11月文楽公演
国立劇場
国立文楽劇場(大阪府)
2012/11/03 (土) ~ 2012/11/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
一生の思い出
※長文が投稿時にエラーで消えました。あとからまた書きます。
文楽での通しは二度目。この先10年は上演が難しいと言われているので思い
切って大阪まで行きました。
忠臣蔵はこんなものと言う先入観を吹き飛ばされました。
初めて観た家族も大いに感動したのがうれしかった。こんなすばらしい文楽を「二度と観たくない」と弾圧する橋下市長に抗議して一生戦います。
ネタバレBOX
六段目の勘平の「死なぬ、死なぬ」の哀れさに涙が出た。
山科閑居の本蔵、由良之助の人間的魅力、力弥、小浪の悲恋に感動した。
吉田文昇さんの力弥が素晴らしい!
『熱狂』・『あの記憶の記録』3月に完全再演致します!!詳しくは劇団ページをcheck!!
劇団チョコレートケーキ
ギャラリーLE DECO(東京都)
2012/10/31 (水) ~ 2012/11/11 (日)公演終了
満足度★★★★★
2作品続けて見ました。タイムリーな秀作
スケジュールの都合で続けて観たので、少しきつかったが、集中できてよかった。
久々、台本を買いました。
小劇場劇団としては今年、最高に感動したといえるでしょう。
なんでこんな狭いルデコで長編をやるのかと、正直気が重かったですが、なぜルデコを選んだかわかる作品でした。
観客が自分の問題として突きつけられる効果がある。
こういう秀作を見せられると、ぬるい芝居なんか観たくなくなります。
右傾化が進むいまの日本の社会状況にぴったりのタイムリーな作品。
ネトウヨや独裁政治家の支持者と日々ネットで戦っている私は感謝したい。
この芝居を観た若い人が、芝居の中のことと思わず、自分たちの問題としてうけとめてほしいと切に願う。
ぜひ、今後も再演してほしいし、こういう作品こそ地方公演をやってほしいと思った。
ネタバレBOX
「熱狂」は、ヒットラーを取り巻くナチスの人々を描き、彼がいかに独裁者としてのしあがっていったかが史実に忠実に描かれている。
「自分を守れ、自分に忠誠を尽くせ」と要求し、大衆をうまく扇動していくヒットラー。
軍事裁判で「戦争はだらしない既成政治家の責任だ、私は立ち上がったのも国を救うため」と自己正当化するのも、どこかの国の政治家にそっくりだと思った。
ナチス党員が背広を脱ぎ捨て、そろいの軍服を着ることになり、勢ぞろいしてシュプレヒコールをあげる場面も背広の党員が多い。予算その他の関係で全員分はそろえられなかったのだと思うが、
セリフにあるだけに演出効果の点で気になった。
「あの記憶の記録」
イスラエルのある家族を舞台に、国防とは何か、徴兵制の意義、戦争は許されるのか、という問題が語られる。
子供たちの女教師が、アイデンティティーを持って国を守るのは当然と主張するのに対し、
ポーランドでユダヤ人として迫害され、アウシュビッツの地獄を見た父親は「戦争はきれいほとではない」と
真実を語り始める。
「熱狂」でヒットラーの傍観者としてのナチス党員の青年が共通で登場し、彼のもうひとつの側面が描かれる。
収容所の囚人をかばってきた看守の彼を父親は終戦の混乱に乗じて殺してしまう。
父親の中では憎悪の対象として青年のイメージが増幅しており、そのことを兄に指摘されるラストは、戦争を憎む人の心さえもむしばむ悲惨さを伝える。
11月歌舞伎公演「通し狂言 浮世柄比翼稲妻(うきよづかひよくのいなづま)」
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2012/11/03 (土) ~ 2012/11/26 (月)公演終了
満足度★★★★
代役の名古屋山三、錦之助には満足
市川染五郎が怪我のため休演となり、名古屋山三役は中村錦之助になった。
子役の頃から好きだった役者さんなので、私には楽しみな配役。少年時代、夏休みの杉の子会で演じた役でもある。あれから
40年以上の歳月がたっていると思うと感慨深い。
山三と、白井権八二役を替わる演出が多く、今回も当初はどうだったのだろう。
当初は高麗屋親子共演が話題となり、幸四郎は幡随院と不破の二役変わり、中村福助も岩橋のち葛城太夫、お国、留め女の三役なので、染五郎も二役替わるつもりだったのかもしれない。
当初のチラシを見ていないのでわからないが、本公演は別の役者が演じる脚本に書き換えられて白井権パは市川高麗蔵が演じていた。
ネタバレBOX
幸四郎が20代のころから観ているのだが、この人、首を不用意に振る癖があり、昔はよく劇評で指摘されていた。
不破が花道七三で、編み笠を被ったまま、正体を現す前に小刻みにわざと首を振る場面、連続三箇所あるのだが、終わって切にも、まだ編み笠が揺れているのがとても気になった。
名古屋山三との対決場面でも、台詞の間が幸四郎は歌舞伎のそれとは少し違うため、語尾が錦之助とそろわない。
これも40代には何度も指摘されたが、いまはさすがに言う人もいないのであえて書かせていただく。
幡随院長兵衛の幸四郎は別の芝居でも何度か手掛けている先代譲りの当たり役。
子供の頃、似た提灯を持って、よく長兵衛と権八の一人二役の台詞を言って遊んだことを思い出す。
鈴ヶ森の雲助の殺陣は歌舞伎ならではのコミカルな名場面。昔は下回りの役者の人数が多いからワーツとわいてくるように見えたそうだがどうだったろう、今回も遜色なく感じたが。
山三浪宅に花魁道中が繰り込み、雨漏りを避けるため天井から盥を吊る南北らしいちょっとバカバカしい趣向に、品よく美しい錦之助の山三がおおどかな味を出す。
お國と葛城の早変わりは先の歌右衛門は疑うほど実に早かったそうだが、今回はさほど早く出てこない。
女形の福助。奥女中岩橋が鼻緒のきつさに足を痛め「アイタタ・・・」の台詞で客がどっと笑う。なぜか地声でコミカルに言うからである。三枚目の役でもないのに。
岩橋はまだ遊女にはなっていない段階なのにまるで奥女中に化けてるみたいではないか。
