桜の園
桐朋学園芸術短期大学
俳優座劇場(東京都)
2024/02/14 (水) ~ 2024/02/15 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
[Cherry]
面白かった。チェーホフはこういうのでいいんじゃないか。44歳にして結核で亡くなる為、遺作となってしまった今作。前説を演るのがまさかのチェーホフ本人(加藤ひか里さん)、観客は襟を正した。
MVPはロバーヒン役の宇崎花怜(かれん)さん。素晴らしい台詞回しで混沌の世界の一条の光となった。
そして主人公である女主人ラネーフスカヤ役のバトアムガラン・エンフトゥールさん。イントネーションから韓国人と勝手に思っていたのだが、モンゴル人の女優。凄え才能。世間知らずの浮世離れした貴婦人ということでこの口調もありにしよう。
万年大学生トロフィーモフ役の菊地芽衣さんも巧かった。
養女ワーリャ役の関口愛維クリスティーンさんも記憶に残る。
唯一の男性はピーシチク役の田中雄大氏。
美術なんか凝っているし、桜吹雪も悪くない。
チェーホフは面白いんだかつまらないんだか未だに分からない。(笑えない喜劇みたいな)。でも学生が「そのよく分からないもの」を懸命にやることで発生する磁場はある。日本ではそういう位置付けでいいんじゃないか。
是非観に行って頂きたい。
小栗判官と照手姫
Project Nyx
ザ・スズナリ(東京都)
2024/02/08 (木) ~ 2024/02/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
美女揃いの艶やかな舞台。受付から綺麗所ばかり。
思い出すのは2018年2月、metroで演った月船さららさん主演『衣衣 KINUGINU』。泉鏡花の短篇と古浄瑠璃の『一心二河白道(いっしんにがびゃくどう)』をアレンジした傑作。余りに素晴らしくて2回観に行った。自分は仏教説話が好きなんだな、とつくづく思い知った。
今作も説経節『小栗判官』を底本に因業渦巻く伝奇浪漫。
津軽三味線をエレキギターのように搔き鳴らす駒田早代(さよ)さんの登場から最高だ。見事な説経節を唸り語り唄うのは河西茉祐(まゆ)さん。この二人こそが今作の主人公に思えた。
更に百鬼ゆめひなさんは等身大の照手姫人形を一人出遣いで舞わしてみせる。
幕が開けば打って変わって絢爛豪華できらびやかな女優達が舞うオープニングに。片岡自動車工業の『お局ちゃん御用心!!!』にも似たエンタメ振り。
下手の黒い壁に歌詞や口上が字幕で投映されることが素晴らしい。これはこの手の作品には絶対あったほうが良い。作品への没入度が変わってくる。これが無かったらぼんやり観ていた気がする。
ヒロインの森岡朋奈さんは宝生舞系の美人。美声で歌が映える。
手塚日菜子さんはハマカワフミエさんっぽかった。
月岡ゆめさんはちゅりっぽい。
浜田えり子さんは松原千明似の美人。
山田のぞみさんと本間美彩(みさ)さん兄弟が印象に残る。
妖怪人間ベロの正体に似た餓鬼阿弥の造形が最高。演じる者は一体誰なんだ?
『ロード・オブ・ザ・リング』のハワード・ショアっぽい劇伴。
想像以上に面白かった。
かわりのない
TAAC
新宿シアタートップス(東京都)
2024/02/07 (水) ~ 2024/02/12 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
舞台美術はオフィスコットーネの『磁界』を思わせる。八百屋舞台で手前の水平なスペースに上手、下手と雑然と重ねられた椅子。列車の走行音と工事現場の鉄骨の擦過音。登場した役者が椅子を引き抜いた際に走るノイズ。中央にポッカリと空いた奈落。神経症的な不安感。
募金活動を終え、十円玉を投げて表か裏を当てながら帰宅する夫婦、異儀田夏葉さんと清水優(ゆたか)氏。何故か旦那の投げる十円玉は全て表が出る。それを完全に当て続ける妻。
一人の少年の死を捜査している刑事(荒井敦史氏)。徳重聡に似た美男子。最近眠れずに寝室にも入らない。妻(北村まりこさん)は複雑な心境。青木さやかとミラクルひかるっぽい味のある話し方。
少年の父親(納谷健〈たける〉氏)は非人間的で冷たい印象。「生まれつき身体の弱い子でしたから。通夜で頼んだ寿司が余っているので食べませんか?」
刑事の取り調べ、夫婦とそれぞれ別々に会話しているのを3人で話しているように混ぜ合わせる演出の工夫。一体、これは何の取り調べなんだ?噛み合わない話。
夫婦にとっての子供の存在する意味。時折仄めかされるセックスレス。他人が何を考えているかなんて分かる筈がない。皆自分のお話にばかり気を取られているようだ。
異儀田夏葉さんがずば抜けた存在感。
う蝕
世田谷パブリックシアター
シアタートラム(東京都)
2024/02/10 (土) ~ 2024/03/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
