KAEの観てきた!クチコミ一覧

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Romantic Love?【ご来場ありがとうございました】

Romantic Love?【ご来場ありがとうございました】

劇団競泳水着

サンモールスタジオ(東京都)

2013/12/19 (木) ~ 2013/12/26 (木)公演終了

満足度

還暦目前おばさんのハートは撃たない
なくしてわかるものがあります。

芝居の内容に関してではありません。

今までの競泳水着を支えていた、類稀な名女優さん達の不在がただただ残念でした。

還暦目前の年齢ながら、これまでは、競泳水着の恋愛もの、大好きでした。

青春時代の胸キュンを思い出せたから。

でも、たぶん、今夜が、私と競泳水着の最後の時間だったと思います。

おばさんにとっては、腑抜け感と劣化感が否めない、大変残念な出来ばえの作品でした。

脚本の行間を埋められる役者さんが一人も存在しなかったのが、惜しまれます。

ネタバレBOX

恋愛対象を、この人一人と絞れない気持ちはよくわかります。

自分にも、結婚を約束した人と別れ、今の夫と結婚した過去があるので。

でも、この作品の登場人物の恋愛観には、首を捻ってしまいます。

幾ら時代が変わったからと言って、もっと今の若者も、真剣に恋をしていると思いたい。

皆が、ただのセックス依存症みたいな人間ばかりで、ちっとも共感できませんでした。性の相性しか念頭にない雰囲気で、誰も相手を心で必要としてる雰囲気がないんですもの。皆が、その場しのぎの恋愛もどきに興じているようにしか見えません。

今日のゲスト、小劇場の役者をやっている村上さん以外、誰にも好感は持てませんでした。

母親の不倫以来、恋愛に臆病になっていたすずみが、兄の彼女だったゆきに対してだけは、親近感を抱いて、心の友とする過程も、丁寧な描写がないので、えらく唐突で、観ていて、感情の流れを納得出来かねました。
心の通い合いが、この作品の中で一番描かれていたと思う、この二人の女性間の友情にも似た心の交流の表現でさえ、いつもの上野さんらしからぬ、手の抜き方が感じられてしまいます。

いつも、競泳水着の芝居は、観ていて、あー、それわかるわかると、共感できるから、大好きだったのに…。

私が、年老いたからなのか?上野さんの才能が鈍化したのか?いいえ、たぶん、最大の要因は、魅力的な女優さん達の不在でしょう。

彼女達の誰か一人でも、競泳水着の舞台に戻って来て下さるまでは、しばらく、ファンは返上したいと思います。
スクルージ

スクルージ

ホリプロ

赤坂ACTシアター(東京都)

2013/12/08 (日) ~ 2013/12/17 (火)公演終了

満足度★★★★

人生はやり直せる?
そうだといいけど、あくまでも寓話だという気もした物語。

でも、心は温かくなりました。

14年振りの再演だそうですが、私は、ミュージカルで観るのは初めて。

「サンキューベリーマッチ」の歌は、文句なく楽しくて、心が和みました。

前に、別のキャストの映像を少しだけ観ましたが、キャストが充実しているので、見応え十分な素敵な舞台でした。

今井さんの第二の聖霊が愉快。加藤清史郎君の弟さん、憲史郎君が、幼いながら、最後まで、役として舞台にいる姿には、感銘を受けました。今後、楽しみな兄弟です。

役者さん全員、溌剌として、観ていて、大変気持ちの良い舞台でした。アンサンブルの皆さんも、それぞれ素敵でしたが、特に、スープ屋さんを演じた俳優さんの動きがシャープで、印象に残りました。

市村さんのスクルージは、さすがなんですが、強欲爺の時は、もっと、嫌な人間になりきっている方が、後の変化が意味を持つのではと思いました。
最初から、愛嬌あり過ぎな気がして、テーマが薄まってしまう気がします。

ネタバレBOX

私も、長寿郎さんと同じで、改心したスクルージが、借金を帳消しにするのには、違和感を感じます。まあ、原作は、ディケンズで、日本とかの価値観とか道徳感とは違うから、仕方ないのだと思いますが…。

とにかく、今回の舞台は、キャストが贅沢で、充実していたせいか、それでも、充分感動的で、後半、涙が流れて、自分でも驚きでした。今さんや、安崎さん、田中さん、阿部さんなどの実力派が、さりげなく脇を固めているので、とてもクオリティが高いのです。

チラシでは、マーレイの亡霊は、安崎さんとなっていましたが、後ろの席の関係者の会話では、阿藤海さんのようでした。確かに、あれは安崎さんには見えませんでした。なかなか迫力のある亡霊でした。
そのマーレイの亡霊以下、作り物の亡霊含め、4人の亡霊や聖霊が、皆大変魅力的でした。特に、今井さんの演技力が、ここ数年ダントツに進化されて、嬉しくなります。

市村さんが、毎年は無理でも、1年置きぐらいには上演したいとおっしゃっていたけど、本当に、それが実現したら、嬉しいと思います。
「オリバー・ツイスト」と交互上演とかしないかしら?「オリバー」も、これだけ、子役がレベルアップしているので、もう一度、上演トライしてほしいですよね。
交響劇「船に乗れ!」

交響劇「船に乗れ!」

アトリエ・ダンカン

東急シアターオーブ(東京都)

2013/12/13 (金) ~ 2013/12/21 (土)公演終了

満足度★★★★

人生哲学書を読む趣きでした
何も事前情報を知らずに観劇したので、意外な印象でした。

のだめの高校版的な、音楽学校青春ストーリーを想像していましたが、もっとシビアで、やや胸に痛いストーリー展開でした。

「若きウエルテルの悩み」とか「初恋」とか、「車輪の下」とか、柔らかバージョンの「罪と罰」風と言うか…。とにかく、青春時代に読み漁った、海外青春小説の雰囲気が漂う、かなり深い内容のミュージカルでした。

育三郎さんが、童顔なので、高校生役が無理なく観られ、まさに適任でした。

田中麗奈さんのピアノ教師は、同性の私から観ても、大変魅惑的で、男子生徒がときめくのも無理ないと思える好配役。青春の痛みを語る、主人公の壮年期を演じる福井さんも、相変わらず、こういう役柄では光ります。
後半、重要な人物になる、倫社教師の加藤さんは、授業シーンなどに、リアルな存在感があったのですが、1幕でマイクの調子が悪く、何度も雑音を生じてしまったのは残念でした。枝里子の母役の木の実さん、サトルの祖父役の小野さんなど、脇役も、大変贅沢な布陣で、ドラマに厚みを持たせました。

オーケストラの見せ方にも工夫があり、想像したより、遥かに見応え充分な舞台でした。

ネタバレBOX

タイトルが、ニーチェの著作から引用したとは、全く知りませんでした。

サトルの無意識の悪意によって、学校を辞めさせられることになる倫社教師が、最後にサトルに読み聞かせる詩のような文章が、ニーチェの書いた「船に乗れ!」という言葉から始まるのだと知って、予想と全く違う展開に、驚いてしまいました。

恋愛感情を抱いていた枝里子を、自分のドイツ留学中に、妊娠させた男性に対して、サトルが抱く殺意。彼は、倫社教師の金窪に、授業中、「何故人間はヒトを殺してはいけないのですか?」と質問します。
その質問に、丁寧に応えようと努める金窪。二人の問答は、同じ教室で授業を聴いていた生徒全員にも、哲学的な疑問を突き付けて、皆も真剣に受け止めます。ですが、気持ちが揺れていたサトルは、自分の才能を買っている音楽教師に「どうしたの?」と聞かれ、思わず、さっきの授業で、金窪に言われた言葉の一部だけを、事情説明なしに話してしまいます。