山三浪宅でも、下女お国が父親との会話で、急に地声でさめきったように蓮っ葉にしゃべるのでコントみたいで客が笑う。
けなげな下女ではなく、わざとぶりっ子を演じてるように見えてしまうのはいただけない。
若き日の玉三郎の初役のお国も観ているが、こんなにコミカルではなかった。
この人のこういう意識して外した演技は勘三郎と納涼歌舞伎で共演するようになってから頻繁にみられるようになった。
いずれ、この人が歌右衛門を継ぐのだろうが、成駒屋の芸風が随分と変わってしまうものだと思う。
「お役を勤める」と言い、丁寧に行儀よく楷書のような六代目と比べたら、前衛書道のような大胆なところがある。
歌右衛門が指導していたら仰天しそうだが。
それも当世風と言うんでしょうかねぇ。
脇では、石塚玄蕃の片岡市蔵が憎めない敵役でならしたおやじさんの「かたいっちゃん」そっくりの役者になってきた。
お国の父親、坂東彌十郎も年輪を重ね、手堅い。
錦之助の長男、中村隼人の美しい振袖新造は4世時蔵が生き返ってきたようだ。
高麗屋の高弟でベテラン松本錦吾、幸太郎の健在なのも嬉しい。
菅原伝授手習鑑~天神さまの来た道
花組芝居
あうるすぽっと(東京都)
2012/11/23 (金) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
通し狂言のダイジェスト版としても見ごたえあり
カオス的騒々しさと熱烈なファンで埋まる客席の独特な雰囲気に気後れしてしまう「花組芝居」だが、今回は堪能させてもらった。
昨今、歌舞伎でも文楽でも大作の通し上演が少ないので、有難い。
脚本はスーパー歌舞伎でおなじみの石川耕士が担当しているから破たんがない(彼が大学生の頃「演劇界」に投稿していたのを知っている)。
原作をよく知っているだけに、パロディの面白さも十二分に楽しめた。
こういうパロディができるのも、義太夫狂言としての立派なお手本があるからで、
文楽を「現代風に変えろ」という橋下市長の提案がいかに愚策かわかろうというもの。
やはり原作を知っているほうがより楽しめると思うが、ダイジェストとしても秀作で、若い観客には、ぜひ原典の文楽でも一度観ていただきたいと思う。
東京公演の後は札幌公演だそうだが、これこそ本場の大阪でも上演してほしい。
ネタバレBOX
役者が全員とても頑張って役に取り組んでいるのが伝わってきた。
菅丞相はこの座組みでは桂憲一しか演じられないと思うが、桂の武部源蔵も観てみたいと思う。
何役か兼ねる加納幸和は白太夫が一番いい。
松王丸の小林大介がこの役らしさがあってよかった。梅王丸の丸川敬之ともども、義太夫狂言の人になっているのはお手柄。
自動車から首検分に降りてくるのに、松王らしく見えるのには感心した(笑)。
車引や佐太村の喧嘩場の稚気が二人とも良く出ていて原作の味わいが感じられた。
寺小屋は戸浪の堀越涼に歌舞伎の女形味があり、若いときの市川笑也よりうまい(笑)。
いつも小劇場のニヒルな男の子役で観ているが別人だった。
桜丸の美斉津恵友は役の気品を全うしていて良い。
嫁の八重は二瓶拓也。愛らしいし泣きの演技は良いが、仕方話の調子が流れてしまうのは気になった。
八代進一の千代は源蔵の刀を文箱で止めるときが強すぎて男そのものになってしまい、違和感がある。
いろは送りがちゃんとあるのもうれしい。
寺子たちの悪童ぶりもかわいらしく面白かった。
山下禎啓の覚寿が立派。
北沢洋の宿弥太郎など若いときの左団次を思わせるようななかなかの敵役ぶり。
欲を言えば、音楽にはもうひと工夫ほしかった。あまり物語にあった音楽とは思えなかったので。
附打ちもあり、囃子も入るが、それ以外はすきまを感じ、落差があってピンとこない。
また有料プログラムにも配役表を載せてほしかった。
MIYAZAWA
殿様ランチ
新宿眼科画廊(東京都)
2012/11/23 (金) ~ 2012/11/28 (水)公演終了
満足度★★★
殿様ランチらしい仕上がり
番外企画、宮沢賢治と殿様ランチの取り合せに惹かれて観に行った。
HPのリストアップが動物ものだったのも興味を引いた。
劇団員の説明によれば、「殿様ランチが宮沢賢治を演るというより、殿様ランチのテイストにあったものをあえて選んだ」ということだそうだ。
新宿眼科画廊というと、私は二階のゆったりとしたスペースでの観劇しかしたことがなく、地下スペースは初めて。
千穐楽、平日マチネにもかかわらず立ち見にならんかというギリギリの満席で劇団側もあわてていた。
ネタバレBOX
個人的には冒頭の「猫の事務所」が原作の雰囲気が一番出ていて気に入った。
観ていてつらくなる「苛めの構図」、性格がよく勤勉努力家のかま猫がいじめの標的になってしまう。
「出る杭は打たれる」ということか。現代のオフィスでもじゅうぶんありうる話だ。
「注文の多い料理店」は字幕をうまく使い、テンポよく見せていく。原作にある二人組の片方の見栄っ張りな男の性格からくる会話の滑稽さは抑えられている。
「カイロ団長」は、ウイスキーを餌に蛙たちが搾取される話が、まるでぼったくりバーにひっかかった客たちが借金と麻薬を使ってタコ部屋でこき使われるみたいに思えた。
「新しい王様のご命令」によって一変する様が政権交代の世の中のようである。
「セロ弾きのゴーシュ」原作をコンパクトにまとめているが、奏者の内面の変化があまり伝わらず面白みはうすい。子狸が面白かった。
アンコール演奏を終わったセロ弾きが一礼もせず無表情で退場するのは気になった。やはり、ここは一礼あってしかるべきでは。
バカのカベ~フランス風~
加藤健一事務所
本多劇場(東京都)
2012/11/15 (木) ~ 2012/12/02 (日)公演終了
満足度★★★★★
贅沢なコンビ、大人にお薦めの良質なコメディ
会場は加藤健一事務所の芝居のファンに加え、会話からつか時代の往年ファンがたくさんいたようです。
加藤健一、風間杜夫の両優、まさに夢の顔合わせ。
30年も共演がなかったってなぜなんでしょう?
