かずの観てきた!クチコミ一覧

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ウィーンの森の物語

ウィーンの森の物語

東京演劇アンサンブル

東京芸術劇場アトリエウエスト(東京都)

2021/03/06 (土) ~ 2021/03/14 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/03/10 (水) 14:00

座席1階

ドイツの作家ホルバートの作品。ブレヒト劇をやり続けてきた劇団だが、ブレヒトと同世代を生きた作家を「生誕120年」として取り上げた。
演出家の公家義徳氏がパンフレットに記したところによると、革命家たちを描いたブレヒトとは対極にあるように小市民の生活を描いた作家だという。
父の決めた嫌な相手との結婚から逃れ、駆け落ちした相手の男はどうしようもない輩で、主人公の女性は乳飲み子を夫の実家に預けて懸命に働く。当時はドイツだけでなく欧州も米国も日本もそうだったと思うのだが、女性が夫の所有物のような扱いで自分の人生を生きられなかった、ラストは救いようもない悲劇である。究極の児童虐待が起きるのだから。主人公の叫びが、何とも言えない重さを突き付ける。
この劇が今日性を持つのは、女性の貧困、抑圧が今もあまり変わっていないところだからだ。時代は100年近く回転して主人公のような女性の悲劇がなくなったかというと、そうではない。日本でもDVがあちこちにある。結婚して仕事を辞めるのは当たり前のように女性であった。非正規労働による貧困に苦しむのも多くは女性である。シングルマザーの苦闘は日本でも欧州でも同じであろう。
途中、2回の「換気休憩」が入って約2時間半。前段は若干、緩いペースだと思うが、後半は引き締まってくる。特に、主人公のマリアンネを演じた仙石貴久江が光った。若手の劇団員が育っているということなのだろう。長年慣れ親しんだ武蔵関のブレヒトの芝居小屋を出た今、新しい劇団になっていくためにもこうした女優さんがいるのは明るい。
アフタートークでは背景にある戦争の話も出てきたが、この舞台には戯曲が書かれた直後に出てくるヒトラー政権の空気も感じさせない。男たちはどこまでも身勝手なやつばかりだが、それでも戦争で抑圧される空気はないのだ。戦争とは一応、切り離されているだけに、現代社会での今日性が舞台に浮き上がってくるのかもしれない。

ネタバレBOX

シアターウエスト。座席を取り払って一つおきでした。
岸辺の亀とクラゲ-jellyfish-

岸辺の亀とクラゲ-jellyfish-

ウォーキング・スタッフ

シアター711(東京都)

2021/03/06 (土) ~ 2021/03/14 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2021/03/08 (月) 14:00

座席1階

2011年に初演の舞台だという。震災があった年だ。今年で10年目の再演。
中学校の女性教師のアパートの部屋が舞台。最初に出てくるのはこの女性教師と付き合っている彼氏で、洗濯物の女性下着を取り込んで、丁寧にたたんでいるという非常にシュールな場面から始まる。
最初に訪れる珍客は上階の部屋に住んでいるらしき中年男だ。泥酔して部屋を間違えるという設定だが、ここから果てしなく間違いが連続して起きていく。
その各々の間違いが微妙な糸でつながっていて、結局この部屋を訪れる人たちは、一見主人公と何の関係もない人たちであったはずなのに、結局何らかのかかわりが持たざるを得ないところまで追い込まれていく。何というか、これがまた微妙な「破局」につながっていく。
2時間余りの舞台だが、この舞台設定と物語を織りなす縦横の糸が非常にうまくできていて、目を離すことができない。要するに、この演劇は面白いのだ。
その面白さは、人間が誰しも持っている、他人のふるまいや出来事を「他人事」として話のネタにして楽しむような感覚だ。「眼鏡を掛けた地味なおばさんが万引きをしたところで目が合った。見つめられて気持ち悪かった」。いかにも、他愛のないエピソードなのだが、笑っているうちにこのエピソードに深くつながる災難に巻き込まれていく。都会の「他人事」の人間関係をシニカルに描いているのだが、実はドロドロの関係であったりする。

いろいろ書きたいが、書くものすべてtがネタバレになってしまうからこの辺で。残りは劇場で確かめよう。チケット代の2倍は楽しめます。

この舞台の教訓。アパートのドアを開けたら、ちゃんとカギをかけること。鍵さえかけていたらなあ(笑)

ネタバレBOX

舞台の途中で換気タイムがある。「トイレ休憩ではありません」と念押しされ、5分くらいの時間を過ごす。緊急事態宣言下、シモキタの小劇場で行う公演のお約束のようなものか。
花樟の女

花樟の女

Pカンパニー

座・高円寺1(東京都)

2021/03/03 (水) ~ 2021/03/07 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/03/04 (木) 14:00