開幕すると段ボールの荒野。近未来の話なのか、コノ島で起こっている「う蝕」。(う蝕とは虫歯のこと。虫歯の治療は抜くか削るかしかなく、感染した骨を治癒する方法はない)。
いきなり大地が底なし沼のようにズブズブと沈みゆく天災。土が腐り果てたのか?予測のつかない地盤沈下。船に乗って避難するよう政府は呼びかけるが、島に残ることを選択した者達の話。
た組。の『心臓が濡れる』やTRASHMASTERSの『オルタリティ』のように極限状況に放り込まれた人間達が見せるワンシチュエーションもの。
イキウメの『人魂を届けに』のように横山拓也版哲学談議を妄想したがそういうものでもなかった。雰囲気はMONOの『燕のいる駅』に近い。
能登半島地震の発生によって急遽変更された部分も多々あったという。大変だったろう。繊細な作り手である。
犠牲者の身元を遺体の歯型の照合にて確定させる作業。本土から歯科医師が招聘される。
主人公は坂東龍汰(りょうた)氏。中尾明慶っぽいキャラで博多大吉のようなツッコミ。横山拓也の戯曲には軽薄で軽口で能天気なアンちゃんがよく似合う。
眼鏡が印象的な近藤公園氏。何か岡本篤っぽさを感じた。
綱啓永(つなけいと)氏は金持ちのボンボンで世間知らず、ブランド物のスーツと靴で被災地に現れる。
コノ島に移住し、歯科医院を開業している現地の新納(にいろ)慎也氏。彼の集めたカルテのデータが重要に。
遺体を掘り出すには土木作業員と重機も必須。やっと現地に現れたのは汚れた作業着姿の役人、相島一之氏一人だけ。やたら名前の呼び名の濁音に拘る性格。
謎の白衣の男、正名僕蔵氏の姿も。佐高信(まこと)顔だよなあ。まさに官僚顔。
高台にあるのは沈丁花(じんちょうげ)の漢名である瑞香(ずいこう)から名前を取った瑞香院という神社。沈丁花の花言葉は「永遠」。一応、温泉も湧いている。かなり面白いので期待して大丈夫。
是非観に行って頂きたい。
流れゆく時の中に
新国立劇場演劇研修所
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2024/02/06 (火) ~ 2024/02/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
本当にテネシー・ウィリアムズってこんな話ばっかなんだな。
第一幕60分
① 『坊やのお馬』
②『踏みにじられたペチュニア事件』
休憩15分
第二幕45分
③『ロング・グッドバイ』
ブリッジ、劇伴として伏見蛍(けい)氏がギターを弾く。
①明け方、泣き止まない赤ん坊。狂ったように喚き散らす若き夫(田崎奏太氏)とミルクを温める若き妻(根岸美利さん)。結婚して一年にも充たない貧しい新婚生活、生後一ヶ月の坊や。職場の鬱憤をぶちまける夫、気の狂いそうな妻、傍らには場違いに置かれた高価なおもちゃの揺り木馬。
②編物を扱う「シンプル小間物店」の経営者ドロシイ(小林未来さん)。店の前で大事に育てていたペチュニアの花が無惨にも踏み荒らされていて、警官(須藤瑞己氏)に犯人逮捕を訴える。その後、すぐに来店した奇妙な男(樋口圭佑氏)は「自分がやった」と名乗り出る。常連客の貴婦人、ダル夫人として二木咲子さんも登場。
③売れない作家のジョー(立川義幸氏)、産まれてずっと暮らしてきた生家である部屋から引っ越すことに。友人のシルヴァ(佐々木優樹氏)が心配して様子を見に来る。倉庫に預ける為、運送屋に運び出される家具の数々。その一つ一つに焼き付けられた鮮烈な記憶が目の前に甦り再生されていく。僅かばかりの保険金を残して自殺した母(二木咲子さん)。貧しい暮らしにうんざりして金持ちの男と付き合う為に自分を変えていった妹マイラ(飯田桃子さん)。妹を売女のように扱う上流階級の男、ビル(須藤瑞己氏)。
ギターの音色が胸を打つ。無名時代のテネシー・ウィリアムズが書き殴った叫び。太宰治もそうだったが自殺前の遺書のように魂を掻き毟りただひたすら書き殴った日々。もう自分ではコントロールの効かないどうしようもない叫び。オー・ヘンリーだったらもっと上手く綺麗にまとめるだろうに。テネシー・ウィリアムズの剝き出しの罵詈雑言に自らを託す表現者達のアンテナ。人間は普遍的に未完成なのだろう。常に足りない何かを求めては足掻き続ける。それがカルマか。
MVPは②の小林未来さんと樋口圭佑氏、完成された演技。だが巧すぎて今後苦労しそう。頭の良さが逆に邪魔になるかも知れない、その先を望むならば。
根岸美利さんが今回出ていなかったな、と思ったら①で思いっ切り出ていた。全く前作と同一人物とは思えない役作り。
飯田桃子さんは綺麗だね、感心する役作り。
是非観に行って頂きたい。
川辺市子のために
チーズtheater
サンモールスタジオ(東京都)
2024/02/03 (土) ~ 2024/02/12 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