これがきっかけで、音楽教師は、生徒には秘密裡に、倫社教師の金窪を裁断し、、彼は、問責辞任に追い込まれてしまいます。

もし生徒達が、このことを知らされていたら、事実とは違うと、金窪を庇うことも可能だったのに…。

まさに、これからの日本の未来を予見したかのような内容の深い話に、暗然とする思いがありました。

チェロやビオラやバイオリンなどの楽器を弾くシーンで、無理に役者が弾いているように見せることなく、舞台の後方で、実際の演奏者を見せたのは、変に小細工をせず、大変好感の持てる演出だったと思いました。

宮川さんの作られた曲は、難度が高く、皆さん、歌いこなすのが大変そうでしたが、どなたも懸命に歌っていて、感心しました。

サトルの高校時代と、壮年期を、二人の役者さんが演じ分ける手法は、「スタンドバイミー」のようでもありました。

後で、知ったことですが、この物語は、原作者の実話に基づくストーリーだそうで、それを知って観ていたら、もっと違った感想になったのかもしれませんが、舞台を観ていた段階では、よく練られたストーリーだという印象でした。
CHESS in Concert セカンドヴァージョン

CHESS in Concert セカンドヴァージョン

梅田芸術劇場

東京国際フォーラム ホールC(東京都)

2013/12/12 (木) ~ 2013/12/15 (日)公演終了

満足度★★★

歌詞が聞き取りにくいのが惜しい
初演も観て、これは本ステージで観たかったと思いましたが、今回もコンサートバージョンでの再演。

アバの曲は難解ですが、どれも名曲揃いで、聴きごたえはあるのですが、どうしても訳詞のせいか、歌詞の語数が多く、演奏に打ち消されて、聞き取れない部分が多かったのは残念でした。

特に、カルテットの歌唱部分は、4人の歌う歌詞が折り重なり、荘厳ではあるのですが、肝心の内容にも言及している台詞代りにもなっているので、どういう意味の歌詞かが聞き取れないのは、痛手でした。

初参加の戸井さんは、口跡も良く、滑舌も確かで、一番歌がきちんと響きました。

AKANE LIVさんはロックミュージカル、「モーツアルト」の時にも驚きましたが、大変魅力的な女優さんで、今回のスベトラーナ役も、心に残りました。

マテさんのアービターは、ちょっと他の俳優さんと異質過ぎて、何故キャスティングされたのか、やや疑問を感じました。

安蘭さん、石井さん、中川さんの歌唱力には、文句はないのですが、3人の心情の変化が、これもコンサートの弱みか、あまり表現されていないので、ストーリーの流れを、体感できるまでには理解し辛く、その点に、やや物足りなさが残りました。

ネタバレBOX

チェスの国際試合が、政治的に利用される、ソ連とアメリカの冷戦時代のお話。

セコンドを務めるフローレンスを巡って、新チャンピオンと元チャンピオンの二人の男性が、チェスだけではなく、恋の鞘当もしつつ、そこに、アメリカの諜報機関から派遣されたテレビ局員やソ連の思惑などが交錯し、3人は、チェスの駒のように動かされ、政治的に翻弄されて行くという、ちょっとビターなストーリー。

昔なら、大国は何かと国民も大変だなと、他人事で観ていたかもしれませんが、わが国もこうもきな臭くなって来ると、我々も、また政府にチェスの駒のように動かされているのかもと、一種の怯えを感じて観てしまいました。

とても、深い内容のミュージカルのようなので、いつか、コンサートではなく、本編の公演があればと期待します。

アフタートークは、グダグダな部分もありましたが、マテさんと石井さんと、安蘭さんが、重唱で歌う歌をそれぞれ単独で歌われ、歌詞の内容がわかったのはありがたかったと思います。
Be My Baby いとしのベイビー

Be My Baby いとしのベイビー

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2013/11/27 (水) ~ 2013/12/08 (日)公演終了

満足度★★★★

ほんわか楽しいけれども、
それだけではない、裏に、人間の業や性も垣間見れる、ちょっとシビアな部分もあるのが、なかなか洒落た戯曲でした。

加藤義宗さんは、10代の初舞台の時から、拝見していますが、このところ、舞台経験を積まれて、安定した演技のできる俳優さんに成長されたなあと、嬉しく思いました。それに、声がとても素敵!

NLTでのご出演が最近滅多にない阿知波さんは、やはりこういう役は、安心して拝見できます。東宝ミュージカルでは、度々拝見していますが、こういうコメディのストレートプレイでのご活躍も、もっと観たいと思いました。

お父様の加藤さんも、伸び伸び楽しげに演じていらして、その楽しさが、客席にまで伝染するような雰囲気でした。

世の中、暗いニュースだらけで、将来への不安も増大している折、こういう心がほっこりとなれる芝居は、気持ちが救われます。

ネタバレBOX

阿知波さんの花嫁姿が、とても可愛くて、印象的でした。

若い二人が、安易に里子を希望して、親代わりの、ジョンとモードに、その子を迎えに行かせる間、最初、気が合わなかったジョンとモードは、赤ちゃんへの愛情を介して、心が急接近するのに、反対に、新婚夫婦のクリスティとグロリアには、隙間風が吹き始める。

その二組のカップルの心の移ろいが、好対照に描かれて、なかなか味わい深い戯曲でした。

自分達の都合で、子供の行く末を、まるで、物のように気軽に考える若夫婦の言動には、最近の日本の幼児虐待や、子育て放棄などを連想し、ちょっと背筋が寒くなる瞬間もありました。

単なるハートフルコメディではない、シニカルな視点もあってのライトコメディなんだと理解しました。

最初、反りが合わなかった、ジョンとグロリアが、プレゼントをお互いにする度に、距離が近づいて行く様子は、本当に、心が温まる素敵なシーンでした。
CLUB SEVEN 9th stage!

CLUB SEVEN 9th stage!

東宝

シアタークリエ(東京都)

2013/12/01 (日) ~ 2013/12/19 (木)公演終了

満足度★★★★

何はなくても50音ヒットメドレーは最強
もう10周年なんですね。

初演から、全公演観ているから、まるで、子供の成長を見る思い。

やはり、玉野、西村、吉野さんの3人が揃うと、舞台が締まります。

コント部分が、昔ほど面白くなくても、後半の50音メドレーの楽しさが、全てを凌駕。

これからも、続く限り、見続けたいと思いました。

やはり、女性陣がいないのは、やや淋しいけれど、若いエネルギーと、それを温かく見守る3人のバランスが絶妙でした。

ネタバレBOX

2003年の初演時には、先日逮捕されたマネージャーが、会場で悪目立ちして闊歩されていたななんて、余計な思い出までが脳裏をよぎりました。

今日の民主主義崩壊記念日に、観劇し、初演時のあの頃は、日本はまだ平和だったとつくづく、この10年を回顧してしまいました。

時が移り、様々な出来事があっても、「クラブ7」を観ると、元気な気持ちになれるのは、昔も今も同じ。

女優さんがいない分、女装して美しい出演者が増えて、視覚的には、あまり女優さん不在も気になりませんでした。

若い俳優さんが増えたので、ジックリと観るコント芝居より、ダンスシーンが多いのも、個人的には、嬉しかった!

吉野さんのダンスの美しさには、相変わらず目を奪われました。
女装の古川さんの美しさも、必見もの。橋本さんも、まるで韓流スター風で、可愛かった!

