ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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骨と肉

骨と肉

JACROW

シアタートラム(東京都)

2025/06/19 (木) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何となく大塚家具のお家騒動は知っていたが、そこまで興味はなかった。2014年から2015年に掛けて世間を賑わせた創業者一族による骨肉の争い。2017年に舞台化。

メチャクチャ面白い。
開幕からリングアナ(日替わりゲスト)の口上で選手入場。第2次UWFの全選手入場式を思わせる興奮。UWFのテーマ曲が欲しいくらい。プロレスチックなコスチュームで登場する役者陣。プロレスラーのアピールを模したジェスチャーで観客を煽る。新日本プロレス対UWF5対5イリミネーション・マッチの様相。ステージはもろにロープの張られたリング。舞台の端に津軽三味線・楽風(がくふう)の二人が上手下手に分かれて生演奏。リードギターとサイドギターのように音の組み合わせが練られていて見事。

主演の社長・川田希さんは女子プロレスラーっぽく華やか。最初から最後まで光り輝く美人、まさにエース。いい女だな。厚底スニーカーもキュート。
対する父親である会長・谷仲恵輔氏はいつもながらに最高の出来。
銀行マン出身の社外取締役・中村ノブアキ氏は劇団主催で脚本演出も兼任。それでいて持ち味の妙味で笑いもかっさらう凄腕。
実はかなり重要な存在である主人公の妹、専業主婦の福圓美里さん。こういう複雑な立ち位置を演らせると嵌る女優。彼女の存在がこの物語に文学性を与えている。
その旦那である取締役・狩野和馬氏もキーマンに。
会長ベッタリの本部長・芦原健介氏は橋下徹っぽい胡散臭さ。

見事なるエンターテインメント。観劇好きで今作を観れなかった人は不運だろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ラストシーンは印象深い。自分とは違う他人の意見も真摯に聞くことができたなら。自分の中にはなかった意見にこそ生きるヒントがあるのかも知れない。お互い歩み寄れればもっと良い結果があったのかも知れない。だが他人ごとだとそう思えても自分ごととなるとうまくいかないもの。

株主総会で敗れ、会社を辞めた会長は長男と2015年、新会社「匠大塚」を設立。高級路線を突き進むもどうにも先行きが見えない。
大塚家具は業績悪化の為、2022年ヤマダデンキに吸収合併された。
ニトリ、無印良品、IKEAに食われた日本の家具業界。
リチャード三世

リチャード三世

義庵

新宿シアタートップス(東京都)

2025/06/15 (日) ~ 2025/06/22 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

シェイクスピアの初期作でデビュー作とされる『ヘンリー六世』三部作の続編。15世紀にイングランドで起きた薔薇戦争がモチーフ。赤薔薇の紋章・ランカスター家のイングランド王ヘンリー六世に対し、白薔薇の紋章・ヨーク家のヨーク公リチャードが反乱を起こす。30年続く凄惨な内戦の中、ヨーク家のエドワード四世が王位に付く。その弟、リチャード三世は生まれつき傴僂で跛、この世の全てを憎み自分の欲望を満たす為ならどんな残虐非道なことも平気で出来る邪悪の化身。嘘をつき罠に嵌め家族も仲間も簡単に裏切る冷血な人非人。このリチャード三世が地獄の太閤記さながら成り上がった末、惨めに破滅していく姿を描く。

リチャード三世、加藤義宗氏は劇団印象の鈴木アツト氏っぽい。傴僂でも跛でもなく、『ハウス・ジャック・ビルト』のマット・ディロンを思わせる長身細身のナルシシスティックなサイコパス。自分さえ良ければ何だっていい完全に頭のイカれたキチガイ野郎。このキチガイに妙に気品があり、少々間の抜けた人間味さえ感じさせるところが巧い。
MVPはバッキンガム公・津村知与支(のりよし)氏か。邪悪なアシストの汚れ役、屑を神輿に担ぎ天下を取らせる見事な女房役。ガッチリ笑いを取っていた。
イングランド王妃エリザベス、日下由美さんは綺麗だったな。
渡邊りょう氏にはヒース・レジャーを感じるときがあり、ジョーカーのような嵌り役を見付ければ役と共に死ぬような危うさがある。
のぐち和美さんは流石だな。声色だけで只者じゃないと観客を黙らせる。毒々しくキメるスパイス。トリカブト役者。

役者陣は強者揃い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

悪党三昧の舞台に『仁義なき戦い』を思い出す。広島抗争の中心に立ったヤクザ、美能幸三が刑務所に収監された7年間で書いた獄中手記。自分の見てきた洗いざらいを全て曝け出した。親分であった山村辰雄の金と欲と色に任せた醜態を赤裸々に暴き、任侠道なんてものは内実こんなものだと世間に喧伝した。それを噂に聞き、入手した「週刊サンケイ」が飯干晃一に解説文を付けさせて「仁義なき戦い 広島やくざ流血20年の記録」として連載させる。その面白さに唸った東映の岡田茂社長が映画化を決定。アメリカではジョゼフ・ヴァラキが司法取引によりFBIにマフィア(コーサ・ノストラ)の情報を知る限り供述。世間に謎とされてきた組織の内情が到頭明かされ大衆に衝撃を与える。マリオ・プーゾが事実を元にしてマフィア一家を描いた小説『ゴッドファーザー』がベストセラー、映画化して大ヒット。岡田茂社長は日本でも実話を元にヤクザ映画を作るべきだと睨んだ。登場するモデルになったヤクザ達がまだ存命の時代、身の危険を感じながら取材しまくった笠原和夫の魂がこもった脚本。広島抗争とは大組織であり全国制覇を目指す山口組と本多会が後押しをした代理戦争でもあった。アメリカとソ連に支援されて朝鮮やベトナムで現地の民族同士が延々殺し合いをさせられた時代。広島で生まれ育った者達が神戸の大組織の命令で敵味方に分かれ延々殺し合う姿。実際は書けないことが多過ぎた。(晩年の山村辰雄は痴呆症だったのでは?と言われている)。
話としては美能幸三が親分である山村辰雄に騙され裏切られ使い捨てられひたすら散々な目に遭う物語。主演・菅原文太は組長・金子信雄とその取り巻きの田中邦衛、山城新伍の屑っぷりを憎み罵り怒り狂う。だが映画が大ヒットして全5作製作されていく内に段々と観客に変化が訪れる。悪役である金子信雄、田中邦衛、山城新伍が屑っぷりを見せ付ける度にどっと沸くのだ。待ってました!と。愛すべき屑っぷり、製作陣も思いも寄らぬ妙な魅力の創出。これにより『仁義なき戦い』シリーズは永遠に残る作品となった。

津村知与支氏の演じたキャラクターに似た感触を覚える。リチャード三世もイケメンニヒルではなく、金子信雄的に演ってこそ日本文化ではないか。金子信雄、田中邦衛、山城新伍にこそシェイクスピアを託したい。

隠し芸大会のように次々と何役も兼ねて役者が登場。一つだけのセット、普段着のような衣装も含めそれでも今作を最後までこなすことが目的の舞台なんだろう。そうなると演出が物足りない気も。あの手この手のアイディアで手を変え品を変え笑わしてごまかしてこそだろう。歌に踊りにコントに、遣り口は幾らでもある。一本調子じゃ観てる方も辛い。どういう作品にしたいのかハッキリしていない感じ。居眠り客は開幕から多く、客層もよく判らなかった。
燃える花嫁

燃える花嫁

名取事務所

吉祥寺シアター(東京都)

2025/06/11 (水) ~ 2025/06/15 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

昨年、この作家の『日曜日のクジラ』を観てイマイチだった。今回も前半はハマらずこの作家とは相性悪いなと感じたが最後まで観ると本物。もっと受け狙いの兄ちゃんかと思っていたがガチガチのマジの人。本気で真剣に世界と取っ組み合おうとしている。今、2025年だぜ。ああ本気なんだな、この人。名取事務所がオファーする訳だ。
実はもの凄く古典的な物語。余りにオールドスクールで驚く程。ポル・ポト、チェ・ゲバラ、毛沢東、金日成、ウラジーミル・レーニンにカール・マルクス···、PUNK ROCKでも構わない。とにかく今の自分の思考回路を支配する鉄の掟のような価値観から自由に導いてくれる風であるならば。

