YUBOの観てきた!クチコミ一覧

181-200件 / 310件中
【公演終了】ブスサーカス【感想まとめにリンクあります】

【公演終了】ブスサーカス【感想まとめにリンクあります】

タカハ劇団

ギャラリーLE DECO(東京都)

2012/02/21 (火) ~ 2012/03/04 (日)公演終了

満足度★★★

ブ・スパイラル
わかりやすく不幸。わかりやすくブザマ。とても良質で、とてもネガティブなエンタメ作品。これを演じきる女優さん達がスゴイなぁ。

ネタバレBOX

ヤクザのヒロシと付き合ってる女達。彼女らはヒロシのために皆で力を合わせて大金を奪い、その際に警備員を二人殺している。今は組の手引きでどこぞの潰れた雀荘に隠れている。逃げてきてから今日で二週間。ヒロシへの連絡は、こちらからは取れず、向こうからの連絡待ちで皆落ち着かない。そんな中ヒロシとの連絡係のノリカが、他の女を出し抜いて皆を殺すんじゃないかと疑われ殺される。ノリカは雀荘内にいる誰かと携帯でやり取りをしていた事が発覚し、携帯にはヒロシからの「お前だけとうまくいきたい」というようなメールが残っていた。犯人探しの中、次々と殺されていく女達。

誰かに認められたい、というこの悲哀は一体何だろう。10代の多感な頃に、容姿が個性的であるだけで劣等感を植え付けられた人は多いはずだ。そしてその劣等感をバネに出来る(例えばお笑い芸人としてコンプレックスを飯の種にして、せめてもの昇華が出来るなど)一部の人間は別として、圧倒的多数はその思いを一生背負うのだ。本作に出てくる登場人物達は皆わかりやすく不幸だ。ヤクザの男につかまるだけあって、ヒロシと出会う前から借金を背負ったり、水商売で働いていたりする。それはつまり、自分の劣等感を克服できないまま、負の連鎖で、悪い方、悪い方へと進んでいく、ブススパイラルなのだろう。略して、ブスパイラルか。どうして、フツウの人達のように、つまづいたらやり直しが効かないんだろう、ブスだからか、諦める、というブスパイラル。

冒頭から強盗殺人して逃げ隠れてる所から始まる物語に、明るい未来なんてあるはずもない。でも一方で彼女達は、疑いながらもヒロシがやってくるのを待っているし、ヒロシが来たら皆で踊って迎えようと健気に練習を重ねるのだ。それは、ヒロシという、自分達の人生での最初で最後の救いなのだろう。


当たり前に、自己肯定出来る人にはわかるまい。救われたくて、端から見たら常軌を逸して、安易に殺人を重ねてまで、やり直したいと願う気持ちを。そこまで追い詰められてしまう気持ちを。多くの人が当たり前に出来ることが、出来ない人がいるのだ。

追い詰められた状況や、ネガティブすぎる発言や、死に様。そうした負の空気を、笑いを多用して見せるエンタメ作品だった。
楽園!

楽園!

工藤俊作プロデュース プロジェクトKUTO-10

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/02/15 (水) ~ 2012/02/19 (日)公演終了

満足度★★

フツウ以外の全部
「解放」と「楽園」をキーワードに、平凡や普通を突き抜けたものばかりがごちゃまぜになって、その雑然とした感じの中で、色々な答えが一気に提示されて、訳分からなくも楽しかった。

不機嫌な子猫ちゃん

不機嫌な子猫ちゃん

水素74%

アトリエ春風舎(東京都)

2012/02/15 (水) ~ 2012/02/20 (月)公演終了

満足度★★★★

誰がために
とんでもないものを見てしまった。理屈でギッチギチで、不条理なのに現実につきつけて考えさせられるし、笑えるし、でも気持ち悪い。これは、また一つ気になる劇団を見つけたなぁ。良い意味で、すっごい居心地の悪い空間だった。

