満足度★★★★
鑑賞日2020/12/09 (水) 14:00
座席1階
桟敷童子の舞台の楽しみの一つは、その舞台装置だ。同じ敷地内に新劇場として移転した最初の舞台。検温、消毒をして入ると真っ赤な曼殊沙華が咲き誇っていた。言うまでもなく、今回の舞台の象徴である。
物語は、二つの寒村の住民がぶつかるという設定で進むが、本当の敵は舞台には表れてこない都会の住民たちだ。物語では直接触れられていないのであくまでも客席からの推測だが、都会の住民はゴミや汚物を寒村に運んで捨てる。猛烈な悪臭。それは物語の登場人物が時々鼻をつまむ「へ」とは比べ物にならないくらいの強烈さだ。村人たちは、そういう匂いの中で暮らさなければならないのだ。
臭いを舞台空間に流すのはさすがにできない。その代わりのアイテムが「死人(しびと)花」とも言われる曼殊沙華なのだろう。真っ赤に咲き誇る曼殊沙華は、やがて、舞台の中央にも現れる。他者の痛みを顧みない日本の社会への警告だろうか。その赤さは、暗い舞台に不気味なほど存在感を持って迫ってくる。
もう一つの舞台装置は、風である。相当強烈な風を出す送風機が客席側から舞台に据えられている。それはまるで、都会の住民が、被害者である寒村の住民をなにごともなく吹き飛ばすような装置に見えてくる。
一度捨てれば「なかったもの」として都市の住民が忘れる廃棄物。においを発するものだけではない。音も臭いもなく人間をむしばむ放射線だって過疎地に捨てられているではないか。「花トナレ」と連呼する役者たち。客席に届くメッセージは、鋭いものがあった。