Michelle
WAKUプロデュース
赤坂RED/THEATER(東京都)
2010/12/05 (日) ~ 2010/12/09 (木)公演終了
満足度★★★
父性愛
このお芝居も声優さんが出るため、アニメファンで満席。当日券がなく、ガッカリして帰る人も見受けられました。
休憩なしの2時間、エピソードをつなぐための暗転が多く、少々疲れました。
登場人物が多く、話を盛り込みすぎた感があります。
「男たちの愛」を描いていて、なかでも父性愛が主要テーマだと思ったが、いくつもの山があり、周辺の女性の話も出すので、全体として散漫な印象を受けた。
千秋楽の挨拶で「いろいろあるけど、皆さん、元気で頑張りましょう」と言ったTARAKOさんの言葉が胸に響きました。そういう思いを込めて作ったお芝居なのでしょうけれど、違和感も残った。
題名はビートルズの曲名からきている。
前説で、「劇中、ナマハゲたちが出てきて場内を通ります。そのとき、泣く子はいねぇかーと言ったらいちおう反応して泣いてあげてください。ナマハゲも大人の役者なので反応がないと困惑します」と言うので、いつナマハゲが出てくるのかと思っていたら、とうとう出てこなかった。「演技で泣かせる」という比喩で言ったのだろうか。比喩にしてはストレートな物言いだったのだが。わかりにくいギャグはやめてほしい(笑)。
ネタバレBOX
子供のいない森下夫妻(鹿島良太・皆口裕子)。夫は会社をリストラされて求職活動中だが妻には内緒にしていて、結婚前の女装癖が出てコスプレパブに通う。コスプレパブの経営者(楠見尚己)は若いとき離婚し、一人息子を施設に預け、同じ境遇のリュウ(柏進)を養子にしている。森下と同じマンションの木内夫妻にもミュージシャ志望の一人息子光太郎(山下平祐)がいて、夫(木原実)はリストラ後、第二の就職先で、子沢山の若い上司(佐野貴之)にいじめられているが木内の妻(山口美紗)がガンで入院してしまう。木内もコスプレパブに通い始める。光太郎の親友(杉原勇武)を幼い頃からいじめ続ける金持ちの息子町田(斉藤佑介)が実はコスプレパブの経営者の実の息子。森下の妻の妹(今村真沙美)は町田の会社の詐欺にひっかかりそうになるが、そこの女子社員(柳沢三千代)が片思いのリュウに貢いでいる。コスプレパブには離婚した妻の間にモモという一人娘のいる日雇い労働者カラス(古山憲太郎)が常連客で、従業員ナミダ(松野太紀)がモモという名の猫を可愛がっている。
これらの人物が絡み合って話が展開するが、もう少し登場人物を減らして話をすっきりさせたほうがよいと思う。森下の妻の妹の描き方が不十分だ。
一番不満だったのは、森下、木内、木内の息子、リュウらの周囲や家族に対する態度に思いやりが欠けていること。これでは幸せになれないと思うが、彼らはあまり自覚がないのだ。
特に町田とリュウは不幸な生い立ちとはいえ、描き方が最後まで不愉快になるほどひねくれており、救いがない。
狙いはほんわかと心温まるストーリーなのだろうが、後味の悪さが残った。
木原、鹿島のコメディ的な場面は面白かったし、古山はどんな芝居でも独特の存在感と誠実な演技を残す。モダンスイマーズではありえないお茶目なコスプレもファン必見。
ジャンヌ・ダルク
TBS
赤坂ACTシアター(東京都)
2010/11/30 (火) ~ 2010/12/09 (木)公演終了
満足度★★★★
堀北真希の魅力が光る
堀北真希は初舞台・初主演ということで、あまり演技には期待していなかったのだが、ジャンヌ・ダルクそのもののオーラを発し、よく通る美しい声、気高く凛々しい容姿、抑えた悲しみの表情がとてもよい。
初舞台にして代表作ができた。魅力的な舞台女優がまた一人誕生した。
そういえば、堀北はTVドラマでは逆境で誤解されるけなげな少女役を多く演じてきたこともあり、ジャンヌ・ダルクは適役とも言える。
