幽霊塔と私と乱歩の話 公演情報 木村美月の企画「幽霊塔と私と乱歩の話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    全体的には、或る有名な映画を連想させつつ、乱歩小説の世界観へ誘う、そんなイメージの物語であった。面白いのは、現在と過去(10年前)を交錯し、ミステリアスで時にサスペンスのような場面を取り入れ関心を惹くところ。不思議な出来事とドキッとさせる感覚、それを簡易な舞台美術で観せようとする工夫。今の暮らしに立ち止まり 昔の(不思議な)出来事を回想する、そんな単なるノスタルジックドラマとして描いていないところが魅力的だ。この公演の主人公は主宰の木村美月さんの姿に重なり、その思いが強いといった印象。因みに主人公は別のキャストが演じており、もしかしたら客観的に眺めたいといった思いがあったのかもしれない。

    登場人物は5人。語り手となるのは、ひょんなことで知り合った主人公・権正さとみ(椎名慧都サン)と同じ大学に通う男子大学生・宮知一郎(宮地洸成サン)。主人公は不自由なく育った普通の女子大生で、現実は普遍的な設定だが、乱歩小説に登場する建物や出来事を絡めることで奇妙な世界、その虚実をテンポよく描いていく。
    (上演時間1時間30分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は幾つかの木枠箱が置かれており、始めは門柱と低壁のような配置である。門柱と思えた両側に薄っすら「幽霊塔」と「乱歩の話」と書かれており、後ろからライトを照らし文字を映し出す。その真ん中に主人公が立ち、タイトルを表し本編が始まる。後々、壁全体に網と蔦が絡まり、立教大学のシンボルでもあるモリス館〈蔦と時計塔が有名〉を連想させる。

    宮が10年前(2023年⇨2014年)を回想しているような…その時代へ権正が登場する。始まりは大学の側にある旧江戸川乱歩邸を訪れ、その夜 自転車を取りに大学構内へ忍び込んだ日に遡る。そこで出会った宮、清掃員・大月春吉(本多新也サン)、駒込いちこ(木村美月サン)、清掃員室での取り留めのない日々…ここまでが前半の青春記。或る日、さとみが窓から塔…古い時計塔が見えたと思ったが…。
    そして現在、さとみは某企業で働いており、客の江戸豊(小泉将臣サン)の部屋へ…。それを契機に久しぶりに会ったメンバー、それから江戸川乱歩に纏わる話ーー「幽霊塔」が次々と絡んでくる…後半の虚構の世界。彼の作品世界と旧邸という虚実、そして乱歩と親交のあった人物との書簡、性癖等、興味を惹くコトを点描する。そこに木村女史の個人的な思いを込めて、そんな劇作に思える。

    演出は、木枠箱を並べ替え、清掃員室内、路地・塀上、時計塔等 色々な光景を描き出す。箱上を昇り降りしながら歩く、それによって時間と場所の変化を表す。同時に躍動感と心地よいテンポが感じられる。音響(部屋の鍵音)や照明(夜への諧調)といった舞台技術もさり気なく効果的に取り入れている。

    年齢的には少し違うが、映画「スタンド・バイ・ミー」を彷彿させる回想記。大学時代に知り合い、不思議な出来事を共有した”仲間”との甘酸っぱい思い出。映画の郷愁・線路場面は大学<旧江戸川乱歩邸>、事件は<幽霊塔の不思議さ>に重なる。公演…脚本・演出、勿論 演技も良かったが、この映画イメージが重なり過ぎて 斬新さを欠いた、と思えたのが残念(ラストの音楽も含め)。

    そしてエピローグのような…10年の年月を経て、社会人になっても掛け替えのない友人<清掃員、ウエイトレス、大学同窓といった必ずしも同じ環境下にいた訳ではない>に変わりはなかった。そして将来も変わらないだろうと…。友情の証として物語化<小説>する は、まさに本公演そのもの。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/03/03 17:53

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