明日、宇宙人になります
劇団銅鑼
銅鑼アトリエ(東京都)
2024/12/14 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
昨年の試演会「ガラスの動物園」が良かったので、今年も観にいったが とても面白かった。説明の「人間が地球外生物になる?世界中が大騒ぎ・・明日、宇宙人になるかもしれないこの時に…」からSFを連想したが、もっと最近の出来事を描いているように思えた。未知ゆえに その対処法が分からず右往左往、そして混乱・迷走した施策を思い出す。
とても劇団員補とは思えない演技、当日パンフを見ると他の劇団研究所出身者が多く、その実力は肯ける。登場人物は5人、それぞれのキャラや立場などをハッキリ立ち上げ、多様な人間性を描き出す。明日、宇宙人になるかもしれない不安・恐怖といった状況の中で、思い残したこと 気掛かりなことを味わい深く紡ぐ。究極的なことを言えば余命宣告されたような、しかし物語はそこまで追い込まず余韻を残している。試演会ということもあろう、最小限の舞台セットと照明・音楽で効果を出していた。
宇宙人になります…大きな観点で見れば地球人も宇宙人。しかし、敢えて その違いの中に排他的もしくは差別的な意味合いが込められているよう。勿論「世界中から原因不明の痒みが報告されている。検査をしたところ、体内から検出されたのは地球に存在しないDNA」という件に関連してくる。私ごとで恐縮だが、この検査とその後に係る業務に就いていたことがあり、とても考えさせられた。
(上演時間1時間 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台セットは、ビニールのようなカーテン幕で囲い、上手に折り畳みのテーブル1つ、ベンチ2つと いくつかの椅子。検査結果を待つ待機所といった所。地球に存在しないDNA、人間感染しないと言いつつ、ウイルス感染防止を思わせるような作り。
地球に存在しないDNAの症状、体のどこかが痒くなり我慢できなくなる。一時的に痒みを抑える薬を服用することで症状を抑えている。その小康状態を保っている時の一夜の物語。そんな中、名を伏せて手紙を出そうとしている男がいる。しかし封筒に手紙は入れず、差出人名も書かない、しかも書留郵便。そこに どんな理由や意味があるのかが謎として、物語の成り行きに並走する。
手紙を出し続けている男(親子)、会社のプロジェクトの成否が気になる男(社会人)、世界中を放浪している男(自由人)、宇宙人になった息子に会いたい女(母親)、そして待機所に詰めている男(組織人)…この典型的な5人が思い残したことなどを語り、どうなったか想像(orシミュレーション)する。特に手紙を出しているのは、仲の悪い父へ。書留郵便ならば必ず配達局員が受領印(サイン)を確認する。孤独死しても放置されることはない。一人ひとりが想像の話を繋げ紡いでいく。その時にスポットライト、そして優しいピアノの音が流れる。
自分は、新型コロナウイルス感染症に係る出来事を連想した。陽・陰性の判定、その結果による隔離・入院までの過程のよう。連日、感染者数や死亡者数が報道され、有名人が亡くなると衝撃的な そんな状態が続いた。そして感染=秘密にしなければといった風潮があった。宇宙人になることが幸なのか不幸なのか。宇宙人が多数を占めれば良いのに という台詞が印象的だ。
次回試演公演も楽しみにしております。
その男ホーネット加藤
映像劇団テンアンツ
「劇」小劇場(東京都)
2024/12/11 (水) ~ 2024/12/22 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
㊗上西雄大さん 60周年記念公演…面白い。
タイトル「ホーネット加藤」、その面白可笑しい前説で盛り上げ そのまま本編に入るが、そこでの生業も前説という設定である。公演の魅力は、父親の娘を思う気持ちと胡散臭い男を見るような娘、その心情的な距離がどう縮まっていくのか。そんな物語をテンポよく展開し、時にボケとツッコミの漫才のような場面を挿入し楽しませる。テンアンツらしい笑いと泣き、その感情の揺さぶりが凄い。
手際のよい舞台転換によって、瞬時にその状況や情景へ誘われる。少しネタバルするが自転車を使った場面などは映画のワンシーンを見ているような感覚。またスナックでのカラオケ場面を始め、所々で歌を歌い和ませる。「劇」小劇場という空間、そこに1970年代のカンフー映画へのオマージュというかパロディのような世界観を持ち込んだエンターテインメント。ホーネット加藤の顔つきやアクション、そして衣裳がその映画を連想させる。上演時間は2時間を超えるが、アッという間の感覚だ。勿論「vol.1 燃えよ前説ドラゴン」も観たくなる。
(上演時間2時間15分 途中休憩なし)【ドラゴン孤独の鉄拳】
星降る教室
青☆組
アトリエ春風舎(東京都)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/15 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い。深みある味わい。
大自然、そしてノスタルジックで夢幻のような雰囲気が漂う中、或る女性教師の回想を通して紡がれる心温まる物語。青☆組公演の魅力は、物語に新たな息吹を吹き込んだような世界観(今回は宮沢賢治の世界観に呼応)を舞台美術や技術で表出し、観客の心を揺さぶるところ。発語を意識 そして大事にしたといった印象だ。
今回は劇団初のクリスマス公演らしく、シンプルだが美しく、優しく、そして温かい雰囲気をしっかり演出していた。キャストはスカートやベストなど、どこかに格子柄がある衣裳で揃える といった拘りもみえる。
(上演時間1時間)
ネタバレBOX
舞台美術は正面奥の幕に電飾、その下にミニツリーや蝋燭が置かれている。色彩は、全て暖色の単彩だから温かく優しく感じる。中央には いくつかの丸椅子が置かれ場面に応じて動かす。上手にはト書きと演奏を担当する吉田小夏さんが座る。
ちなみに、役者は動き回り 時に椅子に上がるなど情況を表現(演技や歌唱)する。
本作は、吉田小夏さん が2016年にラジオドラマ作品のために書き下ろした物語、それを青色文庫の様式にして舞台化(朗読劇)したものらしい。
教師の森山雪子(32歳)は、20年前に卒業した雫の森小学校の恩師から1枚のはがきを受け取った。それは卒業生代表として卒業式での祝辞を依頼するもの。しかし転校を繰り返していた雪子にとって、6年生の1年間しかいなかった雫の森小学校での思い出は断片的でしかない。雪子は、人間の言葉を話すウサギに導かれて だんだんと奇妙な世界へ誘われていく。雪子の記憶の底に沈んでいた、卒業式当日の出来事が…。
園田喬し氏とのアフタートークで、オノマトペの駆使、マイクを使用しないこと、またテキストは完全に覚えるのではなく、例えば音楽で譜面を見ながら演奏するような感覚で朗読、といった興味深い話をしていた。そんな情感を大切にした朗読劇。
宮沢賢治の童話らしいアニミスティックな世界観、そこに30歳代になった女教師のリアルな心情を持ち込んだようだ。転校を繰り返し 故郷らしき所がない。雫の森小学校は既に無いが桜の木が…確かに自分がいた場所がある。自然云々といった世界観と雪子の今の状況(暮らし)を照らし合わせ、忘れてしまった記憶の中に大切なものがあったことを気づかせる。そこに、このドラマの新たな息吹を感じる。
次回公演も楽しみにしております。
東京夜行
パフォーマンスユニットcoin
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
観(魅)せるを強く意識したダンス公演。印象としては、振付が先なのか音楽に合わせたのか分からないが、ダンスと選曲がピッタリ。そして照明や衣裳・小物の配色にも気を配る。勿論 ダンスの力量は確か(観応え十分)。
舞台はメインとサブステージが二か所。サブステージは少し段差を設え、別の場所であり時間もしくは俯瞰といった違いを表現する。また絵空箱にあるBARカウンター内も利用し、この会場全体を使って舞台化している。
ダンスパフォーマンスゆえ、何か物語性があるという訳でもないと思うが、ある出来事をイメージしてしまう。心象であり日常の光景、そして再生といった時間の流れを感じる。当日パンフには「夜の東京を旅する 賑やかで、静かで、華やかで、孤独で そして儚い私の街」とある。しかし、自分は別の出来事(イマーシブ・ダンス)を連想してしまう。
(上演時間1時間5分 休憩なし)
ネタバレBOX
上演前は立入禁止のYellow Tapeでメイン舞台を囲い、所々に脚立や箱馬が置かれている。上演直前にそれらを取り除き、素舞台にする。天井には色違いの短冊状の紗幕、月・星状の飾りが吊るされている。
曲は「ルージュの伝言」「銀座カンカン娘」など全19曲、ダンスはそれに合わせた振付。冒頭 全員がデザイン違いだが白い衣裳に赤い靴下で統一。ダンスは、その紅白が躍動そして浮遊するような。そして黒いスーツ姿で満員電車や会社での仕事(電話やパソコンを操作)をしているような日常の光景。またカジュアルな衣裳は無邪気な様子が窺がえる。「地獄タクシー」の曲とダンスなどは 漫画「笑ゥせぇるすまん」の「喪黒 福造」の苦悩している現代人のちょっとした願望を叶えてやる、といった可笑しみと怖さを感じる。途中で入るナレーションは心の彷徨であり嘆き、そして救いを連想させる。ラストは再び全員が冒頭の衣裳へ着替え、1人を囲んで…。その手には赤いバラ(花言葉:あなたは私の唯一の人)、終始 配色に拘る。
白い浮遊感ある衣裳、それは心の心象風景…東日本大震災で犠牲になった友人への鎮魂のように思えた。始めは、楽しかった震災以前、それから東京で生活(日常の忙しさの中に埋没した暮らし)、ふと寂しさが込み上げる東京の夜空。ラストは、友人の死を受け入れ、亡くなった友人たちが応援するような、そんな天を仰ぎ見るようなダンス。もしくは東京の一人暮らしの寂しさか。ダンスを通していろんなことを連想させる公演、その意味では面白い。
次回公演も楽しみにしております。
十二月、田中、がんばれ!