稽古場では棒読み演技で周囲が心配したという。幕があいて一番驚いたのは共演者たちだったそうで、いまでは若き主役を支えようとチームワークも磐石だ。最初は半信半疑だった兵士たちの信頼を勝ち得ていくジャンヌに重なるものを感じる。
キャラクターの善悪がはっきりできているところは中島かずきらしく、白井晃の演出もセンスよく奇をてらわずすっきりとまとめている。
2つの開口部を奈落のようにうまく使って、軍勢のボリューム感を出した舞台美術も秀逸。
小さなホールで公演していたあの白井さんがこんな大舞台の演出を手がけるようになったとは感無量である。
ネタバレBOX
シャルルとジャンヌが実の兄妹という設定で、それゆえ、妹を見殺しにせねばならなかった苦悩と悲劇が浮き彫りになっている。
敵でありながらジャンヌを認めるベッドフォード公(山口馬木也)とシャルルの側近で腹黒くがめついトレムイユ(西岡徳馬)が印象に残った。シャルルの后マリーの柴本幸も心やさしい妻をくっきりと演じた(母の真野響子のデビュー当時より演技力はあると思う)。腹のすわったシャルルの継母ヨランドの浅野温子はメークも魔女のようで貫禄十分。中島が好むデフォルメされたような役柄を好演するが、ときどき昔からの癖のある台詞回しと表情が出るのもご愛嬌か。浅野は遊機械の解散公演に白井が客演でヒロインに招んだほどだからお気に入りの女優なのだろう。
シャルルの伊藤英明は幕開き、演技が一本調子に感じたがシャルルは凡愚の王だからか。後半は力強さも出てきた。
田山涼成、六平直政、上杉祥三、池下重大ら脇役陣も豪華な使い方。
エキストラで若い俳優たちが舞台狭しと暴れ回る。そのなかには小劇場でおなじみの顔も。彼らもまた明日のスターなのだと胸が熱くなる。
野球なんて大嫌い
はらぺこペンギン!
「劇」小劇場(東京都)
2010/12/01 (水) ~ 2010/12/06 (月)公演終了
満足度★★★★★
凄く面白かった!
「はらぺこペンギン!」は名前は知ってたが、観たのは初めて。予約なしで週末に観たのも初めてなら、「劇」小劇場の最後部で観るのも初めての経験。
初めて尽くしだったが、予想以上に凄く面白かった。
早稲田系って騒々しいという先入観(偏見?笑)があるのだが、丁寧な作りで悪ふざけがなく、好感がもてた。今後も観たい劇団のひとつです。
ネタバレBOX
2011年に巨人と日本ハムが日本シリーズで対戦するという設定。主宰の挨拶アナウンスからしてアンチ巨人の私など「どんだけ巨人が好きなの!」とあきれてしまうのだが、暑苦しいジャイアンツ愛(?)もしっかり取り込んで、ストーリーは進んでいく。登場人物の名前がすべて巨人の選手名。「離婚してからのダル、本気モード」だったり「ハンカチ、意外にあなどれない」だったり「ルーキーの沢村、まさかの失投」だったり、野球を観てる者には思わずニヤニヤしてしまう会話が出てくる。
クライマックスで、実家の応援グッズをかき集めたがレプリカが古く、「背中は二岡だけどな」には大笑いしてしまった。
井上という元プロ野球選手の悲哀もよく描かれている。実在の某元プロ野球選手のお店に行ったときの応対を思い出してしまった。ちょっと照れくさそうで寂しそうで、ちょうどこんな感じだった。
映画にしてもよさそうな作品だと思った。
オカマを演じた三原一太が緩急自在な演技で、一番印象に残った。
配慮なのか、横浜ベイスターズの歌が流れてました(笑)。
野球に詳しい家族にも観せたかった。
トナカイを数えたら眠れない
MONO
座・高円寺1(東京都)
2010/11/27 (土) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★★★
やっぱり観てよかった!