凄いのは構成。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』の『DEATH』編を思わせる。これはTVシリーズ24話の総集編なのだが初見の人には全く解らない作り。各登場人物が死ぬ間際に見る走馬灯のようなスタンス。解らなくてもいいから感じてくれ、みたいな作風。勿論今作はきちんと解るようにしっかり作られている。逆にこの構成にした作家の意図こそがミステリー、その謎を観客が頭の中で解いていく作品。

MVPは鬼頭典子さん。この人のキャパシティは想像を絶する程大きい。有り得ない役を振れば振る程開花する。
そして森尾舞さん。この役を女性にしたことが大きい。
更に平体まひろさんは流石に凄い。時系列でルックスを変えてみせる。本当に心が生き生きと生命を謳歌し羽根を天空に開いてみせた時の美しさ。

テーマは『移民と差別』。もろクルド人の物語として受け止めた。正解のない世界でせめてもの擦り合わせで作る、よりマシな答。ラストのタイトルロールは鮮烈。
是非観に行って頂きたい。

うず 螺旋とリズム

うず 螺旋とリズム

大駱駝艦

座・高円寺1(東京都)

2025/06/05 (木) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

中央に観客に背を向け蹲る田村一行氏。一段上に天井から垂れ下がった鈴緒に似た綱が11本。それぞれ女7人、男4人が立つ。韓国の死装束、寿衣のような格好。地鳴りのように鼓動に合わせ揺れていく。死人を操って踊らせているようにも見える。ブードゥー教の「死者の日」の儀式にも。ゾンビをレイヴ系フェスに解き放ちヘドバンさせる試み。今回は選曲がノリノリで良かった。暗黒舞踏はリズムとリフが重要。綱をぐるぐると回転させていくと新体操のリボンのようにくるくると輪を描く。

魔境に陥った禅僧のように繰り返される五体投地。ヨーガの修行に明け暮れる強迫観念に囚われた統合失調症患者。オウム真理教の道場で自分という概念を自らが壊す修行。暗黒舞踏とは解放である。肉体からも精神からもそのどちらにも含まれない別の何かからもただただ解放されたいのだ。解放の為の必死の足掻き。人間が本能的にずっと望んでいるものは解放なのか。

外人客が熱狂的に観ていた。
山海塾の天児牛大氏も亡くなり、これからの時代を担う田村一行氏への視線は熱い。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

後半は新体操のリボンのように竹に赤いリボンが付いたものをおかめ(おたふく)お面の5人が振り続ける。

高桑晶子さん ギョロっとした眼、瞬きをしない。
坂詰健太氏 妙にダンディな色気。
松田篤史氏 「ミャアー」「おおおおお」掛け声が唸る。
小田直哉氏 反社の面構え。
荒井啓汰氏 小柄で岡村隆史のようにスピーディー。
谷口美咲子さん 美脚。
田村一行氏 ビートたけし風痙攣ダンス。
『流浪樹~The Wanderer Tree~』

『流浪樹~The Wanderer Tree~』

ゴツプロ!

本多劇場(東京都)

2025/06/02 (月) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

観ていて謎が多い。ゴツプロ!好きなんで頑張って欲しい。

ネタバレBOX

失敗作だと思う。この脚本でOKだとは思えない。中津留章仁氏の脚本の粗筋と全く違う。『戦時下の台湾の志願兵訓練所、日本人と台湾人とが友情を育む。日本人はその台湾人の姉とも関係を結ぶ。そして戦地に赴く二人···。十数年後、もう戦争は遠い昔、突然日本人のもとに台湾人の姉が会いに来る』。
そんな話の名残りすらない。相当揉めたのだろう。中津留章仁氏が体調上の名目で降板、共同脚本名義で沈琬婷(シン・ワンティン)氏が改稿、演出を泉知束氏が。
中津留章仁氏のことだから「台湾有事」に関わる内容だったことは推測できる。80年前に終わった物語ではなく、眼前に差し迫った戦争に対しても毅然とした選択ができるのか突き付けたのだろう。今作は台湾公演も決定している。流石に上演不可な内容だったのでは?(個人的妄想です。全くの思い違いであったならば申し訳ございません)。

近未来の設定にして、中国が台湾包囲・封鎖作戦を発動、海上封鎖によって二週間程で台湾のエネルギー資源は枯渇。日本の助けを信じる台湾人。だが日本人は何とも思わず見捨てるだろう。台湾の為に戦争を始める選択はしない。その現実と台湾人が日本を信じる根拠になった過去の歴史をオーバーラップさせていく。そんな作品が観たい。

佐藤正和氏が他人の台詞の遣り取りの場面で我慢できず咳き込むのは珍しい。
渡邊聡(ただし)氏のキャラこそ本筋に絡めるべき。
話を無理矢理終わらせる為の⻘⼭勝氏の台詞は流石に酷い。名優が可哀想だ。
秘密

秘密

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2025/05/30 (金) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

用松亮氏と安川まりさんの父娘漫才からスタート。十八番の遣り取りに「待ってました!」と観客がどっと沸く。用松亮氏はずっと誰か架空の人間の物真似をしているようにも見える。
「なに?」(煙草の“ヤニ”のようなイントネーション)。
「ああ、そうなの」
「なあんだろ」
耳が遠いのか何度も聞き返す。同じ話を何度も繰り返す。日常風景の中にカメラをぶち込んで狙っていない笑いを掘り起こすような作風。
初演はコロナ真っ只中の2022年4月。その前に二度中止の憂き目に遭っての上演。

実家、茨城県の母親(坂倉なつこさん)が高熱を出して入院。家事が全く出来ない父親(用松亮氏)の世話の為、東京で結婚している娘(安川まりさん)が帰郷。子供はなく、仕事は在宅テレワークを会社が許してくれた。買物をして食事の準備、掃除と洗濯に庭の手入れまで。腰を痛めた神経質で口うるさい父親(用松亮氏)にイライラしながらも。

母の姉の息子、吉田庸氏は「さらば青春の光」の東ブクロっぽい。隣人の巨体・渡辺裕也氏はインディーレスラーに居そう。
坂倉なつこさんの病院のシーンは必見。もう役者が演じているとは思えない程のリアル。

安川まりさんはこのまま行けばとんでもない女優になる筈。

次作はいよいよ12月にシアタートラム。用松亮氏と安川まりさんも登場。この前に皆観た方がいい。チケット取れる内に小劇場で味わうべき。今なら間に合う。

ネタバレBOX

静かで小声なシチュエーションが多い為か、居眠り客多数。だが笑いの多いサーヴィス散りばめた作品だと思う。

肝となるシーンは、坂倉なつこさんが退院して安川まりさんに庭の手入れの方法を教える。だがそれを見た用松亮氏は怒鳴り散らす。女房が無駄に無理して倒れたと思っていて「余計な事するな!」と叫ぶ。その大声に驚いた隣家の渡辺裕也氏石黒麻衣さん夫婦が何事かと乗り込んで来る。その遣り取りが恥ずかしくなった安川まりさんは頭に来て外出、夜遅く帰る。ずっと帰りを待っていた父母、食事を催促。今から支度するのか、手が痛くてもう嫌だと返す。指の関節が曲がらない程痛んでいるのだと。坂倉なつこさんがその指をさする。「あんたは生まれつき手が小さいから人よりも痛むのかね」。涙ぐむ安川まりさんは食事の支度を始める。

2ヶ月ということは9月10月なのか?

