マリンバの観てきた!クチコミ一覧

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ミニマルダンス計画

ミニマルダンス計画

黒沢美香

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/11/25 (水) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

「耳」を見る
ミニマルダンス計画の一つで、今回は黒沢美香のソロダンス「耳」を見る。
仕事の疲れが抜けず、この日はコンディションが最悪。途中で眠りはしなかったものの、集中力が持続しなかったのは決して作品のせいではありません。念のため。

ネタバレBOX

音楽の使用がかなり少なく、無音で動くことが多かった。あらかじめ振り付けた動きというよりも、インスピレーションを待つかのように動きを止めることもしばしばだった。探りつつ踊っているその感じは、これまでに見た彼女のソロダンスでもなじみがある。しかし照明や音楽の段取りがところどころで決まっているので、まったく行き当たりばったりに即興をやっているわけではないようだ。
顔の向き、あるいは目線といえばいいか、それもダンスの一部になっているのがわかる。しかも目線によって示されたのとは別の方向へ体が動いたりするので、一見地味な動きにもかかわらずちょっと予測不能な面がある。
下着の上に茶と金色の柄シャツを着て、下半身は両脚を露出。一時、病気が心配されたが、きょうの公演を見る限り、かなり調子は良さそうだ。
心配なのはむしろこちらの体調だったりして
ミニマルダンス計画

ミニマルダンス計画

黒沢美香

こまばアゴラ劇場(東京都)

2009/11/25 (水) ~ 2009/12/06 (日)公演終了

満足度★★★

「膝の火」を見る
黒沢美香のダンス作品は5年前からちょくちょく見ている。今回はこまばアゴラ劇場で「ミニマルダンス計画」と銘打って合計4本を上演する。「膝の火」はそのうちの1本。
新旧、巧拙とりまぜて十数名の女性ダンサーと、黒一点、後藤茂というスキンヘッドのオジサンが出演した。上演時間は70分ほど。

ネタバレBOX

黒沢作品ではときどき、ドラマ的な状況設定を想像するとうまくはまる時があり、今回はそのケースだった。
女性陣は全員が付け髪をして、女学生ふうのお下げ髪になっている。なかには白髪の女性もいるが、それでもお下げ髪だけは強引に黒々としたのを付けている。衣裳はなんとなく体操着ふう。上下とも白っぽいのと、下だけグリーンなのが半々くらい。
こまばアゴラ劇場の舞台は二階部分が手摺のついたキャットウォークになっているので、サイズはかなり小さいけれど、場所は体育館と見なせないこともない。
というわけで、個人的には戦前の女学校の体育館を舞台にして、当時としてはモダンな西洋のダンスを踊る女学生たちの部活の様子、というのを想像しながら眺めた。
黒い半ズボンにワイシャツ姿の男性はさしずめ女学校の用務員だろう。
照明の変化が一日の時間のうつろいを感じさせる。全員によるラストの群舞は文化祭当日の出し物なのかもしれない。夜中に練習する一人を励ますように用務員のオジサンが一緒に踊ったり、女の園らしく妖しい禁断の恋愛模様も感じられたり。

ひところ、黒沢美香のダンス作品には舞踏の影響が感じられたが、それに比べると今回はミニマルダンスとはいいながらも、体はけっこう動いているように思えた。
曲がれ!スプーン

曲がれ!スプーン

ヨーロッパ企画

紀伊國屋ホール(東京都)

2009/12/10 (木) ~ 2009/12/22 (火)公演終了

満足度★★★

同日鑑賞
「冬のユリゲラー」の改訂版。この作品とは付き合いが長い。2002年に京都の劇団であるヨーロッパ企画が東京に初登場したときに見ているし、2年前にも回顧上演されている。テレビでも何回かに分けて連続ものとして放送された。そのほか2002年の舞台版のDVDを買って2度見ているし、きょうの観劇のあと、勢いで本広克行監督の映画版も同じ日に見てきたので、いろんなバージョンをひっくるめるとトータルでは7回見たことになる。
歌でいえばスタンダードナンバー、劇団の演目としてはレパートリーといっていいのではないだろうか。これだけ繰り返し見ても飽きないというのはもはや古典落語のネタに近い。
今回の舞台版「曲がれ!スプーン」は、改訂されているとはいえ、これまで舞台で上演されてきた「冬のユリゲラー」に近かった。一方、映画版はそれに比べると改訂の度合いがかなり大きい。長澤まさみという有名タレントが主演しているぶん、そちらの顔を立てるかたちになっている。正直なところ、映画版よりも舞台版のほうが面白かった。
舞台と映画に同じ役で出ているのは諏訪雅と中川晴樹の二人。映画で見る諏訪が異様に太っているのがちょっと不気味だった。それと映画では役者の顔のクローズアップがけっこう多くて、舞台では小さく、いつも同じサイズだったのがスクリーン上では3メートルくらいに膨らんでいるのも気持ち悪かった(笑)。

私が踊るとき

私が踊るとき

珍しいキノコ舞踊団

世田谷パブリックシアター(東京都)

2010/01/22 (金) ~ 2010/01/25 (月)公演終了

満足度★★★

時の流れといつものキノコ
出演は女性ダンサー6人。伊藤千枝と山田郷美が古顔で、新人だと思っていた篠崎芽美がいつのまにか中堅というか主力的な存在に。茶木真由美は少し前から出演していて、中川麻央と梶原未由は今回初めて認識した。なんだか時の流れを感じる公演だった。

