無償の愛 公演情報 Orgel Theatre「無償の愛」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    なるほど~ 思いの丈をぶつけたといった感じの物語である。女性二人の或る意味 特異な情況を濃密に描いている。物語の面白さは、それをどのように表現するかがカギになる。少しネタバレするが、そこに登場しない同じ名前の女性<2人>を それぞれ1人二役で立ち上げることで、悩み苦しむ今の状況を描き出す。勿論 違う人物を表現するため 細かい仕草<外見含む>や別人としての性格<演技>が求められる。そのため、現に登場しているミヅキ(阿久澤菜々サン)とイツキ(伊藤梢サン)には、或る設定をしている。二人の演技力は確か、その設定によって更に明確な別人が立ち上がり、それによって奇妙な関係が鮮明になる。全体としては「無償の愛」ならぬ「無性に会い」たい といった印象である。

    物語は、病院の休憩室で出会った清掃員のイツキと看護助手のミズキの奇妙な会話が 漂流するように展開していく。互いに抱えるジレンマがいつの間にか錯綜し、それによって問題が複雑化したり単純化したりする。その揺れる想い…可笑しみと感傷的という絶妙の心情を織り込んだ珠玉作。
    (上演時間1時間10分) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は中央奥に屏風のような衝立、その前に横並び椅子とテーブル、上手にベット、下手にカウンターがあり、縫いぐるみ等の小物が置かれている。その小物は全て劇中で使用する。病室内の休憩室という設定であり、二人の会話劇としては十分なセットである。

    物語は、ひょんなことで知り合い 自然と心を通わせていく過程が微笑ましくもある。そのうち、読み書きが出来ない清掃員 イツキと同性愛者で看護助手 ミズキの思うようにならない日々、その鬱積した それぞれの思いをぶつけ合う様な会話へ変転し切なさが溢れ出す。その〈人物〉設定の妙と情況が秀逸である。
    イツキには10歳になる娘サラがいるが、事情があって一緒に住んでいない。その娘がもうすぐ10歳の誕生日を迎えるのを心待ちにしている。一方 ミズキは同性の恋人サラがいたが、自分が看護師を目指すことによって、別れを告げられた。或る出来事を契機に、二人はそれぞれが抱える秘密を打ち明けることになり、図らずも自分自身と向き合うことになる。「なるほど」は、劇中 ミズキが頻繁に発する言葉で、自分を納得させ 他者を肯定〈共感〉するかのようだ。

    知的障害のようなイツキのピュアだが、どことなく危うい言動と行動。ミズキの知的で思慮深さを思わせるが、精神面では脆さも見える。人は完ぺきではない、その揺らぐような心の彷徨と咆哮、それを瑞々しく描いている。共通しているのは、葛藤を抱えながらも前進しようとする〈日常の〉姿。静かな心の交流を観せつつ、冷徹な観察眼によって ぎこちない感情の機微を丁寧にすくい上げる、そんな描き方が上手い。

    一人二役は、髪の毛を結う 梳くことで、サラという娘や恋人という別人を表す。移動しながらさり気なく別人格を立ち上げる。このサラや入院患者、その観えない人物との関係〈演技〉が巧い。
    どのような生い立ちで境遇なのか、そこは説明を省くことで理解することが難しそうな〈気になる〉過去を観客の想像力に委ねる。本作は今を切り取り、人が人とどう繋がりをもち、どう生きていくかといった未来を描いている。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/03/05 16:23

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