土田英生さんの外部の仕事は観てるけど、劇団の公演はいつも観のがしていたので、今回初。千秋楽にギリギリ滑り込みセーフで観てきました。
いやー、楽しかった。やっぱり行ってよかった。
個性的でちょっとおかしな人たちが出てくるのだけれど、わざとらしくなく、それぞれ真面目に演じてるんだけど、会話がたまらなくおかしいという、私の好みにピッタリのコメディーでした。
若い人にはイマイチ面白さが通じないのかもしれないけど、上質な大人のコメディーだと思います。
題名は内容には直接関係ないけど、「羊」でなく、「トナカイ」というところが面白いなー。
ネタバレBOX
トランプゲームに興じているときの会話で、学生時代の各人のスタンスがわかり、ちょっとしたひとことにひっかかって、機嫌を損ねたり、人間関係の機微が感じられて興味深い。ゲームでの会話はヨーロッパ企画にも通じる笑い。
名古屋弁をしゃべるエキセントリックなところがあるケーキ職人の登場によって、いっそう面白くなっていく。オーナーと夫人の妹との不倫関係や、妹が幼女時代、姉にひどくいじめられたというトラウマ、姉妹の中にある嫉妬とわだかまりなども描かれ、単に「ワハハ」と笑っておしまい、というノーテンキなコメディーではないところも気に入った。思い出のおもちゃの電話を使って姉妹の心が通う場面など巧い演出だ。
舞台美術のセンスもよく、クリスマス気分に浸れ、本当に楽しいひとときだった。
コミック・ポテンシャル
劇団あかぺら倶楽部
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2010/12/01 (水) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★★
何かヘンだと思ったら・・・
前回の公演、マチネーは余裕があったのに、今回は満席、大賑わいで、競技場以外では初めて男性トイレでの行列を見た。
何かいつものあかぺらとは雰囲気違うぞと思ったら、ヒロインが声優でもおなじみの下田麻美嬢だったのだ。
アニメは見ないのでまったく知らないが、人気があるんでしょうね。
ナース姿で女性アンドロイド役とくれば、萌えるらしい。
アフタートークも「もっと聞きたーい!」コール。終演後はチェックのシャツにリュック姿の男性たちが池袋芸術劇場の周囲をとりまき、ファン交歓会が始まっていた。「麻美ちゃんが出るんで生まれて初めて演劇観たけど、感動したよー」とオイオイ泣いてる人もいる。これを機に演劇にも興味をもってくれるとよいけれど。
逆に、集客に苦労してる劇団は声優の女優さんを客演させる効果あるかも(笑)。
平田オリザ氏によるアンドロイド演劇も始まった時代、タイムリーな上演だった。
ネタバレBOX
脚本家志望の青年アダム(吉田智則)とTV局で出会ったアンドロイドの女優ジェシー(下田麻美)との禁断のロマンス。
上演時間2時間50分と聞いてアフタートークもあるし、移動時間が足りないので夜の観劇をあきらめた(予約なしで当日観る予定だったのでキャンセルではない)。あと20分くらいは刈り込める気もしたが、諷刺もきいていて楽しいコメディーだった。
俳優がアンドロイドになっていて、「涙も機械調節次第」という味気ない近未来のテレビ局。
人間とアンドロイド、禁断の恋の逃避行があり、アンドロイドならでは騒動が起こり、大いに盛り上がる。一般の演劇ファンと違い、ジェニーを見守るお客さんの熱気が凄い(笑)。
芸術家肌で冷や飯を食わされている演出家チャンドラー役の高木 渉はいつもは主役だが、より抑えた演技で、今回は若手の引き立て役に徹していた。演出家の水鳥さんが夏公演直前に急逝されたが、そのうち、世代交代もしなければならないだろう。今回はその試金石ともいえ、なかなかうまくいった公演だったと思う。
海外のコメディーを専門に上演しているこの劇団、年1回の公演が楽しみだ。
くにこ
文学座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2010/11/26 (金) ~ 2010/12/05 (日)公演終了
満足度★★★
期待していたものとは違っていた
文学座で「くにこ」というと、文芸作品の香りを勝手に期待していたので、全然違う内容で肩透かしをくらった気分でした。
明るく楽しい家庭劇という感じで、私には向田邦子という脚本家が持っていた「棘」のようなものがずっと気になっていた時期があり、それを追体験できると思って劇場へ行ったのが大間違いだったようです。