ネタバレBOX

私があなたといたいのは、あなたの気持ちとは関係ないから、勝手にあなたと一緒にいようとする。依存したり味方である事だけが家族ならとても息苦しい。でも血なんかつながってなくても家族でいられるってのは新鮮。登場人物達がみんな、一生懸命味方を探して、依存しようとするのはとても異常に見えるけど、とても人間らしいなぁと思いました。

ある母娘の住む家。門限を過ぎても帰ってこない娘(市子)を母(愛子)は外へ探しに出掛けている。家には、叔父(隆史)が一人留守番している。帰ってきた市子に、隆史は「俺が父親(代わり)になってもいいい。君がまっすぐ育つために」と言い出す。暴力に訴えながら執拗に迫る隆史へ「母が心配だから迎えに行きたい」と市子が訴えると、隆史は代わりに迎えに行くと家を出て行く。

入れ替わりに家にやってくるのは、市子が出会い系喫茶で知り合った男(中島)。中島は、市子の制止も無視して執拗に「お母さんに挨拶して一緒に住む事を認めてもらおう」と言う。「君だけは僕に嘘をつかずに味方でいてくれるよね」と迫る。しかし実際は市子はニートであることも年齢も中島に偽っている。帰ってきた愛子は、市子の帰宅を喜び、中島を追い返そうとする。「あなたのやることに反対しない。でも、あなたがいなくなったら……(カッターを取り出し手首に当てる)」と脅す愛子。お母さんのやってる事は冗談なんだから早く僕の家に行こうよと迫る中島。隆史が帰ってきて、中島に立ち向かうもあっさり押しやられてしまう。市子は中島に外へ連れ去られる。

残された隆史は愛子に、「僕は姉さんの夫になってもいいと思ってる」と迫るも、「私には市子が必要だ」と言われ、隆史は家の奥へと逃げる。新たに家に来訪したのは、市子の友人(道子)。道子は「市子が家に帰ってこない」と愛子に呼び出されたのだ。愛子はとっさに「市子は帰ってきて寝てるから帰ってくれ」と言うも「市子さんにこういう事はもう止めてほしい」と直接言いたいと居直る道子。あなたは関係ないんだから帰れと言い続ける愛子に理不尽さを感じた道子は「この世界はあなた達2人のものなんですか」と言い返す。平行線の2人の前に、女装した隆史が現れ「不完全な私だけれど、もっとキレイになるから私を娘として受け入れる努力をして」と迫り、愛子もそれを受け入れようとする。それならば私を娘にして、と道子も迫り、愛子は道子を娘にする。

そこへ、中島をカッターで刺して殺したと市子が帰ってくる。しかし、愛子は私の娘はこの子(道子)だと言って、市子に帰れと迫る。腹にカッターを刺したままの中島も家に戻ってくる。隆史は「もっとキレイになるから私を守って」と中島にも迫るも一蹴される。結局、市子は中島を背負って家を追われて外へ出る。家の中では、愛子と道子が「お母さんの子に生まれて良かった」「私があなたを産みたいから産んだのよ」と抱き合う姿が演じられ、暗転。

不条理だけど、わかりやすいのが良い。このバランス感覚、すごいなぁ。
ハローワーク

ハローワーク

国分寺大人倶楽部

テアトルBONBON(東京都)

2012/02/08 (水) ~ 2012/02/19 (日)公演終了

満足度★★★★★

ずーっと見てたい
虚構性の強い、マンガを読んでるような壮絶な物語にやっぱりシビレテしまう。テーマは違えども、毎回会話から浮かび上がるキャラがありありと現れてズブズブはまっていくのだ。もっと早く出会いたかった劇団、活動休止残念ですが皆さんの今後の活動にも注目だなぁ。

ネタバレBOX

観客の好奇心や期待を煽るような設定と登場人物を創り上げるのが本当にうまいと思う。こういうタイプの人はこういう言動行動するに違いないという世間の思い描くキャラ設定をものすごく忠実に再現したキャラクター達。そうしたキャラになりきってダラダラ雑談していく中で紡がれるドラマは、心理描写はほとんどなくてもとてもリアルに感じる。そのリアルは、共感ではないし、劇場の外には持ち帰れないんだけど。あぁこんなにドンピシャに想像通りの人物が本当に目の前にいて喋って動いているっていう感動だ。そして、クライマックスで急展開して一線超えたり、見ていた世界が簡単に破綻したりする。ありえないほど、いやありえないからこそ壮絶さが笑える。観客に都合の良い「愛青春死」をデフォルメしまくった虚構を、きちんとエンターテイメントにして提供してくれるのを毎回楽しみにしていました。