石黒麻衣さんは小説を書くべき。それを本当に才能ある奴が監督して映画化すべき。ホン・サンスかな。
ガマ

ガマ

劇団チョコレートケーキ

吉祥寺シアター(東京都)

2025/05/31 (土) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

初演は2回観ている。
池脇千鶴系の美人、清水緑さん。ガリガリに痩せて役作りに徹している。神々しい。
大和田獏氏が流石。
今回は初演台本の第一稿の設定を作品に戻し再構成。
役者がボロボロ泣きながら必死に訴える。戦争は嘘の塊、命以上に価値のあるものはこの世にないんだと。

ネタバレBOX

やはり違和感は拭えなかった。未来からやって来た者達がガマで死のうとする少女を必死に説得する話に見える。「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」とは「命こそ宝」の意味。全ては生きてその答を見付けないといけないと。悔恨も罪悪感も自責の念も死んで無にせずに生きて苦しむべきだと。少女は白旗を掲げて米軍に投降するラスト。
多分設定の説明に時間が掛かったのだと思う。80年前の沖縄戦を観客に理解して貰わないといけない。その為に語るべきことが多過ぎた。
「こんなもん皆嘘だ」と軍人から教師から清水緑さんを説得する。俺達が命を懸けて殺し合いをしているのは“嘘”の為だ。

「方便」による支配が日本の精神史なのではないか、と昔から考えていた。その最たるものが戦時下の「皇国史観」。大日本帝国が推進した「神国思想」。天皇は地上に降りて来た神の末裔、「現人神」として神格化される。呪術的宗教国家として国民に「国家神道」、「皇国史観」を強要した。神が造り給うたこの国に住まわせて貰っている臣民。その命さえ天皇陛下から預かったものだと。巨大な虚構が国民の思考を支配し、催眠にかけられたように死に向かって猪突猛進していく。皆嘘をつき自分を騙し死んでいく。死にさえすればこの支配から自由になれる。死のみが唯一の救い。

※(ここから余談)。
BC15世紀、現在のイランからアーリア人が現在のインド(とパキスタン)を侵略。ヴェーダ(知識)という世界観、死生観を導入した。それを基にバラモン教が誕生。この世に生きるものは全て、自らが行なった行為、カルマ(業)を因として次の世に生まれ変わる。無限に続く輪廻転生。現世が不幸なのは全て前世の報いである。この思想は不平等な世の中の仕組みを無理矢理納得させる為のものでもあった。厳しいカースト制度が敷かれ、差別が横行した。これは前世の報い、今生では我慢して徳を積み来世で幸せになろうと。支配者にとって都合のいい思想。

バラモン教ではこの世の真理を悟り解脱することで輪廻の輪から解放されるとされていた。BC6世紀、それを目指したのがゴータマ・シッダッタ。
ゴータマ・シッダッタはシャーキヤ族の王子。故に後、釈迦と呼ばれることとなる。
出家し二人の高名な思想家のもとで瞑想を体得したがそれでは悟りに至らないことを知って去り、苦行に身を投じる。修行僧達は快楽はこの世のまやかしで苦しみこそが真実だとしていた。苦痛を耐え抜いて怖れず死ぬことこそ、死への恐怖を乗り越えることだと。6年間、死とギリギリの苦痛と向かい合い苦しみ抜き、この先にも何もないことを知る。快楽に意味がないのと同様にその裏面である苦しみにも意味がない。目指すべき方角は快楽でも苦痛でもなく、また別のベクトル、中道だ。大いなるパラダイムシフト、菩提樹の下で瞑想を続けたゴータマ・シッダッタは到頭悟った。それは簡単に言うと「生きながら死ぬこと、死にながら生きること」だった。欲望の正体が苦しみであるならば欲望を遠ざけることこそ苦しみから離れる方法。世捨て人として生きること。
ブッダ(仏陀)は目覚めた人の意味。仏陀の教え=仏教。ちなみに密教=秘密仏教。
当時のインドの大国、マガダ国王、コーサラ国王に支援されたゴータマ・シッダッタの教団。彼の死後100年経ちインドを統一したマウリヤ朝のアショーカ王も国を挙げて帰依した。

しかしBC1世紀頃には衰退、形を変えたバラモン教であるヒンドゥー教が大衆の支持を集めていく。(最終的にはヒンドゥー教が残りインドで仏教はほぼ絶えた)。その理由は明白で仏教は苦しみから逃れる方法論を説いたもの。「幸せになる」とか「夢が叶う」とか「願いが叶う」等の御利益宗教ではないからだ。
〈19世紀、西洋で仏教が紹介された際、その思想哲学は虚無主義(ニヒリズム)、悲観主義(ペシミズム)と怖れられた。生きることにもっと前向きになるべきだと。賛美称賛したドイツの哲学者、ショーペンハウアーは「神を否定する無神論者」と糾弾される〉。

このままではゴータマ・シッダッタの見つけたこの世の真理が闇に葬られてしまう。そこで当時の僧侶達が作った足掻きが偽教、「法華経」を代表とする大乗仏教となっていく。「如是我聞(にょぜがもん)」とは「このようにゴータマ・シッダッタから私は聞いた」との意味。全ての経典に保証書のようにそれは書かれている。だが勝手に作った経典に「如是我聞」を記すのは許されない行為。「法華経」はAD50年から150年頃に作られたとされる。大まかに前期中期後期と、3グループがそれぞれ作成したのだろう。
「法華経」は自己正当化の為に「方便」という概念を編み出した。まずゴータマ・シッダッタが「法華経」を説くので弟子達を集める。弟子達は最も高位な教え、「法華経」を聞くことに興奮している。(「法華経」の中で既に「法華経」は皆が聞きたがっていたものとしてメタ的に登場)。そこからゴータマ・シッダッタが語り出したのが「方便」について。

①三車火宅
屋敷が火事になり、ごうごうと燃えているのに子供達は遊びに夢中で気が付かない。何を言っても聞く耳を持たない。仕方なく父親は「家の外におもちゃの山を積んできた」と嘘をついておびき出す。「そんなものないじゃないか!」と怒る子供達に背後を指差し燃え落ちる屋敷を見せる。
②長者窮子
若い頃、家出をした息子を探し続ける父親。父親は事業に成功して大金持ちになっていた。数十年後、到頭浮浪者になった息子を見つけるも父親の顔すら忘れてしまっている。話をしようにも恐怖で怯え逃げ出す余り。そこで父親は部下に命じて屋敷の使用人として雇わせる。長い年月を掛けて仕事を教え自信を付けさせる。そして父親は死ぬ直前に実の親子であることを明かし、財産を相続させる。
③化城宝処
莫大な財宝の眠る地を目指す旅団、過酷な砂漠を越える旅。途中で皆が音を上げ引き返そうとへたり込む。案内人は幻の城を作り一同を休ませる。皆の気力体力が回復した頃、案内人は再出発を促す。この城に留まろうと言う声も出るが、案内人は幻の城を消してしまう。
④良医治子喩
医者の子供達が間違えて毒を飲んで苦しんでいる。医者は解毒剤を与えるが、子供達は頭も毒にやられ疑って飲もうとしない。医者は一計を案じ家を出、使いの者に「事故に遭って死んだ」と伝えさせる。子供達はそこで初めて親の有難みに気付いて泣き、形見として解毒剤を飲む。治ったことを知った医者は帰宅する。

大体こんな話を説くのだが、その意味は「例え嘘だとしてもそれが良い結果をもたらすのであれば正しいことではないのか?」という詭弁。嘘の御利益で人を騙して信仰させても、それが最終的にゴータマ・シッダッタの教えを知る切っ掛けになるのならば正しい行為ではないのか?と。これの拡大解釈の繰り返しで仏教は狂った。密教などバラモン教と変わらないオカルト化。(ゴータマ・シッダッタはマールキヤプッタの形而上的な問いに毒矢のたとえで答えた。「オカルト的な問い掛けに答える必要はない。私が説くのは毒矢に打たれて苦しんでいる者の手当の方法だ。」〈「十無記」〉)。

最終的に良い結果を生むならば何をやってもいい、騙してもいい、殺してもいい。そんなもの自己正当化の道具にしか見えない。最終的に素晴らしい未来を実現するのだから、その過程である今現在は目的遂行の為に何をやっても構わないという屁理屈。理想さえ高ければ何をやってもいいのか?
そんなものばかり信じて待っていてもいつまで経ってもゴータマ・シッダッタの思想には辿り着かない。俺達はいつまで経っても「方便」ばっかり聞かされる。そのへんで与太ってる巷の選挙演説なんかも皆「方便」でしかない。いつになったら本当のことを教えてくれるのか?そんな日は永遠に来ないだろう。

本当に苦しみから逃れたいのならば、ゴータマ・シッダッタの言葉を探せ。
『イライラの依頼人とベンベンの弁護人』

『イライラの依頼人とベンベンの弁護人』

コケズンバ

サンモールスタジオ(東京都)

2025/05/27 (火) ~ 2025/06/01 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

穴吹一朗氏代表の弁護士事務所は家賃も払えない赤字経営。そこに古畑任三郎に憧れる新人弁護士の北原芽依さんが就職。初めての担当となった依頼人は石松千明さん。「殺人を犯したが法廷で無罪にしてくれ」と。報酬に一億円、証拠に預金通帳を見せる。まだ警察に捕まっていない犯罪者の弁護をする為、北原芽依さんは調査に入る。

