うさぎライターの観てきた!クチコミ一覧

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この道はいつか来た道

この道はいつか来た道

舞台芸術学院

駅前劇場(東京都)

2019/10/11 (金) ~ 2019/10/19 (土)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/10/13 (日) 15:00

これはひとつのラブ・ストーリーではないか。
優しく切なくて、焦がれるような、諦めきった、奇妙な愛の物語。
平岩紙さんのやわらかな声が、儚い夢と現実の間を行き来する。
金内喜久雄さんはかき混ぜながら、それをゆったり包み込んでいる。
ラブ・ストーリーは、リアルな現実を突きつけて突然終わりを告げる。

ネタバレBOX

舞台中央に電信柱、足元には汚れた青いポリバケツ。
「この道は いつか来た道・・・♪」という歌声が聴こえて来る。
登場した女はポリバケツに場所を譲ってもらって、そこへ段ボールを敷く。
続いて登場する男と一緒にお茶の時間を過ごすうちに
男は「結婚しよう」と言い出す・・・。

やがて2人がホームレスであること、
実は旧知の仲であること、
7年前にホスピスから逃げ出してきたこと・・・が判明する。

この“偶然知り合ってお茶を飲むうちに結婚を申し込まれる”という
ストーリーを、2人はもう何度も繰り返している。
恋愛において最もエキサイティング且つロマンチックな最初の1日。
幸福と可能性に溢れていたあの1日を、リピートし続ける。

ホスピスで死を待つより、「いつか来た道」を何度も辿るという選択。
父も母も、ホスピスで先に逝った夫も通った道を、自分も通るのだという諦念。
そこにあるのは「死に方」にこだわった結果「生き方」にこだわる姿だ。
ホスピスで得られるはずの“穏やかな死”を手放し、
ホームレスになってまで手にしたかったもの、
それこそがたぶん彼らの生きる意味だ。

彼女の浮世離れした上品で丁寧な物言いの反面、決定権を握っているらしい頑固さ。
それを全て受け容れて、彼女の望みを叶えてやろうとする男の包容力。
それぞれのキャラにぴったりはまった二人の役者さんが素晴らしい。
だから、ラストシーンが一層満ち足りたものに見えるのだろう。





国粋主義者のための戦争寓話

国粋主義者のための戦争寓話

ハツビロコウ

小劇場 楽園(東京都)

2019/09/24 (火) ~ 2019/09/29 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/09/27 (金) 19:00

“人は信じるもののために人を殺す” だが
“信じるものを持たずに人を殺した“者は究極まで追いつめられる。
この兄弟を見ていると、信じる力と心の強さを思わずにいられない。
重苦しいが、緊張感の途切れない展開が素晴らしい。
良い意味で、役者陣の熱さにひきずられ、翻弄される2時間。


ネタバレBOX

地下の劇場に入ると、セミ時雨と強い藁の匂いにむせ返りそうになる。
まるで東南アジアの密林にある小屋の中のようだ。
藁に覆われた床と一段高くなった寝台のようなスペース、粗末な木の台。
破れてボロボロになった日の丸。

冒頭、自分の腕にヒロポンを打つ少尉。
自分ではなく、兄の方ばかり慕う白痴の妹を卑劣な手段で傷つけたあげく
自殺に追いやったことを、事あるごとに思い出している。
自分の犯した幼く無自覚な殺人から逃れるために、軍隊に入り特攻を志願した。
地上ではなく空に憧れて、だがいまだに飛べないまま、死ねないまま・・・。
彼はまるでセミのように土の上をのたうち回っている。

ヒロシマに原爆が落ちたあと、“木製のロケットで敵機を撃墜する”という
冗談みたいな極秘計画に身を投じるのも、死に時を逸することを恐れたからか。
優秀な大尉である兄が、その計画のリーダーであり、弟の自分を呼んでいると聞き、
命令に従い、わずかな部下を連れて山奥の村へ赴く少尉。
だがそこに先遣隊30名の姿はなく、小屋は荒れ果てていた・・・。

“死にたい男”は理由を求め、日本人として天皇のために闘って散りたい。
平家の落人は“山に住む人食い大蛇”を怖れて近づかずに暮らす。
縄文人の住居跡を発掘した兄、大尉はユートピアを求めてつり橋を渡る。
部下たちはこの中の誰かを信じて、その敵を撃たなければならない。
三すくみのように互いに銃口を向け合った結果、生き残ったのはタイラ村の女二人。
さて、信じるものによって救われたのは誰だったのか?

兄の狂信的な“日本人論”とユートピア構想に、
映画「地獄の黙示録」のカーツ大佐を思い出した。
何かを信じることは狂気の始まりなのかもしれない。
信じなければ人を殺すことなどできないのだろう。

戦争をしたがる人々はいつも信じている。
〇〇のために、闘おう! と。
だが〇〇は、闘うに値するものなのか?
この先何かを信じるためには、まず疑ってかかれ。
そう思わずにいられない作品だった。


誰そ彼

誰そ彼

浮世企画

駅前劇場(東京都)

2019/09/19 (木) ~ 2019/09/23 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/09/19 (木) 19:30

「人は見たいものしか見ない」と言うが「見ようとすれば見える」ということを教えてくれる作品。
ユルいファンタジーかと思いきや、意外にずしんと来るのは
あるある感満載の設定とトコトンリアルな台詞の応酬。
特に兄と弟のそれはハラハラするほど緊迫感がある。
弟がこの先背負っていくものを思うと、その重さに押しつぶされそうになる。
そう思わせるラストを含め、ストーリー展開が秀逸。
キャスティングがうまくハマった役者陣も素晴らしい。

ネタバレBOX

客入れの間、ドリフの“ババンババンバンバン♪”など
昭和の流行歌っぽい曲が流れている。
舞台を大きな白い幕が覆っていて、そこに導入部分のあらすじが書かれている。

久しく実家に寄り付かなかった長男(松本亮)が取り壊しの決まっている実家へ入ると、
そこには5人の妖怪・怨霊(?)たちが肩を寄せ合って暮らしていた・・・。
他に居場所のない妖怪たちは、長男に取り壊しを思いとどまるよう懇願する。
だが、長男が遠ざかっている間に、実家の父はボケて交通事故を起こし入院、
全ての後始末をこなした弟(田中博士)は自分のやり方に異を唱える兄に
「全部押し付けておいて今さら口出しするな」と激しく非難する・・・。

世間的に出来の悪い長男と、優秀で要領の良い次男の対比が鮮やか。
会社を興して一応成功しているらしい次男の、超上から目線が兄を圧倒し続ける。
その次男にくっついてるヨメが似た者夫婦なら良くある話だが
ここではそのヨメが、次第に妖怪たちが見えるようになっていくところが面白い。

