ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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地球空洞説

地球空洞説

劇団☆A・P・B-Tokyo

光が丘IMAホール(東京都)

2021/12/01 (水) ~ 2021/12/03 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2019年12月の「花札伝綺」以来。泥臭い明石スタジオやd-倉庫のイメージで行くと光が丘IMA〈いま〉ホールは大きく綺麗で違和感がある。(イマジネーションと練馬を掛けたネーミングだそうだ)。セットも美術も金が掛かっていて随分力が入っている。横木安未紗さんも飯塚美花さんもいない。主催の浅野伸幸氏、演出兼の高野美由紀さん、マメ山田さん、たんぽぽおさむ氏辺りが御馴染みの大御所。
操り人形のパントマイム等素晴らしいダンスが目を瞠る叶かのんさんが綺麗だった。ロビンちゃんみたいな衣装。凄まじいプロポーションを誇る斉藤レイさんも印象的。安室(やすむろ)満樹子さん演じる空気女が重要な要素を担っている。フェリーニ的。
劇中で歌われる曲が名曲揃い。「アリス」や「赤い鳥」、「瓶の地獄」などメロディーが秀逸で情景が映像的に浮かぶ。

銭湯からアパートに帰ったら、自分の存在しなかった世界に迷い込んでしまった男。気球に乗って宇宙へと、この世界から逃亡を企てる女子高生三人組。公衆便所でまだ起きていない事件を解決しようとする金田一耕助···。練馬区光が丘の公園では世界と異世界とが重なり合い、分裂しては、ずれ合っている。

ネタバレBOX

物語と云うよりもいつもの断章のカットアップが散文詩調に綴られる。グチャグチャに構成された中期ゴダール映画のように、受け手側が連想と個人的解釈で作劇に参加しなくてはならない。何か引っ掛かるフレーズやシチュエーションがあればそこから紐解いていけばいい。

例の如く面白いんだかつまらないんだか判断が付かない。まあいつものあの感じ。LIVEみたいなもので、「あの曲(シーン)良かったな」でいいのでは。

18時開演予定だったが、開場開演の大幅の遅れで終演は21時近くに。開演前の寺山スローモーションはなし。ラストの出演者全員が一人ずつマッチを擦りその炎の灯りで自己紹介を叫ぶ御馴染みの奴だが、小さなライトを使用の為、光が弱過ぎて余り意味を為さなかったのが残念。
ダウト 〜疑いについての寓話

ダウト 〜疑いについての寓話

風姿花伝プロデュース

シアター風姿花伝(東京都)

2021/11/29 (月) ~ 2021/12/19 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

プレビュー・序・破・急とチケット代は少しずつ高くなっていく。観るのなら、今すぐチケットを確保した方が良い。多分評判が評判を呼んで、なかなか取り辛くなるのでは。既に観劇後チケットをリピートしている人も沢山いた。演出の小川絵梨子さんが開演前の挨拶で「プレビューの観客の反応を見て更に演出を変えていく」と。ここまで完璧な作品を弄って一体千秋楽にはどうなってしまうのか?想像もつかない。重苦しいシリアスな話を細かなギャグを散りばめることで徹底的にエンターテインメント化。小川絵梨子さんのセンスが冴える。

「キネマの天地」の女優っぷりに圧倒された那須佐代子さんだったが、今作は最早そんなもんじゃない。メリル・ストリープ(映画版で主演)やジュディ・デンチ、ジョディ・フォスターに並ぶ名演。「シアター風姿花伝」のオーナーとして、最高の仕事をこなしてみせた。
対する伊勢佳世さんはジブリ顔の美人。細面の安田成美似で、表情や細かい仕草の一つ一つが観客の心をほぐしてくれる。
倒すべき敵、亀田佳明氏の強大さ。強烈な負のフォースはシスの暗黒卿並み。勝ち目の見えないサイコパスに一体どうやって立ち向かうのか?

1964年のミッション・スクール(キリスト教系小学校)、転校してきたただ一人の黒人の男の子。担任の教師に校長は、何かあったらすぐ知らせるように厳命するが···。

名シーンが多過ぎて言及し切れない。「シアター風姿花伝」が世界の演劇の中心になった瞬間が確かにあった。

ネタバレBOX

この圧倒的な三人の中に1シーンだけ放り込まれる黒人少年の母親役、津田真澄さん。黒塗りする訳でもなく、そのまんまで成立させてみせる見事な演出。この母親と校長の会話が至極の出来で、“正しい”は必ずしも“正しい”わけではないことを如実に示してみせる。彼女の生活を伴った言葉のリアルさに誰も敵いはしない。それでもこの迷宮の中で心折れずひたすら前に進み続ける那須佐代子さん。きっと彼女は幼少時、同じような心の傷を抱えたのだろう。

キリスト教を棄ててでも、本質的な意味でキリスト教であろうとする覚悟。”宗教“はドグマ(教義)を否定したところから始まるのか?

開演前SEのセンスが良い。Blurやカイザー・チーフスを思わせるブリットポップが最高。

母親の言う「ハイスクール」は「ジュニア・ハイスクール(中学校)」の意味。

※8・4制(初等学校8年、ハイスクール4年)が正しいようである。
イモンドの勝負

イモンドの勝負

キューブ

本多劇場(東京都)

2021/11/20 (土) ~ 2021/12/12 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕100分休憩15分第二幕85分。
プロジェクションマッピングや視覚効果の合成が最先端。リアルタイムの舞台でここまで出来ることに驚いた。オープニングは凄まじい。最早TV番組だ。
主演の大倉孝二氏のキャラがアンジャッシュの児嶋一哉っぽい。常に弄られて怒鳴りツッコミ。三宅弘城氏は終始絶好調、間違いなく面白い。廣川三憲(みつのり)氏の味が要所要所で利いてくる。

近々オリンピックが行なわれる東京、UFOの襲撃で選手団は拐われる。謎の孤児院の地下では何かの実験が行われており、そこに入れられている主人公は日本の代表に選出されようとするのだが···。

小学校低学年の子供二人が多分母親に連れられて観に来ていたのだが、開幕から終幕までケラケラ甲高い声で笑って観劇。きちんと内容を理解している笑いで、「ガキの頃から随分ハイセンスな教育を受けているな」と作品よりそっちに感心した。