吉祥寺で『ヘルマン』を観た際、挟まれていたチラシを読んで気になった。チケットを取ろうと思ったら全公演完売。何か妙に観たくなってキャンセル待ちに申し込んだ。主演の大浦千佳さんが「もう絶対に今後この役をやることはない」とツイートしていたのも一因。運良くキャンセル待ちでチケットが手に入ったが当日はまさかの大雪。「不要不急の外出を控えて」の気の滅入る悪天候。いや逆に凄い作品が観れるチャンス、とばかりサンモールスタジオはガチガチの超満員の客で溢れ返った。素晴らしい熱演をたっぷりと味わい、階段を上ればサンモールの外はガチガチの積雪。ズボズボ靴がめり込んだ。
映画は観ていないので比較は出来ない。劇団の主催自ら監督して映画化、主演に杉浦花さん。
川辺市子役の大浦千佳さんに妙に見覚えがあったが、『柔らかく搖れる』のシンママだった···。凄い振り幅。
語り口が面白い。失踪した一人の女性を巡る、各年代の知人達の回想録。刑事がそれぞれが知っている限りの川辺市子のエピソードを語らせていく。その断片的な話を元に観客は不在のその女性について想像を巡らせる構造。
サンモールスタジオの狭いステージの中心に畳4枚程を組み合わせたスペース。周囲を椅子が逆L字型に囲み、証言者達が座る。
相対するようにL字型に配置された客席、観客はそれぞれの記憶が再現されていく様を息を潜めてただ見守る。通路さえ物語の重要なステージに。
非常に映画的。半纏をすっぽり被って声しか聴こえない大浦千佳さんがしゃがみ込んでいる。その登場シーンからゾクゾクする。「川辺市子は嘘つきだ」との証言や語る人によって状況が食い違う出来事。嘘をついているのか記憶違いなのか妄想なのか?結局のところ、真実は判然としない。煙のように残像のように川辺市子の断片が煌めいては瞬いて、そしてふっと消えてしまった。
驚いたのは刑事役の男。寺十吾氏っぽいなあ、と思っていたら本人だった。ありとあらゆる演劇の重要な役は全部寺十吾氏が司る決まりなのか?マジで驚いた。
平山秀幸監督の名作『愛を乞うひと』や阪本順治監督の傑作『顔』、たっぷりと漬け込んだ今平風味の下味。そして物語を彩るのは甘酸っぱくも激しき痛みの走る恋心、どうにか自分がしてあげられることがほんの少しでも何かきっとあるんじゃないだろうか?何一つ出来やしない無力な男が陥る勘違いの妄想、誰にも益しない醜い純情。周囲にそんな情念を呼び起こす魅力的な女の一代記。
だが彼女が本当に心から求めていたのは無記名の穏やかな日々、ありきたりな単調に繰り返される毎日でしかなかったのに。
是非観に行って頂きたい。
兵卒タナカ
オフィスコットーネ
吉祥寺シアター(東京都)
2024/02/03 (土) ~ 2024/02/14 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
1940年(昭和15年)11月、スイス・チューリッヒにて初演。内容に日本大使館が抗議を入れた。ナチスに弾圧されスイスに亡命したドイツ人劇作家、ゲオルク・カイザーの作品。この5年後に亡くなっている。
1920年(大正9年)、歩兵連隊に入隊したタナカ(平埜生成〈ひらのきなり〉氏)は親友のワダ(渡邊りょう氏)を連れて東北の故郷の村へと帰省する。妹のヨシコ(瀬戸さおりさん)との縁談を進める為だ。極貧の村では英雄である軍人の帰還に大いに沸き立つ。母親(かんのひとみさん)、父親(朝倉伸二氏)、祖父(名取幸政氏)。ありったけの御馳走と酒と煙草を用意して待っている。
衣装や小物など、異国の人間がイメージした日本というコンセプト、ジャパネスク風味。
中国映画、『南京!南京!』にて南京入城の儀式の際、兵隊達が奇妙な踊りを舞いながら行進していく場面がある。それを中国人捕虜達は無言でじっと眺めている。このシーンには大日本帝国という奇妙な国と天皇を崇め奉る祭祀的国家のグロテスクさが炙り出されている。理性では如何ともし難い異様な精神の視覚化。良くも悪くも他者から視えた日本人。
今作もドイツ人の目線で異世界、日本を眺めているようだ。
天井から降りてくるピアノ線に括り付けられたフックに荷物を引っ掛ける。『母 MATKA』でもあった光景。
宙空に浮かぶ球体は国体か?
配役はこまつ座を観ている錯覚に陥る程、揃えてきた。
平埜生成氏は前園真聖やロンブー亮にも似ていて、カッコイイ。観兵式に立つことを許された誇り。
渡邊りょう氏もいい味、名助演。タナカの人となりが伝わる。
瀬戸さおりさんは綺麗だな。泣かせてくれる。
朝倉伸二氏は梅沢富美男みたいで盛り上げる。
かんのひとみさんはもう何をやっていても正解。
素直で従順で上から言われたことに黙って従い、真面目に役割をこなしてきた立派な人間。その行き着く先が非人間的なこの世の地獄。タナカの叫びが耳をつんざくラスト。この支配体系の中で誠実であることに一体何程の価値があるというのか?