声の特別出演平田満さん。また三人で舞台共演していただけないものか。
お芝居は大人の鑑賞に堪えうる良質のコメディ。
「喜劇で大切なことは面白いことをやらないこと」という加藤さんの言に共感します。
「君は喜劇の素質があるよ」と木下恵介監督に言われたという岡田茉莉子さんも同じことを自伝に書いておられました。
ウケねらいの安っぽいコメディが近頃巷に氾濫してる気がしますからねぇ。
休憩挟んで2時間5分だから休憩なし1時間50分で一気に見せてもよいかと思うが、女性トイレが長蛇の列であることを思うと、年配客が多いのに配慮したのか。
ネタバレBOX
自分がバカだと思う人物をディナーに招き、みんなでバカぶりを笑うという苛めのようなまったく悪趣味な思いつき。
演技力抜群の加藤、風間のご両人が息の合った丁々発止の芝居を見せ、客席を沸かせた。
二人が折り重なってしまう場面は特に爆笑が起きた。
仕掛けたほうも相当のおバカぶりが露呈し、「人のふり見てわがふり直せ」ということかな(笑)。
ただ面白おかしいだけではなく、ラストの加藤さんの長台詞がさすがの説得力。
新井康弘さんはいまやあちこちの舞台にひっぱりだこの名バイプレイヤーに成長し、新聞のミニ自伝連載も読んで、アイドルから俳優に転身し大変な努力をされてきたのも知っているが、つかこうへい事務所の芝居が当たった頃、新井さん所属のずうとるびもブレイクし、教育実習現場でずうとるびファンの女生徒に取り囲まれた日のことをふと思い出したりした。
ぱれえど
浮世企画
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2012/11/21 (水) ~ 2012/11/27 (火)公演終了
満足度★★★★
人生は、哀しい「ぱれえど」
浮世企画は旗揚げから見ているが、回を追うごとに作品が面白くなっていってると思う。
最初のあぶくが「え?」と思うイマイチ度が強かっただけに(笑)成長ぶりが著しい。
今城文恵の作品は都市の片隅で生きるごく普通の人々がそれぞれにいろんな事情を抱えていて、表面と裏面のギャップ、その隙間に手を突っ込んで見せていく想像力がなかなかだ。
作家としてのスタイルが徐々に出来つつある。
前回の「沼辺者」に続き、場末感漂う地域、今回はどぶ臭さが漂う小さな町の話。
初冬の新宿、スペース雑遊という劇場にも適した内容の芝居。
ボヘミアンを思わせる音楽がドラマに合っていた。
冒頭の喫煙シーン、結構煙が出るのでタバコの匂いだけで咳が止まらなくなる私は最前列にいてドキっとしたが、咳き込まずホッとした。
この劇団、以前は開演前に喫煙場面の告知注意があったが、今回はなかった。できればあったほうがありがたかった。
ネタバレBOX
前回同様、異次元の生物が出てきて、今回は「地獄人」。とても悪いことをして罪悪感が強い人にだけ姿が見えるという設定。
鈴木アメリがこの謎の女を可愛らしく、すっとんきょうに演じている。
芝居が進行するにつれ、登場人物の「事情」が明らかになっていき、新しい「事件」が起きてサスペンスとして面白さも感じる。
キャラクターが良く描き分けられて、役者も揃っている。
大事故を起こした会社の元社員(鈴木歩己)とバーテン(川本裕之)、中年男性2人が話の中心だが、
若い俳優ではこういう役柄は無理であり、適役。
欲を言えば、この二人の結びつきが淡々としているので、人生の哀歓までにはいたらず、物足りなさが残る。
男たちは挫折したり、破滅していくが、女たちは傷を抱えながらも自分なりの「ケリ」をつけて生きていく。
バブルの時代によく見かけた軽薄な遊び人のサラリーマンを演じる立浪伸一が印象に残った。
俳優寄りに観ると、登場人物の中では、岩田裕耳の精神科の医師が一番演じにくかったと思う。
彼が得意とする癖のある役ではなく、一見ごく普通の常識人で、薬の横流しはしてるが格別善人でも悪人でもなく、途中で豹変する強い二面性があるわけでもない。しかし、最後に、コントロールされて優等生で育った彼の諦観みたいなものが出て面白い。
エンディングの「狂騒」が「ぱれえど」というタイトルを表現していたと思う。
十一月花形歌舞伎
松竹
明治座(東京都)
2012/11/03 (土) ~ 2012/11/27 (火)公演終了
夜の部「スピーディーな通し狂言」
日本橋浜町明治座の近くに8年間程暮らしたことがあるが、久しぶりに行くと高層ビルが建ちあたりはすっかり変わってしまっていた。
明治座は先代猿之助が鏡山再岩藤を南座に次いで東京で初演した際の第一回公演を観ている懐かしい小屋だ。
先代は30代40代の役者として最も元気な時代、ここで古典の復活公演を次々に行ってきた。
スーパー歌舞伎で注目されることが多いが、彼ほど一俳優の立場で古典復活狂言の発掘に精力的に貢献した慧眼な人はいない。
甥の亀治郎に猿之助の名跡を譲ったわけだが、私の中には鮮明に先代の足跡が残っている。
歌舞伎はユネスコの世界文化遺産に指定されており、古典演目の継承も重要な責務である。
博学な先代はいまでも復活狂言の発掘や新企画への意欲は健在と見え、若き当代へのアドバイスに私は期待している。
天竺徳兵衛は歌舞伎座で先代の初演を観ている。それまで二世松緑の当たり役だったので、若々しく外連味たっぷりの新演出に目を奪われたものだ。
つづら抜けの宙乗りは延若の石川五右衛門が先に手掛けていて、「いつか違う形でやりますよ」と前々から挑戦したがっていた。
音羽屋型演出の古典にずっと挑戦してきた先代の面目躍如と言う作品でもある。
ネタバレBOX
南北という人は本当に天才だなといつも思う。
冒頭は毛剃を思わせるし、楼門五三桐、東海道四谷怪談など要所要所にいろんな作品の名場面がいいとこどりで並んだような作品だ。
お約束の異国話のくだりは日替わりで猿之助が考えているようだが、私が観た日もTPP問題や第三極政界再編などなかなか鋭く風刺をきかせて客席を沸かせる。
歌舞伎役者に学問はいらないという旧門閥の長老の意見とは真逆に先代も当代も教養人らしい知的な遊び心を見せている。
初演に比べずいぶんとスピーディーに洗練されているのに感心した。
座頭の徳市が愛嬌たっぷりに木琴を弾くその「間」の素晴らしさに初演を懐かしく思い出した。
いけずうずうしいおとわの悪婆役、案外当代はこういう役があうのかも。
同じ場で、悪婆物が絶品と言われた三世時蔵のひ孫にあたる米吉が歌舞伎で言うところの「こっくりとした」女形ぶりを見せる。
歌六の長男が女形にねえ、と驚くと同時に江戸時代は傾城歌六と異名をとった女形の家系の血を感じる。
つづら抜けの宙乗りはいつ見ても手品のようで驚かされ、空中の引っ込みにお客さんは大喜び。
大詰め、通し狂言だからお約束の「本日はこれぎり」の一座口上がほしい気もした。
この場だけに出る段四郎、元気と聞いていたのだが、病気ゆえか言葉の途切れ途切れの不自由さに驚き、ハラハラした。
来年は明治座の創業140周年というから、俳優も観客の自分も年をとったものだ。
十一月花形歌舞伎
松竹
明治座(東京都)
2012/11/03 (土) ~ 2012/11/27 (火)公演終了
満足度★★★★
昼の部「受け継がれる当たり役」
明治座には数年前に行ったきり。
今年、猿之助が歌舞伎やるのはこれが最後と聞き、行くことにしました。
「傾城反魂香」が三代目猿之助四十八撰のひとつと聞いてへぇーと思った。
なんせ、こちとら(初代)猿翁十種の時代の観客だもんで(笑)。