確かによくまとまったお芝居で、文学座ファンの女性客の好みにも合っているのでしょうけど、正直物足りなさを感じ、自分にとっては入場料6000円は高いな、と思いました。
帰途、年配のご夫婦連れらしいお客さんの男性のほうが「ちょっと違うんだなぁ、自分が期待していた芝居とは、さ・・・」と呟かれたのが心に響きました。
ネタバレBOX
栗田桃子さんの「くにこ」は溌剌と可愛らしく、仲良し三姉妹もほほえましいのですが、自分が向田邦子の随筆を読んで思い浮かべた家庭は、父権に萎縮してるようなある種、戦前の暗さを感じていたので、「明るい笑いと元気」なんて「サザエさん」みたいで面食らいました。実際、角野さんの父親は波平さんみたいでした。
栗田さんの「くにこ」は魅力的だけれど、私の抱く向田邦子のイメージとは違いすぎていました。
一般家庭の話ならインパクトに欠けるので、「向田邦子」という冠をかぶせたのでしょうか。さりげなく、「もしかして向田さんがモデル?」と匂わせる程度ならまだしも「向田邦子さんがモデルのお芝居やります」みたいに写真つきで宣伝されたら違和感が残ります。
向田作品の名場面の一部が出てきたり、工夫はされていましたが、辛い戦時もあっというまにスルー。ただただ甘い砂糖菓子のようで、しみじみとしたものが何も残らなかったです。
覗絡繰
声を出すと気持ちいいの会
演劇スタジオB(明治大学駿河台校舎14号館プレハブ棟) (東京都)
2010/11/25 (木) ~ 2010/11/29 (月)公演終了
満足度★★★★
「声きも」らしさが出た作品
長くログ・インエラーが続き、すぐに感想を書きこめませんでした。あしからず。
前回の「百年時計」よりも「声きも」の特徴がよく出ていて楽しめた。
わずか4人の登場人物なのに、熱量が凄い。
山本タカさんには今後も期待できそうだ。
詳しくはネタバレで。
スタッフの話ではチケプレ応募も盛況だったとのことだが、その割に「観たい!」「観てきた!」の登録が少ないのはどうしたことだろう。せめて当選した人は登録してくれてもよいのではないだろうか。
ネタバレBOX
弟役の後藤祐哉の語りの力が素晴らしかった。浅草の街の光景や部屋の饐えたにおいが眼前に現れてくるようでコント集団「神と仏」のときとは別人のよう。
兄役の石綿大夢、父親と芋虫の川名幸宏、弟の彼女役の加藤みさきらが繰り広げる官能的で大胆な演技に感心させられた。
学生とはいえ、このメンバーはいくつかの難しい芝居に挑戦してきているので、安定感がある。
押絵とノートパソコンが一体化するなど、乱歩の世界を現代人にもわかりやすく伝えたのはお手柄。
乱歩の文学的本質に迫っている点も興味深い。
トマトを眼球に見立てて潰すなど、この劇団の演出家らしい表現だと思った。
カサブランカ・ヨサブランカ
連跿(LENZ)
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2010/11/25 (木) ~ 2010/11/30 (火)公演終了
満足度★★★★
不思議な世界
ログイン・エラーが長く続いたためすぐに書けませんでした。
初見の劇団ですが、別役作品を思わせるような、一編の小説を読み終えたような不思議な世界を描いた素晴らしい作品で、観てよかったと思えた。再演されればもう一度観てみたいと思います。
開演前、セットのテレビに映画の「カサブランカ」が映っていて開演直前に終わるのですが、時間を逆算して流してるのかと思ったら、偶然だったそうで、「お芝居の神様が降りてきたみたいですよ」と関係者が教えてくれました。
ネタバレBOX
回想を含め、旅館の一室の出来事を描き、俳優座の森尻斗南、その妻(同棲相手なのかもしれないが)役に東京乾電池の松元夢子、クロカミショウネン18のワダ・タワーと役者がそろい、加藤記生、根津弥生の宿の女中コンビも達者で面白く、密度の濃いお芝居を堪能させてもらいました。
松元が歌い、踊るコケティッシュな女を演じて魅力的。森尻演じる島田という文士風の男、時折「エヘヘ」と言うのだが、笑って言わないところが、昔の小説や映画の台詞のようで印象に残った。
島田の部屋に図々しく闖入して来てまくしたてる歯痛持ちのヘンな男、三島を大真面目に演じるワダ・タワーがとても巧く、彼だからこその適役だと思った。大学に8年も行っている、こういうヒネた大学生は昔はよく見かけたのだが、作品全体が70年代風に感じられ、懐かしかった。部屋にイチョウが舞う終幕、なんともいえない余韻があった。