ネタバレBOX

結構居眠り率高し。自分も眠気との戦いとなった。
KERAは笑いではなく、不条理文学の人なんだろう。コントのネタ自体は古い。「マカロニほうれん荘」とか70年代のあの頃のギャグ漫画を思わせる、懐かしさすら覚える設定。赤塚不二夫ならすでにどっかに描いてそう。多分根本的に暴力が足りないのだ。大倉孝二氏メインのコントはつまらなく、淡々と観てしまう。

舞台の笑いは飲み会の同調圧力のようなもので、場の雰囲気を保つ為にする愛想笑いが多くなる。そのうち何が面白いのかさっぱり判らなくなり、暗い気持ちの帰り道は皆死にたくなるものだ。
昔、たけしの「みんな〜やってるか!」をテアトル新宿のレイトショーで、しかも立見で観た時のことを思い出した。
嫉妬深子の嫉妬深い日々

嫉妬深子の嫉妬深い日々

U-33project

王子小劇場(東京都)

2021/11/26 (金) ~ 2021/11/30 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

正しいアイドル演劇。主演の平安咲貴(ひらやすさき)さんが体操着でほぼ全編出っ放し。幼稚な役のロリキャラ設定等が「フレッシュレモンになりたいの~」で一斉を風靡した市川美織をだぶらせる。出演者全員女性のみ、高校の同窓会を舞台にした喜劇。現在(25歳?)と高校時代の回想とインナースペースとが抽象画のようにキャンバスに叩き付けられていく。
背景として壁に二面描かれたアクション・ペインティングがジャクソン・ポロックやサム・フランシスを思わせる素晴らしい出来。舞台美術の佐藤幸美さんのセンスなのか?脳内のニューロンとシナプスの信号伝達を視覚化したような。
主人公、嫉妬深子の決め台詞は「Shit!(嫉妬)」で、地面にストンピング。まるで吾妻ひでおの漫画みたい。もう一人の主人公、鹿角東子(かづのとうこ)さん演じる「明子(めいこ)」が魅力的で大林宣彦の「さびしんぼう」を思わせる。

すぐに嫉妬に駆られる深子は独占欲の塊。自身の存在を一番に受け止めて欲しいのだが、現実評価は自己アピールの押し付けがましいうざい奴。同窓会、久方振りの皆との再会に胸を躍らせるもなかなか会場に辿り着けず···。

ネタバレBOX

突然、未来の自分(細田こはるさん)が現れ警告してくる。「この同窓会での行動如何に拠って未来のあんたが決まるのだ」と。

凄く目茶苦茶な展開なのに何故か不快ではない。もう少し上手くやれば『特撮 』(大槻ケンヂのバンド)の「ケテルビー」みたいな名曲になっただろう。
後半パートがエヴァのテレビ版最終話みたいなどっち付かずの自問自答が延々。この話、主人公は鹿角東子さんで良かったのでは。何の正解もない自分探しを打ち切るのは他者のささやかな温かさであろう。善悪を超えるのは人情だけ。
この事件を報道する機関を日に一社ずつ減らしてください

この事件を報道する機関を日に一社ずつ減らしてください

森プロ

萬劇場(東京都)

2021/11/25 (木) ~ 2021/11/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

藤沢チヒロさんデザインの漫画チラシが秀逸で内容はそのまま。マスコミ報道のあり方に一石を投じる為、報道被害の過去を持つ主人公(柴田塔氏)はTV局の上司(馬原颯貴〈まはらそうき〉氏)を人質に立て籠もる。要求はこの事件を報道するTV局を一日一社ずつ減らすこと。名前は微妙に変えてあるが、NHK、日テレ、TBS、フジテレビ、テレ朝、テレ東の6社の代表が集まり協議することに。人狼ゲームのようにそれぞれの思惑が絡み合い、話し合いは進展して行かない。

テレ朝の代表に無理矢理された下っ端AD役、葉月乃彩(のあ)さんのキャラが秀逸。自分で物事を考えられない、周囲を苛つかせる頭の悪い弱者を見事に表現。それでいて自分なりに必死に生きている様がリアル。テレ東の熱血女性正義漢、舘花(たちはな)美砂さんも印象に残った。役者陣はそれぞれ魅力的。奇妙な人間模様と遣り取りが寓話的で心地良い。
リアルタイムで一般世論がどうなっているのか知りたかった。

ネタバレBOX

何が本当で何が見世物なのか境目のない世界を手探りで駆けずり回る狂騒曲は、筒井康隆の「48億の妄想」なんかを思い出す。内田裕也の代表作、「コミック雑誌なんかいらない」は皆の嫌われ者の芸能レポーターが豊田商事会長刺殺事件の現場に居合わせ、止めに入って血塗れにされるのがクライマックス。宅八郎は「週刊ポスト」への復讐に、自費で探偵を雇って編集者を付け回しスキャンダルを私的新聞で暴き立てた。

今作は主人公に魅力が無い為、ドラマとしては弱い。主人公に余り語らせず、目的不明の方が話を引っ張れた。TBSの記者(金子伸哉氏)が報道から撤退する時犯人の構想に駄目出しをするのだが、それが尤もな話でとにかく穴が多い。重要なパーツが欠けているような物足りなさがある。果たして娯楽を享受している受け手側は、人命が大事だと思っているだろうか?
マツバラQ

マツバラQ

グワィニャオン

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2021/11/24 (水) ~ 2021/11/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

充実熟練の劇団の幹の太さ。
主演の菜ノ香マカさんの声が印象的、耳に残る。買収されて倒産を免れた、嘗て時代小説でベストセラーを連発した出版社。今では社内報とフリーペーパーの制作で静かに死んでいくのを待つだけの日々。若手のOL三人組が新選組の松原忠司の小説出版の企画を立てる。古株の面々は会社での自分達の立場を熟知している為、耳を貸そうともしない。今では「愛染終と東京ニューセレクト」を名乗ってムード歌謡の練習に熱中。それを覆そうとするOL三人組と構想を練っている松原忠司主人公の時代小説が交差する。