ネタバレBOX

童話の絵本をめくるような感じで、カラフルな衣裳と美術の力を借りつつ、気持ちのいい曲に乗って楽しいダンスが次々と展開する。イデビアン・クルーとか今回のキノコの公演なんかを見ていると、作品中に使われた曲の名前をプログラムに列記して教えてほしいと思うことがたびたびある。
知っている曲でもオリジナルとは別のミュージシャンが演奏していたりする。「fly me to the moon」は最初のナンシー・ウィルソンだけはウチにCDがあるのでわかったが、ほかはいろんなミュージシャンによる同名曲の演奏を繋げていたし、グローバー・ワシントンjr.の「just the two of us」やローリング・ストーンズの「miss you」も演奏しているのは別グループだった。他にも小唄だか端唄だか知らないが邦楽に乗って伊藤が踊ったし、中川も誰が歌っているのかは知らないが「湊の見える丘」に乗ってソロを踊った。バレエ音楽も途中で聞こえてきたが、あれは白鳥の湖だったかもしれない。ダンスの動きとしてはこれまでのキノコとそれほど変わらなかったと思うが、背景に使った映像が非常に効果的で、あれはこれまでになかったものかもしれない。スイスの高原めいたものから、都会のビル群まで。

楽しかったので特に文句はないのだが、作品全体にドラマ性というかストーリー性を持ち込んで、ダンス・ミュージカルみたいなものをいちど創ってみるのも面白いのではないかと、これは気楽な観客の立場として思った。


ムートンにのって

ムートンにのって

むっちりみえっぱり

アトリエヘリコプター(東京都)

2010/02/04 (木) ~ 2010/02/07 (日)公演終了

満足度★★★

4年ぶり
今回は別枠公演ということだが、本公演との違いはよくわからない。見るのは今回が4回目で、最初に見たのが8年前。2と3回目が4年前。オリンピックでも閏年でも例えるのはなんでもいいけれど、きっちり4年おきに見ているというのがなんだか可笑しい。慌てず騒がず、のんびりペースで活動している感じがそのまま公演の内容にも反映しているし、ゆる~い雰囲気の中に手作りなこだわりが感じられるのもいい。

ネタバレBOX

7本の短編集。配役的に繋がっているものもある。むっちりみえっぱりのメンバー4人(樋口徳子、江川瑠衣、山本由佳、吉田麻生)の作演出&出演。これに前田司郎、黒田大輔、兵藤公美という五反田団の系列が参加。齊藤康介は初めて見る顔で、むっちり系列でもう一人、佐藤沙恵も出演している。

五反田団が年頭にやっている工場見学会というのは、私は帰省時期にあたるので見たことがないのだが、今回の公演はそれに近いのではないかという気がする。

仕事を終えてからの観劇だし、週末の疲れもたまっているしで、それほど期待もせずに出かけたのだが、眠気に襲われることもなく、最後まで楽しく見られた。

出演者たちはおおむね30代じゃないかと思う。ボブ・ディランやビートルズやジャニス・ジョプリンの世代ではないはずだし、ましてやアンディ・ウォホールやバスキアやツィギーが出てくるとは思わなかった。
 『F』

『F』

青年団リンク 二騎の会

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/01/29 (金) ~ 2010/02/07 (日)公演終了

満足度★★★

FはSFのF?
設定はSFだけど、中身はしっとりと情感を湛えた二人芝居。現代口語演劇による静かなサイエンスファンタジーと呼びたい。

ネタバレBOX

舞台中央に大きなベッドが一つ。下手にブランコ。
貧富の差がまるで身分制度のようになってしまった未来社会。貧困層出身の娘は新薬開発の実験台に志願することで、貧しい暮らしから脱出しようとする。
個室と身の回りの世話をする人間型ロボットが与えられて、薬の効果を調べるための投薬が続けられる日々。世話役であるその男性型アンドロイド(多田淳之介)と娘(端田新菜)の交流を、春夏秋冬、4つの場面で描いた二人芝居。上演時間は100分ほど。

多田の序盤でのしゃべり方はいかにもロボットふうで、台詞の間もかなり機械的。これでずっと通すのを見るのは辛いなと思っていたら、さいわいアンドロイドには言語モードの切り替え機能がついているようで、まもなく娘の指図に従って現代口語的なしゃべりに変わった。

芝居の設定でちょっとわかりにくかった点がひとつ。それは娘が新薬開発の実験台になる際、もともとその病気にかかっていたのか、それとも自ら進んでその病気に感染したのかということ。もし後者だとしたらずいぶん無茶なことをしたものだと思う。

SF好きな人にはおなじみの展開だと思うが、人間的な感情を理解できないはずのロボットが徐々に学習能力を発揮して、やがてその人間にとって欠くことのできない存在になっていく。
春は花見、夏は浴衣を着ての花火大会、食欲旺盛な秋は食事をしながら小さい秋を謳歌し、冬にはクリスマスツリーを飾る。しかし結局は、効果的な薬を作ることができず、彼女は病に倒れる。

季節の変わり目では、役者たちの衣裳替えをそのまま舞台上で見せていたのが面白い演出。イッセー尾形の舞台を彷彿とさせた。

アンドロイド役の多田の場合、台詞をとちるとアンドロイドとしての性能そのものが疑われてしまうので、その辺が演じるうえでのプレッシャーではないかと思うのだが、この日の演技はほぼ完璧だった。

