道路 公演情報 東京演劇アンサンブル「道路」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    ネット世代にもお薦め
    この作品、書かれた当時の東欧の政治状況への痛烈な皮肉ともいえるが、閉塞した現代の文明社会を諷刺したともいえるし、より広く「道路は人生そのもの」という捉え方も出来よう。
    観る人それぞれに訴えかけ、いろんな観かたができるのだなぁとHPに寄せられた感想や演出家・三由さんご自身の解説文などを読み、思った。
    私にはこの不条理劇はネット社会とあまりにも符合する部分が多くて興味深く、暗喩のようで、観ていて背筋が寒くなった。そういう意味からもコリッチユーザーにはお薦めの一作。斬新な演出で見せてくれた三由さんには感謝します。
    私が以前からお勧めしているブレヒトの芝居小屋のレトロな雰囲気を今回初めて堪能されたコリッチユーザーのかたもいらっしゃるようで嬉しく思います。都会の喧騒を離れ、時がゆったり流れているようなこの劇場の雰囲気がいつまでも保たれてほしいと願っています。
    映像、衣装、舞台装置などにより、いままでのこの劇団の公演とはひと味違った仕上がりになっていて、ふだん新劇になじみがない小劇場ファンにも親しめるものとなっている。
    長いステージの両側を客席が囲むかたちの舞台。舞台が道路そのものになっており、客席の背後も道路という設定で、俳優が通る。
    メインステージをファッショナブルな衣装の俳優が歩くと、まるでファッションショー会場のような趣。今回のフォークロア調の衣装はアースカラーを基調にした色彩も美しく、秀逸だった。
    かのんぷ♪の生演奏も、劇の邪魔にならずに美しくなじんでいた。

    ネタバレBOX

    冒頭、コンクリートの地球儀を持った語り部(熊谷宏平)が出て語る「道路では、どんなことも起こらないとはいえないがね、たいていのことは起こらないし、確実なことなんて一つもないよ」というセリフがすべてを物語っている。
    自分が設計した道路を一人の設計士が歩いていく。
    物語はこの設計士の悪夢という見立てになっている。
    自動車も機能せず、道路脇に廃棄され、休憩所として使われている。人々は出口のない道路をただ2本の足で歩くしかない。
    「踊る女」が出てきて、設計士を誘惑し、休憩所(自動車)へ誘う場面。妖艶な洪美玉のセクシーなダンス演技が素晴らしい。
    老婆(竹口範顕)が歩き疲れ、行き倒れになりそうになると、人々が寄ってきて、奇妙な挨拶を交わし、遠巻きに老婆を見守っているが、やがて「あきらめて早く死んでしまえばいいのに」などと言う声も聞こえる。老婆の死を待ちきれず、人々は老婆を殺し、襲い掛かって食べてしまう。その瞬間ナイフとフォークのサービスエリアマークみたいなプレートが降りてくるシュールな演出。
    人々は布で顔を隠しているが、実は野獣なのである。HNに身を隠し、ターゲットの人物を抹殺する匿名サイトのようでゾッとした。
    まともな言語を忘れ、「コンクリート」しか言わない老いた庭師(佐々木章夫)も、ネットの住人同様、どこかしらとぼけても見える。
    道路を逆方向に歩く「逆行男」(竹口)が出てくるが、一方方向しか通行できないと人々に阻止される。閉塞感に満ちた道路なのだ。しかし、三由さんは「自由に見える逆行男も道路の中で生きている」と書いている。
    自立を拒む赤ん坊(本多弘典)もモラトリアム青年のようで面白い。
    終盤に、道路から奇跡的に樹木や芝が生えてきてオアシスを形成する。設計士は「休ませてほしい」と声をかけるが、オアシスの狂人(熊谷)は「俺のオアシスだから誰も入れない」と意地悪をする(これと似た主張がサイトでも起こっている)。
    「暗い女」(名瀬遥子)が祖母から聞いた美しい自然に覆われた地球の話をして現状を嘆いても「明るい女」(冨山小枝)は「そんなものがなくたって、私は平気」と意に介さない。もう、元の世界には戻れないのだ。
    道路で出会い、恋に落ちる若い男女(本多・冨山)も、道路によって別々の方向に引き裂かれてしまう。
    最後に疲弊した設計士は「もう二度と道路を作らない」と誓うが、交通事故死してしまう。彼の遺徳を称え、彼の計画通りにすべての道路建設が行われることが決定されるという皮肉な結末。
    まさに悪夢だ。

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    2011/02/15 17:15

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  • teeakira様

    コメントありがとうございました。
    ほかのみなさんのような立派な解釈ができず、はなはだ手前勝手の解釈になってしまい、申し訳ありません。でも、個人的には人生のよき勉強をさせていただいた気分で、三由さんにも劇団のみなさん、スタッフのかたがたにも大変感謝しております。ありがとうございました。
    これからも、劇団の貴重な財産である名作古典と、このような斬新な演出による意欲作(70年代の作品ではありますが)とを並行して上演していただければ嬉しく思います。

    2011/02/22 14:53

    >きゃる様
    ご来場ありがとうございました。
    また、過分のほめの言葉で、
    劇団としても新しい実験的な公演が、
    そのように評価されてうれしく思います。

    もしかしたら、出口のない世界ですが、
    やはり、歩き続けるしかないのだな、と思うと、
    明るく、楽しく、歩みたいと思っております。

    御迷惑でなければ、
    もしかしたら劇団のHPや方向などに感想を使わせていただくこともございます。
    もし、掲載不可の場合は、お手数ですが、メッセージにてご一報ください。

    ご来場どうもありがとうございました。

    2011/02/21 10:49

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