この橋渡しがよく効いていて、少しずつ弟の心情が明らかになる。
「見たい父親でなくなったことを認めたくない」切なさ。
妖怪たちが見えない弟はヨメからも非難され、孤立していくが
最後にこの弟を庇って消えていくのはやはり兄だったのだ・・・。

妖怪たちのキャラも魅力的で楽しい。
じいやん(本井博之)のダンディぶりはとても素敵だし、
この家の歴史をすべて見て来た時計の付喪神(成瀬志帆)も凛々しい。
ぎたろー演じる妖怪オーギソヨソヨ(って何なのよ?と思って調べましたよ)が圧巻。
この飛び道具的な妖怪が全てをひっくり返して去っていく。

この、私には想定外のラストが余韻を残して素晴らしい。
自分と妻以外の、他の人からは兄の存在が消去されてしまったという衝撃。
弟はこの先兄をどう記憶にとどめていくのか、父親とどう向き合っていくのか、
妻とどう生きていくのか。
「オヤジの見舞いに行かなくちゃ」という台詞に明るさを予感させる。

あー、でもなー、兄の心情は報われなかった気がするし、
そりゃ弟の記憶の中に生きてはいるけど
オーギソヨソヨってアンタ、何てことしてくれたのよー!
と心が乱れたまま劇場を後にしたのだった。
面白かった。



さなぎの教室

さなぎの教室

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2019/08/29 (木) ~ 2019/09/09 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/09/01 (日) 14:00

“君臨するピンクのスキップ”
2002年、当時世間を騒がせた看護師による保険金殺人事件がベース。
主犯格ヨシダの強力なリーダーシップ、というか押しの強さが
事件を牽引していく。
女装の松本哲也さんに違和感はなく、むしろヨシダの暴力的なまでの
“支配欲”が醸し出す男性性(?)にピタリとはまった感じ。

ネタバレBOX

舞台を挟んで対面式の客席、白いボックス型の椅子だけが数個置かれている。
片側に、舞台をハケた役者が座るスペースが薄い布で仕切られている。

看護学校で共に実習に励んだ4人の仲間。
彼女らの夫は順番に死んで、妻が保険金を受け取っていく。
やがてメンバーの一人の母親にまで凶行が及んだ時、
ついに事件は白日の下に晒される・・・。

物語は、ヨシダの強烈なキャラによってブルドーザーの如く展開する。
貧乏な育ちを嫌悪し、それを金持ちになる権利へとすり替えるヨシダ。
看護学校の仲間が夫に不満を抱いていることに目をつけ、
良き理解者を装って言葉巧みに復讐を正当化し、4人で実行していく。
そして多額の保険金を手に入れる。
医療の知識を駆使した方法で次々と成功を収め、
ヨシダは高級マンションの最上階に住み、他の者は下の階に住むようになる。

貧乏に対する嫌悪感や、金への執着、家族を道具のように扱うことなど
ヨシダの自己の欲望を最優先するその価値観は、強烈でエグいほどだ。
松本哲也さんのハマりっぷりもあって、その存在感があまりに強く
他の3人がかすんでしまうのが難と言えば難だろうか。

圧巻は後半、イシイの母親を襲う手順を確認するシミュレーション場面。
鋭く指示を出す(命令する)ヨシダの声が緊張感を増幅させ
女たちは煽られて本番さながらの攻防を繰り広げる。
“練習”のはずのシーンが、事件の“再現”シーンになる巧さ。

また4人の逮捕後、別居中だったヨシダの夫(朝倉伸二)が裁判で証言したり
マスコミらしき人々の質問の答えるかたちで語る、
あの演出はとても効いていたと思う。

犯罪もののキモである“動機”がヨシダのそれに集中し
ほかの3人のそれが弱くなってしまったことが
この事件のいびつさかもしれないが、若干の消化不良を覚えた。



アイランド

アイランド

イマシバシノアヤウサ

OFF OFFシアター(東京都)

2019/08/01 (木) ~ 2019/08/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/08/25 (日) 18:00

プレビューも含めると26公演の長丁場も残り3ステージとなった日、
疲れを知らぬ鍛えられた声から、切なる咆哮が監獄島に響き渡った。
凄まじいばかりの自由への渇望が、客席の自由ボケした私に降りかかる。
アパルトヘイト下にあるアフリカで「アンチゴネ」を上演する意義、
それも監獄にいる者が演じる意義の重さがビシビシ伝わって来る。
人間のアヤウサを見せつける芝居に圧倒された1時間15分。

ネタバレBOX

客入れの時から、街角の雑踏のような音が流れている。
後から思えば、これは囚人たちが焦がれて止まない“自由な空気”が奏でる音だ。
舞台中央、一段高く粗末な木製の寝台らしいスペースがある。
舞台の周囲を一面に囲むのは銀色のシート。
奥の方から風を吹き込んでいるのか、ふわりと持ち上がるとシャリシャリ音がする。
それは彼らの過酷な労働の現場である、灼熱の砂浜の音だった・・・。

1991年まで続いた南アフリカのアパルトヘイト。
身分証明書の携帯に反発してそれを燃やしたウィンストン(石橋徹郎)は
終身刑を言い渡され、この監獄島に収監されている。
囚人を精神的に追い詰める単純な苦役を強いられる日々、
救いは同室のジョン(浅野雅博)とのたわいない会話。
ところがある日、ジョンの刑期が短縮され、あと3か月で出られることになる。
弁護士の嘆願書が功を奏したのだという。
興奮して眠れないジョン、激しい葛藤に悩まされるウィンストン。
やがて刑務所内の演芸会で、二人は芝居をすることになる。
「法」と「生きる意味」をかけて渾身の「アンチゴネ」が幕を開ける・・・。

理不尽な制度に立ち向かう怒りと無力感。
行き場を失くした怒涛の感情がほとばしる「アンチゴネ」だった。
ウィンストンが最初に衣装を着けた時、ゴツイ男のアンチゴネ姿に
私も思わず笑ってしまった。
だが演芸会本番の時は、もう笑うどころではなかった。
人間の尊厳を踏みにじる「法」を敢えて破り、
「私は有罪だ」と胸を張るアンチゴネは、もはやギリシア神話の高貴な娘ではない。
肌の色で人間を差別する、いや世界の全ての差別に対するアフリカの問いかけだ。
「法」とは何か?
「生きる」とは何か?
「芝居」とは何か?
「絶望」とは何か・・・?