これを1940年に日本人に叩き付けたゲオルク・カイザーの恐ろしさ。間違った支配構造を正すのは個人の魂の叫びだけだ。
キャッチコピー「衝撃の最後の5分間!!ネタバレ厳禁!!」
是非観に行って頂きたい。
夜は昼の母
風姿花伝プロデュース
シアター風姿花伝(東京都)
2024/02/02 (金) ~ 2024/02/29 (木)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
難解。
こういう作品を心から楽しめる人こそが演劇愛好家なのだろう。自分なんかは解読しようと悶々としてしまうので楽しめはしない。だけど役者陣はヤバかった。山崎一(はじめ)氏はもうジャック・ニコルソンに見えた。今、日本で一番金の取れる役者じゃないだろうか。生の彼を目撃する為だけに足を運ぶ価値は充分にある。凄い男。もう原作なんて吹っ飛ばして全ては山崎一氏の夢だった、で良かった程。いろいろ思い返そうとしても山崎一氏しか出て来ない。記憶まで侵食されているのか!
騙されたと思って観てみて欲しい、本当だから。
岡本健一氏はキムタクに見えたり、森田剛に見えたり。今更なんだがいい役者だ。16歳の糞ガキ役で誰にも文句を付けさせない。こういう才人が客を呼び集めることで先に繋がる文化は必ずある。(この手のガチガチの作品が全公演前売り完売とは日本は演劇先進国である)。
竪山隼太(たてやまはやた)氏はやたら人気がある。常に怒り狂っている。
那須佐代子さんはいるだけで作品の格が上がる。何かもう凄いレヴェルにまで来てる。
革命前夜の雰囲気。何かの拍子でこの小劇場から、世界に向かって切り付ける新しいタイプのナイフが勃発しそうだ。それにはまだ見ぬ全く新しい価値観と全く新しい観客が必須。面白いことになりそうだ。
逢いにいくの、雨だけど
スーウェイ
小劇場B1(東京都)
2024/01/31 (水) ~ 2024/02/04 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
A CAST
横山拓也の代表作ともなれば、そりゃ観てみたいもの。タイトルも詩的で煽情的。
だがいざ観ると、ただただ鬱になった。オリジナルを知らない所為なのか、何か綺麗な巧い話には成り得ていない。個人的にはひたすら鬱。
「受け入れてやっていくしかないじゃない!」
オリジナルは2018年11月初演、2021年4月再演。
勿論脚本の完成度は高く、是非とも一度は観るべき作品であることは間違いない。(佳乃香澄さんは浜口京子っぽかった)。
子供の頃、左目を失明してしまう男とその事故に一端の責任を感じている女の物語。事故の起きた1991年夏と今現在の2018年冬が同時進行で語られる。
BUCK-TICKの名曲、『RAIN』が頭の中で鳴る。
Sing in the rain. 人は悲しい生き物
笑ってくれ 君はずぶ濡れでダンス
いつか世界は輝くでしょうと 歌い続ける
岸辺のベストアルバム‼︎
コンプソンズ
小劇場B1(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ずっと前から東京AZARASHI団を観に行った際、星野花菜里さん関係でチラシが挟まれていた為、気にはなっていた。昨年チケットを購入していよいよ観に行く筈が事情があって行けなくなった。そして到頭今回観ることに。何故かメチャクチャ人気がある。開演前から行列、超満員完売。
笑いのセンスが自分好み、出ている役者も実力派揃い。キャスティング・センスも冴えてる。
春雨(はるれいん)というふざけた名前の女性(波多野伶奈さん)が書いた片思いの妄想ノート。彼女の妄想世界が展開される。そこに現れるジャスティン・バービーというふざけた名前のイマジナリー・フレンド(端栞里さん)。彼女にはやらなくてはならないことがあった。
「南極ゴジラ」の端栞里さんはルックスと使い勝手が良いのか売れっ子に。
子供をバスに乗せ幼稚園に送る同い年の三人の母親。偶然にも全員、子供の名前がソウ。しかも夏子(西山真来さん)、千秋(佐藤有里子さん)、冬美(笹野鈴々音〈りりね〉さん)と季節の名前を持つ。子供達が「地獄に送られる」と泣き叫ぶのが最高。
佐藤有里子さんは存在だけで超面白い。陰謀論者。
西山真来(まき)さんの佇まいも素晴らしい。
笹野鈴々音さんは鵺的の『バロック』が強烈な印象だった。
「人妻JK魔法少女りりちゃん!」
歌舞伎町でホストクラブを立ち上げた大宮二郎氏、スポンサーの星野花菜里さん、アドバイザーの近藤強氏、新人の藤家矢麻刀(やまと)氏、ドキュメンタリーを撮影している宝保里実さん。ダークマン機関?だかなんだかの歌舞伎町地下の鼠王国だかなんだか。
近藤強氏の宮台真司ネタが痛快。「いきなり脱構築か!」
カフェの店員、佐野剛(つよし)氏が個人的MVP。知り合いにかなり似ていて驚いた。ウィレム・デフォー系。
笑いの方向性が最高。星野花菜里さんは久々に観たが間違いない。
短編3傑作
Nana Produce
テアトルBONBON(東京都)
2024/01/24 (水) ~ 2024/01/28 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
