Takashi Kitamuraの観てきた!クチコミ一覧

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かもめ

かもめ

新国立劇場

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/29 (月)公演終了

満足度★★★★

おもしろかった。トム・ストッパードの台本は、チェーホフの原作をほぼ生かしているのだが、微妙にブラッシュアップしてあって、愛すべき凡人たちの、片思いのすれ違いの連鎖がくっきりと浮かび上がった。

まほろば

まほろば

梅田芸術劇場

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

蓬莱竜太の劇にはまってしまった。今回は、女性の生理と出産をめぐるなんてことない話なのに、その赤裸々ぶりと旧家の沽券がぶつかって、えも言われぬ笑いを弾けさせていた。ぶっちゃけた女の会話を男の作家が書いていることに驚き。6人の女優たちのはじけた演技に拍手かっさいをおくりたい。
基本は日常リアリズムにたったせりふ劇。ケレン味が命のつかこうへい芝居とは対極にある。でもじみというわけではなく、取っ組み合いの喧嘩がみせばになったり、はっちゃけた芝居だ。我々と等身大の登場人物それぞれの人生、喜怒哀楽、不安と迷い、悩みと願いを、笑いとともに体験する2時間だった。
パンフレットにこの芝居の特徴を捉えるいい言葉があった。「この『まほろば』はもう、女優さんたちがどのような”声”を出すか、そこに尽きると思うんですよ」(蓬莱)、「子供とか結婚とか、そういう話をただ田舎に戻ってきて家族がしているだけ」(演出・日澤雄介)「私は初演の時、一読して『これがドラマになるんだろうか』と思ったの。(略)ドラマとして作り上げたら、結局岸田戯曲賞を獲ってしまう作品に仕上がったわけだから、やっぱりものすごく根源的で、そしてドラマチックな話なんだなってその時思い知りました」(三田和代)。

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

熱海殺人事件 LAST GENERATION 46

RUP

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★

言わずと知れたつかこうへいの代表作。膨大なセリフのマシンガントークの連続なのだが、ギャグと音楽と照明でメリハリをつける。名乗りと見栄の連続の末に、都会に出てきた女工と職工の、悲しい恋の叙情的場面が待っている。
つか芝居は、自然なリアリズムを追求する潮流に対する、もう一方の様式性と身体性を追求するタイプではないか。歌舞伎や野田秀樹に近いものを感じた。

LIFE LIFE LIFE

LIFE LIFE LIFE

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2019/04/06 (土) ~ 2019/04/30 (火)公演終了

満足度★★★★

二組の夫婦のウイットに富んだ社交的会話が、酒とイライラの力もあって、互いの弱点を刺激しあう、ジャブを応酬しあうボクシングのような一夜へと変わっていく。それでもシリアスというよりコミカルで、笑いの中で幕を閉じる。しゃれた脚本と、センスある演出家と、うまい役者がそろえば、たっぷりの笑いのなかに人生のほろ苦さも混じる、こんな口当たりの良い芝居ができますよ、という見本のような舞台。
似ている舞台としては、昨年見た加藤健一の徹底した笑いの「Out of Order」を思い出した。

若手と、その生殺与奪の権を握る上司のぶつかり合いという点では、先日の「ブルー/オレンジ」と通じるところもある。上司と部下の関係で互いの本音を、時にチクチクと、時にガツーンとぶつけ合う。惨めさも滑稽さもオープンにして笑いのめす闊達さは、日本には難しいだろう。それほど日本の上下関係は骨がらみというか、湿っぽくて陰気で、客観化しにくい

