点と線
カンパニーデラシネラ
川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)
2009/12/17 (木) ~ 2009/12/20 (日)公演終了
満足度★★★★
マイム+台詞≠演劇
通常は声を出さないマイム作品で、どうやって松本清張の小説を舞台化するのかと思ったら、今回はなんと、台詞をしゃべった。プログラムにはテキスト協力:小里清とクレジットされている。しかし台詞があるからといって、普通の演劇作品ではない。やはりマイムの要素が濃厚に入っている。
事件を調べる主人公の刑事を森川弘和が単独で演じるほかは、残りの五人(佐藤亮介、鈴木美奈子、関寛之、藤田桃子、小野寺修二)が複数の登場人物(プログラムに記されているのを数えると全部で26役)を演じている。
ストーリーはほぼ原作通りだが、あらかじめ内容を知っていたほうが楽しみやすいだろう。小説の内容をまったく知らずに見た場合、はたして時刻表のトリックを充分に理解できたかどうか、あまり自信がない。
マイムのパフォーマンス自体はこれまで小野寺がやってきたものとそれほど変わらないと思うが、今回は台詞が加わって演劇に近づいているぶん、逆に演劇との違いがよくわかった。
冒頭の場面では男女の死体が客席に足の裏を見せるかたちで横たわっていて、それを二人の男が見下ろしている。どうやら青酸カリをあおっての心中らしい、と男の一人がいう。この第一声でオヤッと思い、今回は台詞がつくのだなと頭の準備態勢を切り替えた。ここまでは普通の演劇の流れだが、次に男女の死体がむっくりと起き上がってはまた横になるという動作が始まると、ここからはシュールな雰囲気を持つ従来のマイム作品の色合いになる。二人組の男のほうも、死体の動きに反応したり、あるいはそれをまったく無視して台詞をしゃべり続けたりする。
そのあともこんな調子で台詞劇とマイムの要素が入り乱れながら話が展開する。マイムでは動きがスローモーションになったり、反復したりするし、台詞のほうでも反復や大幅な省略がある。
一人が普通の芝居をしているのに、相手のほうだけがマイム的な動きをする場面を見ていると、なんだか舞台上の時空間が歪んでいるというか、物語の流れそのものが速度変化を起こしているような印象を受ける。
詳しいことは知らないのであれだけど、クラブのDJがレコード盤の回転を手で操作して不思議な効果を出すという音楽がある。あれを聴覚的なデフォルメだと考えれば、こちらの舞台作品では同様の効果を視覚面で作り出しているように思えるのだ。
具体的な内容を言葉でうまく伝えられないのが残念だが、マイムと台詞が融合することで、なんだかものすごくユニークな、従来の演劇では見たことのないものが生まれた気がする。
新しい男
城山羊の会
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2009/06/26 (金) ~ 2009/07/05 (日)公演終了
満足度★★★★
絶妙の脚本と演技を満喫
この劇団の芝居を見たのは深浦加奈子の(たぶん)遺作になった「新しい橋」が最初。舞台を見るかぎりこのときは病気の気配などまるで感じなかったのに、その半年後に彼女は亡くなってしまった。
そのあと「新しい歌」「新しい男」と似たようなタイトルが続いている。見続けているのは別に深浦加奈子に義理だてしているからではなく、ただ作・演出を担当する山内ケンジの芝居が面白いから。
今回も期待を裏切らない内容だった。
SHE-彼女
KARAS
川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)
2009/11/20 (金) ~ 2009/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
見ごろ食べごろ
勅使川原三郎のカンパニー、KARASのメンバーである佐東利穂子のソロダンス。上演時間は1時間弱。ソロダンスの公演では普通の長さだが、これだけの運動量というかダンス量のある公演はちょっと見たことがない。それだけでも見る価値充分。
公演は11月20日から23日までまず4回踊った後、3日間休演して、27日から29日までさらに3回踊る。全7回という公演数もソロダンスとしてはかなり多い。
