あの人の世界 公演情報 フェスティバル/トーキョー実行委員会「あの人の世界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    雨にぬれても
    初日に観劇。どんな話が展開するのか予想のつかない抽象系の美術。あの人(松井周)の妄想世界を舞台化した作品、といっていいのではないでしょうか。

    ネタバレBOXでは文字通り、かなりネタバレしているのでご注意ください。

    ネタバレBOX

    サンプルという劇団名が示すように、作者が描きたいと思う場面がばらばらに何個かあって、場面それぞれはそれほど緊密に繋がってなくて、それでも無理にストーリーをこしらえて繋げることはせず、ばらばらな各場面が舞台上で一つのまとまりを感じられるように工夫をこらして提示してある。そんな印象を受ける。
    役者が台詞をしゃべっていれば、ドラマや物語世界が自然と浮かんでくるのが通常の芝居だと思うが、この作品では最後まで場所の設定がどうなっているのかが曖昧だった。特に上と下の世界の関係がよくわからない。
    出だしの場面では上の世界の夫婦(古館寛治、石橋志保)が死んだペットの墓参りをしている。夫婦が犬の名を呼んだときに袖から登場する青年(田中佑弥)がいる。
    最初はてっきりこの世とあの世という関係かと思った。下に広がる白い世界は火葬にふされたペットたちの遺灰ではないのかと。ところが終盤になると上の夫婦が犬になって下に降りてくるし、逆に下の住人の一人が入れ替わりで上に現われる。上下世界を行き来する人物としてはもう一人、出だしに登場した青年が運命の女性をさがして下の世界をさまよう。
    場所の設定がよくわからないといっても、それは別に文句をいっているのではなく、場所設定を曖昧にすることで、ばらばらな場面の収まりがよくなっているのではないかと思うのだ。
    上の世界では墓参りのあと、ペットを亡くしてからギクシャクしだした夫婦の関係がもっぱらテーブル越しに展開する。
    一方、下の世界では、浮浪者とも動物ともつかない登場人物たちが劇団四季の「キャッツ」かなにかだろうか、動物モチーフのミュージカルを作ろうとしている。鬼コーチふうの一人(古屋隆太)と3人のメンバー(奥田洋平、渡辺香奈、善積元)の関係はこれまでの松井作品でもなんとなくなじみがある。鬼コーチ役は従来なら古館の担当だろうが、今回は上の夫婦を演じているので替わって古屋が担当したが、彼も充分に狂っている。ほかにも舞台装置の外周を自転車に乗って登場する若い娘(深谷由梨香)がこの集団に新人として入団する。
    また、互いに首輪で繋がった嫁姑(山崎ルキノ、羽場睦子)が夫・息子を捜しながらさまよったりする。嫁は盲目のようで色つきの眼鏡をかけたまま。演じる山崎は結局最後まで目を観客から隠したままだった。この二人の関係にも盲導犬という動物モチーフが感じられる。
    冒頭に登場した青年は、ビラ配りの男(芝博文)から顔写真をもらい、女を捜し始める。この不思議世界の案内役になってくれそうな気配もあったが、結局は彼もこの世界の一員にすぎず、混沌は増すばかり。やがてめぐり合った運命の女というのが実は自転車で現われた娘で、彼女が実は上の夫婦の亡くしたペットの犬でもあるらしい。

    思いつく範囲で内容を書き出してみたが、ディテールはごっそりと抜け落ちている。とにもかくにも濃厚な、松井周の妄想劇場。誰にでもオススメというものではないが私は面白かった。

    辻美奈子は映像のみの出演。作品の意図によるものか、それとも個人的なスケジュールや体調によるものなのか、その辺がちょっと気になる。

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    2009/11/07 11:56

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