ネタバレBOX

他でも書いているように、同じシチュエーションから、それぞれ悲喜劇度の違う3つのバージョンを繰り返す。その違いの根本は、若い夫の性格と人生態度にあるように思った。心構えひとつで、どん底から希望の光まで3つのパターンがありますよと。
パターン1は、若い下っ端天文学者の夫が最初から最後まで、人事権を持つ上司に卑屈にへつらいきっている。それがために「運に見放された負け犬」と上司に影口を言われていたことに、大打撃を受ける。上司夫婦は勝ち誇って帰り、夫は妻にも見放されかけて終わる。これが45分で一番長く、実は、一番、見ていて笑える。面白い。やっぱり他人の不幸は蜜の味である。
二番目は、若い夫は地位は低いが精神的には自立的である。妻との関係も互いにリスペクトがあって良好。そのため、最後は、若い夫から上司に「あんたのような学会ハイソの人間の贅沢と傲慢には付き合いきれない」と先制攻撃する。上司とのあいだが決裂するのは同じだが、夫婦仲に危機を迎えるのは上司夫婦の方である。段田康則の上司は、あえなくともさかりえに不倫を断られるのも、若い夫の勝利と言える。このパターンから、大竹しのぶ演じる上司の妻が宇宙のロマンを語ったりして、意外な純な心の持ち主と描かれるのも興味深かった。
三番目は、最も円満で、実は最も面白みが乏しい(それでも十分面白いんだけれど)。外国の研究者に先を越されたらしいぞ、という上司の嫌がらせにも、若い夫はすでに情報を先に知っていて、逆に、優位に立つ。さらに友人からもっと詳しい話を電話で聞き、上司がくやしがるような、安心と確信を得る。「負け犬」でも「ダメ男」でもないのだから、平凡な幸福の予感で終わるのは当然である。
BLUE/ORANGE

BLUE/ORANGE

シーエイティプロデュース

DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)

2019/03/29 (金) ~ 2019/04/28 (日)公演終了

満足度★★★

精神病院での、二人の白人医師と、一人の若い黒人患者の、3人のパワーとして面白く感じた。統合失調症の治療法をめぐる対立、正義と保身の対立という風に、どこかに正解を期待していると、肩透かしを食う。
階級・人種などの社会的背景を絡めた少人数のパワーゲームというのは、イギリス演劇が好きな主題なのだろうか。ピンター「管理人」「誰もいない国」、ヘア「スカイライト」と、最近見た舞台がいくつも連想される。
濃密な会話に2時間半(90分、休憩15分、65分)どっぷりつからせられる、見終わってくたくたになる芝居である。

ネタバレBOX

最後は、若手医師も自分のキャリアが、黒人患者のせいで台無しにされたとぶちぎれて、押し隠していた差別心をさらけ出す。一瞬だけれど、怖い一瞬だ。患者は家に帰り(治ったわけでもないのに)、のこった医師二人のゲームが続く。最初は若手が恭順しなおそうとしたが、上司に「ほんとはお前のこと嫌いなの」とはねつけられ、それならと若手が「管理委員会に上申書を出します」「書き方を教えてください」と徹底抗戦の構えに転じ(つつ、和戦も用意?)、幕。ハッピーエンドどころか、泥沼の戦いはまだ続く。
ミュージカル『はだしのゲン』

ミュージカル『はだしのゲン』

Pカンパニー

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/04/03 (水) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

あれだけ有名な漫画を舞台にしてどうなるのかと、全く期待しないでいったが、予想を裏切る素晴らしい舞台だった。父との麦踏みの場面、病弱な母に食べさせる鯉をつかまえる場面など、コロス(黒子)たちが麦(!)や鯉を演じる破格の見立てを使うが、これがこの舞台の、肝である被爆の場面で生きてくる。最低限の装置でシンボリックに描くことで、観客の「想像力」でリアルな被爆シーンを立ち上げるのである。
 その後も、随所でそうしたシンボリックでありながら、リアルさを感じさせる演出がさえている。

 しかも本当に無駄がなくてテンポがいい。休憩なし1時間55分で戦前の幸せな暮らしから、被爆シーン、戦後の焼け跡から、母の出産と悲しい分かれ、新しい出発までを、見せる。ほかにも、被爆して自暴自棄になったが学生を立ち直らせる場面や、朝鮮人差別(加害者としての日本人の側面)の問題まで描いている。飛ばしたなー、という感じは全然なく、それぞれのシーンがたっぷりとした見ごたえ、歌の聞きごたえがあるから、大したものである。