ダンサーとしての力のピークがどの辺にあるのかはわからないが、ものすごく充実した時期にあることは間違いない彼女のダンスは、今がまさに旬。ダンス好きならこれを見逃す手はない。
孤天 第二回「ボクダンス」
コマツ企画
APOCシアター(東京都)
2009/12/03 (木) ~ 2009/12/07 (月)公演終了
満足度★★★★
孤独天国
コマツ企画の役者である川島潤哉による自作自演の一人芝居。その第2回公演だが、見るのはこれが初めて。
劇団の役者として活動してきた人が、ふいに自分でも脚本を書いて一人芝居を始めるというのはかなり珍しいケースではないだろうか。
脚本の書き手としてはまったくの未知数だし、あくまでも役者としての魅力に引かれて見に行ったのだけど、フタをあけてみると芝居の内容が予想外に面白かったのでちょっとビックリした。
---MESs---メス---
Dance Company BABY-Q
リトルモア地下(東京都)
2009/06/12 (金) ~ 2009/06/14 (日)公演終了
満足度★★★★
この人を見よ
去年10月のシアタートラムでのソロ公演から半年ぶりに見た。東野祥子のソロダンス。あのときは怪我で公演が中断してしまったが、私は初日に出かけたので見ることができた。幸い怪我は回復して、その後まもなく踊り始めたが、今回もらったチラシをみると、英語で My head is a mess と書いてあるので、頭のほうはまだ問題を抱えているのかもしれない。
シアタートラムよりもはるかに小さな空間で、それでも従来通りのしなやかさをとりもどした彼女の体を間近に眺める約1時間。照明と音響が加わって、いつもながらの空間演出力を感じさせる。独特の体、独特の作品世界。
アンドゥ家の一夜
さいたまゴールド・シアター
彩の国さいたま芸術劇場 小ホール(埼玉県)
2009/06/18 (木) ~ 2009/07/01 (水)公演終了
満足度★★★★
老人力
オーディションで選ばれた年配者の劇団、さいたまゴールドシアター。ナイロン100℃のケラが脚本を提供したというので第3回目の今回、初めて足を運んだ。ふだん小劇場の芝居を見ている者ほど、老人一色に埋め尽くされた舞台に面食らうのではないか。「老人力」という古い流行語が頭に浮かんだほど。
ケラの脚本は少人数の芝居も悪くはないけど、やっぱりこういう出演者が40名を越えるような芝居をやらせたら本領を発揮する。多くの若手を起用したケラマップの芝居「ヤング・マーブル・ジャイアンツ」などはある意味でこの芝居の若者版だったような気がする。
カーテンコールで拍手をするときには「みなさんいつまでもお元気で」という、およそ芝居の観劇後とは思えない感慨が湧いた。
ボス・イン・ザ・スカイ
ヨーロッパ企画
青山円形劇場(東京都)
2009/06/17 (水) ~ 2009/06/28 (日)公演終了
満足度★★★★
見上げたもんだ
初日観劇。期待通りに楽しませてもらった。
この劇場の円形舞台をきちんと使ったうえで、見づらさ、聞きづらさから来るストレスをほとんど感じさせなかったのが素晴らしい。さすがは理系の劇作家、上田誠の面目躍如。ここ何作か、長田佳代子という人が美術を担当するようになって、そっち方面がかなりグレードアップしたのも大きい。
開演前に座席にすわって、舞台のセットを眺めながら、どんな話になるのだろうと想像をめぐらすのも楽しい時間。ゴキブリコンビナートの「ちょっぴりスパイシー」という作品の舞台装置を思い出したのは私だけだろうか。
ろじ式〜とおくから、呼び声が、きこえる〜
維新派
にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)
2009/10/23 (金) ~ 2009/11/03 (火)公演終了
満足度★★★★
屋台は終演後も1時間ほど営業
維新派を見るのは6年前に新国立劇場中劇場で上演した「nocturne」以来。このときは良い印象を持たなかった。2年前に埼玉でやった「nostalgia」もチケットは取っていたのだが、開演時間を間違えて見られなかった。この劇団とはどうも縁がないなと思いつつ、2度目の観劇となる今回は、内橋和久の音楽に気持ちよく反応できたので、台詞のある歌の部分も、台詞のないダンスの部分も飽きずに最後まで楽しめた。ドラマとしてではなく、あくまでもソング&ダンスの音楽ショーとしての面白さだった。これがいわゆるジャンジャンオペラってやつ?
