出がマッチしない違和感を感じたことはありません。

たとえば、そうしておいて、始まったら、全く空気が一変し、あー、プロの役者って凄いなと思わせられるなら、それも一興でしょうが、この舞台では、円形劇場で、元々、対面に他の観客も視界に入るわけですから、よほど、役者に力量がないと、舞台が暖まるまでに、無益な時間を労して、決して得策だとは思えません。

開幕当初は、上記の理由と他の理由も加わって、なかなか描かれている世界に馴染めず、私にとっては名子役のイメージだった松田さんが、いつの間にか、こんな中堅俳優になられたんだなあとか、青井さんの秘蔵っ子だったある役者さんが、昔は、前説もオドオドして、とても役者さんには向きそうもないと思ったけれど、それなりに、成長されたなあとか、余計なことばかり、脳裏をかすめての観劇に終始してしまいました。

他のお客さんも話していましたが、誰か、ご贔屓の役者さんがいれば、楽しめる舞台かもしれません。

渡部豪太さんのキリストは、見た目も麗しく、適任だったとは思います。窪塚さんのユダも、ぞくっとする魅力があったのですが、後ろ向きの台詞が、聞き取りにくく、残念な部分がありました。
食事しながら、感想を話している二人連れが言っていたけれど、「円形舞台だと、台詞が半分ぐらい聞えないね」って。でも、きちんと発声を学んでいる役者だとそういうことはありません。今日の役者陣には、円形劇場は不向きだったのではないでしょうか?

以前、青井さんが演出された、ミュージカル「ゴッドスペル」の方が、ずっと濃密で、キリストとユダの関係を深く考える一助になる舞台作品だったように、感じました。

もしかして、作者は、キリスト教信者でありながら、同性愛嗜好の方なのでしょうか?
自らの信仰の正当性を主張したくて、こういう芝居を書いたのかしら?と勘ぐってしまいました。

ネタバレBOX

当初心配したような、猥雑な目を背けたくなるタイプの作品ではなく、そういう面での付いて行けなさはなかったのですが、キリストの生誕から死までを、ただ駆け足でダイジェストで見せたという程度の印象で、見終わった後も、「それで?何?」という感じの劇後感でした。

現代アメリカに、もしキリストが生まれ、ユダと同性愛だったらというような、仮定のストーリーかと思いきや、現実の日本の役者名を呼んで、洗礼を授けてみたり、劇中劇の体裁かと思えば、そういうわけでもないような、何だか、設定が曖昧で、何をどう見せ、観客に、何を提示したいのかが、さっぱりわかりませんでした。

トニー賞を受賞した問題作だということですが、別に、現代のアメリカの問題を深く抉ったような印象もないし、青井さんの翻訳が、どれほど、原作と違うかとか不明ですが、とにかく、舞台設定を現代アメリカに置き換える意味合いを全く感じませんでした。

私は、キリスト教信者ではないものの、息子達が通った学校や幼稚園で、聖書を学ぶ時間があったため、描かれている場面の意味合いがまだそれなりに理解できましたが、そういう知識もない人が観たら、全く意味不明だったのではないでしょうか?

それが、証拠に、終演後、パンフレットを買い求める人が多く、「よくわからなかったから、パンフ買うわ」と言っている声がたくさん聞こえました。
パンフを買っても、役者の稽古の感想とか写真とかだけで、作者の狙いとか、歴史的な解説とかが皆無だったら、買った意味がないので、私はやめておきましたが、果して、購入の甲斐はあったのでしょうか?
沈没のしらぬゐ【池袋演劇祭にて豊島区町会連合会会長賞受賞!!有難う御座いました!!】

沈没のしらぬゐ【池袋演劇祭にて豊島区町会連合会会長賞受賞!!有難う御座いました!!】

蜂寅企画

Route Theater/ルートシアター(東京都)

2012/09/05 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

恩師に、時代劇作家中尾ありと報告したくなる
今でも、心の中に往き続ける、時代小説の大家である、我が恩師に、「知り合いの中尾さんという劇作家が素晴らしい才能なんですよ」と墓前に報告したくなってしまいました。(バックの中の遺影には、早速報告しましたが…)

旗揚げから、拝見していますが、今回の作品は、今のところ、最高傑作だと思います。

人物一人ひとりの心情が丁寧に描かれているし、観客に、情報提示する、脚本の頃合が絶妙で、構成の巧みさに感心します。

舞台セットのセンスも抜群。

役者さんも、公演の度に、進化されて、有名な脚本家の作品を、商業演劇で上演する時代劇などより、悠にクオリティの高い作品でした。

ただ、欲を言うなら、髪型と、帯に、もう少し、配慮がほしいと思いました。
特に、花嫁姿の場合において。

会話の中に、人魚のたとえ話が出て来ますが、ヨーロッパならともかく、あの時代の日本で、人魚という概念があったかしらと、その部分も、ちょっと違和感を感じました。
「浦嶋太郎」の方は、似たような伝承が、中世から伝わっていた筈で、OKかなとは思うのですが。

