総長の観てきた!クチコミ一覧

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日本橋

日本橋

松竹

日生劇場(東京都)

2012/12/03 (月) ~ 2012/12/26 (水)公演終了

満足度★★★★★

全てが美しい
 泉鏡花が大正三年に発表し、のちに自ら戯曲化するほど鏡花自身も愛していた名作。
 今回の公演は、常にあくなき探究と研鑽を積み重ね、芸と美を兼ね備えた坂東玉三郎が演出、そして実に二十五年ぶりに主役の芸者・お孝役に挑戦している。
 その舞台の玉三郎は、言うまでもなく立ち居振る舞いが絶品で美しい!
 キャステイングも素晴らしい。
 対役の芸者・清葉の高橋恵子も、しっとりと癒しの演技で嫋やかに和の美を醸し出している。
 他の出演陣も充実し、鏡花独特のとにかく美しい台詞で綴られた演技で、その一篇一篇の詩が、舞台を増幅した映像の拡がりを持って脳裏に浸透してくる。
 全てが美しい舞台だった。

ネタバレBOX

 ものがたりは一人の医学士を巡り、二人の芸者お孝(坂東玉三郎)と清葉(高橋惠子)そして彼らを取り巻く登場人物たちが織りなす人間模様を鏡花独特のとにかく一篇一篇の美しい台詞で綴られた舞台。
 

 大正のはじめ、日本橋には指折りの二人の名妓がいた。稲葉家お孝(坂東玉三郎)と、瀧の家清葉(高橋惠子)である。しかしその性格は全くの正反対で、清葉が品がよく内気なのに引き替え、お孝は達引の強い、意地が命の女だった。
 医学士葛木晋三(松田悟志)には一人の姉がいたが、自分に似ている雛人形を形見として残し、行方知れない諸国行脚の旅に出てしまった。
 その雛人形に似ている清葉に姉の俤を見て思いを寄せる葛木は、雛祭の翌日、七年越しの自分の気持ちを打ち明けた。
 しかし清葉は、ある事情から現在の旦那の他に男は持たないと誓った身のため、葛木の気持ちはよく分かりながらも、拒んでしまう。
 葛木は清葉と傷心の別れの後、雛祭に供えた栄螺と蛤を一石橋から放ったところを、笠原巡査(藤堂新二)に不審尋問された。そこへ現れたのは抱妓のお千世(斎藤菜月)を伴ったお孝であった。お孝の口添えで、葛木への疑惑は解け、二人は馴染みになった。彼女は清葉と葛木の関係を知りながら敢えて自ら進んで葛木に身を任せようとした。これは清葉に対する意地であった。
 しかし、お孝には、稲葉家の二階に住みついた間夫・五十嵐伝吾(永島敏行)がいた。
 共にかなわぬ胸のうちを抱え苦しむお孝と清葉の二人の因縁を軸に、せつなく情実的に描きながら、美しくも悲劇で結される最終章へ向かって展開していく。
ごんべい 江戸版/平成版

ごんべい 江戸版/平成版

ゲキバカ

吉祥寺シアター(東京都)

2011/07/14 (木) ~ 2011/07/24 (日)公演終了

満足度★★★★

観るから…魅るの変換へ!
この劇団の作・演出-柿ノ木タケヲは、観る側へ心の暇を与えず、如何に舞台をカタチ良く見せ、強引にでも演出家の術中に引きずり込む拘りが劇作の基本姿勢ににあるのでは…!?
冒頭アドリブでの観客との会話で芝居導入したり(これは演技に自信と余裕がある者でなければ駄目だが)、劇中の強弱感も30人ダンスや歌であったり、アクロバティックで派手なアクションパフォーマンスがあったり、暗転と同様な効果を見込んでか?厭きそうなタイミングの良さで観客とのお遊びがあったり、場面転換が実に上手い!物語や言葉にもコミック的な洒落があり、年代問わずに楽しめる。これ等の点で、劇団は数多いなか、演出に優れて観る者も含め自分達も楽しみながら創る?が特徴であると感じる。 只、観る~魅るまでのハイクオリティーへの変換は、芝居の骨格を含め対話劇をより充実熟すことが必要…とやや不満に思うのだ…。
男優陣の中で、客演ではあるが、岡田一博が一段に高いレベルで芝居を引き締めながら卓越した演技で存在感と演出の補完をしている。久しぶりにセンス良い舞台役者に出逢えた気持ちで素直に嬉しい。彼の出たこの芝居を観ただけでも十分価値があるようにと満足したのだ…。
彼のオーラや語り口などから、30年位は経つだろうか?つかこうへい事務所解散「蒲田行進曲・後編」で、つかに良くいじられていた風間杜夫を重ね合わせ観ていた。そう言えば、つかが早逝してから丁度一年が経ち、新盆の季節である。     「紙ふぶき 雪か桜か 夏芝居」   良い点、悪い点など、感じたことを、ネタバレBOXで…。

ネタバレBOX

パフォーマンスで優れている例として、役者陣の対話に不満で厭きたな?と思っていたら、九尾狐(山下亜矢香)を先頭に、蛇の蜷局を巻くパフォーマンスがある…これなど驚くように美しい!そのように良く稽古を重ねている!と判ることなど。その九尾狐・山下亜矢香は、女優陣の中で安定した演技で、持ち場も魅せ場も心得て見事にアッピールしている。
主役のごんべい・石黒圭一郎を含め対話劇に不満を感じる役者陣が多いので、時々、目を閉じ台詞を聞いてみるが…やはり言葉で芝居する点では、まだまだ不満だと思うこと…確かに石黒は俊敏な動きで、アクションパフォーマンスには優れたところもあるが、台詞廻しは早口で聴き辛いこと。急遽代役の初日で、気分が昂揚していることもあると思うが…。
劇団の特徴であるアクションパフォーマンスを勿論否定するものではないが、それを役者人生で必要とする時間は短い。基本、ストレートプレイの補強充実が重要である…と考える。演技の基礎的な部分を、より的確に優先補強して欲しい。まとい・泊ヶ山まりな、お凛・三澤さき、お船・長瀬みなみなども甲高く同様に早口である。平常時に早口な人は、緊張高揚時には更に早口になる。舞台と、TVや映画などの映像演技は違うかも知れないが、 バラエティーも含め早口の人は大成しない!例えば、カメラワークのターンなども同じなのだが、遅いくらいと思うのが丁度良い塩梅になる!その鷹揚な技術体得も必要なのだ。
是非、自己啓発から気付きと発声鍛錬などで、修正と今後の舞台への研鑽を望みたい!
きょうの日は

きょうの日は

コメディユニット磯川家

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2011/07/07 (木) ~ 2011/07/10 (日)公演終了

満足度★★

正直…判らない!
何故、これが人気の高い劇団の芝居なのか…?この芝居の面白さが殆ど理解出来なかった。
静かな立ち上がりから、いきなりハイテンションのドタバタ演技で、舞台との距離感から乖離を生んでしまったような…観る意欲を削がれてしまった。
でも、何故評価が高いのか…?何故このように客が入っているのか…?そのことが不思議な位の演技レベルだけど…。正直言って、判らない!
しかし小劇団は、パーソナルに固執した行動パターンを繰り返すと、必ず行き詰まり成長がない!当劇団の休憩は、当然の様に止むを得ないのでは…と、それは判るように思うのだが…。
私自身、観ていても一寸も楽しくないのは感性が鈍っているかも…。私も休憩しようかな…!?本当に、強い自己喪失感が残ってしまった。「四コマの 漫画を読むよな 芝居観る」「大声を 熱演なのよ 役者いふ」「休憩を 早く願いつ 芝居観て」   補足はネタバレBOXで…。

ネタバレBOX

この演技レベルで、場内から時々小さく起きる笑い声も…本編物語の展開まで辿り付くのが長すぎることもあるのだけれど、小ネタばかりのお仲間内でのお約束の笑いのよう?に感じてしまい…そんな批判的な想いも出て来て、却って観劇の気持ちが萎えてしまった。
役者陣の中では、ドタバタとネタを繰返すなかで、父役・米川康夫(湯浅崇・テノヒラサイズ)だけでも、落ち着いた演技をすれば、コントラストがはっきりして、周りも照らし逆に輝くのでは…色調濃淡が同じでは…!?兄役・米川貴良(島岡亮丞)が、エヴァンゲリオン2号機「あんたバカァ!」が名言の「アスカのTシャツ」を着て、少しは輝いていたような…!?
十字路と絵本(終演いたしました!ご来場誠にありがとうございました。祝!!2011年上半期シアターシャイン演劇奨励賞を受賞しました!)

