マルグリット
TBS
赤坂ACTシアター(東京都)
2011/03/11 (金) ~ 2011/03/28 (月)公演終了
満足度★★★★
時期的にはぴったりな感じ
ふだん、こういうミュージカルにはあまり興味がなく、観に行く予定ではなかったのですが、誘ってくださる方があったので。
恥ずかしながらまるで予備知識がなく、「椿姫」に似た話だなぁと思って観ていたら、原作はそうだったんですね。
宝塚でやってもいいんじゃないかな、というミュージカルで、藤原紀香と田代万里生のコンビも美しく、楽しめました。
戦時体制の緊迫した舞台が、偶然ですが、時期的にぴったりな気がしました。
ネタバレBOX
藤原紀香の舞台は初めてだったが、TVドラマで観るより、数段、演技も巧くボイストレーニングを積んだのか美しい歌声で、役にぴったりだった。
アルマンの田代は歌声ものびやかで、これからの成長が楽しみ。
西城秀樹のオットー将軍が思ったより良くなかった。歌唱法が西城秀樹そのもので、何より役の感情や機微が伝わってこないので、深みを感じない。川崎麻世や加納竜といったミュージカル俳優が、アイドル時代とはまったく違う歌い方をしているのとは対照的。
オットーが俗物とはいえ、マルグリットへの愛憎ゆえに策謀をめぐらすわけで、その葛藤もうまく伝わってこない。
悪役と言うほど色濃くないので、難しい役ではあるが。
それゆえ、「愛してなんかいなかった」というマルグリットに、経済的なこと以外、オットーに執着がないように見え、功利的な女に感じてしまう。
歌手だったマルグリットと、以前は男女の関係にあった元マネージャー(横内正)が、「所詮、おまえはガソリンの配給権としての利用価値しかなかった」とマルグリットに言い放つあたり、ちょうど、ガソリン不足が問題になっていたころなので、胸に響いた。
マルグリットはおちぶれ、民衆に撲殺されてしまうが、将軍の威光にすがって栄耀栄華生きてきた女であることは事実なので、反ナチの民衆に恨まれても仕方ない部分があり、新しい恋に殉じたとは言え、あまりヒロインに感情移入できないストーリーになっているのが残念。
ヒロインとしては、ベルばらのマリー・アントワネットと共通する部分ともいえる。
トップ・ガールズ
シス・カンパニー
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2011/04/01 (金) ~ 2011/04/24 (日)公演終了
満足度★★★★
楽しめる作品
この作品自体、初見で、キャストの豪華さに惹かれて、珍しく先行予約しました。
歴史上の人物が会話するという部分だけ予備知識があり、想像していたので、現代の場面があることを知らず、巧みな展開にひきこまれていきました。
チケット代は私にとっては奮発クラスだったけど、観てよかったと思います。
プログラムも売上が義援金になると聞いて購入しました。
ネタバレBOX
歴史上のトークの場面で小泉今日子がセリフを忘れ、何度も思い出して言いなおそうとするが、ダメで、芝居の流れが止まってしまい、ぶち壊しになったのが残念。
場面としてごまかしがきかず、麻実れいが引き取って、次のセリフに進めると、また小泉が思い出そうと、話を戻すのでイライラした。
初日でもないのにセリフが入っていないこと自体どうかと思うが、カバーのしかたも悪い。
現代の場面で、寺島しのぶが颯爽としたキャリアウーマンぶりをみせるだけに、
終盤の隠された真実が重くのしかかってくる。
彼女の知恵遅れの姪(渡辺えり/実は娘)への想いや、姉(麻実れい)との愛憎がよく描かれ、「女の生き方」について、麻実との会話により、観客も一緒に考えさせられる巧い脚本だなぁと思った。
渡辺えりが、歴史上の場面では、ひたすら食べ、せりふが殆どないだけに、後半の娘役では、彼女らしく大車輪の活躍をみせる。
麻実の田舎を一歩も出ない生活に疲れた姉がとても良い。一見、冷たく、子供を虐待しているかに見え、実は彼女なりの事情があることが、浮き彫りになっていく魅力的な役だと思えた。
雪組の王子様と言われた宝塚時代を知る者には、こういう人生の哀歓が出せる役者になったのだなぁと感慨深いものがあった。
大劇場には珍しく、私が観た回はカーテンコールも拍手はあったが、アンコールなしで終わった。節電を考慮したのだろうか。同時期に観た「マルグリット」のカーテンコールとは対照的だった。
星の王子さま
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2011/03/12 (土) ~ 2011/03/13 (日)公演終了
満足度★★★★
原作の世界を忠実に再現
震災発生の翌日の鑑賞。多くの劇団が確認メールを送ってきた中、何も連絡がないのでこちらから連絡したが「いつもどおりですから」との返信に正直、拍子抜けした。
チケットを購入済みだったので、電車とバスを乗り継ぎ会場へ。電車の運行本数が少なく、停車時間も長く、ハラハラしながら開演に5分遅刻して到着したが、こういう時期なので多少考慮してくれてるのかと思ったら、「定時開演してます」とのこと。「こういうときはいつまで待っても同じですから」と言う。
そして、演出の都合もあるのか、しばらく外で待たされた(これはやむえないと思うが)。
小劇場では、平時でも「予約客が来ない」と待たされたり、10分程遅れでの開演は慣習化してるが、これが良いこととは私も思わない。だが、大震災の翌日、交通機関の乱れる中で公演を決行するなら、10分程度の余裕は配慮してほしかった。しかも購入済みで「行く」と連絡してあるのに。
公演中も何度か余震があり、案の定、客席はガラガラで、私の後にも遅れて入場してきた客が何人もいた。
「平常通り」の姿勢は立派だが、まるで役所みたいに厳格で、小劇場だけに、柔軟な対応も可能だと思うのに、おもいやりを感じなかった。
こういうポリシーなら、観客としては今後大地震があっても、そのつもりで対応しなければならないと再認識した。
公演自体は、一部、せりふをつっかえる俳優もいたが、原作通りのイメージで、素敵な舞台だった。
※震災直後からログインエラーになって投稿できず、遅くなりました。
ネタバレBOX
シンプルな舞台美術だが、絵本のようで美しい。
一人何役も演じたり、毒へびをタンバリンの音で表現するなど工夫がある。
工藤順子のキツネが民話風で面白かった。
渋谷愛のバラの花が驕慢で愛らしく、作者の妻がモデルというこの役の性根がよく出ていた。