ネタバレBOX

花嫁の死因を、関係者が、それぞれ、証言していく構成。

導入部分から、観客の興味を持続させる、脚本の構成の巧みさに、舌を巻きました。

何人かの関係者の証言によって、構成する芝居は、ともすると、時間経過が不明瞭になったり、同じような場面が微妙に変化しつつ、何度も繰り返されたりして、観客としては、頭が混乱したり、結局、何が真実なのか見えなくなって難解な芝居になりがちですが、中尾さんの脚本は、その情報提示の頃合や、人物の心情描写の順序設定などが、絶妙で、ストーリー運びとしても、矛盾が一切なく、終始不愉快な気持ちにさせられずに済み、爽快でした。

登場人物の人数や、性格づけ、エピソード、他の人物との関係性等、全てが、脚本的に卓越していました。

見終えてみたら、悪人が誰もいなかったなと気づき、その点でも、好感触でした。

キャストの皆さんも、それぞれ、役をしっかりと生きて良い演技をされていましたが、特に、たつき役の山口さんの健気さが、胸に沁みました。
ミス・サイゴン

ミス・サイゴン

東宝

青山劇場(東京都)

2012/08/22 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★★

新妻キム、更に良し!!
今日は、当初観る予定ではなかったのですが、ひょんなことから、観劇。

先日、新演出に、驚嘆したので、今日は、わかった上で、丹念に、注視して、再観劇。更に、満足度が高まりました。

先日は、気づかなかった、エレンの新曲も、よく耳を欹てて聞いたところ、メロディは、以前の曲の方が印象深いものの、内容的には、エレンの心情を良く説明していて、理解度が増した気がしました。

新妻さんのキムは、初演の時には、ぎこちなかったのですが、その後、いろいろな難役を経験されて、深みの増したキムとして、戻っていらっしゃいました。

こうなると、知念キムも、もう一度拝見したくなりますが、時間もチケットもなくて、残念無念。

相変わらず、幼少のタム役者君に、脱帽!

ネタバレBOX

いつも、公演中盤から、市村さんのアドリブが加速するので、今回も危惧していたら、先日は、なかった台詞が幾つか加味されていました。

今日のところは、舞台内容に支障がない範囲ですが、基本的に、コメディでない作品に、あまり個人的なアドリブを持ち込むことには、賛成出来かねる思いがあります。

客席のカーテンコールの拍手が、喜びに満ちていて、一緒に行った長男が、幕間に、「ミス・サイゴンって、こんなに、面白い作品だったっけ?」と驚いていました。彼も、本田美奈子さんと岸田聡さんのコンビから、観て、今回の観劇は4回目でした。

満席の理由がよくわかる、素晴らしい、改良「ミス・サイゴン」、更に、実感を強めました。
シュペリオール・ドーナツ

シュペリオール・ドーナツ

加藤健一事務所

ザ・スズナリ(東京都)

2012/08/25 (土) ~ 2012/09/10 (月)公演終了

満足度★★★

全てが今ひとつの感
意外にも、加藤義宗さんが、期待以上の好演ぶりで、加藤父子の共演に目を細める観点で、この芝居を観る限りは、とても楽しめるのですが、全体的に、脚本、演出、演技…、それぞれが、今ひとつ感が強く、トータルすると、満足度3という劇後感でした。

アメリカシカゴの社会情勢に精通していないので、漠然と違和感を感じたのは、時代性がよくわからないんです。携帯やスターバックスが出て来るから、現代のシカゴが舞台だとはわかるのですが、舞台装置から浮かぶイメージでは、60年代のような雰囲気を感じてしまって…。

アーサーの暗い過去というのも、あまり具体的な説明がないので、どうも、人物に感情移入できにくい部分もありました。(これは、他の登場人物の背景に関しても、同様です。)

黒人のメークも、もう少し、プロフェッショナルにできなかったのかしら?
何だか、あれだと、ドリフのコントを思い出してしまって…。
喜劇なら、あれでもいいでしょうけれど…。

演技演技した他のキャストの中、義宗さんの台詞が、一番自然で、声量も、声質も、滑舌も良く、一番感情移入できる人物になっていました。
初舞台も、十数年前に拝見しましたが、その当時から、楽しみな役者さんでした。舞台俳優としては、長くブランクがあったのに、DNAなのか、さすがです。
今後の、義宗さんの舞台、また楽しみにしたいと思いました。

ネタバレBOX

5月に観た「負傷者16人」を軽いテイストにしたようなお芝居でした。

全体的に、セットやアクションも含め、プロの仕事ぶりにしては首を傾げたくなる出来栄えでした。

まず、開幕直後の、荒らされたドーナツ店が、壁に落書きされてる他は、ただ単に、椅子が倒れてるだけで、スタッフが人為的に倒した感ありあり。全然、逼迫感がありません。

フランコが、ドーナツを試作して、次々食べさせに出て来るのは、まるで、折紙でも折って、「じゃ、これは?」と親に聞く子供のように、短時間の動作で、それも、持って来るドーナツはいつも一個。普通、ドーナツは、1つだけ揚げるなんてことはないし、引っ込んだ途端にまた試して、わすが数分で、合格点が貰える程、上達する筈もないでしょうに…。