ラスト、二人が足枷で繋がれながら走るシーンが、
こんなものに潰されてなるものかという、
人間の誇りを象徴しているように見えた。


夢ぞろぞろ

夢ぞろぞろ

EPOCH MAN〈エポックマン〉

シアター711(東京都)

2019/08/07 (水) ~ 2019/08/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/08/08 (木) 19:30

なんという二人芝居!この舞台美術、繊細さと大胆さ、沈黙と歌、緩急のタイミング、
全てが素晴らしく、熱くて温かい。
田中穂先さんとの掛け合いも見事の一言に尽きる。
アイデアてんこ盛りの舞台に、才能とチャレンジ精神が詰まっている。
ひとり芝居の時よりも“受けの芝居”が出来る分、世界観の広がりを感じる。
秀逸な舞台装置に一瞬ドリフの舞台を思い出したが、大いに笑ってしんみりして
ラスト、この泣かせ方はずるい!
それと小沢さん、足きれいすぎです。

ネタバレBOX

会場に入ると舞台上手寄りに四角いキューブ状のセット。
駅の売店の面がこちらを向いていて、たくさんの商品が並んでいる。
上の方に書かれた「KIOKS」のつづりが笑わせる。
90度回ると隣の面は駅のベンチ。
その隣は中学校の校舎で、窓が空いている。
そしてもうひとつの面は、売店のおばちゃんが出入りするドアだ。
この四角いキューブがぐるぐる回って場転するのが秀逸。
人力で回るのを観ると、何だか昔のドリフの舞台を思い出して楽しくなる。

会社に行こうとは思うのだけれど電車に乗れなくて
いつまでもホームにいる男(田中穂先)と
売店で働くおばちゃん(小沢道成)の二人芝居。

何を聞かれても答えるおばちゃんと、聞かれたくないことだらけの男。
中学の時の初恋の思い出に男を巻き込んで盛り上がるおばちゃん。
ふらふらと電車に近づく男の手をしっかり握って我に返らせるおばちゃん。

会社の期待に応えられないのではないか、と不安になったら
応えられない自分の未来に絶望して、自分の存在すら危うくなっている男に
「私には私のことしかわからないから、私のことを話すわね」と言って
初恋の彼は目の前で電車の事故により死んでしまった、それがこの駅・・・
と語るおばちゃん。
その時の自分の行動から「人は自分のことしか考えないもの」と言うおばちゃん。
笑い満載の物語の中で、衝撃的で痛くて切なくて一番哀しい場面だ。
周囲の評価の中で生きて来た男は
「明日も乗れないと思うけれど、ここまでは来られる」と言って帰る。

痛みを知る人による“人生の応援歌”というドストレートなメッセージが
潔いほど真ん中に来る。
客入れの時点から昭和のアイドル歌謡曲が次々と流れてレトロな雰囲気だったが
(また私全部歌えるんだな、これが・・・)
おばちゃんの育った時代、今よりずっと人間関係が濃密だった時代を良く表している。

田中穂先さん、初恋の相手を演じる時のパワー全開な熱演と
電池切れのようなサラリーマンとの落差が、振れ幅大きくて素晴らしい。
ふたりのデュエット、最高!

小澤さん、いつもびっくりさせてくれる舞台に期待大だったが
設定からしてやられた感じ、面白すぎだわ。
それなのにこの涙は何だ?!
このラスト一瞬の劇的効果の大きさはどうだ?!

おばちゃんのキャラ、その過去、売店のトイレットペーパー、
テンポよく展開するストーリー、それら全てに飲み込まれる幸福。
夢って日常の中にこんなにたくさんあるんだ、見えていないだけなんだ。
そう気づかせて元気づけてくれる、アリナミンAみたいな舞台。

田中夢子、最強のKIOKSの女・・・。


天守物語

天守物語

少年社中

紀伊國屋ホール(東京都)

2019/08/02 (金) ~ 2019/08/12 (月)公演終了

満足度★★★★★

圧倒的なジャパニーズ・ダークファンタジーの面白さ!
力のある役者陣が、ファンタジー度を上げた脚色で
緊張感溢れるストーリーを繰り広げ、息つく暇もない。
衣装の美しさ、シャープな立ち回り、良く通る美声と
目にも耳にも麗しい舞台だった。
人も妖(あやかし)も何と弱く哀しいのだろう。


ネタバレBOX

舞台は白鷺城の天守閣、ここには巨大な獅子頭を祀る妖(あやかし)が棲んでいる。
殿さまの言いつけで鷹を追って来たひとりの若武者がここへたどり着き
美しい妖の富姫と出会い、恋に落ちる。
人間と妖の交わりは許されず、二人の種を超えた思いは絶望の色濃く・・・。

若武者図書之助の父もまた、かつて富姫に心を奪われ家族を捨てた過去がある。
妖は人間を殺すと鳥になる、鷹もまたかつて憎い人間を殺めて鳥になった。
もがきながらも心のままに生きたいと願う図書之助の弟の存在。
といったエピソードが自然な流れで組み込まれており
ストーリーに膨らみを持たせている。

しがらみに捉われてもがく人間と、心のままに生きる妖。
天変地異を妖のせいと思い込んで、妖を目の敵にする人間の愚かしさ。
それらがくっきりと浮かび上がってとても解りやすく感情移入させる。
登場人物のキャラに奥行きがあるのは役者陣の力だろう。
群舞の力強さ、衣装の美しさも楽しませてくれる。

富姫役の貴城けいさん、きりっと伝法な一面と恋する女の艶、
両面を鮮やかに演じ分けて大変素晴らしい。
図書之助を演じた廿裏裕介さん、久しぶりに涼やかな若侍を観た感じ。
誠実な、それゆえに禁断の恋に突き進む姿が清々しい。
薄役の堀池直毅さん、美しい姿勢で硬軟併せ持つ魅力的なキャラを表現。
鷹役の納谷健さん、素晴らしい動きで強靭な意思を持つ鷹を演じた。
舞台上にいる間は、常にこの鷹の動きに目を奪われた。

ラスト、「視力を失って生きていても苦しいだけ」と嘆くふたりに
獅子頭の化身のような、飲んだくれの近江之丞桃六(北村諒)は
「生きることは苦しむことだ」と目を治して背中を押す。
なぜ生きるのか、なぜ苦しいのに生きるのか、それに対する明確な答えを
2人に告げ、その結果二人は苦難の道を共に歩む覚悟を決める。
この舞台の強いメッセージとなって心に残る。




Vol.1「Beautiful Losers」

Vol.1「Beautiful Losers」

劇団マリーシア兄弟

Geki地下Liberty(東京都)

2019/07/25 (木) ~ 2019/07/28 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/07/28 (日) 17:00