「愛染終と東京ニューセレクト」の『血風リトルトーキョー』が会場でCDを発売する程出来が良い。是非会場で聴いて頂きたい。編集長役の魚建氏を東京AZARASHI団以外で初めて観た。流石に唯一無二、替えが効かないオンリーワン。松原忠司(主催・作・演出の西村太佑〈たいすけ〉氏)と許されぬ恋に堕ちる関田豊枝さんが大人の色香を芳しく刻み付ける。奥住直也氏演ずる「うしろの正面」が最高のヴィジュアル。熊木拓矢氏の「隊士③」がアムロ・レイ化するシーンが爆笑を呼ぶ。新選組と富野由悠季節はかなりリンクする。
非常によく練り込まれた世界、謎の柔術新選組四番隊組長、松原忠司の誠実で凄絶な物語が今こそ刻まれる。

ネタバレBOX

殺陣のレベルが高い。松原忠司の型は少林寺拳法と合気道を彷彿とさせる。殺した男の女房と不義の恋に堕ちるのだが、そこをもっと丁寧に描写して欲しかった。全てを捨てて惨めに歴史から朽ちていく男の美学に酔いしれたかった。
ラスト、不意にSIONの「月が一番近づいた夜」が流れる。それに一番やられた。松原忠司の物語ではなく、創作を世に出すことに関わることが出来ない無数の人達の叫びの詩だった。
わが町 高円寺 子ども食堂

わが町 高円寺 子ども食堂

演劇なかま高円寺

座・高円寺2(東京都)

2021/11/20 (土) ~ 2021/11/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

これは面白い。休憩無しの三幕。第一幕は1989年(平成元年)、第二幕は2014年、第三幕は2020年。
言う事を聞かない犬と散歩する坂口さん役の大村敏氏がこの劇団のシンボルキャラクターで、綱だけを手に持ち右往左往してみせる。下手で生演奏の尼理愛子さん。薩摩琵琶と鳴り物となっているが、見たこともない寸胴鍋のような物を奏で続けている。見事に不思議な空間を醸成。
井上秋音さんが桃園川の河童として、この世界(高円寺界隈)のガイドを務める。語られるのはゲーム好きの少年一家と、かなりドギツい母親に追い詰められている少女の一家。母親に罵倒され続ける少女役、池田愛花さんは薄幸そうで嵌り役。
第二幕になると、河童は清水のりこさんに交代。それぞれの一家のその後が語られる。芸歴64年の林与一氏がさすらいの天才料理人として登場。林与一氏は一人語りのオチで「なーんだ、ここは大根畑かよ。」とメタギャグ。その林氏と大村敏氏の対決を密かに心待ちしていたのだが叶わず。更に第三幕は誰も予想がつかない展開に。構成は無茶苦茶なのだが、筋の通った思索に感心。ソーントン・ワイルダーなんか何の関係もないだろう。イカれているがこれはアリ。
会場で開催されている展覧会も良かった。出演者でもある武蔵氏のアクリル絵画や五味岩夫氏の水彩画、村山理世氏の写真展。是非足を運んで頂きたい。

ネタバレBOX

第三幕は墓場。登場人物の半数が死者として墓に立ち尽くす。高齢出産で亡くなった藤井れおなさんが人間世界を覗きに行く。余りにも人間世界の時間の流れが速すぎて茫然としてしまう。こんな流れの中で自分はぼんやり生きていたのか?と世界の真実に気付いてしまう。無力感に打ちのめされて墓に戻ると深夜一時、旦那が「これからどうしていいか分からない。」と泣きじゃくっている。何の解答もない素晴らしい演出。
「子ども食堂」は余り印象に残らなかった。
優しい嘘

優しい嘘

劇団BLUESTAXI

ザ・ポケット(東京都)

2021/11/16 (火) ~ 2021/11/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

笠井渚さん演ずるママが経営するスナック、「消しゴム」。今宵も常連客で溢れ、酔っ払ったエロおっさんの唄う懐かしカラオケが轟く。暴走柔道王を彷彿とさせる河嶋健太氏の暴れっぷり、それを華麗にいなすホステス役の瀬上摩衣さんが可愛かった。開幕早々、ベロンベロンに酔っ払った空間に引き摺り込まれる観客を、小川大二郎氏演じる高校教師が更に駄目押し。真っ赤な顔で(メイクか?)トイレ周りに小便を撒き散らす醜態、へべれけ泥酔客に挟まれた客の気分を仮想体験させてくれる。死んだ母から継いだこの店をシングルマザーで切り盛りして来た笠井さん。そこに十年前金を持って失踪した妹が帰って来るところから物語は走り始める。

兎に角、笑いが充実していてシリアスな場面にも必ず何かを挟む。クズ詐欺師役、三枝俊博氏の細かいツッコミが笑いをナレーション気味に説明。女子高生お笑いコンビ役の中村水優(みゆ)さんの顔芸もインパクト大だった。何と言っても主演の笠井渚さんが凄い。クライマックスからラストにかけての熱演は強烈。『顔』の藤山直美を想起。「優しい嘘」がスナック中に溢れ返り、皆がそれに包まれて涙する。かなり記憶に残る名演、お薦め。

ネタバレBOX

第一場の小川大二郎氏のインパクトが強すぎて、その後はまったりと展開していく。亡き母と長女(店のママ)、次女(詐欺師のイロ)、三女(ドロドロの不倫)の関係が核。
笠井さんが娘の漫才を真顔で見詰めながらそっと涙する名シーン。(笑わせようと必死な娘も涙ぐみ、見事な対位法。)
妹に告げる「どんな男と付き合ったってどうせ同じこと。」の名言。(これは「自分の人生を招くのは自分自身の性分だ」と云う哲学で、自分の心の風景を変えない限り同じことが繰り返されていくことに。変えるべきは自分自身なのだが、それが一番の難題でもある。)
そしてラスト、母の最期の言葉を思い返し酔い潰れる笠井さん。二人の妹がその横で日本酒を酌み交わしている。ふと目が醒めた笠井さんは起き抜けにカラオケをセット、曲はキャンディーズの「春一番」。三人泣きながらフリ付きの大熱唱、何故だか全てが伝わるような素晴らしいシーンだった。
半神

半神

ThreeQuarter

中野スタジオあくとれ(東京都)

2021/11/12 (金) ~ 2021/11/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

原作は萩尾望都の短編。野田秀樹と萩尾望都の共同脚本により舞台化。そこに組み込まれたのがレイ・ブラッドベリの短編「霧笛」で萩尾望都も作品化している名作。人里離れた「孤独湾」の灯台に霧笛の音を仲間と勘違いした唯一の生き残りのプレシオサウルスが現れる物語。これを原案とした映画が「原子怪獣現わる」で、更に大ヒットしたその作品に多大な影響を受けたのが「ゴジラ」。
実際、今作は「半神」の設定を使って「霧笛」のテーマを語っている作品。序幕と終幕に原作の台詞がそのまま引用される。