この人、松たか子と戸田恵子をミックスしたような雰囲気で、今後が楽しみな若手の一人だ。
『いいえ、ヴィンテージです』
山田ジャパン
サンモールスタジオ(東京都)
2011/04/01 (金) ~ 2011/04/05 (火)公演終了
満足度★★★★
Aバージョン観ました
ただのコメディーではない、山田ジャパンらしい作品だと思いました。
いとうあさこさんの迫力と存在感はさすが。
いしだ壱成さんをこういう小劇場で観るのは不思議な気分。ちょうど劇団新感線の舞台を観に行こうとしていた矢先に、彼が事件で降板したために、舞台はこれが初見。
サンモール最終日で、舞台挨拶の際、感涙にむせんでた姿が印象的。人気絶頂期から回り道したけど、これからいい役者人生にしていってほしい。
やはりAバージョンを観られてよかったです。
長期ログインエラーのため、UPが遅れました。
ネタバレBOX
冒頭、いとうあさこの登場から舞台に釘付けになった。デフォルメされた役柄も、彼女だと等身大に見えてしまう。
後半、受けの芝居が多く、そのことをセリフで言う場面もあって苦笑した。それだけに終盤、彼女の爆発的強引な一件落着手法も、なるほど、こういう解決方法もあるのかと思って観ていた。
道井良樹がコンビニの店員の手際の悪さを説明する場面は、以前やった電夏で道井が演じたコンビニ・コントを思い浮かべ、笑ってしまった。
彼はこういう段取りを説明するときの芝居が巧い。
太田恭輔のコンビニ店長が一見いい人そうで、けっこう人が悪く、ずうずうしいのも面白い。どんな髪型で出てくるかと思ったら、ミッキーマウスみたいで驚いた。
サスペンス調不条理劇を思わせる後半の展開、全体としていまいち私にはわかりにくい部分もあった。
前半がコメディなので後半に核心部分が凝縮され浮いてしまった印象。
作家役のいしだには華があってカッコよく、やはりこれまでのメジャーな場での演技経験は伊達ではないと思わせ、演技に陰影があるので、役が大きく見える。
weekly2【或る、致し方ない罪に対する やるせない復讐のはじまり】
アヴァンセ プロデュース
「劇」小劇場(東京都)
2011/04/13 (水) ~ 2011/04/19 (火)公演終了
満足度★★★
好みではないが
血みどろや下ネタの作品は個人的に好みではない。
だから始まって間もなくは「いやだなぁ」と思って嫌悪感が強かったけれど、物語が進むにつれ、ただのくだらないエログロナンセンスの作品ではないことに気付いた。
ただ、前回の作品に比べてつくりが雑な感じは否めない。
坂上さんのごく親しい同業者に見せて面白がってもらうぶんにはともかく、一
般向けにはどうかな、とは感じた。
全席自由席で早くから並んだのだが、舞台上手側の見やすい席のほとんどが「関係者席」になっていたのにも驚いた。
狭い小劇場で、こんなに「関係者席」を大量に確保されたのではたまらない、と思う。
そういう意味でも「関係者向け」の公演だったのだろうか。
ネタバレBOX
開演してかなり長い時間、暗闇での会話が続くのもしんどかった。
「死にたい」と思っている男女10人が集められる。
彼らは様々な「癖(へき)」を持っていて、話し合ううち、「死ぬ」ことの矛盾に導かれていく。
人物背景が必ずしも丁寧に描かれていないのが不満。特に放送禁止用語を連呼するDV男は、なぜDVになったかわからないし、なぜあの言葉を連呼するのか意味不明。幼稚園児がわざと性器や汚物の単語を口にして喜ぶ感覚と同じだ。
配役に違和感を感じる2人の男優の対決場面に「仁義なき戦い」のテーマ曲が流れ、この2人にふさわしい「広島弁」から、楽屋落ちのような会話になっていき、場内の爆笑を誘う。
(古山憲太郎の自嘲気味の「モダンスイマーズ」ネタには笑えたが)
だが、これは禁じ手と言うか、物語には何ら関係がない「お笑い」なのが残念だ。
血まみれの衣裳は「物語の衣裳」なのだろうけど、彼らは、バトルロワイヤルをやってるわけでもなく、血まみれである必然性がない。
ラストで半裸になる女優も必然性がない。
野々村真のぶりっこ風の「反復セリフ」は、凄惨な印象を中和させる効果を出したと思うし、最後に「ハート」の1ピースを残すところに、文字通りの余韻を感じた。
お宮の松の演技に説得力があり、役もよく描けている。
これがすべての役に適用されていたら厚みが出たと思う。
天井から降ってくる裸の人形の名前が「佐藤さん」なのは、平田オリザの「御前会議」のパロディーのように思えた。
鈴木蘭蘭の親殺しの理由もよく理解できないし、もっと人間の内面に迫る脚本だったら、と残念である。
※なお、本来なら「初心者×マーク」をつけるところだが、震災直後、原因不明だと事務局が言う長期ログインエラーが私に起きたため、投稿ができず、その選択資格を失ってしまった。残念です。
NUMBERS【全公演中止決定。いつか必ず再演を。】
Sun-mallstudio produce
サンモールスタジオ(東京都)
2011/03/08 (火) ~ 2011/03/13 (日)公演終了
満足度★★★
小劇場常連の上級者向け?
共通テーマ「確率」で、4つの劇団による競作企画。
15minutesみたいな劇団紹介企画かと思って観にいったが、小劇場常連の上級者向けの企画なのだろうか。
配役表がないので、出演者多数の演目は、既知の俳優以外、注目した俳優も名前がわからないのが、個人的には残念。
ネタバレBOX
「ブラインド・タッチ」(DART'S)
目をえぐられ、閉じ込められた密室の中で疑心暗鬼な状況で、血塗られた惨劇殺戮が繰り広げられる。
密室のオートロックキーを開けられる確率は100万分の1というわけだ。
猟奇的な内容なので、小劇場のような舞台が至近距離の芝居で、こういうものは観たくないと言うのが個人的実感。
演じる俳優にとっては、刺激的な作品だとは思うが。
「轟くヘヤー!!」(世田谷シルク)
“イケメン・オーディション”で男優陣を選んだそうだ。
パチンコ店を舞台に、現在50歳代にはなっているはずの往年のアイドル「えみりーゆうな」の「新台」に集まる男たちの話。
えみりーゆうなそっくりの若い新米女店員(えみりーゆうな)が文字通り紅一点の存在。
サディスティックな店長に堀越涼(花組芝居)、姉を探す中年男に日澤雄介(劇団チョコレートケーキ)。
イカサマを店長に見抜かれた中年男は女店員を姉だと言うのだが、「アイドルは年取らない」って本当?それとも男の妄想?
