交響劇「船に乗れ!」 公演情報 アトリエ・ダンカン「交響劇「船に乗れ!」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    人生哲学書を読む趣きでした
    何も事前情報を知らずに観劇したので、意外な印象でした。

    のだめの高校版的な、音楽学校青春ストーリーを想像していましたが、もっとシビアで、やや胸に痛いストーリー展開でした。

    「若きウエルテルの悩み」とか「初恋」とか、「車輪の下」とか、柔らかバージョンの「罪と罰」風と言うか…。とにかく、青春時代に読み漁った、海外青春小説の雰囲気が漂う、かなり深い内容のミュージカルでした。

    育三郎さんが、童顔なので、高校生役が無理なく観られ、まさに適任でした。

    田中麗奈さんのピアノ教師は、同性の私から観ても、大変魅惑的で、男子生徒がときめくのも無理ないと思える好配役。青春の痛みを語る、主人公の壮年期を演じる福井さんも、相変わらず、こういう役柄では光ります。
    後半、重要な人物になる、倫社教師の加藤さんは、授業シーンなどに、リアルな存在感があったのですが、1幕でマイクの調子が悪く、何度も雑音を生じてしまったのは残念でした。枝里子の母役の木の実さん、サトルの祖父役の小野さんなど、脇役も、大変贅沢な布陣で、ドラマに厚みを持たせました。

    オーケストラの見せ方にも工夫があり、想像したより、遥かに見応え充分な舞台でした。

    ネタバレBOX

    タイトルが、ニーチェの著作から引用したとは、全く知りませんでした。

    サトルの無意識の悪意によって、学校を辞めさせられることになる倫社教師が、最後にサトルに読み聞かせる詩のような文章が、ニーチェの書いた「船に乗れ!」という言葉から始まるのだと知って、予想と全く違う展開に、驚いてしまいました。

    恋愛感情を抱いていた枝里子を、自分のドイツ留学中に、妊娠させた男性に対して、サトルが抱く殺意。彼は、倫社教師の金窪に、授業中、「何故人間はヒトを殺してはいけないのですか?」と質問します。
    その質問に、丁寧に応えようと努める金窪。二人の問答は、同じ教室で授業を聴いていた生徒全員にも、哲学的な疑問を突き付けて、皆も真剣に受け止めます。ですが、気持ちが揺れていたサトルは、自分の才能を買っている音楽教師に「どうしたの?」と聞かれ、思わず、さっきの授業で、金窪に言われた言葉の一部だけを、事情説明なしに話してしまいます。

    これがきっかけで、音楽教師は、生徒には秘密裡に、倫社教師の金窪を裁断し、、彼は、問責辞任に追い込まれてしまいます。

    もし生徒達が、このことを知らされていたら、事実とは違うと、金窪を庇うことも可能だったのに…。

    まさに、これからの日本の未来を予見したかのような内容の深い話に、暗然とする思いがありました。

    チェロやビオラやバイオリンなどの楽器を弾くシーンで、無理に役者が弾いているように見せることなく、舞台の後方で、実際の演奏者を見せたのは、変に小細工をせず、大変好感の持てる演出だったと思いました。

    宮川さんの作られた曲は、難度が高く、皆さん、歌いこなすのが大変そうでしたが、どなたも懸命に歌っていて、感心しました。

    サトルの高校時代と、壮年期を、二人の役者さんが演じ分ける手法は、「スタンドバイミー」のようでもありました。

    後で、知ったことですが、この物語は、原作者の実話に基づくストーリーだそうで、それを知って観ていたら、もっと違った感想になったのかもしれませんが、舞台を観ていた段階では、よく練られたストーリーだという印象でした。

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    2013/12/14 23:35

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