シャム双生児のシュラとマリアの姉妹、人と隔離されて灯台の上に暮らしている。姉のシュラは頭脳明晰だが醜い為嫌われ、妹のマリアは知的障害だが美しい為可愛がられた。十歳になると一つしかない心臓が負担に耐え兼ねて死んでしまう為、どちらか一人を生き残らせる分離手術が行われる事に。

マリア役桜本あやさんとシュラ役櫻井まりあさん、ボケた老数学者役竹原ぽんず氏、ゲーリューオーン役岡島世里奈さんが印象に残った。社会人劇団の持つ強みも感じた。

老いと建築

老いと建築

阿佐ヶ谷スパイダース

吉祥寺シアター(東京都)

2021/11/07 (日) ~ 2021/11/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

演劇の世界にアカデミー賞があるならば、村岡希美さんは今年の最優秀主演女優賞かも知れない。時間に余裕のある女優(若しくは女優志望の方)は絶対観ておいた方が良い。作品なんか所詮役者を飾る容れ物に過ぎない、そんな気分にさせられる。
筒井康隆が虚構と云う物を突き詰めようとしたある時期、無意識(フロイト的には夢)の奇妙さを徹底して作品化した。それは読者からすれば受け止め方の判らない未完成な物、訳が分からずつまらない物でもあった。その試行錯誤の実験小説の数々が後に「超虚構宣言」として結実していく。今になって思えば、それは”夢“の文学化。奇妙な夢を見た寝起きの気分に読者をいざなう。今作は筒井康隆作品なら「遠い座敷」や「夢の木坂分岐点」のニュアンス。フェリーニの「8 1/2」を思わせるこの屋敷の構造は、老女(村岡希美さん)の混在する記憶の中なのか、それともこの築40年の屋敷が見ている夢の中なのだろうか?これを設計した建築家(伊達暁氏)はこの建造物をまるで生き物のように愛おしみ、彼(彼女)の老いを慈しむ。美術の片平圭衣子さんの織り成すアートは眺めているだけで格別でそれは空間に沁み込んでゆく。

三階建ての広々としたデザイナーズハウスに独り住む八十近い老女。その屋敷に訪れるのは独身の息子(富岡晃一郎氏)や娘(志甫〈しほ〉まゆ子さん)、孫娘(藤間爽子〈さわこ〉さん)に孫息子(坂本慶介氏)。だがこの話の面白さは老女にしか見えない存在が多々訪れるところにあり、建築家や亡き夫(中村まこと氏)、因縁の女(李千鶴さん)も最初から居たように自然とそこにいる。

剛力彩芽にどことなく似ている藤間爽子さんが綺麗だった。「基督〈キリスト〉」と書いて無理矢理「のりすけ」と読ませる孫息子の設定センスも良い。観客を爆笑に叩き込むのは木村美月さん、息子の若い彼女役「りぼんだよ」。笑いのセンスが若い。
村岡希美さんの老女の歩き方、それだけで何を表現したいのか全てが伝わる。文学性と娯楽性の見事な両立。お薦め。

ネタバレBOX

老女は40年前、建築家に「要塞のような家」を所望。「家族を外敵から守ってあげられるような」。その通りに旦那にDVを振るわれている娘を護る為、策略を巡らせたことがクライマックスで語られる。(病んだ旦那役は作・演出の長塚圭史氏でかなり生々しく、素なのでは?)
今作一番の名場面は、自分の夫と不倫関係にある李千鶴さんとの対決シーン。村岡さん、中村氏、李さんの沈黙から立ちのぼる情念の陽炎。その全てを屋敷の応接間はじっと見ていた。
たましずめ

たましずめ

SPIRAL MOON

「劇」小劇場(東京都)

2021/11/10 (水) ~ 2021/11/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

二階に上がる階段から舞台美術は始まっている。飾られるのは月の公転を刻んだオウムガイ(劇団名の由来)。とにかく細やかな気の遣い方と“おもてなし”に満ちている空間。座席に一つ一つ置かれたトートバッグは全員にプレゼント。舞台を見やると下手に大木が生えていて、それはすでに美術の範疇を超えている本物。地面の土と言い、よくぞここまでの世界。終演後、観客は染み染みとそれを眺めて帰ることとなる。(上手にもあるが迫力が違う)。
三話の短編集。①占い師が女の片想いを成就させようとアシストする話。占い師役は劇団主催者の秋葉舞滝子(まさこ)さん。丁度細木数子の逝去がニュースとなっており、イメージが重なって見えた。②とある山奥で行われる青年へのカウンセリング。青年役渡部康大(わたなべやすひろ)氏がリアルなサイコパスを感じさせる存在感。錆び付いたバス停の標識がまた素晴らしい。③エピローグ。

不思議な空気感、奇妙な味わい。死者の存在(オカルト)を受け入れることにより、固定観念に凝り固まった生者の生き方がほんの少しだけ解放されていく。そのほんの少しの視点のズレが真暗闇で四方の壁に閉塞されていた筈の世界から、脱け出せる扉が幾つもあった事が見えてくる。この空気感を是非味わって頂きたい。

ネタバレBOX

①インチキ占い師は女の相談者と口裏を合わせ、女が連れて来た先輩との縁結びを導こうとする。それと同時に男の亡くした恋人の霊からのメッセージを伝えてやる。
②ずっと猟奇的な傷害事件を起こし続ける青年にほとほと困った母親が怪し気な霊能力者に頼る。霊能力者は“山の陽炎”を助手に、青年の記憶を狐の面に宿して深層心理に潜って行く。
③冒頭のエピソードのエピローグ。

②の最後に齧り付く大きな梨(?)が美味しそうだった。
Bittersweet Flowers

Bittersweet Flowers

おぶちゃ

劇場MOMO(東京都)

2021/11/03 (水) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

唯一の男性出演者であり、作・演出の大部(おおぶ)恭平氏に興味が湧く。何か不可思議な感覚の持ち主。小劇団への恨みつらみなどに矢鱈リアリティーがある。女優を志しても性的経済的搾取の世界で皆うんざりして逃げ出すんだろうなあ。本当、人間のやることには美しさがない。不思議な感覚のお話だった。