 ゲン役のいまむら小穂(民芸)が、気合の刈り上げヘアで、実年齢を20歳以上若返らせる子ども役を見事に演じていた。舞台の成功の柱は彼女の元気なゲンに追うところ大きい。またゲンの弟と、新しい弟の二人の女優もやはりよかった。同じ女優の一人二役かと最初思うくらい、実際似ていて、びっくりした。
父母を演じた俳優座の加藤頼と有馬理恵のコンビもはまり役で、新しい持ち役になるものと思う。

著名な辛口劇評家も、終演後「本当によかったよ」としみじみ言っていた。友人も「心洗われる舞台」と言っていた。

ネタバレBOX

ゲンの父を「戦争に反対している非国民」と隣近所の人が批判するが、こんな戦争末期に反戦運動などするわけないし、何をもって「戦争に反対」というのか、少し首をかしげた。竹やり訓練や、空襲消火訓練に出てこない、日本はまけると話しているというくらいである。「戦争に反対」と、当時みなしただろうか? 少し現代の視点から意味を盛り込み過ぎでは? 「敗戦主義者」とか「非協力的」というくらいではないだろうか。
つながりのレシピ

つながりのレシピ

秋田雨雀・土方与志記念 青年劇場

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2019/04/05 (金) ~ 2019/04/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

寂しいくせに強がりの男やもめが、亡妻に導かれるようにして、今まで見下していた元ホームレスの青年たちと、心通わせるようになる上質のホームドラマ。プライドだけが支えの実は弱い夫を、葛西和雄が好演。彼の何気ない一言、予想通りの頑迷ぶりに客席は笑いが絶えなかった。同時に、彼のいわば引き算の演技がすばらしく、何気ない所作でもなぜか涙腺が刺激されて、私はずっと涙目だった。私も薄っぺらな誇りを口実に、ふてくされている自分の姿を見出す気がしたからだろう。(友人は、葛西和雄のはげ上がった額もふくめ、向田ドラマの杉浦直樹のようだったと。そのとおりと、私も膝を打った。)

ケレン味ない正攻法のリアリズムで、自宅のパン屋は寅さんの団子屋のような人情あふれる日本人のふるさとに一変。笑いと涙でほんわか浄化されるような、まさに理想的な観劇体験だった。
相方の、亡妻のパン作り友達だった肝っ玉おばさんを藤木久美子が貫禄で演じた。とにかくいまの青年劇場の二枚看板のふたりがすばらしい。
モデルになったホームレス支援団体「てのはし」の年末年始の炊き出しを取材したばかりだったので、一層身近に感じられた。こういう活動に献身する人に改めて頭が下がる。
また元ホームレスや支援団体への、周囲の無理解の壁も描かれていた。「みんな仲良し、世はこともなし」では済まない複雑な日本の現実を考えさせるものだった。
統合失調症の幻聴に、「幻聴さん、幻聴さん。今日は私たちがいるから大丈夫です。安心してお帰りください」などという呪文は、病気をユーモアで包み込む素晴らしい知恵だった。生活保護が貧困ビジネスの餌食にならないように、受給者にまず「ハウジングファースト」というのも初めて知った。細部に丁寧な取材が生きていると感じた。
上演時間2時間5分(休憩なし)という手頃な長さも、客席では好評だった。

水の駅

水の駅

KUNIO

森下スタジオ(東京都)

2019/03/27 (水) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

この芝居のことは扇田昭彦『日本の現代演劇』(岩波新書)で知った。その絶賛ぶりで一度見たかったのが今回実現した。ただ、感想は「?」という感じ。セリフのない沈黙劇から意味を汲み取るのは難しい。そもそも言葉にできるならセリフにしたほうがいいわけで、ここでは言葉以前のなにかを感じるべきなのだろう。
舞台中央に壊れた蛇口があって、水が細く垂れ続けている。右奥から一人、あるいは二人と俳優が現れては、水を飲み、そこで何事かを演じて、また去っていく。その繰り返し。