昨年の『いごっそうと夜のオシノビ』がメチャクチャ面白かったので期待大。だが今回は毛色が違っていて笑いは薄い。どちらかというと考え込ませて鬱になる系。だとしたらもう少し深く掘り下げるネタでもあった。ちょっと今回は作品の並びのチョイスが違った気がする。
プロジェクション・マッピングが痛快で見事なものだが、ちょっと邪魔な気もした。役者の顔に投影が被るのは残念。
「日本テレビスポーツのテーマ」でスタート。ジャイアント馬場の入場曲でもあった。
①『さらば鎌玉』
4年付き合って別れた二人、日澤雄介氏と原幹恵さん。最後に引越し先として鎌玉駅徒歩10分のマンションを案内するが···。
劇団チョコレートケーキ演出の日澤雄介氏は宇崎竜童みたいな情けない不動産会社社員を好演。原幹恵さんは豪華。未練タラタラ、よりを戻したい男とそんな気はさらさらない女の一幕。
②『人の気も知らないで』
OLの留奥(とめおく)麻依子さんとやまうちせりなさんがお茶している。同僚の結婚披露宴での余興の打ち合わせをする為、上野なつひさんが到着するのを待っている。後輩が事故に遭って入院中。話は段々と建前と本音の境界を踏み越えて個々の人生観の核心を刺激していく。
留奥麻依子さんは天海祐希みたいで表情で笑わせる。
やまうちせりなさんは奥貫薫っぽい花粉症。
上野なつひさんは有賀さつきみたいな迫力。
③『仮面夫婦の鑑』
浜谷康幸氏と増田有華さんの夫婦が派手に喧嘩。「炎のファイター~INOKI BOM-BA-YE~」(「ALI BOM-BA-YE」)が掛かって、卍固めまで繰り出す。
二人の喧嘩の原因は果たして何なのか?
アンネの日
serial number(風琴工房改め)
ザ・スズナリ(東京都)
2024/01/12 (金) ~ 2024/01/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
石原燃脚本、東京演劇アンサンブルの傑作『彼女たちの断片』を思い起こさせる。全ての登場人物の人生が徐々に重なり合って協奏曲となり、共通項である“生理”を入口とした女性論、人間論が紡がれる。それぞれの初潮を迎えた時のエピソードから、それを人に伝えた時の気持ち、その時の相手の反応。女性だったら誰もが抱え隠し持つ経験。人によって歓びだったり痛みだったり恥辱だったり優しさだったり。
初潮から閉経まで女性の生理期間を日数として数えると、最大にして9年間だと語られる。女性の一生の内、9年間は生理中だということ。男性には想像もつかない。
かつて中米の人と結婚した知り合いの女性が、高地の生活環境での生理が重過ぎて帰国したことがあった。その時は「へえ、そんな辛いもんなんだ」位の感想だった。
自分にとって生理とは全く感覚的に掴めないもので、今回初めて知ることばかり。こういう教育こそ学校でやるべきだと思う。女性だけでなく男性こそ知るべきだ。皆こんな辛い思いを当り前に繰り返しているのか?
プラカードやスケッチブックをラウンドガールのように抱えたアンネ・ガールズの入退場、椅子と机をマスゲームのように配置していくスマートな演出。背景の壁は残雪の残る山の岩肌を思わせる。
アネモネコーポレーション生理用ナプキン開発部、サブリーダー、李千鶴さんは身体に害のないオーガニック(化学合成された成分を含まない製品)生理用品の開発を提言。突然の提案にリーダーの林田麻里さんは難色を示すも、ザンヨウコさん含め同期で未婚の女達が中心となり社内のコンペ企画に参加することに。
ツワッチ役林田麻里さん、見事にニュートラルな立ち位置で物語のバランスを担った。
ドイカナ役李千鶴さんの親友の死が物語の核となる。何故、そこまでオーガニックに拘るのか?
個人的MVPはタボ役ザンヨウコさん。この人が口を開くたび、客席がどっと沸く。幼い頃に親が離婚、父親と祖母に育てられた生い立ち。
鬼の企画部部長、オキョウさん役伊藤弘子さん。離婚して息子を育てている。更年期と閉経について語る。
コンノ役橘未佐子さん、母親に愛されなかったトラウマを、結婚して出産した今も抱えている。
エイカ役葛木英(くずきあきら)さん、好奇心旺盛なボーイッシュな化学者。初潮を教室で男子にからかわれたトラウマ。突然の謎の結婚に社内は興味津々。
企画部の若きエース、サヤカ役瑞生(みずき)桜子さんは永作博美みたいな清純派顔だが、かなり気が強そう。邪悪な役を観てみたい。
リオ役真田怜臣(れお)さん、本物のトランスジェンダー。整形なしで辺見マリ似のこの美貌。
勉強になった。
世の中、本当に知らないことばかり。
「売春捜査官」
Last Stage
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2回目。
2017年8月、「なんかやる制作委員会」による『空想ペルクライム/Les Nankayaru』が中目黒キンケロ・シアターにて上演された。脚本・演出の花奈澪さんはウサギの縫いぐるみを頭に被り一言も喋らない。(確か口が利けない設定だった)。高校生の青春モノで、好きな男子が苦しみ足掻いているのを救う為にラスト飛び降り自殺する。(彼女の中では自分が犠牲になることで彼の苦しみが軽減すると信じている)。何か哀しくて病んだ純情が忘れられない余韻。
その時の好きな男子役・白柏寿大(しらかしじゅだい)氏が今回のゲストだった。185cm!!
