柳生十兵衛 公演情報 WAKI-GUMI(脇組)「柳生十兵衛」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    金太郎飴
    内容は初演のときとほとんど変わっていなかった。時代劇特有の既視感の強い脚本。段取りがすべてわかっているぶん、新鮮味に乏しく、途中から苦痛になってきた。自分は本来かなりの時代劇好きなのだが、どうも脇太平氏の時代劇には感動できない。これは単に再演ものだからという理由だけではない。たとえば、「忠臣蔵」の筋はわかっていても毎回泣けるし、東映の時代劇や仁侠映画は同一作品を何回観ても面白い。かつて宝塚の時代劇作品を1カ月公演中に何度も通って観たことがあるが、筋もセリフもすべてわかっていても楽しめた。脇さんの時代劇は難点の少ない正統派なのに、満足できない。なぜだろう。それは人物像がお人形に近く、俳優が演出家のコマでしかないからではないだろうか。たとえば、Aという役があるとすると、その役を違う俳優が演じても同じAという印象で、役者の持ち味や差が出ないのだ。彼の作品の役者はゲームキャラクターの画一な動きを観ているような退屈さだ。事実、常連俳優にはゲームのモーションキャラクターを演じている人もいる(笑)。
    脇さんにはお弟子さんが何人かいて、自分の劇団を持っているが、どれを観ても金太郎飴のように画一的な“脇流”で、個性が乏しい。彼の芝居の若手常連は他劇団に客演することがほとんどなく、脇グループの中で活動していることが大きいだろう。
    脇さんの時代劇で唯一の長所は殺陣の技術水準の高さだ。これは数ある時代劇劇団の中でも随一だと思う。スパルタで弟子を鍛えているらしく、殺陣師としては一流である。子飼いの役者はみな、彼の殺陣のお弟子である。
    つまり、WAKI組はいわゆる小劇場芝居ではなく、商業演劇と大衆演劇の中間に位置する。俳優同士も体育会系の関係。観客もほとんどが出演者の知人のようで、アンケートもとらない。終演後も常に「とてもよかった、素晴らしい」という褒め言葉しか言われないから、変わりようがないのだ。私などロビーで一度正直な感想を述べたら、出演俳優から「そういうことをここで言わないで!」と注意されたことがある(笑)。

    ネタバレBOX

    幕開き、いきなり忍びの殺陣場面から始まる。これも脇グループの特徴だ。
    主役の柳生十兵衛(重住リョウ)が登場し、名前を名乗るが、声が小さいので引き立たない。脇太平は自分が主演していた当時は、セオリーどおり、派手に登場したものだ。目立たない登場のしかたでは、スター俳優でもないし、観客の目が引き付けられない。ここの演出は変えたほうがよいと思う。たぶん、変えないだろうが。
    真田幸村の遺児、由利姫(夕貴まお)が酒に酔い、十兵衛に心情を吐露する場面は、初演のときより、演技が自然でよくなっていた。夕貴まおは元宝塚雪組の男役出身なので、上背もあり、口跡もよく、男勝りのこの役には合っている。殺陣教室の講師を務め、殺陣も巧い。この俳優、もっと他劇団に客演して芸域を広げればよいと思うが、脇さんの秘蔵っ子なので、脇グループの芝居にしか出る気がないらしい。惜しい。
    花組芝居から柳生友矩役で小林大介が客演。この役は初演の俳優に合わせて目立たないよう描かれているので、小林も本拠地とは別人のように目立たない。期待していたので残念だ。将軍に剣術指南をする場面での殺陣は鮮やかで見事だった。
    若手ミュージカル俳優の神田恭兵が猿飛佐助の孫・きじ丸役をやっているのには驚いた。時代劇初出演というがなかなか器用だと思った。
    幽鬼斎こと霧隠才蔵には新劇の側見民雄。初演では、若手が老け役で演じたが、やはりこういう役は年輪のある俳優のほうがベストだ。
    将軍家光役はキャリアの浅い若手と決まっているのか、今回は初参加の平山佳延。前半がバカ殿みたいな演じさせかただが初演以来疑問だ。家光は終盤の台詞でわかるように暗君ではなく、いわゆる世間知らずなだけ。それが、登場場面ではまるでバカ殿に見える。
    WAKI組は若手が時代劇らしい所作、殺陣を学ぶにはよい場所だと思う。既に基盤が固まっているベテランや外部の若手が客演するならよいが、グループの若手は外部で修行しないと、演技のパターンが決まってしまい、潜在能力が開発されず、俳優としても潰しがきかなくなる。
    観客のほうも、個性の乏しい同じ芝居を繰り返し見せられているようで、自分にはトキメキが感じられない。
    余談だが脇さんのお弟子は、芸名の下の名前の表記を頻繁に変えるのも特徴のひとつ。漢字、ひらがな、カタカナ、この10年間でもしょっちゅう変えている。姓名判断にでも凝っているのだろうか。

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    2011/01/31 14:08

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