吃又というと二世松緑の又平が一番印象に残っている。
昨年の暮れ、山の手事情社が通しで見せたがダイジェストとしてわかりやすく、いずれ、当代が通しで見せても面白いのではないだろうか。
文楽でもなかなか通しで出ないからそちらも観ておきたい。
「蜘蛛絲梓弦」は先代の初演を観ています。六代目歌右衛門や現藤十郎が扇雀時代も手掛けてますね。
先代で観たときより格段にショーアップされていて初演の時とだいぶイメージが違う。
頼光の家来がたくさん出るうえ、蜘蛛の眷属がたくさん出てきて派手な演出になっている。
ネタバレBOX
「反魂香」は、高嶋館の虎の演技がすばらしい。
義太夫に乗って足拍子を踏むところ、やはり勘所がよくないとだめで、芝居心が試される役だ。
昔は「馬の足」と言って動物の中に入る役者をさげすむ代名詞のようにされたが、最近は馬の足の配役も書くようになったとか。
この虎の配役も書いてよいと思う。
幕内に通じた人ならだれが演じてるかご承知なのだろうが一般客はわからないからだ。
これが国立劇場なら受賞対象だろう。
又平の右近は東京暮らしが長いが、もともと上方の人なので、こういう義太夫狂言に可能性を広げてほしい。
一時は右近が猿之助を継ぐと言われたこともあっただけに、将来は澤瀉屋のお師匠番になる人。猿之助の持ち役を長くそばにいて師範代のように観てきた人
だから、今後も当代との当たり役での分担がみられるだろう。
おとくの笑也は丁寧で、古風さに欠けると言われたこの人もこういう世話物ができる役者になったのかと感慨深い。
私から見ると予想以上の出来だった。
又平は音羽屋型と初代と二代猿翁それぞれの工夫の澤瀉屋型の折衷らしいが新聞評にもあるように多少ぎこちなさが残る。
このへんも今後練り上げられていくことだろう。
「蜘蛛絲~」は、猿之助が禿の房紐遣いで踊りの才を見せた。
二代、三代、当代へと舞踊の才能は受け継がれているようだ。「黒塚」の出来には不満が残ったが(笑)。
二代と三代の舞踊写真を比べると、踊り手としての足の確かさがみてとれる。
私の亡き母は若き日に初代猿翁を花柳流の大先輩として大変尊敬していて踊りがとても勉強になったという。
(先代猿之助からが藤間流である)。藤間のほうが踊りが地味なんだそうで、先代に確認したらやはりそうだと言っていた。
当代は早変わりで消える際の蹴込がきれいで先代を彷彿とさせる。
火鉢に座頭が消えるのも先代以上に鮮やかだった。
女郎蜘蛛の精になってからお得意の化身モノ、迫力満点で客を沸かせ、さすが澤瀉屋である。
楽園
モダンスイマーズ
吉祥寺シアター(東京都)
2012/11/07 (水) ~ 2012/11/14 (水)公演終了
満足度★★★★
男たち?の芝居
モダンスイマ-ズのメンバーに深沢敦さんが加わった男優だけで演じられるこの劇団らしさがある芝居。
初演は女優が演じた役を深沢さんが演じていますが違和感がありませんでした。
地方公演もあるので、今後の反響が楽しみです。
ネタバレBOX
苛める側、苛められる側、力関係が変わっていく。
子供の世界なのだけれど、大人の世界にも通じるものがある。
蓬莱さんは少年期のトラウマとかにこだわりを感じる作品が多いようだ。
普通は、回想から現在へと推移するが、最後まで子供時代を描く。
現在の格好で少年少女時代を演じることで、観ているものに不思議な二重構造と言うか追憶を抱かせる。
陸上競技が得意だったユリコが怪我により足を悪くしてしまうわけだが、その後の人生が彼女だけ語られない。
それぞれの人生、観客の想像力を膨らませるが、その後の続編も独立した作品として観てみたいと思う。
『新宿のありふれた夜』『笑う警官』『荒木町ラプソディ』
現代制作舎
シアターX(東京都)
2012/11/06 (火) ~ 2012/11/16 (金)公演終了
満足度★★★
「笑う警官」映画向きのような気がしました
新劇とも商業演劇とも違う雰囲気の現代劇でした。
映画版は観ていないのですがサスペンスドラマというのでしょうか、演劇では人の
出入りが激しく、少々観ていて疲れました。
ネタバレBOX
SMクラブの場面をダンスで見せたり演出に工夫は感じましたが、やはり生々しすぎるように思えました。
ドンパチバタバタして終わる感じで、映像のほうが良さは出る作品だと思います。
警察組織の中での刑事の苦悩がいまひとつ伝わってこない。
自殺警察官の妻でバーのママの夕貴まおが端正で嫌味なく印象に残りました。
歌唱が弱いので、役柄としては歌がうまくなくてもいいのですが、元タカラジェン
ヌを起用したという目で見ると、ちょっと不満が残りました。
通し狂言 塩原多助一代記(しおばらたすけいちだいき)
国立劇場
国立劇場 大劇場(東京都)
2012/10/05 (金) ~ 2012/10/27 (土)公演終了
満足度★★★★★
心洗われる人情噺
国立劇場に通し狂言を観に来たのは久しぶり。本作品は写真と脚本集でしか知らず、一度観てみたいと思っていたが地味そうな作品なので観るまでは、不安だったがとても面白くて楽しめた。
興行的には地味でも、復活や埋もれた作品の再演は国立劇場文芸課だからこそできる立派な仕事。
本作もそうだが、復活上演は新作と同等以上の労力が必要。
伝統芸能の補助金投入に消極的で、現代新作上演にこだわる橋下大阪市長には理解してもらいたいものだ。
私が子供の頃、塩原多助の話を芝居で観たのは喜劇の劇中劇で、それでは困窮した多助が愛馬を手放す設定だったが、本作では命まで狙われたため、やむなく故郷を捨てる決心をしたというもの。
この芝居、同世代の俳優が多く出演していて、学生の頃交流した人たちなので懐かしかった。
当時はいまと違い歌舞伎低迷期で公演数が少なく、若手に役がつかなかった時代だが、当時の若手がいまは50代以上になり、芝居の中軸を担っている。感無量である。
こつこつ努力する人が報われない現代、心洗われるような内容の芝居で、こういう芝居が上演できるのも歌舞伎の良いところ。
観客が中高年以上で占められ、「金より情」の多助に共感し盛んな拍手が送られていたが、気持ちよく劇場を出ることができたのが何よりである。
ネタバレBOX
実直で人情が深く利口な多助に三津五郎はうってつけ。
出世後の多助には洒脱味も出て出色の出来である。
橋之助が幼なじみの百姓と悪女が化けた尼の二役を演じ、こういう配役も観客にはごちそうだ。
女形の声音が父の芝翫そっくりで、個人を偲び聴いていた。
中村錦之助は色悪も板についてきたし、口跡が先代の錦兄を偲ばせる。
巳之助の不良息子も面白い。
市村萬次郎・河原崎権十郎兄弟も父の羽左衛門の役どころを手堅く演じている。
萬次郎は今回、かつて父の演じた役を演じているが、萬次郎は羽左にはないひょうきんさがあり、客席を沸かせていた。
美人女優・山本陽子似の若女形だったのが嘘のようなお爺さんぶりだった(笑)。
後家のお亀役の上村吉弥は前半の色香ある悪、後半の哀れをきっちりと演じ分けた。
若手時代に実力を買われ、上村吉弥を襲名した人。
先代は婆役でならした名脇役だが、江戸時代は花形役者の名跡で、当代は襲名時に、花の部分も期待され、期待に応える役者に成長した。
ただ、私の観た日は初日近くで新作同様の作品のせいか台詞が入っておらず、彼だけがとちりが多かった。
東蔵は今回親子三代共演。歌右衛門のもとで修業し、先代猿之助一座を支えた人だが変わらぬ若々しさに安堵。
坂東秀調も老け役が先代そっくりで前名の慶三だと気付かなかった程。