吉野さんが主演の、創作ミュージカル風な演目は、視的に綺麗で、印象的でした。ただ、これ、画家が、時の権力者を騙し絵によって告発するという内容の芝居で、今日のこの日に観るのは、ある意味象徴的でした。

以前、パロディの元ネタをあまり知らず、気持ち的に置いてきぼりを食らったので、今年は、早くから予想をつけて、「あまちゃん」も「半沢直樹」も観て予習を怠らなかったので、50音メドレーも、目いっぱい楽しめました。

いつもながら、50音メドレーの、玉野さんの選曲と構成の妙には、感服します。あれだけの振り付けや段取りを覚えて、間違えないキャスト陣にも、拍手と畏敬の念を惜しみません。
さよならを教えて

さよならを教えて

サスペンデッズ

ザ・スズナリ(東京都)

2013/12/04 (水) ~ 2013/12/09 (月)公演終了

過去の七番煎じ?あり得ないくらい失望
何?どうしちゃったの?早船さん!と叫びたい気持ちでした。

幾ら、佐藤さんと伊藤さんが不在だとしても、それ以前に、とてもこれが、いつもの早船さんの作品とは信じ難いほどの駄作脚本であり、陳腐な演出で、正直、愕然とする思いでした。

ヒロインの女優さんが、役柄に合わないキャスティングだったことも手伝って、何一つ、心の奥に響くものがない舞台でした。

凄く素敵な作品を上演する劇団だからと、誰かを誘って観に行かなくて良かったと、つくづく思いました。

客席の皆さんに言いたかった。「いつもはこんなじゃないのよー」って。

ネタバレBOX

佐野さんお一人が、いつものサスペンデッズに持ち込むべく、懸命に、演じていらっしゃる印象でした。

最初のシーンに登場する、壁張り職人の坂本の存在理由が不明でした。もう少し、後で、生きる役なのかと期待したのですが、単なる、話の聞き役以上の何者でもなかったのが残念。

回想シーンの中に、更に別の回想シーンが折り込まれる技法も、いつもの早船作品ほど、気が利いておらず、演劇としてのまとまりの悪さを助長しただけのような気もしました。

何となく、脚本も演出も、キャスティングさえ、付け焼刃の印象しかありませんでした。
ピグマリオン

ピグマリオン

新国立劇場

新国立劇場 中劇場(東京都)

2013/11/13 (水) ~ 2013/12/01 (日)公演終了

満足度★★★★★

比較演劇学のテキストとして最高!
「マイフェア・レデイ」は、日本初演の江利チエミさんのイライザから、大地さんの何度目かのイライザまで、全公演観た程の、「マイフェア…」フェチの私。

平幹二郎さんのヒギンズも、任でないイライザ女優には目を瞑り、拝見しました。

だから、今回の配役が発表された日から、今日の観劇を待ち侘びていました。

バーナード・ショーの原作は、大変シニカルだとは耳にしていましたが、実際「ピグマリオン」を拝見して、ミュージカルとほぼ同じストーリー展開、台詞でありながら、こうまで、真逆なシチュエーションの芝居だとは、目から鱗状態で、これ程、ワクワクドキドキしながら観劇したのも久しぶりの体験でした。

平父子のヒギンズを観られたことも嬉しく、その上、共演陣が、私の好きな俳優さんばかりで、個人的にも至福の時間でした。

ある意味、これは、最高のハッピーエンドかもしれません。少なくても、女性の私から観ると、イライザの悟りに歓喜してしまうラストシーンでした。

石原さとみさん、以前から、大変魅力的な女優さんだと思っていましたが、この作品、石原さんの代表作になるでしょうね。何もかも、どのシーンも魅力的でした。

ネタバレBOX

最初の内こそ、あーここで「踊り明かそう」聴きたくなるとか、「スペインの雨」歌ってほしいとか、音楽のないこのストーリー進行に違和感を感じていましたが、途中から、ストレートプレイとしての面白さ全開の舞台進行に、すっかり気持ちが奪われました。

そうだったのか!ヒギンズって、マザコンだったんだ!とか、ヒギンズの学者バカぶりに、これはコメディ作品か?と感嘆したり、同じ台詞を使いながら、全く別のテーマの名作ミュージカルに仕上げてしまった「マイ・フェア…」スタッフの手腕にも、敬意を表したくなったり、とにかく、各シーン、観る度、気持ちがエキサイトしていました。

ミュージカルだと、単に、気の優しい母親に過ぎないヒギンズ夫人の存在が、この作品では、実に重要な要の役でした。

イライザの父親の、アメリカの慈善家に対する皮肉の籠った台詞とか、なかなか考えさせる要素の詰まった、名戯曲でした。

倉野さんや増子さんの名演技で、ヒギンズ夫人やピアス夫人達、女性陣の心の襞がよく理解できました。

「マイフェア…」では、聞き流していた台詞の一つ一つに、こんな深い意味が隠れていたのかと、物語が進むに連れて、目からうろこが落ち続けました。

ミュージカルでは、イライザが「ヘンリー・ヒギンズ」と、複雑な胸中で、名前を連呼する歌がありますが、ここでは、その連呼は、イライザの父親が何度も繰り返すのも印象的でした。

全体的に、登場人物が、原作の方が少人数で、その分、各人の人格描写もきめ細やかで、関係性も深く描かれていました。台詞劇としてのクオリティの高さに、心底驚きました。

イライザも、花売り娘の頃から、初対面の男性を、チャーリーかフレディのどちらかだと当たりをつけて呼びかけたりして、世渡り術に長けているなど、本来の頭の良さをしっかりと描く脚本の秀逸さを感じました。

 ヒギンズの母親は、ちょうど、最近の母親の婚活的に、願わくば、イライザと息子の仲を取り持とうとしますが、ヒギンズには、たぶんイライザに対する恋愛感情よりも、同志的感覚の友情が優先しているのです。

だから、イライザが、自分の思い付き発言に動揺するヘンリーの様子を見て、彼と互角に、もしかしたら、その上を行く言語研究ができる人間かもと、自分の立ち位置がヒギンズに勝ると気付いた時、二人の感情は、同じベクトルに向けて高揚します。

最後の場面は、二人は、別れるでもなく、結婚するでもなく、たぶん、今後は、ピッカリングも含め、3人は、言語学研究の共同体として、友人関係に帰結しそうな運びでした。

もしかすると、それは、このストーリーの最高のハッピーエンドかもしれないと、私には思えました。
いのうえシェイクスピア「鉈切り丸」~W.シェイクスピア<リチャード三世>より

いのうえシェイクスピア「鉈切り丸」~W.シェイクスピア<リチャード三世>より

パルコ・プロデュース

東急シアターオーブ(東京都)

2013/11/08 (金) ~ 2013/11/30 (土)公演終了

満足度★★★★★

シェークスピアを凌ぐ深さ
イヤア、あまり期待せずに行ったので、正直ビックリ!

以前、古田新太さんが演じた「リチャード3世」があまりにお粗末だったので、これほどの上出来なお芝居が立ち上がるとは期待していませんでした。

源氏の戦乱の時代に、うまく話を置き換えて、その手腕に脱帽。

客演陣も、お一人を除いて、皆さん、大健闘の好演ぶりでした。

千葉さんの出番が少なかったのはやや残念でしたが…。

ちょっと目を覆いたくなる残虐な場面もあるけれど、それがまた、主人公の生まれと環境の帰結としての残酷な現実や、人間の性を活写して、心に残像を刻む所以でもありました。

ネタバレBOX

脚本の青木豪さんは、何故か、演劇業界で、かなりの言われ様をされて、いつも腑に落ちないのですが、今回の作品も、私としては、文句のない作劇だったと思います。

「IZO]も私は、大好きでした。未だにラストシーンの悲哀感が強く印象に残っています。
、頼朝の弟、範頼をリチャード3世になぞらえ、「東鑑」の書き換えられた真実は実はこうだったという、奇想天外な作劇構成のアイデアがお見事。

普通、外国の原作を日本に置き換えたりした作品で、あまり上等な仕上がりのものを観た記憶はありませんが、この舞台は、原作の流れを生かしつつ、源氏の抗争もそれらしくストーリーを組み立てて、矛盾が見当たらないことに、ただただ感嘆しました。