台湾出身の女性作家・真杉静枝の物語。戦前から戦後にかけて、生まれ育ちや性別で差別され、貶められてきた真杉静枝の人生を描く。

冒頭。あることないこと織り交ぜて静枝をひぼうするような小説を書いた作家の元に、静枝の妹とその娘が抗議に乗り込んでくる。舞台は、妹がナビゲーターとなって静枝の半生を振り返りながら進んでいく。
女性が社会で働いてそれなりの地位を占めるようなことが当たり前になりつつある日本だが、森元総理の女性蔑視発言に象徴されるように、日本の男尊女卑のDNAはそう簡単になくならない。日本が台湾を占領していた当時は「女が男を支える」のは当然であり美徳であった。石原慎太郎元都知事の「第三国人」発言にこれもDNAとして引き継がれているように思うのだが、外国人や少数民族、アジア諸国の人たちを「劣等民族」と言わんばかりにさげすむ差別感情も当時は、当たり前のようにあった。こういう時代にあらがって、「書くべきことを書く。言いたいことを言う」という女性が生きるためにはどんなことでもやらなければならなかったのだろう。それが、時には体を預けてまで力のある男性に取り入ったりすることがあったのかもしれない。それが「恋多き女」と評された静枝の一面であった。
でも、「恋多き男」とは表現しないから、文芸作品やジャーナリズムの世界でも、男尊女卑も相当根深く残っている。休憩をはさんで3時間弱の舞台を見ながら、「女は男よりも劣っている」「日本人は優秀民族である」というDNAをどう、拭い去っていくのかを考えていた。舞台を見ながらこういう思考回路になったのは、Pカンパニーの「罪と罰」シリーズの力点であるからなのだろう。

この舞台が、森発言があったからタイムリーだとは思わない。むしろ、森発言のあるなしにかかわらず僕たちが考えなければならない「罪と罰」なのだ。

それともう一つ。冒頭に出てくる作家先生は、書かれる者の痛みを全く理解していない。面白ければ何を書いてもいいのだ、多少誇張や嘘が入っていて何が悪いのだ、という人だ。悪い奴だと思うから悪く書かれて当たり前だ、というバッシングは、現代日本に、特にSNSに巣食い続けている。自分としては、こちらの「罪と罰」の方に思いを寄せる。

「差別」は、される側でないと痛みは分からない。差別がはびこる嫌な社会から一歩でも抜け出すためには、相手の痛みを想像する力を養うことが必要だ。Pカンパニーの舞台は、そういうことに気づくヒントを与えてくれる。

ネタバレBOX

妹に語らせるモノローグでの進行だが、舞台装置を含めた演出が秀逸だった。日本家屋の障子・ふすまを想像させる木の囲いがシーンによって七変化していく。ここも見どころの一つだ。
ドレッサー【2月26日(金)は公演中止/兵庫公演中止】

ドレッサー【2月26日(金)は公演中止/兵庫公演中止】

加藤健一事務所

東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)

2021/02/26 (金) ~ 2021/02/28 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/02/28 (日) 14:00

座席1階

シェークスピアの劇中劇の舞台裏という設定。ドレッサーとは衣装係兼付き人で、舞台裏を支えるスタッフがこの物語の主役である。
第二次世界大戦のさなか、ドイツ軍の空爆を受けて空襲警報が鳴るロンドンで、「リア王」の幕が上がる。空襲という非常事態で、肉体的にも精神的にも弱気になり周囲を困惑させる座長で、王様役を演じるのが加藤健一だ。舞台に穴をあけてはと、なだめすかして座長や座員を鼓舞して舞台の遂行を図るのが今回のドレッサーで、加納幸和が演じた。
1988年にサンシャイン劇場で演じられ、この時は座長を三國廉太郎、ドレッサーを加藤健一が演じたという。それから三十余年。年を重ねたカトケンが満を持して座長役として舞台を引っ張ることになった。
この舞台、戦争とは異なるが、ウイルスとの闘い真っ最中の緊急事態宣言下での上演だ。カーテンコール後のいつものカトケンのあいさつによると、本当はプレイハウスで3日間の上演だったが、午後8時までに終わるという緊急事態宣言ルールに引っかかって一日休演があり、二日間は席を一つ空けての客席だった。三日間で集客は本来の三分の一だったという。それでも、今回の舞台の役者たちは「開演できてよかった」という。僕たちも見られてよかった、と思う。空襲の中、劇場に集まったロンドン市民のような気持ちで舞台を見つめた。
座長のせりふの中で「俺は映画は嫌いだ」という趣旨のものがあった。この演目、演劇人の生きざまを真正面から描いている。なぜ演じるのか、そして我々はなぜ見に行くのか。爆弾とウイルスは本質的に違うけれど、生の演劇の持つ意味を十分に教えてくれる。
カトケンも気に入っているとパンフレットに書いているセリフがある。「役者というものは、他人の記憶の中にしか生きられない」。名セリフだ。自分は役者でないからその思いは分からないけれど、舞台に通い続けるというのは、心に刺さる記憶を刻み続けるためだと感じている。

