磁界 公演情報 オフィスコットーネ「磁界」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    「綿密な下調べを基に俯瞰した目線で創るドキュメンタリータッチの作品」という謳い文句、その緊迫・緊密感に圧倒される。観応え十分。

    警察署とそこで勤務する警察官という両観点から、組織とは 人間とは を重厚に描き出した秀作。警察組織の花形は刑事課であろうが、ここでは生活安全課という市民に寄り添った部署ーーその理想と現実の狭間で揺れる男の悲哀が良く表れている。警察という市民の暮らしの安心と安全を担う組織、しかし一皮剝けば<内側から見れば>出世という上昇志向という典型的な競争社会が浮き彫りになる。警察署という設定が妙、いわば市民の協力なしに その機能を発揮出来ないという相互の<信頼>関係の上に成り立つ。物語はその市民からの依頼と警察の事情、どちらも納得してしまう描き方、そこにコトの善悪では解決できない複雑な事情を絡め巧く展開していく。

    一警察署という設定から、表れない都道府県本部、更には警察庁といった上層の権力構造が見え隠れし、典型的な組織としての本音<市民の安心安全>と建て前<事件性の有無>がぶつかり合い、どちらの言い分も尤もに思えてしまう。同時に典型的な人心掌握術、飴と鞭というどの組織でも通じそうな言動、そこに人間としての悲喜交々を巧く織り込む。

    舞台美術は、警察組織の人間関係や体質を象徴的に表すと同時に、心の虚しさ、殺伐さといった心情光景でもある。一方、舞台としての機能ーー警察内とその外を巧く切り分け、情景表現にも優れている。その舞台で 役者はそれぞれの立場と性格を立ち上げ、濃密な演技を観(魅)せる。
    (上演時間1時間55分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    L字客席、舞台美術は盛り土のようで、客席と舞台の間は溝のような空間<道>がある。奥は一段高くし、テーブルと椅子があり別空間を表す。場景によって弁護士事務所であり酒場になる。上手 下手には色々な形の椅子が紐に括<縛>られている。天井からも紐が垂れ、全体的に薄暗く、あるのは椅子だけ。縛られているのは、署内の色々な人たちを表しているのであろうか。

    冒頭 生活安全課の署員が、ある部屋を訪ねるところから始まる。緊迫した様子、警察無線から流れる言葉から一気に物語に引き込む。場転換し、一人の女性が生活安全課に妹の行方を捜してほしいと依頼。生活安全課に自ら望んで配属された署員は、事件性がないと動けない旨説明するが、市民のための警察ではないのかと食い下がられる。対応に苦慮し上司に相談するが埒が明かない。民間企業ならクレーマー処理するような展開であるが、無下にできない警察署という設定が上手い。いつの間にか「市民のため」が蔑ろに、そして事件が…。

    警察では事件性の有無によって対応が異なる。その見極めが重要であり、「君には期待している」という飴のような甘言。逆に組織の体面を傷つけるような軽はずみな言動や行動は叱責ーー「君には失望した」「将来を考えたまえ」は鞭のような苦言。署長から課長・主任へ、逆に諫言は出来ない組織体制、その保守的な考えが人間性を支配していく怖さ。<精神的な>病に倒れるか、洗脳されていくか、その究極の選択を迫られるような圧迫感。制服(交番勤務)と私服(署内勤務)の違い、私服は相談する相手がいないこと。その孤独・重圧感を早い段階で示す。

    市民の相談、そして権力機構への対峙として弁護士を登場させる。生活安全課の署員と弁護士、その従兄同士であり立場を違えた男二人の激論は心魂震える。二人の議論は 理想と現実のように思えるが、何故か生活安全課署員の心内が引き裂かれた、そんな葛藤する姿を見るようだ。出来れば、続編として、この法廷劇を観てみたいところ。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/02/16 15:09

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