巴御前の成海さんは、義仲と共に戦う最初の登場シーンの物腰が、どうにもそれらしく見えず、愕然としたのですが、範頼の妻になってからは、健闘されていました。

ただ、他の役者さんが、皆いいので、お一人ちょっと粗目立ちするのは、やむをえません。

麻実さんの建礼門院の生霊の凄味。若村さんのハッチャけた迫力の政子。木村了さんの目にも鮮やかな殺陣と眉目秀麗さ。秋山さんの、幸せを夢見たために不幸を背負った老女の悲哀。生瀬さんの笑いとリアルの塩梅絶妙な当意即妙な名演ぶり。いっけいさんも同様で、宮地さんや千葉さんも含め、客演陣の、適材適所の配役が、これまたお見事な布陣でした。

大江広元の山内さんは、相変わらず面白いスタンスで、陰湿な内容の芝居を楽しくさせる得難い役者さんでしたが、「東鑑」を読み上げる時の滑舌が悪かったのは、ちょっと残念でした。

そして、この名役者陣の中、一番驚いたのは、ついこの間まで名子役さんだった須賀健太さんの成長ぶり。若さ故に兄の怒りを買ってしまう義経の未熟さと一途さをよく表現されていて、感嘆しました。

森田剛さんは、大河ドラマで主人公の少年時代を演じられた時から、その演技力に大変注目していましたが、今回も、運命に翻弄されて、悪事にひた走る、ある意味、大変不幸な人間の狂気と不気味さと悲哀を、ないまぜに表出されて、好演でした。

私は、また時々、青木脚本で、森田さん主演のこうした舞台を期待しています。
さらば八月の大地

さらば八月の大地

松竹

新橋演舞場(東京都)

2013/11/01 (金) ~ 2013/11/25 (月)公演終了

満足度★★★★

演舞場作品としては合格だと思う
これが、もし、新国立劇場とかでの上演作品なら、緩さが大失点になるのではと思うベタさがありましたが、演舞場で、幕間35分ある芝居では、これで及第点だと思いました。

山田洋次監督の演出舞台は、「東京物語」に次いでこれが2作目だと思うのですが、心配された程、演劇を度外視した演出ではありませんでした。

そんな筈もないのに、勘三郎さんが、張の役を演じたのを観た記憶があるかのように、勘九郎さんがお父様を彷彿とさせる名演でした。

檀さんは、美しく清楚で、歌声も可憐。私の心の中で、双壁スタンスの俳優、馬木也さんと壮太郎さんの共演も、個人的に大変嬉しく、その上、馬木也さんのコメディ部門担当演技が絶品でした。

今井翼さんの台詞は時として、聴きとりにくい部分もありましたが、あの事務所の中では、大変引き出しの多い俳優さんで、第二の川崎麻世さん的な存在感がありました。

他にも、広岡さん、有薗さん、木場さん等、様々なジャンルの役者さんの集合体の舞台にも関わらず、お互いの演技に不協和音が出ず、チームワークの良さを感じました。

山田監督が、スタンディングの拍手に感激され、幾分涙声になっていらしたのは、新鮮な驚きでした。

満映の理事長役の木場さんのご両親は、満州からの引揚げ者だったそうで、両親にも見せたかったとのしんみり発言に、ちょっと貰い泣きしそうになりました。

中国人と、日本人が、お互いの映画愛で、簡単に理解し合えてしまう設定には、ややストーリーのベタさを感じなくもないのですが、娯楽舞台なのですから、これはこれで、上出来ではと感じました。

ただ、最後のシーンは、幾ら何でもやや引っ張り過ぎ。ソ連が攻めて来るかもと、緊迫した状況の別れ方には、とても思えず、最後で、やや白けてしまった印象は拭えませんでした。

ネタバレBOX

山田監督の演出だけあって、照明の使い方が、とても美しく印象に残りました。

暗転中に舞台を隠す、中幕も、満映周辺の景色が、まるで、風景画を観るかのように、見とれるばかりの美しさでした。

有薗さん扮する、日本人映画監督が撮っている劇中劇の映画の中で、鈴木役を演じる、馬木也さんの撮影シーンがとにかく愉快。
NLTなどの喜劇体験が功を奏し、こういうコメディ部門も担える役者さんになられて、ファンとしては、嬉しく感じました。

関東大震災や、東京大空襲などの、真実の報道が、日本では、秘密扱いで、満州の高村理事長から、真実を聞かされ、満映社員が動揺する場面では、今の日本も、またこういう状況にすぐにもなりそうで、暗澹とした思いが生じました。

最初、反発していた、張と池田が、お互いの映画愛を確認し、だんだんと心を通わせる部分は、もう少し、時系列で、丁寧に描いた方が、共感できたかもしれません。「姿三四郎」の映画を観た共通の話題で、二人が盛り上がる場面は好感が持てましたが、もう少し、主役二人の関係性の変化を脚本に盛り込めば、物語が濃くなったのにと、残念です。

池田が、最後に二度もタイトルを台詞として口にするのも、やや予定調和的で、興ざめでした。
片鱗

片鱗

イキウメ

青山円形劇場(東京都)

2013/11/08 (金) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

ホラー作品だとは思わない
久しぶりに、イキウメの本領発揮の舞台だと感じました。

思索的、哲学的にして、やや怪奇的味わいが絶妙!

小泉八雲の怪奇小説を思い出したりもしました。

現代の怪談的な作りながら、どこか究極の人間賛歌風な後味が素晴らしかった!

今回、一番驚いたのは、大窪さんの演者としての並々ならぬ躍進ぶりでした。

かなり、円形劇場の芝居は観ている方だと思いますが、この劇場の使い方も、私のベスト1という衝撃的なセッティングでした。

それにしても、手塚さん、存在そのものが不気味で、改めて凄い役者さんだなあと感嘆!森下さんも、私が観たこれまでの芝居の中で、一番存在感ある役柄でした。

今後のイキウメが益々楽しみ。そして、前川作品の演出は、やはり前川さんご自身じゃないとと、改めて痛感しました。

ネタバレBOX

等間隔に設置された、4つの黒い箱状の舞台。その間は、十字路を表していたのですね。この十字路に、得体の知れない幽霊のような男が徘徊し、会場をそれとなく怖がらせた後、舞台は一転、陽気な雰囲気で、
大河原家の3人家族、土地持ちの独身男性佐久間家の一人住まい、若い独身ガーデンデザイナーと半同棲の男性が時折出没する堀田家。この3つの家庭に、安斎父娘が引越しの引き出物を持って挨拶に訪れる場面から、物語が始まります。

それほどの台詞が交わされるわけでもないのに、このファーストシーンから、登場人物それぞれの性格や関係性が、瞬時に客席に伝わる、前川脚本の巧みさに感嘆します。

4つの家を表す舞台は、各場面ごとに、住人が入れ替わる仕組も、とても斬新。

手塚さん演じる得体の知れない男が、撒く水が、何よりも、恐怖心を誘発します。この水は、結局、羊水なのかな?だとしたら、手塚さんの役は、生まれ得なかった胎児なのか?

高3の和夫は父になる道を選び、これから、安斎父娘と同じ人生を送るのでしょう!

ホラーと言うより、私は「そして父になる」に共通する、作者の思いを勝手に感じ取ってしまったのですが、解釈間違ってるかな?