ネタバレBOX

少なからぬ演劇人が「舞台の上で死ねたら本望だ」というかもしれない。ラストシーンは役者の本懐を遂げる結末だ。戦争で死ぬよりずっといい。それに直面したドレッサーは座長に悪態をついて部屋を出されるが、心の中では「座長、よく頑張ったな。うらやましい奴だぜ」と言っているはずだ。
僕の庭のLady

僕の庭のLady

文化庁・日本劇団協議会

赤坂RED/THEATER(東京都)

2021/02/17 (水) ~ 2021/02/23 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/02/18 (木) 14:00

座席1階

日本劇団協議会が制作した、文化庁の海外研修制度から戻った演劇人たちによる公演。演出を担当した河田さんもその一人で、イギリスの国民的作家アラン・ベネットの実話を基にした作品だ。
かつては著名なピアニストだったホームレスの老女が住まいにしているワゴン車を、なぜか自宅の庭に止めさせて何かと面倒を見るベネット氏の目線で物語が進行する。
このベネット氏をふたりの役者がかけあいのように会話しながら演じるのがおもしろい。この老女はとんでもなくわがままであれこれベネット氏に文句を付けたりするのだが、ベネット氏は追い出すこともせず、亡くなるまで15年間も住まわせてしまうのだ。
この作品は、映画化もされている。高齢社会を考える物語としてきっとこれからも受け継がれていくのだろう。ラストシーンが泣かせる展開だ。泣かせるというよりは、明るい涙というべきか。すべてはここに持ってくるための積み重ねであったように思う。

ネタバレBOX

赤坂レッドシアターの座席は一つおき。緊急事態宣言が明けるまでなのかもしれないが、最近の劇場はこれが定着しているようだ。
草の家

草の家

燐光群

ザ・スズナリ(東京都)

2021/02/05 (金) ~ 2021/02/18 (木)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/02/08 (月) 14:00

座席1階

物言う舞台が特徴の燐光群では異色の家族劇か。しかし、過疎化と高齢化で古里が廃れていくという日本社会の現実を、家族の会話劇を通して鋭く告発しているとも言える。
「ここ数年はお客が来るのを見たことがない」と自嘲気味に語られる「はかり屋さん」。舞台の小道具としてさりげなく置かれている計器類は、すべて本物だという。より正確に計量する器具は、日本の高度成長を支えてきたとも言える。物言わぬ小道具と、この古い家をどうするのか、と繰り広げられる兄弟の会話。そのコントラストがなんだかシンクロして少し悲しい。
男ばかりの兄弟たちは、地元に残る者、都会に出る者といろいろだが、実家に残された年老いた母親の元に集まってくる。だが、その兄弟たちももう若くはない。「親亡き」後をどうするか、兄弟それぞれの思いが交錯する。
「家を売る」という話もちらりと出るが、土地価格が高く一財産になる都会と違うから、話が出ても相続争いとかにならないところがなんだかほっとする。子どものころや若いころはけんかをしたり確執があったとしても、お金さえ絡まなければ、兄弟が骨肉の争いをするということにはならないだろう、と舞台を見ながら安心したりもする。
「小道具」に触れたが、この舞台では見えない「小道具」もよかった。それはホタルや大木だ。実際にホタルが飛ぶわけではないが、まるで本当にそこにあるかのように感じた。役者たちの力量のなせる技だろう。
時間の流れを感じさせる最初と最後の場面。うまい台本だと思った。

正義の人びと

正義の人びと

劇団俳優座

俳優座劇場(東京都)

2021/01/22 (金) ~ 2021/01/31 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/01/28 (木) 14:00

座席1階

カミュの古典を実力派の劇団が上演。カミュといえば降ってわいた新型コロナで「ペスト」がバカ売れする社会現象が起きたが、この戯曲は、人民の平和と安寧のために圧制者を殺害するテロは正義か、という現代でも通用する命題をめぐって暗殺者集団が大論争を繰り広げる。
舞台は暗殺前と暗殺後の2幕。翻訳に苦労したという難解なカミュの思想なのだが、役者たちの緊迫感に力を得て、客席の視線は緩むことがない。
今風に言えば、北朝鮮国民を貧困と飢餓、不自由から解放するために首領様を暗殺するのは正義かという話である。今回の舞台では二幕で、殺害された大公の妻が暗殺者に面会し、愛する夫を殺害された自分の思いをぶつける場面がある。首領様にも家族がいて(もっとも、この人は家族であっても粛正する人なのだが)果たしてその家族の安寧を破壊するのは人民のためとはいっても正義なのだろうか、と考える。
もう一つ、絞首刑になる暗殺者と恋仲の同志の女性が、恋人の処刑(死)に対して、それが自分の愛を貫くうえでも価値あるものだと半狂乱のように自分を納得させるような場面がある。主義のために死ねるか、社会をただすために愛を犠牲にできるのか。そういうことを考えなくても済む現代日本に住んでいるのは、よかったと思う。ただ、いつそういう世の中になるかもしれない、という不安は感じているわけだが。