痔病で小さめのドーナツ座布団を持ち歩く目立つ男を岩田裕耳(電動夏子安置システム)が演じ、独特な持ち味を発揮するが、ドラマにおける役の必然性を感じない。
いつもの世田谷シルクとは趣の異なる作品だが、10人男性がいて十人十色というだけで、テーマである確率(10分の1)という意図が伝わってこなかった。
パチンコ店というより、キャバクラみたいだ。お約束のダンス場面はいつもどおりあります。
「うしろ姿を数えてみる」(The Stone Age ブライアント)
希望、落ち込みを100回、人間に繰り返させ、100回目にヒトダマを手に入れて「あの世」に帰れるという「鬼」の話。
鬼のベニコが不治の病をかかえた少女からヒトダマを手に入れるが、取り返されてしまい、100回目に絶望すると、鬼のキカワダはベニコのヒトダマを手に入れて本懐を遂げる。
話としてはブラック・ユーモアで面白いのだが、ベニコが文字通り「飴と鞭」を使い分けて少女を苦しめる場面が酷くて、観ていて不快になり、演劇表現における“生”の危険性を感じた。
鬼の同居人のホームレスのナナシを演じた俳優が飄々として巧い。
「ロマネコンティ2006」同居人
ホステス(西丸優子)は、幼い娘を連れて店の客(押田健史)と再婚したが、娘は交通事故で亡くなり、以来、精神不安定な日々を送る。
夫が娘の手を一瞬離したことで、妻は夫を責め続け、失業中の夫に離婚話を持ち出すのだが・・・。
夫婦2人の緊迫した会話劇で見ごたえがあった。4作中、自分の中では、一番高評価。
作・演出の山本了含め、3人の劇団で、2人芝居を続けているというのも興味深い。
ドロシーの帰還
空想組曲
赤坂RED/THEATER(東京都)
2011/02/23 (水) ~ 2011/02/27 (日)公演終了
満足度★★★★
見事な二重構造
深層心理とファンタジーを絡めた作品が得意なほさかようさんらしい秀作だと思います。
「オズの魔法使い」の世界と現実世界との見事な二重構造。
俳優陣も適役がそろい、きめ細かい演技で見ごたえがあった。
物語のラストへ向けての収束のしかたも納得でき、後味がよく、スッキリできた。
原作の「お茶会」と喫茶店(レストランのような感じだったが)を連想するようなシュールレアリスム的だまし絵風な舞台美術も素晴らしい。
ネタバレBOX
小玉久仁子が、いつもと違う役どころで新鮮さがあった。
久保貫太郎、藤田記子の等身大の人物像に好感が持てた。
西の魔女と編集者の2役の井俣太良が個性的で面白い。
齋藤陽介の青年がブリキとの共通点が感じられ、的確に演じている印象。クルッと手を回して回転するダンスの動きも美しい。
ドロシー役の小野川晶がファンタジーの世界をいやみなく演じていて感心した。
オズと高峰ドロシー(藤田記子)の父親役を二重に演じるという設定が心憎く、中田顕史郎も巧い。
父親の関西弁が多少ぎこちなく聞こえたのと、高峰ドロシーの台詞で1箇所、ら抜きの台詞があったのは残念だったが。
ウェイトレス(梅舟惟永)の台詞の真意が、私のような鈍い観客にはちょっとわかりにくかった。
桃太郎の母
北仲スクール
北仲スクール(神奈川県)
2011/02/26 (土) ~ 2011/02/27 (日)公演終了
満足度★★★
うーん、難しい!
教室内でレジャーシ-トを敷いてのテント芝居風客席。
観客は圧倒的に女子大生が多いという感じでした。
俳優は横国大の学生さんなので、唐ゼミ☆の後輩に当たりますが、彼らはこの難しい戯曲を理解して演じなければならないので大変だったろうなと、推察します。
とにかく、チンプンカンプンで、観終わった後、唐十郎作品に詳しい知人に解説してもらおうと思ったけど、頭脳明晰なインテリのその人も、だいぶ昔に観て「チンプンカンプンだった」と言うので、あきらめました(笑)。
舞台美術にも懲り、歌唱も俳優の演技も上手でしたが、戯曲の意味がさっぱり理解出来ませんでした。残念です。
唐さんの作品はパンフにもう少し説明がほしいところです。
ネタバレBOX
実在の女子大生殺人事件をモデルにしているそうです。
探偵事務所が3つも出てきて、女性検事が真理子という女性の殺人事件の謎を解く、というストーリーなのですが、観ていてさっぱり意味がわかりません。
「人間椅子」「郵便配達は二度ベルを鳴らす」「アイドルを探せ」「一寸法師」「桃太郎」といったモチーフはわかるものの、全容がつかめません。
うみほおずきをくわえた灰田がパズルのピースがはまったごとく、舞台後方が開き、海に吸い込まれていくというラストシーンに唖然。
寒天をストローで吸うことに何の意味があるのか?
人間椅子に扮したドンと松下がストローで外気を吸おうとするが、いったい何で人間椅子になって潜入しなければならないのか、わからない。
おそろいのオーシャンブルーのベレーをかぶった「シーフードレストラン」のお嬢さんたちが可愛らしかった。このベレーの意味もあるようだけれど、わからなかった。
ライトな演出は久保井さんらしいけれど、アングラらしい音楽と照明の変化が頻繁なため、返ってチグハグな印象に思えた。
流星キャッチャー【 2月18日(金)までだる割ぃ(特別価格500円)予約受付中!】
劇団だるい
しもきた空間リバティ(東京都)
2011/02/25 (金) ~ 2011/02/27 (日)公演終了
満足度★★★★
真面目なつくりで楽しめた
今回は7本のコント。前回より平均点が上がり、力作がそろったのではないだろうか。
劇団「だるい」は年1回公演を目標に社会人ユニットでスタートしたため、私は他劇団との比較でなく、単体評価をしてきましたが、コント公演も5回目ということで軌道に乗ったようなので、今回から総体評価に切り替えます。
楽屋落ちもなく、自分たちだけが楽しんでいるようなところがなく、満席のお客さんが本当に楽しんで笑っていたのが何より。チームワークに感動した。
松永明子改め煩悩寺朋子さんのコメディエンヌぶりが印象に残りました。
男性陣では佐溝さんが大真面目に演じ、ピリッとした香辛料のよう。中野さんの関西人らしい笑いのセンスは抜群。
やはり大河内さんの作品が面白いが、圧巻だったのは最後の中野さん作・演出の「ミュージカル太陽系」。
次は6月?大いに期待したい。
ネタバレBOX
探偵」(大河内健詞 作・演出)
殺人現場で刑事が検死をしている最中に、怪しげな探偵が次々、やってきて、現場保存がメチャクチャに・・・・
ツッコミ役の刑事、佐溝貴史の真面目さと、すっとんきょうな金田一耕助もどきの探偵・中野和哉の掛け合いが可笑しい。金田一以外の探偵のキャラがアイディアにとどまっているのが残念。
「流星キャッチャー」(佐溝貴史 作・演出)
年に一度、天使が流れ星の願い事をキャッチして潰すというダーティーなゲーム。天使たちの作戦はことごとく失敗して願い事が叶ってしまう。
なぜなら、陰に「願い事の妨害を潰す」という願い事の流星をキャッチしていた天使がいたから・・・。
キャッチするのが天使というより星に見え、流星ではいけないのだろうか。
「別れの曲」(大島健吾 作・演出)
急死したミュージシャン(中野和哉)の告別式に集った仲間たち。
ニュージシャンは成仏しておらず、みんなの様子を見ている。
煩悩寺朋子の「どさんこ、ドスコイ!」の“思い出の一発ギャグ”の迫力たるや、女子で思い切ってよくやったと感心する。