誠実な商いで顧客第一主義を貫く多助は、現代の企業人にも見習ってほしい。
古典芸能はとかく保守的と見られがちだが、伝統芸能ならではの変わらぬ良さがある。
刹那的でコロコロ変わる世の中では、私には一服の清涼剤なのだ。
世界最終戦論
アシメとロージー
pit北/区域(東京都)
2012/10/05 (金) ~ 2012/10/08 (月)公演終了
満足度★★★★★
楽しめる不条理劇風コメディ
アシメとロージーは久しぶりの観劇。慶応の学生時代から観ていたメンバーの劇団で今回はオムニバス形式のブラック・コメディ。コメディ劇団ではないが、もともと和泉さんの笑いのセンスは好きで、今回も楽しませてもらった。
原案が石原莞爾の「世界最終戦争論」で、ブラック・コメディというので、昨今の小劇場に多い怖くて笑えない内容だったらどうしようと観劇前は少し心配したが、大真面目にバカバカしい内容で品が良いので安心した。
大真面目で馬鹿馬鹿しく、時々ミュージカル風で(笑)、不条理劇風の味わいがある。
男性陣のキャストの個性が面白く、紅一点の佐々木星さんの馴染み方もよい。
ネタバレBOX
なんだかわからない「世界最終戦争」が始まり、妄想や追憶が交錯し、ストーリーが進んでいき、オムニバス風のショートストーリーがつながっている。
落語のようにめくり方式のタイトルが出て、終盤、「あと10分で終わります」「あと3分で終わります」という文字が出て、笑いながらも観客の生理にマッチしているのがいい。
その「終わり」は世界最終戦争の終わりも意味してるわけで、それはサタケ家の夫婦喧嘩だったのかな(笑)。
「大学教授殺人事件」の死体が急に起き上がって真犯人を告げ、違う推理をしていたキンダシンイチ少年(相羽崇史)がバツが悪くなり、隅っこで小さくなってしまう場面や
「美人局」の美人局(つつもたせ)の話が本当に美人局(びじんきょく)という政府の諜報機関の話に変わる場面、
「宇宙戦争」で、まるで太平洋戦争みたいな軍人同士の芝居がかった悲劇的な会話に唖然とするサタケ(佐々木拓也)が可笑しい。
全編通じて佐々木拓也さんが面白い。
学生時代から相羽崇史さんには二枚半の魅力がある。
前の週に同じ劇場で公演し、過去、この劇団にも客演している多少婦人の酒井雅史さんが友情出演?している。
富士幻談
声を出すと気持ちいいの会
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2012/06/16 (土) ~ 2012/06/19 (火)公演終了
満足度★★★
「見立て」の趣向
俳優の声と肉体を駆使し、独特の世界観で複層的な物語を構成するのがこの劇団の特徴。
今回の公演でも「見立て」の趣向でさまざまな情景を描き出していた。
山本タカの作品は密度の濃さが特徴でもあるが、1時間40分、決して長くはないはずの時間が今回は体感的にとても長く感じられた。
この劇団の特色でもある俳優の発声の妙を感じ取るべく、目を閉じて聴いてみたりもしたが
少々退屈し『百年時計』のとき同様、集中力がとぎれてしまう箇所があった。
今回は一つ一つの点景としては面白いのだが、全体的に『覗絡線』『被告人ハムレット』『黒猫』(再演)のような圧倒的に引きずっていく物語としての魅力が弱かったようにも思える。
山本タカ氏は若手演出家としては非凡な才能を持っている人だと早くから注目してきたので、次回作に期待したい。
ネタバレBOX
富士を扇で表現するというアイディアは面白いと思った。
扇を持つ形というのは簡単そうでなかなか難しいもので、様になっていないと美しく見えない。
日本の扇を洋風な手つきで持つと形が崩れて見えてしまう。
この点、日本の「直線文化」というのは侮れないものがあるのだ。
扇だけで舞う能の仕舞を何回も見て動きを勉強してほしい。
最後に扇を閉じた俳優が体の前中心に差し体が突っ張ったのには一番違和感があり、吹き出しそうになった。
扇は左脇に寄せて帯に差すのがどんな場合も和装の作法になっており、それは一番美しくおさまりもよく、好みの問題ではなく肉体的にも意味のあることなのだ。
和服を着ての演技が現代の若者には慣れていないこともあり、動きながら台詞を言うと変な「間」があいて、ぎくしゃくしてしまう箇所が気になった。
この作品も脚本を整理して、伝統芸能を身に着けた俳優が演じれば、一段と良くなるかもしれないと思った。
『ウェディング、ラン!』
8割世界【19日20日、愛媛公演!!】
劇場MOMO(東京都)
2012/05/25 (金) ~ 2012/06/03 (日)公演終了
満足度★★★★
ウェディングケーキのような立体感
今回、鈴木雄太さんの劇作家引退記念公演ということに加え、退団される俳優さんもいらっしゃったので、私としては珍しく、3回も観に行きました。バージョン違いでない公演としては私の場合、異例の回数です。
小劇場系劇団のコメディを勉強させていただく良い機会になりました。
詳しく書きたかったので、公演中はネタばれになることもあり、投稿できなかったのですが、終演後も、いろいろ考え始めて、なかなか書けずにいました。
やはり回数を重ねるごとに、俳優さんの調子も出てきたようで、千穐楽の舞台はかなり充実していたように思います。
構成の妙があり、ウェディングケーキのように立体的で飽きさせない。
近年の小劇場劇団のコメディとしては、かなりの満足度。
ラストに海外コメディのような余韻があるのが良かったです。
個人的にはあと10分くらいカットしたほうが理想的に思え、1回目の観劇はかなり長さを感じ、「あっという間」とは思わなかった。1回しか観なかったら満足度は今より低かったでしょうね。
次回公演からは新劇団員も加わり、新体制になるようですから、また新しいファンを開拓していかれることでしょう。
ネタバレBOX
鈴木雄太さんの軽快な前説から、冒頭の花嫁のフライイングにはビックリした。
MOMOでこれをやるか!という驚き。ワクワクした。
まず、構成・演出が凝っていて、中盤からの「転」が巧い。
花嫁の姉の夫への浮気疑惑から雷鳴が響き、台風になっていく。
イタコの暴走と、花嫁と父の霊の対話。姉夫婦のけんかも殺陣のようで面白い。
劇団員では高宮尚貴さんのイタコが最高の出来。彼が出てくると空気が変わる。大真面目に演じているからこそ生まれる笑いの素晴らしさ。
今回の芝居のMVPは彼だと思う。
マジシャンがイタコ八郎に化けたという設定の場面が本当に化けているような説得力に目を奪われた。
引退してしまうのは本当に惜しい。
役名が彼だけ、漢字違いの「高宮直樹」という同名だったのは意味があるのだろうか。
引退のはなむけなら、吉岡和浩さんは浜中神父という役名があるのはなぜか。
ここは、別の役名があったほうが自然でよかったと思うが。
小早島モルさんの「変なマジシャンぶり」も得難い。
客演者では、穂刈小夜さんのメリハリある演技と、斉藤晴久さんの「存在感を消す存在感」が印象に残る。
白川哲司さんは演技が丁寧だが、声が枯れ気味だったのが残念。
気になったのは、花嫁の両親とも亡くなっていて、10年間どういう育ち方をしたのか説明がないこと。
いじめにあっていたなら、なぜ、母親でなく父親への感謝を強調するのか。
また、配役表では花嫁も連れ子も秋山姓になっていて、入籍済みということなら、「マリッジブルーを利用して奪え」と牧田(亀山浩史)を小島(白川)がそそのかすのが成立しにくいのでは?