アイドルのライブが行われる劇場の控室に、マネージャーや社長、
プロデューサーや次の脚本を依頼する作家などが集まって来る。
そこは、叶わなかった夢や、いまだ追い続ける夢、そして新しい夢の
交差点でもあった・・・。
脚本・演出がいつものマリーシア兄弟の三三三三ではなく大浦力になっている。
それが意味することは定かではないが、今までの脚本の中で一番良かった。
劇中、作家が目指す演劇を語る台詞は、そのまま大浦氏の目指すところだろう。
不器用な男たちのぶっきらぼうな“仲良しぶり”が嫉妬するほどいいなと思う。

ネタバレBOX

いつもながらテーブルと椅子が数脚のさっぱりした舞台。
ここはアイドルのライブが開かれる劇場の控室。
アイドルグループのメンバーたちはひとつの事務所に所属しているのではなく
いくつもの事務所が何人かずつアイドルを出し合って構成されている。
その事務所のマネージャーや社長たちの中に、元役者が2人いた。
アイドルグループのプロデューサー(狩野健太郎)は
劇作家の国定(大浦力)に脚本を依頼している。
アイドルグループのメンバーに芝居をさせたいと考えているのだ。
訪れた国定を見て驚きの色を隠せない元役者の友哉(佐々木祐磨)と真人(森山匡史)。
かつて2人は国定が主宰する劇団のメンバーだったのだ。
あるとき国定は誰にも相談しないままフランスへ旅立ち、
後は鷲尾(竹田茂生)が引き継いだものの、その後劇団は空中分解してしまった。
ギクシャクする国定と2人、間に入る鷲尾・・・。
不器用な男たちが素直に自分をさらけ出して再び共に転がり出すまでの物語・・・。

大所帯になっても男だらけ、今度もやっぱりマリーシア!
“変人”大浦、じゃなくて国定の演劇論がアツい。
フランスで喧嘩を売って仕事を干され、日本に戻って来た、という
いきさつからも解るように、淡々と語りつつその演劇論はある意味過激だ。
それがマリーシアの主宰としての大浦氏の信念と重なって超リアル。
伝えたいことが明確な分、無駄を省いた台詞が効果的に刺さる。
“日常の一部”を芝居にするのは実は最も難しい。
何でもない普通の会話をそぎ落としてメッセージを伝えるには
リアルなぐだぐだと鋭いキメの台詞の両方が必要で、
今回そのバランスがとても良かったと思う。

また客演の竹田茂生さんが持つこなれた雰囲気が業界らしさをアップ、
この方の台詞で出入りの多い舞台が落ちつく。
だんだん飛び道具的領域に達して来たキヒラさん、
今回も困ったファンクラブ会長がドンピシャで噛んでも噛まなくても面白い。
キャラの面白みが存分に活かされていた。

いつもと違う、と思って良く見たら佐々木祐磨さんの髪が黒い!
金髪が多いこの方が黒い髪にしたら、無理して自分らしさを押し殺している
友哉というキャラにぴったりと重なり、効果絶大。
キレの良い台詞も相まって真人役の森山さんと実に良いコンビネーション。

狩野健太郎さんが衣装のスーツ姿で客席への誘導をして下さってびっくりした。
実は物わかりの良い人間味あふれるプロデューサー役がとても合っている。
アテ書きの良さもあるが、職業に自分を落とし込むのは役者の作業、
それがとても上手くいって“らしさ”が自然に出ていた。

あとはせっかくの厳選した台詞を役者がどこまで咀嚼するかだろう。
日常会話だけに、細部を伝えられなければメッセージ力は半減する。
台詞量に負けず、より“メッセージを伝える”精度を上げて欲しい。
照明や音響に頼らないということは、役者だけが頼りということだ。
脚本のレベルが上がり、観客の期待度も上がる。
高くなったハードルを越えるには、作家と役者が
同じ高さまでジャンプする必要がある。

マリーシア、これからもっと面白くなる劇団だと思う。
次も楽しみにしています。
「明日も頑張ろう」と思えた舞台でした。



大洗にも星はふるなり

大洗にも星はふるなり

ブラボーカンパニー

駅前劇場(東京都)

2019/07/17 (水) ~ 2019/07/23 (火)公演終了

満足度★★★★

再演を重ね映画化もされた、今や売れっ子福田雄一氏脚本・演出の作品。
クリスマスイブの日に、かつてバイトで一緒に働いた男たちが海の家に集結。
個性あふれる7人が魅力的で、予想の展開も心地よい安定感になる。
最後はちょっと予想外で、これまた温かくほろりとさせるあたり巧い。
大洗の海の家は、毎年帰りたくなる“みんなの家”だった・・・。

ネタバレBOX

8月31日を以て終了、取り壊すはずの、大洗にひとつポツンと残る海の家。
ここにクリスマスイブの日、かつて共に働いた6人の仲間たちが集まってくる。
彼らは全員、同じ女性からの手紙を手に期待を膨らませていた。
その女性、エリカちゃんと、クリスマスデートこぎつけるのは一体誰か?
取り壊し手続きのために現れた弁護士も加わって
誰が一番「好きか」「好かれているか」の検証が始まった・・・。

想定内の展開ながらその安定感が心地好いのは、丁寧なキャラ設定のおかげ。
誰もがエリカちゃんとの幸せなエピソードを持ち、
だけど一歩踏み出せなかった後悔を持ち、
だから今度こそはという意気込みを持って来ている。
最終的に一人に譲る優しさを持った男たちが清々しい。

皆さん熱演でこなれ感もあり、安心して観ていられる。
前回公演にはいなかったという保坂聡さん、後半登場して
一気にストーリーを動かす美味しい役だが
朴訥な感じが功を奏して好感度がぐんと上がる。

来年もここ大洗で、彼らが集結してひと夏を過ごせますように。
その時一人も欠けることがありませんように。
そう祈りたくなる舞台だった。

あんたのことなんて誰も見てないツアー2019

あんたのことなんて誰も見てないツアー2019

MCR

OFF OFFシアター(東京都)

2019/07/16 (火) ~ 2019/07/17 (水)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/07/17 (水) 19:30

劇団員、元劇団員と客演の皆さんが劇団の歴史を語り、再現しながら
劇団員の秘密をばらしまくる、という
罵詈雑言飛び交う実にMCRらしい25周年特別公演だった。
個人的には、本番前に緊張のあまり泣いてばかりいた伊達さんが
こんなに櫻井さんを罵詈雑言でいたぶることが出来るようになったなんて
本当にその成長ぶりが頼もしく嬉しい(^^♪

ネタバレBOX

劇団結成のいきさつや存続の秘話、黒いつながり、修羅場、などが
「私小説風」に語られて行く。

挨拶で「SNS等で拡散しないでください」と呼びかけるような暴露話の中には
時の流れが解決してくれたこともあっただろうが
結構大変だっただろうと思われることも…。
リアルで爆笑連続のエピソードの数々を超えて
いまだにメンバーとして活動しているのは
ひとえに「演劇が好き、櫻井さんが好き」という事なんだろうな。
だってそうとしか思えないんだもの。