大島がいかにも好みそうなシチュエーションだが、歌が長く、少々ひっぱりすぎの感も。彼は軽演劇風のテンポのよいコントのほうが持ち味が出る人。
「竹取物語」(大河内健詞 作・演出)
雅楽に乗って、ゆったりと侍女が若君に語る「竹の物語」。
「竹」の通販番組みたいな部分が笑えた。感心したのは古語の文法が正確であること。
シリアスな時代劇でも言葉遣いが間違っている劇団があるだけに、コントでこれだけ正確な文語を使うのは高く評価したい。
昨年好評だった「狂言物」もそうだが、古典のエッセンスを現代に生かす大河内の手腕はなかなかのものだ。
「さようなら人類」(小林早苗 作・選出)
人間が絶滅寸前の動植物の遺伝子を肉体に移植・培養したらどうなるか、というSF劇。
会社を辞め、引きこもりになって魚類の遺伝子移植を始めた大島と、大島を訪問して感化され、花を移植した佐溝が、異形のまま、ごく普通の会話をしているのが可笑しい。
花を頭上に生やした佐溝がまるで家庭菜園を作る感覚で寄せ植えプランを話す。園芸が趣味の人のようで笑えた。
「金閣寺」(原作・三島由紀夫 脚色・演出 佐溝貴史)
三島の名作「金閣寺」を前衛パフォーマンス風に演じる大河内、佐溝、煩悩寺。その動きに、コメンタリー風の解説雑談が流れる。
着想は面白いが、動きと語りが巧く融合しておらず、いまひとつ可笑しさが伝わらない。コメンタリーよりもパフォーマンスのほうの原作の台詞に注意が行ってしまう。
「ミュージカル太陽系」(中野和哉 作・演出 作詞・中野和哉/作曲・大島健吾)
地球と月の恋を応援する太陽系惑星たちのミュージカル物語。
地球役の佐藤史弥が力演。敵役のブラックホール(佐溝貴史)が「ブラック!」の叫びとともに繰り出すブラック・ユーモアが秀逸で爆笑した。
コント公演ながら、立派なミュージカル仕立てになっていて歌もきちんと歌っているし、子供にも見せられる内容で楽しめた。
パペット・オン・ザ・パニック 完全版【全ての公演は終了致しました。ご来場いただき本当にありがとうございました!!】
隕石少年トースター
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2011/02/17 (木) ~ 2011/02/21 (月)公演終了
満足度★★★
インパクトに欠ける
最初の人形劇の場面が一番面白かった。また、窓の外の風景がよくできていた。
物語に登場する劇団や劇場人事などの内部事情が絡んでくるストーリーなので、下剤事件で人形劇を代役でやらされるはめになったことは脇に置かれ、どっちつかずの印象になっている。
人形劇のてんやわんやぶりが中心になれば面白かったと思うが。
ネタバレBOX
劇場に復帰したい黒川(芝居には登場しない)というプロデューザーの陰謀により、人形劇フェスティバルに出場する劇団員たちの弁当に下剤をしこまれる。
救急車が到着しても1階にまだ劇団員たちがいてトイレを占領しているが、集団食中毒が懸念される場合、この段階でとにかく病院に搬送されるのが一般的。
唯一、症状が軽い安原(佐藤あい)が点滴を持って看護師(ハシグチメグミ)と一緒にウロウロしているが、毒物が混入していないか病院で胃液検査もされるし、まずありえない。
そのうえ下剤が混入していたことだけは病院検査もなく安原の推測で断定されており、それが事実なら警察も来るだろうし、最初の設定にまず不自然さを感じてしまった。
劇団員の光永(永井悠造)とプロデューサーの小坂(上田泰三)のセリフの「間」が悪いせいか、本来笑いをとる場面で奇妙な「間」があいてしまい、客席がシーンとしてしまうのは致命的。
その中で安原役の佐藤はしっかりした芝居をする人だなと思った。
北村の福嶌睦は前回の公演でも感じたが、声が小さくて前に出ず、ふわふわと舞台に吸収されてしまうのが気になった。
黒川側のスパイ・滝口役の関敬だけがコメディアンらしく笑いをとるが、コメディは1人が奮闘するだけでは如何ともしがたい。
現代は携帯電話があるだけに、滝口は黒川から遠隔操作されるかたちになり、一層、芝居そのものが浮いて見えてしまう。
点滴に狸のお面をかぶせて動くアイディアにも無理があるが、狸のお面が落ちても押し通すのにも唖然とした。これもきちんと人形劇を見せたうえでのハプニングなら、それなりの笑いも湧いたのだが。
主宰の野本(中西邦子)が考え付いた3分間のダンス劇場面も面白みに欠けていた。
道路
東京演劇アンサンブル
ブレヒトの芝居小屋(東京都)
2011/02/11 (金) ~ 2011/02/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
ネット世代にもお薦め
この作品、書かれた当時の東欧の政治状況への痛烈な皮肉ともいえるが、閉塞した現代の文明社会を諷刺したともいえるし、より広く「道路は人生そのもの」という捉え方も出来よう。
観る人それぞれに訴えかけ、いろんな観かたができるのだなぁとHPに寄せられた感想や演出家・三由さんご自身の解説文などを読み、思った。
私にはこの不条理劇はネット社会とあまりにも符合する部分が多くて興味深く、暗喩のようで、観ていて背筋が寒くなった。そういう意味からもコリッチユーザーにはお薦めの一作。斬新な演出で見せてくれた三由さんには感謝します。
私が以前からお勧めしているブレヒトの芝居小屋のレトロな雰囲気を今回初めて堪能されたコリッチユーザーのかたもいらっしゃるようで嬉しく思います。都会の喧騒を離れ、時がゆったり流れているようなこの劇場の雰囲気がいつまでも保たれてほしいと願っています。
映像、衣装、舞台装置などにより、いままでのこの劇団の公演とはひと味違った仕上がりになっていて、ふだん新劇になじみがない小劇場ファンにも親しめるものとなっている。
長いステージの両側を客席が囲むかたちの舞台。舞台が道路そのものになっており、客席の背後も道路という設定で、俳優が通る。
メインステージをファッショナブルな衣装の俳優が歩くと、まるでファッションショー会場のような趣。今回のフォークロア調の衣装はアースカラーを基調にした色彩も美しく、秀逸だった。
かのんぷ♪の生演奏も、劇の邪魔にならずに美しくなじんでいた。
ネタバレBOX
冒頭、コンクリートの地球儀を持った語り部(熊谷宏平)が出て語る「道路では、どんなことも起こらないとはいえないがね、たいていのことは起こらないし、確実なことなんて一つもないよ」というセリフがすべてを物語っている。
自分が設計した道路を一人の設計士が歩いていく。
物語はこの設計士の悪夢という見立てになっている。
自動車も機能せず、道路脇に廃棄され、休憩所として使われている。人々は出口のない道路をただ2本の足で歩くしかない。
「踊る女」が出てきて、設計士を誘惑し、休憩所(自動車)へ誘う場面。妖艶な洪美玉のセクシーなダンス演技が素晴らしい。
老婆(竹口範顕)が歩き疲れ、行き倒れになりそうになると、人々が寄ってきて、奇妙な挨拶を交わし、遠巻きに老婆を見守っているが、やがて「あきらめて早く死んでしまえばいいのに」などと言う声も聞こえる。老婆の死を待ちきれず、人々は老婆を殺し、襲い掛かって食べてしまう。その瞬間ナイフとフォークのサービスエリアマークみたいなプレートが降りてくるシュールな演出。