また、一番の迫真シーンの筈の、アーサーとルーサーの決闘シーンは、手に汗握るの正反対で、芝居の段取りがあからさま。

1つや二つの、芝居上のお約束には目を瞑るとしても、こうも、連続して、作り物めいていると、白けてしまいます。

全体的に、リアル感がなさ過ぎで。

せっかく、あれだけ役者としての資質を具えている義宗さんの好演が、嬉しく観られただけに、この芝居全体のレベルが残念でなりませんでした。

マックス達のロシア語が意味不明なのは演出としては面白く、いいとして、ジェイムスの土屋さんの台詞が、ほとんど不明瞭で、聞き取れないのにも、閉口しました。

脚本も、まだ粗削りで、人物の描き方が通り一遍なのも、カトケン芝居には珍しく、不満がたくさんありました。
音楽劇 オリビアを聴きながら

音楽劇 オリビアを聴きながら

劇団扉座

青山円形劇場(東京都)

2012/08/22 (水) ~ 2012/08/31 (金)公演終了

満足度★★★★★

まだ余韻に浸っています
たくさんの人が幸せだなあと思える素敵な作品でした。

きちんと実力がある脚本家、演出家である主宰に率いられて、こういう素敵な作品に出演することができる扉座の役者さん。

自らの楽曲を、こんな素敵な音楽劇に活用され、より、楽曲の素晴らしさを引き出してもらえた尾崎亜美さん。

そうして、対面の観客も目に入らない程、舞台と同化することができた観客の私。

たくさんの人を幸せに思わせる舞台だと思いました。

作者の横内さんは、だいたい私と同世代で、描かれた世界の物語りも、どこかで、自分自身の半生とリンクする内容が多く、その上、「オリビアを聴きながら」は、杏里さんの歌唱曲を、自分のFMの月~金の生帯番組のテーマソングに使用していた経緯もあって、後半では、ずっと涙で舞台が見えなくなる程、感動してしまいました。

劇団四季出身者等、歌唱力も素晴らしい俳優さんばかりで、既製曲を使用したオリジナル劇では、出色の出来栄えだったと思います。

際物になりがちな役を、舘形さんが、心を込めて丁寧に演じていらしたのも印象的でした。

二組のカップルが、特に男性はもう少し、見た目にときめきを感じられるキャステイングの方が好ましいなどと、開幕してしばらくは感じたりしたのですが、後半になって、このキャスティングだからこそ、観る側が、卑近な世界の物語と感じ取れる効果があるのだと、納得が行きました。

ラストシーンの余韻は、まだ当分続きそうです。

もっと、昔に、扉座さんのファンになっていれば良かったなと、後悔しました。

ネタバレBOX

今現在の勝也と宏美の関係が、今後はどうかわからないにしても、舞台が終るまで、プラトニックな関係であったことが、観ていて、とても心地良く感じました。

勝也の回想シーンとして、織り込まれる、若き勝也とやよいの関係は、自分も、高校時代、逆の立場で、似たような経験があるだけに、観ていて、古傷を抉られるような思いを感じました。ちょうど、やよいのように、学生運動にのめり込んで行った、他校の演劇仲間で、私を思慕してくれていた音楽青年や、池袋で、原水爆実験反対のビラを配っていた、反戦活動家だった知人等、たくさんの過去の知り合いの顔が、脳裏に蘇りました。

原発事故の脅威に見舞われた今、あの時、自分ももっと真剣に原発反対を唱えていたら…と反省と後悔で、胸がいっぱいになったりもしました。

でも、どんなに、辛い時代になっても、音楽や演劇が、それを心から愛する人達の手で生み出される限り、辛い経験の癒しとして、そういう芸術は、人間を支え続けてくれるのだと思います。

横内さんには、これからも、そういう素敵な作品を生み出す、演劇の旗手であり続けて頂きたいと、心から念じています。
ウサニ

ウサニ

フジテレビジョン

ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)

2012/08/03 (金) ~ 2012/08/26 (日)公演終了

満足度★★★★

杞憂でした
元々、映像畑のクリエーターの作る演劇で、あまり傑作に遭遇した経験がないだけでなく、野島さんには、個人的な固定観念もあり、観る前から相当危惧していました。

その上、ここでの酷評揃い踏みだから…。

ところが、これが、予想を上回る良い舞台でしたよ、私にとっては。

だいたい、演出の永山さんご自身は、映像畑の方ですが、亡父の盟友のご子息ですから、演劇の世界のことも熟知していらっしゃる筈で、それほど心配する必要もなかった気がします。

溝端さんは、ジュノンのオーデイションで、一際注目されていた頃から、存在は知っていたのですが、実は、演技を拝見するのは初めてでした。

想像より、超イケ面ではなかったけれど、想像より、悠に良い演技をされる役者さんで、何より、真摯に舞台に取り組む姿に好感を持ちました。

一昔前なら、きっと耕史さんが演じていたであろう役どころを、耕史さんを彷彿とさせる演技で、真面目に演じていました。

一方の耕史さんは、この舞台の要。西岡徳馬さんが得意とされるような役回りを、舞台を楽しめる工夫を凝らし、カンパニーを束ねていらっしゃる雰囲気が、伝わりました。
子役の頃から、彼を追いかけて来たファンとしては、隔世の感で、胸がいっぱいになりました。