十字路と絵本(終演いたしました!ご来場誠にありがとうございました。祝!!2011年上半期シアターシャイン演劇奨励賞を受賞しました!)

tYphoon一家 (たいふーんいっか)

シアターシャイン(東京都)

2011/06/30 (木) ~ 2011/07/03 (日)公演終了

満足度★★★

演出の拘りは賞賛したい・・・
演じる舞台上には、厚さ15cm程度に幅2m位で奥行き3m位はあるだろうか立派な一枚板が敷かれ、聖書の中にある詞と絵のようなものが書いてある。そこが十字路で、その十字路を昼夜陰日向なく見守るように、舞台右上部に向日葵を思わせるよう微笑む太陽、舞台左袖下部には、嘆きを思わせるような三日月を描き組み込んで、立派で美しいステージが創られている。
暗転時には太陽と月の目が灯りとなり、神の下僕のような黒衣を纏った美術係りの動きをうっすらと照らして、深闇の世界でも神の目は惑わせないことを暗示するような仕掛けとなっている。入場者が50~60人強のこの小屋で・・・と、その舞台演出の強い想いと意欲を讃えたい!
その十字路で、それぞれ作者が異なる第一話「嘘と踊るソナタ」、第二話「幸せな日々」、第三話「彼女から遠く離れて」の物語がオムニバス形式で構成され「十字路と絵本」の上演となる。
そして三話ともに出演者全員が、絵本から飛び出した人物をイメージングさせるような印象的なメイクをして演技をしている。この不思議さの統一は見事だ。
道化ピエロを登場させ夫婦ネタを喜美麻呂ほどではないけど、悲劇とも喜劇とも思える嘆きの心の彩を表現したり・・・開演時に流れる楽曲は、それが、80~90年程前のアコースティック・ギターの弾き語りで「クロスロード伝説」のアフリカ系ブルース歌手・ロバート・リロイ・ジョンソンであることなどの拘りも賞賛したい。
舞台美術・出演陣のメイク・音響など着想に優れた演出と思うのだが…。以下ネタバレ…。

ネタバレBOX

謎の魔女的で絵本作家のような女(松下愛子)と、願いが叶うよう申し出る女(うじいえともみ)の二人の絡みをナビゲーターにして芝居が進行、最後に三話とも集約され終演する。
しかし、一話のように芝居ネタに多少稚拙な感もあるが、それよりも、舞台での謎の女・松下と交わされるうじいえとの二人の会話が、知人同士のようで緊張感が全く見られず拙い。一話より二話、二話より三話、そしてエンディングへと盛り上がり結び着けば良いのだが、それが為に緊迫感が出て来ない。それは、謎の女・松下の描写が不十分で、カリスマがなく、役柄の立ち位置・神秘性を軽率にしているように感じること・・・。うじいえにも、望みを必死に訴え願い出るような動機や必然性が見受けられない役柄であることが挙げられる。
劇団のキャスティングには限界があると思うが、細かく配慮し優れた拘りの演出が出来る能力を持つだけに残念だ!第三話・母キョウコ役(聖子:ジャムジャムプレイヤーズ)程の存在感が有れば、うじいえともみも単純なガイドではなく狂言廻し役で輝いたと思うが・・・。
あと、他の役者陣に言えるのだが、特に飲食等の演技は、陳腐で興醒めにも似た感が有り勿体ない。受けを狙ったかも知れないが、不用意な小道具類を遣う演技が原因と思う。
五感による生理現象からのリメイクによる感情表現は全く出来ていない。今後、より高見へ翔く為には、小さな積み重ねの実践で成長努力し改善して欲しい。改善されれば満点だ!
マダン劇「碧に咲く母の花」★ご来場、誠にありがとうございました。

マダン劇「碧に咲く母の花」★ご来場、誠にありがとうございました。

May

タイニイアリス(東京都)

2011/06/09 (木) ~ 2011/06/26 (日)公演終了

満足度★★★★★

心の飢えから溢れる愛・・・
今回で金哲義氏作品を観るのは4作目である。それは非日常性を描く演劇とは異なり、偏に自己のルーツ感から心の飢えの如く祖国愛が溢れ出て、単編の戯曲と言うよりも4本連続の戯曲としても観られる精神性の高いベタな日常作品かも知れない。 以下は、ネタバレにて・・・。

観劇される方は、編集もあり、全てが正しい報道ドキュメントかは判りませんが、
■NHK・Eテレ2008年4月放送「悲劇の島 チェジュ(済州)~「4・3事件」在日コリアンの記憶 」
(参考URL  :  http://www.youtube.com/watch?v=BABNLB4HEig&feature=related  )

■チェジュ島四三事件 立命館大学文京洙教授 
(参考URL   :   http://www.youtube.com/watch?v=i3jIdlH5XNg&feature=related   )

 以上などで、多少の知識を得てからの方が、この作品も少しだけ理解し易いかと思います。

ネタバレBOX

2周りも若いアラフォーの金哲義氏が、作家のライフワークの様に「沈黙の歴史・済州48/4・3事件」を正面から捉え勇気を持ち「碧に咲く母の花」を書いたことを心から尊敬する。
敗戦により日本統治時代を終えても、反共を国是とした日本統治時の「治安維持法」警察機構を温存した李承晩・軍政権の行為が端緒にあり、日本人の我々も知る必要がある。

古くから日本は、済州島及び朝鮮半島と壱岐・対馬経由で、人を含めた交流をしていた。
実は、13年程前に私はある団体の事務局長をしていた関係で、その団体で壱岐・対馬を訪問した際、4・3事件犠牲者と思われる手脚縄縛の夥しい程の遺体が、海流に揉まれて流れ着いた歴史がある事を聞いた記憶があり、遺体を供養している寺院(太平寺・西山寺等)も覚えている。国家と雖も、犯した罪は非情悲惨過ぎる事件である。しかし、非情悲惨な歴史でもその事実を知り、継承しながら事実の解明と、再度過ちが起こらぬよう反省と清算により工夫して生きていかねばならならない。

その難しいテーマを、母・貞雅(斉藤友恵)とその娘・晴美(木場夕子)の母娘を中心にして描き、歴史の苦悩を抉る男(柴崎辰治)、晴美の父(倉畑和之)などの役を、見事に演じたMayの劇団員の皆さんは、例え隣国と雖も、歴史を勉強しながらの難しい演技だったと思う。過去60年以上も前の4・3事件だけれども、その清算事業は盧武鉉大統領の登場で始まったばかり…。しかも彼の死と38度線など民族の本質的な解決の道筋は未だ遙か遠くて見えない。娘・晴美も母の死から得た歴史の発掘により、人生は再スタートしたばかりである。彼女は今後母の魂と歴史にどう向き合って生きて行くだろう…?その答えは観ている私達側へ投げかけられていると思う…。友人の淑恵・清子ではなく、晴美なのだ…と。!