4.48サイコシス(演出:飴屋法水)
フェスティバル/トーキョー実行委員会
あうるすぽっと(東京都)
2009/11/16 (月) ~ 2009/11/23 (月)公演終了
満足度★★★★
内なる狂気へようこそ
良い意味で、演劇作品に名を借りた美術作品ではないかと思う。サラ・ケインの原作は前にいちど、川村毅の演出で見たことがある。あちらは映像で東京の街並みを映し出したりして、それなりに凝った演出が面白かった。それとの比較でいうと、飴屋作品の場合は字幕のほかには映像を使っていないというのが一つの特徴かもしれない。映像を使うとそれだけでけっこうスタイリッシュな感じがするものだが、この作品では映像を使っていないので、美術面ではなんとなく手作りな感じがするのがいい。遊園地のお化け屋敷を体験するような感覚で、観客は眼前に展開する鬱病患者の狂気を目の当たりにする。
脚本は鬱病の末に自殺した劇作家の遺作。会話劇といえるものではなく、作者の独白に近い内容で、普通に演じたらたぶん退屈なものになるだろう。そのぶん演出家が腕を振るう余地のあるテキストなのかもしれない。
昔、二十歳で自殺した女子大生の日記がベストセラーになったことがある。サラ・ケインの場合もそうだけど、作者が自殺したということが作品の付加価値になっていて、もし作者が健在ならそれほど特別視される内容ではないのではないか、という気がしないでもない。
変な例えで申し訳ないが、この作品の作者がサラ・ケインではなく、もしも三谷幸喜とクレジットされていたら、観客はただもう、なんてひどい作品だろうと思うのではないだろうか?
そういったことはさておいて、美術と演出は一見の価値あり。
VACUUM ZONE
Dance Company BABY-Q
シアタートラム(東京都)
2010/03/05 (金) ~ 2010/03/07 (日)公演終了
満足度★★★★
リヴェンジな再演
公演中に怪我をして、中断された因縁のある作品の再演。私は幸い初日に出かけたので前回も見ることができたし、忘れていた部分も含めて、今回は初演以上に面白かった。
バットシェバ舞踊団『MAX マックス』
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2010/04/15 (木) ~ 2010/04/17 (土)公演終了
満足度★★★★
面白さもマックス
3日間公演の真ん中に見て、見終わったとたんにまた見たくなったので、翌日の楽日にも見てきた。
ダンサーは男女5人ずつ。中身の濃い1時間。
客席側からの青みがかった緑の照明と、舞台両サイドからの朱色がかった赤い照明が、歓楽街のネオンを思わせる不健康な色でダンサーの体を染める。
前回の「テロファーザ」ともだいぶ趣が違う。音声もいくらかは入るが、無音で動く場面もけっこうある。
独特の動き。ダンスとはなんぞや、みたいなことを考えさせられたという意味で、久々に頭を刺激する作品。もちろん普通にダンスとして眺めても面白かった。
あの人の世界
フェスティバル/トーキョー実行委員会
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2009/11/06 (金) ~ 2009/11/15 (日)公演終了
満足度★★★★
雨にぬれても
初日に観劇。どんな話が展開するのか予想のつかない抽象系の美術。あの人(松井周)の妄想世界を舞台化した作品、といっていいのではないでしょうか。
ネタバレBOXでは文字通り、かなりネタバレしているのでご注意ください。
モリー先生との火曜日
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2010/06/03 (木) ~ 2010/06/15 (火)公演終了