「ヨサブランカ」はどういう意味なんだろう。女に翻弄され、港町に流れ着いた島田=「切られ与三郎」のことかしら、なんて勝手に考えてしまった。
三文オペラ
桐朋学園芸術短期大学演劇専攻
桐朋学園芸術短期大学小劇場(東京都)
2010/11/27 (土) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★★★
ウォッカ・チームを拝見
休憩込み3時間10分の大作。最近、ミュージカルを観にいっていないのですが、久々に楽しみました。2チームWキャストなので、できれば両組観比べたかったが、時間がとれなかった。
生演奏というのも贅沢で嬉しい。
Tシャツをコラージュしたカラフルな「引き幕」が力作で、これも立派なアート作品でした。
ネタバレBOX
主役のメッキースを演じた岡部秀さんに魅了された。長身で華があり、甘いマスクと歌声で将来が楽しみ。
ポリーの西野亜弥さんは結婚してからの演技が思い切りよく、ルーシーの徳山麻美さんとの恋の鞘当が楽しい。コミカルな芝居が松本紀保を思わせる。地声のとき、なぜか演歌調に聞こえる。
ピーチャム夫妻の橋本浩太郎さん、大石知里さん、ブラウンの植松慎之助さんは大人の役をこなした。
スミスの阿部由希子さんの大胆な演技、年老いた娼婦を演じた森山加生莉さんも短い出番ながら印象に残った。
マダム風の娼婦ジェニーの小原麻衣さんは美しく、観客への視線のとばしかたを心得ているが声が細いのが惜しい。
「お芝居の世界ではハッピーエンドで終わらせるが、現実社会ではこうはならない」とピーチャムが観客に向け最後に釘を刺す。「よい子はけっしてまねをしないように」ということですね。
マレビトの会『HIROSHIMAーHAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会』
フェスティバル/トーキョー実行委員会
自由学園明日館 講堂(東京都)
2010/11/24 (水) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★
疲労感だけが残った
「展覧会のような演劇」というコンセプトも演劇に対する先入観やある種の壁を取っ払う試みとしては評価できる。
「日本国憲法」のときと同じ会場で、俳優が同時多発的に演じるのも、観客が移動自由なのも同様。
それに伴う居心地の悪さが付きまとい、開場から1時間半強観たが、繰り返される演技もあるためか、途中でめまいに似た疲れが襲ってきて、グッタリしてしまった。
ジャンルの固定観念を取り除くボーダーレスな“パフォーミング・アート”というのは、かつて自分も仕事で企画に関わった経験があるが、なかなか理解してもらうのが難しい。
ネタバレBOX
個々に「ヒロシマ」「ハプチョン」について発信するなか、ひとり芝居の演技者たちが会場で交錯しながら、あるところでは会話の芝居を行い、点から線へと流動していく。最後まで残っていたら、別のことが体験できたのかもしれないが、体力・気力がもたなかった。
受け止め方は観客個々に委ねられ、自由なのかもしれないが、メッセージをうまく感じ取ることができなかった。
一番印象に残ったのは、劇団衛星の俳優F.ジャパン氏を至近距離で観たこと?(笑)
ロジェ・ベルナット『パブリック・ドメイン』
フェスティバル/トーキョー実行委員会
池袋西口公園(東京都)
2010/10/30 (土) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★
楽しめなかった
興味深い企画だとは思うが、かなり立ち入った設問もあり、面食らった。答えは動作で表現されるので、答えながらも、他人の回答も一部視野に入ってくるわけだが、命令され集団催眠にかかっているような一種の不快感が終始拭えなかった。演劇の現場にいる人はまた違う興味もあるのだろうけど。
ネタバレBOX
「拳銃を持ったことがあるか」とか「引き金を引いたことがあるか」という質問も、俳優としてとか、射撃場でとか、競技スターターとして経験した人もいるだろうな
、と思った。
「スーパーで物を盗んだことがある人」が意外に多いのにも驚く。こんなに万引き経験者が多いのか。
「外国で生まれた」「外国に住んだことがある人」が多い割に、「東京で生まれた人」が少ないのも意外だった。
“P”s (ピース) ~Wings to fly~
劇団め組
吉祥寺シアター(東京都)
2010/11/26 (金) ~ 2010/11/29 (月)公演終了