櫻井さんのいい加減でちゃらんぽらんな人となりが見られて楽しかった。
これは大切なことで、真面目なきちんとした人なら公務員にでもなればいい。
アブナイ橋を渡って来たからこそ書ける芝居があるはずで
それがあのピリッとした緊張感が走る台詞と間になるんだなあと思った。
おじいさんになった櫻井さんが書くものを観てみたい。
伊達さんも堀さんも観たい!
25周年、おめでとうございます、これからもっずっとMCR。


男女逆転〈マクベス〉

男女逆転〈マクベス〉

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2019/06/20 (木) ~ 2019/06/30 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/21 (金) 19:00

逆転するのは性別ではなく、その役割。
つまり女が戦い、男は家を守る。
冒頭から武器を手にした女性たちが登場、斬新な感じはするが
若干の物足りなさは、いかんともしがたい線の細さから来るのかも。
魔の者の動きなど演出が面白く、目が離せないシーンが多い。

ネタバレBOX

言わずと知れたシェイクスピアのマクベス。
スコットランドの将軍マクベス(関谷美香子)とバンクォー(小山萌子)は、
ノルウェー軍を討伐してダンカン王(有希九美)の陣営へ戻る途中、
魔の者たちから予言を受ける。
「マクベスはコードーの領主、ついで、スコットランド王となる」
「バンクォーの子孫が王になる」
その直後王よりの使者が、マクベスがコードーの領主に格上げされたことを
伝え、予言が現実味を帯びる。マクベスは王位への野望を抱き始める。
予言に導かれるようにマクベスはダンカン王を殺害して王位に就くが、
バンクォーの子孫が王になるという予言が恐ろしく不安に駆られる。
やがてバンクォーをも殺害したマクベスは、彼女の幻影に苦しめられ、
気弱なマクベスをさんざん唆して来た夫(奥村洋治)もまた狂気の果てに死ぬ。
ダンカン王の2人の子どもはそれぞれイングランドとアイルランドへ
逃亡していたが、イングランドの援軍を得て、
マルカム(北澤小枝子)が復讐に立ちあがる。
そして魔の者の予言に踊らされたマクベスはついに討ち取られる・・・。

ストーリーが面白く、テンポも良いのでやはり引き込まれる。
戦う女たちは凛々しく威厳もあるが、どうしても線の細さが頼りなく
舞台全体が華奢になった印象を受けるのは私だけだろうか。
戦い慣れ、殺陣慣れしていないせいかもしれないが。

マクベスの夫の、強気だが次第に壊れていく様や
魔の者たちの邪悪な表情が良いスパイスで全体を引き締める。
魔の者たちの動きがとても効果的な演出で目が離せなかった。

アフタートークの「公開ダメ出し」で古城氏の言うことが良く理解できた。
キャストと演出家の信頼関係が出来ているからこそできるのだろうが
チームの雰囲気の良さも伝わって来て面白かった。

それにしてもやはりシェイクスピアの台詞は素晴らしい。
色々な人がいろいろな演出で口にしてみたくなる台詞なのだろう。




THE NUMBER

THE NUMBER

演劇企画集団THE・ガジラ

ワーサルシアター(東京都)

2019/06/18 (火) ~ 2019/06/23 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/19 (水) 19:00

導入部分が判りにくいので、入り口が見つからずに周囲をうろうろする感じ。
だが一旦入り込めば、途切れない緊張感と迫力が素晴らしい。
自由と引き換えに「幸福」を手にしたはずの集団「われら」の中に
少しずつ疑問を抱くものが現れ、周囲に影響を及ぼしていく。
その葛藤と疑心暗鬼が強い緊張感を呼ぶ。
田村真帆さん、ステージごとに疲労困憊じゃないかというほどの熱演。
緩急自在の千葉哲也さん、およそ管理社会に不似合いな
得体のしれない男にドンピシャでハマりすぎ。
コントロールしようとすればするほど、本能は頭をもたげるものだ。

ネタバレBOX

客席に入ると、舞台上、既に一人の女性が椅子に座っている。
目隠しをされ、長い鎖に繋がれているその手には1冊の手帳。
この手帳に書かれた内容、つまりこの女性が見聞きした事実が
これから再現されるのだ。
200年戦争で人類の大半が死滅した世界、優勢遺伝子のみを残すため
グリーンウォールと呼ばれる壁で囲った世界で生きる人々。
ナンバーで呼ばれ、ホルモン注射で老いを知らず、体外受精で子孫を作る。
そしてこの女性D503は、ジャッジメントと呼ばれる裁判の判決を待っている。
壁の外にいる“古代人”と同じように“本能”に従って行動した罪で・・・。

もう1000年も壁の内側で生き続ける管理社会の人々。
安全と進化を優先した管理社会では「個」は罪であり、反論する者は排除される。
インテグラルと呼ばれる管理システムとその中枢は神の如く絶対だ。
モニターをOFFにすれば大丈夫と信じて本音をさらけ出していたのに、
実はOFFにしてもインテグラルに筒抜けだったという衝撃は、
そのまま当局が“古代人の本能”をいかに恐れているかを物語る。

信頼と裏切り、進化と古代人、そして「自由」と「幸福」。
共存できないもの同士がせめぎ合う様は緊張の連続だった。
D503(科学局)役の田村真帆さん、緊張と警戒心でいっぱいの台詞が
この社会の息苦しさを体現している。
S4711(幸福局)役の岩野未知さん、柔らかさとしたたかさを併せ持つ
一筋縄ではいかないタイプを魅力的に演じている。
そしてI330(宇宙局)役の千葉哲也さん、本心はともかく
本能的にサバイバルしながら生き抜く強烈な男が印象的。

「原子レベルから消滅」か、「両眼を失って老いて行く」か、
私ならどちらの罰を選ぶだろう?
ONとOFFのセレナーデ

ONとOFFのセレナーデ

ことのはbox

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2019/06/05 (水) ~ 2019/06/09 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/06/06 (木) 19:00

チャットの会話のテンポと、テーマのある種“薄暗さ”が実に好対照。
次第に明らかになる「ヤリタイ」の仕事、そして彼のキャラの意外な激変。
切なく下世話なONとOFFのバランスの上に
自分も立っているのだと考えさせられた。
最後に役者が挨拶を終えて舞台を降りる時まで、物語は続いていた・・・。