病に冒される端田の場合は、五反田団の「いやむしろわすれて草」でも似たような役を演じているし、こういうのはむしろ得意分野かもしれない。
アイーダ

アイーダ

劇団四季

電通四季劇場[海](東京都)

2009/10/03 (土) ~ 2010/05/30 (日)公演終了

満足度★★★

久しぶりの四季
四季の公演には複数のキャストがあるので、希望の座席を早めに押さえると当日のキャストがわからないという難点がある。今回は幸い、個人的に文句のない顔ぶれだった。

アイーダ:樋口麻美、ラダメス:渡辺正、アムネリス:鈴木ほのか、ゾーザー:田中廣臣、メレブ:有賀光一

2階席からだと床に当たる照明の効果がものすごく感じられるのがいい。

ネタバレBOX

オペラの「アイーダ」は見たことがないが、大まかな人物や状況の設定はたぶん同じだろう。初めと終わりの部分だけ、現代の美術館が舞台になっている。

背伸び王(キング)

背伸び王(キング)

コマツ企画

小劇場 楽園(東京都)

2010/04/21 (水) ~ 2010/04/25 (日)公演終了

満足度★★★

天使はセラピスト
男優による70分あまりの4人芝居。コマツ企画はこれが2度目の観劇。前に見たものよりはだんぜん面白かった。

ネタバレBOX

小劇場楽園という場所には初めて来た。今はなき渋谷のジャンジャンに似た客席の形。ただ、左右の客席を隔てているのは鋭角的な壁ではなく、太い柱1本なので、ジャンジャンとは違って向こう側の客席の様子もある程度わかる。
そんないっぷう変わった場内のつくりを利用して、役者2人が出入り口の階段を上がって外へ出て行き、ぐるっと回って舞台奥の扉から現れたりした。舞台から客席側へ降りてくるときには変な効果音がして、舞台と客席の間にまるで結界が張られているようでもあった。

出だしは薄暗い場所に男がひとり立っていて、床には3人が倒れている。一人が目を覚ましてすでに起きている男と話すうちに残りの二人もやがて目覚める。どうやらそこはあの世とこの世の境目のような場所で、4人は肉体から離脱した霊魂のような存在らしい。

そのあと男たちは寸劇めいたやりとりで自分たちの身の上やら経歴やら家族やらを明らかにしていく。ここは稽古場でエチュードをやりながら作ったような印象を受けるし、日によってはアドリブめいたこともやっていたのではないだろうか。コマツ企画のメンバー3人に対して、客演の佐野功がやや押され気味に見えたが、それが計算の範囲だったということが終盤になってわかる。

実はコマツ企画の3人(本井博之、川島潤哉、浦井大輔)が演じているのは天使の役。序盤で本井の私物が入っているとされた鞄には白い小さな天使の羽根が入っていて、仕事を終えた3人が最後にそれをつけるところで終演になる。彼らの仕事というのはつまり、セラピー的な寸劇に佐野を巻き込むことで彼に自省を促し、再びこの世で生きる決意をさせ、彼をそちらへ送り返すことだったのだ。

天使の人助けというのが話の大枠で、人助けのための具体的なセラピー方法はもちろん脚本もあるのだろうけど、役者がけっこう知恵を出して作ったのではないだろうか。
シルヴィア

シルヴィア

東京バレエ団

東京文化会館 大ホール(東京都)

2010/02/26 (金) ~ 2010/02/28 (日)公演終了

満足度★★★

初見の演目
「シルヴィア」というバレエ作品を全幕で見るのはこれが初めて。以前に一度だけ、ガラ公演で同名の短いパ・ド・ドゥを見たことがあるが、そのときのダンサーの衣装は現代風だった。あとでわかったのだが、それはハンブルグ・バレエ団の振付家ジョン・ノイマイヤーが1997年に古典を現代化した作品だった。
もともとは1876年にパリ・オペラ座で初演された作品。
今回のは英国ロイヤル・バレエ団のフレデリック・アシュトンが1952年に振り付けたものをベースにして、それがいったん失われたのを2004年にクリストファー・ニュートンが復元したものだという。

バレエ作品の場合は同じ題名でもいろんな人が違う振付をしているし、作品の成り立ちにもいろいろと背景があったりするので、興味を持って調べるぶんには問題ないけれど、気軽に楽しむにはちょっと面倒なところがある。
それに演劇とは違って状況を説明する台詞がないので、初めて見る作品の場合はプログラムを買うなどしてあらかじめ粗筋を予習しておかないと、話の内容についていけなかったりする。

女性の名前がそのままタイトルになっているバレエ作品としては、「ジゼル」や「ライモンダ」や「パキータ」などがあるが、それに比べると「シルヴィア」という名前はずいぶん現代的だ。けれど実際の内容は、ギリシャ神話を題材にした古風な物語。

ネタバレBOX

狩猟と純潔の女神ディアナ、その家来であるニンフのシルヴィア。彼女は兜をかぶり弓を持って、仲間とともに森で狩猟の日々を送っている。そんなある日、森に迷い込んだ羊飼いのアミンタが彼女に恋をする。オリオンという邪悪な狩人が二人の恋路の邪魔をするが、愛の神エロスの手助けによって二人の恋はなんとか成就する。お話としてはそういう単純な内容。