主演のtamico.さんはサバサバ系女子、同性支持率が高そう。因縁の親友と、その教え子(12歳下)の二役を演じた真田真帆さんが可愛い。舞台作家志望の尾崎礼香(あやか)さんもスラリとして綺麗。関西弁を捲し立てる岡野きららさんも何か見覚えが。

大学時代の演劇サークル仲間の結婚式。ちょっとした寸劇をやろうと久方振りに仲間が集まる。だが当時のリーダー格だったtamico.さんには招待状は来ていなかった。

ネタバレBOX

それぞれの夢が無惨に破れ、皆日々の生活に追われ何も考えられない。けれど虚構の世界だけは今もキラキラと輝いて見える。その眩しさにうんざりもしながら、少しだけ手を伸ばしてみる。
スター誕生2

スター誕生2

ミュージカル座

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2021/11/03 (水) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

これ実話なのか?フィクションなのか?ナベプロをモチーフにしたような70年代芸能界内幕ミュージカル。歌手に憧れる少女達と錬金術の猛者達の物語。平尾昌晃や麻丘めぐみ、天地真理、キャンディーズ、久保田早紀、加藤登紀子を思わせる錚々たる面々。しかも全曲歌われるのは詞も曲もまさに当時物のそれっぽいオリジナル曲。スクールメイツ(タレント研修生のバックダンサー)の振り付けなど最高。清水義範のパスティーシュ(作風の模倣)作品に近い面白さがある。
楽曲や時代背景が面白く飽きない。枕営業やプロフィール改竄等もきちんと描かれている。流石に全員の歌唱力は文句の付けようがない。
浅丘るみ(大胡愛恵〈おおごまなえ〉さん)の熱狂的ファンである宮原健一郎氏が印象的。ファン目線の日本芸能史なんかも作れるのではないか?今作のキーパーソンでもある石川このみ役宮下舞花さんは爆乳を強調したダンスで観客は大受けだった。
語り手である作曲家のぎっちゃん(大塚庸介氏)の優しい目線と、恋人でもあった反戦運動家・赤木じゅん(田宮華苗さん)とのエピソードが心に残る。

黄昏川を渡る舟 ―甘寧と凌統―

黄昏川を渡る舟 ―甘寧と凌統―

ワイルドバンチ演劇団

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2021/11/03 (水) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

主人公は甘寧(かんねい)、演ずるは東條瑛(あきら)氏。海賊出身で名を馳せた愚連隊が正式に名を上げようと仕官を試みるが誰にも相手にして貰えない。悪名高い江夏(こうか)の黄祖(こうそ)に仕えることとなるが···。アクションの動きはピカイチ。声に色気がある。
魅力的な武人、孫呉の凌操(りょうそう)、演ずるは米川塁氏。甘寧に討たれるも、孫呉に仕えるよう勧告。ハン・ソロのように死しても息子を見守っている。
彼の息子、孫呉の凌統、演ずるは髙木陵斗(りょうと)氏。奇しくも名前は同じくRYOTO。父を殺した甘寧を仇と狙う。那須川天心に似ているような。
曹魏の張遼(ちょうりょう)役は演出、殺陣兼任の古田龍氏。第二幕、最強の武人の彼が登場してから物語は一気に盛り上がる。

敵味方乱れ打ち、誰が誰と戦うやらの決戦シーンは往年のジャッキー・チェン映画を思わせる。『プロジェクトA』や『スパルタンX』、ツイ・ハークの『スウォーズマン』など。いろんな人間のいろんな思惑がアクションで絡み合うのは面白い。コメディも盛り込まれている。
登場人物の話す内容一つ一つに筋が通っていて感心。史実を曲げていない所も好感。余りにも余りにも膨大な台詞の量に役者は大変だ。
話は判り易く気軽に楽しめるのでお勧め。

ネタバレBOX

ドラマを作るのが下手で会話と設定に頼り過ぎ。キャラがゲームっぽく、ベラベラベラベラ喋り過ぎる。逆にサイレント映画のような空白もあった方が良い。音楽による演出をもっと工夫して、曲調がガラリと変わり一気に盛り上げる緩急が必要。
三人姉妹

三人姉妹

劇団つばめ組

シアターグリーン BASE THEATER(東京都)

2021/11/04 (木) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

まず杉崎智子さんが登場して入念なストレッチを始める。次に登場した那須野恵さんは手に持った本から目を離せない。最後に吉田直子さんが現れ、那須野さんから本を取り上げる。この三人姉妹の物語が開幕。
末娘イリーナ、アイドル声優風味のブリっ子な杉崎智子さんが可愛らしい。次女マーシャ、那須野恵さんは芯の強いインテリ既婚女性で、歌を口ずさむ癖。長女オーリガ(オーリャ)、吉田直子さんは未婚の教員で多忙な仕事の重責に悲鳴を上げている。この三人が本当に魅力的に描かれ遣り取りをずっと観ていられる。

11年前、父の仕事でモスクワから辺鄙な田舎町に越してきた一家。そこでは身に付けた教養も文化も意味を成さない。1年前父が亡くなり、遺された三姉妹はモスクワに帰京することを唯一の“希望”として暮らしている。オーリガの弟、二人の兄としてアンドレイ(石倉研史郎氏)と云う長男もいる。

正統派古典劇の進行は葵ミサさん演じるアンドレイの恋人、ナターリャの登場から崩れて行く。凄く現代っぽい所作、着こなし、口調。そこから次々とスマホで記念撮影する者や「俺ら東京さ行ぐだ」のコロナ禍バージョンのカラオケ等遊び心が展開される。

ロシア革命前夜の緩やかに国が滅んでいく兆しともっと新しい別の何かが人々を救済し導いてくれるような祈りにも似た予感が作品内に充満している。作中人物は常に未来の人々のことを意識する。「数百年後の人達は今の私達をどう捉えるのかしら?」「自分達は未来の子孫達に幸福を届ける為、働き苦しんでいるのだ。」その観点が興味深い。
先日亡くなられた白土三平の傑作『忍者武芸帳・影丸伝』。その最終回、処刑される影丸の最後の台詞「われらは遠くから来た。そして遠くまで行くのだ」(イタリア共産党のパルミロ・トリアッティの言葉が元ネタ)。現在の人類の社会は未だ不完全な形態であり、過渡期にすぎないと云う。今が完成された全てではないのだ。