個人的には、今作の小林とか前作リミックス2の1編(ガールフレンド)に出てたような童貞臭丸出しの男とその男を翻弄しようとする女の感じとか、毎回のように出てくる人生なめてる感じの若者達の、その振り切れたキャラクターが、ありえねーと思いながら大好きでした。
バックギャモン・プレイヤード

バックギャモン・プレイヤード

カムヰヤッセン

吉祥寺シアター(東京都)

2012/02/09 (木) ~ 2012/02/13 (月)公演終了

満足度★★★★

戻れない場所へ
わかりやすくて、スッと入っていける優しい空間。ただ描こうとしている世界が壮大すぎて、あぁ壮大だなぁという印象しか残りませんでした。豪華な客演陣で大きな劇場で良いテーマで、もう少し丁寧に人物が描かれると共感も大きいなと思いました。

ネタバレBOX

便利で豊かな僕らの生きている現在の資本主義社会は幸福なのだろうか?
「3・11」を強く意識して創作されたんだな、と感じる作品内で語られるのは「効率」と「競争」。それは、昨年(2011年)6月に、スペインで「カタルーニャ賞」を受賞した村上春樹の授賞式のスピーチにも通じるところがあるなと思いました。

「知らない事を知っている」村人達は、「知らない」けれど幸せに暮らしていた。ある時、隣村の要請に押されて物知りを受け入れ、村の運営を委ねる事になる。村の人達は、物知りの助言を受けて「効率」的に生産性をあげ、周囲の村と「競争」しながら、人を雇ってより多くの富を得る事が出来た。しかし、村民の一人、花火師の男が村に火をつけて逃亡。もともと、土壌に燃えやすい土が多いことで、花火が盛んな事で有名だっただけに、消火後も火がくすぶりいつ再び発火するともわからない不安定な場所となってしまった。村民は村を追われ別々の地へと散り散りとなる。

何より、わかりやすく本質に迫る物語の構造はスゴイなと思う。現実の原発事故と、物語では住めない理由が圧倒的に違うけれど、戻れない場所への、故郷への思いは同じかなと思う。「効率」や「競争」で図れない幸福についての問い掛けは、考えさせられる。ただ、「知ってなお生きていく」、その先の物語が見たいな、と思ってしまい未消化な部分が残る。
LOVE02

LOVE02

ロロ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/02/05 (日) ~ 2012/02/13 (月)公演終了

満足度★★★★★

まんきつ
情報過多でめまぐるしいの、も好き。何でもありなの、も好き。好きってこんなに言うのって位言うの、も好き。わかるの、も好き。わからないの、も好き。馬鹿馬鹿しいの、も好き。共感より驚きが魅力的なの、も好き。何でもありを体現できる役者陣、も好き。永遠に終わらないの、も好き。全部、好き。

渡辺美帆子企画展「点にまつわるあらゆる線」

渡辺美帆子企画展「点にまつわるあらゆる線」

青年団若手自主企画 渡辺企画

アトリエ春風舎(東京都)

2012/02/05 (日) ~ 2012/02/12 (日)公演終了

満足度★★★

人間の展示
観客は自由に動き回っていいから、気がつかない間に自分が出演者達に囲まれていたり、出演者に話かけられたりして、見てるのか見られてるのか、見てる観客を見てるのか段々わからなくなってくる。見たことない見て、体感出来たけれど、何が起こってるのかは理解出来ませんでした。

ロゼット〜春を待つ草〜【ご来場有難うございました!】

ロゼット〜春を待つ草〜【ご来場有難うございました!】

ハイリンド

「劇」小劇場(東京都)