演出では、晴美が母の卵おにぎりを美味しい!亡くなった母の卵おにぎりを食べたい…でも、もう食べられない!と言う台詞がある。それが済州島の家庭料理かは判らないが、コリアン料理は刺激が強い食べ物と連想するが、卵は味をマイルドにする。それと同様、重いテーマが、劇団タルオルムの女史3人の素晴らしい助演(特に歌は美しい!)とマダン劇での上演で、舞台がマイルドになって実現している。但し、カーテンコール時には、劇団Mayの団員紹介と、演じる役者の殆どが在日でもない、日本の若者が学びながらの公演である事は伝えて欲しい。何故ならそれが、マダンによる大衆との文化交流・改革の意義であり、物語の昇華であり、人の心に国境は無いMayの実践で想いは理解出来るからである。
気分屋

気分屋

劇団あおきりみかん

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2011/06/17 (金) ~ 2011/06/19 (日)公演終了

満足度★★★

突き抜けて一体感を・・・
人は戸惑いながらも、感情を甘受(感受と言うべきかも・・・)しながら、折り合いをつけて生きて行くもの・・・。演劇は非日常性を描きながら、セリフと気分(感情)に対し作者も役者も、もちろん観ている私達にも、能動よりも受動的なその感性が問われるべきと思う!センス良い感性で感度良く表現出来れば、観ている私達と一体感が生まれると思う。 総評はネタバレにて・・・。

ネタバレBOX

私は?人?誰?男?女?で始まりながら、「母を探ねて三千里」のマルコになり・・・イタリア・ジェノバが冨山県・氷見市になり・・・なんとなく納得・・・。面白いのだけど・・・!?
河村たかしに織田信長、加藤晴彦や玉木宏ほか・・・八丁味噌などなど、愛知三河的ネタオンパレードで・・・。三河豊田出身の妻君も喜んでいたようで…!?
愛知に、しっかりと根を張っているのが垣間見えて、私も、ソコソコ楽しいのだけれど・・・。
「気分屋」のタイトルに上手く戸惑わされた感じで・・・。
鹿目さんとあおきりみかんの現在の戸惑いや壁・・・?と感じたり、観ている我々とも一体感がイマイチ不足?と・・・戸惑って感じたり・・・。

例えば、舞台上での演技で、焼き立てのアップルパイをなりきり松田聖子が「美味しい!」とかぶり付く場面が有るが、焼き立てのアップルパイは、焼き立てだから熱い!筈と・・・。言葉(せりふ)にもなく…五感を持った人間がなのだから、反応が欲しい・・・。熱いアップルパイを頬張る反応があれば、観ている私達と同期出来る筈と思うが・・・。そのような感性・生理感度の高い舞台を実現して欲しい。
反応も表現であり、生理的反応からリメイクした感情で一皮剥け熟した演技が欲しい・・・。
鹿目さんと共に歩む「あおきりみかん」は、前途洋々であるから・・・!Everyone to enjoy!
天守物語

天守物語

少年社中

吉祥寺シアター(東京都)

2011/06/03 (金) ~ 2011/06/12 (日)公演終了

満足度★★★★

妖艶美追求で幻想の花を・・・
少年社中の力量は素晴らしい。中村龍介の立体感ある演技が圧巻!対照的に描かれていた加藤良子も好演!観ていて安心感が有り、コントラスト良く彩られていた。元ジェンヌ・あづみれいかは、妖艶美の追求で舞台に幻想の花を咲かせて欲しい!■原作台本などネタバレBOX

ネタバレBOX

原作:播磨国姫路城。天守閣に住む魔界の妖精・天守夫人富姫(あづみれいか)は、城主秘蔵の鷹を捕らえて、妹分の亀姫に贈った。その鷹を探してやってきたのは、若く美しい人間の鷹匠・姫川図書之助(つづうらゆうすけ)。二人は恋をする。惹かれながらも元の世界へ帰った図書之助だが無実の罪に追われて富姫にかくまわれる。しかし、妖精たちの象徴である獅子頭の目を追っ手に傷つけられ富姫と図書之助は盲目に。もはやこれまでと覚悟した時、どこからともなく現れた工人が獅子頭の目を直し、二人の視力も戻るのだった。

泉鏡花が一世紀前に戯曲を書いた時代は、維新戦争後の君主政権下。軍藩財閥・富国強兵政策から日清戦争・日露戦争があり、台湾・朝鮮統治が始まり、日本産業革命の過渡期。治安も悪く庶民は相変わらず貧困で自然災害に翻弄されていた。暴風雨(台風)による風水害・大雨・土砂崩れ・河川反乱による洪水と浪害(凶作)は毎年毎年繰り返され苦しんでいた時代。舞台で「通りゃんせ」が歌われるのも、細道は母の胎内からの産道。行きは生むことで帰りは死ぬこと。生活苦からの間引き・子殺しの意味があり、天神様から貰うお札は天変地異から神に縋る信仰心で人身御供である7歳の男子を生贄として貢ぐこと。そして生き残る家族のために娘は身を売る事が繰返された背景がある。雨情の間引きの童謡「しゃぼん玉とんだ」黄泉返り「七つの子」が生まれたのも本作品の4~5年後である。

本作品を演出する毛利亘宏は、3月11日に発生した東日本大震災と重ね併せスタッフ総力で原作をアレンジ。日本再創生の強いメッセージを携え舞台でリメイクし表現している。

それでも鏡花の重厚なテーマ感を、2時間足らずで描くのはやはり限界があり、物語の展開前段にもう少し丁寧な描写が欲しいが・・・。この想いは欲張り過ぎなのだろうか・・・?

富姫・あづみれいかは安定感はあるが、何か足らないような気が・・・例えば場面によっては、みだれ髪などでの化粧を考慮してみては・・・もう少し妖艶美からの幻想感が欲しい。あづみ自身は自然に美しいのだから、怖さ毒々しさがあっても・・・裏返る声も両刃の剣?
美しさを求める図書之助は思い切って女性のキャスティング・・・?同性愛表現も欲しい・・・
演技力がある舌長姥・杉山未央には、もっと気味悪いくらいのメイクも・・・・要検討・・・!?
鷹/童子・中村龍介の表現力は抜きん出ている!彼の動きが妖気な雰囲気を創り、対照的に極楽鳥・加藤良子が自然な演技で惹き出して魅せている!少年社中…オン・ロード!

■原作に興味のある方はURLを張っておきます。プリントはA4片面18ページの短編です。(原作は、天守夫人と図書之助の倫理感の高い究極の愛・心象美作品、少年社中・毛利作品は鍛え逞しく生きるオリジナル作品?双方を対比させながらお芝居をお楽しみ下さい)  底本:岩波書店[鏡花小説戯曲選 第十二巻]      参照文献:[夜叉ヶ池]講談社1979
■原作台本URL [  http://www2s.biglobe.ne.jp/~ant/tensyu/tensyu.html  ]
Theatresports(TM)

Theatresports(TM)

インプロ・ワークス

小劇場 楽園(東京都)

2011/06/06 (月) ~ 2011/06/06 (月)公演終了

満足度★★★

ルールの明確化・・・即興連続ドラマを!
インプロ・カリスマ絹川友梨さんが、情熱を燃やされている演劇をスポーツの様に楽しむ「インプロ=シアタースポーツ」第二回定期公演。
私は前回感想で「実践で磨く楽しみ…センスは生まれ持ったものか?過去の成長過程からのものか?練習鍛錬から培われるのか?その全てが相乗してくるものとしても…」と書いた・・・。
1ラウンド3分のバトル、お題の提示の仕方も進行方法が微妙に変わっているのでは・・・?
即興芝居にはならなくて残念!せめて、5~6分は欲しい。そうすれば連続ドラマのような展開になる・・・?と、思ったり・・・。役者陣の個性とセンスを観察するのが楽しみだったけど・・・。
まぁ~ソコソコ楽しかったのだけれど・・・「だんすだんすだんす」以外の出演陣は、個性・センスは一寸はあるか・・・?でも、風体以外の中味は伝わらずいい加減な稚拙さが目立ち残念!
90名近くの入場者には、インプロリピーターが多くいたようなので・・・MCが変わったから・・・?ルール不徹底・・・?以下、ネタバレに気になったことを書いておきます。★★により近い★3

ネタバレBOX

①前回は観客が書いた芝居のお題ちょうだい!が、セリフ頂戴に変更?その上MCがラウンド毎に、事前に書いた言葉を無視して、余りにも観客へ指名で言葉を求め過ぎていたのも仕込みがあるのでは・・・?と思われてしまいそう。予め書いた言葉が有るのに・・・!
②ラウンド毎に、交替の各々のチームがパフォーマンスのテーマを自分達で決めている。筋立て・ネタの打ち合わせが事前に無いのがインプロ・即興芝居の醍醐味なのでは・・・
観客が事前に書いた言葉は、結局最終ラウンド読むだけの消化で、時間経過はつまらない!即興の共通テーマで対決して欲しい・・・!
③前回は女性出演陣にエールを贈ったつもりだったけれど・・・女性チームVS男性チームとのバトルも期待したけど・・・アクセサリー的出演は残念で少し哀しい・・・!?ご一考を!
④1ラウンド=3分は短か過ぎる・・・!せめて、5~6分以上有れば、連続ドラマのような展開になるかも・・・・私自身もまだ不慣れなので次回に再確認・・・8月29日に期待したい!
1億円

1億円

THEATER the ROCKETS

劇場HOPE(東京都)

2011/06/02 (木) ~ 2011/06/05 (日)公演終了

満足度★★

一億円・・・重いor軽い?
開演時の観劇エチケットの案内放送が洒落があって何度も吹き出した。これは舞台も・・・と期待!芝居はソコソコ上手く、女優陣も可愛いのだけれど・・・バッグに詰めた一億円は重さにすると10~12kg以上はあると思うけど、本の中味は軽かったかな・・・?