人々は布で顔を隠しているが、実は野獣なのである。HNに身を隠し、ターゲットの人物を抹殺する匿名サイトのようでゾッとした。
まともな言語を忘れ、「コンクリート」しか言わない老いた庭師(佐々木章夫)も、ネットの住人同様、どこかしらとぼけても見える。
道路を逆方向に歩く「逆行男」(竹口)が出てくるが、一方方向しか通行できないと人々に阻止される。閉塞感に満ちた道路なのだ。しかし、三由さんは「自由に見える逆行男も道路の中で生きている」と書いている。
自立を拒む赤ん坊(本多弘典)もモラトリアム青年のようで面白い。
終盤に、道路から奇跡的に樹木や芝が生えてきてオアシスを形成する。設計士は「休ませてほしい」と声をかけるが、オアシスの狂人(熊谷)は「俺のオアシスだから誰も入れない」と意地悪をする(これと似た主張がサイトでも起こっている)。
「暗い女」(名瀬遥子)が祖母から聞いた美しい自然に覆われた地球の話をして現状を嘆いても「明るい女」(冨山小枝)は「そんなものがなくたって、私は平気」と意に介さない。もう、元の世界には戻れないのだ。
道路で出会い、恋に落ちる若い男女(本多・冨山)も、道路によって別々の方向に引き裂かれてしまう。
最後に疲弊した設計士は「もう二度と道路を作らない」と誓うが、交通事故死してしまう。彼の遺徳を称え、彼の計画通りにすべての道路建設が行われることが決定されるという皮肉な結末。
まさに悪夢だ。
六人のへそ曲り〜明治文豪青春賦〜
花組芝居
「劇」小劇場(東京都)
2011/02/09 (水) ~ 2011/02/13 (日)公演終了
満足度★★★
着眼点は面白かったが
フライヤーを見たのがかなり前だったので、俳優座とのコラボ企画公演だということを忘れて観ていた。俳優座の蔵本康文、松崎賢吾両氏の演技が花組芝居の面々になじんでおられ、驚いた。途中まで松崎さんは花組芝居の人だと思い込んでいたのだ。各務立基さんが元俳優座だということもアフタートークで初めて知った次第。
近代日本文学史の黎明期を芝居で辿るといった趣向で、自分が高校生のときにこの芝居を観ることができたら、現代国語の副読本であった日本文学史のテキストにより親しみが持てただろうなと思った。
文学の流れということは観ていてとてもよくわかるのだが、芝居としては総花的にいろんな文学者が出てくるだけで物足りない。
肩が凝らない代わり、文学の薫り高さは乏しい。また、劇の性格上、文学論について説明口調のセリフが多くなるのも難点。
いちおう森鷗外(各務立基)が主役で、対立軸に夏目漱石(大井靖彦)がいる構図だが、観終わってから人物の内面があまり迫ってこなかった。
ネタバレBOX
劇冒頭にネットの青空文庫人気ランキングで文豪各自の作品の順位が発表され、文豪たちがその順位に一喜一憂する場面が面白い。ここで、明治の文豪たちをグッと身近に感じさせる狙いは成功したと思う。
夏目漱石が教科書から姿を消す時代だから、これらの文豪の作品が現代人には縁遠く感じられるのもいたしかたないのだろう。出演者のアフタートークを聴いていても、「登場人物の中で誰が好き?」という質問に当の俳優たちが役のモデルに何ら思い入れを感じておらず、「いない」と異口同音に答えるのには拍子抜けした。
私は高校3年のときの担任が国語教師で熱烈な森鷗外ファンだったこともあり、鷗外の作品はかなり読んでいるが、出演者たちは「鷗外は漢字が多く難しく、眠くなるので読まないよね」なんて言うので、悲しくなった。
出演者の中では最年長の水下きよしさんが年の功か、かろうじて文豪作品をいくつか読んでいたのが救い。実際、水下さんの尾崎紅葉役はなかなかはまっていた。
大井さんの若々しい漱石も新鮮だったが、大井さん自身、もう42歳と知り、お若く見えるのでびっくり。漱石が49で亡くなっているのだから実年齢に近いわけだ。
俳優たちは何役か受け持って、忙しく役代わりで舞台に出てくるのだが、蔵本さんのオカマ風の西園寺役は意外な配役で面白かった。
美斉津恵友演じる鷗外のユーモラスな母も笑わせてくれた。
狭い舞台に赤を基調とした明治の錦絵風の舞台美術が工夫されていてよかったと思う。
国民傘
森崎事務所M&Oplays
ザ・スズナリ(東京都)
2011/01/21 (金) ~ 2011/02/13 (日)公演終了
満足度★★★
戦争の“気配”を描く
単細胞の私にとって非常に難解なお芝居でした。
プログラムを買って、岩松さんのインタビューも読んだけれど、それでもよく理解できなかった。
戦争が終わっても、次の始まりの気配はある、一見戦争と関係ないと思われる事象が実は戦争と結びついている、ということらしいが、その“気配”というのが観ていてあまり私には伝わってこなかった。「俺、こんなにわかんなくしてんだ、お前らもわかんないだろう」という岩松さんの言葉を読んで、そう言われてもなぁ(笑)と困惑した。
身近なことが戦争につながらないためには「日常生活でも程度をわきまえること」というアドバイスは大変勉強になりました。
チェロの生演奏(荒井結子)が効果的に使われ、難解ながらもひきこまれてゆく魅力的な作品ではありましたが・・・。
ネタバレBOX
戦争が終わった後、国民を「死の雨」から守るため国家が考えたという「国民傘」。その傘立ての場所をほんの少し、移動したという罪で、母娘が捕らえられ牢に入れられてしまう。
そこの看守が読んでいる本の内容が母娘の肉親の青年のことを書いているらしく、一方で本に登場する工場の経営者と弟の会話には、「傘立てを移動した母娘の物語」が出てくる。
その間に、上官を探して森をさ迷う兵士たちのエピソードがあり、この兵士たちに遭遇する散歩者が看守であるという「入れ子」のような芝居である。
工場で働くシンの病気の妻が実は白骨化しているというホラー仕立ての場面が印象に残ったが、そのことが物語全体の中でどういう意味を持つのかがよくわからなかった。工場の使用人シンの愛人ナジャを演じる片山瞳が、アングラ女優のような強烈な個性で、舞台出身かと思ったらモデル出身だそうで驚いた。
サイモン・ヘンチの予期せぬ一日
古川オフィス
こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)
2011/01/27 (木) ~ 2011/02/04 (金)公演終了
満足度★★★
2度観る羽目に・・・
私は、この公演、2月1日と4日、2度観ました。というのは、最初に観たとき、途中で集中力が切れ、クライマックスで居眠りをしてしまい、肝心の内容を把握できなかったものですから。寝てしまったくらいですから正直あまり面白いとは思わなかったのですが、ラストが気になり、再演の機会も少ない作品だと思ったので、やむなく2度足を運んだというわけです。
2月1日は客席が半分くらいしか埋まっておらず、開演前、スタッフが顔見知りの客に「うんと笑ってくださいね」と声をかけていたがシーンと静まりかえって笑いもおきず、うっかりバッグを触っただけで前の席の人に「静かに!」と注意されてしまった。千秋楽はさすがに8割くらいは埋まっていたようですが、興行成績としては低調な結果に終わったといえそうです。
やはり、こういう地味な翻訳作品は見せ方が難しいのでしょうね。戯曲としては興味深いのですが。