バレエの場合は台詞がないので、外国のダンサーが日本のバレエ団に客演することも珍しくない。これが台詞のある演劇の場合だと、なかなかそうはいかない。ただしオペラの場合は歌詞が外国語であるにもかかわらず、いろんな国の歌手が共演しているが、あれを可能にしているのはやはり音楽の力だろう。
この日の主役はベルリン国立バレエ団のポリーナ・セミオノワとアメリカン・バレエ・シアターのマルセロ・ゴメス。二人とも見るのは初めて。
シルヴィアを演じるセミオノワはロシアの出身。おでこの秀でたところが女優のジェラルディン・チャプリンにちょっと似ている。上背があるので、彼女が本気になれば、高岸直樹が演じる悪役オリオンもあっさりやられてしまいそうに見える。いっぽう、羊飼いのアミンタを演じるゴメスはブラジルの出身。
ドイツで活躍するロシア人ダンサーと、アメリカで活躍するブラジル人ダンサーが、日本のバレエ団で共演するという状況そのものがなんだか奇跡的。
フレデリック・アシュトンの(復元された)振付は音楽に合わせた装飾的な動きが多く、感情表現という点ではあっさりしたものだった。








The Heavy User

The Heavy User

柿喰う客

仙行寺(東京都)

2010/02/27 (土) ~ 2010/03/02 (火)公演終了

満足度★★★

@本堂
シアターグリーンのビルの隣にある仙行寺というお寺の本堂で観劇、というか拝観してきた。
開演前のあいさつでは、上演時間は約1時間と訂正された。

ネタバレBOX

これまでお寺の本堂で仏事以外の催しを見たのは2回。青砥の延命寺ではトリのマークの芝居、白金の正源寺ではアラビア音楽のコンサート。どちらもお寺の人がそういう文化活動に理解のあるようすだった。
この日の公演もそうだが、本堂には和風シャンデリアと呼びたくなる豪華な飾りが天井から下がっている。仏壇も華やかに飾り付けられていた。普段は住職がお経を上げる場所だろう、仏に近い板の間が芝居の舞台。檀家が座る畳の間が客席になる。
開演間際になったとき、仏壇の下手(といっていいのだろうか)に、喪服姿の出演者8名が所在なげに集まってたたずむ。
始まると、結局は全員が最後まで出ずっぱり。動きと声はダンスと歌のように、あらかじめきちんとアレンジされた、いかにも柿喰う客らしい演技。

内容はまあ、ホラー作品「リング」の影響がいやでも感じられる。
回転寿司で、苦情受付の窓口として働く女子従業員にしつこくかかってくる謎の電話。出ても相手の声は聞こえず、不気味なノイズが響くばかり。やがてその店員が勤務中に自殺。ボールペンで両耳をなんども刺すという異常なやり方で。警察が捜査に乗り出し、店内のセキュリティ・カメラ、通話を記録した録音テープがチェックされる。まもなく今度は捜査に当たった刑事二人も自殺。果たしてノイズの正体とは。

数日前に本番を終えたばかりの七味まゆ味も出演。開演前は、稽古期間も少ないことだし、台詞のない幽霊の役でもやるんじゃないかと勝手に想像していたが、驚いたことにほぼすべて英語で台詞をしゃべった。あれはやっぱり海外遠征に向けた趣向だろうなあ。アフタートークではそうじゃない旨を作者が発言したらしいけど。

終盤にひとひねりを加えて、単なるホラーではなく、SF作品でみかけるような文明批評をテーマとして浮かび上がらせている。とはいえ、全体としてはストーリー的にちょっと物足りなさを感じた。素舞台で上演してもいいような芝居だったという点では、お寺の本堂でやる意味もあまりなかった気がする。まあ、本堂に入れただけでも楽しいんだけどね。
木佐貫邦子+néoダンス公演 -空、蒼すぎて-

木佐貫邦子+néoダンス公演 -空、蒼すぎて-

木佐貫邦子

吉祥寺シアター(東京都)

2010/03/11 (木) ~ 2010/03/13 (土)公演終了

満足度★★★

約90分
木佐貫邦子と彼女の教え子6名の公演。上村なおかと入手杏奈は前に見たことがある。楠美奈生、板垣朝子、井上大輔、辻田暁は初。
これまでにも何度か見ているはずだが、木佐貫邦子のダンス作品としては今回がいちばん面白かった。
すべてのダンスを木佐貫が振付しているわけではなく、木佐貫メソッドみたいなものを学んだうえでダンサーそれぞれが自分のダンスを踊っているという感じだった。ソロやデュオのダンスを並べながら、ところどころで群舞が入る。また群舞でも各自が自由に動くところと、ユニゾンで動きをそろえるところがある。ダンサーの動きそのものとは別に、ダンスの見せ方というか構成の面で、飽きさせないように工夫されていた。

赤い薬

赤い薬

MONO

赤坂RED/THEATER(東京都)

2010/03/06 (土) ~ 2010/03/16 (火)公演終了

満足度★★★

現代丁寧語演劇
今年の1月末に、青年団リンク・二騎の会が「F」という芝居を上演した。内容は新薬開発のための臨床実験に被験者として志願した娘の話。偶然だろうけど、MONOが12年前に初演した今回の芝居にも、やはり臨床実験の被験者たちが主人公として登場する。