面白い。色々と考えさせられた。吉田翔吾氏は凄えな。有無を言わせない。勿論、丸山正吾氏も名アシスト。青柳尊哉氏が人気あるのはよく分かる。
今作は照明がかなり重要で、ありとあらゆる工夫を凝らしている。素晴らしいセンス。プロフェッショナル。
長渕剛の『乾杯』っぽいSEだったり、音入れも興味深い。
花奈澪さんのジッポの火が点かなくて2回やってすぐに煙草の流れを放り捨てた判断力の速さ。そういうことだよな。正解を探すのではなくて、自らの動きで正解にする力。
「女は命令なんかで動かんよ。」
浜辺のシーンはThe ピーズの名曲、『日が暮れても彼女と歩いてた』を感じていた。
何にもいらない もう他にはいらない
彼女がまだそこにいればいいや
日が暮れても彼女と歩いてた
気がふれても彼女と歩いてた
「売春捜査官」
Last Stage
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2024/01/17 (水) ~ 2024/01/21 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
部長刑事・木村伝兵衛を女性に据えた『熱海殺人事件/売春捜査官』。長崎県五島出身の在日朝鮮人・李大全が、上京した地元の娘達を集めて売春グループを組織している。そこで働いていた女性・山口アイ子が熱海の海岸で首を絞められて殺される。容疑者として逮捕されたのは五島から上京してきた大山金太郎、被害者の幼馴染。
木村伝兵衛に花奈澪さん。
彼女の昔の恋人、熊田留吉刑事に丸山正吾氏。
大山金太郎に吉田翔吾氏、飛び蹴り連発汗だくだく。
ホモ刑事・水野朋蔵に青柳尊哉氏。
ゲストに高田淳氏、この人もヤバかった。
前半は吉田翔吾氏の爆発的エネルギーに圧倒される。その猛スピードに振り落とされそうだ。
そして『熱海殺人事件』と言えば、浜辺の絞殺シーンの再現。勿論今回も凄まじい。花奈澪さんの表情の繊細な構築は文学だ。更に青柳尊哉氏の慟哭も鮮烈。観てるだけでくたくたになる魂の殴り合い。
中邑真輔の名言、「K-1とかPRIDEとかよく分かんねえけど・・・、一番凄えのはプロレスなんだよ!」何かそんな気分。この空間を体感できる喜び。
「我、孤立を恐れず、孤高に陥らず、その孤独を友とせん!」
「私に出逢って下さった全ての皆様、有難うございました!」
すいません、どうかしてました。
大人の麦茶
新宿シアタートップス(東京都)
2024/01/12 (金) ~ 2024/01/17 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
テイストが高取英の『帝国月光写真館』。月蝕歌劇団の新宿スターフィールドの気分。80年代ソフト・アングラのガチャガチャしたムード。
堀江鈴(れい)さんと今川宇宙さんの親友女子の絡みは美しい。オープニングの歌も良かった。美声。東京ドリームユートピアに一緒に遊びに行く約束、大切なチケット。
「全部ある感じ!!」
華道家女子高生タレント役、川原美咲さんのファンが結構来ていて、調べたら元AKBだった。
寮母役、千代延(ちよのぶ)果穂さんのクライマックスでの熱演が光った。(寮母である彼女のことを「先生」と呼ぶのは変な気がした)。
クビになったスナックのママ役、わかばやしめぐみさんはやっぱジョウキゲンだよね。左耳のイヤリングが飛んでしまい、拾えないままシーンは進み、蹴られたり踏まれたり。ずっと注視していたが到頭拾えた時はホッとした。
校長先生役、若林美保さんのエアリアルシルクが炸裂。「ストレートプレイでも充分見せられる女優だな」と思っていたがここでこれを捩じ込むとは!初見の人はぶっ飛んだだろう。
デレデレ女刑事役、望月麻里さんも印象に残る。
奥谷知弘氏の夢の中、6枚のイラストの鯉が泳いでいる。裏返すと合体して一匹の巨大な鯉になる。このシーンが好き。
全体的に作風は好きじゃないんだが、不思議になんか後味が良かった。今作で退団する作演出の今川宇宙さんの好き放題にベテラン連中がノリまくっている熱気。今川宇宙さんはどこまで創造力のアンテナを伸ばせるのか試している感じ。若き才能、情熱を全肯定する姿勢が皆の原初衝動を呼び醒ましているのか。今川宇宙さんが皆にメチャクチャ愛されていることがよく分かった。
東京物語
松竹
三越劇場(東京都)
2024/01/02 (火) ~ 2024/01/26 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕60分休憩25分第二幕80分。
2012年1月初演、2013年7月再演。
山田洋次92歳!二代目水谷八重子84歳!
皆高齢だからコンパクトにまとめるだろうと勝手に思っていたが、ガチガチの作風。夢の世界の住人である監督やら役者やらは老いることを知らない。皆もう一度全盛期が訪れるのではないかと思う程のエネルギー!