人は来りて人は去る、それが輪廻のように続いていく、生命の無限の繰り返しを描いたともいえる。100人の観客がいたら100通りの解釈があっていい。
群衆たちのけんか騒ぎでは、一発の銃声(舞台ではびんた)で平和は破れる、平和のもろさを思った。しかし人間の戦争も、終わってしまえば一陣の嵐に過ぎない。「国破れて山河あり」「夏草や兵どもが夢のあと」である。
ぼろ服の疲れ切った男女が、服を脱ぎ棄てて沐浴し合う。そして憎しみも愛もそれまでになく高まって、半裸で絡み合う。この場面が一番印象的だった。水が与える生命力、あるいは浄化を感じた。

観終わった直後は、もういいと思ったが、こうして考えているとまた観たくなる。不思議な舞台である。

黄色い叫び

黄色い叫び

トム・プロジェクト

こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ(東京都)

2019/03/20 (水) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★

中津留劇は悲劇や大きな犠牲を払って終わることが多いのだが、この作は大水害に見舞われたことにより、人間同士の絆が深まり、友情も家族愛も再認識される。このハッピーエンドの後味の良さが2011年の初演含め、今度で4回も上演されてきた人気の秘密ではないだろうか。
最初の、地方と都会の「命の値段」の違いがあるから、地方の災害対策にお金をかけられないという議論は、地方の当人たちが言うところに切なさがある。
水害が起きた後半の、本音丸出しの独身農業男性の姿も滑稽で哀れで凄みがあった。ここまでやるかと驚いた。
ろうそくの火について「黄色く明るいのは、不完全燃焼しているからなんだ」と言うセリフが、不完全でいつも中途半端であがいている私のような人間にも、周りに役に立つところがあるのかなと励まされた。

パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数第45項 「Das Orchester」

パラドックス定数

シアター風姿花伝(東京都)

2019/03/19 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

いま大注目の野木萌葱作品7本連続公演の最終回。学生時代に書いた本を改訂したそうだが、そんな未熟さは感じられない。いつの間にか2時間たっていた。緊迫感がずっと途切れない、無駄のない芝居だった。

名前は出てこないが、フルトヴェングラーが、ナチスによるユダヤ人排斥と音楽の国家管理に闘う物語。
フルトヴェングラーというと、ナチス協力を指弾されたことしか知らなかったので、こんなことがあったのかと思うと、事実であった。1933年1月のナチス政権獲得から2ヶ月間ほどの出来事。ナチの将校が「あなたほど、矛盾した人物はいない」というように、その後、ナチ体制の中で生き延びていくフルヴェンの協力と抵抗の綱渡りはきわめて複雑である。

見ながら、昨年の私の個人的ベスト1「シング・ア・ソング」(古川健・作、日澤雄介・演出、戸田恵子主演)との共通点がいくつもあることを発見した。こちらは淡谷のり子をモチーフにした、軍の命令に精一杯の抵抗をする歌手の話である。対立軸が似ているのと、音楽好きの憲兵という、敵の中の隠れた味方が、物語の鍵になっているところなど。作劇の発想に共通するものがあるのだろう。

ネタバレBOX

些細なことですが、フルトヴェングラーは長身やせ型という覚えがあるものだから、すこし太り気味の俳優が演じているのは気になった。だから悪いというわけではありません。
マクベス

マクベス

劇団東演

シアタートラム(東京都)

2019/03/24 (日) ~ 2019/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★★

斬新で現代的な演出が、マクベスの野心と転落のドラマを、緊張感と迫力ある舞台に実現した。キムラ緑子のマクベス夫人が邪心ない悪女を演じて、運命の皮肉を強く感じさせた。「母と惑星について」に続くすばらしい好演だった。音楽も兵士・騎馬たちの行軍にかかるアップビートな曲、暗い運命を示す不気味な低音の曲など、非常に効果的だった。一貫して闇が残る照明もいい。

演出したロシアのユーゴザーパド劇場のワレリー・ベリャコーヴィッチは2年半前に亡くなっている。この作品をロシアで再演した初日に心筋梗塞で倒れたそうだ。享年66歳。彼については思い出がある。2000年に同劇団が来日した時に、「朝日」の紹介記事に惹かれて「どん底」を見にいった。あのつまらない(失礼!)「どん底」を、こんなにかっこよく、面白くやるのかと、驚嘆したことを今でも覚えている。大胆なテキストレジー、ダンス、群舞、モブシーンなど演劇の身体性を前面に出しつつ、セリフの力をここぞというところで押し出すメリハリ、シンプルな舞台・衣装で俳優に集中し転換も早く、光と闇を効果的に配した照明など。そうした特徴は今回の舞台でも変わらなかったし、より一層進化していた。