劇団うぬぼれ
ART THEATER 上野小劇場(東京都)
2024/12/07 (土) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
🔞 R-18朗読劇ということに興味を持って観たが、思っていた以上に面白かった。典型的な娯楽作。発想はエロいが、内容は極めてまっとうで惹き込まれてしまう。この劇団の特長であろうか、マンガを読むような感覚で 分かり易い演出が好い。その資料-両面35頁(非売品)を配布、笑ってしまうが なかなかの力作。衣裳は男女ともに白シャツに黒ズボンで、外見で惑わせることなく朗読力で聴かせるといった矜持を感じる。それだけに 冒頭は正確に読むことを優先し(心掛け)たかのような棒読みが惜しい。
この朗読劇、上野小劇場という比較的小さい空間だから面白味が感じられると思う。今後、別の劇場 どのような公演を行うのか。
27歳の中学校体育教師 田中純平が、なんとか今年のクリスマスに童貞を卒業したいと…。登場するのは純平をはじめ賢者・性欲・睡眠欲・食欲そして先走り宣教師、人間の三大欲を顕に悶々とした姿が滑稽に描かれる。
童貞を捧げたいのが同僚の社会科教師 岸野つかさ 29歳。口説くどころか まだ交際もしていない。クリスマスまであと一か月、岸野先生と懇ろになるための脳内シュミレーションが先走る。ちなみに説明にあるクリスマスアダムとは、早い段階で明らかになるが、先走り宣教師はラストにその真の姿が明らかになる。
少しネタバレするが、岸野先生を巡って同僚の音楽教師 中山金太郎(32歳童貞)という恋敵が登場する。そして中山先生や女子生徒との保健体育(避妊具の使用)に係る会話も興味深い。
シンプルな舞台美術と照明だが、朗読劇としては十分に その効果を発揮していた。
(上演時間1時間45分 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は中央に階段、上った先にスクリーンが吊るされている。両脇は暗幕 そこが出ハケ口になっている。上演前は階段下に半裸のキューピー人形のようなものが置かれているだけ。照明はシンプルな暖色やショッキングな場面は朱色、いずれにしても単色の色彩。時々 スクリーンを上げ、その奥から階段を下りてくるといった観せ方もする。
物語はクリスマスに童貞を卒業したい純平 27歳の悶々たる物語。童貞を捧げたい女性にアプローチする過程を、人間の三大欲を擬人化し滑稽に描く。基本は朗読劇だが、スクリーンにラフスケッチのような絵を映し出す。漫画の吹き出しの代わりに言葉(台詞)を朗読で紡いでいく。冒頭、賢者と性欲の会話は少し緊張気味で棒読みのような印象だが、だんだんと感情が入ってくる。1人複数役を担っているため、話し方や声色等を変えるなど 工夫をしている。
メインは童貞卒業ではなく、それに向けての面白可笑しい行為(過程)だけに、純平の妄想が爆発するような感覚。純平という一人の男の中にある考え 感情などを賢者・性欲・食欲・睡眠欲といった4人が分担し、協力や対立をしながら童貞男を立派に立ち上げる。スクリーンに映し出される絵が情況などを表し、そこに台詞が加わるから実に分かり易い。
さて男女の交わり、その起源を遡るとアダムとイヴ。そして童貞卒業をクリスマスに定めているが、遅くともその翌日 クリスマス アダムという予備日までターゲットに加えた。自分の中で、理性的に分析し判断する人格らしきものがいる。それが先走り宣教師、欲望を制御したり発散させたり、それこそが田中純平という人間性(本性)を表している。
ちなみに分厚い資料は、スクリーンに映し出したラフスケッチ全画面である。
次回公演も楽しみにしております。
はんなま砦は夜更けまで
大統領師匠
駅前劇場(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
観(魅)せ 楽しませることを強く意識した快作。チラシにある謎めいた説明、その世界観そのものが物語の肝。そこが どこでといったことが「閉じ込められた真実」(ネタバレ)に直結する。
未見の団体。この団体、コア ファンに支えられているようで、観劇した日は最前列に多くの女性ファンが陣取っている。上演前には〇回観る予定など お喋りに花を咲かせている。グッズも見せ合っている。勿論 開演したら熱心に観て、時に大笑いする。一方 団体は前説で優しく和ませるような話(本来の注意/依頼事項含め)から本編へ、そのサービス(精神)が劇中から伝わってくる。
登場人物の性格や立場、その特技などの面白い設定が妙。そして舞台装置を可動させダイナミックに観せ、勇ましく煽るような音響/音楽、強い目潰し照明などを駆使する工夫。映像で観るようなイメージのものだが、舞台という至近距離ゆえ臨場感がある。興味を惹く内容、それをアップテンポで展開し 心地良く飽きさせない。
(上演時間1時間55分 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は、中央に基板の配線のようなもの、左右は丸みのあるレンガ壁。この丸みのある壁を適宜動かし砦の中と外の状況を表す。全体的に怪しく そして妖しい雰囲気を醸し出す。頻繁に出てくる「ガマズミ」という言葉が印象に残る。花…その花言葉が 少し怖い「私を無視したら死にます」「結合」「私を見て」らしい。
説明にある 小さな砦とそこに住まう住民達は、ある人物の体内であり意識である。物語は、或る富豪が交通事故を起こし、莫大な遺産相続を巡って骨肉(姉妹)の争いが…。妹は昏睡状態、姉は既に脳死状態であり、二人のうち 妹 中山百合に全財産を相続させるという遺言書がある。精神医療研究所では、交通事故を起こした相手方-首相の息子の事故隠蔽をすることで高額報酬を得ようとする。そこで所員を彼女の意識に潜入させ記憶の消去・書き換えを目論む。無稽荒唐であるが、その奇知こそが公演の魅力。
一方、彼女の意識の中には色々な住民達がおり彼女を守っている。しかし、姉の意識が いつの間にか妹 百合の意識に入り込んで体を乗っ取ろうとしている。そして被り物の奇怪な棲き物が動き回る。端的に言えば、妹の意識下で彼女を守ろうとする住民達 対 姉の意識+奇怪な物の戦い。そして(体)外界の研究所員達の思惑が絡んだ三つ巴の戦いを面白可笑しく描いている。
砦(百合の意識)の中の住人達の特技or得物は、最強の剣士、痛みを取る黒子、姿を隠すマント、刃毀れを治す鍛冶、癒しの効用、何でも抜きたがる歯医者を擬人化させており、そこに どんな関連性があるのか興味を持って観ていた。一つ一つの存在では強力な武器には成り得ない、一致団結することで意味が…この奇天烈な行為が爆笑を誘う。どのようにして百合の意識下へ侵襲していったか、そんな伏線も丁寧に描く。
ちなみに 被り物は あみ子、姉は妊娠5か月で、その子が意識の外へ飛び出しているという設定である。
次回公演も楽しみにしております。
みえないもの
アンティークス
「劇」小劇場(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
㊗20周年公演。面白い、お薦め。