満足度★★★★★
まさに求めていた作品
「自衛隊は暴力装置」という官房長官の発言に非難が集中、北朝鮮が韓国を砲撃し、若い世代の間でも「国益優先・国防強化」の論議がかまびすしくなっている今、この作品に巡り合うことができて本当に嬉しかった。
戦争の風化が言われて久しいけれど、パンフレットの合馬さんの挨拶文に胸打たれ、改めて演劇の力を感じた。
「国を守り、戦争をする」ということはどういう状況を生むのか、私たちは改めて考察する必要があると思う。
ネタバレBOX
BC級戦犯として死刑を求刑された男たちの物語。
戦場に出た彼らそれぞれの境遇と戦争に対する思いが浮き彫りにされていくなか、戦場では「個」が抹殺され、そのことに思いを馳せる状況にはなかったことが描かれる。
彼らに付き添う教誨師、刑を免れた年若い兵・中沢、助命嘆願が叶って一人生き残ることになった陸軍大尉らの「重い生」にも作家の温かい目は注がれる。
舞台には男優しか出ない。女優陣は「男たちにとって大切な存在の女性」として映像出演する。映し出される妻や恋人たちの美しいこと。罪もない彼女たちを幸せにはできない、それが戦争なのだということを噛み締めた。
静かな芝居なので、ときどき鳴る携帯電話のバイブ音が非常に耳障りだった。特に芝居に夢中でずっと大泣きしている真後ろの女性客がなかなか鳴っている携帯を止めないのには腹が立った。
さくらころび
劇団五〇鬼
池袋小劇場(東京都)
2010/11/26 (金) ~ 2010/11/30 (火)公演終了
満足度★★★★
不思議な味わい
「奇譚もの」だが、コメディーやミステリーの面白さもあり、不思議な味わいの作品。
公演歴をみると、「怪異芝居」に絞っているのが特徴の劇団のようで、本拠地にしてきた池袋小劇場が今年いっぱいで閉場とのこと。劇団員の感慨もひとしおだろう。もちろん劇団活動は今後も続くので、観てみたいと思った。
ネタバレBOX
桜女の言う「きのせいじゃ」が「木のせい」「気のせい」にも聞こえ、面白い。
謎解きが二転三転していくので、最後まで気が抜けない。
花嫁・徳利が歌う場面あたりからミュージカルのようにもなっていき、爆笑が起こり、いろんな楽しみが詰まった作品。
作・演出家の森脇アキラさんは父親役でも出演し、ペーソスあふれる演技で魅せる。
カーテンコールのあとに芝居が続くが、素に戻って挨拶したあと、再び役に戻るというのは意見が分かれるところ。個人的には、舞台の緊張感はまとめて前にもってきてほしいと思った。
おまつりしましょ
劇団娯楽天国
TACCS1179(東京都)
2010/11/25 (木) ~ 2010/11/28 (日)公演終了
満足度★★★★★
充実度に感服
コメディー一色という内容ではなく、前作よりさらにグレードアップされていて堪能しました。
この劇団の公演自体、年に一度なので、ある意味「おまつり」なのですね。
スタッフ、キャストの意気込みが並大抵のものではなく、観客の期待感も非常に大きいようで、会場の熱気が物凄かったです。
これ、「しましょ」シリーズのひとつなのですね。
ネタバレBOX
内容については詳述されているかたがいるので省略させていただきます。
冒頭のお神楽の舞が本格的で(たぶんおかめは高畑さんだと思いますが)、緊張した。桃木さんの鈴を持つ型も美しく、こういう細かい点にも神経が行き届いていることに感心。
政権交代の社会状況、ダム問題、農家の嫁不足での中国人嫁、民俗風習の面白さ、村落共同体の問題点、家族愛、郷土愛などが散漫になることなくきっちりと描かれており、脚本の充実度を感じた。
作・演出の小倉さんは俳優としても面白い人。自然な演技で笑わせてくれる。
舞台美術の佐藤さんが建築家でもあることから、申し分ない出来栄え。
舞台隅の「奉納オヘノコ?」が草間彌生のオブジェを思わせる。
投資詐欺をやっている山城が長者さまの息子と間違われ、村の救世主に奉り上げられ、オヘノコまつりの稽古に巻き込まれ当惑する場面はシチュコメ的な「勘違い」のおかしさで大いに笑った。オヘノコのかぶりものに、ヘンテコな振り付け。それを大真面目にやるから面白い。架空の村という設定を忘れてしまうほど俳優が役になりきっていて、コメディー劇団にありがちなウケ狙いがないところがこの劇団には好感がもてる。
Dress Omnibus Theater#25
トリコロールケーキ
DRESS AKIBA HALL(東京都)
2010/11/25 (木) ~ 2010/11/25 (木)公演終了
満足度★★★★
三本勝負!