しかし、この作品で一番怖かったのは、親しかった隣人が発する「許さないからな!」の言葉かも。自分の心の中を前川さんに見透かされた気がしました。
地を渡る舟 -1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-

地を渡る舟 -1945/アチック・ミューゼアムと記述者たち-

てがみ座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2013/11/20 (水) ~ 2013/11/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

長田さんは、井上さんの再来かも
旗揚げから何作か拝見したてがみ座ですが、このところ、諸事情でしばらくご無沙汰していました。

久しぶりに観ようかなと思ったのは、古川さんがご出演になるのと、渋沢栄一の息子さん、渋沢秀雄さんと亡父が昔テレビ番組でレギュラー共演者だったので、私も何度か秀雄さんとは面識があったからです。

子供のころでしたから、渋沢家の事情には全く無頓着で、秀雄さんとこの芝居に登場する敬三さんの関係もよく存じあげませんでしたが…。

ですから、この芝居で描かれた物語は、私にとっては実に新鮮でした。

どこまでが虚構で、どこからが真実か、私には、わからないながら、このストーリーは、民俗学を通して、日本の戦争時代を投影する趣で、構成や演出がとても時機を得て巧みな舞台だったと感嘆しました。

大まかに分類すれば、歴史劇的な作りでもあるのに、しっかりと各登場人物に、血が通っている脚本に、敬意を表したくなります。

相変わらず、扇田さんの演出も、細やかで、技法が卓越していて、感心しました。

丁寧な長田、扇田ご両人の巧みの技に、華のある役者さんを得て、全てにおいて、申し分のない演劇だったと思います。

ネタバレBOX

渋沢敬三の奥様が、岩崎弥太郎のお孫さんだったこともこの芝居を観るまで、知りませんでした。

民俗学は、柳田國夫を知る程度の知識しかありませんでしたが、人間の記憶の保全のための大切な学問かもしれないと、この芝居を観て強く感じました。

後の世で、先人の生き方を学ぶことはとても大事なことなのに、これから、この国の人は、それすら知らない国民になりそうで、非常に恐ろしくなります。

いろいろと、人間の生き方を反芻するきっかけを与えてくれる秀作舞台でした。
ここには映画館があった

ここには映画館があった

燐光群

座・高円寺1(東京都)

2013/11/15 (金) ~ 2013/11/26 (火)公演終了

満足度★★★

舞台機構的には、成功作なれど
しばらく坂手作品には御無沙汰続きでした。

社会性があって、勉強にはなるけれど、少し理屈っぽくなって来たし、役者さんが高齢化されて、坂手さんの書く膨大な台詞を消化できなくなりつつある感じで…。

でも、私もかつて、映画に通い倒した時代があるので、懐かしくて、一昨日、劇作家協会割引で予約して、行ってみました。

伊東豊雄さんの建築物が大の苦手の私は、この劇場ができた時から、演劇愛を全く感じない劇場の作りに不満を覚えていましたが、今回の舞台は、弱点を生かした舞台機構のアイデアが成功していました。

横長の舞台を見上げる形の観劇は、芝居の内容以前に、人間工学的に不自然な体形を強いられ、苦痛を感じることが多々ありましたが、この舞台は、客席より、舞台が低位にあり、大変見易く、空間に馴染むのにも時間が掛りませんでした。

ただ、心配したように、社会性を前面に出す坂手風劇作は、今回の作品でも例外でなく、どうしても作者の言いたいことを伝える舞台が第一義となって、後半から、世界観がどんどんいつもの坂手風味になってしまったのは、やや残念でした。

古き良き映画館へのノスタルジーに主軸を置き、それとなく、沖縄問題などを隠し味ぐらいな感じで提示した方が、この芝居の場合、効果的だったように感じます。

芝居の中で、「ニューシネマパラダイス」がディレクターズカット版は感動作だったのに、完全版は、蛇足で、すっかり駄作になってしまったというような台詞があり、内心、そうそう坂手さんの書く芝居も、そういうところあるあるなんて思っていたので、観終えて、政治色が強い部分に、同じような感想を抱いてしまった自分に受けてしまいました。

当パンに記されている、劇中に言及される映画群リスト中、私が観た記憶のある映画は、ちょうど50本でした。

この作品の舞台になる時代に、きっと私も一番映画を観たのだと思います。
それに、自分のラジオ番組が始まる時に、ホテルでジュリアーノ・ジェンマさんと会って、私への応援メッセージを頂いたことがあるので、彼の名前が出てきた途端、自分まで、あの頃に気持ちがタイムスリップしたりもしました。

でも、これらの映画を観たことがない観客には、この舞台、どうだったのかと大変疑問でもあります。それでか、かなりモゾモゾ動いたり、寝ていた観客も多数いました。

そろそろ、燐光群の芝居作り、再考の時期かもしれません。

ネタバレBOX

客席と対峙して、映画館の客席が設えてありました。

蜷川さんの演出舞台でも、こういう形式のがありましたが、今回は、舞台のセットの方が、客席より、見下ろす形になり、この劇場の舞台機構の不備を逆手に取ってお見事!さかてさんだけあって…。(笑)

途中から、主人公の一人、サヨコが、少女時代、沖縄でレイプ被害に遭ったのかもしれないというヒントが提示され始め、そのあたりから、舞台は、沖縄問題など、社会性色濃くなって行きます。

「リップステック」という映画がありました。今で言うデートセクハラ。主人公が、知り合いの男性にレイプされるシーンが、当時の私には衝撃的でした。この映画を観て以来、しばらく男性不審に陥りました。
この芝居でも、自主上映会をする男子生徒が、この映画に興奮するというようなニュアンスの台詞があり、それがサヨコの昔の傷に泥を塗ります。

同じ映画館の座席のみで、舞台は、ちょうど「屋根裏」の時同様、時代も場所もあちこちに変化して行きます。その見せ方自体は大変気が利いて面白いとは思うのですが、語られる映画に関して、何も資料がない観客にとっては、かなり難解に映ったのではないでしょうか?

「リップステック」ひとつ取っても、この映画を観たことのない観客には、サヨコの痛みはたぶん理解不能です。

最後の方で、飛行機の中の映画鑑賞シーンがありましたが、これは視覚的にも、かなり斬新なインパクトがありました。

セットの座席は、1970年代の映画館のそれには見えませんでした。当時は、赤い椅子が大半で、座席のスプリングの裏側は、布製だったように覚えています。この舞台の映画館の椅子は、裏がスチール製で、色はオフホワイト。
これは、後半明らかになる、ビリーがいた、沖縄普天間基地内の映画館の座席を示唆していたのでしょうか?
アフタートークで、質問できたら伺ってみたかったのですが、ゲストに、坂手さんが一方的に質問するだけの形態で、興味のない観客が、三々五々、先に退場されて行かれました。アフタートークの形式にも、もう少し、観客目線があればと感じました。

それにしても、この作品で、重要な意味を持つ蛾、フイルムも消滅したけど、最近蛾も見かけなくなりました。
私の子供の頃には、嫌という程いたのに。これも、地球環境の変化のせいかしら?人も植物も、動物も、日本は、在来種が絶滅の一途を辿り、外来種が席巻する国になりつつあるよなあなんて、余計な不安も心を過った舞台でした。
ブロードウェイミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」~それでも僕らは前へ進む~

ブロードウェイミュージカル「メリリー・ウィー・ロール・アロング」~それでも僕らは前へ進む~

ホリプロ

天王洲 銀河劇場(東京都)

2013/11/01 (金) ~ 2013/11/17 (日)公演終了

満足度★★

表層的な脚本と女優陣の演技
一家揃って、大の小池徹平さんのファンなのと、信頼する唯一の劇評家の方が、賛辞を書かれていたので、大変楽しみだったのですが、今回ばかりは、Hさんの劇評とは、真逆の感想を持ちました。

ソンドハイムの楽曲は、彼にしては、親しみ易く、耳馴染みの良い曲が多く、満足でしたが、脚本がまず浅薄この上ない気がしました。

人間描写も、エピソードも、既成の劇作と比べても、独創性もないし、深みも感じられませんでした。如何にも安易に頭で考えたというエピソードの積み重ねで、登場人物の葛藤が、安っぽく映りました。

その上、これは、演じ手の女優さんのせいと言うよりは、キャスティングされた方の選択が間違っていたと思うのですが、役を掘り下げる演技力のない方が、まるで御自身とは共通性のない役柄を演じているために、作品のレベルをかなり下げてしまいました。

20年の歳月を掛けたストーリーにも関わらず、誰も、舞台上で、年月の変遷を体現して下さらない。メークとかを変えないでも、表情や仕草や舞台上の佇まいで、その人の人生を演じきる技量のある役者さんはそもそもあまり存在しないとは言え、このあまりにも変化なしの20年にはちょっと唖然としてしまいました。
脚本にも、演技にも、あまりにもリアルさがないので、登場人物の誰一人にも共感することができず、ずっと傍観するのみでした。