いくつかの小さな物語を意味深に描き、それらを大きく包み込むように紡いだ公演。アンティ-クスらしく丁寧に 優しく考えさせるような内容だ。現実と幻想、そして過去や現在の話を縦横無尽に綴り込み、重層的に描き出す。
この不思議な世界観、それが何なのか最後に明らかになる。演劇としては典型的な展開だが、何となく清々しく充実感を覚える。全体的に見守り 寄り添う、そんな包容力を感じさせる珠玉作。
当日パンフにテーマらしきこと、「あなたの大切な『存在』に捧げます」とある。つまり「生きる」「生かされている」ということではないか。たとえ亡くなっても、その人のことを忘れなければ、残された人々の心の中で生き続ける。タイトル「みえないもの」は人の<思い>であり<想い>、その感性のようなもの。言葉では言い表せないこと、それを演劇という虚構の中でリアルに表現して伝える。
少しネタバレするが、いくつかの話は日常、そして戦争や災害といった広がりがあるもの。しかし、それぞれの話を深追いせず点描することで「存在」というテーマを暈けさず 捉えて離さない。勿論、役者の演技力は確かで、物語を支える舞台美術や音響・音楽そして照明などは巧い。観応え十分。
(上演時間2時間5分 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は、暗幕で囲い 中央に段差がある平台、上手/下手にも同じ高さの平台(大きさ や 形は違う)があり、中央の平台と行き来できる近さ。上手と下手に飾り棚があるが、形状は違う。ミニテーブルや丸椅子がいくつか。そして天井には網が吊るされている。全体は抽象的だが、いくつかの話を紡ぐため、夫々のイメージを固定させない作りが巧い。逆に 役者が演技で状況や情景を作り出す。なお 平台の天板部分が白、暗幕との関係で照明の照射角度によって鯨幕のよう。
冒頭は少女二人(みく と さな)が、ぬいぐるみを使って無邪気に遊んでいる。物語は入院している病室、たみこ ばあちゃんの(唐沢)家、宇宙からの訪問者、そして高校時代といった、脈絡があるのか否か判然としない話が交錯して展開していく。さらに高校時代の話は大人になってからも回想的に描かれ、空間と時代が重層的な広がりと厚みを増していく。「ちぎり絵」といった台詞から色々なシーンの重なりが物語を構成していることを示唆。
高校時代の虐め、最近は頻繁に報道され 問題の深刻さを伝えているが…。中学時代に虐められていた生徒が、高校へ入ってから虐められない防衛策として虐め側へ。そこには仲間外れになることが怖いという意識がある。そして大人になって後悔する、その負の連鎖が断ち切れない。
たみこの家では懐かしい光景、ばあちゃん・じいちゃん・養女とその幼馴染が仄々と暮らしている。両親ではなく祖父母、そして実子ではなく養女というところが妙。日本の原風景、そんな懐かしさの中に奇妙な家族関係を描いている。また訪問者たちは、宇宙からやってきた家族、こちらは両親と長男・長女・次女という構成である。
何となく平穏に暮らしていた家族、そこに突然の不幸が襲う。それが東日本大震災(災害)や太平洋戦争(戦災)を連想させる。そして引き取られた先、学生時代、そして病院のベットの上という繋がりが解る。
ラスト、昏睡状態から数十年ぶりに意識が戻る。その眠っていた間にみた話、そんな夢オチの物語。此岸と彼岸の狭間、よく聞く走馬灯のような想いを情感豊かに描いた作品。幸せの日々は失って、そして大切な人は喪って初めて気づく悲しさ 寂しさ。当たり前のようにあった日々や人たちの存在、そして自分も含めて皆かぎりなく愛しいのである。冒頭の さな、そして訪問者の次女(星那<さな>)は、みく の生まれてこれなかった妹である(母が妊娠中に被災したため)。
舞台技術…照明は真上から青白いビーム光線によって海中を、白銀(モノクローム)は過去・動かない世界を表現しているよう。音響は波音や鳥の鳴き声、音楽は優しいピアノの音色が印象的だ。状況(場面)に応じて衣裳を変えるなど、分かり易さに工夫を凝らしている。物語を印象的に そして余韻あるものに仕上げていることに好感。
次回公演も楽しみにしております。
ポプコーンの降る街2024
劇団大樹
Route Theater/ルートシアター(東京都)
2024/12/04 (水) ~ 2024/12/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初日観劇、ほぼ満席。
現実と夢想を交差させ、優しくも切ないファンタジー作品。それは心の彷徨のようでもある。梗概は説明の通りだが、その謎めいたことを記すとネタバレになってしまう。当日パンフによれば、本作は1992年 文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作を受賞し、劇団大樹では2005年に初演したとある。そして20年振りの再演にあたり、新たなシーンを追加し更に深みが加わっていると。初演を観ていないから何とも言えないが、タイトルや説明にある「ポプコーン」が膨らんで弾けたような…映画を観ながら食べた記憶があるが、その懐かしき味わいと香りがするよう。
登場する中で、名前があるのは探偵・野放風太郎と助手・タキ、それ以外は女・男・老人であり正体が知れない。この抽象的な設定が肝かもしれない。人物の過去や現在など背負っているものを明らかにしていない。唐突にして曖昧な出会い方、緩い関係性の中で謎を膨らませていく。そして絵画の人物とは という謎へ繋げていく。途中から だんだんと事情が分かってきて、言葉の端々から滋味溢れる物語が構築されていく。全体的に抒情的な印象だが、物語とその雰囲気を支えているのがアコーディオンの生演奏、とても好かった。
コロナ禍を経て不寛容・無関心といった世の中になったような気がするが、本作は未練と想いが しっかり詰まっている。それは人間だけではなく身近な動植物に愛と情を注いでいるよう。少しネタバレするが擬人化した猫、そしてアンサンブルとして踊る姿が愛らしく、しかも力強いといった感じもする。そこに過去だけではなく未来が…。
(上演時間1時間50分 休憩なし) 12.08追記
ネタバレBOX
舞台美術は、上演前にキャスタ付の衝立4枚、1枚はドアで他はレンガ壁。そこにHOTEL REGRETの看板が掲げられている。上手にはビールケースが積まれている。開演すると衝立を回転させ探偵事務所内の淡い壁とドアに変わる。要は衝立の表裏は、外観と内装を表している。事務所内の中央にソファ、壁に女性の肖像画が飾られ、上手奥には桜の木、その幹は太く枝は天井を這うように伸びている。下手に演奏スペース。
或る日、突然 サラダオイルを持った女が探偵事務所に入ってきて、風太郎に向かって「私の後をつけていたでしょう」と詰問する。自分をつけていた男の風貌と行動を並び立て事務所を出て行く。その女、壁の肖像画の女に似ている。それから頻繁に事務所に来るようになる。いつしか街に鳥籠を持った老人が現れる。しかし籠に鳥は入っていない。この鳥を探して旅を続けているという。