きっと、初日からはずいぶんと進化した楽日だったのかもしれません。

少なくとも、今日の客席は、皆さん、大満足のご様子でした。

ネタバレBOX

溝端さんが、カーテンコールの挨拶で、舞台への愛を正直に語っていらしたのが印象的でした。先輩耕史さんのアドバイスには相当感謝している様子でした。

それこそ、入れ物は優れていても中身はそれ程ではないかもという第一印象でしたが、見事に、その想いが覆されました。

溝端さん、舞台役者としても、期待できる素敵な役者さんだと感じました。

意外にも、哲学的なストーリー展開でしたが、きちんと哲学を勉強しているヒトには、鼻白む脚本かもしれないという気はしました。

ただ、見て見ぬ振りをできる人間の方が、結局は幸せに、平穏に暮らせるかもしれないと、最近思い始めているので、描かれている以上に、この芝居を重く受け止めてしまう部分もあったかもしれません。

キャストは、どなたも好演でした。特に目を引いたのが、小学生の役を演じられた未来穂香さん。どんな経歴の女優さんか全く存知あげませんが、今後も観たい女優さんです。

平野さんのウサニは凄く可愛いし、高岡さんは、相変わらず、同性から観ても、ドキッとする色香を発揮していらっしゃるし、平田さんも、万引き少年の一件を語る台詞に重みがあり、好演されていました。

ここではいたく不評だったセットも、私としては、むしろ、テーマに準じた良いセットに思えました。(イチゴが美味しそうでないのも、想定内の気がして…)

ただ、せっかく、哲学的な芝居になりそうだったのに、最後の、コーゾーと妖精の台詞に、「王子様」だの「王女様」だのを使うのは、一気に、舞台の品格を落として、陳腐な印象を植え付けるようで、残念な選択に思えました。
ミス・サイゴン

ミス・サイゴン

東宝

青山劇場(東京都)

2012/08/22 (水) ~ 2012/09/09 (日)公演終了

満足度★★★★

180度違う新生「ミス・サイゴン」
これは驚きました。演出で、ここまで別の作品に生まれ変わるとは!

今、この作品の上演の意味がわかると言うか…。

アメリカ人の本質を見事に活写した作品になっていました。

今までのように、「ミス・サイゴン」の名曲の数々と、キムとクリスの恋愛模様を堪能しようと、劇場に足を運ぶと、肩透かしを食らうかもしれません。

1幕は、正直、とてもつまらなく感じます。でも、2幕で、エレンが登場すると、新演出の意図するところが明確になり、俄然興味を引かれました。

初演から、20回以上観劇した作品ですが、今回程、終った途端、「この芝居、大嫌い!」と感じたことはありません。

新演出の狙いどおりだったのかもしれません。

ネタバレBOX

笹本キム、原田クリス、岡ジョンの日でした。

今までと、演出とセットがまるで違って、以前は、同じように感じた、サイゴンとバンコクのキャバレーの様子1つ取っても全く別の作りになっています。

サイゴンとバンコクとアメリカと、それぞれ、リアルに、その国の特性を表出するセットの見事さに感服しました。

セットで、その国の特性を出すことで、クリスの精神的立ち居地も暗示しているような気がしました。

1幕のクリスとキムの恋愛模様は、今までのようなベットシーンではなく、ぼろい階段でのラブシーンとなります。はっきり言えば、せっかくの名曲を楽しみにしていた人には、とても残念な場面設定だと思います。
でも、2幕で、妻のエレンとの関係性を見せられると、この演出意図が理解できるのです。

つまり、クリスにとっては、キムとの恋愛は、その場しのぎの足掛け程度のものだったということを表したくて、階段でのラブシーンにしたのではと思えるわけです。

今まで、気付かなかったのですが、2幕での、キムのクリスとの別れの回想場面は、あれは、あくまでも、キムの妄想でしかないんですよね。

これまでの上演形態だと、キムとクリスは、お互いに相思相愛だったような描き方で、そのため、2幕で、エレンにクリスが言う台詞は、本音ではないような解釈が成り立ち、クリスが、優柔不断な男のように見えたのですが、今回の上演では、クリスにとっては、キムはあくまでも現実逃避の道具に過ぎず、2幕で語られるエレンへの言葉こそがクリスの本音だと捉えられるのです。

「ブイドイ」が、ちゃんと演説様式になっていたり、対立する人物の歌唱が、ぶつかり合って、耳に心地良く感じられないのも、演出意図なんでしょう。

ヘリコプターも、映像が、見事に、実際の登場人物の動きとマッチして、むしろ今まで以上に、リアルに感じました。

昔は、おもちゃみたいなヘリが動かなくなって、そのため休憩が1時間以上にもなったり、いろいろ機械の不具合のせいで、せっかくの役者さんの好演に、水を差すケースが多く、大変でした。

市村さんのエンジニアも今まで拝見した中で、一番良かったように思います。

岡さんの、キャバレーでのオサワリシーンが、ちょっと見ていて気恥ずかしくなるのと、笹本さんが、相変わらず、母親には見えない点を除けば、私には、今の上演の意味を感じられるという点においても、この「ミス・サイゴン」は一見の価値ありだと思えました。

ただ、やっぱり、1幕のつまらなさは、演出意図だとしても、正直やや残念な気はしてしまいます。
一般的なミュージカルファンのおば様方は肩透かしを食うミュージカルかもしれません。

でも、ハワイの住民の騒音被害には配慮しても、沖縄の人々への配慮はしない、アメリカ人気質は、とてもよく出ている、新演出傑作「ミス・サイゴン」ではないでしょうか?
CLUB SEVEN 8th stage!