満足度★★★★
数年ぶりのモリー先生
原作のノンフィクションは過去に2度、それもかなり時間を空けて読んでいる。今回の舞台版を含めると、数年に一度はモリー先生の話に接していることになる。原作が出版されたのが1997年。
こういうポジティブな心を持った人物が現代にもいるということがすばらしい。死ぬまでに一度は、モリー・シュワルツという人物の人となりに触れてみるのも悪くないのではないだろうか。
教師と生徒の物語といえば、最近では湊かなえの「告白」なんていう怖い話もあるが、もともとは感動的な内容のものが多い。この作品もそういう伝統に則っている。
加藤健一事務所の翻訳劇を見るのは久しぶり。レイ・クーニーやマルク・カモレッティなどコメディ作品をやっているころはよく見ていた。
最近は感動的な作品が増えたような気がするが、かといってそのせいで足が遠のいたわけでもない。
久しぶりに見た今回は、翻訳劇を親しみやすく見せるという点で、やはりここはほかの劇団よりも一歩抜きん出ていると感じた。
In The PLAYROOM
DART’S
ギャラリーLE DECO(東京都)
2010/04/27 (火) ~ 2010/05/02 (日)公演終了
満足度★★★★
凝りに凝ってる
昨年12月の初演から4ヶ月ぶり。劇場でもらったプログラムの挨拶によると、今回は再演ではなく追加公演だという。そのココロは、劇場も出演者も初演と同じだから。確かに4ヶ月後、同じ会場、同じ面子でやるのは演劇の場合むずかしいもんね。
なにはともあれ、観られてよかった。
DART’Sという劇団の第1回公演。作・演出は広瀬格という人(要注目)。役者の演技もよかったし、なによりも凝りに凝った脚本がすごい。
複雑な設定、不思議な構造、そんな芝居が好物の人にはオススメかも。
具体的な内容に触れるのは体力的、能力的にシンドイので、興味のある人はとりあえず観てほしい。
(観劇上の注意として、トイレが一つしかないので、なるべく外で(別に屋外でという意味ではない)済ませてきたほうがいい。初日は寒い日でトイレ待ちの行列ができて開演がちょっと遅れたりしたので)
タルダンス・カンパニー/ムスタファ・カプラン-フィリズ・シザンリ「DOLAP」 / 鈴木ユキオ/金魚「犬の静脈に嫉妬せず」
ダンストリエンナーレトーキョー
青山円形劇場(東京都)
2009/10/04 (日) ~ 2009/10/04 (日)公演終了
満足度★★★★
地震国のダンス
ダンストリエンナーレの第8弾は、トルコと日本の作品の2本立て。
トルコとコンテンポラリーダンスという言葉の組合せがそもそも矛盾しているのではないか、と冗談をいいたくなるくらい、今回のフェスティバルではいちばん異色というか、単純にいって珍しさを感じる作品。
もう1本は初演を見たことのある鈴木ユキオ振付作品の改訂版。
両者の内容に共通点は感じられなかったが、結果的にはどちらも面白かった。
ローザス「ツァイトゥング Zeitung」
彩の国さいたま芸術劇場
彩の国さいたま芸術劇場 大ホール(埼玉県)
2009/11/27 (金) ~ 2009/11/29 (日)公演終了
満足度★★★★
アフタートークは聞かなかった
映像も含めて、これまでに見たローザスの作品の中ではかなり好きなほう。
上演時間は2時間弱。開演前はずいぶん長いと思ったが、始まってからはあまり気にならなかった。
シリタガールの旅
本能中枢劇団
こまばアゴラ劇場(東京都)
2009/06/20 (土) ~ 2009/06/27 (土)公演終了
満足度★★★★
なにはともあれ、祝復活
