R.U.R. 公演情報 ハツビロコウ「R.U.R.」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    鑑賞日2019/03/29 (金) 19:00

    100年前に書かれた作品だと思うと、その問題提起のリアルさに驚く。設定を現代に置き換えても違和感無い緊張感。予備知識なしだと冒頭のヘレナのハイテンション不安が唐突に感じるかもしれない。終盤、進化したロボットの哀れさが際立つシーンは秀逸。コンパクトな構成で、上手く強調される個所と状況説明の不足が共存する感じ。

    ネタバレBOX

    ロボットメーカーの社長とスタッフたちが、固唾をのんで何かを待っている。
    ロボットたちが反乱を起こし、次々と主要ライフライン系を占拠していく中、
    頼みの綱である船が予定通り港に入って来るのを待っているのである。
    予定通り入ってくれば、輸送部門はまだ占拠されていない証拠であり、
    自分たちはこの島からその船で脱出できるからだ。
    忠実だったロボットたちの突然の変化に不安を募らせる社長の妻ヘレナ(森郁月)。
    ロボット製造は神への冒涜であり、罰が当たったのだとするお手伝いのナナ(佐藤紘子)。
    ところが港は既にロボットたちに押さえられ、社長たちは助かるために
    ロボットたちと交渉するしかないところまで追いつめられる。
    交渉の切り札となるのは、その製造方法を記した手書きの古いレポートのみ。
    これが無ければロボットは今後製造不可能、20年の寿命が尽きれば全て動かなくなる。
    だがそのレポートは、さっきヘレナがシュレッダーにかけてしまっていた・・・。

    「人間に子供ができなくなったのは、人間が要らなくなったからだ」という
    衝撃的な背景が冒頭に語られる。
    人工生命体が主になると不要な生命は淘汰されていくという事か。

    この作品のロボットはアトムのような“メカ系”ではなく
    アンドロイドのような“有機体系”を指しており、より人間に近い構造を持っている。
    終盤で明らかになるが、ガル博士(松本光生)がロボットに感情を持つよう
    操作したことが、反乱を招いたことが判明する。
    つまり「より優れているロボットが、なぜ人間ごときに使われるのか」という
    反発と憎しみを抱くようになってしまったのだ。
    そしてそれを博士に依頼したのはヘレナだったことも告白される。
    ”間違いを犯す人間”を体現するかのようなヘレナの揺れが人間性を強調しているよう。

    ロボットのリーダーラディウス(井出麻渡)は、
    自分の廃棄処分を救ってくれたヘレナさえも容赦なく殺してしまうが、
    そのシーンはない。
    力強い演説で仲間を鼓舞し、製造方法を入手しようともがく感情を得たラディウスが、
    “恩を感じることは無い”という、残った“ロボット性”を
    見せつけるシーンが観たかった気もする。

    “労働から解放されて幸福になる”ことを目指してロボットを製造したのに
    最後はそのロボットに殺され、生き残った人間は建築士(蒲田哲)ひとり。
    その彼の前に人間かロボットか区別がつかないような二人が現れる。
    互いをかばい合い、自分が犠牲になると申し出る彼らに、
    建築士は豊かな感情を持ったロボットの存在を改めて知ることになる。

    “ロボットとは何か”という定義はそのまま“人間とは何か”ということだ。
    感情を持ち反感と憎しみを覚えたロボットはしかし、
    失われた製造方法を手に入れようと必死にもがくようになる。
    「命令してください!」と叫ぶロボットは、創造性を持たないことを示している。
    人間もロボットも、誰も幸せになれない。
    進化したロボットがこの先どうなるのか、答えも未来も観る人に委ねられる。

    全てはカレル・チャペックの想像力・洞察力のすばらしさに尽きる。
    様々な演出を観てみたいと思わせる脚本だった。

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    2019/03/30 10:55

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