CLUB SEVEN 8th stage!

東宝

シアタークリエ(東京都)

2012/08/12 (日) ~ 2012/08/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

もう9年だって!やっぱり、最高のショー
初回公演から全部観ています。

こんなに、観ていて笑顔になれるステージってそうあるもんじゃありません。

玉野さんのお話では、品川のクラブXでの初演は、2003年だったそうです。

それから9年。個人的にも激動の時代でした。嫌なことや心配事があっても、いつも、この「クラブ7」に元気をもらって、エンタメのエネルギーに、生きる意欲をお裾分けして頂いて来ました。

今回は、男性のみ。それも看板に偽りあり?で、いつもの7人という人数より、二人多いメンバーでしたが、若手が6人だったせいか、1幕の充実度は、やはり過去公演と比較すると、薄い感じはありました。

でも、2幕は、やはり定番の50音メドレーがあるせいで、しっかり「クラブ7」の良さが充満。
いつもそうだけれど、「ま」ぐらいになると、寂しさを感じて、「を」になると、あー終っちゃうと、名残惜しい気持ちになる、大好きな大好きなショータイムでした。

この頃、ほとんどテレビを見ないので、パロデイの元ネタがわからず、付いて行けるか心配でしたが、それは全くの杞憂でした。

玉野さんが、どんな客も置いてけぼりにしない、優しさで、舞台を創り上げていらっしゃる所以だろうと思います。

ネタバレBOX

やはり、初演からずっとメンバーだった原さんが出ていないのは、とても残念でした。

玉野さん、西村さん、吉野さんは、それぞれ、個性が確立されているので、登場されるだけで、期待感が膨らむのですが、若手6人のメンバーに、強烈な個性がないので、最初は、誰が誰やらという感じで進み、私ほど、舞台を観ていない友人3人は、気持ちが付いて行けてない様子で観劇していました。

でも、2幕の、ローマの革命軍の話は、出演者の個性もだんだん見えて来たところでの演目で、観る側も、6人を識別できる分、舞台に惹き付けられて行くことができました。

お待ちかねの50音ヒットメドレーは、若手が多いだけに、いつにも増してパワーがあり、観ていてだれるところがなく、その分、あっという間に終ってしまった気がしました。

休憩20分挟むとは言え、3時間を、あれだけ、エネルギーを持続して、観客を目いっぱい楽しませて下さる、出演者の皆様には、本当に、頭が下がるばかりでなく、心からの感謝の気持ちでいっぱいになります。

ホストクラブのシーンで、定番の客席から、お客さんを舞台に参加させる趣向がありますが、どこやらの噂に聞くようなおぞましい観客参加型ステージとは、雲泥の差で、舞台に上げられた客も客席の客も、共に楽しめる趣向で、嬉しくなるばかりでした。
モマの火星探検記 ~Inspired by High Resolution~

モマの火星探検記 ~Inspired by High Resolution~

少年社中

吉祥寺シアター(東京都)

2012/08/03 (金) ~ 2012/08/12 (日)公演終了

満足度★★★★★

あざとさのない演出が心地いい
あー、少年社中さん、2回目の観劇。

やっぱり、大好き!この劇団。

宇宙飛行士毛利さんの宇宙愛と、少年社中毛利さんの演劇愛がドッキングしたような芝居。そこに、客席にいる自分の個人的境遇が、ユーリの心情にダブり、後半は、目頭が熱くなりました。

「ネバーランド」の時にも、体感した、客席の同感涙の洪水が、演劇愛に育まれて成長した自分には、故郷にいるような懐かしさと心地良さを感じます。

客席にいる子供達が、この舞台に出会えて幸せだったのではと、嬉しくなりました。

始まりは、劇団四季のオリジナルミュージカルタッチでしたが、明らかに、すぐに四季との違いが明確になるのは、主宰の劇団員に対する愛とリスペクトの違い故でしょう。

今回で、この劇団を退団されるという、モマ役の森大さんへの、主宰毛利さんの愛情溢れる餞的作品でもあったような気がします。

ネタバレBOX

やはり、私は、演劇愛に裏打ちされた舞台が心底好きな人間だということを改めて実感しました。

毛利さんの原作が、もしかしたら、劇作家毛利さんの足かせになった部分はあるのかもしれませんが、父から子へ受け継がれる、何かを好きなDNAというテーマが、原作と、芝居を見事に融合して、あざとさのない、ある意味、ストレートな作品作りに、演劇としての工夫以上の、人間愛の賛歌が満ち溢れて、素直に、感動してしまう佳品の気高さが優先する素敵な舞台でした。