女が、風太郎に20数年前の消印がある手紙を示し、差出人を探してほしいと依頼する。ここから風太郎と女、そして肖像画の女の関りが愁いを帯びて紡がれる。2人は高校の同窓生、といっても風太郎(20歳)は夜間、女(17歳)は昼間で会ったことがない。2人は同じ座席、風太郎が机に推理小説を忘れ、それを女が読み興味を持った。いつしか文通を、そして会う約束をするが…。その待ち合わせ場所に向かう途中で、風太郎はバイク事故で亡くなる。物語は風太郎の夢オチのよう。風太郎は女一筋だが、女は恋愛を重ね 結婚する。そこに生者と死者の愛情感覚の現実的な違い。
風太郎の夢想の中に女が入り込んだのか、女も死んだのかは判然としない。ラスト 男がサラダオイルを買いに出たまま帰らない妻を探すよう 探偵事務所を訪ねてくるが 廃墟。物語の中で既に時間軸が狂っている。何となく〈浅茅が宿〉を連想してしまう。助手・タキは風太郎の飼い猫。既に20年以上生きている。一方 街に来た老人には生または小さな幸せ(青い鳥)を感じる。女が売春婦に身を落としても生きることが大切。同じ街で、死と生という人が抗えない宿命を描いている。
次回公演も楽しみにしております。
サド侯爵夫人
プロジェクト榮
銕仙会能楽研修所(東京都)
2024/11/30 (土) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。観応え十分。
現代戯曲を能舞台で、その独特の空間の中で強靭な台詞が火花を散らすような緊張感。よく言われる言葉と無言といった舞台ではなく、心情を激白し合う感情劇。勿論タイトルから分かるが、サド侯爵夫人をはじめ周りの人々との会話を通してサド侯爵を浮き彫りにしていく。
原作は三島由紀夫、台詞と構成そして登場する6人の心情がハッキリ解る。長い時間軸の物語にあって、心と時代の変化をしっかり感じ取ることが出来る稀有な公演。言葉の激流が俳優たちの身体を借りて愛憎という情念を描き出す。その迸るような激情が観客の意識を捉えて離さない。一瞬たりとも言葉を聞き逃すことが出来ない。
3幕/上演時間3時間(途中休憩10分×2回を含む)、少し緊張が解れるのが 場転換で奏でられる二十五絃箏。演奏によって場に流れた憎悪のような感情が昇華していくよう。能舞台に和の演奏は映え調和する。それは単に場転換の繋ぎというよりは、昂った観客の気持ちを和ませ、新たな場面への期待といった効果を感じる。勿論 照明効果もすばらしく、暖色と白銀の二段になった照射 更にその諧調によって場景の雰囲気を変える。
(上演時間3時間 途中休憩 計20分)追記予定
ロケット・マン
劇団鋼鉄村松
劇場MOMO(東京都)
2024/11/28 (木) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
㊗30周年記念公演…面白い、お薦め。
宇宙という悠久のロマン、そこに関わる人々の思いを人間的そして国家的といった観点で描き出す壮大な物語。人間にとっては長い時間軸、しかし宇宙的な感覚からすれば瞬く間、それを硬軟ある観せ方で飽きさせない。まさに観劇はアッという間の感覚だ。
説明にある「人類は光速到達実験『プロメテウス計画』を開始」…科学的な専門用語(台詞)もあるが 物語の中で不思議と解っていく。小難しいことは抜きにして楽しめる。そして1人何役も担うが時間の経過とともに現れる(人物が違う)ため、混乱することはない。ただ 1人の宇宙船乗組員 カーフ(通称 ロケット・マン)の宇宙への思いと彼を地上から見守る人々の思いは なかなか重ならない。ロマンとリアルの思いの鬩ぎ合いのような…。
少しネタバレするが、冒頭に出てくる 世界最初の宇宙船乗組員である一匹の犬 ライカ、それがラスト、カーフと邂逅する。始めの台詞「スプートニク(ロシア語)」こそ、この物語そのものを言い表している。それは観客を<(宇宙)旅の同行者>として誘っている。勿論 某国の人工衛星打ち上げ計画に因んでいるが。
(上演時間2時間 休憩なし) 追記予定
ウソの歴史のツクリカタ
劇団KⅢ
萬劇場(東京都)
2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
説明の「男も及ばぬ大力無双 毘沙門天の化身と言われる上杉謙信。その名を歴史に残した武将。史実に謎を残した男」から、何となく<ウソの歴史>の想像がつく。この設定は 根強く囁かれており、他の謙信を扱った舞台でも観たことがある。
本作は、戦国時代らしく影武者という存在を絡めることによって、心の深淵を覗き込むような深みを持たせている。特に中盤から終盤にかけての謙信と影武者、夫々の葛藤を激白する場面は面白い。それだけに前半の緩い冗長のような場面が惜しい。前半の柔らかさと後半の硬さ、その落差というかギャップで印象付けようとしたのだろうか。
スピード感ある殺陣、それを効果的に観(魅)せる照明、迫力を煽るような音響音楽は好かった。
タイトルは、現代的な問題も潜ませており興味深かった。戦国時代という生き残りをかけた修羅の時代、翻って 今は剣からペンへ、さらにインターネットという目に見えない武器を駆使して勝者となる。そこに風評という魔物が…。
(上演時間2時間5分 途中休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は段差を設え、後方に長尾家「九曜巴」と武田家「武田菱」の家紋入りの旗。さらに龍/虎が描かれた白布2枚が垂れ下がる。前面は広いスペース、段差の上り下りと相まって躍動感を出し 殺陣をダイナミックに観せる。
物語は上杉謙信の幼名ー虎千代を上手く使った設定。上杉謙信には、根強く女性説が囁かれている。他公演では、この説に基づいて始めから彼を女性として描いていたが、本作では本人(光)と偽者(影)が…。登場人物の多くは歴史に名を残す者であるが、フリーランス忍者 飛び加藤という架空の人物が肝。長尾景虎(後の謙信)と飛び加藤の殺陣から物語は大きく変わる。
戦国時代の跡目ー男系男子が家督を継ぐ、今でも似たようなことを聞く制度。越後がまだ完全に統一出来ていない時期、長尾家を継いだ景虎。幼い時 一緒に寺へ預けられ女 千代、2人で行う兵棋演習で景虎は千代に一度も勝てない。優秀であるが 女ゆえ景虎の影として付き従い、自分の存在・価値を示すことが叶わない。一方 景虎は毘沙門天の化身と言われるが、自分の才覚に自信が持てない。宿命の悪戯か、千代が景虎に成らざるを得い状況へ。
わずかな家臣しか景虎の容姿を知らない。鎧を身に着け顔を被い武田軍に立ち向かう。どちらが光で影なのか、しかし国や民を思う気持ちは同じ。そんな決意を示す千代のラストシーンが力強い。昔も今も風評(噂)は大切か。大将(景虎)の存在は絶対で、敵 武田軍に知られてはならない。苦肉の策が千代の身代わり。その嘘偽りこそが長尾(上杉)家の存亡を左右、延いては民のため。ウソから生まれた 慈しみや思いやりであっても、それが時を経て事実になることも…。
次回公演も楽しみにしております。
レットイットビーム
コメディアス
OFF OFFシアター(東京都)
2024/11/27 (水) ~ 2024/12/01 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