2度目は幸い眠気にも襲われず、1日の回よりテンポもよくなっていて要所要所で笑いも起こり、日によってこうも客席の反応が違うものかと驚きました。
1度目は当然カーテンコールがあると思わせる雰囲気でしたが、2度目は千秋楽なのに、「公演はすべて終了しました」というアナウンスが流れ、いっこうに俳優が出てこなかったので、出てしまった客もいました。ちょっと不思議でしたね。
ネタバレBOX
クライマックスというのはサイモン(辰巳琢郎)の妻(黒田福美)が戻ってきて、サイモンと自身の不倫のことで口論となる場面。やはり、2度観てよかった。黒田さんは韓国通として知られ、最近はワイドショーのコメンテーターとしての印象が強いが、このベス役は血が通い、台詞のひとこと、ひとことが観る者にしっかりと伝わり、つかみどころのないサイモンの人間性をも浮き彫りにしてくれた。若き日の稲野和子さんを思わせる名演技でした。この場面を見逃しては何にもならなかったと思います。
貞淑で自慢の美しい妻の不倫に気づかぬふりをしてきたサイモンは、すべて周囲の物事を自分の都合のよいように解釈することで取り繕っているという虚像を妻が暴く。サイモンは不倫の相手が自分が小ばかにしていた男、レッドだと知ってショックを受ける。子供をほしがらなかったサイモンに対し、妻は妊娠を告げて出て行く。
サイモンは登場したときは、優柔不断な好人物に見えるのだが、実は“結構な過去”と意外な一面を持つ男で、それでも腹黒いとまでは言い切れない、無作為の悪意みたいなところもある難役。能動的ではない主人公なだけに、次々に登場人物をうまく受け止めて、テンポを作っていかねばならない。ハンサムで一見好人物でおとなしそうな辰巳さんには合っている役かもしれないが、滑舌がよいとは言えず(2日とも同じところで舌が回らなかった)、演出がメリハリなくのろいせいか、会話部分が非常に退屈に感じられた。だから、黒田さんの登場まで集中力がもたなかったのだろう。久我美子夫君の故・平田昭彦、石田純一、辰巳琢郎は「3大インテリ人畜無害の美男俳優」と、私の父が名づけたのだが、今回の役を観てなるほどなーと思った。
少し脚色が必要だったのではと思う。開演1時間20分くらいまで妻が登場せず、平板な会話でつなぐにはつらいものがあった。
サイモンの兄の中西良太さん。若いころに観たきりだったが、今回の役が熊倉一雄さんそっくりでなかなか面白く、驚いた。サイモンの兄の同級生(モロ師岡)、友人ジェフ(上杉祥三)がスパイスになっていた。サイモンを誘惑するジェフの愛人デイヴィーナはWキャスト(武田優子、会川彩子)とも観たが、巨乳美女という設定どおり、お二人とも魅力的な肢体でした。間借り人のディヴ(小林賢治)。ラストにサイモンにダメージを与える役だが、台詞が上滑りに聞こえ、声も小さく大きな劇場での演技がまだ身についていないようで、サイモンとの対比が出るところまでいかない。
舞台美術が上手後方で観ないと窓の向こうの遠景が見えず、見えないとだいぶ趣が違ってくる。それに気づいたことも、2度観たメリットだったかもしれない。
ニーナ
東京演劇集団風
レパートリーシアターKAZE(東京都)
2011/02/01 (火) ~ 2011/02/06 (日)公演終了
満足度★★★★
続編として魅力的な作品
マティ・ヴィスニユックは昨年のKAZEの『戦場のような女』で初めて知った作家。日本の劇団であるKAZEにに次々新作を書き下ろし、他劇団ではなかなか観られない作品なので毎回楽しみにしている。
チェーホフの『かもめ』の続編のような作品で、しかも今回演じているKAZEの3人の俳優に当て書きをしたというのも興味があった。
チェーホフの名作の続編としてまったく違和感なく観客の心を捉える力作だと思う。
既にCoRich常連ユーザーのかたが作品内容については詳細なレビューを書いておられるので、ネタバレでは簡単な雑感を述べたいと思います。
ネタバレBOX
白一色のシンプルな舞台美術。昇降する歪んだ白いドアと振り子時計の振り子の球体が印象的。
この振り子は時を刻むと同時に2人の男性の間を揺れ動くニーナをも象徴しているように感じた。
『かもめ』で自殺したはずのコースチャ(柳瀬太一)が生きている。柳瀬はいかにも年をとったコースチャらしく見えるのがいい。
トリゴーリンの緒方一則もそれらしい雰囲気。
ニーナの柴崎美納は、相変わらず演技が力強く、役柄をくっきりと描き出してみせる。この人、だれかに似てるなーと思っていたのだが、惜しまれて早世した宝塚出身の舞台女優、上月晃の面影がある。上月の舞台はもう観られないけれど、柴崎は女優としていまが一番脂が乗り切っている時期なので楽しませてもらおうと思う。
登場人物3人とも過去にとらわれ、いわば存在自体が過去の亡霊というとらえかたもできるのだが、何より、2人の男にとってニーナ自身が“愛の亡霊”みたいな存在に思える。
3人は革命に思いを馳せながら思い出の家を捨て、旅立つところで終わる。
この芝居にはもう1人登場人物がいて、凍死した脱走兵士(栗山友彦)。遺体の役だが、この脱走兵士の遺体を戸口にみつけたことが3人が外界へ旅立つきっかけとなる。当然、まったく台詞がないのだが、栗山は全身から不気味なオーラが出ていて、終幕、徐々に床に崩れ落ちていくさまが、3人の幻想の崩壊も暗示しているかのようで、また、副題にある「剥製のかもめ」のようでもあった。
冬の原野に響く鹿の鳴き声や銃声に続く昂揚感のあるBGM、タイガースの「青い鳥」にメロディーが似ている主題曲など音楽もよかった。
衣装について。「冬だが部屋は温かい」という設定だが、男性2人がシャツ姿の薄着で、吹雪の中、外出するときも手袋もはめず、そのままで全然寒そうではないのが気になった。せめてセーターを着たらと思う。ニーナとコースチャが狩りに出かけるときも薄着のままで、ニーナの衣装換えが多いだけに、抽象的衣装とは捉えらず、違和感があった。ニーナは、パリコレl風のキモノコートのような衣装、フリンジ付きのプリントワンピース、白のナイティー、ゴブランのドレス、毛皮のマントと衣装を変え、視覚的にも楽しめた。
ラストの3人が出かける場面、コースチャのコートだけが薄手なのも気になった。
蛇姫様
害獣芝居
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/02/03 (木) ~ 2011/02/06 (日)公演終了
満足度★★★
難解な戯曲だけに
この戯曲、私は原作も読んでいないし、芝居も初見。唐さんの芝居はただでさえ難解なので、正直なところよく意味が理解できなかった。原作を知って観れば、もう少し楽しめたかもしれない。
また、害獣芝居初見だったら、そのスタイルに戸惑いもあったかもしれない。
したがって、この×マークは観劇初心者向け×です。
アングラらしさは出ていたが、どうせ原作を解体・再構築するならその旨断った上でもっと大胆にやってもいいかなとも思った。
害獣芝居は歌でいえばアカペラの手法の劇団でシンプルな演出。従来も音楽は多用しないので、ちょっと唐作品としては地味にも感じられたが、台詞から伝わってくるカタルシスはあった。