第8回壽太郎ひとりコント

第8回壽太郎ひとりコント

壽太郎ひとりコント制作委員会

遊空間がざびぃ(東京都)

2011/06/04 (土) ~ 2011/06/05 (日)公演終了

満足度★★★★

大衆と共に・・・癒しもあり楽しい!
寿太郎一人コントと言うけど・・・出演者が10人を超えるコメディー・・・。
テーマの根底には、現在の文化がデジタイズされていることへの風刺があり、それと対照するよう演出でアナログな配役で楽しませてくれる。
ストーリーには多少無理も・・・?あり、演技は上手いとは言えないけど・・・?
損得抜き、出演者全員の熱意とチームワークで舞台を盛り上げてとにかく楽しい!
アラカルト的演出あり、笑くぼが可愛いバレリーナ登場の癒しもあり、可能であれば大震災の被災地へ慰問公演して欲しいけど・・・!?
このような明るさと元気が現在の日本には必要!演出・出演者の総合力で・・・ ★★★★

ネタバレBOX

寿太郎他何人かは芝居が上手いとは言えないし、ICチップが脳に埋め込まれた古畑任三郎をパックった刑事や、娘役2人のバレリーナの「脳がコピーされても体が覚えている…」など人体生理学的にも突っ込みを入れたくなる矛盾した設定や台詞などが出てくるが・・・
その様な事はどうでも良い・・・!(芝居はなんでもありだから・・・!)
とにかく明るく元気なステージが最高!芝居は言葉を語るものではない事を示す見本!
この日、他劇団の昼公演にも行ったけど、明らかにこの寿太郎公演の方が、チームワーク、舞台への熱意や観客を楽しませる献身度などは、はるかに勝っている!
それにしても、夫人役バレリーナの踊る演出タイミングは絶妙!娘役二人も素敵な癒し!
関ヶ原でダンス

関ヶ原でダンス

劇団6番シード

吉祥寺シアター(東京都)

2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★

稽古十分・音響良し・・・演出?
吉祥寺シアターは例えて言うと、ストレートプレイで、OFF・OFF→OFF→ONへと劇団が成長する過程で、OFF・OFFとOFF中間程度の小屋だろうか・・・?奥行・高さ・照明・音響設備なども、OFF・OFF以下で甘んじている多くの劇団が、とても羨ましく思う設備が整ったステージである。
客席も200人までは入るハコで、この日も170~80人は入っていたと思う。6番シードの関係者と、「虹」「雫」を併せた全出演者が相当な販売努力をしたと敬意を表する!
さて芝居だが、この日出演「雫」を含めた26人全出演者が台詞を貰っているので、19時に開演後の前半約1時間は基本軸が定まらず、個々の言う台詞も基本発声での未熟も目立ち、ドタバタ感が強すぎて芝居の方向性が出て来ず、観ていて鬱々とした疲労感が出る。
20時7分過ぎに暗転・・・SEの雨音と無助一人の舞台再開時には何故かホッとする。舞台セットと音響で、私の脳にファンタジーなイメージングが出来上がる稀有な体験が癒しになり、空のステージで演技がないことが観る側のセンスへ訴えてくる・・・その不思議な現象は、ひたすら本と演出の拙さにあるのでは・・・?と思う。
それでも衣装含め立ち回りなど、稽古十分ということは伝わる舞台であった。
指導者は舞台の成道に徹し、ノルマ消化に努力する団員を真に報いて進めて欲しい!リーダーの自己満足の舞台で終らせてはいけない!音響・衣装・照明・設備・出演者へ★★★

ネタバレBOX

■関ヶ原開戦前夜―。雨が降り、霧が一面を覆っている…。
【足軽百姓・男達】「逃げるったってどこに逃げればいいんだよ!」西軍、大谷吉継を将とする軍の足軽として関ヶ原へやってきた百姓達。右も左も分からず、雨に震え霧に迷い、一刻も早く関ヶ原から逃げ出したいと考えている情けない足軽百姓男達。
【百姓・嫁達】「あそこだよ、あの陣だ!」「あたいらにとっても合戦なんだ…。」取った武将の首に化粧を施し、旦那の功績を上げる為に村からやってきた嫁達。
【百姓・母】情けない息子達を案じ、敵兵の首を取らんばかりの勢いでやってきた母親。
【盗賊団】天下分け目の大合戦。鎧に刀と噂に聞いた種子島、獲物を狙って合戦を待つ盗賊集団。裏切りの噂に混乱する陣営に忍び込み、盗賊団の頭領は画策する。
【武将】「娘を人質として差し出し、東軍に寝返るのだ!」足軽百姓達の直属の将である古豪武士はためらいもなくそう決断する。西軍劣勢の情勢を聞き寝返ることを決めるが・・・。

そこで足軽百姓・無助(なしすけ)は思い付く・・・このまま雨が降り続けば戦は延びる・・・雨天順延だ!雨乞い祈りのダンスで戦を止めようと・・・戦争と平和「関ヶ原バージョン」・・・・。
ビタースイート

ビタースイート

studio salt

Space早稲田(東京都)

2011/05/25 (水) ~ 2011/05/29 (日)公演終了

満足度★★★

可愛い!鶴田まや・・・
オムニバス作品4連発だったけど・・・1発目「パーフェクト・ワールド」の東亨司と鶴田まやの作品で★★★は確定・・・4作品での紅一点・鶴田まやが可愛い! 総評はネタバレBOXにて・・・

ネタバレBOX

オムニバス評価は難しい・・・「パーフェクト・ワールド」以外「金柑」「半熟目玉」「もろきゅう」では★は上げられない!特に、作者の椎名泉水も自覚されているはずと思うし、世相の風潮を皮肉ったつもりかも?知れないが、現時点での原発放射能汚染被害者をパロディ化するのは許されない!私はこの日、早稲田でW大院生時の友人と久しぶりに昼食を供にしたが・・・彼の奥さんの実家は福島県飯館で、畜産農家の人・・・。大震災の受け留め方は個々温度差があると思うが・・・被害が長期化して、今後も悲惨な生活が続く原発だけは「人の不幸は蜜の味!」的表現でパロってはいけない!マイナス評価!椎名女史の本意は情報公開を求めての意・・・それが卓球ラリーでのコミュニケーションと理解したい!?
五月大歌舞伎

五月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2011/05/01 (日) ~ 2011/05/25 (水)公演終了

満足度★★★★★

千秋楽・素晴らしき挑戦・・・幸四郎!&吉右衛門
今月昼夜ともにそれぞれ2度目の公演へ・・・幸四郎が、170年ぶりの悪の二役をやるのって、もう見られないかも・・・と思うだけで、いてもたっても行かずにはいられなかった!(もちろん夜公演の吉右衛門の、懐の深い芝居の演技は言うことがない!私は本来・播磨屋・吉右衛門!)
隣席に座られた高麗屋(幸四郎の屋号)に特段に詳しい方がいて、幸四郎が三枚目を演じるのは、歌舞伎の世界では本来は許せないことなのだとか・・・!?(〇〇さ〇りがAVにでるようなものだと・・・?)そのことからも、70歳になる幸四郎が、伝統へ挑戦する意欲は素晴らしいということなのだ!!
(その方も吉右衛門を褒めていた・・・。短い登場で兄・幸四郎の舞台へのエールを贈る姿勢は素晴らしいと・・・。夜公演だけでも出ずっぱりで大変なのにって・・・同感!播磨屋サポーターとして嬉しい!)
最終章のかたき討ちシーンから拍子木が入って・・・「本日千秋楽に付き・・・・・」で舞台上からのご口上・・・・・。その後に幕が下りたが、スタンディングオベーションしたのは自分だけだったみたい!?
日本の演劇にはスタンディングオベーションは根付かないのかな・・・?
何処へ行っても、みなさんとてもおとなしいよね!良くも悪くも感情は素直に伝えたいね・・・・!