RTA(Real Time Attack)のようなライブ感ある公演。確かに「光路を作り出す過程を描いた光学演劇、光VS人間のレーザーコメディ!」という謳い文句の通りなんだが…。
前説の中に設定を語らせ物語が始まる。しかし始まってしまえば設定等 ほとんど関係なく目の前の装置とアイテム入手に集中する。今まで密室や迷路からの脱出劇は観たことがあるが、シャレの意味で古さを省いた<光学>ならぬ<考学>といった公演。色んな意味で評価が分かれそうな気がする。
RTAといっても公演時間内には完結する。ちなみに装置は手動ではなくセンサーで反応させているため、機器の調子と役者の操作の加減によって上演時間が長くなるかも といった情報が前もって知らされた。公演情報では上演時間80分であったが、観た回は90分(途中休憩なし)だった。
全編を通してレーザーのパズルがどのように解決していくのか、その遊び心ある過程には観(魅)入らされた。
ネタバレBOX
舞台美術はレンガ壁の中央に埋め込まれた電子基板のような装置(当日パンフにも掲載)、その中心に「光の羅針盤」がありレーザーを照射している。他に箱馬が2つ。
この種の公演は、設定と装置が密接な関係にあり 奇知ある驚きが大切だろう。今回は装置の面白さに重きがありドラマ性が弱いような。
物語は1924年。大英博物館で見つけた古い冒険記、そこに記された神秘の装置<光の羅針盤>と<LET IT BEAM>という奇妙な走り書き。その謎を解くため、博士と財団の担当者が やって来たのがリビア砂漠にある古代文明の地下遺跡。神殿への扉(基板)を発見するが、それを開けるには…。ここからがRTAゲームのようなレーザーとの格闘。劇中の台詞でいえば「知育ゲーム」が始まる。これは観ないと臨場感が伝わらない。
終盤、問題をクリアーし 中から出てきた古代人。衣裳こそ それらしいが会話は現代そのもの。レーザーが武器へ利用される恐れ、それを担当者が先の大戦でと口走る。台本通りなのかアドリブなのか判然としない緩い会話。意地悪な見方をすれば、装置との格闘に手間取った時に、この古代人との会話シーンで時間調整をするような。
なお ライブ感を大切にしたのか、音楽で煽るようなことはしない。せいぜい始めと終わりに冒険譚を思わせる曲を流すだけ。
次回公演も楽しみにしております。
炎恋
星巡黎
阿佐ヶ谷アートスペース・プロット(東京都)
2024/11/20 (水) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
心の奥深くに響く心情劇。魅力は、珠玉の台詞が鏤められ抒情的な感じ、しかし なぜか指の隙間から言葉がポロポロと零れ落ちてしまう。言葉・台詞に酔いしれたと言ってもいい。逆にインパクトある言葉がなく、印象が弱いといった感じがする。惜しい。
女優7人が 横一列に並べた椅子に座り朗読する。大きな動きはなく言葉と表情で紡ぐ。7人は姉妹であったり幼馴染または飼い猫などで、その関係性はバラバラで 当初演じている性別も判然としない。登場する人間や動物が、自分の思いを正直に言えなかったり、相手の気持ちを推し量ってしまう。その結果、自分の気持ちに正直になれない、要は本音で語ることが出来ない。本音と建前という遠慮の世界で生きている。そこに生き辛さが浮き彫りになってくる。
公演の魅力は、夫々の関係性の中で語られるドラマ、それを情感豊かに朗読する。時に語っている人物を皆が凝視するように覗き込むため姿勢を変えたり、逆にそっぽを向くような仕草。また舞台後ろの暗幕を利用し、色彩豊かな照明を巧みに諧調し、情景と状況を描き出す。
(上演時間1時間20分)【恋チーム】
ネタバレBOX
横並び…上手から先生・幼馴染・久遠・君・妹・猫・姉の順で台本を持って座る。
物語に脈絡があるのか分からない。別々の話が入れ子のように紡がれているが、複雑な人の思いと関係性は伝わる。
葬儀は、故人との関係にもよるが 一般的には悲しいもの。物語では、お葬式で二人だけが泣けなかった。その違和感のようなものを契機に、他の出来事や関係性を次々に膨らんませていく。泣いていなかったのは、君と久遠の二人。全員女優であるから登場人物は女性という先入観を持っていたが、そうではないようだ。例えば衣裳で、君は白地のワンピース、久遠は黒のパンツスーツ、猫は耳付きの白い帽子とボアスリッパ等、外見をそれらしく観せていたが、すぐには気が付かない。
久遠と幼馴染は 文字通り幼い時からの友達、いや少なくとも幼馴染は久遠に恋愛感情を抱いていた。しかし別の女性と結婚することにした。二人は同性愛かと思っていたが、幼馴染が結婚する相手が妊娠していると告げた。久遠は中性的な雰囲気を漂わせており演技上手だ。
姉と妹は文字通り実姉妹。妹は、何らかの事情で家を出て暮らしている。姉妹間で何らかの確執があり、関係が好くない。その原因・理由がハッキリしないのが惜しい。
姉をはじめ何人かが心を病んでいるようで、先生に相談している。当初、先生は占い師 もしくは電話相談者のような印象を持っていたが、心療内科医として考えれば納得。
そして猫、久遠の飼い猫のよう。猫は 人間の寂しさの慰み物に、そんな冷めた目で見ている。猫の客観・観察的な立ち位置が物語を落ち着かせる。
全員が直接または間接的に繋がり 物語を紡いでいく。それを静寂という対話、皆が同時に喋るような雑音の違いで聞かせる。そこに心情と日常(世間)が溶ける様に交じり合う。まさにHSP傾向のような、他者との心の境界線が上手く保てない もしくは歪んだ関係が浮き彫りになる。
次回公演も楽しみにしております。
永遠色 - トワイライト -
劇団導
コフレリオ 新宿シアター(東京都)
2024/11/21 (木) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
若さ溢れる女子高生の心霊劇であり心象劇。物語は、概ね説明に書かれている通りであるが、何かしら違和感を覚える。公演は、プロジェクションマッピングを使って柔らかみ ファンタジーな雰囲気を醸し出す。演出は勿論 演技も丁寧で、しかも登場人物は皆女優でフレッシュであり華やか、しかし描かれている世界観はここから先は行き止まり といった悲しみが…。それをどう乗り越えるかと、女子高校生の友情がモノローグ的に紡がれる。
先の違和感は物語の核とも言うべき内容で、自分の勘違いなのか、もしくは観逃したか聞き逃したか。劇中も書かれている説明も同じで、その設定と展開の理解が追い付かないところが惜しい。自分の拘りかも知れないが、物語のテーマを語る上では重要だと思うが…。
(上演時間1時間45分 休憩なし)【空色チーム】
ネタバレBOX
劇場に入ると、正面にプロジェクターを使って色彩豊かな絵(夕暮れ時の東京駅舎のような)が映し出されている。上手/下手の壁際にベンチ、下手に二重(前後)の衝立とカーテンが掛けられいる。舞台中央は広いスペースを確保し、女優陣が生き活きと演じる。
いつもの場所/いつもの時間に待ち合わせ。それが時計台の下/トワイライトの時間帯。いつまでも続くと思われた北川女子高校 写真部員の友情。それが夏の遠征(長野県八ヶ岳山麓)途中で、バス転落事故で7人全員が亡くなる。ガラ携帯を使用しているから、時代設定は少し前か?