2012/02/03 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了

満足度★★★★

ホッとする話
出てくる人物達は、現実世界と地繋ぎで生きているな、という位迫真のたたずまい。その言葉、その動き一つ一つが繊細で、自然だ。ややともすると簡素で、退屈になってしまいそうな日常、その中の機微をきちんと感じられる物語に仕上げっていて共感も多かったです。同時に登場人物達と同じ位の年齢なだけに、色々考えさせられたりもして。

ネタバレBOX

ワークライフバランス、なんてキレイな言葉ではくくれない程、日常は現実に追われている。ただ、何かを得ることに執着しすぎて、別の何かを失うのは寂しい。

登場人物達を取り巻く現実は、「両親を早くに亡くす」だったり「夫とうまくいかず離婚するかもしれない」だったり「起業したがなかなか軌道に乗らない事業に取り組む」だったり「ガンになった」だったりする。答えは出ないけれど、直面する現実に前向きに立ち向かう人達の思いが丁寧に描かれてるなと思いました。その姿は、まるで春を待つロゼットのよう。劇中「みんな幸せになれればいいのに」という台詞があった。人生が単純な足し算である訳はないけれど、足りないものを大切な人達と補いながら幸せを実感して生きていくのかなぁ。心が温まる、ホットする舞台でした。

あと、枝元さんのポールダンスのシーン、めっちゃツボでした。
dogma/黒髪と魚の足とプレシオサウルス

dogma/黒髪と魚の足とプレシオサウルス

劇団パラノワール(旧Voyantroupe)

サンモールスタジオ(東京都)

2012/02/03 (金) ~ 2012/02/12 (日)公演終了

満足度★★★

死んじる
青の章「dogma」を観劇。一周回ってとてもまともな話。色々な事を考えさせられる。飛び抜けた設定で、狂っていて、常軌を逸した人達が出てくるけれど、観劇後の後味の悪さはない。これ以上やっちゃうとエンターテイメント感が損なわれちゃうよなと思うような、人が引かないギリギリラインを攻める物語のバランス感覚は絶妙。ただ、個人的な好みとしてはもっと「無様」な価値観揺さぶられる話を期待していっただけに、設定も役者も良いのに長く感じた。

ネタバレBOX

何でこんなに死ぬ事が怖いんだろう。平和だし五体満足だし、多分明日も当たり前の日常があると信じてるのに。きっと、自分は切り立つ崖の上にいて選択を誤ると死んで(殺して)しまうことを想像するからだろう。

でも生きてるのも息苦しい。平和ボケだし日に日に体力落ちていくし、明日も大きな幸せもない単調な一日だから。でも代わりに大きな不幸もないはずだと信じてる。僕らはこういう生への喜びと死への恐怖の繰り返しで生きてる。死ぬのは怖いから、「dogma(教義・独断)」にすがりたくなる。

僕なんかがツラツラ感想書くより、劇団の特設ページにものすごい詳細な内容が記載されてるのでそっちを見たほうが楽しいと思う。しかし、観劇前に全部読んでいくの結構大変な量だと思う。よくこんな細かい設定考えるよなぁ。

「勉学を怠ると死・解答を誤れば挫折の死・模範となる解答を導くと栄光の死」というどう転んでも死んでしまうであろう教義の下に運営される学園の卒業式の話。同級生390人以上が死んでいる状況で、卒業を迎えられそうなのは僅か8人。そして、その8人には卒業を前に卒業演習という名目で教義についての問答がなされる。教義に懐疑的な教師、ゴダイの受け持つ2組からは5人の卒業候補生が出ているが、他クラスは在学中の道徳の時間に習ってる教義を、2組だけが一切教わらず音楽や映画など娯楽を楽しみ「生きる喜びを実感して」過ごしていた。卒業演習は教義をしっかり習熟しているかについての試験なので、当然2組の生徒は何もわからない。卒業演習に正解すれば栄光の死、不正解ならば挫折の死。ゴダイは卒業演習中も「教義は間違っていて、生きることは無様で戸惑うことだ。」と言い放つ。そして、ある者は生き延びて、ある者は死んでいく。