このような戯曲を見た後は、酒場で少し議論したくなる感じだが、今はそれが一番してはいけないこと。そういう意味では不自由な世の中なのである。

ネタバレBOX

俳優座劇場というゆったりとした客席で一つおきに座るコロナ対策。高齢者が多い客席なのだから、これも仕方がないと言えよう。
シェアの法則

シェアの法則

劇団青年座

ザ・ポケット(東京都)

2021/01/22 (金) ~ 2021/01/31 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2021/01/22 (金) 18:00

座席1階

シェアハウスの物語というと、住民の人間模様とか軋轢とかの話だろうな、と軽く予想して中野へ向かった。果たしてこの舞台、大家一家の人間らしい物語が絡むというちょっと予想外の展開で、満足度は非常に高かった。脚本の勝利だと思う。
駅近なのに格安のシェアハウス。住民たちの話題は大家の奥さんにとてもよくしてもらった、というところから始まる。その奥さんは入院しており、1か月もすれば退院してくるだろうという。ところがこの奥さん、住民たちの物語を結ぶ影の主人公なのにもかかわらず、最後まで姿を見せない。この点が最大の「予想外」であり、ここから涙腺が緩むストーリーが転がっていくのである。
ラストシーンかと思われたところ、人への思いやりが大切、という話がでてきて失礼ながら「ちょっとありきたりで説教臭いな」と感じてしまった。ところが暗転後にまだ、舞台は意外なエピソードが盛りだくさんという形に花開いていった。

あまり書くといけないのでこの程度にしておくけど、とにかくこのシェアハウス物語、いい意味の意外性が何度も訪れ、そのたびに舞台に気持ちが吸い込まれていく。まさに見ずにはいられないという気持ちになる。
脚本を書いた岩瀬晶子さんは青年座研究所を卒業して、劇団日穏を主宰している。青年座に書き下ろすのは初めてのようで、いわば故郷に錦を飾ったようなものだ。戦争や差別など社会派の作品が特徴というこの劇作家に、注目していきたい。

とてもすっきりした気分で久しぶりの中野、ザ・ポケットを後にした。演劇のよさというのは、こういうところにもあるのだ。緊急事態宣言下で、なんだか演劇を観に行くということすら周囲に言いにくいような雰囲気である。でも、観てよかった。私にとってはこの舞台はお得感満載の、価値ある舞台だった。

ネタバレBOX

コロナ禍、しかも緊急事態宣言のさなかであり、小劇場であるが席は一つおきだった。開演時間を1時間繰り上げて夜8時までに終わるようにしてあった。劇団のコロナ対策に敬意を表したい。
ハンナのカバン

ハンナのカバン

劇団文化座

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2021/01/09 (土) ~ 2021/01/17 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2021/01/13 (水) 19:00

座席1階

文化座には珍しいミュージカル。ストレートプレイでなくミュージカルでホロコーストを取り上げたのは、子どもたちへのメッセージとして成功していると思う。
アウシュヴィッツ博物館から東京のホロコースト教育資料センターに、展示品の一つとして届けられたのが、ホロコーストで命を絶たれた少女、ハンナ・ブレイディの旅行かばんだった。家族でただ一人生き残ったハンナの兄・ジョージが、これをきっかけに訪日し、日本の子どもたちと出会った。この物語は児童書になっていて、今回、文化座も忠実に舞台化した。
ヒトラーによるユダヤ人虐殺は教科書にも載っているから、多くの子どもたちが知っているだろう。だが、なぜユダヤ人が迫害されなければならなかったか、という疑問は出る。今回の舞台で、そこにきっちり答えを出しておくと、子どもたちにもより分かりやすい舞台になったと思う。
途中休憩をはさんで二時間半弱。鍛えられた役者たちによるミュージカルは、物語の説得力を増すのに十分効果があった。やはり、戦争と平和という大きなテーマでは、文化座の舞台は力強さを感じる。このコロナ禍ではあるが、多くの子どもたちに見てほしい作品だ。

ネタバレBOX

隣でやっている「ザ・空気」は、席の横にアクリル板を設置していたが、文化座は席を一つ空けていた。どちらが感染予防に効果があるのかは分からない。緊急事態宣言で午後8時以降の営業が目の敵になっているが、東京芸術劇場では、終演が9時半近くになる舞台も通常上演としているようだ。
ザ・空気 ver. 3

ザ・空気 ver. 3

ニ兎社

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2021/01/08 (金) ~ 2021/01/31 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2021/01/08 (金) 19:00