7人の被害者の中の1人-藤崎真由は双子姉妹。母親の美沙は明るくけなげな真由を大切に育て、妹の真里は頭を抱えた。そして真里は 真由の死を受け入れられず壊れた。事故のニュースを見て、母親が「真里ちゃん、真由が死んだからお葬式しなくちゃね。あなたはお姉ちゃんなんだから」そして「彼女は“姉”となった」。物語は、ここからが見所。
3年後、真里は真由里(=真由と真里)という多重人格を作り出し、嘘の明るさを取り戻した。虚証ならぬ虚笑する姿がそこにある。自分の存在とは、そして母の真由への思いとの兼ね合い、複雑な心模様を自問自答という形で描く。それは自分が作り出した小川由紀、山本結衣、谷口彩花という幻影との会話。さらに亡き写真部員-イマジナリーフレンドの6人-道乃木遥香、藤堂玲奈、椎名紗希、天城彩乃、神崎遥香、黒崎由美が、真由里の心に居座る。幻影とイマジナリーフレンドが真里を心配し励ますが、それが現実なのか幻影なのか、その世界観が混沌とし曖昧になる。
3年経ち 幻影とイマジナリーフレンドの存在は、真里の慰め/癒しとしての役目を終えようとしている。そしてイマジナリーフレンド6人(体)が夫々思い残したことを吐露し、真里から離れ成仏する。本来であれば 姉の真由の吐露があって、真里が真に自分自身を取り戻すことが出来るのではないか。人はいつか死ぬ、しかし亡くなった人のことを忘れなければ、残された人の心の中で生き続ける。これは母親にとっても同じ。真由の思いが、母と真里を再生に導くのではないか。その核心が描かれていない。勿論 1人2役でという演劇的な難しさもあろう。しかし、イマジナリーフレンドが6人で肝心な真由の存在感がない。そして母と妹への惜別の言葉がないのが残念。
また真里がショックで ドッペルゲンガーに、といったことも考えられるが その兆候らしきものが描かれていない。ただチラシには「心の中で彩った人々と偽物の人生は交錯し、ついに まぼろしは表へ出てきてしまう」とあり、姉妹はほんとうに双子なのかという疑問も残る。それを意図したならば、なかなかに手強い公演だ。
さて イマジナリーフレンドの心残り…例えば、椎名紗希(村山桃圭サン)は、研究ファイルのパスワードを伝え忘れたこと。事故・災害等が起きた時、衛星通信を利用して場所を特定するシステム…物語の事故と絡め、更に現代的な課題の広がりに繋がるようで面白い。
次回公演も楽しみにしております。
クリスパ ❤ グランデ
劇団娯楽天国
ザ・ポケット(東京都)
2024/11/20 (水) ~ 2024/11/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
コメディの王道というか定番のような物語で面白い。描き方としては序盤から中盤まで誤解・勘違いといったドタバタ騒動で笑いを誘い、後半からラストにかけて滋味溢れる展開で心を揺さぶる。その感情の操りが実に上手い。ただ ダジャレのような言葉遊びと少し強引と思えたところが気になるが…。
タイトルから何となく分かるが、クリスマスと結婚式を掛け合わせ、劇団名にちなんだエンタメとパラダイスのように楽しく優しく観せる といった印象だ。何となくコーパス・クリスティ祝祭劇を思わせる。少しネタバレするが、子供に関わる話になったところから俄然 面白くなる。夫婦にとって子は鎹にならない。その存在は助にもなれば嫌にもなる。まさに夫婦にとっての腱なのである。
チラシにある「教会でゴージャスな結婚式をするはずが、なぜか式場が…」、この場所の設定が妙。劇場に入っても幕で隠されており、どのような場所(舞台美術)なのか興味を惹く。そして明転してアッと驚くというか唖然とさせられる。まさに日本語と英語のコラボのような語感/語呂に唸ってしまう可笑しさ。その場所で 登場する人物達が抱えた事情などの絡み合いが次々と…。ぜひ劇場で。
(上演時間2時間15分 休憩なし) 11.24追記
ネタバレBOX
舞台美術は 銭湯の男湯脱衣所。上手が入り口で すぐ番台があり奥に抜けると女湯らしい。中央に回り込むような階段があり、途中に丸窓がある。窓に十字格子があり外から光が差し込むと十字架のように見える。やや下手に戸があり中は湯舟。後々、クリスマスとブライダルを兼用させたような飾り付けが印象的だ。
冒頭、後方客席通路から聖(生)の白装束の一団が讃美歌を歌いながら登場する。そして幕が上がると銭湯というギャップ、その奇知のような発想に驚かされる。
説明にある教会でゴージャスな挙式をするはずが、なぜか銭湯になってしまう。結婚式を請け負った会社、妻 音羽菊代が社長で夫 慎介はその手伝い。慎介は賭け事が好きでサラ金から借金をしている。ゴージャスな挙式費用から借金を返済しようと企み、廃業した銭湯=セント(saint)教会と偽り…。一方 挙式をする新郎 /新婦 も曲者で夫々が相手を騙している。そもそも出会いの切っ掛けがマッチングアプリ、まさに現代的な結婚事情を反映したような。その手軽さに潜む危うさも示唆しているよう。
物語は、クリスマスイヴに教会で挙式、その時期に相応しいサンタクロースに準えた男が、いつの間にか 登場人物の思惑が錯綜した事態を収束させていく。この人物、始めは胡散臭く怪しい。銭湯は廃業しているから不動産会社が施錠管理しているが、なぜか自由に出入りしている。銭湯には高い煙突という説明も面白い。しかし、いつの間にか物語の中心にいて滋味ある話をしている。偽新郎は挙式を手伝うブライダル業者(女性社長)の夫、要は既婚者。偽新婦は相手から金を騙し取る算段をしていた。夫は偽結婚式がトントン拍子に進み困惑、浮気された妻は、子がいないからと言った嘆き。偽新婦はシングルマザーで子供を育てることの大変さを激白=子は鎹にならない。
この怪しい人物が、いつの間にか<新婦>になり<神父>になり 本当の挙式を上げさせる。誰と誰が結婚するのか、どうしてそのような経緯になったのかは劇場で…。結婚はマッチングアプリのような出会いではなく、相手をよく知り愛情をもって接すること。いつも傍にいる、その当たり前がいつの間にか愛を育んでいる。鏤められた伏線を丁寧に、しかも五感/語呂のような言葉遊びに込めたユーモアに利かせる巧さ。讃美歌の美しさに人の思いの美しさを重ねたような、まさにクリスマス時期に相応しい(プレゼントのような)公演。
次回公演も楽しみにしております。
部活から羽ばたけ!Campus☆idols
藍星良Produce
シアターグリーン BASE THEATER(東京都)
2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
初めての「藍星良produce」公演だろうか。面白い。若い女性の等身大の姿を描いた青春群像劇。
タイトル「部活から羽ばたけ!Campus ☆ Idols」から緩いアイドルドラマかと思っていたが、けっこうシビアな現実を突きつける。或る小説にある人生の七味唐辛子…恨み・辛み・妬み・嫉み・嫌み・僻み・やっかみ、を思い出した。人生の 七味唐辛子は、人生の大事なスパイスで、たくさんの七味唐辛子を浴びせかけられて、人生に深みがでて豊かになるという。物語もそんな成長譚が描かれている。
大学 学園祭でアイドル部の活動発表をしようと…その回想として物語は展開していく。アイドルとしての意識や捉え方は、一人ひとり違い 大学の部活(趣味の範囲)から芸能活動(職業)を目指す、といった大きな隔たりがある。アイドル部として自分の居場所があれば楽しい、しかしグループで活動していくうちに将来どうするか。卒業後の進路、アイドル活動の継続、芸能活動全般といった将来を見据えた設定。さらに昨今の芸能事務所の暗部(パワハラ・セクハラ等)という話題性を取り込んだ着眼点が妙。
芸能事務所のプロデューサーが現れ、アイドル部へアプローチしたことで グループ内は揺れ亀裂が生じる。女の子の賞味期限(若さという魅力)は限られている、今しか出来ないことをしよう。夢を叶えるような甘美な響き、しかし その甘言には自分自身を見失う心の縛り、そんな危険が潜んでいる。