ベターポーヅとの涙の別れから早2年近くが経つ。その涙もすっかり乾ききったころ、帰らぬはずの人が名前を変えてもどってきた。喜び勇んで初日に出かけたが、40席ほどの客席はどうにか満席という程度。自分の期待と世間の反応の温度差にやや戸惑う。
作者にとってはそれなりのブランクだから、今回はウォーミングアップという面もある。前半は短いやりとりを反復する変態シュールなコント集の趣き。後半は人物や状況の設定がそれなりに定まってくる。
さすがにここの芝居は誰にでもオススメというわけにはいかない。いってみれば、好きな人の、好きな人による、好きな人のための演劇。
あたしちゃん、行く先を言って-太田省吾全テクストより-
地点
吉祥寺シアター(東京都)
2010/01/22 (金) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
ウィキウィキ
1月25日に続いて、30日にも見てきた。
2回目の観劇のあと、受付で販売していた三浦基の著書「おもしろければOKか?現代演劇考」という本を買ってきて、ただいま熟読中。
ウェルダン
リトルモア地下
リトルモア地下(東京都)
2010/06/04 (金) ~ 2010/06/06 (日)公演終了
満足度★★★★
肉食系ダンス
モチーフは肉だった。肉食に始まって肉食に終わる60分。開演前から、ステーキ用の生肉が天井からいくつも吊り下げられている。上手にはコンロがあり、開演するとまもなく背中に負ったホットプレートをコンロに乗せて焼肉が始まる。
珍しいキノコ舞踊団のダンサー篠崎芽美による初のソロ公演。ダンスの作り手としては未知数だし、実をいうと公演案内チラシの絵柄(顔の上にステーキが載っているやつ)があまりにもグロテスクで、最初は見る気をなくしたのだが、公演が始まってみるとなかなか評判がいいようなので、急遽当日券で見ることにした。チラシによって公演を見る気になるというのはたまにあるが、チラシによって興味が萎えたというのは今回が初めてかもしれない。
しかし実際に見てみると、評判通りの面白い内容だった。彼女の顔の特徴である鋭くとがった顎。作品から感じられる独特の感性とも無縁でないように思えた。
舞台下手奥の隅にテントふうに張られた縦長の三角形の布。その上部から顔だけを出して歌いつつ、天井から下がっている肉をパクつくところから始まる。そのあと赤い布の下部の裂け目から下半身を現わすところでは、なんだか出産を連想させたりした。衣装は男子の体操選手が着るような白の短パンと袖なしのシャツ。鍛えられた体は実際、体操選手のように筋肉質だった。
一踊りした後、肉を焼きながらしばしトークが入る。ネットの検索で見つけたという「肉占い」についてあれこれと。こういうしゃべりを気軽に入れるところは珍しいキノコ舞踊団仕込みだろう。
そのあと開脚で床にうつぶせの状態から、自分の体を肉という物質として、ちょっと突き放した感じで探り始める。木の床に当たってペタペタと音を立てる手足の肉。皮膚に口をつけて息を吹きかけるとまるでオナラのようにブブゥと音が出る。ひざの裏や脇の下でも同様に音が出せる。自分の体を不思議そうに探るその感じは子供のころの感覚を思い出させる。
後半ではぬいぐるみをいったんバラバラにしてつなぎ合わせたような被り物で登場。顔の部分は目と口があいていてマスクのよう。立ち上がると下半身が出てしまう大きさ。獅子舞っぽくもある。ギターを弾く男性が共演。白い机ふうの台を舞台に置く。篠崎は被り物のまま台の中にもぐりこむ。手と足を両側に出して這い進むと、台がまるで亀の甲羅のようにみえる。ギター弾きが台の上に飛び乗ったときにはひやりとしたが、亀が手足を甲羅の中に引っ込める要領で、直前に台を床まで下げたので、手足にダメージを受けることはなかった。この辺はダンスというよりも、道具を使ったインスタレーション的な面白さかもしれない。予想のつかないアイデアが全体を通してちゃんと盛り込まれていたので、終始興味をひきつけられた。床に体育座りという苦しい鑑賞環境で、後半は腰が悲鳴を上げていたにもかかわらず。