2013年11月、新橋演舞場で公演した中村勘九郎、今井翼、檀れい主演の『さらば八月の大地』。幻の満映を舞台に狂おしき映画への情熱を描き、小津安二郎愛に溢れていた山田洋次。(あの時の檀れいさんの美しさは未だに筆舌に尽くし難い)。
オリジナルの『東京物語』は小津安二郎52歳、笠智衆49歳、東山千栄子62歳、原節子32歳の陣容。大体日本映画オールタイム・ベストをやると『東京物語』、『七人の侍』、『浮雲』と相場は決まっている。この全人類共有の無常観をどう調理するのかとくと拝見。
ある意味主人公の石原舞子さん(長男の嫁役)が素晴らしかった。三雲孝江を思わせる上品な町医者の奥さん。拘りの舞台美術を背にしたその所作で作品世界を肌感覚で観客に提示。幕が上がると時代も空間も飛び越えて昭和28年の居間に放り込まれる。
話は至ってシンプル。戦争の傷痕もかなり復興し、広島の尾道から年老いた夫婦(田口守氏と水谷八重子さん)が息子夫婦(丹羽貞仁氏と石原舞子さん)のもとを訪ねて上京。特に要件などなかったが、忙しい子供達は厄介に感じて余り相手をしてやれない。夫婦の感じる疎外感。
美容院を経営している長女役、波乃久里子さんがまた巧い。オリジナルでは杉村春子の演じた役を田中眞紀子っぽさもある女傑風に盛り上げてくれた。旦那役の児玉真二氏も最高。
戦死した次男を愛し続けてくれるヒロイン瀬戸摩純(ますみ)さんも見事。
長男の医者、丹羽貞仁氏がまた絶品。結局誰も何も悪くないことを的確に表現。誰も何も悪くない世界で感じるこの痛みの元は何なんだ?
一番、『東京物語』で好きな台詞は「じゃ、しなくたっていいんだね、勉強しなくたっていいんだね。あ〜楽チンだ、あ〜呑気だね。」だったので子役二人の演技には大満足。山田洋次は分かってる。どうでもいいような子役の立ち居振る舞いこそが心臓部だってことを。
赤星東吾君、平山正剛君にリスペクト。
水谷八重子さんが瀬戸摩純さんの狭いアパートに泊めて貰って帰って来る。「東京に来て一番楽しかったわ。」と皆に笑顔で語る。このシーンは必見。受ける共演者も涙ぐむ程の名演。これこそ今作の肝。
田口守氏は笠智衆よりも志村喬っぽい味付け。
是非観に行って頂きたい。
√オーランドー
東京芸術劇場
東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)
2023/12/22 (金) ~ 2023/12/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ヴァージニア・ウルフの『オーランドー』のダンス化と言われても何が何やらさっぱり。ロビーに飾られた『オーランドー』の作品内年表やら何やらをチラ見して「つまらなそうだな」と身構えた。頭でっかちな芸術風味の下らない時間稼ぎをしたり顔で満喫するのは御免だ。そんなものはブランドしか判断基準のない連中の領分。自分の頭で物を考えることを放棄した奴等の末路···、なんて杞憂に終わり、普通に面白かった。
中村蓉さんの挨拶からスタート。後ろに投映される『オーランドー』の序文をパロディにしたような前口上。そこに軟体動物のような動きを繰り返す役者が登場。するとその様子を実況説明し始める役者が現れる。更にその実況している者の動作を実況し始める別の役者。更に···、とメタ的に十数人が誰かの実況をし続ける。一人の女性がダンボール箱から白い紐を取り出し、それにぶら下げた分銅を揺らす。バックでは『オーランドー』の章が進んでいく。凍った池の上でアイススケート。ユーミンの「BLIZZARD」で皆で踊る。そこに中村蓉さんが再登場。照明トラブルの為、一時中断とのこと。始めからやり直すので休憩に。「さっき私凄く噛んじゃったのでもう一度やらせて下さい。」観客笑って大拍手。これで場の空気が和み、時間を置いて再開。遣り口が分かってきたので楽しみ方も準備万端。役者達は振付から動作から先程と変えてみせた。『オーランドー』をパラパラめくっていくように進んで行く。筋ではなく世界観を味わうようなスタイル。
中野亜美さんのスーパーマリオ・ジャンプが炸裂。新聞売りの少年だったり、勲章を追い掛ける群衆だったり。川島信義氏との「価値観の違う二人は一緒に暮らせるのか?」という対称舞踏がとても良かった。
小津安二郎の『晩春』、笠智衆が原節子に説教をする名シーンの音声が延々流れる。「幸せは待っているもんじゃなくって、やっぱり自分達で創り出すもんだよ。」
ヨガのポーズを取りながら延々マイクを持ったインタビュアーに答え続ける女。男から女に性転換する際の3人のチアガール。二人羽織。詩を書き綴る。工夫を凝らして飽きさせない。原作を知らなくても楽しめる。
是非観に行って頂きたい。
天使の群像
鵺的(ぬえてき)
ザ・スズナリ(東京都)
2023/12/21 (木) ~ 2023/12/29 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
女優・堤千穂さんの新境地!ほぼすっぴんで新しい教師像を生み出した。いつも斜め上の虚空をぼんやりと見つめる新任女教師。このキャラクターは大いに魅力的でずっと観客の脳裏にこびり付くことだろう。彼女を観る為だけでも今作に価値はある。
野花紅葉さんは少女漫画のキャラそのもののルックス。小松菜奈に見える位、異様に美しかった。もう矢沢あいとかの描くイラストだ。
森田ガンツ氏は名助演。“カントリーマアム”。
函波窓氏もきっちり高校生になっていた。
佐瀬弘幸氏は『デラシネ』の大御所脚本家と同一人物だと誰が信じる?