ネタバレBOX

下手側、ひとりの男が、デスクのパソコンモニターに向かっている。
舞台正面には二つの窓。
チャットの相手が二人、こちらを向いてキーボードを打っている。
暗闇の中、3人だけが浮かび上がって
カタカタという軽く切れの良いキーボードの音、
打っている内容が台詞になってポンポンと会話が弾む。
今度オフ会で初めて会おうという計画を立てる3人。
最近参加してこない「シタイ」がオフ会に来るかどうかを気にしている。
ここは、デスクに向かっている男、ハンドルネーム「ヤリタイ」の職場。
彼は、病院と契約している葬儀社のスタッフとして院内の一室で待機している。
次に死にそうなのは誰か、リストを見ながらただ待ち続ける。
だがよりによってオフ会の日、葬儀が入り「ヤリタイ」は会場に向かう。
そこで彼が目にした光景は・・・。

オノ・ヨーコの歌の歌詞がヒントになるミステリー仕立ての展開が巧い。
次第に明らかになる緊張感と、差し込まれるチャットの軽やかさが対照的。
ちょっと他人のプライバシーに踏み込み過ぎるキライはあるが
知りたがり屋の本性を隠さず行動すればこういう事か、とも思う。

「ヤリタイ」のクールで人間関係に距離感を置くキャラ、
「人の死」が利益をもたらすことに対する後ろ暗さも感じるが
並行してマージンのための交渉を持ちかけるしたたかさもある。
それらとチャットでの明るく率直な一面とのギャップがとても面白い。
ここには、ひとの心の二面性、現実と仮想空間、表と裏、生と死、
全てのものが背中合わせに共存する、私たちの日常が描かれている。

観ている私も、「ヤリタイ」のバックグラウンドが明らかになるにつれて
彼の思考に近づいて行くのが不思議だ。
ただラスト、「ヤリタイ」の選択の急激な転換には若干“力技感”を覚えた。
だからと言ってどうすればいいのかはわからないけれど。

「ヤリタイ」と「シタイ」の舞台挨拶後のハケ方が心に残る。


そんなの俺の朝じゃない!~再び~

そんなの俺の朝じゃない!~再び~

ライオン・パーマ

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2019/05/15 (水) ~ 2019/05/19 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/05/16 (木) 19:30

定年を迎える火山火山(ひやまかざん)はその名の通り
火のように熱い思いを持つ男。
人生無遅刻で生きてきた彼が定年を迎え、最後の出勤の朝となる。
スケールの大きい家族愛と、スケール大きすぎる出勤手段。
それをアナログ感満載で表現するこの劇団のテイストが楽しい。
もはや飛び道具の域を超えているヅカが最高!

ネタバレBOX

その昔、女が自分でなく火山(橋本一郎)を選んだことを恨み、
火山の無遅刻記録達成を阻止しようと暗躍する男(加藤岳仁)。
彼の息子(瀬沼敦)や火山の行く先々に現れるオジサンの妨害にもめげず
火山は最後の無遅刻出勤へと出発する。
父の偉業を応援するべくはせ参じた4人の子どもたち、
そして「真面目なだけじゃダメ。先が読めない男がいいのよ!」
という理由で火山を選んだ妻(まじまあゆみ)や、
謎のキオスク嬢とその一家の応援を背に受けて、火山は行く・・・。

3人の息子と1人の娘(美那瀬)、その娘のヅカ度が高くて素晴らしい。
かねてヅカぶりは定評があったが、一層進化を遂げている。
出て来るだけで楽しいし、振り切れ具合が半端ない。
美那瀬さん名前、「オスカル」に変えてもいいんじゃないか?
「釣りはいらん、取っておけ、平民!」とか
私もいっぺんタクシーの運ちゃんに言ってみたいわ。

男の価値観とこだわり、そのレベルと表現方法は数々あれど
大切なものを傷つけてまで貫きたいとは思わない、という
火山の潔さは観ていて小気味よく、爽快。
「そんなの俺の朝じゃない」という彼はとても魅力的だ。

ところどころに差し込んでくるギャグも効いている。
加藤さんの転がるような(?)台詞回しも相変わらずで
この劇団の安定した実力を堪能した。

死んだら流石に愛しく思え

死んだら流石に愛しく思え

MCR

ザ・スズナリ(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/15 (水)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/05/10 (金) 19:30

初演も観たがやっぱりすごい芝居だ。
あの目、あの迷いの無い台詞、殺人鬼の2人が素晴らしくて
思わず感情移入しそうになる。
刑事とのやり取り、一体どんな風に稽古するんだろう?
たたみかける櫻井刑事の罵詈雑言と
私の好きなほっぺぶるぶるさせる熱い堀さんにしびれた。

ネタバレBOX

自宅で売春しながら女装させた息子にそれを見せるという
そんなクズ母の元で子どもがすくすく育つわけがない。
どんな風に育つかというと、川島(川島潤哉)のようになるんだな。
その母親を皮切りに、川島は殺人を重ねていく。
一方奥田(奥田洋平)は快楽殺人タイプ。
天使のように純粋な奥田の妹(後藤飛鳥)と2人の殺人者は
町から町へ、人を殺しながら旅をする。
だがやがてそれが崩壊する日が来る・・・。

同じ殺人者でも全くタイプの違う2人。
登場しただけですべてを語っているような、奥田の目つきが素晴らしい。
思考を素通りして、殺人という行為に直進する異様さを見せつける。
さらにそれを隠そうともせず、刑事らと会話する姿にハラハラする。
直接的な場面よりもはるかに緊張感がある。

川島の悲惨な生い立ちと、歪んだ価値観には大いに同情する。
怒りと失望の行き場が「殺す」ことにしか見いだせない川島は
大切な人までも手にかけてしまう。
彼が思いとどまって殺さなかったのは、友人堀(堀靖明)だけだ。

今回改訂版として“ほぼ新作”のよう、と謳っているが
あまり根本には影響していないと思う。
元が強烈なので、周囲をいじっても根幹に変化はない感じ。
唯一、殺されなかった堀が面会室で川島と向き合う場面、
あれは良かったと思う。
「どうして俺を殺さなかったんだ?」と尋ねる堀に川島は答える。
「堀君の中の自分を殺すような気がしたから」

堀はただ一人、異常な自分の中に残された「普通の、健全な部分」を見ていた。
もはや「普通の自分」は、堀の心の中にしか存在しない。
堀を殺すことは、その自分までも殺してしまうことになるのだ。

奥田と川島が二人で、大きな包みをテーブルに置いたとき、
中から人間の首がたくさん出て来るような気がした。
が、転がり出てきたのは、大量のグレープフルーツだった。
ふたりはそれを片っ端から貪り食う。
享楽の果ての結末が、果実の苦味に重なる印象的なシーンだった。