主演の北原芽依さんは華がある。演技もかなりキャパが広がった。LAWSON制服がよく似合う。
迫田けこじ氏、穴吹一朗氏、魚建氏、渡辺シヴヲ氏は助演に回って援護射撃。
もう魚建氏は自分の中では一種のカリスマ、凄い存在。
迫田けこじ氏は汗ダクダク。
飛び道具、事務所の家主、飯島タク氏はザブングル加藤のような表情、スカル・マーフィーやヴァリッジ・イズマイウさえ想起。やたらがなる。
依頼人・石松千明さんは『あの怪物の名は太陽の塔』のヒロインだった。田中みな実に寄せたメイク。
パラリーガル(法律事務員)・高根沢裕貴さん、外出時の謎のコール。
占い師・竹下優子さんは効果的な調味料。アングラ舞踏。前歯一本だけ紅く塗る。

一番観客が沸いたのは魚建氏と飯島タク氏のドツキ漫才。禿げ上がった額をバッチンバッチン叩き合って赤くしながらの熱演。必死に笑いを堪える共演者達のリアクションは必見。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

作家が抱えた問題意識は本来ならシリアスに訴えかけるもの。ただ照れ隠しと劇団のスタンスとしてベタな笑いにまぶさないといけない。今作は贖罪と復讐がテーマ。贖罪にも復讐にももう意味など生まれない。自分の心の安定の為、儀式として強迫的に背負う。昔の人はそれをカルマと呼んだ。否応なしにどうしようもなく背負わされたもの。作家はシリアスな作品を吐き出すべき時期に来ているのかも。答えのない答を。
フィッシュボウル

フィッシュボウル

マチルダアパルトマン

水性(東京都)

2025/05/29 (木) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【赤い金魚】

才能の塊をぶつけられたような作品。これは観た方がいい。やっぱりこの作家は天才だ。
fishbowl=金魚鉢。会場の「水性」は通りに面していてガラス扉一枚の出入口からひっきりなしの通行人達がこちらを眺めていく。何やってんのか?それすら計算に入れた演出に思わせる。

「金鳴町(かねなきまち)観光協会」を名乗る同人サークル。架空の町である金鳴町の情報を毎週「会報」と称してホームページに上げる活動。発起人の久間健裕氏の自宅に毎週末集まって制作。長年の大ファン、高見駿氏が新たにメンバーとして参加することに。古株の早舩聖さん、坂本七秋氏。入るのも辞めるのも自由、ただの趣味、遊びだから。

高見駿氏は発達障害を疑わせるグレーゾーンなキャラで発言の一つ一つに不穏な空気を振り撒く。巧いな。MVP。
久間健裕氏、早舩聖さんも流石だ。本音と立場上の振る舞いとの微妙な表現の違いが笑わせる。
坂本七秋氏はヤバイな。毎度神経症的なまでのキャラの作り込み。クッキーを食べる時の独特の咀嚼に参った。
練りに練ったキャラ設定、もう作品の枠を越えている。

一体こんな遊び、何になるんだろう?虚しく無意味な逃避。楽しい振りをして現実から逃げているだけじゃないか。何かを目指している訳じゃなく、社会的な成功とも無縁。

いや、そんなことはない。きっとそんなことはない。だって俺は楽しいんだ。それでいいじゃないか。

Foo Fighters「Cold Day In the Sun」

君が立つのは晴れ渡った冷え切った日々
それでも熱く脈打つ君の心は決して負けないだろう
君は自分自身でいることに怯えてしまう
自分が独りぼっちだということに
怖れるな 君は独りじゃない
俺は知っている 君は独りぼっちじゃない

ネタバレBOX

この作品はマチルダアパルトマンという劇団の話。岸田國士戯曲賞を取らないと(取っても)食ってけないような歪んだ世界。いわゆる成功への道筋が陳腐で不格好。馬鹿馬鹿しくなって一体俺達は何をやってんだ?と自問自答し始める。決して考えちゃいけないことに足を踏み入れる。どうやったって他人にはなれないんだ。死ぬまで自分でしかない。さあ町民達を楽しませよう。最高の会報をお届けしよう。

amazarashi「命にふさわしい」

失くした何かの埋め合わせを探してばかりいるけど
そうじゃなく喪失も正解と言えるような
逆転劇を期待してる
そしてそれは決して不可能じゃない
途絶えた足跡も旅路と呼べ
朝、私は寝るよ

朝、私は寝るよ

グッドディスタンス

小劇場 楽園(東京都)

2025/05/28 (水) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

4年前の初演も観ている。何かもっと舞台が広かった気がしたが当時は小劇場B1だった。二人芝居で男女の不倫関係の話、女のマンションで他人の情事を盗み見ているような背徳感。馬鹿馬鹿しい程、どうしようもない程に純愛。
前回は立ち込めるどうしようもなさに参った印象。どんなに意気がっても人は現実の前では無力。社会制度の前では黙っておとなしく従うしかない。俺達は自分の心すら革命出来なかった。ましてや社会など。
演出家を変えてかなり作品のスタイルが変わった。今回の方が訴求力が強い。女が妻帯者の男に、何でこんな奴をどうしようもなく自分は必要としているのか自問自答し続けるような内容。
綱島郷太郎氏は若い女を物にする魅力に説得力がある。打算がなく誠実に抜けている。その長所が別れ際では全て短所に反転するのだが。
今泉舞さんは絶好調。今作が代表作なのは間違いない。少女漫画のキャラのような自在な表情。男という鏡に一体自分の何を映しているのか、考える。

役者を目指してる人なんか観たらビリビリすると思う。凄くイカした悲しい詩。しかも馬鹿馬鹿しくて笑える。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

前回よりもホンの良さが際立った。愛人をコンビニで間に合わせで買ったビニール傘に例える。雨が止んだら用無しどころか邪魔になる存在。

深井邦彦氏の脚本は食い物を効果的に扱う。『或る、かぎり』で確信した。観客と共有出来るリアルな生理的感覚を求めている。

永野芽郁と田中圭がこれを演ったら凄いだろうな。時代外れの『愛のコリーダ』。社会規範なんか本当はどうでもいいんだ。

BUCK-TICK「GHOST」

歩き続ける何処へ向かう?死神さえ振り向きゃしない
あなたの夢で私踊る 悪夢の果てきっと出逢う
透明になれる綺麗な夜 月明かりに彷徨うだけ(中略)

「愛して」それが口癖 「見つめていて」忘れ去られる
「愛して」呪文みたいに 「踊っていて」それが悲しい
「愛して」それが口癖 「見つめていて」
蝉追い

蝉追い

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2025/05/27 (火) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

メチャクチャ面白い。井上ひさし的でもある。東憲司氏の何度目かの最盛期が来ているのか。作家の狂い咲きをリアルタイムで味わえる観客は幸運だ。もう座組がオールスターに見えてきた。かなり笑いをまぶしている。

時代は1986年、雨の中、実家を見張る三姉妹(板垣桃子さん、もりちえさん、大手忍さん)の姿。一人暮らしの父親(山本亘〈せん〉氏)に女(鈴木めぐみさん)の影が。かつては夏蜜柑を栽培する農園(梁瀬農園)だった。一体何者か?