座席M列

価格6,000円

二兎社の「ザ・空気」シリーズは評判である。Ver.3上演と知って、コロナ禍ではあるが初日のチケットを予約した。おりしも緊急事態宣言発令直後。劇場はどうかと思ったが、一番後ろまでキチキチの満員だった。私のようなファンがそれだけ期待しているということだ。
今回は、テレビ局の討論番組制作をめぐる物語。政府べったりの発言をする評論家(佐藤B作)を迎えての番組が異動前の最後の仕事となったチーフプロデューサー(神野三鈴)。彼女はリベラルで政府に批判的な番組を作ってきたため更迭されたとのうわさもあった。しかし、舞台は意外な方向に転がっていく。この評論家は新聞記者上がりなのだが、社会部時代は政府すり寄りどころか国民に知らせるべきニュースを発掘して報じてきたという過去が明らかにされていく。そんな中で、彼が持ち込んだ大変な特ダネ。そのまま報じれば、時の内閣が吹き飛ぶほどの大変なニュースだった。
このテレビ局は局幹部が政権上層部と会食をするなど、まあ、政府に忖度をするような姿勢であった。テレビ局は放送法で縛られ、総務省からの免許事業であるため、多かれ少なかれそういうところはある。だが、内閣を直撃するようなネタを得たとすると、それに局の幹部がストップをかけることができるのだろうか。
舞台では「編集権」という言葉を持ち出して、経営者が編集権を持っているから、現場がいくら報じようとしても編集権を盾にストップする、ということが紹介される。確かに、社の幹部が編集局長とか編集担当取締役とかの職について現場を抑えるという会社もある。しかし、これはマスコミが批判されている一つの側面ではあるものの、日本のメディアのすべてではない。新聞記者も放送記者も、気骨のある奴は少なくない。書かねばならぬことは左遷されようが職を賭しても書くのだ。忖度するやつもいるが、そんな奴ばかりじゃない。日本のメディアはそこまで落ちぶれてはいない。
永井愛さんのシナリオは社会性にあふれていつも面白いが、この舞台に限っては見方はかなりステレオタイプであり、一面的と言わざるを得ない。舞台の観客が日本のメディアはこの程度だと思ってしまうことの方が、害悪が大きいのではないか。ちょっと大げさかもしれないが、アメリカのトランプ大統領が大手メディアをフェイクニュースと決めつけているようなところを感じた。
だが、ストーリーや仕掛けは面白い。今回はコロナ禍ということをひっかけ、登場する評論家は体温を測るのだが、こうしたギャグや、スガ総理の迷言を借用しているのも爆笑だ。

ネタバレBOX

発売直後にネット経由で買ったのに、なんと席は一番後ろ。しかも、前に座高の高いおっさんがいて見づらいことこの上ない。人気劇団だから仕方がないのかもしれないが、それはないんじゃないの、という軽いショックを受けた
ある八重子物語

ある八重子物語

劇団民藝+こまつ座

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2020/12/18 (金) ~ 2020/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/24 (木) 13:30

座席1階

劇団民藝が井上ひさし作品に取り組んだ。こまつ座とのタッグだ。
誰もが知る初代水谷八重子をめぐる舞台なのだが、八重子が登場するわけではない。物語は、全員が熱烈な八重子ファンという医院を舞台に進行する。
民藝の舞台には珍しいドタバタ喜劇という側面もある。マスク着用だから、劇団側としてはこういう閉塞的なご時世だからなおのこと、思い切り笑ってほしかったという意図も感じる。杖をついたご高齢者も目立つ客層で、なかなかゲラゲラ笑うという状況は見られなかった。だが、陸軍への入営に寝坊して間に合わずに逃げて兵役拒否になったような若者をかくまったりする昭和のバラエティー番組のようなエピソードや、注射器で水を噴き上げて遊ぶなど「八時だよ!全員集合」みたいなギャグも登場する。
舞台は10分間の休憩をそれぞれ挟んで3幕。戦中戦後の時代に沿ってまとまっている。第三幕は戦後で、ようやく訪れた平和にがらりと舞台の空気感が変わるが、基本的には全編喜劇である。79歳の日色ともゑはこの舞台でも元気な姿。いつもながら勇気づけられる。

アルジャーノンに花束を

アルジャーノンに花束を

劇団昴

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2020/12/17 (木) ~ 2020/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/12/18 (金) 18:30

座席1階

ダニエル・キースの名作。彼が亡くなったというニュースが流れた時はショックだった。1990年から上演し続け、キースがメッセージを寄せた記録もある劇団昴のメンバーにとってもショックだったろう。この名作は、小説よりも舞台で輝くと思う。今もこのコロナ禍にもかかわらず上演が続けられているということで、キースも喜んでいるのではないだろうか。
この演目は実際、日本の他の劇団でも上演されていて、自分も機会があればみてきた。だが、やはり今回の舞台は感動的だった。コロナ下での厳しい状況での上演だったことも、役者の思いとなって客席に伝わり、それが感動の度合いを増したのだと推察する。
主役のチャーリー・ゴードンを演じた町屋圭祐は秀逸だった。知的レベルがどんどん高まっても、それに情緒的な力が追いついていかない、このいかにも人間らしい部分をうまく表現していた。そして何よりも、チャーリーが元の知的レベルに戻った時の彼の安心しきったような、底抜けな安堵感の表情がとてもすばらしかった。人間は実験道具でもないし、知的障碍者は単に知的レベルが普通になれば幸せになるなんてことはない。人間は一人一人が多様で、そのままで認められ、愛される存在であるのだ。
そういうところを、結果的に実験に協力する形となってしまった知的障碍者センターの先生を演じたあんどうさくらもすばらしかった。特にラストシーンに近いところでチャーリーに愛情をあふれさせる場面は見る者の胸を熱くさせた。パンフレットによると、昴の名作(であると私は思っている)「谷間の女たち」にも出ていたとある。あの舞台ではどんな役を演じていたのだろうか。もう一度見たいという思いだ。
もう一つ、アルジャーノンの姿をどう舞台で描くかというところもこの原作からの焦点だと思うが、もう少し実在的に描いても良かったかもしれない。実験動物が意思や知能を高めていき、人間のパートナーとなったのだ。その姿がもう少しリアルにあったほうが自分は好きだ。