漫画みたいに「ある条件の下にゲームに勝つと大金や栄誉を得られる」設定でもなく、生まれながらに戦場で兵士として生きたりストリートチルドレンとして生きないといけない時代や場所で生まれた訳でもなく、ましてや特定の宗教に傾倒する人の少ないこの日本で、ただ「教義を信じて死ぬ」事が幸福だという設定はとても奇抜に見える。でも、自殺者年間3万人・昔は切腹で責任を取り、特攻隊でお国のために死んでいった日本は「死をもって責任や生き様を昇華させる」国でもある。死ぬのは怖い。痛みや苦しみなんて考えたくもない。だから、そういう事を考えずに死にたいのはわかる。「信じるものは(苦痛や苦労を伴わず)救われたい」のだ。登場人物の一人、学年主任のモリクニは劇中「お前達が、(小学生の時分から12年間過ごした)この学園から一歩外に出たら容姿や言葉使いやキャラクターで必ず挫折する。その前に、栄光のまま死んだ方が良いんだ。」と教義の絶対性を口にする。この学園の教師も、元はこの学園の卒業生である以上、教義は絶対でなければならないのだ。

物語の終盤「教義を逆説的に問うが、この人はいつ死ぬべきか」答えなさいとして壮絶な不幸話が語られる。その不幸な境遇をバネにして、人はそれでも生きるべきだと説き、その言葉に感化されて何人もの人が生きることを実感する。そして後には、教義を否定したら自分の存在価値が無くなると言いたげに崩れ落ちる学年主任のモリクニと、教義のために自分の恋人を見捨てたと言いたげに泣き落ちる生徒イガが残され暗転する。

観劇後もやはり、生死に関して実感の持ちづらい息苦しい日本に生きている。個人的には無様に生きなくても、日本には憲法第25条生存権「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」とあるんだから、もっと伸び伸び生きれたら良いのにって思うけど。でもそんな事を考えながらも自分で何かアクション起こす訳もなく、今日も大きな幸せも不幸もないこの世界で生き延びようと思う。
カップルズ

カップルズ

鵺的(ぬえてき)

「劇」小劇場(東京都)

2012/01/27 (金) ~ 2012/01/31 (火)公演終了

満足度★★★★★

フツウを問う
目の前に起こってるのは事件。人が超える一線の手前とその先。リアルで生々しい空気と、それを魅力的に包み込む物語の嘘の心地よさ。そのバランス感覚が絶妙。会話劇で応酬されるメリハリの効いた、耳に残る効果的な言葉の数々。重たい内容で衝撃的なシーンもありつつ、観劇後の感じは悪くない。むしろとても心地よい事に驚く。それだけ、丁寧に物語を伝えているから共感や共鳴というより、鵺的の公演に遭遇・同席という感じ。観客と物語の距離感が近く感じる。

ネタバレBOX

普通のセックスとは何か。性的な指向の「セックス」はまだまだ個人的なものに追い込まれているし、生物学的な「セックス」はタブーとすらされてる気がする。そんなセックスマイノリティという問題に真っ向から向き合う本作にとても共感する。アフタートークで作演出の高木さんが過去の作品「クイアK」との同一性に触れ、もう一度やりたかった思いを語っていた。幸運にも「クイアK」を観劇し、台本を購入していたので読み直してみると確かに同じテーマだ。どちらの作品にも自分の性的欲求に関して受け入れてしまうと「世界が変わる」という台詞が出てくる。僕の友人にもゲイだとカミングアウトしてくれた人はいるが、誰彼に言える話ではないし、偏見も多いと思う。嗜好というには軽すぎるし、依存や逃避のための行動に貶めるのは不幸だ。劇中に何度も言われる「普通のセックス」とはなんだろう?それを楽しめる人がどれだけいるだろうか?という問い掛けを感じる、良質なエンタメ作品だった。