板垣桃子さんは高市早苗に似てきた。
井上莉沙さんの存在は大きい。若い娘がいるだけで作品世界が広がる。今回の引っ込み思案の少女役のキャラクターも見事。
親方の瀬戸純哉氏はもりちえさんの旦那でもある。プロレスラーのパイナップル華井(現Ken45)っぽい。
「ですよね〜」三村晃弘氏は助演男優賞もののキャラ造形。

山本亘氏と鈴木めぐみさんがMVPだろう。
山本亘氏82歳!!素晴らしい。鈴木めぐみさんのキャラの強さと妙なリアルさ。

桟敷童子はチケット取れたら一度は観ておいた方が良い。ちょっと凄い所まで来ている。『父と暮せば』みたいな永遠に残る作品が生まれそうな雰囲気がある。観客の期待値も高く磁場がバチバチ起きている。

ネタバレBOX

1914年(大正3年)、福岡県田川郡方城町(現・福智町)で起きた方城大非常がモチーフ。日本最大の炭鉱爆発事故で死者は671人。当時の迷信でガスを中和すると信じられてきた夏蜜柑を集められるだけ集めて坑内に投下した。

36年前、娘三人を置いて他の男のもとに逃げて行った母親。9歳だった長女は妹二人の面倒を見て暮らした。決して母親のことを許しはしなかった。36年後の復縁、それを平気で受け入れるお人好しの父親も許せない。何もかも許せないことだらけ。死別した夫に何の感情も持てなかった長女、浮気相手に本気になって挙げ句の果てに捨てられた次女、中学の教師になるも辞めてしまいこれから何をしていいか判らない三女。

amazarashi「とどめを刺して」

ねえ二度と泣かないように 君を見くびる君にとどめを刺して
僕と逃げよう 潔白ではいられなかった人生呪いながら

※今作は家族を捨てた鈴木めぐみさんと捨てられた三姉妹(板垣桃子さん、もりちえさん、大手忍さん)の物語。実は惚けた父親の方城大非常の記憶は背景でしかない。重要なのは絶対に許せなかった母親の行動も人間故であった所以をこの歳になった板垣桃子さんは理解出来てしまうこと、その葛藤。最後の鈴木めぐみさんの土下座が今作の肝。そこを汲まずしてストーリーだけ追っても勿体ない。
音のない川

音のない川

avenir'e

新宿眼科画廊(東京都)

2025/05/10 (土) ~ 2025/05/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『音のない川〜病院の空気〜(姉バージョン)』

旗揚げ第1弾『音のない川~病院の空気~』をヴァージョン・アップ。
『音のない川〜病院の空気〜(妹バージョン)』と『音のない川〜病院の空気〜(姉バージョン)』の二作品に、その一年後を描いた『音のない川〜工場の空気〜』を足した三作品を交互上演。だが他の作品を観ていない為、その意図した相互効果は判らない。

完成された作品の提示ではなく観客の想像力を刺激して補完させる類の作品との文言に身構えたがそういう訳でもない。個々のモノローグ(独白)はあるが、情景描写が殆ど。語り口がレイモンド・カーヴァー(翻訳・村上春樹)。向かい合わせの客席に挟まれたスペースで四人の男女がそれぞれの思いで川を眺める。

多摩川(自分のイメージ)の河川敷、病院やマンションや工場の煙突が見える。家入健都氏は物思いに耽っている。同棲している恋人(大井川皐月さん)が帰って来た。家入健都氏は別れ話を切り出す。癌で入院している五十嵐遥佳さんは窓から見える河川をぼんやりと眺めてる。五十嵐遥佳さんの弟、谷川大吾氏は高校生で、学校の女の子に誘われて河川敷でマックポテトを摘んでいる。もしかしたら付き合うことになるのかも知れない。広い河川敷は思い思いの人達で溢れている。

谷川大吾氏は子役からアイドル歌手になった高橋良明を感じさせた。愛嬌があって可愛らしい。笑いを堪えているような表情が母性本能をくすぐりそう。

ネタバレBOX

Manic Street Preachers「So Why So Sad」

では何がそんなに悲しいのか?
君は生きていて愛もある
それなのに何故そんなに悲しいのか?
奴婢訓—Nuhikun

奴婢訓—Nuhikun

演劇実験室◎万有引力

座・高円寺1(東京都)

2025/05/16 (金) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『ガリヴァー旅行記』で有名なジョナサン・スウィフトの記した皮肉と嫌味満載の召使への訓戒。それを面白がった寺山修司による今作は『青ひげ公の城』っぽいアレンジ。宮沢賢治の作品世界をトレース。

2回目。席が違うので前回見えなかった全体像が分かる。成程。
開幕前から人間モップの伊野尾理枝さんが労働。召使は道具、召使は機械、感情も尊厳も要らない。人間であるのは主人だけでいい。

下手にヴァイオリンの多治見智高ジーザス氏、上手にドラムの J・A・シーザー氏。ラストには生歌も。J・A・シーザー氏の劇伴はキング・クリムゾンっぽい。
舞台美術家である故・小竹信節(のぶたか)氏の考案したSM機械装置が次々と登場。これが真の主役なのかも知れない。建てられた棒に互い上下逆に足の裏を付けて真横に立つ二人。向かい合わせの二人が上下逆に括り付けられた回転式シーソー。家具や器具や楽器と合体させられた召使達は『家畜人ヤプー』の世界。

三俣遥河氏の白塗り全裸でスタート。複雑な機械(自動歯磨き機)が被せるのはヴァイオリンの王冠。コンセントを鼻に差す。
ここはイーハトーブ農場、グスコーブドリ屋敷。遺産相続人の髙田恵篤氏が夜分に訪ねて来る。不意の来客を訝しがる屋敷の下男下女。髙田恵篤氏は屋敷の主に会いに来た。持参したのは主にしか履けない爪先部分が三段に分かれた金色のボロ靴。だが、とうの昔から主人は不在。屋敷を乗っ取った召使達はくじ引きで主人役を決めてごっこ遊びを楽しんでいる。どうも面倒な来客、来なかったことにしようと皆存在を無視して遊びを続ける算段。

女主人に成り切るダリア、森ようこさんがエロい。黒レース網タイツ姿。糸巻きの拷問用具で下男を罵倒。メゾソプラノの歌声。
岡庭秀之氏は骨を投げて犬に模した下男共に咥えて持って来させる遊びを繰り返す。
萌文さんはずっと野菜や果物を齧ってる。
髙橋優太氏は頭にマスクを着けている。
帽子掛けのように置かれた入れ歯を向かい合って咥える二人の男。
奴婢訓を召使達に復唱させる男。ナチスの女性軍人のような通訳(182cm杉田のぞみさん)がドイツ語で訳す。やってはいけないと言われたことをやらなければならないルール。杉田のぞみさんはフランケンシュタインの花嫁のようにも見える。
テープレコーダーから流れる主の声に命令され、自らお尻叩き機に折檻される髙田恵篤氏。財産目録の作成を差配人と行なう。
包帯男達に蹴りを入れていく小林香々(ここ)さん。
糞壺を犬の散歩のように白塗り全裸で運ぶ山田桜子さん。

前回観た時はマッチの火がすぐに消えてしまっていたが今回は改善されていた。
主人=神の不在とか深読みさせるが、SMプレイと考えた方が気が楽。主人と召使ごっこを繰り返して倒錯した興奮を。SMとは役割を演じるプレイ。その役に理由も意味もない。この世は全てロールプレイング、主人と召使ごっこに過ぎない虚しさ。

一人で来ている若いお洒落な女性客が多い印象。昔、SIONのLIVEもそんな客が多かった。美大系の新規流入が多いのか?新しい客層の開拓は素晴らしい。

ネタバレBOX

問題は「神の不在」ではなく人間が未だに神を必要とすること。全員が主人になってしまった世界では「下男の不在」こそが問題となる。

森ようこさんはエロエロ。平岡正明ではないが「森ようこは菩薩である」。

Nirvana 「 Serve The Servants」

召使に召し仕えろなんて···、なんてこった
召使に召し仕えろなんて···、なんてこった
召使に召し仕えろなんて···、なんてこった
召使に召し仕えろなんて···
伝説的な離婚だとか···、もううんざりだ
高尾山へ

高尾山へ

さよなら人生

スタジオ空洞(東京都)

2025/05/22 (木) ~ 2025/05/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

倉田大輔氏と市原文太郎氏は大学時代、登山サークルで一緒だった。市原文太郎氏が突然辞めてしまってそれっきり。20年以上経ったある日の午前、新宿紀伊国屋近くの喫煙所で再会。どうにもお互い憶えているもんだ。特に二人とも予定はなかった。「じゃ、山行く?」「え?マジで。」高尾山なら新宿から電車で一本、一時間も掛からない。ほんの思いつきで40代のくたびれたおっさん二人の小旅行が始まる。

役者が主催するだけあって役の振り分けが巧い。
唇に個性ある役者を集めたようにも思えた。
河村凌氏は身体ゲンゴロウの『ノストラダムス、ミレニアムベイビーズ。』の小学生役がインパクトあった。
競泳水着の『暫しのおやすみ』でスター女優役だった鮎川桃果さん、天才新人女優役だった竹田百花さん。

各シーンが書かれたカードをシャッフルしてランダムに捲ってみたような構成。捲る度に時系列が飛び、それぞれの関係性が更に深く掘り下げられていく。それを成立させるスピード衣装替えが見事。パズルのように嵌め込まれていくシーンがラスト、絶妙なステンドグラスを完成させる。

何かどうしようもないやりきれなさに包まれて理由もなく涙ぐむ。今作を旗揚げに選んだ作家の感性にRespect。今これを観るべき人は必ずいる。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ベンジャミン伊東とは人気バラエティー番組『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』で伊東四朗が生み出したキャラクター。デンセンマンと「電線音頭」が大ヒットした。

倉田大輔氏は結婚13年、末期の膵臓癌。子供はなく妻には長年浮気相手がいることも知っている。それでも妻をどうしようもなく愛していた。
急遽の山登りにスポルティバの登山靴とシングルバーナーを買った市原文太郎氏。長年勤めた制作プロダクションを辞めてきた帰りだった。
一体何処に向かって歩いているんだろう?