十数年、観劇から離れていたので東演がベリャコーヴィッチの指導を受けて多くの成果を上げていたことを知らなかった。今回、彼の遺作をこうして見ることができたのは幸運だった。

こそぎ落としの明け暮れ

こそぎ落としの明け暮れ

ベッド&メイキングス

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2019/03/15 (金) ~ 2019/03/27 (水)公演終了

満足度★★★

昨年の岸田戯曲賞受賞ということで、初めてこの作者と劇団を見に行った。パーツパーツは面白いところもあるのだが、全体としては話が分裂していて、よくわからない印象。メインプロットだけでなくサブプロットも絡ませるのはシェイクスピアがよくやった手法だが、今回は二つ(あるいは三つ)のプロットがお互いに無関係過ぎた。そのうえ、俳優もみな全力投球で、すべてのプロット・役が自己主張している。とっ散らかった感が強かった。

ただし、言葉遊びや詩的言葉、比喩、ギャグ、下ネタ、人生論などごった煮ではあるが、多彩なセリフに才能を感じた。岸田賞を受賞したのはこういうところだろうか。

岸田戯曲賞を受賞した舞台「あたらしいエクスプロージョン」のDVDと戯曲を買って、帰ってから見た。これは傑作だった。ホンもよかったが、八嶋智人のコミカルで柔軟な演技もさえわたっていて、おすすめです。

血のように真っ赤な夕陽

血のように真っ赤な夕陽

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2019/03/15 (金) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

満蒙開拓団の悲劇だが、あえて辛口で言わせてもらえば甘い。主人公たちは善意の開拓団で、「満人」から慕われ、敗戦後の窮地を助けられる。こういう開拓団もあったのだろうが、幸福な例外だったろう。満人を差別的に扱い約束も守らない傲慢な開拓団や、集団自決で全滅した開拓団の話も出てくるが、隣の開拓団の話として、伝聞でしかない物足りなさは残る。(ただ、それを舞台で血みどろで演じるのがいいか、というのはまた別の話であることも分かる)

最初に不満を書いたが、いいところももちろんたくさんある。「誰か故郷を思わざる」の歌は聞いていて、しみじみした。ベテラン岩崎加根子もよかった。特に、体を張って満洲人を守るところ、集団自決に思いつめた仲間をひとまず和ませるところ。集団自決で同胞を殺してきた役の、谷部央年のすごみはまさに鬼気迫った。満洲人のリーダー役の渡辺聡も、被支配民族の苦しい立場と誇りをよく演じていた。

30万人の開拓団のうち9万人が犠牲になった(27万人中8万人犠牲という説もある)、そのうち1万が集団自決という。同じ満洲でも都市部の日本人とはレベルの違う、開拓団の悲劇の構造と政府・軍の責任があぶりだされていた。藤原てい「流れる星は生きている」なかにし礼「赤い月」など、引き揚げ体験を書き記す人は、都市にいたインテリ層(あるいはその子弟)が多い。そういう点でも、改めて満蒙開拓団の悲劇を現代の観客に追体験させた意味は大きい。

新・ワーグナー家の女

新・ワーグナー家の女

劇団 新人会

上野ストアハウス(東京都)

2019/03/20 (水) ~ 2019/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★

戦後もナチス協力を反省しない母(大ワーグナーの息子の妻・ヴィニフレッド・ワーグナー)と、亡命してナチス批判を展開した娘フリーデリント・ワーグナー(愛称マウジ=ハツカネズミ)の対話劇。予備審問の場の米軍人たちが、場面場面で役を変えながら、コロスの役割をする。ほぼ二人の回想の語りで終始するが、なんといっても素材となった歴史と人間関係が劇的だし、ワーグナーという偉大な芸術家の一族への興味もあって面白く見られた。
後半、ガス室で死んだユダヤ人たちをコロスたちの群舞で見せる。少し長すぎる気もするが、悶え、あがき、脱出を求めながら死んでいく姿が、セリフの裏の悲劇を語っていた。
また、作者福田善之は、日本の朝鮮人迫害にもきちんと触れ、それは朝鮮装束の男の悲しい踊りで示した。ただの海の向こうの話にしていない。ほかにも過去の話にしてはいけないという意識が随所に見られた。休憩なし1時間50分