シアターウエストの席を互い違いに封鎖して満席の半分以下にして行われた。東京都の感染者数が過去最高になるような状況だから、神経質になるのは分かる。自分も行くのは少しためらわれたが、この舞台は本当に行ってよかった。

花トナレ

花トナレ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2020/12/01 (火) ~ 2020/12/13 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/09 (水) 14:00

座席1階

桟敷童子の舞台の楽しみの一つは、その舞台装置だ。同じ敷地内に新劇場として移転した最初の舞台。検温、消毒をして入ると真っ赤な曼殊沙華が咲き誇っていた。言うまでもなく、今回の舞台の象徴である。

物語は、二つの寒村の住民がぶつかるという設定で進むが、本当の敵は舞台には表れてこない都会の住民たちだ。物語では直接触れられていないのであくまでも客席からの推測だが、都会の住民はゴミや汚物を寒村に運んで捨てる。猛烈な悪臭。それは物語の登場人物が時々鼻をつまむ「へ」とは比べ物にならないくらいの強烈さだ。村人たちは、そういう匂いの中で暮らさなければならないのだ。

臭いを舞台空間に流すのはさすがにできない。その代わりのアイテムが「死人(しびと)花」とも言われる曼殊沙華なのだろう。真っ赤に咲き誇る曼殊沙華は、やがて、舞台の中央にも現れる。他者の痛みを顧みない日本の社会への警告だろうか。その赤さは、暗い舞台に不気味なほど存在感を持って迫ってくる。

もう一つの舞台装置は、風である。相当強烈な風を出す送風機が客席側から舞台に据えられている。それはまるで、都会の住民が、被害者である寒村の住民をなにごともなく吹き飛ばすような装置に見えてくる。
 
一度捨てれば「なかったもの」として都市の住民が忘れる廃棄物。においを発するものだけではない。音も臭いもなく人間をむしばむ放射線だって過疎地に捨てられているではないか。「花トナレ」と連呼する役者たち。客席に届くメッセージは、鋭いものがあった。

ネタバレBOX

開幕前までと、途中休憩の時に舞台後方の壁が開け放たていれる。換気のためだと分かっていても、客席に着いたとき、この演劇は最後に壁が開け放たれてその後方の借景とともに迫ってくるということを想像してしまった。桟敷童子の舞台のエンディングはいつも強烈だからなのだが、今回はもちろんそういう舞台装置ではなかった(笑)
私がテント芝居の見過ぎなのだ、ということだ。
明治百五十年異聞『太平洋食堂』『彼の僧の娘』

明治百五十年異聞『太平洋食堂』『彼の僧の娘』

メメントC+『太平洋食堂』を上演する会

座・高円寺1(東京都)

2020/12/02 (水) ~ 2020/12/06 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/12/03 (木) 13:00

座席1階

大逆事件を紀伊半島・熊野から描いた物語。メメントCの代表的な演目で、再び「開店」となった。熊野の医師・大石誠之助が貧富や身分の区別なく食卓を囲むレストランを開いたところから物語は始まる。
政府による言論統制が強まろうとしている時期、熊野という「地方」でも日露戦争を戦う日本国民の戦時高揚ムードが高まり、平和を愛する人たちへの言論的な圧力が強まる。太平洋食堂は言論の自由空間でもあった。劇中、「大日本帝国、万歳」ではなく「大日本帝国、アブナ~イ」という場面では拍手も起きたが、それは現代日本政府の巧妙な言論弾圧(日本学術会議で特定のメンバーが就任を拒否されたこと)に通じるからにほかならない。
休憩を挟んで3時間30分近くの長丁場だが、青年劇場や青年座、民藝、文学座などから実力俳優を迎えて総力戦という舞台に、ひきつけられた。藤井ごうの演出も切れがあってよかった。
最終盤、大逆事件裁判の論告や最終弁論が出てくるが、これは今回の改訂で盛り込まれたということだ。これがあることで、太平洋食堂の存在がより明確になるし、いかにこの裁判が政府の一方的な断罪であったか、当時既に大きくゆがんでいた日本の司法を浮き彫りにするというバージョンアップがなされている。

拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿【岡山公演】

拝啓天皇陛下様 前略総理大臣殿【岡山公演】

燐光群

岡山市民文化ホール(岡山県)