多分このホンの底流には岩井俊二の『Love Letter』が流れている筈。時空を超えた想いが伝わるラスト。ここが重要で現在と過去が気持ちによって一瞬で繋がる不思議。それは昔好きだった曲を久し振りに聴いた時の感覚に近い。一瞬であの時の切実な想いが甦る。

アンジー「ゆきてかえらず」

へとへとに疲れてるから見つけないで 本日は音静か
想いは御空を越えて彷徨ってた 過ぎた日は帰らない
哀しみの墓を建てては掘り起こして 幾らかは生き延びた
粉々の出来事全てかき集めて 肩の荷がまた増えた
強く掴んでも握り締めても手の中に残らない
みづうみ×吉野翼企画 音樂LIVE「恋は修羅、命は炎、遥かな唄」

みづうみ×吉野翼企画 音樂LIVE「恋は修羅、命は炎、遥かな唄」

吉野翼企画

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2025/05/21 (水) ~ 2025/05/22 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

凄く良かった。浅井健一の「OVER HEAD POP TOUR 」ぐらい魅力的。二人とも才能あるんで自信持って売れて欲しい。
吉野翼企画の寺山修司・岸田理生作品の作曲をずっと担当してきたギターのなすひろし氏とピアノの秋桜子(あさこ)さんによるユニット「みづうみ」。吉野翼氏演出によるLIVEは歴代アングラの名場面を切り取るかのよう。第一部は俳優達と合唱、第二部は舞踏家達が舞う。第三部はオリジナルを叩き付けた。
白塗り舞踏家の由佳さんが気になった。柴奏花さんは細過ぎて動くマネキンのよう。
秋桜子さんの世界は寺山修司よりもつげ義春の気がする。古川琴音系の美人。

ナゴムレコードだよな。たまを竹中労が絶賛していた頃を思い出した。筋肉少女帯や特撮に三柴理が参加した曲のようなアバンギャルド。日本古来の民謡、童謡に通ずる美しく懐かしいメロディーに乗せられた歌詞は「キチガイ地獄外道祭文」。

この優しい空間はブルーハーツ「パンク・ロック」みたいな気分。「パンク・ロック」が「アングラ芝居」にだぶる。

吐き気がするだろ?皆嫌いだろ?あーあーあーあーあー
真面目に考えた 僕の好きなもの あーあーあーあーあー(中略)

僕、パンク・ロックが好きだ 中途半端な気持ちじゃなくて ああ優しいから好きなんだ 僕、パンク・ロックが好きだ

寺山修司好きなら絶対引っ掛かる筈。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

更に多くを望むなら、メロディーとリフに強烈な記憶を残したい。凄く気持ちの良い曲の流れはイージーリスニングでもある。聴き易いが残りにくい。帰る道すがら口ずさみたくなるような引っ掛かる奴が欲しい。一番残ったのは「少年探偵団」だったりもする。
湿ったインテリア

湿ったインテリア

ウンゲツィーファ

早稲田小劇場どらま館(東京都)

2025/05/19 (月) ~ 2025/05/27 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

劇団名ウンゲツィーファはカフカの『変身』が由来、ドイツ語の“害虫”的な意味らしい。そしてタイトルの『湿ったインテリア』、スカした純文学風。本来なら絶対自分が観ないだろう作品、何故かチケット買ってしまった。多分小難しいハイソな討論とか訳の分からないメタファーとか自意識過剰な自分語りを延々する馬鹿女とか勝手に想像してげんなりしていたが···。

いや全然面白かった。マチルダアパルトマンをシリアス寄りにした感じ。
凝りに凝った舞台美術。下手はゴミが散乱、上手はベビー用品が干されている。中央にソファーと貝殻が刺さった灰皿。全く意図が読めない。
語り口が現代文学っぽいな、と思っていたら松田弘子さんの登場から話がぶっ飛ぶ。全くこの話の全体像を掴ませない。かなり個々の家族観の暗部に入り込む。心の奥深く痛いところに深く深く。照明が凝ってる。
「母親に愛されていることがずっと重荷だった 。」
家族から逃げて逃げて逃げて辿り着いた場所にも家族がいる。いや実は自分は逃げているつもりが家族を追っ掛けていたのか?ソラと名付けた赤ん坊がけたたましく泣いている。絶対に幸せにしてやる。そして父親である俺も母親であるお前もとんでもなく幸せにならなくてはならない定めなのだ。俺達が辿ってきた軌跡は間違いなくそれを要求している。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

赤ん坊をBluetoothスピーカーにしたアイディアが効いている。一発ネタかと思いきや、そうでなくてはならない作劇。
豊島晴香さんはいいね。ぐるぐるぐるぐる歩き回る。藤家矢麻刀氏は知ってる人に似た感じ。皆にそんな感じに思われる存在。黒澤多生氏の分かりにくそうで普遍的な痛み。根本江理さんの生活感。松田弘子さんの「人生をやり直す」感覚が作品の芯となる。子供を育てる行為とは人生を生き直す行為なんだろう。

2019年5月7日に5ちゃんねるに投稿された『息子(3歳)が前世の話をしてきたんだが』。多分、これは本物だと思う。興味ある方は「不思議.net」を検索して頂きたい。
彼女たちの断片

彼女たちの断片

東京演劇アンサンブル

あうるすぽっと(東京都)

2025/05/16 (金) ~ 2025/05/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

話の流れが整理され過ぎていて初演の方が良かったような気もするが、演劇はナマモノ。水のように形を変えて生き延びるのが必定。初演時、ボロボロ泣いた記憶があった。永野愛理さんの酔って意に沿わぬ性交を強いられた話から一気に物語は核心へと進む。自分が自分であり続ける為に戦い守らなければならないもの。作家・石原燃さんは産むも堕ろすもその身体の持ち主の自由だ、と叫ぶ。他の何の概念も全く介入出来ない。その身体の持ち主こそが決定すべき自由。女達よ、生まれながらにお前達は自由だ。誰の話にも耳を貸すことはない。決定権はお前にこそある。
わたしの身体はわたしのもの。

本当にもう一度観ようとチケットを確認した程良かった。

中絶、堕胎は悪いことじゃない。決して恥ずかしいことじゃない。当然な女性の持つ権利だ。作家の叫びは強く、この作品の持つ意味は大きい。家父長制とは自分の心の中に住み着くブラックボックス。“伝統”という言葉を掲げ、日本人の精神文化を守り継承していく名目で数々の理不尽がまかり通っている。大事なものを守る為に筋の通らない歪んだ思想まで守る必要はない。

ネタバレBOX

初演(2022年)との配役の違い。
山﨑智子さん→永野愛理さん
永野愛理さん→林亜里子さん
仙石貴久江さん→彦坂紗里奈さん

大学生の彦坂紗里奈さんが妊娠。相談に乗った友達の林亜里子さんがネットで調べてカナダの「中絶薬」の存在を知る。購入するにはクレジットカードが必要なので母親のグラフィックデザイナー事務所で働く永野愛理さんにお願いする。永野愛理さんは「女性解放運動」のツイートをよくしていて信用できる人だと思っていたからだ。薬を飲んで堕胎するには安心して過ごせる場所も必要。同じく事務所の同僚、洪美玉(ほん・みお)さんの一軒家を借りることに。彼女は日仏翻訳家の母親(志賀澤子さん)と二人暮らしだった。いよいよという時、林亜里子さんの母親(原口久美子さん)が突然家に乗り込んで来る。事務所代表の彼女は娘の妊娠を疑っていた。駅前にある志賀澤子さん行きつけの喫茶店店員、奈須弘子さんも丁度惣菜の定期宅配に訪れる。