まだ2回しか拝見していないのですが、この劇団、素敵な役者さんだらけですね。森大さんは、活滑も良く、NHKの子供番組なんて担当されたら良さそうな役者さん。ユーリ役の松下さんも、とても好感度の高い演技をして下さる女優さんで、嬉しくなりました。
「ネバーランド」の時から、ファンになった、長谷川さん、甘浦さんも、今回も、小学生役がすごくはまっていて、魅了されました。司会のお姉さん役の女優さんも、素敵でした。

ユーリが、祖父や父親の血を引いて、父の書物を見て、宇宙に興味を持つ過程は、まるで、私が祖母や父の血を引いて、演劇好きな少女になったのとあまりにも似通っていて、後半は、ユーリへの感情移入が激しくて、観ていて、相当タマラナイ想いが満ち溢れて、おばさんの癖に泣き出さないようにしないとと、自らの感情制御に骨が折れる始末でした。

帰りに、大好きな役者さんから、「ネバーランド」のDVDを購入し、ルンルン気分で、帰りました。いつか、私の息子達が、この素敵な作品を目にする日が来たら、嬉しいなと、その時の用意のために。
Bitter days,Sweet nights

Bitter days,Sweet nights

キューブ

CBGKシブゲキ!!(東京都)

2012/08/02 (木) ~ 2012/08/11 (土)公演終了

満足度★★★★

G2さん、ありがとうございます
橋本さとしさん、新妻さん、堀内さんと願ってもない取り合わせに引かれ、チケット買ったはいいけれど、実は、内心かなり不安があったんです。

G2さんの演出は好きだけれど、彼の最後に、観客心情を逆撫でするようなオリジナル作品の後味の悪さに辟易させられることが多く、できれば、今後は観るまいと決めていたので…。

でも、この作品は、意外にも、最後の最後まで、ハートフルタッチでした。

もっと下品なドロドロ系の芝居かと想像していたので、大助かりでした。

ただ、これ、ミュージカルとは言い難い気がしました。音楽劇どまりでは?

それと、病気を理由に、ジュン役が交代されたことを、私は、さとしさんのFCからのメールで知りましたが、会場のポスターにも、白州さんのお名前と顔写真が出ているままだし、場内アナウンスでも、全く告知がないので、代役をされた上山さんが、何だかお気の毒でした。あの好演の青年役は、白州さんという俳優さんねとインプットされて、会場を後にされた観客が少なからずいると思いますよ。

帰りに、友人が、入り口の足元に、キャスト交代の看板をみつけましたが、あんな場所の看板は、全員の目には触れないだろうし…。

せっかく、舞台そのものは良かったのに、こういう事務所の対応の杜撰さが気になって、星は、ひとつ減らしました。

ネタバレBOX

チラシに、「妻に似た女は何者か?」的な、煽動的コピーがあったので、てっきり、また小劇場で流行のドロドロ人騙す系のストーリーかと、ヒヤヒヤモノで観に行ったのですが、王道純愛物語で、心底安堵しました。

堀内さんと、さとしさんの役は、きっと不倫関係にあって、それで、妻が死んだのかしら?などと、ずっと、探りを入れて観ていたので、最後に、全くそういう芝居ではなかったと気づき、ほっとしたと同時に、最初から純粋無垢な気持ちで観ればよかったわと、かなり後悔もしました。(あー、罪な、小劇場の書き直し屋さん!)

新妻さん演じる、妻の妹、夏子が、本当に、素晴らしい!まるで、実写モノを観ている心境でした。死んだ姉の夫に寄せる複雑な心情を、時系列に、丁寧に表現して下さるので、脚本や演出の不備を感じずに済むのです。
舞台上では、初対面の筈の、夫と妻の妹の心の交流が、何日間の事柄だったのか、明示されないのですが、新妻さんの風情を観ていると、数日ではないのだろうとか、観客が想像しやすくなるんですね。

さとしさん、堀内さんも、所々笑わせつつ、でもしっかりと、役を壊さずに演じて下さるので、ともすると、表面的なお涙ちょうだいモノにもなりかねない脚本の危うさを、補完します。

G2さんは、以前拝見した「ライトインザピアッツァ」の演出タッチが大好きだったのですが、この作品も、そういう小粋な雰囲気が素敵でした。

最後のシーン、部屋の家具の配置を変えて、ちょっと小細工を施しただけで、山の風景に見せてしまうのですから、演出面での力量は、並大抵ではないなと改めて感嘆しました。

そして、特筆すべきは、青年役のピンチヒッター、上山さんの器用さ。この役は、かなりの難役で、舞台経験が乏しい役者には演じられない役だと思いました。片言の日本語で笑いを取らなきゃならないし、それでいて、登場人物の気持ちを動かす要の役割も真面目に演じなければならず、もし、この役を下手な役者が演じたら、舞台全体が相当のダメージを受けたでしょうし、ヘタすれば、陳腐な駄作にまで格下げされていたのではと感じるのです。
本当に、上山さん、大健闘でした。功労賞ものです。