コメディでも、そういうドラマ部分が丁寧に描かれていてほしいと思うが、劇作は引退なさるそうなので。
都と若葉が秋山姓になっているから連れ子なのかどうかわかりにくいという意見が私の同伴者やほかのお客さんからも聞かれた。
私も1回目では、そこがひっかかった。芝居を見慣れてない人は戸惑うかもしれない。
姉夫婦のコントのようにおおげさなリアクションや、牧田がもらい泣きするのが真面目な場面なのに笑いが出るほどわざとらしい泣き方だったのも、私には違和感が強かった。
伏線のいくつかも強調しすぎで、観ていて私には少々あざとく感じた。
花嫁がクライマックスで開き直って長台詞を言う場面も、若い役者の場合は台詞が上滑りで大げさに見え、観ていて気恥ずかしくなってしまった。
、
45°
多少婦人
OFF OFFシアター(東京都)
2012/05/25 (金) ~ 2012/05/29 (火)公演終了
満足度★★★
中盤が面白かった
2人の作家によるオムニバス作品が特徴の劇団ですが、今回は酒井雅史さんおひとりでオムニバス風の構成を手掛けられた。
酒井さんは人間観察の目が面白くて大学時代から観てきたのですが、だんだん自分の世界ができてきたなぁという印象です。
それがこの劇団の特徴と言えますが、独特のユルユル感があるので、そこで物足りない、共感できないという意見が時折聞かれ、制作途中のような歯がゆい印象を受けるきらいがあります。
その点、古参ファンとしていつもハラハラして観ています(笑)。
今回は中盤が一番面白かったです。
ツイッターやコリッチの感想を読み、かなりの爆笑コメディのようだったので、今回は全然違う感じなのかしらと思ったら、千秋楽の客席は、ドッカーン、ドッカーンという爆笑の連鎖と言う雰囲気ではなく、いつもの多少婦人でした。
次の公演は観に行けるかどうかわからないのですが、今後も注目し続けたいと思います。
ネタバレBOX
時系列を表現するため、盆回しを多用した舞台。
その転換が流れを止めるので、もたつきを感じるところもありました。
冒頭から最後へとつながるひとつの話で、見せ方としてはなかなか面白いのですが、女性歌手の部分が突出して浮いているように感じられました。
遠藤夏子さんの個性は旗揚げ当時から注目していて、大好きな女優さんですし、今回も持ち味がよく出ていたと思いますが「短足」でツイッターが炎上したというエピソードが、私にはさほど面白く感じられず、こんなに引っ張る内容かなと思ってしまった。
酒井さん演じるチャランポランなレコード会社のプロデューサー(ディレクター?)も、得意な役どころだけれどステレオタイプ過ぎるかも。
同級生夫婦の家に酔って泊り、寝起きで出てくる山本しずかさんの表情が寝起きそのもので妙に感心してしまった。
こういうところ、ちゃんと演技できないとわざとらしく感じるのだがリアルでよかった。
妻役の石井さんは久しぶりに「普通の女性」役(笑)。
今後、しばらく俳優活動はお休みされるそうで残念。
今回、出色だったのは、父親役の筑田大介さんと娘役のみかんさん。
娘の妊娠に「順序が違う」と苦言を呈する場面が説得力があり、思わず聞き入ってしまった。
妻が不在で、娘たちといるのが気づまりなのか、外で飲んでまったく知らない他人の家にあがりこんでしまう困ったおじさんなのだが、酔ったときは、脚本上、もう少し豹変させてもよかったかも。
この父親についていろいろ想像してしまうほど、役に奥行きを感じさせたのはさすが筑田さん。
みかんさんは、小学生、女子高生、適齢期をきっちり演じ分け、姉妹喧嘩の場面がいかにも子供らしく自然でかわいい。
失恋する女子高生時代は、あたりの空気まで変わったようで、感心した。
高校時代の反省体験により性格が180度逆転した人物(男性の姉と女性の同級生)がカップルの応援につく皮肉も面白い。
物語としては中盤であるここが一番面白くよくできているので、ほかの場面がつまらなく感じてしまうのかもしれない。
マタイ【アンケート即日公開中!】
劇団バッコスの祭
シアターグリーン BIG TREE THEATER(東京都)
2012/05/23 (水) ~ 2012/05/28 (月)公演終了
満足度★★★★
現代人の心に突き刺さる史劇
「観たい」にも書いたとおり、初演を観ているのだが、部分的にしか覚えていない。題材や表現方法は面白いと感じたが、
荒削りの印象だった。
今回観て、まったく違うものになっていて驚いた。
「古代史の謎」みたいな本が好きで読んでいたが、また読み返したくなった。
大胆にフィクションを入れ、時空をも飛び越えてしまっている。
座付き作者の森山智仁の着想と構成力はたいしたものだ。
現代人にわかりやすく、しかも共感できる寓話的な作り方をしている。
そして、この劇団は常に史実の説明等を書いた解説資料を終演後に配布する誠実さが、史学科卒としては嬉しい。
思いつくまま好き勝手に書き変えているのではないことがよくわかる。
ただ、あくまで史実に沿い、約束事を重んじた正統派演劇が好きな人にとっては、抵抗を感じるかもしれない。
池袋演劇祭で受賞したり、キャリアを重ね、見せ方も大きく変化してきたように思う。
劇団☆新感線のモノマネっぽいファンタジー活劇が増えている中、バッコスの祭は独自路線で新分野を開拓しているようだ。
いま一歩、脚本のきめ細かさと洗練度が加われば、と思う。
ネタバレBOX
私は古代と言うと、邪馬台国→海洋文化というイメージが浮かぶ。
だから、オープニングで浪の音が聞こえてきたとき、古代にいざなわれるような喜びでワクワクした。
コロスが床を叩いて原始的な打楽器風効果を出す。
しかし、割台詞になると、個々の滑舌の悪さなどが気になってしまう。
迫力ある殺陣や疑闘も、ここの魅力のひとつだが、少数精鋭のときと比べ、客演者のレベルが均一でないため、キレに欠けた。
冒頭のアクションシーンは狭くて動きにくそうだった。
ヒミコ(雨宮真梨)の存在感を示す呪術の場面は、照明効果を使い、せっかくならもっと舞台の高い場所で見せてほしかった。