林亜里子さんが母親である原口久美子さんには心を開けず何でも秘密にしてしまう。自分よりも他人である事務所の同僚を信用して相談していることが母には納得いかない。このリアルな家族の心情が今作の隠し味。

少し不満を言うならば中絶薬を飲んだ彦坂紗里奈さんこそ、この夜の中心に居て欲しい。
水子供養の陰謀が面白い。当時「ムー」なんかで散々特集されていたのを思い出す。

1869年堕胎禁止令、1880年堕胎罪=中絶は犯罪であるという意識の植え付け。1948年優生保護法により例外として中絶が認められる。だが国が定める指定医師のみが中絶手術を行えるとした為、その後も経口中絶薬は認可されなかった。1973年アメリカ合衆国最高裁が妊娠中絶手術を禁止することは違憲であると判決。日本ではその流れに逆行して保守派の自民党議員から中絶は「胎児の虐殺」であるとのキャンペーンが張られる。「水子の祟り」、「水子供養」がブームとなり全国に水子地蔵が大量に建立された。

集団と個人の関係について考える。ある集団に属した時、そこの「普通」とされている価値観に従わざるを得ない感覚。それに異を唱えて「ああ、お前そういう奴なの?」と「差別」されたくないが為、苦笑いで皆に合わせる。同調圧力の苦しみ。家父長制も国レヴェルの同調圧力。そして今日もどこかでネットリンチ、一方的な断罪。晒し上げ過去をほじくり出しての個人攻撃。結局ただの憂さ晴らしでしかない。正義がアップデートされる訳でも何か真実に辿り着く訳でもない。どこまでも無意味。この無意味さこそが人間の歴史の大元。無意味の荒野を女達は黙々と意味の種を撒き耕していかねばならないのか。

孤独の荒野に咲き誇れ Destiny Rose
お前に逢えると信じてた

布袋寅泰「Destiny Rose」

いつかいつの間にかこの世の半分が悪魔だったとしても
そんなのに負けるな
この世生きてきて音に身を浸す そんな時が心綺麗

浅井健一「Calm Lula」
ずれる

ずれる

イキウメ

シアタートラム(東京都)

2025/05/11 (日) ~ 2025/06/08 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

終演後、イキウメの活動休止を知ってショック。現時点での集大成だったのか。劇団員五名だけの一杯飾り。「チケット7500円は高いな」と思っていたが、観終わると充分その価値はある。後に前川知大氏を論ずる際、今作は非常に理解し易いものとなっている。作家、劇団が表現したかったことが端的に伝わる。自分的には筒井康隆、黒沢清の系譜。

かみむら周平氏作曲のテーマが心地良い。エリック・サティの「グノシエンヌ」を思わせる自罰的旋律。
全員当て書きの強さ、これが今劇団の全てだ。
後々今作を観たことを自慢できることだろう。自分は感謝した。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

天井のアートシェードに時折もやもやとした映像が映し出される。(安井順平氏と大窪人衛氏兄弟がテレパシーで話している表現かも?とふと思ったがまず違うだろう)。もう一度注意して観たら謎が解けるかも。

色々書くことはあれど考えがまとまらない。全く関係ないことから綴る。まずは長谷川和彦だ。東大文学部英文科在籍でアメフト部のキャプテン、バリバリの体育会系。まさに手の付けられないインテリ・トンパチ。今村昌平プロダクションに面接に行った際、中退を強要される。そのまま今平の『神々の深き欲望』のスタッフとなるがこの伝説的映画の撮影風景と言えば···、そのまんまデニス・ホッパーの『ラストムービー』。沖縄の離島で2年自給自足生活。キネ旬1位の歴史的傑作であることは間違いないが、ここまで人生を犠牲にしないと映画は撮れないのか?と暗鬱たる気分。まあ観て貰えば解る。
映画に携わった一発目でこんなキチガイ作品にぶっこまれた長谷川和彦=ゴジは狂う。突っ張って突っ張って喧嘩して喧嘩して嫌われ干されどうにか名前を売った。中上健次原作のATG映画『青春の殺人者』で監督デビュー、キネ旬1位、時代の寵児に。2作目は沢田研二主演の『太陽を盗んだ男』。新宿のド真ん中でジュリーが手製の原爆を爆発させるラスト。キネ旬2位。
そして3作目に『連合赤軍』を撮る筈だった。その頃懇意にしていた「週刊プレイボーイ」の編集者に「超能力者と会ってみませんか?」と持ち掛けられる。全く下らないインチキ手品師の気分で22歳の清田益章を紹介される。だがこの清田益章は本物だった。ゴジの目の前で遊びのようにスプーンをぐにゃぐにゃ曲げてみせる。ありとあらゆることを要求し、自宅で家族の前でもやらせた。どう考えても本物。ガチガチの唯物論者だったゴジは自分が世界だと認識していたものがガラガラと崩れ落ちる音を聞いた。吐き気がする。今までの自分の認識では有り得ないことが存在している。そこからゴジは迷走する。脚本を変更し、『連合赤軍』の主人公を超能力を持った少年にした。死者と交流も出来る。そしてラスト、あさま山荘で警官隊に突入されて仲間達が捕まる中、少年は空を飛んで逃げていく。
結局、長谷川和彦は映画を撮れなくなった。ゴジの功績の一つに才能ある若手を映画界に迎え入れたことがある。立教大学在学中、8ミリで自主映画を撮っていた黒沢清を『太陽を盗んだ男』のスタッフに引き入れた。黒沢清の才能を高く評価していたゴジは「こいつはどう受け止めるのだろう?」と清田益章に会わせる。全く非科学的なものを信用していない黒沢清は自宅からトリックの使えないよう自分のスプーンを持ち込んだ。それを鼻歌交じりでぐにゃぐにゃに曲げてみせる清田。イカサマを見破ってやろうと何度も要求したものの···、本物だった。呆然と失意のまま、帰宅した黒沢清。一晩中布団の中で握りしめたスプーンを見つめて一睡も出来ず。翌日、ゴジにこう告げる。「そういうものがあるのかも知れないが自分とは関係ない」と。そこでオカルトを自分の人生とは関係ないものと切り捨てられた黒沢清はその後も映画を撮ることが出来た。
(このオカルトとの向き合い方が重要で前川知大氏の作品を紐解く鍵)。
※黒沢清は筒井康隆の大ファンで、『地獄の警備員』が筒井康隆の『走る取的』だったり『スウィートホーム』が『母子像』だったり、知ってる奴をニヤリとさせる。『回路』のラストも全人類が“死”に呑み込まれていく中、主人公達を役所広司演ずる貨物船の船長が助ける。「南米からの信号をキャッチした。まだ生き残りがいるらしい。」
筒井康隆がラテンアメリカ文学に一筋の光明を見出したことに重なる。

『人魂を届けに』同様、今作の思想も黒沢清の『カリスマ』に通ずる。「世界の法則を回復せよ」「生きる力と殺す力は同じものだ」のメッセージ。
幽体離脱、先祖返り、真実の世界。同じ死ぬにしても自分が何者かを知ってから死ぬべきだ。
『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』再々演ツアー2025

『パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日も生きることを耐える。』再々演ツアー2025

趣向

スタジオ「HIKARI」(神奈川県)

2025/05/09 (金) ~ 2025/05/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

コロナ禍で緊急事態宣言が出されていた頃、一生苦しみ続ける心の病を抱えた者達を集めて戯曲の読書会をする鬱病の劇作家。『人形の家』、『三月の5日間』、『サロメ』。段々盛り上がって来たメンバー達は『サロメ』を舞台として人前で上演することを決める。

まずは現在2025年5月、登場した大川翔子さんが観客に語り掛ける。これは2020年7月から2021年12月の話だと。今となっては過去となった日々のことを思い返しているのだと。

コロナウイルス変異株の名前は差別や偏見に繋がらないように意味のないギリシャ文字の順番に付けられた。アルファからゼータまでの6人は順番通り。語り手の主人公だけは最後の文字、オメガを名乗る。

フォーマットが『コーラスライン』っぽい。
凄く観易く工夫されている。うんざりする意識高い系のスカした討論を危惧していたら全く違った。配役が見事、皆役者とは感じさせずに自然とそこにいる。その自然な存在感こそがテクニックだと終演した後、改めて唸らせる。皆さん歌が上手い。舞台上手でずっとキーボードを弾く作曲の後藤浩明氏。複数の役者が奏でる謎の楽器、ウォーターフォン。鍋の蓋に塞がれたフライパンのような器具、真ん中には水を入れる金属の筒。要は平べったい金属製のフラスコ。その円周上にアルミや真鍮の棒を複数立て、弓で弾く。ホラーの効果音に最適。