MONOの芝居では、役者の言葉使いに独特なところがある。
独自の方言を使うというのもその一つだが、今回は方言ではなく、「です、ます」調の丁寧語をしゃべっている。「あなた」「わたし」を使い、ものを頼むときには「~ください」という。
青年団の芝居を現代口語演劇だとすれば、MONOの芝居はさしずめ現代丁寧語演劇といえるかもしれない。もともと京都を本拠地とする劇団だし、メンバーにも関西(というか西日本)出身が多い。関西で現代口語演劇をやろうとすればそれは関西弁になるわけで、MONOの芝居を見ていると現代口語演劇というのが関東のものだということをあらためて意識させられる。

ネタバレBOX

医療センターの休憩室みたいな場所が舞台。雰囲気的には青年団の「S高原から」に近いかもしれない。
身寄りがなく、経済的にも困っている男4人(水沼腱、奥村泰彦、尾方宣久、土田英生〉が被験者。いじっぱりの水沼と、お城マニアの奥村が変な人で、尾方と土田は常識派。4人とも派手な柄のパジャマを着ている。
新人の医師(金替康博〉と看護婦(山本麻貴〉を加えた総勢6名の芝居。医師と看護婦は10年来、不倫の関係にある。金替の演じる医師の駄々っ子ぶりはかなり誇張されていて、普通ではちょっとありえない漫画っぽさ。イライラが高じるとすぐにスリッパを脱ぐ癖がある。
ある日、実験用の薬が赤い色のに変わる。するとその効果で被験者たちは異様にポジティブになる。お城マニアの奥村などはもともと看護婦に気があったのだが、いきなり婚姻届を作成してしまうという暴走ぶり。
ところがその薬の効果が消えたとき、今度は一転して廃人のような無気力状態が襲ってくる。
被験者のうち、奥村、尾方、土田にそんな症状が現れるいっぽうで、日ごろから薬の服用や採尿をわすれることの多い水沼だけは難をまぬかれる。
登場人物の中でいちばんまともかもしれない看護婦が病院の実験に疑問を持ち、彼らを救おうとする。
医師に睡眠薬を飲ませ、そのすきに病院から脱出させようとするのだが・・・

10年来の不倫関係も、被験者を廃人に追い込むかもしれない臨床実験も、描きようによっては悲惨な話だが、MONOの芝居ではあくまでもコメディ・タッチ。医師と看護婦が演じる愛憎の修羅場では、二人の間にお城マニアの奥村がポツンと取り残されて、動くに動けず呆然としてしまうところがやたらと可笑しかった。
夕焼けとベル

夕焼けとベル

カムヰヤッセン

王子小劇場(東京都)

2010/04/03 (土) ~ 2010/04/11 (日)公演終了

満足度★★★

罪深い島
初見の劇団。作・演出の北川大輔は、去年のクロムモリブデンの公演「不躾なQ友」で、帰国子女の刑事役を演じていた大柄な人。今回は出演していないが、刑事ドラマの要素が入っているところがクロムの芝居との繋がりを感じさせる。しかもかつてクロムモリブデンのメンバーだった重実百合が出ているので、ますます因縁を感じさせる両劇団の関係。

ネタバレBOX

ストーリーはけっこう面白いが、描き方にはちょっと変なところがある。

ある離れ小島が舞台。冬には雪も降るらしいから南のほうではない。たしか北陸だといっていた。いずれにしても架空の場所。島内の一区域には、独自の風習を持つ下賎なものとみなされている部落がある。
ローカル色を出すために、一部の役者は方言をしゃべっていた。しかもドラマの中の人物関係を無視して九州や関西の方言がアナーキーに入り乱れる。たぶん役者の出身地に合わせて彼らが得意な方言をしゃべっていたのだろう。親が九州弁なのに娘が関西弁をしゃべるというような場面があった。
にもかかわらず、それが芝居を楽しむ上であまり障害にはなっていないというのが逆に不思議だった。

島内の特殊地域では、近親相姦によって父親と娘の間に子供が生まれることも珍しくない。姉妹のうち、妹はそうやって父親の子供を産み、産めなかった(産めない体だった)姉は島を出る。この辺のおぞましい土俗的な雰囲気は、劇団乞局の作品を連想させる。
都会へ出た姉がやがてテロリスト?になり、事件を起こしたあと仲間とともに島へ逃走してくる。たまたま旅行で島に来ていた女刑事がそれに気づくが、島に駐在する警官の家族が人質になる。

奇妙な形の舞台装置。畳を敷いた座敷ふうの舞台の三隅に柱が立つ。座敷の周囲は海岸めいた岩場。さらに三方を客席が囲んでいる。話の展開にしたがって、舞台はいろんな場面に変わる。座敷として使われているぶんには別に変だとは思わないが、次の場面では土足のままで登場人物たちが畳の上を歩いたりするので、もう少し抽象的な、いろんな場面に応用可能なセットのほうがよかったのではないだろうか。

出演者は14名。そのうち知っているのは重実百合と劇団競泳水着の川村紗也だけ。川村は競泳水着の前回公演に続いてちょっと怖い役を演じている。いっぽう、重実は小学生の子供役。これはあくまでも非常に個人的な印象だけど、なんとなくナイロン100℃の犬山犬子に似ている気がした。
flat plat fesdesu

flat plat fesdesu

Crackersboat

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/04/07 (水) ~ 2010/04/13 (火)公演終了