舞台の手前だと、演出効果が薄れる。
雨宮の声の使い分けは、得意とするところで巧い。生身の女としての可愛らしさにも嫌味がなく自然だ。
ヒミコと側近のナシメ(丹羽隆博)が実は男女関係があるという設定も、人間の性を素直に表現している。
ナシメの異父妹カンナ(金子優子)は起伏のある難しい役どころ。ただ脚本上で、気持ちの変化がわかりにくい個所もあるのが残念。
金子は美貌の娘役だが、台詞を言う時に首が前に出る癖があり、台詞がべたつくのが気になる。
いま舞台女優として活躍している麻乃佳世が宝塚の娘役時代、まったく同じ欠点があり、演劇評論家に指摘され続けても直らなかったことを思い出す。
その評論家の言を借りるなら、早く矯正したほうが良いと思う。
イヨ(辻明佳)は海の向こうから来た人物として描かれる。
辻は目ぢからがあり、軽やかな身のこなしが異分子、イヨの魅力を存分に表現する。
イヨは合理主義のキャリアウーマンタイプに描かれ、ヒミコを追い抜いて女王になってしまう。
三人の女性の愛を受け止める丹羽には、もうひとつ、内面の陰影と外面の華、メリハリがほしい。
大きなステージだと感情表現がまだ伝わりにくい。
脚本にも手薄な面があるが。
途中、文明が猛スピードで進み、まるで現代のような様相を示し始め、これが単なる史劇とは違うことに気付くのだ。
その接着剤となる森山氏のラジオ体操のオトボケがご愛嬌。
三叉川の公害は水俣病とともに、原発事故の地域に残された人々の苦悩をも連想させる。
外国の脅威を説くナシメに、イヨの「武器は抑止力になるが、戦争する必要はない」という反論も防衛問題を想起させる。
文明進化に走り続けてきたマタイの人々の前に、起こる火山の噴火。
大自然の脅威を前になすすべもないイヨに、あの大震災の我々を重ね合わせて観てしまう。
そのイヨが最後に信じるのはナシメとの絆というところが切ない。
パパ、アイ ラブ ユー!
タクトプレイ・プロジェクト
駅前劇場(東京都)
2012/05/06 (日) ~ 2012/05/13 (日)公演終了
満足度★★★
傑作戯曲だけに難しさも
昨年、大好きな劇団だったクロカミショウネン18の新作公演「オセロ」がフライヤーまで出来上がりDMが届いたにもかかわらず、野坂実さんの突然の休筆宣言により、公演中止になったときのショックはいまだに忘れられない。
当初は「休筆」とあるのみで納得できる説明もされず、長くHPはそのままに放置されていたが、最近、劇場での折込チラシで新ユニットやこの公演のことを知った。
気になって久々HPを見たら、劇団は正式に解散したことが書かれていた。
クロカミの元ファンとしてはいまも、一連の対応には納得できないでいるが、レイ・クーニーは大好きだし、ともかく新ユニットの公演を観ることにした。
公演の内容については、ネタばれで。
今後の上演作品はコメディに限らないのかもしれないが、このユニットでの活動が軌道に乗ることを祈らずにはいられない。
ネタバレBOX
レイ・クーニーのシチュエーション・コメディに相応しい立派な舞台美術。
窓の外にはちゃんと雪が降っているのには感心した。
デーヴィッド役の大内厚雄の第一声を聴いて、発声の確かさにまず安心した。
レイの作品は主役に安定した演技力がないと成立しないからである。
この公演に限らず、翻訳ものは、外国人独特のリアクションがあるので、「間」が非常に難しい。
特にジョークの時が日本人俳優の演技の質とは相性が悪く、かなりの名優でも観ていて鼻白むことがしばしば。
本作も例外ではない。
オーバーアクションで台詞を言ったあとにわずかに「間」が生じるときに俳優が手持無沙汰の表情になるので、気恥ずかしく感じてしまう。
特に前半は芝居のテンポがもどかしく感じられるのは否めなかった。
演出の野坂実は、シチュコメはお手の物だけに、このあたりの克服を期待したいところ。
デーヴィッドの同僚ヒューバートの唐沢龍之介はクロカミの番外公演で初めて知った俳優だが、実直で愛すべき人物になりきっていて敢闘賞ものの好演だ。大内とのコンビが成功している。
同様に番外公演で注目した細見慎之介の警官もきっちりと演じていてよかった。
入院患者の持永雄恵(名前から女優かと思っていた)、ヒューバートの母・蓬莱照子の老け役2人もいい。
理事長のワダ・タワー、婦長の祖父江桂子もそれらしく見えるところが評価できる。
隠し子レズリーの太田鷹史は大人の役は巧い人だが、16歳の少年役はミスキャストに思えた。
研修医の熊倉功と役を入れ替えたほうがよかったのでは?と思った。
熊倉はレイ・クーニーの戯曲の中の人には見えない。
同様にデーヴィッドの元愛人ジェーンの稲野杏奈も日本の社宅にいる奥さんみたいで、役のイメージと違いすぎ、もう少し扮装に凝ってほしかった。
これはクリスマスで外は雪が降っている設定なのに、出入りする役者の仕草にその季節感が出てないのが残念。
戯曲がよくできているのだから、そういう細かいところが気になる。
たとえば、デーヴィッドの妻(田所草子)がファー付コートを着て入ってくるのに、極薄のレース手袋で平気な仕草。
レース手袋はコート下の服装に合わせてるのだと思うが、室内で冬手袋からはめ替えるくらいの演出の心遣いはほしい(戯曲のト書きには書かれていなくても)。
ジェーンの服装も春先のような薄着だ。
ヒューバートがマフラーを手に取る場面も芝居で汗だくなため、暑いが段取りでマフラーを掛ける表情になっており、寒い戸外に出ていく仕草ではない。
台詞で面白おかしく見せても、俳優の仕草が段取りに見えたら、芝居と言うものは興がそがれてしまうのだ。
静かな落日―広津家三代
劇団民藝
川崎市麻生市民館ホール(神奈川県)
2012/04/29 (日) ~ 2012/04/29 (日)公演終了
満足度★★★★
しみじみと通う父娘の情愛
2月の紀伊國屋サザンシアターの公演を見逃してしまったので、急遽、川崎で観ることになった。
10年間、上演を続けてきた作品だということも初めて知った。