主演のオメガ役大川翔子さんは誰かに似てるなとずっと思っていたが、BLUESTAXIの鈴木絵里加さんか?
アルファ役三澤さきさん、ガンマ役榊原美鳳(よしたか)氏は役者に見えずもう本当にそういう人に見えた。
ベータ役前原麻希さんは歌のシーンで魅せる。
デルタ役KAKAZUさんはビョーク系の顔。センシティヴでナイーヴなキャラだが演技に入った途端、ガチ・サロメに豹変、客席が沸く。ニッチェ江上のネタみたい。
ゼータ役海老根理(おさむ)氏は元ジャンポケ斉藤っぽいハイテンション。
劇作家イプシロン役伊藤昌子さんがキーパーソン。作者オノマ・リコさんをダブらせるように描かれている。

いろんなことに負けてしまった連中。死んで物語を終わらすことも選べず、つまらない毎日を続けていくしかない。とっくに終わってしまった話なのにまだだらだらと続けている。その先に何があるわけでもない長いエピローグ。19世紀英国、社会主義者アーティスト、ウィリアム・モリス「人はパンがないと生きていけないが、パンだけでなくバラも求めよう。生活をバラで飾らないといけない」。バラとは何か?

各問題の当事者同士で自助グループを形成し、悩みや苦しみを共有し分かち合うシステムがある。昔自分もアルコール依存症の治療を調べ断酒会を知った。結局行かなかったが参加したらどうなっていたのか?今作は自分がそんなグループに関わったシミュレーションのように観た。集団精神療法の一つにサイコドラマというものがある。自分という役を演じる過程で自分というものを客観的に認識させていく。

宗教でも精神医療でもとにかく人に話を聴いてもらうことが重要。人間は誰もが自分の胸の奥底に溜まった感情を吐き出したがっている。そんなこと話して一体何になる?と思いながら、整理出来ない言語化出来ないモヤモヤを全て反吐のように吐き続ける。それでヘトヘトになって精神の均衡を保つのだろう。カール・マルクスは「宗教は阿片である」と断じた。その場しのぎの現実逃避であり、実際の問題の解決には至らないと。全くその通りだと思う。そう、皆欲しているのは阿片なんだ。とにかく今をやり過ごしたい。今さえやり過ごせれば後のことなんかどうだっていい。後でまとめて後悔してやる。

自身も含めた全ての苦しむ人々に作家(オノマ・リコさん)は自分の知る対処法を告げる。生きることは無意味だが死ぬことも無意味。無理して生きることはないが無理して死ぬこともない。あるがままに。

Nirvana 『On a Plain』

あと一つ何かそれっぽいメッセージを付け加えて
それで終わり、やっと家に帰れる

自分自身を愛するんだ、他の誰よりも
それが間違ってることは知ってる、でもどうすりゃいい?

俺は平原の上
文句なんか言えないんだ
平原の上で

オノマ・リコさんのやろうとしたことにRespect。こんなもの誰がどうやったってどうにもならないジャンル。そもそも誰も救えない。でも何かやろうとした。何かやりたかった。その足掻きが意味を生み出す。

アフタートークのゲスト、精神科医の劇作家・くるみざわしん氏の話が興味深かった。秋に中野MOMOで精神病院の勤務時代から封印していた闇を到頭舞台として発表するとのこと。これは観ないと。

ネタバレBOX

アイディアとして素晴らしいのは「時間を巻き戻す」こと。ベータに劇の出演を皆でお願いする。それでも断るベータ。激昂したオメガは顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。オメガは自分が正しいと認識している事柄への執着が激しい。それを拒絶されると自我が保てなくなりパニックを起こす。この揉め事で公演自体が中止となる。
そこでオメガは「時間を巻き戻す」ことを観客に提案する。もっと別のやり方を選べれば公演は行えたのではないか?もう一度過去のシーンをやり直す。ベータに「出演しなくてもいいからアイディアを出して演出に加わって」と。ベータは「それならば」とOKする。
インカ帝国の太陽神インティを思わせる仮面に棒を付けた人形で表現するヘロデ王は秀逸。
ラスト、全てが崩壊した後、不意に歌い始めるゼータに『ラ・マンチャの男』に似た感慨を。やはり歌しかないのか。

途中まで非常に昂揚して観ていたが、クライマックス前辺りから停滞。『サロメ』の内容が本筋と関わらない(登場人物の誰が嫌いか?ぐらい)のも勿体ない。最後の喧嘩も無理矢理っぽい。そんな伏せられていた事実の提示ではなく、「本当はあんた達なんかずっと嫌いだったんだよ!」ぐらい身も蓋もないどうしようもなさで良かった。人間関係を築いては全部ぶち壊し途方に暮れる感覚。それでもあの頃のことを今も思い出す的な。無駄で無意味な日々こそが生きていた証。

アフタートーク、若きくるみざわしん氏、リストカット症候群の患者に「それで心が安定するんなら切ってもいいんだよ」と肯定する言葉を先輩にアドバイスされる。だが診療の際、患者を前にしてなかなかそれが言い出せない。頭では判っていてもどうしても口に出せない。
このエピソードから連想したのは「森田療法」。それは森田正馬(まさたけ)によって創始された神経症の精神療法。「とらわれ」や「はからい」から逃れ、現実をそのまま受け入れ「あるがままに」生きることを提唱。先入観や常識、こうであらねばならぬ正しい生き方みたいなものを「とらわれ」と呼ぶ。自分を正当化する為に色々とつく嘘を「はからい」と呼ぶ。自分に嘘をつかず、ありのままの自分を受け入れること。この考え方はそのままゴータマ・シッダッタの説いた原始仏教に通ずる。
ソファー

ソファー

小松台東

ザ・スズナリ(東京都)

2025/05/10 (土) ~ 2025/05/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

松本哲也氏の作劇スタイルが何となく掴めた。多重奏。通奏低音から始まり、弦楽器を重ね、更に管楽器を合わせていく。ゆっくりとした立ち上がりに観客はじれるが曲のフォーマットが定まった時、それを破壊する不意の来客の訪問。この展開がどっと受けるとここからは思うがまま、自由自在に観客を操れる。作者であり登場人物でもある松本哲也氏は自身で作品にメタ的なツッコミを入れまくる。この物語が何を象ろうとしているのかを自分自身で確かめるように。

舞台は宮崎県の実家、6人掛けの立派なソファー。父(佐藤達)が母(江間直子さん)にねだられて無理して買ったもの。母は夜の店に勤めて段々帰って来なくなった。映画監督を夢見て上京した長男(松本哲也氏)、次男(今村裕次郎氏)は若い奥さん(道本成美さん)と再婚、長女(山下真琴さん)は今里真氏と結婚。父が亡くなり実家の処分が決まる。長女は家族全員を呼び集める。どうしても会って話したいと。

是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

MVPは道本成美さん。彼女の登場から明らかに空気は変わった。成程、こういう方法論があるのか。骨肉相食むどろどろのどうしようもない話にホームズやトム・ソーヤーが登場してきた時のような爽快感。まあ何とかなるかも知れん!女流棋士高橋和の若い頃みたいでえらく可愛い。松本哲也氏がおもむろに「彼氏とかいるの?」とメタ的に聞くシーンが全てを物語る。(役柄的には弟の新妻なのだから全くの的外れなのだが)。

江間直子さんは原田美枝子と大竹しのぶをフュージョンさせたようなキャラ。これぞ日本の女優感。
瓜生和成氏は珍しい役柄。贅沢な使い方。
今村裕次郎氏が車を動かそうとソファーを立ち、財布の入ったセカンドバッグに手を伸ばす。妻を見て「置いとくか」と行きかけるが松本哲也氏を見てやっぱり持って出て行く。このちょっとした一連の動きだけで人間関係が伝わる巧さ。

作品の骨格は阿佐ヶ谷スパイダース『老いと建築』ではないか。オマージュとしての本歌取、詠み替えだと睨んだ。

観劇通の玄人が味わう渋い作品。こういうのを普通に楽しめるようになった自分に驚いた。ラストはソファーの見ている夢か。

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