物語の中心は、吉川と池谷の男2人だが、その周囲を取り巻く女性陣がリアルで魅力的で、特に宮嶋さんの演じる亜里香に圧倒された。「相手の事を考えてやらないと気持ちよくないよ」と語られる一方でクライマックスで「私のことなんて考えない自分勝手なセックスのほうが興奮する」とも語られる相反するようで相関する哲学。「私と池谷は特別な関係でつながっているのよ」という重み。ラストの「これでつながれたね」も良い。「素直になると壊れてしまう」の台詞が印象的な登場人物の中村の複雑な気持ちもとても丁寧に描かれていたと思う。
ある女

ある女

ハイバイ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/18 (水) ~ 2012/02/01 (水)公演終了

満足度★★★

つかみきれない
菅原さんの回でした。やみつきになるような、ゆる~い空気。どこか肩透かしにあうような独特な空気で物語は進むのに、観劇後に劇中の幾つもの言葉がいつまでも脳裏に残る。不思議な魅力のある芝居でした。

ネタバレBOX

終盤のグルグル回り続ける姿と、タカコの置かれた境遇が相関して息苦しくなるようなラストシーンでした。
吐くほどに眠る

吐くほどに眠る

ガレキの太鼓

こまばアゴラ劇場(東京都)

2012/01/06 (金) ~ 2012/01/15 (日)公演終了

満足度★★★

面倒くささ
独創的な演出でクルクル変わる衣装が楽しい、こうしたパフォーマンスをやりきる役者も演出家もすごいなーと思う。ただ、個人的にはせっかくの物語への意識が分散されるような見え方がして、勿体ない感じでした。物語はとても共感、この面倒くささが人間だなぁと思いました。

ネタバレBOX



主人公のナオが言う「本当に優しい兄」がどうして、自殺未遂をして彼女を苦しめるのだろう。「本当に優しい母」がどうして、彼女の元を一時去って苦しめるのだろう。そして何より、病の様な家族というしがらみから、どうして彼女は逃れられないのだろう。病気といったり、弱いと一蹴するのは簡単なんだけれど、ひざまずいて許しを乞う彼女を救う術はないのかなぁと思ってしまう。それは、ひっくり返して自分自身が救われたいのかも、などと自分の弱さを見透かされてるようでもあった。
ウィリアムの仇討ち

ウィリアムの仇討ち

うさぎ庵

ザ・スズナリ(東京都)

2011/12/27 (火) ~ 2011/12/29 (木)公演終了

満足度★★★★

ドキドキげき
先が見えない緊張感のある展開にドキドキ。こう来たか~、と思わせるラスト。ポストパフォーマンストークで渡辺源四郎商店の畑澤さんの話も聞けて大充実。今年最後の観劇の締めくくりに最適な良質な内容だったなぁ。

ネタバレBOX

入り口を入ると、両側を客席に挟まれる形の舞台。僕は、舞台を渡って奥手の最前列で観劇しました。個人的には奥手の方が楽しい気がしました。入り口入ってすぐの手前側を、上演中役者が行き来するのでその様子も奥手だと楽しめます。

物語はハムレットを明らかに下地にした、文字通りの仇討ちもの。だからハムレットのあらすじを知らないと、楽しさも半減かもしれません。登場人物の1人、公人(「ハムヒト」だからハムレット)の狂言的な言動は、昭和30年代テイストで一部理解出来ない内容もありましたが(すみません、昭和50年代生まれなのでっっ)ハムレットのウジウジ感満載でした。飛行機事故で死んだ製菓会社社長の男と社長秘書の女の遺族が、慰霊碑へ向かう飛行機の中での物語。時間軸として同じシーンが2回繰り返される構造になっていて、1回目意識的に語られなかった謎が、二回目に明かされる構造になっていました。登場人物皆、仇討ちしてもおかしくないような腹に一物あるような言動行動するので最後まで、誰が仇討ちするのっっ的なドキドキが続いて最後まで緊張感があり楽しかったです。最後、飛行機落ちちゃうんだって思って、すげーな、「24」みたいだなって思いました。
若手演出家サミット2011

若手演出家サミット2011

アトリエ春風舎

アトリエ春風舎(東京都)