2020/12/01 (火) ~ 2020/12/01 (火)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/17 (火) 19:00

座席1階

二つの直訴状というアイテムを時代を超えてつなげた。先の戦争での旧日本軍幹部、そして現在、財務省幹部の指示による公文書改竄。指導者への忖度、仕事への誇りを捻じ曲げられ犠牲になる現場。坂手洋二はこの国の組織の体質は何も変わっていないと明示する。
二つの時代が交互に進化するが、わかりやすい構成だ。歴史と時間を追って、役者たちは二つの役割を演じていく。燐光群には欠かせない円城寺あやのかすれ声が気になった。大丈夫かなと思ってしまう。
戦前と戦後で日本人の本質は何も変わっていないとよく言われ、特に今は新たな戦前ではないかと言われても久しい。だからこの舞台の訴えるところに新味はない。それでも坂手は作り続けなければならないのだろう。そして、自分たち観客もそれを確認し続けなければならないのだろう。世の中、変わらないからもういいよ、と言った瞬間から、戦前の再来は現実になる。

唐版 犬狼都市

唐版 犬狼都市

新宿梁山泊

下北沢 特設紫テント(東京都)

2020/11/14 (土) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/16 (月) 19:00

座席1階

歌舞伎町・花園神社で上演予定だったこの舞台は、下北沢の小田急地下化でできた空地にテントを張って、出演メンバーも少し入れ替えて行われた。
地上の大田区と地下鉄でつながる地下都市の犬田区で生きる男女の物語。唐版を見ていないので分からないが、おそらく今回は新宿梁山泊テイストに染め上げた演出だったのではないか。コロナ対策を兼ねて客席左右の幕を開けての演出、元法相夫婦による選挙違反など時事ネタを盛り込んでの金守珍ワールドだったが、客席の反応はいつもよりおとなしかった。観客側から見てもコロナの影響はぬぐえない。
主役級の水島カンナはこの日も奮闘の2時間半だったが、せりふをかんだりいつものカンナさんらしいすごみが薄れていた気もする。一方、オレノグラフィティの鬼気迫る演技は迫力があった。
さて、テント上演でのラストシーンにある舞台裏幕の開放だが、バックの景色、借景というかこれはとても重要。ただ、場所的にスーパーオオゼキのネオンとかが目立って、現実に引き戻されてしまった。仕方のないことではあるが、やっぱり場所は大切だと思った。

ネタバレBOX

検温や消毒など客席側のコロナ対策は一応、なされていた。客席はやや隣の席との間に余裕があるかなという感じだが、ほぼコロナ前と同じきちきちの配列だ。花道や舞台との距離も極めて近く、それがこの舞台の魅力ではあるのだが、コロナ対策に神経質な人はこの舞台は避けた方がいいかもしれない。あるいは、後ろの方の席を確保する方がいいだろう。役者の汗、つば、思い切り飛んできます。役者さんたちがコロナにかかっていないことを祈るのみです(笑)
プレッシャー

プレッシャー

加藤健一事務所

本多劇場(東京都)

2020/11/11 (水) ~ 2020/11/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/13 (金) 14:00

天気予報は軍事機密だったと聞く。ノルマンディー上陸作戦が天候を考慮し予定より一日遅れたというのは歴史で学んだが、背景にこのようなドラマがあったとは知らなかった。いつもは3時間というと長いという感想が多いのだが、今回の舞台はそんな長時間座る苦痛など感じない、舞台に引き込まれた3時間だった。
米英の気象学者が正反対の予報を出した。自分も英国には行ったことがあるので分かるが、とにかくこの国の天気は変わりやすい。地元の人と話すとお天気の話題から始まるというお国柄だ。そういう意味では、この変わりやすい天気を熟知している英国の気象学者の方に分があったと言える。
だが、ことは軍事作戦だ。天気だけでなく、月夜であるかどうか、敵が極秘作戦に気付いていないかなどさまざまな要因が作戦遂行を決める要素になる。舞台では、加藤健一演じる英国の気象学者が「(司令官の)アイクはもう結論を決めている」と嘆く場面が出てくるが、最終的には天候の安定が史上最大の作戦に決定的に影響することになる。
原作がそうだったのだと思うが、いつもピーカンのカリフォルニアやフロリダの天候だからと米国の気象学者を小ばかにするようなくだりがあったのはおもしろかった。このあたりは大ざっぱなアメリカ人と緻密(かどうかは分からないが)な欧州との連合軍がうまくかみ合ったから作戦が成功したのだろう。
加藤健一と共演を重ねる加藤忍が今回、軍人なのに妖艶な雰囲気をうまく出していてとてもよかった。