ともあれ、私は浅沼さんの構成・演出のスタイルを学生時代から何度か観てきたので、彼女らしさはよく出ていたし、これはこれで面白かったけれど、日ごろ唐作品を上演している劇団員も何人か観たようで彼らは崇拝する唐十郎の原作に忠実に上演されると思い込んでいたらしく、かなりショックだったようだ。
害獣芝居としては、原作をそのまま上演したのでは芸がないと考えたのだろうし、いつでも唐さんの直属劇団が望むようなかたちで上演されるとは限らない。唐さんがご覧になったとしてもたぶん怒らないと思うが、ただ、ここまで変えるのなら「改訂」や<唐十郎作『蛇姫様』より>としたうえで、パンフにも断り書き・説明の一文はほしかったと思う。
劇団としては公演数が少なく、今後場数を踏み、洗練されていくのではないだろうか。
ネタバレBOX
焼け跡派の唐十郎おなじみの「戦後、何かを手がかりに誰かを探す物語」。
本作では、手がかりは「母が残した日記帳」で、あけびという娘が母から聞いていた伝次という人を探しに小倉から東京に出て来る。
あけびは白菊の谷に咲いている黒いあけびの汁を絞って生まれつき肌にある蛇の鱗にも似たあざにかければ、鱗がはがれ落ちるということを信じ、探し求めている。あけびが小倉で見たという原風景の死体運搬船の名の白菊丸は「桜姫東文章」の白菊丸(桜姫に生まれ変わる)にもかけているのだろうか。
終演後、浅沼さんに簡単に原作の『蛇姫様』の解説をしてもらい、今回の意図が少しは飲み込めた。原作は主人公のあけびはもちろん女性で、周囲のスリたちもオカマの男性が中心で、登場人物が次々にすり変わっていき、「スリ=すり替わり」の妙味が原作のテーマの「帰属」につながるようだ。こういう場合、原作の説明をパンフにしたほうが理解の助けになったのではないだろうか。
本作では、男女逆転で、蛇の肌と蔑まれ、いじめられたあけびのトラウマと母娘の情念、人の帰る場所、「帰属」を表現したかったらしい。
今回は、あけびを男優の大柿友哉が演じ、男女の言葉遣いが混じるので、最初のうち、観ていて「え?女性なの?}と混乱してしまった。小林少年(益田悠佳)はスリの仲間内では山手線と呼ばれているが、終盤はあけびが山手線と名乗るので、一層混乱していく。大柿は最近客演で活躍中で、この難役をなんとか演じきった。大学時代は演出で注目した人なのだが。
女スリたちもなかなかアングラ劇らしく演じていてよかったが、役割分担がわかりにくい。
ラスト、突然の終わり方にも物足りなさが残った。
劇団螺船との合同公演「銀河鉄道の夜」のときと同じく、空き缶の舞台美術が森を表して、それが東京のスラムと白菊の谷、死体運搬船を一体化させる効果があった。
柳生十兵衛
WAKI-GUMI(脇組)
六行会ホール(東京都)
2011/01/26 (水) ~ 2011/01/29 (土)公演終了
満足度★★★
金太郎飴
内容は初演のときとほとんど変わっていなかった。時代劇特有の既視感の強い脚本。段取りがすべてわかっているぶん、新鮮味に乏しく、途中から苦痛になってきた。自分は本来かなりの時代劇好きなのだが、どうも脇太平氏の時代劇には感動できない。これは単に再演ものだからという理由だけではない。たとえば、「忠臣蔵」の筋はわかっていても毎回泣けるし、東映の時代劇や仁侠映画は同一作品を何回観ても面白い。かつて宝塚の時代劇作品を1カ月公演中に何度も通って観たことがあるが、筋もセリフもすべてわかっていても楽しめた。脇さんの時代劇は難点の少ない正統派なのに、満足できない。なぜだろう。それは人物像がお人形に近く、俳優が演出家のコマでしかないからではないだろうか。たとえば、Aという役があるとすると、その役を違う俳優が演じても同じAという印象で、役者の持ち味や差が出ないのだ。彼の作品の役者はゲームキャラクターの画一な動きを観ているような退屈さだ。事実、常連俳優にはゲームのモーションキャラクターを演じている人もいる(笑)。
脇さんにはお弟子さんが何人かいて、自分の劇団を持っているが、どれを観ても金太郎飴のように画一的な“脇流”で、個性が乏しい。彼の芝居の若手常連は他劇団に客演することがほとんどなく、脇グループの中で活動していることが大きいだろう。
脇さんの時代劇で唯一の長所は殺陣の技術水準の高さだ。これは数ある時代劇劇団の中でも随一だと思う。スパルタで弟子を鍛えているらしく、殺陣師としては一流である。子飼いの役者はみな、彼の殺陣のお弟子である。
つまり、WAKI組はいわゆる小劇場芝居ではなく、商業演劇と大衆演劇の中間に位置する。俳優同士も体育会系の関係。観客もほとんどが出演者の知人のようで、アンケートもとらない。終演後も常に「とてもよかった、素晴らしい」という褒め言葉しか言われないから、変わりようがないのだ。私などロビーで一度正直な感想を述べたら、出演俳優から「そういうことをここで言わないで!」と注意されたことがある(笑)。
ネタバレBOX
幕開き、いきなり忍びの殺陣場面から始まる。これも脇グループの特徴だ。
主役の柳生十兵衛(重住リョウ)が登場し、名前を名乗るが、声が小さいので引き立たない。脇太平は自分が主演していた当時は、セオリーどおり、派手に登場したものだ。目立たない登場のしかたでは、スター俳優でもないし、観客の目が引き付けられない。ここの演出は変えたほうがよいと思う。たぶん、変えないだろうが。
真田幸村の遺児、由利姫(夕貴まお)が酒に酔い、十兵衛に心情を吐露する場面は、初演のときより、演技が自然でよくなっていた。夕貴まおは元宝塚雪組の男役出身なので、上背もあり、口跡もよく、男勝りのこの役には合っている。殺陣教室の講師を務め、殺陣も巧い。この俳優、もっと他劇団に客演して芸域を広げればよいと思うが、脇さんの秘蔵っ子なので、脇グループの芝居にしか出る気がないらしい。惜しい。
花組芝居から柳生友矩役で小林大介が客演。この役は初演の俳優に合わせて目立たないよう描かれているので、小林も本拠地とは別人のように目立たない。期待していたので残念だ。将軍に剣術指南をする場面での殺陣は鮮やかで見事だった。
若手ミュージカル俳優の神田恭兵が猿飛佐助の孫・きじ丸役をやっているのには驚いた。時代劇初出演というがなかなか器用だと思った。
幽鬼斎こと霧隠才蔵には新劇の側見民雄。初演では、若手が老け役で演じたが、やはりこういう役は年輪のある俳優のほうがベストだ。
将軍家光役はキャリアの浅い若手と決まっているのか、今回は初参加の平山佳延。前半がバカ殿みたいな演じさせかただが初演以来疑問だ。家光は終盤の台詞でわかるように暗君ではなく、いわゆる世間知らずなだけ。それが、登場場面ではまるでバカ殿に見える。
WAKI組は若手が時代劇らしい所作、殺陣を学ぶにはよい場所だと思う。既に基盤が固まっているベテランや外部の若手が客演するならよいが、グループの若手は外部で修行しないと、演技のパターンが決まってしまい、潜在能力が開発されず、俳優としても潰しがきかなくなる。
観客のほうも、個性の乏しい同じ芝居を繰り返し見せられているようで、自分にはトキメキが感じられない。
余談だが脇さんのお弟子は、芸名の下の名前の表記を頻繁に変えるのも特徴のひとつ。漢字、ひらがな、カタカナ、この10年間でもしょっちゅう変えている。姓名判断にでも凝っているのだろうか。
コイツらありき。
電動夏子安置システム
ギャラリーLE DECO(東京都)
2011/01/25 (火) ~ 2011/01/30 (日)公演終了
