実演鑑賞
満足度★★★★★
面白い、お薦め。
「綿密な下調べを基に俯瞰した目線で創るドキュメンタリータッチの作品」という謳い文句、その緊迫・緊密感に圧倒される。観応え十分。
警察署とそこで勤務する警察官という両観点から、組織とは 人間とは を重厚に描き出した秀作。警察組織の花形は刑事課であろうが、ここでは生活安全課という市民に寄り添った部署ーーその理想と現実の狭間で揺れる男の悲哀が良く表れている。警察という市民の暮らしの安心と安全を担う組織、しかし一皮剝けば<内側から見れば>出世という上昇志向という典型的な競争社会が浮き彫りになる。警察署という設定が妙、いわば市民の協力なしに その機能を発揮出来ないという相互の<信頼>関係の上に成り立つ。物語はその市民からの依頼と警察の事情、どちらも納得してしまう描き方、そこにコトの善悪では解決できない複雑な事情を絡め巧く展開していく。
一警察署という設定から、表れない都道府県本部、更には警察庁といった上層の権力構造が見え隠れし、典型的な組織としての本音<市民の安心安全>と建て前<事件性の有無>がぶつかり合い、どちらの言い分も尤もに思えてしまう。同時に典型的な人心掌握術、飴と鞭というどの組織でも通じそうな言動、そこに人間としての悲喜交々を巧く織り込む。
舞台美術は、警察組織の人間関係や体質を象徴的に表すと同時に、心の虚しさ、殺伐さといった心情光景でもある。一方、舞台としての機能ーー警察内とその外を巧く切り分け、情景表現にも優れている。その舞台で 役者はそれぞれの立場と性格を立ち上げ、濃密な演技を観(魅)せる。
(上演時間1時間55分 途中休憩なし)