男女ペア(長谷川一樹/鳥原弓里江)で5分もののコント3連発。
「Torico Roll Cake」という演劇ユニットを今回、初めて知ったが、2人がなかなかいい味を出していて印象に残った。
5分間でドラマを作り、しっかりした印象を残したのはお見事。
鳥原は来年1月、劇団鋼鉄村松の「リーマン兄弟と嫁」に客演し、ヒロインの「嫁」を演じるという。
ネタバレBOX
「命乞い」
人質らしき女性に銃口を向ける犯人の男性。要求は「結婚してほしい!」男の台詞が徐々にキザになっていき、やがて女性はメロメロに。「ハードボイルドだど!」のギャグを思い出させるコント。
「離婚」
夫婦の間で進む離婚話。「もう耐えられない」という秘密は「太もも」(笑)。このコント、椅子に座らず中腰の姿勢で会話しているのだ。磯川家ユニットがこの手法で学園コントをやっていたが、それとはまた違ったテイストで仕上げている。妻がさりげなく席を立つと「そんなところで手を抜くなよ」とすかさず夫のツッコミが(笑)。
「ネコの思い出」
職員室での会話。野良猫をケ-タイの待ち受け画面にしている男性教師が同僚の女性教師に心境を語る。「しんみりした話」かと思いきや、この男性教師の真の姿は変態であった・・・。
AC アガリスクコント vol.1
Aga-risk Entertainment
DRESS AKIBA HALL(東京都)
2010/11/25 (木) ~ 2010/11/25 (木)公演終了
満足度★★★
「笑い」への意欲は伝わった
秋葉原DRESS AKIBA HALLでのコントライブ。アガリスクは4組の出演者の1組である。
プロジェクターで投影する画像がPCの不具合で出てこないというハプニングがあり、画像なし見切り発車で始まったコント7本約30分。
私はそもそも長時間の芝居とコントを区別しない見方をしているのだけれど、演劇人のコントというのは、ある程度の期待をもって見るのも事実。
「今回は"笑わせ方"をテーマに色々試行錯誤してみようと思います。」とのことですが、出演者が段取りにバタバタしているように見え、5本くらいに絞ったほうがよかったのでは、と個人的には思いました。
また、長時間ではないコントライブの場合、画像に頼らないでシンプルに作ったほうがよいと思う。
「冠婚葬祭」「差別」「自宅がメッカ」がやはり演劇的で面白かった。最近は大学生でもウーンと唸るような面白いコントを作るものだから、今回の小ネタについては、さほど面白くは感じなかった(スミマセン)。詳細はネタバレで。
ネタバレBOX
「冠婚葬祭」は、結婚式と葬式のことをそれぞれ話す2人が共通の内容に勘違いしながら会話を続け、キーとなる単語の紙を帽子の上に差していく。この紙の束が手元で文字を手前にバラバラはためくので次の展開がよめてしまうのが惜しかった。完全裏向きにしておけばまだしもと思ったが。また、同趣旨のコントや漫才を得意とする既成お笑い芸人がいて、それを見ているせいか、新鮮さを感じない。シチュコメの骨組を見せたかったなら、既成のお笑いにはない、もうひとひねりのアイディアがほしいところ。
「差別」
黒人の赤ん坊が生まれ、「明らかに自分の子ではない」という夫の「妻の不実」の主張と「外見や人種で差別するあなたがおかしい」と問題をすりかえて「愛」を強要する妻とのすれ違い。単純に笑えないブラックな要素もあるが、着眼点が面白い。実際、これと同じ事件が起こって離婚した夫婦の話を知っているだけに考えさせられた。
「自宅がメッカ」
ラストの作品で、このとき、ようやく画像が出た。これは画像フォローがないと成立しにくい性格のものなので、安堵した。