川島が奥田と決定的に違うのは、殺人に喪失感を伴う事ではないか。
殺人者としては致命的な弱点かもしれない喪失感は、そのまま孤独につながる。
それはラストシーンに端的に表れている。




ハッピー・new・メリークリスマス

ハッピー・new・メリークリスマス

劇団マリーシア兄弟

Geki地下Liberty(東京都)

2019/05/09 (木) ~ 2019/05/12 (日)公演終了

満足度★★★

鑑賞日2019/05/10 (金) 15:00

罪状も理由も違う6人の囚人たち。
そのうち4人が、会いたい人に会いに行くため脱獄を計る。
でもだからって穴を掘るとは・・・とってもクラシック(笑)
伝説の大泥棒の謎解きと、テンポ良く繰り出される台詞が魅力。
あと少し台詞を絞ったら、もっとキャラが立って
光る台詞がいくつもあったのが惜しい。

ネタバレBOX

真黒な布団と枕が並んだ大人の修学旅行のような部屋。
どこか古風な名前を持つ6人の囚人のうち、
4人は今日も脱獄目指して穴を掘っている。
中でもスリ(佐々木祐磨)は、毎年4月1日には
脱獄してママに会いに行くと決めている、リーダー格。
彼に従うのは逃がし屋(キヒラユウキ)、結婚詐欺師(貝原伶)、
こそ泥(土屋洋樹)、と若干小物感漂うちょっと危うい3人。
そこへサンタの格好をした模範囚の空巣(大浦力)が登場。
冷やかに見守る金庫破り(森山匡史)は「やめとけ」と言うが
果たして脱獄は成功するのか・・・?

佐々木祐磨さんの台詞はテンポもキレもあって説得力がある。
強いキャラが中心になって周囲が絡みやすくなっているのを感じた。

伝説の大泥棒の存在がとても面白かった。
映画「ユージュアル・サスペクツ」の絡みも効いている。
足を引きずっていた彼が次第に普通に歩いて行くラストは
広いスペースでゆっくり魅せて欲しかった気がする。

愛すべき6人の囚人たちが、何故犯罪者になってしまったのかを
ニックネーム→罪を犯した理由→捕まった理由→脱獄の理由・・・みたいに
ストレートなプロフィール紹介の方が、一人ひとり印象に残ると思う。

囚人たちの一つひとつのエピソードに、何らかの形でカイザーが関与しており
彼らの人生を狂わせてしまったという贖罪の気持ちから
“脱獄できるのにしない”で彼らを見守っているのだとしたら、
これはもうホロリどころか号泣ものだ。
金庫破りの森山匡史さんがキャラにはまって面白かった。

マリーシアはどんどん面白くなっている劇団で、最新作がいつも一番面白い。
再演するからにはバージョンアップが期待されるような劇団になっている。
ハードルが上がったことを楽しんで、面白いものを書いてください、三三さん!
次の作品も楽しみにしています。







背中から四十分

背中から四十分

渡辺源四郎商店

ザ・スズナリ(東京都)

2019/05/01 (水) ~ 2019/05/06 (月)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/05/04 (土) 14:00

吐露する男、吐露する女、見ず知らずの二人が
背中でつながるまでの謎解きに惹きつけられる。
斎藤歩と三上晴佳、まったくなんて役者だろう!
癒されていくのは彼の背中か、私の背中か・・・?
私の両隣の男性客がボロ泣きしていた。
深い揺さぶりに浸った1時間35分。

ネタバレBOX

東北の場末の温泉地、ホテルの最上階8階の部屋が舞台。
案内されて部屋に入って来た中年男(斎藤歩)は、やたら金払いが良く、
ここで待ち合わせている誰かと頻繁に電話でやり取りしながら
連れの到着を待っている。
やがて待ちくたびれた男がマッサージを頼むと
女将(天明瑠璃子)やスタッフ(山上由美子)が止めるのも聞かずやって来たのは
大いに“ワケアリ”気味なマッサージ師、せつこ(三上晴佳)だった。
ここから命がけのマッサージが始まる・・・。

ホテルの部屋に入って来た時から、中年男の落ち着きの無さ、
自棄になったような金の使い方、無理難題を吹っ掛ける傍若無人ぶりなど
本来の彼とは違うキャラになっているような不自然さが目に付く。
それらが“絶望の果ての決断をした人間”に特有のテンションであることが
終盤、彼が心情を吐露して初めてすとんと腑に落ちる。

これはせつこも同じで、男の吐露に応えるように
せつこもまた問わず語りに心情を吐露する。
今日初めて出会った二人が、互いの絶望に共感した結果
誰にも言えなかった胸の内を吐き出し、共有する。
強烈な共通点が、時間を超えて人を結びつけることを見せつける。

洗練された役も似合いそうな斎藤さんが、
歩き方や姿勢に絶妙なくたびれ感を醸し出していて秀逸。
客と話しながらマッサージするのが身についているかのような
三上さんの自然な台詞回しが素晴らしい。
一体何があったのだろう、という興味が途切れることなく、
というかどんどん大きくなっていく展開の巧さは
畑澤氏ならではの台詞の面白さ、エピソードのリアルさ。

どんなに傷んだひとでも、きっと誰かに救われる。
誰かを救うと自分が救われる。

今日、マッサージしてもらったのは私だ。
背中から癒されたのは、私だったのだ。
ありがとうございました。






疾風のメ

疾風のメ

くちびるの会

吉祥寺シアター(東京都)

2019/04/17 (水) ~ 2019/04/22 (月)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/04/22 (月) 15:00

気弱な男が、自分の能力と向き合い成長していくストーリー。
ラスト、回収しきれないまま終わってしまった感が残念。
たとえ解決できなくても、関わったすべてのエピソードそれぞれの
“その後”が知りたいと思った。
役者さんの隙の無い布陣は素晴らしい。

ネタバレBOX

楠(野口オリジナル)は誰かを傷つけることを怖れて
煮え切らない事なかれ主義になり、そのおかげで
彼女に去られたり、池袋でカツアゲに遭ったり、
介護の職場で損な役回りをさせられたりしている。
その根本には「相手を睨むと風を起こす」という彼の特殊な能力があった。
時に人をひどく傷つけるこの己の能力を、彼は怖れていたのだった。
しかしある日、彼はその力を「誰かを守るために」使うことになる・・・。

華奢な色白王子、野口オリジナルさんが最初から最後まで
きちんと服を着ていることが新鮮!
優柔不断で曖昧な着地点ばかり探っていた彼が、
自分の力と正面から向き合うことで、否定から肯定へと変化していく。
野口オリジナルさんのキャラによく合って
その変化のプロセスがとても面白かった。

落ち度もあったが、誤解も受けて介護の職場を追われる坪井役の
藤尾勘太郎さんが強烈な印象を残した。
リアルな佇まいと、コンビニ店員に転じたのちのクールな言動が
そのキャラをとても魅力的にしている。