ネタバレBOX

昼公演・敵討天下茶屋聚(かたきうちてんがじゃやむら)主演・松本幸四郎の二役
夜公演・籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)主演・中村吉右衛門と中村福助

この舞台の「芝居の非日常性と、善にも悪にも華が咲く!」素晴らしさと、芝居のストーリなど、今月の「観てきた!コメント」と「ネタバレBOX」に記載しました。ご覧戴きたく存じます。
五月大歌舞伎

五月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2011/05/01 (日) ~ 2011/05/25 (水)公演終了

満足度★★★★★

幸四郎・170年ぶりの挑戦・・・昼公演
松本幸四郎が初役に挑む「敵討天下茶屋聚」(かたきうちてんがぢゃやむら)の演目は、慶長14年西暦1600年に備前の国(岡山)宇喜多秀家(芝居では浮田家)のお家騒動で、闇討ちにあった父の無念を、遺子が9年後の1609年大阪の天下茶屋で実際に敵討ちを遂げた事件を題材に、奈河亀輔が本を書下ろして江戸中期の天明元年1781年に初演された狂言である。
上演当初の評判はイマイチのようだったが、天保6年西暦1835年に四代目大谷友右衛門が工夫を凝らして、江戸中村座で敵役を主人公にした設定で舞台を演じて喝采を博した。その後繰り返し上演されて敵討ち狂言の傑作と言われている!
しかし、今回演じる松本幸四郎は初役であり、しかもその四代目友右衛門が天保14年西暦1843年に、二人の悪人安達元右衛門と東間三郎右衛門の一人二役を通し狂言で演じ分けて以来、170年ぶりの挑戦である。幸四郎は来年70歳。初役でしかも170年ぶりの一人二役。伝統を守りながらも現代感覚の人物描写で自ら挑戦して芸と向きあう姿勢はとても素晴らしい!
幸四郎は時代背景と登場人物の性格描写の他味わいある台詞などを綿密に練り上げ、悪役ながら二役の一方・東間は陰で画を描き人を操る大悪な首領役で、一方の元右衛門は盗人猛々しく小悪を重ねながら三枚目役と対照させるように上手く演じ分けており、四代目友右衛門が人気を博した江戸時代の舞台を、現代感覚の解釈で再現している。
初役ながら、序幕から大詰めまでの全五幕190分を、通しで二役を演じた幸四郎の挑戦する心意気は素晴らしく、改めて人生は生涯学習と感じる!
伝統と向き合う幸四郎の舞台を、実弟の中村吉右衛門が敵討ちを支える人形屋幸右衛門役、敵討ち立ち会い助っ人補佐人役坂田正三郎を八代目大谷友右衛門に演じさせて、粋な「敵討天下茶屋聚」だけに、妙で不思議な因縁を感じながら、言葉で表せない深い感動で観ていた!詳細は、ネタバレBOXにて・・・

ネタバレBOX

時代は江戸幕府開幕前の1600年頃、浮田家は石田三成と気脈を通じているのでは・・・と執権から疑われている。疑いを晴らし忠誠の証のためにも、北条氏より戴いた百歌仙「紀貫之が書いた色紙」を見せる必要がある。筆頭家老・早瀬玄蕃頭(段四郎:史実では林である)は、次席家老・岡舟岸之頭(桂三:史実では長船である)と重臣・東間三郎右衛門(幸四郎の二役:史実では当間である)が、お家乗っ取りの謀反を計略していることを察知していた。一派に一時奪われていたお家の大事な色紙を取戻した上、次席家老の岡舟は切腹させることが出来た。しかしその後、東間には逆に闇討ちにされた挙句に、玄蕃頭が保管する浮田家の重宝である百歌仙「紀貫之が書いた色紙」も奪われて無念の最後を遂げる。東間はそのまま出奔してしまう。早瀬家は、色紙を奪われた咎で取り潰しとなる。早瀬玄蕃頭の子息である伊織(梅玉)と弟の源次郎(錦之介)は、父の無念を晴らし早瀬家再興のために、許婚の染の井(魁春)と祝言を挙げ、家来の安達元右衛門(もとえもん:幸四郎の二役)と弥助(彌十郎)兄弟を伴い、四人で東間追うように上方へ向かう。色紙を奪われたことでお家が取り潰しとなり、二人は侍としての身分を失い浪人となったため、敵討ち免許状は持っていない。まずは色紙を取戻し、敵討ち免許状を得て東間を討つ(二つの使命を順に満たすことで早瀬家再興が認められる)旅へ出たのである。あとを追うように、妻・染の井と源次郎の許嫁・葉末姉妹も大阪天王寺門前へ探しに出て来たが東間側に見られてしまう。兄弟も近辺にいるのでは?と逆に察知され、標的となる。(東間のお家乗っ取りの悪企みを計る証拠の手紙などいろいろとあるが・・・省略)色紙も東間も見つけられぬまま、伊織たちは流浪を重ねて東寺近く(大阪市端の西成~阿倍野辺り?)に貸座敷を借り生活をしている。長屋にも住めぬ不安定な経済的困窮度が伺える。早瀬兄弟の供で来た元右衛門は、生来の酒好きで暴れ者であったために、東間の策略から悪の道へ進んでしまい東間側へと寝返っている。伊織と再会してから貸座敷に一緒に住み始めた染の井だが、それも束の間。伊織が色紙と東間を探し歩く不在の日、家宝の色紙が骨董屋で見つかったとの報が入り、買い戻すために200両必要と聞く。そのため妻・染の井が切ない決意をして、歌を一首詠み弥助に託す。「山川の 流れに沈む栃(とち)からも 身を捨ててこそ 浮かむ瀬もあれ」(栃の実の殻は、一度沈んでも水に浮くことが出来る。覚悟を決めて身を捨ててこそ、初めて浅瀬に浮かぶことができる。つまり「自分は身を捨てる決心(自分は遊郭に身を売る)私が犠牲になることで、貴方が浮かび上がることが出来るなら、それは私の想いである。そして、いつの日にか自分を救い出してくれるなら嬉しいけれど・・・本懐を遂げてくれれば救い出してくれなくても諦める」・・・。小判と引き換えに姿を消していく。同じ日に、東間の指図で盲目の按摩に化けた元右衛門が訪ねて来る。「過去の因果で目が見えなくなった」と弱々しく語り、心根が優しい実弟の弥助へ情実で訴え取り入ったところで、染の井のいきさつ一部始終全てを聞いてしまった。そのため情けをかけてくれた実弟の弥助を殺し、染の井の身売りの金を奪い盗り去ってしまう。(弟の源次郎は病で臥せており、夜眼が不自由で気付かないまま・・・多分、栄養失調?)元右衛門は源次郎も殺そうとするが、丁度伊織が帰って来たのに気付き慌てて逃げ出す。その際、帰ってきた伊織は夜の暗闇で元右衛門に不意を突かれて足を切られて不自由の身になってしまう。(伊織は相手が元右衛門と気付いていない)元右衛門が慌てて逃げ帰る様は、いかにも小悪人で三枚目に見えてしまう。更に時が経ち、伊織兄弟は福島天神の森(非人の部落)まで落ちぶれ果て、物乞いをしながらムシロ小屋で貧窮の日々を過ごしている。東間はそんな兄弟を偵察しながら、少しばかり元気を回復した源次郎が東間を探し出すための留守を狙い、元右衛門に指示をして奴(錦吾)を供に、兄の伊織をいたぶり殺してしまう。伊織の虫の息を確認しながら、過去の悪事を伝える元右衛門・・・「いや、まだあるまだある、うぬが女房染の井の身代金も、この元右衛門様が着服したのだ。」「びっくりするな、まだあるまだある、うぬがその躄(いざり)になったのも、俺がしたのだ」の「まだあるまだある」は、本当に憎々しいが・・・悪が増長していく見せ場でもある。さらには、帰ってきて伊織の死を知った源次郎も、気落ちから絶望したところを襲われ川へ投げ込まれる。(ここまで元右衛門を悪の権化のように書いてきたが、結局は東間の指図通り、彼の掌の中で動いていただけなのだ。)その後中村吉右衛門が演じる人形屋幸右衛門、八代目大谷友右衛門などの登場で粋で味のある演出があり、最終章へ向かう。(以下略)敵討ちのために艱難辛苦の生活を続ける早瀬兄弟達だが、場面場面で身分に拘りなく多くの人々と出逢ってはホッとする癒しの工夫があり、善意に助けられながら成就して行く190分は、観ていて疲労感がない!
fuck you!! my love!

fuck you!! my love!