満足度★★★

Cプロを見る
発起人:KENTARO!!とクレジットされているが、要するにKENTARO!!のプロデュース公演ということでいいのだろう。ABC、3つのプログラムのうち、Cプロを見る。

前半は白井剛とSKANKによる「THECO(ザコ)」という作品。以前、同じタイトルで別のミュージシャン7名と白井が共演したのを見たことがあるが、内容的にはまるで違うものだった。ダンサーの白井がいろんなミュージシャンをゲストに迎えて即興的なセッションをやるという企画なのだろう。ほかにも野村誠やアルディティ弦楽四重奏団とも共演している。ただし、今回がいちばん物足りなかった。舞台が狭いというのも一因かもしれない。

後半はKENTARO!!が主宰するダンスグループ、東京ELECTROCK STAIRSの「短い夜のS.F」、「ジョウネツたましい~B-DASHに捧ぐ~」とKENTARO!!のソロ「ゆうべのこと」という作品。

何組かが登場するダンス公演の、その出演者の一人という形で、KENTARO!!の作品は過去に3度くらい見ている。今回、たぶん大きく進化したんじゃないだろうか。初めて、単独公演を見たいと思うくらいに面白かった。秋にはアゴラ劇場で11日間のソロダンス公演をやるそうなので、今から大いに楽しみ。

TheStylezすたいるず+ 2010live

TheStylezすたいるず+ 2010live

TheStylezすたいるず

アトリエフォンテーヌ(東京都)

2010/04/02 (金) ~ 2010/04/03 (土)公演終了

満足度★★★

バラエティ・ショー
前半は日本舞踊とHIPHOPの二人組、すたいるずの作品をいくつか。前に一度見ているので、内容はほぼ予想の範囲だったが、やっぱり見ているうちにニヤニヤしてしまう。同じ音楽、同じ振りで踊っているのだけど、日舞の動きには微妙なタメがあるようで、同時に踊りだすときでもわずかに遅れ気味になる。その辺のズレがHIPHOPとの対比でよくわかった。本人が真剣に踊れば踊るほど、組み合わせの突飛さがますます際立って、日舞の堅苦しさが一気に溶けてしまうところにカタルシスがある。そんな可笑しさ。

後半はいろんな分野からゲストを招いて、主にミュージカル仕立てのバラエティ・ショーを展開した。ミュージカル「コーラスライン」のオーディション形式を借りて、ゲスト紹介をしたのがうまいやり方。
笠井晴子はコンテンポラリー・ダンスの人で、先日の近藤良平の作品にも出ていたという。
岡本摩衣子はミュージカル「アニー」に出演したことがある。歌唱力のある人。
西川一右は日本舞踊の一派、西川流の若手で、すたいるずの花柳輔蔵の仲間。
片山"danny”茂樹は氷川きよしのステージでバックダンサーを務めたりして、すたいるずの古賀崚暉(りょうき)と同じくHIPHOPのダンスもこなす。

ウエストサイドやら雨に唄えばやらオペラ座の怪人やら、有名なミュージカル作品の名場面をいろんなアレンジで見せてくれた終盤が特に楽しかった。

雑貨屋のドン・キホーテで売っていたという電動式の笑い転げる虎の人形。これが思わぬ効果を発揮して、人間の演技を喰ってしまうくらいの絶大なインパクトがあった。

八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン

八百長デスマッチ/いきなりベッドシーン

柿喰う客

タイニイアリス(東京都)

2010/04/15 (木) ~ 2010/04/18 (日)公演終了

満足度★★★

年齢不相応
玉置玲央と村上誠基の二人芝居&七味まゆ味の一人芝居。どちらも面白かった。男は小学生を、女は高校生を演じる。

ネタバレBOX

「八百長デスマッチ」は男優の2人芝居。上演時間は30分ほど。芝居の大半は二人が同じ台詞をしゃべっている。二人同時にしゃべるところでは、村上が玉置に合わせているようだ。まるで息の合った歌のデュオのよう。
演じる役はピカピカの小学1年生。何から何まで言動が瓜二つの二人。いわばドッペルゲンガー。
機会均等、人間みな平等。ピカピカの小学1年生を迎えるそんな理想主義がやがて現実によって打ち砕かれる。この芝居の場合だと、二人の好きになった女の子がどちらか一人を選んだのがそのきっかけ。
だけど、振られたあいつを選ばない女なんて、こちらから願い下げだといって、また男同士の関係が復活する。そんなストーリー。
「学芸会レーベル」では幼稚園児を登場させたくらいだから、小学生の生態を描くなどは作者の中屋敷法仁にとって朝飯前なのかもしれない。縦笛、おもらし。遠い記憶のひとコマ。
吉本興業の間寛平と池乃めだかのコントで、相手のいったことを必ず繰返すというルールを決めたうえで行われる可笑しなやりとりを見たことがあるが、あれをふと思い出したりした。

七味まゆ味の一人芝居「いきなりベッドシーン」はこれが2度目の観劇。明るく地獄へまっしぐら、青春残酷物語。そんなストーリー展開を多彩な台詞回しと動きで演じている。上演時間は40分ほどだが、役者にとってはかなり過酷なパフォーマンスだろう。担任教師や親友などほかの登場人物もきちんと演じ分けているし、照明も非常に効果的。物語の悲惨さが前回よりも強く迫ってきた。
武蔵小金井四谷怪談

武蔵小金井四谷怪談

青年団リンク 口語で古典

こまばアゴラ劇場(東京都)