ネタバレBOX

娘マウジの最後のセリフ「やはり言っておかなければならない。私はリヒャルト・ワーグナーの音楽を愛している。しかし、もう一方で、ワーグナーのように巨大でも医大でもない、多くは心貧しく不幸な人びと運命を思う。私もその一人なのだから」がよかった。心貧しい不幸な人間の一人である私のことを、優しく認めてもらえた気がした。
空ばかり見ていた

空ばかり見ていた

Bunkamura

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2019/03/09 (土) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

初めての岩松了だったが、「静かな演劇」の草分けと思っていたのに、全然違うテイストだった。それでも、細かい男女の機微や、指導者と女房役、捕虜と兵士などの関係を丁寧に描くところがこの人の持ち味なのだろう。ただ、全体としてはわかりにくい。とくにラストは迷路の中に置いてきぼりにされたような不全感が残った。とでパンフをみると、いつも難解といわれているさっかのようなので、今回だけではないようだ。

ネタバレBOX

観客席は30ー50台の女性客95%という感じで、森田剛目当てで満員だった。こういうキャスティングなら工業的には心配ないわけだが、私には「なんだかなー」という、違和感がある。演劇としての完成度で勝負する、そういうキャスティングも望みたい。私は勝地涼がよかった。
2時間50分(休憩15分込み)と思った
糸井版 摂州合邦辻 せっしゅうがっぽうがつじ

糸井版 摂州合邦辻 せっしゅうがっぽうがつじ

木ノ下歌舞伎

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2019/03/14 (木) ~ 2019/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★

すごいものを見た。とくに後半、玉手=お辻のが実家に帰ってから後は、全く緩む所のない、圧巻の舞台だった。他の人も書いているが、玉手役の内田慈の妖気まじりの一途な自己犠牲の迫力はすごかった。てがみ座の「海越えの花たち」にも出ていたそうだが、全然別人で、その演技の幅にも驚いた。
「合邦が辻」は他に見たことないのだが、現代語も交えてわかりやすい脚色。玉手の執念の一事に焦点を当ててまとめたところがいい。幼時の父と娘の幸福な日々の回想などは、上演台本で補筆したものと思うが、少し舞台の気迫を削ぎかねないところを、帰って情愛の深さ・広さを実感させるものになっていた。
木ノ下歌舞伎も演出の糸井氏も注目すべき才能である。
休憩なし2時間15分

SWEAT

SWEAT

劇団青年座

駅前劇場(東京都)

2019/03/06 (水) ~ 2019/03/12 (火)公演終了

満足度★★★★

製造業が海外へ流出していくグローバル化の時代に、アメリカ中西部の労働者たちの苦悩と不満のマグマをほとばしらせた舞台。親友だった3人の女性工場労働者(うち一人が黒人)が、そのなかの黒人女性の昇進から妬みが生れ、関係がきしみはじめる、そこに工場のメキシコ移転と人員整理・賃金カットが持ち上がり、その汚れ役を黒人女性が担わされて関係は完全に決裂。続いて息子たちに焦点が移り、かれらは工場移転やスト破りに対して暴力的な行動へ走っていく。そして……。

2000年のスト騒動の1年間を中心に、つかみの「入り口」として、2008年に息子たちが刑務所から出てきた後日談をカットバックする戯曲の構成が見事だ。物語の展開も、人間関係の変化も簡にして要を得ていて、よくわかる。上に書いたように、芝居の軸が少しずつ(三段階に)ずれていきながら、全体として円環をなす。多少図式的なところはあるが、現実がそうなのだから仕方がないだろう。セットのチェンジが多いのだが、テンポを妨げなかった。スタッフさんお疲れ様でした。
2時間50分(休憩15分込み)と、長いのだが、全く飽きなかった。