それを証明するように、客席の拍手にも、観客の熱は感じられませんでした。

でもでも、やはり、小池さんは、芸能界の奇跡!
彼のお見送りを受けた観客は、老いも若きも、皆ルンルンで、「可愛い!会えて良かった!」と叫び、幸福感に満ち溢れて、帰路についたようでした。

初ミュージカル出演で、しかも、難曲のソンドハイムを歌いこなせるかと、内心心配でしたが、美しく力強い声で、熱唱され、小池さんの歌唱が、実は一番胸に沁みました。

ネタバレBOX

最初のシーンから、あっと言う間に、全員が着替え、タイムスリップする手際の良い幕あきに、これは素敵なステージになりそうと期待感が高まったのですが、その後がいけませんでした。

映画でも大成功を修めた作曲家のフランクが、成功と裏腹に、精神的な挫折感で打ちひしがれている場面から始まり、だんだんと、時代が遡って行く構成で、最後には、彼が再生する話かと思いましたが、仲の良かったチャーリーとメアリーと、3人が出会うシーンで、幕が下りてしまい、何だかはぐらかされた気持になってしまいました。

結局は、昔は良かったねというだけの話?昔の充実感を思い出して、今のフランクに何らかの光明が見出せるのなら、少しは共感もするし、「それでも僕らは前に進む」という題名にも説得力があるんだけれど…。

フランクが、何故、こうなってしまったのか?どこで間違えてしまったのか?と過去を振り返って、反省し、新たな活路を見出すエンディングでなければ、この作品の上演意味が不明な気がするんです。

映画の大スターなどという役柄は、昨日今日女優になったような方には、はっきり言って務まりません。それなりのオーラや、演技力が必要になる役。このキャスティングは、役不足ならぬ、役者不足でした。
彼女が、精一杯大袈裟な演技で、大女優を演じようとすればするほど、作品そのものがどんどん浅薄になるばかりで、観ていて面映ゆくてなりませんでした。

メアリーの宮澤さんも、3人が出会った頃の少女時代は溌剌としているけれど、後年のアル中の劇評家の演技は、まだ学芸会レベル。
女優陣には、かなりハンデのある役柄で、皆さん、お気の毒な感じさえありました。フランクの最初の妻、ベラを演じた高橋さんは、その中で、一番等身大の演技で、光っていました。結婚前と、夫に浮気されて、離婚の裁判沙汰になった時の女としての気持の変化もきっちりと演技表現されていましたし。

最初は純粋に、素敵なミュージカルを作りたかったフランクが、野望に燃えて、どんどん人間的に、レベルダウンする反面、変わらずピュアなままのチャーリーという表現のためか、彼のスニーカーだけはずっと同じ靴でしたが、これも演出的に作為があり過ぎ、リアリテイには欠けた気もします。

同じアパートに住む3人が出会うラストシーンの雰囲気がとても素敵だっただけに、今現在に光がさす構成だったら良かったのにと、とにかく残念でした。
後に、チャーリーの妻になる女性の登場のさせ方も、さりげなくて、上手い脚本だったと思います。

ただ、これは芝居の本質とは無関係ながら、フランクとチャーリーが、若い時代に、ケネディの大統領選を応援するプロパガンダ的な芝居を打つ場面があり、キャロラインさんが駐日大使として来日される目前なので、いろいろ当時を思い出して、感慨深い気持ちになったりしました。
息をひそめて―シリア革命の真実―

息をひそめて―シリア革命の真実―

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2013/11/11 (月) ~ 2013/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★

テレビのドキュメンタリーよりは、身近に感じる
学生時代、世界の情勢には疎い人間でしたが、池上さんのお陰で、ずいぶん、知識が増えた昨今、アラブの春以来、注目していたシリア情勢を勉強したい思いから、観劇して来ました。

日本のドキュメンタリー番組はいいのですが、実は、私、海外のドキュメンタリー番組がやや苦手です。何故なら、ある大手声優プロダクションの俳優が、大仰に、吹き替えをするので、実際の映像を放映してるのにも関わらず、鼻白む思いをいつもするから。

ですから、このドキュメンタリー芝居は、逆に、役者さん達の熱演により、真実を伝える効果がかなりあったと思いました。

お若いのに、こんな激戦の地に足を踏み入れて、7か月も、秘密裏に取材を続けたゾウさん達のご努力には、本当に頭が下がります。

国連でさえ、手を拱いているシリアの悲惨な現状を、我々日本人が知ったところで、手も足も出ないのですが、でも、こういう作品を、わざわざ劇場に足を運ぶ人ばかりでなく、もっと一般の方々にも広めていく方法はないものかと、強く思いました。

アサド大統領は、映像で観る限り、顔つきも温和な雰囲気で、とてもこんな殺戮を繰り返している人には見えません。
我が国の首相も、穏やかな雰囲気ですが、実は、かなりこの国を危険な状況に推し進めようとしています。
シリアの問題は、決して対岸の火事ではないと思うのです。

だから、まずとにかく世界情勢に目を向ける必要があります。そういう意味で、このドキュメンタリー芝居の手法は、一定の効果はあると確信します。

ただ、この舞台の最初に、この芝居は、台詞の全てが、インタビューをしたシリアの人達の生の声で、何一つ言葉を変えることなく、そのまま忠実に再現されているといった注釈が付きましたが、この点に関しては、やや懐疑的な思いを抱きました。
架空の人物を登場させてはいないと思うけれど、彼らの言葉を一字一句、何も変えずに、芝居に構築するのには、やや無理があるようにも思うのです。
少なからず、劇的に見せるための配慮がなされているようにも感じられました。

とは言え、日本で、安穏と暮らしていては見えてこない数々の事実が提示された芝居であることは紛れもなく、インパクトある演劇であることは、確実。

我が国の行く末も含め、いろいろ考えさせられました。

シリア難民の女性を性的対象として狙った、偽装結婚が横行しているというニュースを読み、遠く離れて、何ひとつ、援助の手を差し伸べられない状況に歯がゆさを覚えるばかりです。

ネタバレBOX

登場人物を、映像で、名前や人となりを手書きで説明する手法で、奥村さん演じるオマールを、最初の萩原さんのサミー役とミス表記があり、どうなることかと心配した幕あきでしたが、その後は、順調に舞台が進行してほっとしました。

ゾウさん達が、シリアに、一般旅行者を装い潜入し、7か月の滞在の中で、インタビューして、舞台に構成した作品ですから、登場人物は、全て実在とのこと。

主に、スンニ派の自由シリア軍の方や政府軍の犠牲になった遺族など、被害者側の証言が大半で、アサド政権による陰惨な虐殺が、リアルに語られ、胸が痛くなるのですが、一方で、一番注目したのは、萩原さん演じるアサド派のホテルオーナーの証言でした。

彼は、こんな状況下でも、自分のホテル経営に勤しみ、呑気に暮らしている雰囲気ですが、メディアが、反体制派の動静を報じない姿勢には疑問を呈します。
「俺は犬を飼ってるけど、実際、犬の姿を見ないと、本当に俺が犬を飼ってるってわからないよね。だから、メディアでも、アサドに反対してる人間の姿を見せてほしいんだ」というような含蓄のある発言をします。

わが国も、マスコミがさらっと報道してしまうことの中に、後戻りできないような大事な問題がたくさん隠され、見えなくなっています。
サミーのこの発言に、背筋が寒くなる思いがしました。

当パンが、登場人物や、地図や、シリア情勢を簡潔にわかりやすく関連づけてレクチャーして下さり、大変勉強になり、感謝しています。
テロリストは山手線に乗る

テロリストは山手線に乗る

劇団青年座

青年座劇場(東京都)