643ノゲッツー

OFF OFFシアター(東京都)

2011/05/11 (水) ~ 2011/05/16 (月)公演終了

満足度★★

大入り袋は貰ったけれど・・・
OFF・OFFの舞台で満員!最低70人位観客が入っていたと思う。
終演後に主宰から今後ともご縁がありますようにと大入り袋が観客全員に配られ嬉しかったけれど、芝居の内容は・・・?
芝居の基本的な構成軸がない!
芝居は全てが散漫としていて、一寸だけコント的なお笑いがあるが、本も演出も役者も、残念ながら未熟だと思う。
私達夫婦へも大入り袋を頂いて本当に申し訳ないけど・・・  ★★ 
以下はネタバレBOXにて・・・

ネタバレBOX

◆保育園・保育士の設定での芝居だけれど、基本テーマが絞れていない。芝居は人の情感へ訴え、心の機微に触れ刺激しながら、観る者観せる者が双方向で楽しむものと思うが・・・!?11名ものキャスティングが必要なの?テーマ・配役ともに絞って構成すべき!と思う。◆タイムカプセル発掘でドクロが出てきたときは、ミステリーかスリラードラマ的に展開していくのか・・・?期待したけれど・・・◆IT関係者を装った保護者の地上げ不動産屋が出てきた時は、保育園存続問題へと展開していくのか・・・?その期待もしたけれど・・・◆二度目のドクロが出てきたときも、失踪した夫を探す保護者の殺人サスペンス風の芝居へ発展していく・・・?これも期待したけれど・・・◆研修保育士が何故いきなり心変わり?その訳もよくわからない・・・◆保育士さん達が劇中何度も笛で吹くテーマ音楽がクワイ河マーチなのだけど、保育園が大空襲時に被害に遭った人々を土葬にした場所なので、タイムカプセルとドクロ発掘などから、「戦場にかける橋」クワイ河マーチ拘りなどで反戦平和・・・でも終始ハイテンションで、掘り下げも不十分なので反戦平和の訴え?ともいえないし・・・全てがダラダラ感で発展がなく中途半端で残念!◆しっかり演技の出来る主人公を軸にしながら、役者を絡めて展開していく本の書き換えなどで、仕込み直して捲土重来を・・・・・。
五月大歌舞伎

五月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2011/05/01 (日) ~ 2011/05/25 (水)公演終了

満足度★★★★★

演劇の非日常性・・・夜公演
籠釣瓶花街酔醒(かごつるべさとのえいざめ)。中村吉右衛門が、元禄九年吉原百人切りの実話を題材とした明治時代の上演から絶えていた場面を百有余年ぶりに復活し、発端より大詰まで上演するという話題の舞台。ここの籠釣瓶は、籠で作った釣瓶は汲んでも水が溜まらないことと同じように、人を切っても血糊も付かぬ切れ味落ちずに血を吸い足らない名刀の意である。その名刀を吉右衛門演じる次郎左衛門が持ち、吉原一の花魁八ツ橋を演じる中村福助の艶やかさとの調和が見事だ!吉右衛門の演技やせりふは言うまでもなく懐深く大きな演技・数々の引き出しがみられるが、福助にも、縁切りの場の名セリフ「つくづく嫌になりんした」は八ツ橋自身の境涯ともとれ、名女形への進化成長など・・見どころ満載とても楽しめ嬉しい舞台だった。
それにしても感じたのは、演劇の持つ、善にも悪にも花が咲き喝采を浴びる非日常性である。
天候に晴れもあれば雨もあり、台風もあれば大吹雪もあるように、人の心も日々不順である。人は一人では人間と言わない。芝居も同じで人が演じるのであるから、たとえ同じ演目同じ役者でも、同じものが出来る筈がない。昨日の芝居と今日の芝居、明日の芝居は同じではない。芝居に関わる人が増え、人と人との間ではじめて間合いが生まれ、舞台の作品が成熟していくのである。そして、同じ作品でも役者が変われば違う作品になリ、味を工夫し得意が生まれていく。演劇に情熱を持ち挑戦し続けることから伝統が生まれ、昇華して後世に残ることになるのである!演劇を志した以上、どのジャンル演劇集団も未来へ継承するよう努力をして欲しい!

ネタバレBOX

江戸時代の享保年間元禄九年に起きた事件「吉原百人斬り」を題材に、黙阿弥の門下生・三世河竹新七が書いて明治21年(1881年)5月1日に現在の明治座で初演された。
佐野次郎左衛門を初代中村吉右衛門・花魁の八ツ橋 は六代目中村歌右衛門が演じ、縁切の場の「花魁、そりゃあ、ちと袖なかろうぜ」というセリフは巷でも流行語になったらしい。