2010/04/17 (土) ~ 2010/04/29 (木)公演終了

満足度★★★

続けてほしいシリーズ
ハイバイの岩井秀人による「口語で古典」シリーズの第2弾。
今回は2本立てで、前半は「四谷怪談」を現代化した4人芝居。後半は落語のいわゆる「廓噺」を、作者が大阪の風俗店(@飛田新地)で体験した話に置き換えての3人芝居。

ネタバレBOX

「武蔵小金井四谷怪談」
四谷怪談のあらすじを奥の壁に映写しながら、それと微妙に対応する現代劇が舞台に展開する。恋人役の古屋隆太と荻野友里。荻野の父親役の猪俣俊明。古屋による父親殺しを目撃して、それをネタに彼を脅迫する端田新菜。古典のストーリーがうまく現代劇に重なっていて、このまま最後までずっとやってくれればいいのにと思ったが、実際には端田に脅されて古屋が第2の殺人を犯すあたりで原作との関わりは消えてしまい、再び最初のやりとりにもどって同じ出来事が別の角度から新たな真相を交えて描き直されるという展開になる。そこはハイバイの名作「て」で使われたのと同じアイデアだなと思う。
個人的には最後まで原作をなぞる形で現代化された芝居を観たかったので、途中から二重構造になってしまったのがちょっと残念だったが、それでも役者4人の演技が抜群に面白かったので別に文句はない。
「口語で古典」の1作目「おいでおいでぷす」といい、2作目の今回といい、父親殺しが作品の重要なモチーフになっているが、これは「て」で描かれた作者岩井秀人の複雑な家庭環境の反映と見なすこともできる。

「落語 男の旅 大阪編」
こちらは山内健司、石橋亜希子、猪股俊明の3人芝居。大阪の風俗店に男3人で訪れた作者自身の体験談という体裁で話が進行する。一応、山内が作者の岩井役。男3人の話なのに、女優の石橋がそのうちの一人を演じるというのが強引というか、人を喰っている。石橋は結婚後初の舞台らしい(おめでとうございます)。出演者は3人だが、風俗店の女の子や付き添い?のおばさんなど、出演者の数を越える人物が登場する。そしてそれを役者3人ですべて演じてしまう。しかもきちんと役を分担するのではなく、かなり恣意的に役をシャッフルして演じる。店の女の子とおばさん、そして客の男。これを二人で演じたり一人で演じたり。この辺の入れ替わりはかなりめまぐるしい。観ているうちに思ったのは、以前、岩井秀人が役者として出演したことのある多田淳之介の「3人いる!」という芝居。あそこでも役者と役がかなり複雑に入れ替わっていた。
落語というのがもともと一人でいろんな役を演じ分ける芸なので、役者3人で役を演じ分けたからといって、それで落語を上回ったとはいえない。個人的な感想としては、落語を演劇化するなら、やはり役者も一人芝居で演じてこそ、落語の芸に拮抗したといえるのではないだろうか。
ミッション女・プロジェクト男

ミッション女・プロジェクト男

よしもとクリエイティブ・エージェンシー

駅前劇場(東京都)

2010/04/29 (木) ~ 2010/05/03 (月)公演終了

満足度★★★

ダイハードな二人
脚本が上田誠なのでネタ的にはヨーロッパ企画のSFものに近いんだけど、二人芝居なのでネタの濃縮度が高まっている。「一難去ってまた一難」とはまさにこの芝居のための言葉。それに比例するように役者二人の発汗量がこれまたすごい。上着だけでなく、ズボンにまで汗のしみができていた。これもある意味で見所かも。
福田転球という役者は、アドリブ命みたいなところのある人なので、この芝居でもいろいろやっていたし、相方の平田敦子もかつてサモ・アリナンズの芝居で、アドリブが飛び出す雰囲気には慣れている。
上田誠のギャグセンス豊かな脚本と、福田・平田の丁々発止な演技がいい具合にミックスして、汗だくの舞台とは対照的に、客席にはリラックスした笑い声が響いた。

ネタバレBOX

テレビゲームの画面みたいな映像がとても効果的で、空間的にものすごく広がりが感じられた。舞台装置もかなり作りこまれていて、しかも単なる装飾ではなく、どの部分もちゃんと話に絡んでいる。

それにしてもいろんな危機があったなあ。マザーコンピュータとの戦い、多数の小型ロボットによる襲撃、巨大な蜘蛛型ロボットの出現、レーザービーム、バイオタワーの崩壊によるスライム?の流出、核融合なんとかの異常による高熱化、宇宙空間に投げ出され、エイリアンの宇宙船に拾われ、エイリアンの卵を体に産み付けられ、エイリアンの棲む星を目指すべくコールドスリープに入らんとするところで、to be continued だって。

失われた時を求めて 第1のコース「スワン家の方へ」

失われた時を求めて 第1のコース「スワン家の方へ」

三条会

三条会アトリエ(千葉県)

2010/05/14 (金) ~ 2010/05/17 (月)公演終了

満足度★★★

読書のモチベーションとしての演劇
会場でもらったプログラムによると、村上春樹の小説の影響でこのマルセル・プルーストの原作が本屋で平積みになっていたという。私は村上作品をほとんど読んだことがないのでわからないが、最近出た本の中で村上春樹がプルーストの「失われた時を求めて」に言及しているということだろうか。