2011/12/15 (木) ~ 2011/12/25 (日)公演終了

満足度★★★★★

唯一無二
普段見ることの出来ない演出家ワールドを堪能っっ。演出家の方達の思いを片鱗でも垣間見れる機会、物語以前の役者さん達の躍動、繰り広げられるアフタートークのモロモロ。あぁ、とっても覗き見てる感じで甘美な時間だった。

星の結び目

星の結び目

時間堂

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/12/22 (木) ~ 2012/01/02 (月)公演終了

満足度★★★★

大人だなぁ
しっかりした物語、それを演じきる役者陣。見て、感じて、楽しむ。確かに大人のための小劇場。作り手の顔が見えない物語の中身で、劇作としては非常に秀作だったけれど、個人的な好みとしては僕にはまだこの深みはわからないなという感じ。物語の表象しかつかめてませんが、アフタートークも聞けて非常に有意義でした。

歯に衣着せない

歯に衣着せない

劇団あおきりみかん

新宿シアターモリエール(東京都)

2011/12/17 (土) ~ 2011/12/18 (日)公演終了

満足度★★★★★

コトバを浴びる
あおきりみかんのサービス精神、スサマジイ。今回も開演前はシンプルな舞台上が、開演するとみるみる変幻自在な世界を見せる。パワフルな役者さんの洗練された動きによって行われる場転も演技も歌も踊りも見てるだけで楽しい。クルクル変わる世界。そして、脚本演出が魅力的。毎回新しい魅せ方に挑戦して、それがきちんと形になっているのがスゴイなぁ。でも敷居低く、学生から大人まで誰でも楽しめる「やさしくて深い」内容なのが何よりの居心地の良さだ。

ネタバレBOX

「歯衣(はごろも)神社」にお参りすると思ったこと全て声に出して喋ってしまうようになる、という設定。とにかく役者さん達がドトーのごとく喋り続ける。思った事を口にしてしまうと、それがあまりにも開けっ広げな内容なもんでドキドキするし、でも役者さんが喋るのを聞いてるとリズムや内容が絶妙で心地よくて病みつきになる。普段、人ってこんなに頭の中でイロイロな事考えてるんだなって感心してしまう。

印象的なシーンはたくさんあるけれど。ある日形容詞しか喋れなくなる女の子は、彼氏と一緒に「歯衣神社」におまいりしても治らない。帰り道に彼氏から「寝言でチョコレートパフェって言ってたよ。しゃべりたくなったら喋っていいからね」と告げられる。答えは「自分」にしかないのだ。あとは、やはりドトーの言葉の嵐を2時間浴びた後の、クライマックスっっ。人はみんな自分の事を70%や80%じゃなくて、100%わかって欲しいと思って、一生懸命喋る。でも100%はわかってもらえないって諦めて、溜まってしまう。そんな気持ちを呼び起こされるような公演だった。見れて良かった。
誤/娯楽

誤/娯楽

黒色綺譚カナリア派

こまばアゴラ劇場(東京都)

2011/12/08 (木) ~ 2011/12/18 (日)公演終了

満足度★★★

禍々しく耽美
舞台美術や台詞の一つ一つにこだわりを感じる衝撃作。頭に物語はあんまり入ってこず、瞬間瞬間の空間の美しさとゾクゾクする感じに身を委ねて体感しました。活動再開したら是非、また拝見したいです。

クライベイビーさようなら【公演終了致しました。ご来場ありがとうございました!】

クライベイビーさようなら【公演終了致しました。ご来場ありがとうございました!】

エレクトリック・モンキー・パレード

劇場HOPE(東京都)

2011/12/14 (水) ~ 2011/12/20 (火)公演終了

満足度★★

別世界
何かが欠落した、自分が生きているのとは違う世界。生活感がまるでなくて、奇抜なキャラクターがたくさん登場して、まるでマンガみたいな世界。楽しいけれど、個人的には人間が見えないと物足りないなぁ。