ネタバレBOX

観劇しながら、日本のことを考えた。と言っても、人種問題は日本では難しいな、というようなことではない。
アメリカのラストベルトの白人労働者たちの不満がトランプ大統領を生んだという。しかし、彼らはこの芝居の登場人物のように、工場閉鎖に反対してストをやり、ピケを張りたたかっている。日本では、日産ゴーンが何万という人員整理をやっても、ストもピケも何も起きていない。

もちろん、ジェイソンやクリスのように、アメリカの労働者たちは、たたかったが故の犠牲も大きかった。日本は解雇されてもまだ退職金積み増しや、転職先のあてがあって、追い詰められていないのだろうか。たたかうアメリカとおとなしい日本と、はたしてどっちがいいのか。彼我の違いを考えさせられた。
熱帯樹

熱帯樹

世田谷パブリックシアター

シアタートラム(東京都)

2019/02/17 (日) ~ 2019/03/08 (金)公演終了

満足度★★★★★

詩的なセリフの底にポッカリと死の淵が口を開けて待っている、耽美的な三島由紀夫ワールド。中嶋朋子、岡本玲、栗田桃子の女優陣が光っていた。矛盾した心境を語りながら、どっちが仮面でどちが素顔なのかもわからなくなる、虚々実々の心理的駆け引きが見事。男優陣ももちろんいいのだが、女性の力に翻弄される哀れな姿をよく演じていた。

一家の主人の鶴見辰吾は、妻の中嶋朋子を人形のように支配していることになっているのだが、実は妻の方が一枚上手。奴隷こそ主人の生殺与奪のカギを握る「主人」であり、主人は奴隷によって生かされている「奴隷」だという弁証法的関係を見事に示していた。息子の林遣都は文句なしにかっこいいが、芝居では最も受け身な存在だった。

昼の回だったが、観客は女性が9割以上。30代から50代の女性が中心で、明らかに林遣都目当て。シアターコクーンの「唐版風の又三郎」も、窪田正孝のファンの熱心さには驚いたが、今回も若いイケメンへの女性の熱心さには驚くばかり。

母と惑星について、および自転する女たちの記録

母と惑星について、および自転する女たちの記録

パルコ・プロデュース

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/03/05 (火) ~ 2019/03/26 (火)公演終了

満足度★★★★★

素晴らしい舞台だった。再演だが、今年第一四半期のベスト。笑いあり、哀しみあり、愛あり、希望あり。初演では鈴木杏が読売演劇大賞最優秀女優賞をとったが、今回の再演では他の女優もそん色ない。母親役がキムラ緑子にかわり、どうしようもなくジコチューだが、素直で憎めない母親を好演していた。また三女役の芳根京子も大変良かった。初めて見たが、いっぺんでファンになった。
長女の田畑智子が、イスタンブールで詐欺にあい200万のじゅうたんを買わされる出だしも傑作。サイコー

世界は一人

世界は一人

パルコ・プロデュース

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2019/02/24 (日) ~ 2019/03/17 (日)公演終了

満足度★★★★★

何といっても役者がいい。ちょっとした間や所作で、舞台が一気に活気づく。演劇はまず俳優を見るものだと再認識させられた。話としては幼なじみの三人の男女のの20余年ということになる。この縦糸に、いじめやひきこもりや、初恋と失恋や、親たちの不幸な死や、えげつない東京生活やが横糸としてからむ。この横糸のエピソード一つ一つが結構切なくていい。これら印象的な横糸が、経糸でしっかりつながっていることがこの舞台の骨格を強くしている。
音楽劇であることもよかった。セリフは少なめなのだが、パフォーマンスとして楽しめたし、メッセージとしても伝わるものがあった。「知らない人でいこう 出合いなおそう」なんてフレーズはぐっとくる。
多分台本を読んでも何もわからない芝居。俳優が演じ、歌い、ひとつの舞台になって初めて見えてくるものばかりだった。DVDかテレビ放送があればぜひまた見たい。

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