それはともかく、三条会がこの小説を芝居化するということで、全7作ある小説のうちの第1篇「スワン家の方へ」を観劇3日前になんとか読み終わった。文庫本で700ページもある長編で読むのに2週間ほどかかった。しかもこのサイズの作品があと6冊もある。読んだのはちくま文庫から出ている井上究一郎の訳。これが翻訳調のなかなか読みづらい文章だったので、すでに読みはじめている次の第2篇では、集英社文庫から出ている鈴木道彦の訳に変えてみたが、こちらのほうがだんぜん読みやすい。これから読む人には集英社文庫版がオススメ。

そんなわけで、三条会の芝居を見るために大長編の小説を読み出したのだが、こういうきっかけがなければたぶん当分、というかおそらく一生、この小説を読むことはなかっただろう。幸い小説の内容にも興味が持てたので、このまま三条会の公演に寄り添う形で最後まで読み続けたい。演劇によって読書のモチベーションが高まるという、なかなか珍しい体験をしている。

芝居の上演時間は約1時間。三条会の公演では普通の長さだが、原作の長大さを考えるとこれは暴挙を通り越してむしろ潔さを感じる。小説に書かれた出来事を一つ一つ追っていく作業ではなく、この芝居を見ることで少しだけ小説が読みやすくなればいい、と演出家はプログラムの挨拶文に書いている。

ただ、原作の内容を再現するのをやめたことで、芝居としての表現はものすごく飛躍したものになっている。そしてその飛躍ぶりを面白がるためには、やはり原作は事前に読んでおいたほうがいいだろうと思う。

私自身はこの小説をスワンという人物を主人公にした恋愛小説として読んだ。また19世紀末のブルジョア文化を描いた風俗小説としても興味深いと思う。ただ、紅茶とマドレーヌのエピソードに象徴されるように、芝居ではむしろ人間にとっての記憶とはなにか、みたいな部分に焦点が当てられていたようだ。もちろんいろんな角度からの読み取りが可能なのがこの小説の魅力ではある。開演前に受付でもらった紙袋には、紅茶のティーバッグとマドレーヌというお菓子が入っていたのが洒落た趣向だった。

それにしても舞台表現の飛躍がすごい。原作の登場人物だと思えるのはスワン夫妻と娘のジルベルトくらいで、あとは医者、看護師、役者、易者など小説とはあまり関係のない人物が登場する。漫画「あしたのジョー」のアニメの音声が役者の動きと重なったり、東宝の怪獣映画に出てくるキングギドラの魅力をスワン役の中村岳人が延々としゃべる一方で、スワン夫人を演じる大川潤子がキングギドラ然として両腕を広げたりする。

ところで、スワンとオデットという名前はバレエの「白鳥の湖」を連想させるが、はたして作者のプルーストはそれを意識していたのだろうか。時代的には「白鳥の湖」が初演された時期と小説で描かれた時代は重なっている。ただし内容的にはあまり関係はなさそうだ。
それにしても19世紀末から20世紀初頭にかけては文化的に豊かな時代だったと思う。王侯貴族を筆頭に地主階級を中心にしたブルジョア文化が最後の輝きをみせた時代ではないだろうか。金と時間がたっぷりあって、子供のころから文化芸術に親しんでいる人々。音楽も美術も演劇もそういうブルジョア階級が支えていた時代。

勧進帳

勧進帳

木ノ下歌舞伎

STスポット(神奈川県)

2010/05/13 (木) ~ 2010/05/17 (月)公演終了

満足度★★★

歌舞伎の現代化
初見。評判がよさそうだし、横浜へ出かけるついでもあったので見てきた。
歌舞伎の勧進帳を杉原邦生が現代風に演出したもの。杉原はたしか去年、こまばアゴラ劇場でやった「キレなかった14才♥りたーんず」の参加メンバー。
いっぽう監修の木ノ下裕一は京都を中心に活動する歌舞伎好きの演劇人。アフタートークや客入れのときにも場内にいたので初めてその姿を見たが、こちらが予想したのよりもずいぶん若い、歌舞伎オタクと呼びたくなるような演劇青年だった。
古典の現代化といえば、東京デスロックの多田淳之介がシェイクスピア作品を演出したのが思い浮かぶ。アフタートークでの木ノ下の話によると、シェイクスピア作品でやるような現代化が、歌舞伎作品ではあまりやられていないので、そっち方面をめざしたのだという。

STスポットにはこれまでほんの数回しか来たことがないが、スペースを縦長に使っているのを見たのはこれが初めて。中央に歌舞伎の花道を思わせる舞台があり、その両側が客席。舞台の中央に柿色の線が引いてあり、そこがいわば安宅の関。
現代化の特徴をいくつか挙げると、まずは関所の番人である富樫と番卒2名が現代青年であったこと。また番卒を演じる二人の役者が義経側の山伏2名を兼ねていたこと。義経役は女性。弁慶役はアメリカ人。口調は基本的には歌舞伎に準じているが、勧進帳を読み上げるところでは英語を使い、ところどころで日本語の日常会話をしゃべっていた。

アフタートークでもう一つ興味深いと思ったのは、約2ヶ月の稽古期間のうち、前半の1ヶ月は「勧進帳」のDVDを見て、歌舞伎役者のしゃべりと動きをひたすらコピーしたということ。そして後半の1ヶ月で、演出を入れてどんどんそれを崩していった。このやり方が作品全体を通して非常に効果的だったのではないかと思う。

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