それから、ちょっと気になったのは、私はカメラには度素人なので、ピントハズレの感想かもしれませんが、さとしさんの役は、カメラマンなので、所有のカメラは、一眼レフの方が妥当だったりしないのかなと、思ってしまいました。

それと、あの夫婦の人生の転機に大きな影響があった写真は、もう少し大きなサイズであった方が、リアルな印象があると感じました。

何となく、キャストの好演に水を差すスタッフワークの粗を感じて、大変惜しい気がする公演でした。
進化とみなしていいでしょう

進化とみなしていいでしょう

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2012/07/28 (土) ~ 2012/08/14 (火)公演終了

満足度★★★★★

うんうん、進化とみなすしかないかもね
クロムモリブデン、「不躾なQ友」から、欠かさず拝見していますが、とにかく、いつも感心するのは、作演の青木さんの頭脳明晰さ!

ジャンル分けすれば、不条理劇的なのかもしれないけれど、全く意味不明な部分はなく、何度も観てて頷く箇所が満載。だけど、私の平凡な頭では、これをうまく解説したり、論評したりは難しい…。

何だか、曰く言い難い興奮と、同感をない交ぜにした、感情が湧きあがり、見せられている世界は、とんでもないのに、舞台に懐かしい同胞感を抱いて、ニコニコしつつ、席を立つ。クロムを観ると、常に同じ反応をしてしまいます。

作演の青木さんの超人ぶりもさることながら、この演出に応えられる役者陣の表現力がまた凄い。たぶん、私は、もうこの劇団の中毒患者なのかも。

まだ、この毒を知らない家族に、過去の公演のDVDを買って行きたくなりましたが、冷静な親心が、自制して、諦めて帰って来ました。
本当は、家族にも、クロム中毒になってほしかったけど…。

ネタバレBOX

いつもそうだけど、最初の内は、関係性も、描かれている世界も、半分、意味不明で、今回の作品は、それ程でないかもと思うのですが、あれよあれよと言う間に、この世界の住人になれてしまうのが凄いなと、青木さんの才にただただ圧倒されてしまいます。

今回も、奥田ワレタさんの魅力炸裂!もちろん、彼女だけでなく、それぞれのキャスティングが絶妙で、人物が登場する度、掛け声掛けたくなりました。

偽村上先生の、「作家は人は殺さない。あ、でも、殺してる作家もいる」という意味の台詞に、やけに心が反応してしまった私。

あの笑気ガス、最高!!まさにエンタメ性炸裂しまくり。爽快感!!
みゆきさんが、客席に向けて発砲した時、吸いたくなってしまいました。
目に見える輪っかの煙煙が妙に可愛く感じました。

自首した、逃亡カップルの、「世の中変わった」の台詞が、何故か、胸に響いて切なくなったり…。あのカップルが、私には、一番まともな人間に見えました。

草壁さんが、犯人を、独自の判断で射撃してしまうところは、痛快でさえあって、あーこういう刑事がいれば、グリコ森永の犯人も捕まって、今の時代もずいぶん、住み易くなっていたかもなんて、変な妄想までしてしまったり、私自身も、舞台を楽しみつつ、頭の中で、自分の物語を考えてしまいました。

そうそう、昔と違って、今の人って、他人を騙すのがうまくなったのね。それは、ある意味進化なのかも。騙されてるって知らずに一生を終える人がすごく多い気がする。反面、自分を騙すのは、苦手な人が増えてるかも。

杉並症候群とか、世田谷症候群とか、荒川症候群とか、実在しない病名が、まことしやかに語られるけれど、実際世間に流通してる病名と大差なくて、どこまでがリアルで、どこからが虚構なのか、判別できない。そういう舞台的表現自体が、今の世の中を見事に活写していて、恐れ入るばかりです。
劇作家協会公開講座2012年夏

劇作家協会公開講座2012年夏

日本劇作家協会

座・高円寺2(東京都)

2012/08/04 (土) ~ 2012/08/05 (日)公演終了

満足度★★★

終始、釈然としないものがありました
このリーディング公演の報告を耳にした当初から、この会の理念に、何か釈然としない思いがあったので、一体どんなものだったのかと、確かめたい意味もあり、伺いました。

この会の主旨を忘れて、純粋に、リーディング作品として、拝見した場合は、大変中身の濃い、見応え、聞き応えのあるステージだったと思います。

ただ、最後に、青井陽治さんが、「釈然としない」とおっしゃったように、また、これを被災地で上演することに戸惑いを感じられたご様子の東北演劇人の、くらもちさんや大信さんのお気持ちを推量するにつけても、
このリーディングが、東北の演劇人応援のためのイベントではなく、本当に、生きるか死ぬかで頑張って過ごされている被災地の方への、少しでも力になれる形での上演形態であってほしいと願わずにはいられませんでした。