終盤にも奇妙な装置を背負って登場した。フラフープのような輪が二段になっていて、それぞれに肉が吊るしてある。電動式になっていて、それがくるくると回転する。発想の奇抜さがなんといっても独特で、作り手としての才能を感じずにはいられない。
音楽も何曲か使われたうち、グロリア・ゲイナーのヒット曲「I wil survive」が誰かのカバーと本家のと2回流れたのが印象に残る。最後もゲイナーの歌に乗って、同時に焼けた肉をほおばりながらの、彼女ならきっとどんな逆境でもサバイバルするだろうと思わせる、たくましいダンスで締めくくった。
「ロメオとジュリエット」「令嬢ジュリー」
谷桃子バレエ団
新国立劇場 中劇場(東京都)
2009/07/04 (土) ~ 2009/07/05 (日)公演終了
満足度★★★★
文芸バレエ
バレエを見始めてまだ日は浅いのだけど、チケット代が安ければもっと見たいと思っている。文字通り、バレエは高値の花だ。
谷桃子バレエ団は今年が創立60周年だという。見るのはこれが4度目くらい。そのうちの2回は団員による創作バレエの発表会だった。BATIKの黒田育世が所属していたこともあり、古典だけでなく、創作ものにも熱心なカンパニーなのかなという印象がある。
今回はスウェーデンの女流振付家ブリギット・クルベリ(1908-1999)の作品を2本立てで上演。彼女の名前は今回初めて知ったが、スウェーデンではバレエ・カンパニーにその名前が冠せられているくらい有名な存在らしい。現在も振付家として活躍しているマッツ・エックが彼女の息子だったというのには驚いた。
上演された2本はどちらも有名な戯曲が原作。一つはシェイクスピアの「ロメオとジュリエット」、もう一つはストリンドベリの「令嬢ジュリー」。言葉そのものといっていい戯曲を、言葉をまったく使わないバレエに置き換えるのは、ある意味で乱暴な行為だと思うけれど、実際にはドラマ性がより濃厚なほうが、無言のダンス表現では観客に内容がよく伝わるようだ。
「ロメオとジュリエット」は芝居だと2時間以上はかかるはずだが、バレエ作品では約1時間に収まっている。舞台装置はまったく使わず、照明と衣装による色彩の変化だけで雰囲気を盛り上げている。対立するキャピュレットとモンタギューを青と赤で色分けし、そのなかでジュリエットだけは白い衣装を着ている。シェイクスピアの芝居を観客が知っていることを前提にしているとはいえ、鍵となる10の場面をダンスで演じることによって、「ロメオとジュリエット」の物語をわずか1時間で観客に伝えてしまうというのはすごいことだと思う。ソワレで主役の二人を演じたのは永橋あゆみと齊藤拓。ともに好演。
「令嬢ジュリー」はストリンドベリが1888年に発表した戯曲をクルベリが1950年にバレエ化したもの。上流階級の女性と使用人の関係を軸にしているところは「チャタレイ夫人の恋人」を連想させる。発表当時は大胆な内容がバレエ界では相当話題になったらしい。(スウェーデン映画がハードコアなポルノ映画の代名詞だったなんてことは、今の若い人には想像もつかないだろうなあ。)1本目の「ロメオとジュリエット」とは違い、こちらは舞台装置を場面ごとに転換させていく。しかし悲劇的な内容にもかかわらず、色彩が派手なのはどちらにも共通している。こちらの主役二人は髙部尚子と三木雄馬。こちらも良かった。
クルベリの振付は、音楽のリズムに合わせてマイムを演じるせいか、どことなく人形振りを感じさせるところがあった。バックのダンサーをストップモーションで静止させて背景化するのも特徴的だった。