地味な内容のせいか、客席の観客は圧倒的に中高年や高齢者。
古めかしいホールに、いかにも新劇らしい雰囲気が漂い、タイムスリップした気分。
2月公演の時、松川事件を扱っているだけに重厚な作品かと思ったら、新聞、雑誌などにコメディタッチの明るいホームドラマと紹介されていたので、どんな作品かと期待していた。
しかし、実際に観てみると、最初に想像したイメージに近く、とても明るいホームドラマとは思えなかった。
テーマから「堅い」と敬遠されないために、そういう紹介記事になったのかもしれないが、ちょっと変な気持ちになった。
文学座の「くにこ」のときに文芸作品を期待したら明るいホームドラマ調だったので、紹介記事を読み、この作品もそうなのかと思ってしまったのだ。
三代で作家の広津家を描いているだけに、やはり文芸作品という趣の戯曲である。
小津安二郎監督の「晩春」が広津和郎の原作で、和郎・桃子父子がモデルということを踏まえて観ると、しみじみとした親子の情愛がいっそう鮮やかに迫ってくる思いがした。
ネタバレBOX
作家仲間の宇野浩二(小杉勇二)に勧められて松川事件の被告たちの文集を読み、冤罪だと直感した広津和郎(伊藤孝雄)は、文学とは畑違いの法律の知識など皆無なのに、被告の無罪を信じて、ペン1本で戦いを挑んでいく。
被告の取り調べ調書を警察がねつ造する場面は、現代のいくつかの冤罪事件や先日判決が下った小沢裁判を思わせる。
新聞も検察の情報を垂れ流して世論を操作し、広津は世間からも袋叩きにされる。
検察やマスコミの状況が現代でもまったく変わっていないことに愕然とした。
私生活では女性問題を抱え、飽きっぽく、チャランポランなところもある和郎が、松川事件の支援活動では粘り強く、人が変わったように執念を燃やす。
家庭人として和郎を批判的にも見ていた娘の桃子(樫山文枝)は独身で、和郎の仕事を手伝い、実家、妾宅、仕事場の三つを往復し、家族を献身的に支える。
松川事件の支援活動が、和郎にとっては「文学」であったという描き方である。
伊藤孝雄と樫山文枝の会話を聴いていて、こういう時代的雰囲気は最近の若い俳優では出せないと思った。
テクニックの問題ではない。
伊藤孝雄は端正な二枚目俳優として鳴らしただけに、艶聞家としての男の色気も感じられ、反骨精神旺盛な物書きらしく見えるのがよい。
樫山は、いまも変わらぬ清楚さで、しっかりもので心優しい娘をきめ細やかに演じていた。
ろくに言葉も交わさずほのかな恋心を抱いた相手についての思い出を父と語るときの慎ましさに胸を突かれた。
水谷貞雄の志賀直哉もご本人のイメージにぴったりだった。
松川事件の冤罪性については被告赤間勝美(伊東理昭)の取り調べの場面だけでうまく説明されている。
文学者としての家庭の日常は描かれるが、文筆により和郎が検察の矛盾をどう突いていったのかは具体的に示されない。
支援活動が和郎にとって文学活動でもあったのなら、核心部分を、独白でなり、少しは描いてほしかったと思う。
しっかり作りこんだ舞台美術といい、演出の手堅さといい、私が昔から抱いてきた「新劇」のイメージそのもの。
良くも悪くも半世紀前とまったく変わっていないのに驚いた。
逆に言えば、若い観客には共感しにくいかもしれない。
全国の観客組織が民藝を支えているようだが、最近の演劇界では新劇無用論まで出ており、お芝居の内容とは別に、民藝の将来について考えこんでしまった。
Hobson's Choice -ホブソンの婿選び-
無名塾
ル テアトル銀座 by PARCO(東京都)
2012/03/17 (土) ~ 2012/03/24 (土)公演終了
満足度★★★★★
名優の舞台に感謝
仲代達矢さんというと、悲壮感漂う重厚な演技が思い浮かぶが、今回はコメディということで、どうしても観たいと思った。
私は名画座常連なので、だいたい月に1本は仲代さんが20代の時の若者役の映画を観ている。
だから、実年齢の仲代さんに向き合うのはとても不思議な気持ちになる。
この作品も、デヴィッド・リーン監督の映画に感動した仲代さんが元は戯曲と知って、上演を希望したとか。
全国巡演が7月まで続く長丁場。俳優生活60年と言えば、それだけでも還暦。
ますます意気軒高である。
俳優生活60周年を記念公演なので、パンフレットにも、映画、舞台、テレビの代表作のスチールを集めて掲載されているのが嬉しい。
ネタバレBOX
観ているうちに主人公が「リア王」に見えてきた。
「リア王」は老いの苦しみを知ってから本当に理解できると書いていた人がいたけれど、私もそう思う。
仲代のホブソンは、「おじいさんの台所」で森繁久弥が演じた父親をも思わせる。
ゆったりと飄々としたしゃべりかたはユーモラスな中に、年老いた男親特有のひがみっぽさもにじみ、「おじいさんの台所」や「リア王」、そして、私自身の父親との会話を思い起こさせた。
男親の身勝手な理屈で、娘を頼らないと言いつつ、いざ親離れすると邪険だと文句を言い、プライドは人一倍で、往時の自分を基準におくものだから、現状が情けなく、もどかしく苛立つ。
喰えない頑固で偏屈オヤジだが、憎めない可愛らしさもある。
長女マギー(渡辺梓)のお仕込みで、当主らしく鍛えられた元使用人で婿のアルバート(森岡弘一郎)が、ホブソンに対し、居丈高に振る舞うが、それも実はホブソンを納得させる芝居だと知った時、少しほっとした。
自分の幸せを自らの手でつかみ取ってしまうマギーの意志の強さには感心した。
靴職人のタビーに抜擢された鎌倉太郎が師匠の仲代とセリフを交わす場面に、「おお!」と感動。
鎌倉はコント劇団、ブラボー・カンパニーの劇団員でもあり、無名塾での芝居は今回初めて観たのだが、髭が濃く、彫りの深い横顔は、先輩の役所公司を彷彿とさせる。
娘にいいようにぎゅうじられて、おもわず「マジっすかー!」と立ち上がる場面には大喜びしてしまった。
なかなか、仲代達矢の「マジっすかー」と言うところは見られないでしょう(笑)。
生きて舞台に立ってくださるだけで、ありがたやと思わず拝んでしまいたくなる名優である。