ネタバレBOX

自殺者が3万人超えて、家族にも友人にも頼れず生活保護になる人が60人に1人とも言われる現在。ホームレスや近所の変わった人も簡単に受け入れて交流して寄り集まる光景は、一見魅力的に見える。でも一方で、そんな大事な友人が4ヶ月前から失踪してるのに探さなかったり、出産予定日が2ヶ月過ぎた妊婦が妄想を語っても、深くは触れないようにする。人間は面倒くさい。その面倒くささから目をそらして、表面だけ許して認めることは優しさではないと思う。

また、失踪して10年来の再開する父親を許したり、レイプまがいの行いをした男を許し、死体遺棄までする。それは「許す」ではなくて「諦め」のように見えた。生きていくために忘れたり許したりすることはあっても、諦めて生きるのは悲しい。

たくさん物語があって、散漫な印象。もう少しコンパクトでも良かったのかなと思いました。
死の町

死の町

劇団チャリT企画

ギャラリーLE DECO(東京都)

2011/12/13 (火) ~ 2011/12/18 (日)公演終了

満足度★★★★

最後に笑うのは誰か
「3・11」以降、テレビや新聞しか見て無い人と、自分で情報を精査する人との較差はあまりに大きい。政治とメディアの癒着、本当の事は知ろうとしないと知れない。とても大事な事について「死の町」は警鐘を鳴らしている。そして、こうした問題は演劇だからこそ効果的に伝えられるのだと思った。今、演るべき、見るべき演劇だなと思った。あっという間の、1時間。

トーキョービッチ,アイラブユー

トーキョービッチ,アイラブユー

オーストラ・マコンドー

サンモールスタジオ(東京都)

2011/12/07 (水) ~ 2011/12/11 (日)公演終了

満足度★★★

今を生きる物語
生演奏が心地よい、古典をリメイクした人生讃歌劇。現代版「曽根崎心中」はシリアスで生々しい。でも、今を生きる人達にこういう形の応援の仕方もあるのかなって思った。

ネタバレBOX

父親は死んで、母親はアル中で、父親の借金のせいで風俗で働く女、お初、21歳。惚れた相手の徳兵衛は結婚している。好きだけど添い遂げられないと一歩身をひき、徳兵衛との間に出来た子も人知れず堕ろす。一方で、友人の作った借金を肩代わりさせられ、親戚からも金を借りまくり首が回らない徳兵衛。

さて。舞台上には、幾つかの箱馬が並んでおり、お初と徳兵衛の2人は物語のクライマックスまで、他の役者が動かして並べていく箱馬の作られた道を進み続ける。自分で選ぶことの出来ない、流されて進む道だ。現実に追い詰められた二人は物語終盤で手を取り合い心中しようとするも、徳兵衛は直前で躊躇し箱馬を降りて妻の元へ帰る。残されたお初は、周囲で「死ね」「誰も必要としてない」等と罵られ続けながらも、死なずに笑う。そして終わらない日常を生きる。

江戸時代と比べれば、当然我々はやり直すチャンスが多い時代に生きている。相対化すれば絶望は浅いなと感じる。でも、裏を返せば挑戦を求められ続け停滞を許さない息苦しさを内包している。そんな中自分の置かれた環境から抜け出せず、周りが皆自分を罵倒していると感じ、進むべき道がなくなった時に、死んでしまいたいと思う人をどうして責められようか。そして、それでも笑えるだろうか。お初のその姿に、観劇後何だか底知れぬ力をもらったのは僕だけではないはずだ。

ただ、その上で。やはり箱馬の上でしか生きられない2人の生き辛さを痛感してしまう。箱馬に乗って移動する姿は、常識や社会通念といったものに縛られた道の様に思えるからだ。箱馬を降りてみたり、自分で箱馬を動かしたり、舞台一面が箱馬に覆われている様な選択肢が許容されるような世の中を願ってしまう。単なる純愛ものに収めてしまえば、少し前に流行ったケータイ小説みたいな安直な不幸の羅列と同一視されかねない。差別化を図るために、もう一つ何かあればと期待してしまったのはゼイタクだろうか。

このページのQRコードです。

拡大