カトケン事務所得意の抱腹絶倒劇ではなかったのは、新型コロナウイルスの感染防止対策だったのだと思う。笑わせる要素はそこかしこにあるが、くすりという笑いであり、そういう意味ではとても配慮された演目のチョイスだったのではないか。また、幕間の15分、非常階段のドアを開け放って換気していたし、座席の間隔も開いていた。加藤健一事務所の今年の公演は結局、これ1本しかできなかったという。そういう意味でこの座組の意気込みというか、何としても無事に終わらせ、かつ、客席を楽しませるのだという空気を感じた。
(本多劇場の非常階段を初めて見た)

火の殉難

火の殉難

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2020/11/06 (金) ~ 2020/11/22 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/11 (水) 14:00

座席1階

劇団チョコレートケーキの古川健作。俳優座への書き下ろしで、世代を超えた舞台に仕上がるのではないかと思って出かけた。だが、今回の客席のほとんどが、高齢者であった。マチネということもあったかもしれない。
高橋是清の人生を新聞記者の取材という切り取り方で描いた。それはそれでよいのだけれど、時代が前後するのと場面が切れ切れになっていて分かりにくさがある。時系列に並べても問題はなかったのではないか。あと、やはり休憩を挟んでの3時間は長い。この中身ならもっとコンパクトに、リズム感のある作品に仕上がったのではないか。
しかし、さすがに役者たちの演技力はすごい。高橋是清役の河野正明が特に素晴らしかった。「話せばわかる」人だけに、難題を吹っ掛けられても物腰柔らかに対応する。相手の意見もじっくり聞く。高橋是清という人はそういう人だったのだろう。それを十分に想像させる演技力だった。
今の問答無用、都合の悪いことは逃げる、説明も拒む政治に辟易していると、このような理を尽くし、反対意見も認めて進める政治がとてもうらやましく感じられる。この舞台に登場する犬養毅もそうだが、そうした気骨のある筋の通った政治を問答無用の銃弾で粉砕し、自分たちのやりたいことをやる。ここでは軍部がやりたいこととは戦争の遂行であったが、現在の政治も論議を避けて逃げ回り最後はやりたいことを強行している。今のところ戦争ではないからいいかもしれないが、やはり、こういう政治を見逃していてはヤバい。戦争に突き進んだ過去を嫌でも思い出してしまう。
「殉難」という言葉は古風な感じもするけど、今の時代に殉難が起きないことを切に願う。

忖度裁判

忖度裁判

ワンツーワークス

シアターX(東京都)

2020/10/31 (土) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2020/11/05 (木) 14:00

社会派劇のワンツーワークスの新作なので期待して出掛けた。裁判員裁判で何を忖度しているのだろうというところが最大の焦点だったのだが、そのあたりは少し分かりにくかったような気がする。
裁判員裁判で、裁判官と裁判員の関係は微妙だ。訴訟指揮という点では裁判官が行うので、裁判官の敷いたレールに乗っかって裁判員が判断するというのが大方の裁判員裁判である。この制度ができたときに、裁判所が求めたのは「司法に市民感覚を入れる」。では、裁判所に市民感覚はなかったのか。舞台ではそのあたりもチクリと描かれる。
強気の検察にそっと援軍するという裁判長の訴訟指揮が描かれる。そういうことは現実にあるのかもしれない。そのままいったら無罪判決になりかねず、そういう意味では世間の支持を得られない判決を書いたという法廷として非難されることになるからだ。
自分としては、評議の場面だけでなく実際の法廷も描いてほしかった。そして、検察と弁護側の論理もきちんと書いた方がよかったと思う。評議の場面と、裁判員の私的な葛藤のクロスオーバーは成功しているとは言えないのではないか。

JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾

JACROW#29「闇の将軍」シリーズ第3弾

JACROW

サンモールスタジオ(東京都)

2020/10/22 (木) ~ 2020/11/08 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2020/11/04 (水) 19:30

座席1階

第一話と第二話を見ているので、第三話の「常闇、世を照らす」を拝見した。安倍一強の独裁政治に辟易していると、金権政治といわれながらも田中角栄の人間的な側面、有権者への熱意などがとても新鮮に感じる。もちろん、刑事被告人となり有罪判決を受けた田中角栄をその面では評価できるものではないが、この舞台は、田中政治の人間くさいところをうまく表現していると思う。
舞台に登場する自民党の派閥の領袖たちもおもしろい。諸悪の根源と言われた派閥政治だが、今の自民党が安倍独裁で萎縮してしまい、さらなる独裁者管首相の強権的な振る舞いなどを見ていると、当時の方がよっぽど民主主義的だったと言えなくもない。
田中角栄、娘の真紀子、山東昭子はとてもよく似ている。大平首相は「あーうー」という物言いはまねしているものの、もう一歩かな。でも、似ているとかどうとかいう問題ではないのだ。それぞれの持ち味がよく出ていると思った。
このシリーズは日本の政治の権謀術数を描いている。今も当然そういうことは政治の一部としてあるのだが、やっぱり登場人物たちの力がそこそこ均衡していないと、舞台やドラマにしにくいだろう。そういう意味では、今の自民党政治はドラマにもなりにくい、つまらないものだと言えるかもしれない。劇場を出てそんなことを考えた。

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