公演は、アイドルドラマらしい サイリウムを使った応援や手拍子等、お約束のイベントらしい演出があり、舞台と客席が一体となって盛り上げる。若い女の子が、そんなこと や あんなことで悩み苦しんでいるんだ、そんなリアル感情が物語を牽引していく。台詞の言い直しなど、拙いと思えるようなところもあるが、それが感情の迸りで言葉が詰まったようなリアリティを感じさせる。それだけ迫真/臨場感がある。
ちなみに登場する女性の多くはアイドルっぽい衣装だが、ラスト 藍星良さんは役柄もあろうが、キッチリとしたスーツ姿。そこに引き締まった思いを見るようだ。
(上演時間2時間 休憩なし) 【LOVEチーム】
ネタバレBOX
舞台美術は、段差を設え仕切板を配したシンメトリー。正面と両側に鉄骨風の組オブジェ、そして所々に星飾りの張付け。前面(客席側)は、ダンスシーンをダイナミックに観(魅)せるため広いスペースを確保。
物語は、学園祭でアイドル部can☆dolsの活動を発表しようと…。華やかに見えるアイドル、しかし裏の実態は苛烈な戦いの日々、そして自分の正直な気持と どう折り合いをつけるか その葛藤を描いている。表層的には部活とアイドルExit♡Loversという、アマとプロの意識や考え方の違いを描きつつ、個人の思いを吐露する。それは友人間であり姉妹間という多面的な関係性の中で紡ぐ。それによって潜む社会的な問題や個人的な感情が複雑に絡み合い、内容に幅広さと深度が増す。
瑞希とスミレは元ライバル関係にあったが、いつもオーディションで合格するのは瑞希。しかし彼女は芸能活動にあまり興味がなく、大学生になった今でも部活動の範囲でアイドル活動をしている。勿論 卒業後は<普通の会社員>になる予定。一方 スミレは努力をしても なかなか報われず、それだけに歯がゆい思いをしている。スミレの瑞希に対する思い…才能に恵まれているのに そんな嫉妬と妬みが痛いほどに伝わる。
ニーナと有彩は姉妹、姉は売れっ子アイドルだが、その実態は水着も厭わないグラビアまで半強要され 精神的に追い詰められている。有彩は 姉のそんな苦労や苦悩を知らず、表面的な華やかさに憧れ 自分も早く姉のようにと焦燥する。そんなところにニーナやスミレが所属しているExit promotioがアプローチしてくる。何事も個人の選択だとし、問題が起きても本人が選んだ道と 責任逃れする、そんな実態暴露といったリアリティ。
昨今の芸能プロダクションの悪評を連想させるようなセクハラ・パワハラ等を盛り込み、それでも芸能(アイドル)活動をして人気者になりたい。人間としての承認欲求を満たしつつ 同じアイドルならば他者より抜きん出たい、その自己顕示欲を観せつける。設定は芸能という分かり易い競争社会、しかも可愛いという曖昧な基準を<賞味期限>という年齢で描き出す巧さ。微妙な女心の深淵を覗かせる様な怖さ。観応え十分。
次回公演も楽しみにしております。
栗原課長の秘密基地
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2024/11/13 (水) ~ 2024/11/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
説明にある「栗原課長の初仕事は、伝統ある『きつつき賞』の授賞式、15分で終わる予定の式が次から次へと…」の通りであるが、秘密基地がいかにも児童文学絡みで ラストシーンは秀逸。次々に判明する事実、その対処に追われる編集部と審査員の荒唐無稽とも思える会話と行動が、なぜかリアルに思えてしまう。脚本の面白さもあるが、やはり演出が巧い。大勢いる慌ただしい場面から 急に2人だけの静かな場面へ、多くを語らず 何気なく照明を諧調させ、しみじみとした情景を描き出す。心憎い心象付である。
(上演時間2時間 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台は陵文館主催の平成14年 第18回きつつき児童文学大賞授賞式会場。正面に横長テーブルと椅子、上手側にパイプ椅子3脚、下手側にも横長テーブルと椅子が配置され、壁には時計が掛けられている。自分が観た回は13時45分を示し、終わったのが15時45分で上演時間2時間を表す。15分の授賞式が2時間に及ぶことになった展開を面白可笑しく順々に展開するため、観客にとっては分かり易い。同時に授賞に係る様々な不条理が描かれることによって栄誉(ここでは児童文学賞)の選考とそれに関わる人々の悲喜交々が切々に描かれる。特に<児童文学>と<大賞>という設定が上手い。単に<文学賞>、<新人賞>であれば、清濁併せ吞む大人の世界も、児童文学ともなれば 純真な子供への読み聞かせとなり下手な小細工は通じない。また新人賞では書き直した作品に対して課長が下す「該当なし」判断が難しくなる。
タイトルにある栗原課長は、ビジネス情報誌の敏腕編集長だったが、不倫相手からセクハラの噂を流され左遷という経緯。出版業界の厳しい経営環境下を背景に児童文学部門はこの賞の存在(権威)に負っている。その授賞を巡って二転三転し漂流した揚げ句の結末は、課長の会社での立場を危うくするだけでなくリストラという人生そのものが破綻するかもしれない。セクハラに関しては事実ではないことを受賞者・受賞作品の疑惑に準えながら展開する。脚本の力と演出の工夫、この絶妙なバランスが本公演の魅力だ。
出版社は利益を上げること、読まれる児童文学書を刊行するという二面を持つ。社で働く編集者と選考委員、受賞者、さらには読者代表者といった立場の異なる人々の正論、思惑や裏工作が実に面白く描かれている。人物設定の上手さ、課長を始め児童文学部署の隆盛、選考委員としての名誉と報酬、推理小説家志望で何年も落選し続ける男、そして児童文学が本当に好きな大賞受賞者、AV女優で佳作入選者、そして賞に恵まれなかった児童文学小説家などが その立場や本音を激白する。そこには児童文学の心が置き去りにされ大人の事情が優先する矛盾や皮肉。その人物の座る場所や立場、受賞席における弱腰、一転して下手側の控え席での本音・暴露発言といった違いで「忖度」的な態度が垣間見える滑稽さ。
さて、上手壁に掲げられている平成14(2002)年は、電子書籍配信が始まっていたり、ハリー・ポッター賢者の石ほかシリーズも始まった。公演の中でも人気シリーズにあやかった児童文学作品が現れないかと言った台詞があった。世相を反映させた観せ方も上手い。
最後に、秘密基地は子供の頃の遊び場であり思い出の場所。同時に逃げ場であったかもしれない。しかし公演では、心に残っていた児童書を通して生きる<勇気>を得た場所にもしている。自分にとっては、実に心地良い結末だった。
次回公演を楽しみにしております。
Proof
カヌーは川の上
高円寺K'sスタジオ【本館】(東京都)
2024/11/08 (金) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
面白い、登場人物4人による濃密な会話劇。
本作は ピュリッツァー賞やトニー賞を受賞した名作で、「プルーフ・オブ・マイ・ライフ」(邦題)として映画化もされている。日本でも様々な団体が上演している。
このスタジオにあった演出をするなど 工夫を凝らした好公演。また演出だけではなく、演技も確かで 比較的小さなスタジオ内に心地良い緊張感が漂った。
(上演時間2時間 休憩なし)
ネタバレBOX
囲み舞台で、中央にテーブルと椅子。奥の壁際に4つ椅子が並んでいるが、楽屋へ出ハケしないため 登場しないキャストの控え場所。舞台と客席の間に衣装や鞄などの小物が円形状に置かれており、物語の進行にともない これらに着替え モノを使う。場転換時に薄暗くして着替えるが、その姿がシルエットになって観えることから 時間が途切れることなく流れているようだ。
シカゴ、冬。シカゴ大学教授のロバートは 天才肌と言われた数学者であったが、精神を病み5年の闘病の後、多くのノートを遺して世を去った。次女のキャサリンは、父の数学の才能と不安定な精神を受け継いでおり、孤独のうちに父を看取る。父を亡くした数日後、 父の教え子であるハルが 父の残したノートを検証したいと。また、ニューヨークから来た長女のクレアと家の売買を巡り激しく対立する。葬儀の夜、ハルはキャサリンに 前から気になっていたと告白し、2人は夜を共にする。キャサリンは大切なノートをハルに託す。そこには、世界中の数学者が解こうとして叶わなかった、ある「証明」が書かれていた。そして…。