江戸時代の吉原では、最高級の遊女の花魁は、客との初対面の挨拶が終わると、かむろ以下すべて関係者を連れて、遊郭の中を練り歩いて帰る。その際、御贔屓客が来ている他の茶屋に向かって見染めとして挨拶する意味で微笑む。この時に、挨拶された茶屋は祝儀を花魁に贈るのが習わしとされ、花魁が挨拶する数が多いほど人気があり格が上とされた。「見染め」で八ツ橋が微笑むのはそのためで、次郎左衛門は自分にしたものと誤解するところから悲劇が始まるのである。
下野国(栃木県)の豪農佐野次郎兵衛(段四郎)が遊女お清を妻に迎えるが、妻が病気(梅毒)になったため捨て、良家へ婿入りする。捨てられたお清はすがり付くが惨殺してしまう。それが祟りで、次郎兵衛は悶絶死、次男の次郎左衛門(中村吉右衛門)は疱瘡(天然痘)に罹り、一命は取り留めるも酷く醜いあばた顔になる。
その後成人し、絹商人として成功した次郎左衛門は、江戸よりの帰途に金を奪われそうになったところ、浪人都筑武助(中村歌六)に助けられる。その恩義から武助を家に招いて剣術を習いながら世話をするが、根が病弱な武助は間もなく病死する。死の際に、武助から今までの礼・形見として「籠釣瓶」という刀を授かる。この刀は一度抜くと血を見ないではおかないという村正作・名刀の籠釣瓶(かごのつるべ)であった。籠で作った釣瓶は汲んでも汲んでも水が溜まらないことと同じように、切っても切っても切れ味落ちず血を吸い足らないとの意で、その妖しい名刀を今は吉右衛門演じる次郎左衛門が持っている。
江戸へ絹を売りに来た佐野次郎左衛門は、下男冶六(中村歌昇)とともに華やかな吉原を見物する。いかにも田舎者のなりの二人は、客引きにあやうく騙されそうになり、茶屋の女主人・立花屋お駒(中村芝翫)に「今日は帰りなさい」と諭される。いったん帰途を決意した次郎左衛門だが、花魁道中の八ツ橋(中村福助)を見かけ、見染めの笑顔に一目惚れをしてしまう。 花道の付け際で、福助演じる八ツ橋が見せる艶ある微笑みと、舞台中央で茫然自失、腰が抜けたようにへたり込み、いかにも田舎者の次郎左衛門を演じる吉右衛門との対比が絶妙で見せ場である。
佐野次郎左衛門はいったんは帰郷するが、その後八ツ橋のもとに通いつめ、実直な次郎左衛門とのあいだで、近々に身請けをすることで話がまとまる。一方、八ツ橋の養父であるやくざ者の釣鐘権八(中村彌十郎)が立花屋を訪ね、金の無心を頼むが、あまり度々のことなので断わられてしまう。これを恨んだ権八は、八ツ橋の間夫(まぶ:情夫)である浪人・繁山栄之丞(中村梅玉)の家へ行き、次郎左衛門の身請けの話を伝える。八ツ橋のもとへ来た権八と栄之丞は、次郎左衛門に愛想尽かしをするよう無理強いする。
次郎左衛門は、商売仲間二人を連れて茶屋に遊びに来ている。芸者や幇間も交えて大勢でにぎやかに酒宴をしているうち、遅れて八ツ橋が顔を出す。
八ツ橋は、「身請けをされるのはもともと嫌でありんすから、お断り申します。この後はわたしのところに遊びに来て下さんすな!」と次郎左衛門に愛想尽かしで、満座の中で恥をかかせる。八ツ橋は部屋を出ていき、商売仲間らも次郎左衛門を馬鹿にして行ってしまう。
残された次郎左衛門は、立花屋の主人に、八ツ橋のことはあきらめ「振られて帰る果報者とはわしらのことでございましょう。」とのせりふを残し寂しげに故郷へ帰ってゆく。
その後暫く八つ橋は元気なく、心許す同じ花魁の九重(中村芝雀)に、次郎左衛門に詫びを入れたいと打ち明け、九重が仲介をしましょうと二人で打ち合わせている最中に、次郎左衛門が四ヶ月ぶりに立花屋に顔を見せる。八ツ橋は嬉しそうに笑顔を見せているが不安げな表情もみせる。(福助の着こなししぐさなど玉三郎に続く名女形と感じながらみていた。)次郎左衛門は、また初会となって遊びたいと、立花屋へ申し出ると大歓迎を受ける。しかし、八ツ橋と二人だけになると表情が一変する。次郎左衛門は「コレ八ツ橋、よくも先頃次郎左衛門に、おのれは恥をかかせたな。」と「籠釣瓶」を抜き、逃げる八ツ橋を切り殺す。
狂気した次郎左衛門は刀を燭台に透かし見て「ハテ籠釣瓶はよく切れるなあ。」と笑いながら、八つ橋の間夫栄之丞や釣鐘権八などと江戸吉原中での大殺陣周りをみせる。(この場からは、先程までの人の好い善人次郎左衛門の演技とは異なり、吉右衛門の懐深い芸風で悪の権化を見事に演じてみせる。)
そして最後の場では、瓦屋根にまで昇り、火消連中相手に大量の水で攻められるなどの仕掛けもあり、次郎左衛門の瓦屋根上での見栄で幕となる。
ハッピー!!―夢ヲ見ルマデハ眠レヌ森ノ惨メナ神様―

ハッピー!!―夢ヲ見ルマデハ眠レヌ森ノ惨メナ神様―

おぼんろ

GALLERY LE DECO 1F(東京都)

2011/04/28 (木) ~ 2011/05/05 (木)公演終了

満足度★★★

もっと丁寧に・・・己を磨いて大志を!
3周り程以上の後輩だが、震災3日後には少しでも義援金を集めようと一人路上パフォーマンスを行うなど立派で誇らしく思う!帰り際「コクーンに留まらず演博を!」と末原拓馬さんへ激励をしたが・・・。芝居は、前説から末原拓馬さん自身が全てを仕切ってそのままダラダラと入った感じ・・・教職課程を取っていたのかな・・・?学校の教室のよう・・・素敵な末原康次氏の楽曲と共にタイトル幕が下りてやっぱり芝居だ!と自覚する。それでも前説での拓馬さんの声・風体の印象が強く残り、なかなか切り替えモードのスイッチが入らない。蚕は羽化しても飛べない生物なのに・・・狙いが有るのか?孵化?羽化?の台詞も理解不能で・・・。倫がめぐに告白するクライマックスシーンから商業演劇らしくなった。それまでは狙いは良いけど企画が空回り・・・?個性・演技とも豊かな仲間に恵まれていて、小屋がル・デコであり日本人の観客側も優しく許容範囲になるのだけど、さらに大きな舞台を望むのであれば、自身の変革と相当の役割委譲はすべきと思う。本は面白い。アニメにしても・・・と考えながら観ていた。エンディングでは末原康次氏がこの芝居・愛息のための楽曲がフルに聴けた。失礼な言い方で誤解ないように解釈して欲しいが、クラプトンを連想させるような素敵なメロディーラインに大喝采!ではそろそろ出発です。明日も同じ4月30日・・・47STで何を見ようかな?拓馬さんへの新たなエール「日本人の優しさを忘れずにブロードウエイを目指しても良いのでは・・・大志を抱け!」★★★

チェロを弾く女

チェロを弾く女

cineman

新宿ゴールデン街劇場(東京都)

2011/04/28 (木) ~ 2011/04/29 (金)公演終了

満足度★★★

チェロの音色のチカラ・・・
いつもフリばっかり・・・いつも我がお内儀様に言われ心当たりがある自分は自戒の念もあり、観てこの台詞がギィ・フォギイ・フォワシィのブッラクユーモアと感心?思わず吹き出しまう・・・
昼公演のせいなのか?台詞を大切にしていた渥美國康さんの門下生らしくなく何度か噛むこともあって・・・チェロを弾くフリも、手だけが動いているけど身体が動いていない・・・堀ひろこさんの出来は必ずしも良くないなぁ~と思って観ていた。
演出・鈴木穣さんが言っている「役者としての音(声)、体、動き、感じること、そして嘘のつき方・・・容易くできると思っていたこともできない・・・これ、演技です。自分にはできないと決めつけていたことができると発見する・・・それも、演技なんです。」と・・・。独り芝居の演技・・・フリばっかり・・・大切です!★★★以下ネタバレで

ネタバレBOX

堀ひろこさんの演奏フリ演技を見ながら、舞台上の左奥でそれに合わせてチェロを身体全体で演奏する白神あき絵さんがいなくては成り立たない舞台を創っていた。音も素敵だ!
堀さんも努力したろうけど・・・独り舞台の拘りが強かった理由は・・・?

白神あき絵さんのチェロを聴いてから渋谷へ・・・お内儀様と待ち合わせて、チケットぴあ主宰のチャリティー・サイレント・バイオリンの演奏会を聴く・・・これも実に素晴らしかった!
その後、二人で一緒に行った夜の別の公演では、末原康次氏作のギター楽曲がテーマ曲になっている。
先日観た深川・安楽亭でも、韮澤有さんが芝居のために作曲したチェロ演奏が、テーマ楽曲や暗転も含めた音響になっていた。
4月初めに観た芳本美代子さんのラブ☆ガチャでも、音響のチカラで舞台や座の雰囲気・空気感を創り変える力があるとコメントしたが・・・
特に弦楽器は、心が安らぎ演出を情緒深く洗練されたものにするので、演出・音響のセンス良いバランスで、この原作含めてより多くの舞台演出に使われることを期待している!
深川安楽亭

深川安楽亭

劇団ユビキタス・アジェンダ

座・高円寺2(東京都)