希望とは、この酷い状況から自分を連れ出してくれる可能性を感じられる切っ掛け。三人姉妹にとっては「モスクワ」だったり「不倫(本物の愛)」だったり、それはぼんやりとしていて、けれど確然と胸裡に秘めて生きていく。

当日配布パンフの中の主催者の言葉が良かった。「演劇は祈りだと私は考える。だが祈りにもどれだけの意味があるのか。」「だが意味がなくても行動するのが人間である。」

ネタバレBOX

マーシャの不倫は別れで終わり、イリーナの結婚は婚約者が殺されて露と消える。だが本当に可哀想なのはオーリガで、未婚のまま、女子校の校長にまでされてしまう。もっといろんな『三人姉妹』を味わいたいと思った。

シアターグリーン BASE THEATERは段差が余りなく、後ろの方はかなり観辛い。
クレプトキング

クレプトキング

ENG

シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)

2021/10/29 (金) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

7月に行われた、中野裕理さん、門野翔氏、石部雄一氏(a.k.a.カガミ想馬)のイベント、『な・か・い・ちゃん』。花奈澪さんゲストの回を観に行った。今思えばまさに今作の予告篇。(七海とろろさんと丸山正吾氏も今作に出て欲しかった。)

幻器(げんぎ)=それを手にした者は超常的な力を手にする事が出来る不思議なアイテム。色々な種類があり、世界に複数存在する。
レン=皇王“芙陽”。この世界の秩序を守る為、王でありながら身分を隠し、幻器を悪用する者達を成敗している。
邏卒(らそつ)=この世界の警察の呼び名。
月斗(げっと)=幻盗ツクヨミ。何でも盗める幻器(盗賊の篭手)を持ったスリの義賊。(演ずるは平山佳延〈よしのぶ〉氏、今作の主人公)。

世界観やキャラクターのヴィジュアルなど、藤田和日郎の『からくりサーカス』を思わせる。“兎”と“月”、女性戦隊ミニスカアクションなどは『セーラームーン』もイメージしているのかも知れない。(一回も観たことがないのでよく判らない。)

開幕早々、ぬるいヒーローショーのような殺陣に不安がよぎる。ただ、シナリオに散りばめられた謎が工夫されており、展開の先が気になって週刊漫画誌のページを捲る手がどんどん速まっていくような気分に。無線機片手の、ウサギの耳を模した仮面男、そのミステリアスな存在感が今作を只のドタバタ馬鹿騒ぎにはさせない。

ヒール、松藤拓也氏のアクションがズバ抜けて目を瞠る。邏卒女子訓練生のミニスカ太腿アクションにも釘付け。花奈澪さんのファンなら二つのキャラが観れるので今作は必見。花影香音さんも印象的だった。主人公の少年時代役、富田大樹(とみだだいき)氏は34歳!嘘だろ?と思う程、少年の純粋さに満ちていた。

ネタバレBOX

時間改変能力の幻器を持つ仮面の男、鵜飼主水氏の行動の目的が今作の要。矢張り、『からくりサーカス』のラストに近いテーマ。作者はきっと好きなのだろう。
過去に遡り、時間改変者と戦う物語。都合のいいアイテムや設定など、突っ込んでいけばキリがない。が、それをよしとさせる少年漫画のエネルギーがある。

花奈澪さんが邏卒を志した切っ掛け、「子供の頃攫われそうになり助けてくれた女の人がボロボロになりながらも自分を守ってくれた。そんな人間になりたいと思った」。まさしくクライマックスの伏線であり、その女性こそ未来の自分自身だったと話が纏まる筈なのだが···、何もなかった。
ぽに

ぽに

劇団た組

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2021/10/28 (木) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

主演の松本穂香さんにやられた。彼女のファンなら絶対必見。そうでなくても叩きのめされる筈。公園の砂場をモチーフにした円形舞台にほぼ出突っ張り。隅には天井からぶら下がる長大な鎖に繋がれた二基のブランコ。もう一方の隅には人の登れるアスレチックネットが。
特にファンではなかったのだが、彼女の舞台はまた観たいと素直に思った。男を駄目にする性的フェロモンをムンムンと無意識に身に纏っている。それが自然に表現されており、演じている感じが全くしない。素でこういう人なんだろうなと勝手に思い込んで観ていた。作者の口癖である「〜なので」も大量に作品内に炸裂。『火の鳥・未来編』のムーピーを想起させる。(相手の心を読み取って好む容姿に変化する究極の異星生物)。

演出の狙いでもあるのだろうが、役者の舞台上の声が小さく台詞が聴き取り辛い。ここはもう少し音響に頑張って貰いたいところ。自分は4列目だったのだが判らない会話がかなり有り、勝手に想像して観ていた。···なので、本当に作品を理解しているのかの自信はない。

『友達』がつまらなかったので、今作は全く期待していなかった。今や作者は何をやっても観客も批評家も褒めてくれる状況。何か不条理な鬼ごっこでも見せて、高尚な哲学でもあるようなそれっぽい雰囲気と余韻でごまかすんじゃないかと勘繰っていた。申し訳ない。
作者の分身である、(仮)彼氏役お馴染み藤原季節氏の相変わらずのクズっぷり。些細な言葉尻を捉えて、幼稚な口論に持ち込むいつものプレイ(西村博之か?)。毎回彼の演ずる役を見ていると「若手俳優には碌な人間がいないんだなあ」との偏見が刷り込まれていく。彼は何故かクッションの腕をいつも持ち歩いている。

男を駄目にする女と、女を駄目にする男のクズ・ロマンスが主旋律。松本さんはシッターのバイトをしていて平原テツ氏演ずる5歳児を担当。(自分は障害者若しくは引きこもり自閉症患者の成人男性と勘違いしていた。言う事が大人び過ぎている)。かなりの規模の地震が発生し、タワマンの外に出るが戻れなくなる。我儘放題に要求し泣き喚くガキにうんざりして別れ、独り男の家に歩いて帰宅してしまう。ドラマはそこから始まる。

作品内の世界では、子供が恨みを遺して死ぬと“ぽに“になり、縁の深かった者に取り憑いてその家に産まれる子供を冥界に連れて行くとされる。“ぽに“を御祓いする為に当事者は失明のリスクを背負わされる。
この一つだけズレている世界観が松本人志企画オリジナルビデオ『頭頭(とうず)』っぽい。設定は『ぼぎわんが、来る』っぽくもある。

