死んだら流石に愛しく思え 公演情報 MCR「死んだら流石に愛しく思え」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/05/10 (金) 19:30

    初演も観たがやっぱりすごい芝居だ。
    あの目、あの迷いの無い台詞、殺人鬼の2人が素晴らしくて
    思わず感情移入しそうになる。
    刑事とのやり取り、一体どんな風に稽古するんだろう?
    たたみかける櫻井刑事の罵詈雑言と
    私の好きなほっぺぶるぶるさせる熱い堀さんにしびれた。

    ネタバレBOX

    自宅で売春しながら女装させた息子にそれを見せるという
    そんなクズ母の元で子どもがすくすく育つわけがない。
    どんな風に育つかというと、川島(川島潤哉)のようになるんだな。
    その母親を皮切りに、川島は殺人を重ねていく。
    一方奥田(奥田洋平)は快楽殺人タイプ。
    天使のように純粋な奥田の妹(後藤飛鳥)と2人の殺人者は
    町から町へ、人を殺しながら旅をする。
    だがやがてそれが崩壊する日が来る・・・。

    同じ殺人者でも全くタイプの違う2人。
    登場しただけですべてを語っているような、奥田の目つきが素晴らしい。
    思考を素通りして、殺人という行為に直進する異様さを見せつける。
    さらにそれを隠そうともせず、刑事らと会話する姿にハラハラする。
    直接的な場面よりもはるかに緊張感がある。

    川島の悲惨な生い立ちと、歪んだ価値観には大いに同情する。
    怒りと失望の行き場が「殺す」ことにしか見いだせない川島は
    大切な人までも手にかけてしまう。
    彼が思いとどまって殺さなかったのは、友人堀(堀靖明)だけだ。

    今回改訂版として“ほぼ新作”のよう、と謳っているが
    あまり根本には影響していないと思う。
    元が強烈なので、周囲をいじっても根幹に変化はない感じ。
    唯一、殺されなかった堀が面会室で川島と向き合う場面、
    あれは良かったと思う。
    「どうして俺を殺さなかったんだ?」と尋ねる堀に川島は答える。
    「堀君の中の自分を殺すような気がしたから」

    堀はただ一人、異常な自分の中に残された「普通の、健全な部分」を見ていた。
    もはや「普通の自分」は、堀の心の中にしか存在しない。
    堀を殺すことは、その自分までも殺してしまうことになるのだ。

    奥田と川島が二人で、大きな包みをテーブルに置いたとき、
    中から人間の首がたくさん出て来るような気がした。
    が、転がり出てきたのは、大量のグレープフルーツだった。
    ふたりはそれを片っ端から貪り食う。
    享楽の果ての結末が、果実の苦味に重なる印象的なシーンだった。

    川島が奥田と決定的に違うのは、殺人に喪失感を伴う事ではないか。
    殺人者としては致命的な弱点かもしれない喪失感は、そのまま孤独につながる。
    それはラストシーンに端的に表れている。




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    2019/05/13 00:09

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