2013/11/05 (火) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★★

芝居そのものは素晴らしいのに…
その前に、どうしても言っておきたいことがある。

自由席時の客席誘導係の方の、老舗劇団にはあるまじき言動に怒り心頭になりました。

中年の男性の方が、たぶん研究生の陣頭指揮をして会場案内をやっていたのですが、とにかくこの方の言動が、何から何まで、客に対しての礼を失しているのです。

手前に座っている客に対して、開演目前に来た客を座らせるために、「つめて下さい」と言う。その客が指図に従わないと、「前を通ってもいいんなら、そのままでもいいですけど」とかあり得ない暴言。大きな声で、「後二人!」とか叫んだり、「そこ3人並びで座らせて」とか言ったり、客席に座った青年座の俳優さんに呼び捨てで、「○○、悪い、そこどいて、あっち」とか移動させたり、もう、会社の忘年会の席順決めてるんじゃないのよとどやしたくなる気分でした。

こんなに手際が悪いなら、最初から指定席にすればいいのに。誰か一人が客席にいて、入って来た客をそれとなく、誘導すればまだしも、勝手に座らせておいて、後で移動させようとして、それも、「申し訳ありませんが、お詰め下さいますか?」とか、低姿勢で、依頼するならいざしらず、何、あの言い草!!

本当に、腹が立ちました。そうやって采配が下手だから、案の定、開演時間は過ぎても、一向に客誘導は終わりが見えず、10分ぐらい押しての開演でしたが、遅れるお詫びはもちろんなし。

でも、芝居が始まって、面白いので、舞台に集中して、その怒りが少し静まったのも束の間、まだまだ遅れてくる客続出で、その度、舞台前方に、補助席を作って、客を誘導するから、またまた、舞台の興を殺がれる。
結局、舞台の世界に気持ちよく入り込めたのは、開演後、1時間半ぐらいしてからでした。

いつもは、指定席が多い公演なので、慣れていらっっしゃらないのかもしれないけれど、研究生の実習公演ではないのだから、もう少し、観客の視点に立ったサービスを心掛けてほしいと痛切に思いました。

で、実際の芝居の方は、脚本、演出、キャスト、全てにおいて、すこぶる上出来な作品で、大満足でした。

青年座の俳優さんはもちろん、6番シードから参加された、宇田川さん、粟生さんの好演も光りました。

小暮さんの、気持のよい快演ぶりには、益々ファン度増しました。

また、ちょくちょく、松本さんに、青年座への書き下ろしをお願いしたいと思いました。駆けづり回る椿さん達、劇団重鎮女優さん達の汗が新鮮でしたから。

ネタバレBOX

いやあ、本当に、ストーリーがよくできていて、感心しました。

笑えて、ちょっとほろっとして、現実社会の問題もそれとなく提示して…。

6番シードの舞台は拝見したことがないので、松本さんが、これほど才のある方とは、つゆ知りませんでした。

また、是非再演してほしいくらい。でも、その時は、指定席にして下さい。(笑)
ショーシャンクの空に

ショーシャンクの空に

フジテレビジョン

サンシャイン劇場(東京都)

2013/11/02 (土) ~ 2013/11/10 (日)公演終了

満足度★★★★

妄想と希望の挟間が心地よい舞台
映画は、何度か観ました。私以上に、子供達が大好きな映画でした。

で、ソンハさんが出るのならとチケットを買って楽しみにしていましたが、毎日、ハーフプライスのチケット情報を見たり、3時間ニ回の幕間ありと聞いて、かなり不安が増大しつつ、劇場に向かいました。

結果=観て本当に良かった!映画と遜色ない仕上がりでした。

映画では、アンディーが主役として描かれていましたが、こちらは、レッドに主軸が置かれた脚本です。
その視点が、とても効果的な舞台構成だったと思います。

ファーストシーンが、映画では、自分好みではなかったので、この始まり方は大変好みでした。

ただ、最後のシーンで、タイトルが出るのには、どうも違和感を感じました。

アンディーとレッドの二人だけの場面がもう少しあった方が良かったような気もします。

レッドを慕う少年とトミ―役を演じた、山崎彬さんの存在感が、とても印象に残りました。

ネタバレBOX

「刑務所のリタ・ヘイワース」という原作タイトルからもわかるように、この物語には、アンディーの独居房の壁に貼られたリタ・ヘイワースや、マリリン・モンロー、ラクエル・ウェルチの各時代の人気女優のポスターが、重要な役割をします。

映画だと、時代の変遷と共に、ポスターの女優が変わって行き、洒落た演出だなと感じたのですが、この舞台では、この3人の女優を実際に登場させ、しかも、幕ごとの狂言回しに仕立てます。この演出が、小粋で、暗くなりがちなストーリーを明るく見せて、実に気が利いていました。

仮出獄して、50年振りの娑婆の生活に馴染めないレッドの思い出の中に、登場するアンディーという、ストーリー構成にして、映画との視点を変えるアイデアも見事でした。

映画の方は、後半、急に、エンタメ映画のようになって、大人の私には少し違和感があったのですが、この喜安さんの創り上げた世界の方が、人物の心の深淵に切り込んだタッチで、何度も、目が潤む瞬間がありました。

レッドを慕う泥棒少年を物語に絡ませることで、この舞台では、主役はレッドの方によりシフトチェンジされていましたが、それによって、映画で内容を知る観客にも、飽きずに楽しめる作品になり、新たな作品として、成功していたと感じます。

欲を言えば、もう少し、アンディーとレッドの心の交流シーンを増やしてほしかったような気もするのですが、テーマが、映画とは全く異なる気がするので、これで良いのかもしれないとも思います。

最後のシーンの海の風景は、何かもっと工夫があれば良かったのにと残念。それに、追い討ちを掛けるような、タイトル文字が出たのは、興ざめでした。
ロスト・イン・ヨンカーズ

ロスト・イン・ヨンカーズ

パルコ・プロデュース

PARCO劇場(東京都)

2013/10/05 (土) ~ 2013/11/03 (日)公演終了

満足度★★★★

ニール・サイモンの目の優しさが好き
三谷さん同様、私も、ニール・サイモンは大好きな作家なので、これまでもかなりの作品を拝見していますが、この作品は未見でしたし、内容も全く知りませんでした。

キャスト名を拝見し、勝手に、松岡さんと中谷さんが主役かしらと思っていたのですが、家族劇で、誰が主役というのでもなく、強いて言えば、孫役の二人が一番重要人物だった気もします。二人の目を通して語られる、父親や、叔母や叔父や祖母の物語といった趣。そして、この二人の子供達の存在が、彼らに影響を及ぼして、ギクシャクした家族関係が少しだけ好転するというストーリー構成が、実に秀逸な舞台でした。

このまだ子供の年齢の孫兄弟を演じられた、浅利さんと、入江さんが、とにかく、ものすごく魅力的でした。

確執がある家族だけれど、そこに、作者の、人間を観る温かい目があって、各登場人物それぞれが、苦手な家族に対しても、どこかで、愛情深く相手をみつめている様子に、感銘を受けます。

最近、昔、一人っ子の私をさんざん羨ましがらせた、友人の兄弟関係が、無残にも打ち砕かれている事例が多く、仲良しの兄弟関係が、これほどにも破綻するのかという現実を直視することばかりなので、たとえ、芝居とは言え、人間関係が破綻しないよう努力しているこの一家の物語は、大変清々しく、心に沁みました。

ネタバレBOX

厳格な母に育てられた、この家族の兄弟達は、皆、どこか、精神的なバランスを欠き、エディは、大人になっても泣き虫で、母親になかなか本音を口にできず、結婚後は、母とは疎遠になっている。そのエディが、亡くなった妻の入院費などで、金欠になり、出稼ぎに行くので、息子達を、母親に預かってもらう算段をしに、久しぶりに、ヨンカーズの母の家にやって来たところから、この物語は始まります。