ネタバレ欄では、純粋に、作品そのものに感じた感想のみを列記したいと思います。

ネタバレBOX

第一部

「残された人」…夫が帰って来るかもしれないからと、放射能で汚染された自宅を離れようとしない主婦。夫の部下は、震災の日、二日酔いで、回れなかった場所に替わりに行ってもらったためにこの主婦の夫が行方不明になったことを悔やみ、毎日、この主婦に食料を届けています。このオノという部下が、「そんなことで、死んでいいわけがない。人間が死ぬ理由は、もっと、政治的対立とかでなければ…」的な発言をします。え?私は、政治的対立なんて下らない理由で死ぬのは、部下の身代わりで死ぬのと大差ないと思ってしまいました。鴻上さんの価値観はやはり理解できないなと思いました。

「少数の屈強な人々」…記憶を語るアメリカの作家と日本の天皇が出て来て、哲学的な会話をしていました。私の頭ではあまり理解できませんでした。

「さようならⅡ」…オリザさん嫌いな私ですが、意外にもこれは好きでした。荒井さんと川村さんのベストコンビで、放射能で入れない地に、詩を朗読するロボットを送るお話。ロボット演劇、嫌いだけど、そういう活用なら、大賛成。川村さんが、藤村の「やしの実」を口ずさむ場面は、心に残りました。そう言えば、オリザさんと藤村には、共通性がありますね。

「子は人の父」…内容より、吉原さんが、楢原さんにそっっくりなことに見とれてしまいました。「子供は、死人に触れて、初めて大人になる」という台詞には、同感しました。

「北西の風」…汚染地域の自宅にしばし戻った一家のヒトコマ。ドキュメンタリータッチでしたが、それ以上でもそれ以下でもない印象でした。

「あの頃の私たちの話」…白人の女と、日本人とのハーフであるその息子母子の確執のお話。二人が口喧嘩する時の演出が面白くて、視覚的な変化のある舞台でした。息子が母親に言う、「優しさが一番大事」という台詞は、自らの子育てで、反省させられる一言でした。

「一時帰宅」…坂手さんの脚本、前川さんの演出は、相性抜群。こんな短い話でも、きちんとした劇構成がなされていました。蠅の羽音。残ると言うおじいちゃんの鼻歌が、心に沁みました。

「この劇の長さはウラニウムの半減期」…ベテラン女優さんの競演で、見どころ満載。まりことみちこと、スーザン。震災時の経験を、国民性の違う身振りを交え、繰り返し語り続けるという演劇的手法に、震災の経験や怖れに、少しづつ慣れさせられる人間の宿命のようなものがデフォルメされているような怖さがありました。

「指」…「人間の心の中は盗みで成り立っている」とか、「うまく盗めた者だけが生き延びれる」とかいう「台詞に、悪人にも五歩の魂すら感じられず、何だかただ空しさばかり感じる作品でした。死人の指を切断して、指輪を奪おうという夫と、盗みは平気でも、それだけはしなたくないと拒む妻。でも、結局二人とも、被災地で人のモノを盗むという行為自体には何も抵抗のない人達。
こういう作品を、被災地で上演して、どうするの?と、ただただ頭の中が混乱しました。

第二部
「太平洋序曲からの2曲」…黒船来航に怯える幕末を震災の来襲に重ねるところからして、何か違うんじゃないの?と違和感を覚えました。出演は、青井さんが信頼する学生さん達とのことでしたが、ソンドハイムの楽曲は、プロでも歌いこなすのが難しいのに…。この作品の選択は場違い感大でした。

「はっさく」…「人間は、気づかない内に操られてる」という台詞はその通りですが、原爆のせいで、頭のない奇形児が生まれたという、このストーリー設定自体に、こういうイベントで扱うような話だろうかと、やはり疑問が湧きました。

「消えたイザベル」…私には難解過ぎて、意味不明でした。

「ゾウガメのソニックライフ」…ムックさんの演出だけあって、見せ方が斬新でした。和服で、様々な言い方を役者にさせるところが、目にも耳にも印象的でした。最後まで口を開けっ放しの芝原さん、お疲れ様。

「日本流エチケットの手引き」…ちょっとシュールで、日本人の国民性を揶揄したような作品。坂手さん演じる日本人ガイドがとにかく面白くてなりませんでした。ただ、翻訳家としては大ファンの常田さんが、ナレーションを何度もトチられたのはちょっと残念。

「ふるさとを捨てる」…一番ダイレクトに、心を揺り動かされた作品でした。福島を離れようとしない妻に、兄も加勢に頼んで、細かいデータを上げて、何とか説得しようと努める夫。最後に、妻が、他の場所に出られない真情を吐露する場面では、きっと被災地の方の心情を、この作品が一番代弁しているような気がして、辛くなりました。

「海の風景」…エドワード・オルビーの作品を、鈴木聡さんが朗読。私には、全く理解の外の作品でした。聡さんのお声がいいのにだけ、心を奪われて、耳を傾けていました。

「血の問題」…坂手さんの脚本、前川さんの演出。安井さんと菊池さんの二人芝居。作品としては、超一級。まるで、別役さんの「受付」みたいな雰囲気の作品で、単独上演希望したくなりました。

「水の中」…太平洋序曲と同じメンバーの歌唱。さして、印象に残らず。

「危機一髪」…上に同じメンバーの歌唱ですが、こちらは、歌詞に少しだけ希望を感じることができた感じ。

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