この「証明」を巡って4人の主張と思惑が対立し、夫々が抱いている相手への感情や自分自身が抱えている葛藤が浮かび上がる。「証明」が未知のものであり、検証可能か否かといった問題はあるが、少なくとも価値は確か。どのような「証明」なのか、その中身が重要なのではない。このノートの存在が明らかになる迄、そしてノートの筆者と真偽を巡る過程に人間観のようなものが浮き彫りになる。優秀な数学者の才能を受け継いだ、そこには本人も自覚する才人と狂人という紙一重の怖さが存在する。人間観察のように興味深く、時に気味悪いような人の本性を突き付けてくる。例えば、ハルの業績横取りやクレアの遺産目当てといった欲望、そんな疑惑を抱かせ 人間の暗部を炙り出す。
舞台技術…照明は全体的に明るいが、場面転換の時に薄暗くし その中で着替える。風呂上がりのシーンなどは、髪を濡らし臨場感を出すといった丁寧さ。また心情表現は、黄昏色の照明を前後から照射し印象付ける。小さな空間、しかし テーブルを回り込むことによって空間的な広がりを表し、状況と情景に変化をつけ、激情的な会話によって緊張感を出す。人物の関係性は明らか…1人で父の面倒を見てきたキャサリン、妹に任せっきりでニューヨークに住んでいるクレア、亡くなってから遺されたノートを探すハル、その人物像を如何に表現するかが物語の肝。そのキャラをしっかり立ち上げた人物表現はよかった。
次回公演も楽しみにしております。
お気に召すまま
明治大学シェイクスピアプロジェクト
アカデミーホール(明治大学駿河台キャンパス)(東京都)
2024/11/08 (金) ~ 2024/11/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
学生演劇はあまり観ないが、この明治大学シェイクスピアプロジェクトだけは、ここ数年観ている。月並みな言葉だが、一つの公演に大勢(パンフには206名のメンバー名鑑掲載)の学生が関わり上演している、その一生懸命な情熱を観たいからである。演劇的には学生のレベルの域を出ないが、それでもシェイクスピアの戯曲の力であろうか、楽しめるのである。本作のメタファーであろう台詞「人生は舞台である」…これから社会に出て現実に向き合うであろう学生達が、今それを演じている。
今回は第21回、それだけ長く上演し続けることの大変さ、その努力・熱意に敬意。観てきた公演は、必ず生演奏で伴奏する。役者と演奏者、そして多くのスタッフが一丸となって取り組む姿は清々しい。演劇を通して若者の情熱、そのパワーをもらっている。だからこそ観劇(感激)し続けたい。
(上演時間2時間 休憩なし) 11.10追記
ネタバレBOX
舞台美術は、上手に階段状の台 何となくピラミッドのようなもの。周りは白銀の木型のオブジェ。場転換すると緑色模様の木々へ変わり、階段状は台がテントのようなものへ。下手奥は楽隊スペース。天井にも緑のオブジェ、また会場に入る迄の柱も緑色布で森のイメージ作り等、丁寧な演出だ。
梗概は、オーランドは、父の遺産を相続した長兄オリヴァーに過酷な生活を強いられていた。一方、フレデリック公爵は兄を追放しその地位を奪ったが、兄の娘ロザリンドは手元に置き、自分の娘シーリアと共に育てていた。公爵主催のレスリング大会で優勝したオーランドはロザリンドに出会い、2人は互いに一目惚れする。しかし 公爵から突然の追放を言い渡されたロザリンドは、道中の危険を避けるため男装してギャニミードと名乗る。そしてシーリアと道化タッチストーンを連れ、追放された父が暮らす森へ向かう。オーランドも、運命を切り開くために兄の元を離れ、行き着いたアーデンの森で…。
物語は、男装したロザリンドを巡り恋のさや当て、外面に惑わされると大切な心を見失ってしまう。心の目(恋愛は真心)で物事の真価を見極めることの重要さ。昨今、心の目が閉じられ、目先の利益や快楽といった外見に惑わされるような。本当に大切なものとは…人は社会(世界)という劇場で演じている役者という考え。宮廷を追放された貴族が森での生活を謳歌している。この世は舞台、男も女も役者に過ぎない。自分の人生を<人生劇場>として捉え、自分の役割を自覚すれば、目先のことに捉われない見方が出来るかもしれない。
シェイクスピア喜劇らしい道化(フール=愚者)の登場、それによって登場人物の愚かしさを描き出す。衣裳やメイクを凝らし、ビジュアル的にも楽しませる。演技は学生らしく溌溂とし テンポよく展開していく。また結婚の神ハイメンの歌声が素晴らしい。物語を引き立てる演奏部隊のパフォーマンスも、その立ち位置を変える等 工夫をしているところが好ましい。
次回公演も楽しみにしております。
広くてすてきな宇宙じゃないか
演劇集団わるあがき
吉祥寺櫂スタジオ(東京都)
2024/11/03 (日) ~ 2024/11/04 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
「演劇集団わるあがき」の最終公演。
この演目 最近観たが、近未来に出現するかもしれない世界、そんな寓話劇のよう。上演前から男の子(カシオ)が舞台上にいる。1人 ラジオを聞き、雑誌「星座と宇宙」とその付録で楽しんでいる。ラジオから聞こえる声は、劇団の10年の歩みへの感慨、そして歌はaikoの「瞳」が流れる。
10年間の演劇活動、お疲れさまでした。そして ありがとうございました。
(上演時間1時間10分 休憩なし)
ネタバレBOX
舞台美術は暗幕で囲い、上手にシーツ(スクリーン代わり)を掛け、その前に腰高の衝立(TV局)、下手に台(別場所)があるだけのシンプルなもの。
物語は、ミザールの脇にあるアルコル その微かな光しか見えない恒星を柿本家とおばあちゃんに重ねている。その寄り添いが大切だと…。その<思い>を強く印象付けている。
物語は、TV報道番組で Family Rental Service(略称FRS)がアンドロイドの貸し出しを始める、それを中継を通じて報じるところから始まる。ニュースキャスターの柿本光介は、試しにアンドロイドの「おばあちゃん」を柿本家に迎え入れた。 父 光介が勝手に話を進めてしまったこともあり、 三人姉兄妹の反応はまちまちだ。長女(中学3年)のスギエや長男カシオ(中学2年)は おばあちゃんの優しさに癒され、少しずつ彼女との距離を縮める。 しかし末っ子のクリコ(小学6年)だけは おばあちゃんを拒み続けた。その頑なさが拗れ周囲は勿論、東京中を巻き込む騒動へ……その緊急・非常事態にも関わらず、全体的にゆったりとしたテンポで緊迫感が弱いところが惜しい。また一見すると スギエとクリコの年齢が逆のような違和感、見た目も重要だと思うが。
テーマは「人とアンドロイドの関わり」。 母を失った子供たち…スギエ、カシオ、クリコの三姉兄妹。 アンドロイドおばあちゃんは、あくまで 彼らの「おばあちゃん」として優しく接していく。 しかしクリコにとって母は1人だけ、おばあちゃんでは「代わり」は務まらない。 おばあちゃんは それを承知でクリコと向き合い続ける。 アンドロイドの命は尽きないが、エネルギー充電は必要。クリコは、おばあちゃんをFRSへ帰すよう働きかけ、そこにもう1体のアンドロイド「ヒジカタ」が登場して緊迫感を増していく。
FRSにいるのは全てアンドロイド。ヒジカタは介護用アンドロイドとして病院に派遣されていたが、人の死によって責任を問われた。おばあちゃんとは異なり、ヒジカタは 生死に関わる人間とアンドロイドの違いを重く受け止めた。 アンドロイドの派遣役割などで状況が異なるのは生きている人間も同じ。人はアンドロイドと違って もっとハッキリした感情で揺れ動く。重苦しくなりそうな内容だが、終始明るいおばあちゃんのおかげで救われる。ただラストは、おばあちゃんとクリコの邂逅だが、そこには近々ヒジカタと同じような立場で介護問題が横たわるような…。
アンドロイドおばあちゃんの髪の毛は白銀。母親代わりではないおばあちゃん、そしてアンドロイドの もしもの時のエネルギーの代替となる(太陽)光を吸収しやすい色にしている。ラストは、シーツに星の輝きを映し出す。