すごいんだか困った人なんだか、よく判らない(たぶん両方)
門倉を演じた丸山厚人さんが濃いキャラでこれもまた強烈な印象。

うまくいかない人生の果て、すべてを吹き飛ばす強風を起こす崖っぷちの楠。
自分の目が起こす風に意味など要らない、吹かせればいいのだ。
ラスト清々しい気持ちで風を起こすが、自分の頭と背中に看板が刺さる。
自分の能力のために、結局重い十字架を背負う楠がキリストに見える。

特殊な力と同時に十字架を背負った楠の日常はどうなったのか。
彼女は戻ったのか?職場は変化したのか?
知りたいことはたくさんあるのに「想像してください」かな?
若干消化不良で、「タカさんの結末を見せて下さい」と思った。

どこかポップンのテイストも感じた今回の作品、
なかなか力強いファンタジーであったと思う。




Speak of the devil『DJANGO Ⅴ』

Speak of the devil『DJANGO Ⅴ』

劇団S.W.A.T!

「劇」小劇場(東京都)

2019/04/11 (木) ~ 2019/04/21 (日)公演終了

満足度★★★★★

鑑賞日2019/04/17 (水) 19:30

初めての劇団、フライヤーからもう少し
“ゴシック・ホラー”テイストを想像していたら、
見事に裏切られてとても楽しかった!
ちょっと昭和でレトロな笑いが温かく、大いに笑った。
ジャンゴのキャラが素晴らしく魅力的でいっぺんにファンになった。
難易度の高い笑いを成立させているのは良く鍛えられた役者の振り切れた演技だ。

ネタバレBOX

老人ホーム「おだやかな郷」では日々老人たちがバトルを繰り広げている。
麻雀パイを取り合い、取り合っていたことを忘れ…を繰り返しながら。
その争いの中で一人の老人が呼んでしまったのだ、彼を。
「悪魔に魂を売ってもいい!」と叫んで。

呼ばれた悪魔ジャンゴ(瀧下涼)は、契約書を持ってサインを迫るが
老人たちはいざとなると怖気づく。
そんな中、ジャンゴより格上のライバル悪魔が現れ、契約を横取りしようとする…。

老人役の役者さんがとてもうまく老けていて自然。
こういうところはリアルでないと、全体の説得力が弱くなるから大事だと思う。

笑いのツボも楽しめた、「野グソ」とか。
麻雀の卓から出てきたのには笑った。
閣下が出てきたときも笑ったなあ!
一瞬本物かと思ったわ。

役者陣が皆、迷いなく振り切れていて素晴らしい。
隙のない布陣でシラケる余地がないのもすごい。
とても鍛えられた劇団なのだと感じた。

悪魔のくせに「人助け」
悪魔のくせに「人情家」
悪魔のくせにいいヤツでまた会いたくなる。
ジャンゴ、また冷蔵庫から出てきてね。
あくまでも悪魔として。









R.U.R.

R.U.R.

ハツビロコウ

小劇場 楽園(東京都)

2019/03/26 (火) ~ 2019/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

鑑賞日2019/03/29 (金) 19:00

100年前に書かれた作品だと思うと、その問題提起のリアルさに驚く。設定を現代に置き換えても違和感無い緊張感。予備知識なしだと冒頭のヘレナのハイテンション不安が唐突に感じるかもしれない。終盤、進化したロボットの哀れさが際立つシーンは秀逸。コンパクトな構成で、上手く強調される個所と状況説明の不足が共存する感じ。

ネタバレBOX

ロボットメーカーの社長とスタッフたちが、固唾をのんで何かを待っている。
ロボットたちが反乱を起こし、次々と主要ライフライン系を占拠していく中、
頼みの綱である船が予定通り港に入って来るのを待っているのである。
予定通り入ってくれば、輸送部門はまだ占拠されていない証拠であり、
自分たちはこの島からその船で脱出できるからだ。
忠実だったロボットたちの突然の変化に不安を募らせる社長の妻ヘレナ(森郁月)。
ロボット製造は神への冒涜であり、罰が当たったのだとするお手伝いのナナ(佐藤紘子)。
ところが港は既にロボットたちに押さえられ、社長たちは助かるために
ロボットたちと交渉するしかないところまで追いつめられる。
交渉の切り札となるのは、その製造方法を記した手書きの古いレポートのみ。
これが無ければロボットは今後製造不可能、20年の寿命が尽きれば全て動かなくなる。
だがそのレポートは、さっきヘレナがシュレッダーにかけてしまっていた・・・。

「人間に子供ができなくなったのは、人間が要らなくなったからだ」という
衝撃的な背景が冒頭に語られる。
人工生命体が主になると不要な生命は淘汰されていくという事か。

この作品のロボットはアトムのような“メカ系”ではなく
アンドロイドのような“有機体系”を指しており、より人間に近い構造を持っている。
終盤で明らかになるが、ガル博士(松本光生)がロボットに感情を持つよう
操作したことが、反乱を招いたことが判明する。
つまり「より優れているロボットが、なぜ人間ごときに使われるのか」という
反発と憎しみを抱くようになってしまったのだ。
そしてそれを博士に依頼したのはヘレナだったことも告白される。
”間違いを犯す人間”を体現するかのようなヘレナの揺れが人間性を強調しているよう。

ロボットのリーダーラディウス(井出麻渡)は、
自分の廃棄処分を救ってくれたヘレナさえも容赦なく殺してしまうが、
そのシーンはない。
力強い演説で仲間を鼓舞し、製造方法を入手しようともがく感情を得たラディウスが、
“恩を感じることは無い”という、残った“ロボット性”を
見せつけるシーンが観たかった気もする。

“労働から解放されて幸福になる”ことを目指してロボットを製造したのに
最後はそのロボットに殺され、生き残った人間は建築士(蒲田哲)ひとり。
その彼の前に人間かロボットか区別がつかないような二人が現れる。
互いをかばい合い、自分が犠牲になると申し出る彼らに、
建築士は豊かな感情を持ったロボットの存在を改めて知ることになる。

“ロボットとは何か”という定義はそのまま“人間とは何か”ということだ。
感情を持ち反感と憎しみを覚えたロボットはしかし、
失われた製造方法を手に入れようと必死にもがくようになる。
「命令してください!」と叫ぶロボットは、創造性を持たないことを示している。
人間もロボットも、誰も幸せになれない。
進化したロボットがこの先どうなるのか、答えも未来も観る人に委ねられる。

全てはカレル・チャペックの想像力・洞察力のすばらしさに尽きる。
様々な演出を観てみたいと思わせる脚本だった。

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