満足度★★★★★
愛し続けたい劇団
主宰の竹田哲士さんはファン感謝祭のようなことをやりたい、と以前から言っておられたが、まさにそのようなイベントでした。主宰の劇団員への愛、観客への愛を感じ、この劇団への自分の愛をも改めて感じましたと、臆面もなく言わせていただきます(笑)。
この劇団、チームワークのよさでは定評があり、公演のたびにジーンとします。今回の短編集をご覧になったかたは、電夏の個々の俳優の演技力の高さを等しく認めてくださることと思う。普通のコメディ劇団と違って、本公演での上演作品が個性的なので、好みが分かれる劇団でもあるが、ハマる人はハマるし、自分もハマった一人です。
これからも私は電夏をずっと愛し続けると心に誓った。
殿様ランチの板垣さん、ホチキスの米山さんに作品の書き下ろしプレゼントをされるなんてうらやましい限り。
今回の公演では渡辺×なしおの『痛み、忍ぶ』のシュールさが一番好き。2人の女優の魅力がよく出ていた。
高松さんは演出を担当している関係から、近頃俳優としての出番が減っているが、「間」が絶妙で、巧い人なのでもっと出てほしい。
竹田さんは今回も裏方に徹しておられたが、ネットで拝見するとトークも面白いかたなので出演していただきたかった。次回にでも、ぜひ(笑)。
明るい表通りで― On The Sunny Side Of The Street―
文月堂
シアタートラム(東京都)
2011/01/27 (木) ~ 2011/01/30 (日)公演終了
満足度★★★★
心温まる人情喜劇
文月堂は2回目の観劇。この作品が旗揚げ公演だったのですね。あまりにも完成度が高く驚きます。
ストーリーがよくできていて、永井愛さんの作風を思わせ、出演俳優さんも全員適役のぜいたくな公演。日程調整して急遽観にいった甲斐がありました。
ネタバレBOX
本編開演前に「母(三谷智子)」の世代の場面を描く場面があったのに驚く。賛否両論あるかもしれないが、面白い演出。見逃すと損します。
コメディとは違うのかもないが、笑わせてくれる場面はコメディのセオリーがきちんと踏まえられ、気持ちよく笑えた。
三姉妹が出てくる芝居だが、単純なハートフルコメディではなく、私が女性作家に求める「毒」が感じられるのが好みに合っていた。
長女アヤ役の勝平ともこ、次女ユミ役の高山奈央子(KAKUTA)がよかった。高山の編集者にリアリティーがあり、惹きつけられた。
2人のやりとりを聞いていて、かつてのTVドラマなら長女・黒木瞳、次女・浅野温子あたりがキャスティングされそうだな、なんてことを思いながら観ていた。
三女章子(鯉和鮎美)の恋人、洋平役、山田百次が若手ながらしっかりした演技をみせる。
アヤに思いを寄せる不動産会社の社員荒木田役の瓜生和成がとてもいい味を出していて、本拠地東京タンバリンで注目した俳優だが、この役に彼を起用したことで、作品に膨らみが出たと思う。
地上げ屋長友役の唐沢龍之介、クロカミショウネン18の番外公演「俺の屍を超えていけ」で注目したがフリーのため、なかなか出演予定がつかめず、今回出演と知って楽しみだったが、緩急自在の演技で楽しませてもらった。
長友はユミの夫(牧野耕治)と高校時代に漫画同人誌で互いに才能を認め合うライバルだったことがわかり、不動産会社を辞めて2人でコンビを組むことになり、藤子不二雄みたいにおそろいの赤のベレー帽姿で登場する場面がおかしかった。
来来軒の従業員、小仁田日出男(北区つかこうへい劇団)も真面目な演技が面白い。
終幕、章子の父親でアヤと不倫関係にあった男が戻ってくる。頭上の舞台で、荒木田が浴衣を注文していた呉服屋に間に合いホッとする場面が演じられ、新たな展開に胸を突かれる幕切れがいい。
1点だけ気になったのは冒頭の場面。荒木田が買ったタバコを忘れ、アヤが追いかけるが間に合わず、「儲かっちゃった!」とつぶやく。
荒木田が店を出た直後で、どこも店を閉めているという時間帯の設定で、路地で姿を見失い間に合わないということが不自然。しかも、せっかく、荒木田のしもやけに気づいたアヤが手袋を差し出す良い場面があるのに、客がお金を支払って品物を受け取らなかったから「儲かっちゃった!」と喜ぶのはアヤの人柄が悪く思え、ちょっと興ざめしてしまう。
これがなければ☆5つだったのだが・・・。
13人のスピード!
マグズサムズ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2011/01/26 (水) ~ 2011/01/31 (月)公演終了
満足度★★★★
これぞマグズサムズの笑い
マグズサムズは大好きなコメディ劇団。理由は佐藤史久さんが東京サンシャインボーズ時代の三谷幸喜さんに近い作風だからである。昨今では珍しく正統派で良い意味でおっとりとしている。前回の公演では設定に無理を感じた点が多く、辛い評価をしたが、今回はそれもなく非常に楽しめた。
バスの中という設定でのノンストップコメディ、非常にきついシチュエーションの中、作・演も役者もよく頑張ったと思う。
フライヤーで強調していたスピード感よりもテンポのよさを感じた。自分が観た回は観客の反応もとてもよく、「元気を出して前に進もう」というメッセージもはっきり伝わり、心地よく劇場をあとにした。
開演前の音楽も昨今には珍しく静かで、音量も絞り、騒々しくなくて好感が持てる。
ネタバレBOX
まず、観光バスの舞台装置がよくできていた。
最近、制作の嶋則人さんは俳優のときは床嶋哲という芸名を使っているようだ。Oiスケールのときに知ったのだが、今回うっかり忘れていて、「嶋さんに似た役者だなぁ」と思って最後まで観ていた(笑)。このバスジャック男が面白い。やはりマグズの芝居に彼が出ると出ないのでは全然違ってくる。
そして、テロリスト役の今村聡が好演。自信満々で高飛車だったときと、組織からのリストラを知ってからの落差が激しく、大笑い。本拠地のTHEフォービーズで観ていたときとはまったく別人の印象。作品が良いとこうも違うものか。
OLコンビのまつおか晶と大澤友花梨のボケとツッコミぶりも面白かった。
ストーリー展開も無理がなく、最後まで手に汗握りながら笑い、楽しめた。
気になった点と要望をいくつか挙げると。
運転手(日暮丈二)とバスガイド(泉粧子)の出発前の会話が少々長い。この芝居、リストラがキーワードになっているだけに、「リストラ→落ち込む」の演技が何度も出てくるとしつこく感じてしまう。
ラストに忘れ物のパソコンをとりに栗原(神谷れい子)が戻ってくるが、鑑識が済んだあとでは不自然。
運転手と栗原のロマンスを暗示する台詞があるが、運転手の冷静な対応に好意を抱いたと推察はできるものの、劇の中でそう感じさせる場面も少し入れてほしかった。ほかにも女性は何人も乗っていたのだから。
1人6役と奮闘した猿渡亮太、前説で演じるのはすべて別人という説明をしていたが、それなら劇中の台詞にまで説明はいらないのでは。別人を演じ分けるのが俳優の力量で、配役に書くだけでもよかったのだから。
また、以前の作品でも指摘したが接客業としての言葉遣いが少々ぞんざいなこと。「タバコ吸うのやめてもらえますか?」とバスガイドが言っていたが、接客マニュアルではこういう場合、「ご遠慮いただきたいのですが」と教えているのが一般的。