ネタバレBOX

平原テツ氏演じる5歳児が”ぽに“となり松本さんの匂いを辿ってやって来る。左脚は腐り始めていてゾンビ調、何故か43歳に老けている。男の家に住んでいる松本さんは空いている自分の部屋を貸してやる。“ぽに”は取り憑いている人以外には見えない。(“ぽに”が来た事で、子供はすでに死んでいると思われる)。
子供の父母は遺体(?)を捜す。松本さんは“ぽに”が来ていることを黙っている。“ぽに”祓いに行ったり、(仮)彼氏との関係を“ぽに”に相談したり。失明することを暗示する目隠しを着ける羽目に。子供が川で発見され、意識不明の重体らしい。(この辺聴き取れていない)。到頭クズ男と別れる決心をし、泣きながら部屋に帰るが“ぽに”はいない。電話が鳴り、出ると子供は一命を取り留めたようだ(?)、(子供が助かったので”ぽに“は消えた?)淋しくて泣き続ける松本さん。外では一基のブランコが静かにゆらゆらと動き出し、揺れ続けている。そして彼女は突然失明して暗転。

ラストはもっと圧倒的なものを期待していた。ただ、作者が思いついたものを推敲せず全肯定してひたすら喋り続けている感じが良かった。推敲すればする程、平均化され歪な形は整ってしまう。一体こりゃ何だ?と作った自分すら訝しがる新しいナニカに手を伸ばしているのだから。
音楽劇 百夜車

音楽劇 百夜車

あやめ十八番

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2021/10/29 (金) ~ 2021/11/02 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕75分休憩10分第二幕75分。
マグマのように噴出する情熱。想像の十倍凄いミュージカルだった。観劇と云うよりLIVEを見せ付けられた感覚。溜まりまくった無数の不遇な才能が吐き出す先を探して長年喘いでいたようだ。『シカゴ』のように綿密で『ラ・ラ・ランド』のように解放的。これは劇場で体感した方が良い。
今作を映画化するならば、故大林宣彦か?(大林宣彦には二面あって、『理由』とかの編集センス抜群なA面大林宣彦の方。B面の自主映画作家系大林宣彦は皆が嫌いな奴)。
ずっと最上級の生演奏が奏でられ、歌も上手いし曲も良い。ダンスの振付やアイディアもよく練られていて隙がない。雑然とした雑誌編集部のオフィスと裁判所が見事に重ねられた舞台セット。

週刊記者役192cm(前田日明と同じ!)の浜端ヨウヘイ氏が圧倒的な歌声で観客を唸らせる。味のある訛りで人柄を滲み出させつつ、本業は歌手だった!ちょっと笑っちゃうくらいレベルの高い歌声が劇場中を木霊する。ここは帝国劇場か?
ヒロインの金子侑加(ゆうか)さんも魅力的。彼女に惚れた男5人が次々と自殺していき、魅惑と疑惑に彩られた容疑者役。しかも本人の本業は団子屋の女将!
裁判員に選ばれた大森茉利子さんは異常な精神科医の夫によるモラハラDVに長年耐え忍んでいる。
その夫、谷戸(やと)亮太氏演ずるイカれた精神科医は、アンガールズの田中卓志を思わせる不快なジェスチャー。
教誨師役岡本篤氏の存在はかなり重要。こういうどっかりと足場を固めた確立された視点があることによって、娯楽ジャーナリズムの類いから文学へと作品は昇華する。
主人公的立ち位置の永田紗茅(さち)さん、文芸誌希望ながら週刊誌に配属された新入社員役。彼女がこの事件をどう見ているのかをもっと知りたかった。
容疑者の腹違いの弟役溝口悟光(ごこう)氏、この事件の底流に流れるDNA(血脈)の呪いを意識させる。
容疑者の父親役、中山省吾氏。最低最悪の屑親、DVモンスターのように見せて中古文学(平安時代の文学)に長けたインテリ。今作の主要人物の共通点として、この中古文学への敬愛が挙げられる。
記者の婚約者役、内田靖子さんの歌声も凄まじい。全く息継せずにオペラ調に歌い続ける技術、圧倒される。
拝金ジャーナリズムの権化のような週刊誌編集長役、蓮見のりこさん。どう考えてもヒールなのだが、腹の決まった覚悟を任侠極道のように抱えてみせる。屑の一念が反転すると、美しくさえ思える不思議。

話題の毒婦を独占取材する為、記者に獄中結婚すら要求するクズ週刊誌。容疑者は中古文学を専攻していた為、記者は和歌にて接触を試みる。か弱い生真面目な容疑者は果たして本当に5人を殺したのだろうか?

ネタバレBOX

第二幕からは裁判で、容疑者の生い立ちが語られていく。キーアイテムはビニール製子供用縄跳び。容疑者の家系は自分を愛した者が呪われたように死んでいく。ヒロインは愛されることに怯えていく。

余りに壮大な話でそう簡単に消化し切れない。ただ『ジーザス・クライスト・スーパースター』のような余韻があったならなあ、と思う。強烈な物語を終えて、役者やスタッフは荷物を抱えてさっさと去って行く、みたいな。そこに取り残されるのは打ちのめされた観客だけ。

「百夜通い」が余り意味を成していない。二人の揺れ動く胸の内や変化もなく。(こここそ歌い上げて欲しい所)。容疑者にどうして皆魅入られてゆくのか?を観客に追体験させることが出来たなら。一つ軸になる和歌があっても良かった。(沢山の和歌が詠み上げられるのだが、さっぱり意味が分からない)。腹違いの弟と週刊誌記者の秘めたロマンスも描き方が物足りない。
「あの怪物の名は太陽の塔」

「あの怪物の名は太陽の塔」

The Stone Age ブライアント

サンモールスタジオ(東京都)

2021/10/27 (水) ~ 2021/10/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ヒロインの石松千明さんが素晴らしい。70年代のあの感じの女の子。文通相手に会いにわざわざ大阪まで出て来た東京の女子高生。開演前SEで「雨にぬれても」が流れ、バート・バカラックの叙情的なムードで舞台は開幕する。大田康太郎氏演ずる一癖も二癖もある癇癪持ちのおじさんと愉快に山道を歌って歩く少女。牧歌的な光景、和やかなひと時、それが一変するのはおじさんの目的地は知的障害者施設で、娘に会いに来たことを表明してからだ。
若い頃の香川照之を思わせるルックスの綾田將一(あやだしょういち)氏も見せてくれる。「不幸な子どもの生まれない運動」を推進する役所の人間役。ヒール的立ち位置ながら、誰よりも“善意”について真剣に思索する人物である。