苦手なおばあちゃんだけれど、父親の仕事のために、やむなく、祖母の世話になる道を選ぶ、幼い兄弟。このジェイ(ヤコブ)と、アーティ(アーサー)の二人のやりとりがとても愉快で、観ていて、気持が和みました。

誰にでも気さくで、明るいベラ叔母さんは、でも、軽度の知的障害があるのか、精神的に未成熟で、感情の起伏が激しく、これまでは、友人も恋人も皆無という淋しい生活を強いられて来ました。

やくざなルイ叔父さんは、ギャングの手下らしく、裏社会のお金で、結構羽振りは良い様子。他に、呼吸困難になるガート叔母さんも、その原因は、厳格な母親。

家族に対して、殊更厳しく、愛情深い言葉ひとつ掛けない祖母は、昔、二人の子供を亡くしたせいで、家族に対して、過剰な対応をしてしまう。

こうして、大人達には、それぞれ、屈折した精神事情があるのですが、幼いジェイとアーティは、そんないびつな家族関係をものともせず、すくすくと、順当な成長をして、その二人の成長に、大人達が刺激を受け、少しだけ、関係が改善に向かう様が、本当に素敵です。

ニールサイモンの戯曲は、いつも、こういう等身大の人間がリアルに描かれ、お互いの関係がホンの少し好転するかなという、とても良い匙加減で幕となるところが、堪りません。

敬愛する作家の作品ということで、三谷さんの演出も、きめ細かく、愛情深く、とても素敵だったと思います。
a new musical『SONG WRITERS』

a new musical『SONG WRITERS』

東宝

シアタークリエ(東京都)

2013/10/05 (土) ~ 2013/10/30 (水)公演終了

満足度★★★★★

見事なオリジナルミュージカル誕生に、賛辞を!
もう、心底驚きました。

まさか、こんな素敵な舞台に巡り合えるなんて!

ただ、中川さんの歌唱と、岸谷さんの演出に、興味があって、ぶらっと行ってみただけだったのです。

ところが、会場の空気が違いました。本当に、観たいファンで埋め尽くされた客席の温たかい空気!きっと何度もリピートされているんでしょう!

だって、特にどなたのファンというわけでもない私でさえ、この舞台なら、連日通い詰めたくなりますもの。 

開幕してすぐに、これは素晴らしい舞台だという予感がしました。
終わる頃は、何故か、無性に涙が出ました。笑って、泣いて、日本にも、こういう演劇愛でステージ作りをしている方々が残っていることに、感謝しました。

久しぶりに、関係者の皆様に「ありがとう!」と言いたい舞台でした。

本気で、これを、ブロードウエイに、逆輸出してほしいとさえ思います。

日本のオリジナルミュージカルで、たぶん、最高の出来栄えだと確信します。
帰り道、口ずさめるオリジナル作品は、これまで、皆無でしたもの。

中川さんの歌声が壁に反響して、木霊のように時間差で聞こえたり、屋良さんの噂通りのダンスの技に魅了されたり、嬉しそうなコングさんの演技に、こちらまで、心がほっこりしたり、これ程、気持が清々しくなる舞台も久々でした。

とにかく、キャスト、スタッフ、全ての方に、称賛を惜しみたくない、素敵な素敵な作品でした。

ネタバレBOX

歌、楽曲、ダンス、ストーリー、構成、キャスト、どの方面から、考察しても、大変なクオリテイのステージで、とにかく、最高でした。

さりげなく、社会批判も籠められているし、いろいろな映画やミュージカルのパロディの挿入も、お見事なセンス。

悪事を働く人間も、最初からの悪人ではなく、戦争が彼をそういう人間にしてしまっただけで、本当は、心からの音楽好き人間で、仲間との時間の共有を楽しんでいたとか、登場人物の造型にも深みがあって、人間関係の描写にしても、愛が底辺に流れていて、感動しました。

舞台構成も、素晴らしく、最初の場面が、後半で、繰り返される挿入箇所の選定に、森さんの熟練の技を見ました。

一生、記憶に残る舞台になりそうです。
イーハトーボの劇列車

イーハトーボの劇列車

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2013/10/06 (日) ~ 2013/11/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

本、演出、キャスト三拍子揃う佳作
あまり期待していなかったのですが、井上さんの戯曲の中でも、かなり出色ではと思う、構成力抜群の芝居でした。

鵜山さんの演出は、押しつけがましさがないのが、気持良い!

こまつ座お得意の、オープニングのキャスト勢揃い場面が、他の演出家の時には、やけに、わざとらしくて、生理的に嫌悪感を感じる場合が多いのですが、何故か鵜山演出だと、スーッと、舞台に導入されて行く感覚になり、不思議です。

宮沢賢治の評伝と賢治作品の登場人物を彷彿とさせる人間達がうまく物語に折り重なり、ユーモアとペーソスのバランスも、絶妙でした。

食の問題、貧困と富裕層の格差、宗教論争等、いろいろなテーマを含有していながら、核がしっかりしていて、散漫にならず、戯曲のお手本になりそうな作品でした。

「あまちゃん」の好演が記憶に新しい木野花さん、ベテランの辻さん、他、キャストの皆さんも、それぞれ、役を楽しく味わい深く造型され、どの場面も、見応え充分でした。

ただ、井上さんは、ハプスブルグ家チックな貴公子然とした佇まいが、賢治の泥臭さを出すには、やや無理があり、作業着とかが、お仕着せ感いっぱいで、全員で舞台に立つ時、一人目立って浮いた印象がありました。
方言でそれらしく見えると思ったのも束の間、2幕の標準語で話す場面では、
品が勝ち過ぎて、賢治らしく見えなくなり、ちょっと違和感を感じてしまいました。以前、映画で賢治を演じられた三上博史さんのイメージが強すぎたのかもしれませんが…。

賢治の作品は、一度も読んだことがないと、今まで思いこんでいましたが、セロを習っていたというシーンになって、子供の頃、絵本がボロボロになるまで読んだ「セロ弾きのゴーシュ」が賢治作品だったことに思い当たり、曰く言い難い感動が胸に去来しました。

井上ひさしさんは、一体、どんな「思い残し切符」を私達に残して下さったのかなあと、最後は、感慨深く、劇場を後にしました。

ネタバレBOX

各場のエピソード構成が、溜息が出る程、気が利いています。

鼻もちならないくせにどこか愛嬌のある、福地第一郎と妹のケイ子役の、石橋さんと松永さんのコンビが最高!この二人、近親相姦までしちゃったそうだけど、何だか、憎めない関係で、たくさん笑わせてもらいました。

下宿屋の未亡人、木野花さんの「星めぐりのうた」の歌い方の可愛らしいこと!
この女将さんを判事にして、繰り広げられる、父親と賢治の宗教論争が、真山青果のコメディ版のような、台詞劇仕立てで、実に愉快でした。
父親役の辻さんの、ベテランの味わいに酔いしれました。

熊撃ちの三十郎の、賢治への思いには、共感し、涙腺が緩み、みのすけさんの車掌が、「思い残し切符」を渡しに、舞台に登場すると、何故か、胸に熱いものが込上げ、終始、心が穏やかに揺さぶられる舞台でした。

「木偶の坊の日蓮」と「強い日蓮」という視点も、興味深いものがありました。
賢治は、強い日蓮は嫌いだったという台詞、井上さんの創作なのでしょうが、妙に納得できました。

子供の頃、画期的な発明として習った記憶のある、エスペラント語を、賢治が教えている場面も、ある意味、目から鱗の情報だらけで、瞠目もの。

もし、、井上さん御自身が、震災後に再演されたなら、最後の場面での、思い残し切符の台詞は、もっと違う内容に改訂されていたに違いないと思いました。

そして、井上さんご自身は、どんな思い残し切符を、車掌さんに託されたのか?

井上さん、山崎豊子さん、やなせたかしさん、岩谷時子さん…改めて、偉大な創作家達を次々と失った喪失感で、胸詰まる思いがしました。

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