2011/04/20 (水) ~ 2011/04/24 (日)公演終了

満足度★★★★★

流石に俳優座・・・花の十五期!
この深川安楽亭は、私がW大大学院の頃、郷土・大学の先輩で【四期の会】小林正樹さんが監督で映画化した事を想い出す。仲代達矢・栗原小巻・山本圭・吾がマドンナ酒井和歌子・中村翫右衛門・佐藤慶・岸田森・近藤洋介・植田峻・神山繁・中谷一郎・滝田裕介・勝新太郎と蒼々たるキャスティングだった。祖父が放送局関係者だったので、祖父自身元祖コマキストと褒めまくっていた栗原小巻さんは、俳優座養成所第15期生・・・この旗揚げ劇団主宰・溝口舜亮さんと八町掘り同心・岡島役の片岡五郎さんも15期生・・・芝居が安定しているわけだ!
その他15期には原田芳雄・太地喜和子・赤座美代子・前田吟・林隆三・夏八木勲・村井国夫・竜崎勝・地井武男・小野武彦・浜畑賢吉・秋野太作・高橋長英と個性的で優秀な多くの方々がいて、俳優座でも特別に花の15期と言われている。私は素人だけど、地井武男さんのちい散歩に出演した事、小野武彦さんとは偶然にイタリア~スイスの列車の旅で出逢った事も・・・・!
1970年代当時、主宰・溝口舜亮さんはテレビ・東京12チャンネルで放映された「江戸川乱歩・明智小五郎シリーズ」で主役の明智探偵を演じていたなぁ・・・。演出演技陣も熟して文句ない!本も仕込みも良いし芝居の花・着物女王・三咲順子さんの艶やかで切れ良い演技も素敵だ。舞台空間の使い方など、芝居はこう創るものと若手劇団の手本であり、懐深い豊かさを是非若手劇団の皆さんにも観て勉強してもらいたい作品である。
演技陣も衣装さんも更に特筆すべきは劇中音響チェロの韮澤有さんで、最高評価文句なし! ★★★★★ 以下ネタバレにて

ネタバレBOX

「安楽亭」は、江戸市中から少し離れた四方を堀に囲まれた島と呼ばれる荒地にある一膳飯屋である。江戸市中と結ぶ唯一の道は、深川吉永町にかかっている橋だけだ。ここには主人の幾造・おみつ父娘に、世間ではまともに生きる事の出来ない親兄弟の縁もない定七・与兵衛・政次・由之助・仙吉などが一つ屋根の下に寄り集っている。愛情に飢えながらも、他人に無関心で互いの情さえ信じ合わない風を装いながら、抜荷した品物を安楽亭に隠匿し、客に応じて運び出すという生業で日々生きている無頼漢達である。ある日与兵衛が、街で無銭飲食の果てに袋叩きにあった商家奉公人の富次郎を助けてきた。富次郎は、幼馴染みで恋仲のおきわと夫婦になろうと誓い合っていた。ところが、おきわの母が病で亡くなり、借金を抱えた父親は娘を女衒の権六に12両で売りとばしてしまった。思いあまった富次郎は、お店の金に手を出しおきわを助け出そうと捜し廻ったが・・・それを果たさぬうち金を使い切ってしまった。次第を聞いた与兵衛が、数日後、おきわの情報を知らせてきたが、身請け身代金として20両必要だ・・・。それを聞いた安楽亭の無頼漢達は、自分達は人助けをする柄ではないと思いながらも、おきわは自分達が一肌脱がなければ救う手だてがないと思案する。そんな折、灘屋の小平から抜け荷の仕事が持ち込まれる。男達は本音では仕事に乗り気がしない・・・小平が手引した前の仕事で、仲間2人が捕り手に捕まり殺されたことから小平に疑念を抱いていた。しかも、八丁堀同心の岡島が安楽亭探索に血眼だ。それでも男たちは義侠心から、20両で小平から持ち込まれた抜け荷の仕事を引き受けてしまう。荒らくれ達は、自分達にはなかった夢を若者に託し、その愛を実らせようと、自らの身の危険を冒して灘屋小平からの話を引受けた仕事の夜・・・満月が光々と川面を照らす中、和蘭陀や唐からの禁制品を積んだ小舟が中川へ入り、安楽亭を目指していく・・・。しかし、彼らの行動を知っていたかのように待ち受けていた捕手の群れが・・・・。一方、以前この安楽亭へぶらり入ってきた男が・・・・?果たして、自らを犠牲にしても人への想いと深い情を鮮やかに描いた物語が、私達へ囁きかけるものは・・・?必見!必考!
四月大歌舞伎

四月大歌舞伎

松竹

新橋演舞場(東京都)

2011/04/01 (金) ~ 2011/04/25 (月)公演終了

満足度★★★★★

緋牡丹お龍と・・・江戸市井の人々と逢う!
夜公演・演舞場の入り口から直ぐ正面にある菊五郎のデスクへ伺うと、琥珀色した鼈甲のメガネをかけたお龍さんが桜色和服で凛と立っていて、恐縮しながらご挨拶。いつもは事務所のスタッフさんだけど・・・。一幕目・義太夫の演目【絵本太閤記】で秀吉をご主人菊五郎と許嫁・初菊を長男菊之助、二幕目・常盤津と長唄【男女道成寺】でも清姫を菊之助が演じているだけに楽日も近くなって客入りもイマイチで・・・。自粛ムードが高いことを感じながら観劇。三幕目では岡本綺堂作の「権三と助十」。十五代目羽左衛門によって大正十五年に初演された演目を三津五郎・松緑が演ずる。この芝居は江戸市井の人々の生き生きとした生活を描く世話物。
英語に堪能で海外の推理小説を耽読していた綺堂は、その知識を下敷きに江戸版推理小説として、江戸風俗考証のテキストづくりという意味あいもあって書いたらしい。芝居にでてくる「井戸替え」は、毎年七夕の季節に現在のライフライン水道・井戸を大掃除する意で、この芝居で江戸の庶民の生活を垣間見るような楽しさがあちこちにちりばめられています。
「権三と助十」は大岡裁きの謎解きをするという推理小説風のお芝居です。以下ネタバレで・・・

ネタバレBOX

名奉行として名高い大岡越前守が江戸の町をおさめていたころの話。神田橋本町の裏長屋では、年に一度の井戸替えで家主・六郎兵衛の音頭とりで長屋中の人々が総出で働いている。それなのに籠かきの権三はさぼって昼寝の最中。
これに腹をたてた籠かきの相棒・助十が、権三の女房のおかんに文句をつけにくる。おかんも黙ってはいないし、それに家主や助十の弟・助八も加わって大騒動になる。
そこへ元この長屋の住人・彦兵衛の息子で、彦三郎という若者が家主を訪ねてくる。彦兵衛は小間物を商っていたが、馬喰町の旅籠の女隠居を殺して百両の金を盗んだという疑いをかけられ、取調べの最中に牢の中で病死してしまった。
彦三郎は父親の無実を信じていて、なんとか父の汚名をそそごうと江戸へ出てきたのだ。家主はその心に打たれるが、一度お裁きが決まってしまったものをひっくりかえすのは難しいだろうと困惑する。
それを陰で聞いていた権三と助十、「犯人は左官屋の勘太郎に違いない」と言い出す。実は事件のあった晩、権三と助十が夜遅く仕事から帰ってくる道すがら、ほおかぶりして血で汚れた着物の袖と光る刃物を天水桶で洗っている男を見たと言う。
それは勘太郎のようだったと二人は思ったが、その後彦兵衛が犯人として捕まったので、係わり合いになるのを恐れた二人は今までだまっていたという。
そこで家主は一計を案じ、彦三郎と権三、助十の三人に縄をうって、「彦三郎の父親は無実だという訴えに、力を貸した権三と助十が家主のところへ殴りこんできた!」と奉行所へ訴えることにする。こうすれば必ず再吟味を開始してもらえるとふんだのだ。
ところが一ヶ月たっても事件は一向に解決せず、そのまま町内あずかりになった権三と助十は仕事にでることもできず家でごろごろしているので、家族といざこざがたえない。そんなところへなんと釈放された勘太郎が角樽を持って二人のところへお礼参りにやってくる。
すっかり意気消沈してしまった権三と助十は平謝り。しかし勘太郎は居丈高に嫌味を言い続ける。そこへ長屋に住む猿回しの飼っている猿がやってきて、角樽にそえてあったのしイカをひったくり、怒った勘太郎は猿を絞め殺してしまう。
その様子を見ていた権三と助十は謝るのをやめ、勘太郎を袋だたきにして、なわでしばりあげる。そんなところへ町方が勘太郎を探しに来る。
やれやれ助かったと思う勘太郎。だが、実は勘太郎が釈放されたのは犯人だという証拠を探す作戦で、かくし目付けに血のついた財布を焼くところを見つかった勘太郎は真犯人として御用となる。
その上牢内で病死したとばかり思っていた彦兵衛も、大岡越前の配慮で無事に匿われていたことがわかり、一同は大喜びするのだった。

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