国粋主義者のための戦争寓話 公演情報 ハツビロコウ「国粋主義者のための戦争寓話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    鑑賞日2019/09/27 (金) 19:00

    “人は信じるもののために人を殺す” だが
    “信じるものを持たずに人を殺した“者は究極まで追いつめられる。
    この兄弟を見ていると、信じる力と心の強さを思わずにいられない。
    重苦しいが、緊張感の途切れない展開が素晴らしい。
    良い意味で、役者陣の熱さにひきずられ、翻弄される2時間。


    ネタバレBOX

    地下の劇場に入ると、セミ時雨と強い藁の匂いにむせ返りそうになる。
    まるで東南アジアの密林にある小屋の中のようだ。
    藁に覆われた床と一段高くなった寝台のようなスペース、粗末な木の台。
    破れてボロボロになった日の丸。

    冒頭、自分の腕にヒロポンを打つ少尉。
    自分ではなく、兄の方ばかり慕う白痴の妹を卑劣な手段で傷つけたあげく
    自殺に追いやったことを、事あるごとに思い出している。
    自分の犯した幼く無自覚な殺人から逃れるために、軍隊に入り特攻を志願した。
    地上ではなく空に憧れて、だがいまだに飛べないまま、死ねないまま・・・。
    彼はまるでセミのように土の上をのたうち回っている。

    ヒロシマに原爆が落ちたあと、“木製のロケットで敵機を撃墜する”という
    冗談みたいな極秘計画に身を投じるのも、死に時を逸することを恐れたからか。
    優秀な大尉である兄が、その計画のリーダーであり、弟の自分を呼んでいると聞き、
    命令に従い、わずかな部下を連れて山奥の村へ赴く少尉。
    だがそこに先遣隊30名の姿はなく、小屋は荒れ果てていた・・・。

    “死にたい男”は理由を求め、日本人として天皇のために闘って散りたい。
    平家の落人は“山に住む人食い大蛇”を怖れて近づかずに暮らす。
    縄文人の住居跡を発掘した兄、大尉はユートピアを求めてつり橋を渡る。
    部下たちはこの中の誰かを信じて、その敵を撃たなければならない。
    三すくみのように互いに銃口を向け合った結果、生き残ったのはタイラ村の女二人。
    さて、信じるものによって救われたのは誰だったのか?

    兄の狂信的な“日本人論”とユートピア構想に、
    映画「地獄の黙示録」のカーツ大佐を思い出した。
    何かを信じることは狂気の始まりなのかもしれない。
    信じなければ人を殺すことなどできないのだろう。

    戦争をしたがる人々はいつも信じている。
    〇〇のために、闘おう! と。
    だが〇〇は、闘うに値するものなのか?
    この先何かを信じるためには、まず疑ってかかれ。
    そう思わずにいられない作品だった。


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    2019/09/28 00:29

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