1970年に開催された大阪万博の名残り、岡本太郎の代表作「太陽の塔」。障害者施設近くの展望台から、それは神々しくも禍々しくも見下ろせる。
知的障害者は果たして幸せなのか?一人の女性がノートに「死にたい」と書いて脱走する。

オウム真理教の信徒で、学生時代障害者支援のボランティアをやっていた女性がいた。彼女は何でこんな生まれながらに苦しまなくてはならない子供達が存在するのかずっと思い悩んでいた。麻原彰晃の本を読んで「前世の宿業〈カルマ〉」と云う理論に納得し入信、やっとすっきりしたそうだ。このように、人間が思い悩むのは矛盾や不条理にはっきりとした解答を求めてのこと。嘘でも解答を得れば、もうそのことはどうでもよくなる。その女性も解答を得た事で障害者の苦しみは「自業自得」と楽になったのだろう。

それぞれの“善意”が交通渋滞を起こし、考えれば考える程底なし沼の奥深くに嵌まり込んでしまう。答は一つではない。無数にありつつ、矛盾しながらもそれは共存していく。

ネタバレBOX

「夏の思い出」を想起させるオリジナルソングを作る大田康太郎氏。ハーモニカを吹き、娘が好きな歌謡曲を沢山覚えている。非常に知的障害者に理解のある男性に思わせながら、実際は自分の娘を愛しているだけで、他の連中の事なんか全く何の興味も持っていない。口汚く職員を罵り、トラブルを起こす他の入所者のせいで施設が閉鎖されることを恐れている。この圧倒的なリアル感、まさに人間だ。

どうにもならない善人の悪業が淡々と綴られる。
知的障害者が川に飛び込み自ら溺れ死ぬ光景に目を瞑った過去を持つ園長の告白。「太陽の塔」を巨大な鳥と準えて、その背中に乗って何処までも飛んで行く自分を夢想したヒロインの姉。生真面目な職員はそんな彼女を「何処にでも好きな所へ行ってしまえ」とわざと逃がす。
知的障害者の姉のことが大嫌いだったヒロインは、昔二人で延々と繰り返した鬼ごっこを思い出す。姉を見付けて、背中をポンと叩くと彼女はにっこりと笑ったのだった。

ヒロイン、役所の人間、癇癪持ちのおじさんの三人に焦点を絞った方が良かった。90分に人物を詰め込み過ぎで勿体無い。

実話を基にした「スペシャルズ!」と云うヴァンサン・カッセル主演の仏映画がある。重度の自閉症児を社会不適合の若者達がケアする実在の団体の話。「こんな奴等と付き合ってられるか!」とキレて仕事を投げ出そうとする若者に主人公は言う。「今お前に職があり給料を貰えているのはこの子達がいるからだぞ」と。それは凄くこの世の真理を突いていた。

タイトルのセンスが抜群。こうなると、「太陽の塔」に視覚的にもっと絡めて欲しい。
ちーちゃな世界

ちーちゃな世界

青春事情

駅前劇場(東京都)

2021/10/27 (水) ~ 2021/10/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素晴らしい。ささくれ立った脳髄が不思議と癒される。何か甲本ヒロトの事を考えてしまった。ヒロトのブルーハーツ時代の名言、「幸せとはなるものじゃなく、それを感じる事が出来る心を手に入れることなんだ」。宗教家か?と思う程のカリスマ性。全国の救いを求めた少年少女達の熱量を処理し切れずにバンドは解散した。

満員の観客は劇団への信頼に満ちている。舞台は東京から5~6時間掛かる片田舎のペンション。そこに居るのはちょっと失礼な人懐っこいオーナー、物忘れのひどい奥さん、ヘビースモーカーの料理人、毒舌のIT社長、書けない児童文学者etc.···。そして東京から訪れる闇を抱えた女性。まあ有りがちな人情喜劇と思わせつつ、かなり人間世界の深い所まで思索した上で刃を切り込んでいる。この手の話は諸刃の剣で、作劇に嘘があると観客は敏感に察知して拒否反応を起こす。今作は安易なカタルシスで逃げなかった点も素晴らしい。
凄まじく残酷な世界にうんざりしながらも生きていかざるを得ない人々が、どうにか“想像力のカプセル”を飲み込んで立ち向かっていくような喜劇。いい事ばかりじゃないけど、悪い事ばかりでもない。気の滅入ってる人にお勧め。

ネタバレBOX

IT社長役加賀美秀明氏は毒舌の山寺宏一的なキャラで、皆に嫌われるが発言は一貫して筋が通っている。物語を上手に掻き回す。
作・演出の大野ユウジ氏はタピオカ屋としてチョイ役で終わったのが残念。もう少しラストに仕掛けが欲しかった。(自分は『ささやかだけれど、役にたつこと』のケーキ屋のようなものを想像していた)。
若年性アルツハイマーの奥さん役、後藤飛鳥さんは本物か?と思わせる凄さ。「彼女を肝として泣かせに入るんだろうなあ」とのミスリードが上手い。
スランプの児童文学作家役内海(うつみ)詩野さんは流石。出ただけで場の空気が変わった。
リベンジポルノによって現実世界から居場所を奪われた中学教師役、板本こっこさんも巧い。無意識に巨乳をわざと強調する着こなし等は秀逸。
ギャンブル狂の料理人、ナカムラユーキ氏はやたらリアル。ラスト、持ち逃げしたように見せた金をギャンブルで何十倍にして持ち帰ってみせるお伽話。「すみませんでした」と泣きながら土下座してから、金をバラ撒いても良かった。

主演の本折(もとおり)最強さとし氏の見せ場であるクライマックス、恥辱の写真を不特定多数に半永久的に流されて苦しむ被害者の女性を何とか励ます。このシーンがイマイチで、ここで観客全員を泣かせて欲しかった。皆ボロボロ泣いている情景で、ペンション全焼と云うのが正しいオチだった。

タイトルとチラシがつまらなそうで勿体無い。

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