寺十吾氏は狙い澄ました通り。
かなり凝ったセットで舞台美術の荒川真央香さんは大変だったろう。斜線が織り成す幾何学的なステージ。床も水平ではない。下手に斜めに走る鏡の壁、奥に透過率を変えたハーフミラー、照明が映し出す格子の影。心象風景の視覚化、何処までも記憶とイメージの世界。照明の阿部将之氏の苦労。客席の前の空間に椅子を並べ出演者達が座ってステージを観ている。相当実験的な作劇。
音響作家・北島とわさんの構築する音が不安を煽り続ける。水の滴る音、何かを叩く音、不快なノイズ音が居心地の悪い空間に木霊し、無意識に潜む記憶を引きずり上げる。
学校が大嫌いだった主人公は勤めていた会社が潰れ、一応持っていた教員免許で高校の臨時的任用教職員に。不登校になった男子生徒に責任を感じて担任は休職中、そのクラスを代理で受け持つ。今では教師はハラスメント対策で常に発言を慎み、スクールカウンセラーにスクールロイヤーが常備。カウンセリングを希望するのは心の病んだ教師達ばかり。病んだ教師と病んだ生徒、病んだ保護者に囲まれて主人公はますます学校が嫌いになっていく。
堤千穂さんに尽きる。これを見逃す手はない。終わり方は大好き。
是非観に行って頂きたい。
閻魔の王宮
劇団俳優座
俳優座劇場(東京都)
2023/12/20 (水) ~ 2023/12/27 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
今作で描かれるのは日本で言うところの「薬害エイズ事件」。1980年代、厚生省と製薬企業5社は血友病患者に対し、ウイルスを加熱処理で不活性化していない非加熱製剤を流通させ、全血友病患者の4割をHIVに感染させた。製造元のミドリ十字は危険性が問題視されていたにも関わらず、在庫処理の為黙って捌き続けた。
1993年頃から1996年頃まで中国河南省(かなんしょう)政府が血液売買を奨励。同じ針を使い回し、血漿成分以外を体内に戻す際、複数人の血液を混ぜたものを使った。河南省の58郡において各平均2万人の農民が売血し、100万人近くがHIV感染。未だに住民の7割が感染して「エイズ村」と呼ばれる地域は数多い。そして残された100万人近くの「エイズ孤児」。
トンネルをイメージしたセット、三基の並べられた長机が道となっている。中央の長机は回転可動式。地獄へと続く地下鉄の線路内のイメージか。映画『エンゼル・ハート』では鉄の檻のような古めかしいエレベーターで地獄堕ちを表現していた。
目当ての清水直子さんはクライマックスで見せ場が待っている。地獄そのものの現実の中で、最後まで「なりたかった自分」になろうと藻掻く。地獄に光を照らす為に、自らを犠牲にする。「暗いと不平を言うよりも、すすんであかりをつけましょう」というカトリックの神父の言葉を思い出した。
滝佑里さんは久我美子を思わせる昭和美人。寅さんのマドンナなんか似合いそう。清楚で品格のある彼女が地獄に堕ちてゆく様が見所。
果たして幸せとは何なのか?カポジ肉腫の斑点が身体中を埋め尽くす。死を前に人は家族の幸福を願う。せめてお前だけでも幸せに生きてくれ。自分を犠牲にしてでも灯したい“希望”、それだけでも己の人生に何某かの意味があったのだと信じたかった人々の話。
abc 赤坂ビーンズクラブ
エヌオーフォー No.4
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/12/13 (水) ~ 2023/12/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
水野花梨(かりん)さんが3回目。
高橋紗良(さら)さんと竹内麗(うらら)さんが2回目。
コントとダンスとスケッチと歌のヴォードヴィル・ショー。毎回観ていくうちに嵌ってきた。
大学生の高橋紗良さんと片想いのチャラ男との恋愛話が細切れエピソードで続いていく。恋愛成就には唐揚げ!とリコーダーを吹く。
毎回定番の短編劇、更なる飛躍を求めて小劇団を辞めた元看板女優(美波花音さん)と劇団に残り守り続けた女優(高橋紗良さん)とのエピソード。無理を言って里帰りを果たした美波さんの行動にマネージャー(北村夏未さん)は心中苦々しい。小劇団の今作で女優業の引退を決めた高橋さんとの友情ともライバルともつかない愛憎こもった絆。
一番面白かったのは「死んでやる!」と会社を飛び出した友達を止めようとビルの屋上に上ったOL(北村夏未さん)、飛び降りようとしている女(森下結音〈ゆいね〉さん)を必死に止めるが全くの赤の他人であった。何とも言えない気まずさの中で培われる不思議な関係。
定番の歌とダンスが段々と観客に沁み込んでいく。