ある朝目覚めたら、男の自宅がメッカになっていて、周囲に騒動が巻き起こる。芝居になりそうな題材だ。「北朝鮮がミサイルを発射」「ロシアが北海道を領土と主張」「中国が中国地方を領土と主張」などのニュースが読み上げられると、これも現状では案外起こりうる笑えない話かも(笑)。この作品も役者が段取りに追われるのが見てとれた。これが消えないと客はハラハラしてしまう。
演じた 淺越岳人、塩原俊之のお二人。淺越はシチュコメにはもってこいの俳優で、彼の芸風には若いときの小倉久寛(SET)と車だん吉を足して2で割ったような面白さを感じる。塩原は常に真面目に芝居をする人。その真面目さが「ワハハと笑えばいい」単なる「コント」に落とさない「間」を生む。これは貴重な長所である。
このコントライブはコメディー作家の「笑いを生む現場」の一端を知る良い体験にもなった。観終わって「冨阪友の才能ははかり知れないものがある」と期待している自分がいる。
架空の箱庭療法
Nichecraft
東中野レンタルスペース(東京都)
2010/11/20 (土) ~ 2010/11/23 (火)公演終了
満足度★★★
面白い試み
アートと演劇の接点みたいなこういう企画は興味深いと思いました。
箱庭はあの大きさでもかまわないのですが、説明文の字が小さくて、自分のように目が悪い者には読みづらかったです。
フライヤーに各作品タイトルだけでも載せていればな、と思いました。アートの展覧会でもそういう配慮はあるので。
舞台美術としては芥川作品をモチーフにした「変奏・歯車」や、「絶対安全狼男」が面白く、観てみたいと思いました。
入札に参加しようと思った作品もあったのですが、切断や接着面の処理が雑なのが気になり、保存強度を考えてやめました。
乱歩の恋文
てがみ座
王子小劇場(東京都)
2010/11/03 (水) ~ 2010/11/10 (水)公演終了
満足度★★★★
贅沢な時間でした
衝撃が強かったせいか、どう伝えたらよいかまるで牛の咀嚼みたいに自分の中で感想を反芻してしまいました。書くことがまとまらなくて。
「立ち見も出ている」との情報に千秋楽、おそるおそる劇場の入り口に立ったのですが、時間帯のせいもあったのか、余裕をもって席を選べました。自分ではよほどのことがない限り選ばない最前列に陣取り堪能しました(その後、前に補助席が出ましたが)。
劇内容と魅力についてはほかのかたが非常に詳しく言い尽くしておられるので、自分は思いついたことのみ、いくつかネタバレにて。
ネタバレBOX
このお芝居は紀伊國屋ホールのようにレトロな劇場で上演したほうがふさわしい気がして、改めて作品とハコの関係を感じ、興味深かった。ヨーロッパ企画の「曲がれ!スプーン」のときに感じたのとは逆の感想になりますが。
長田さんは才能を十分に発揮。どこか師匠の井上ひさしさんを思わせるところもあって、その作品の完成度が人によっては逆に違和感を感じるのかもしれない。長編を書く力があっても小劇場のハコに合わせてあえて適度な時間に収める劇作家もいて、それはそれで素晴らしいと私は思っている。
俳優全員がその世界の人になりきっているのが素晴らしく、すべて語れないが、特に主役の西田さん、以前フライングステージの公演で知って好きになり、そのときは席が後方でよく表情を観ることができなかったので、今回近くで観劇できて嬉しかった。流麗で巧い。役によってこんなに印象が違うとは。彼女の「乱歩の妻」にかかっているという感じでしたね。神保良介さんは新しい一面が発揮できた。横溝と乱歩の関係は、自分が他の本で読んだ印象とはまた違う描かれ方をしていたが、尾崎宇内さんの役者として大切な「役の色気」には感心させられ、何年か前の初見の彼の印象とは全然違っていた。
すべて人形と思ったのが1人だけ生きているとわかったときのゾッとする妖気の仕掛けなど、劇としての興味は尽きない。「恋文に対する妻の思い」にテーマを集約させ、多くの演劇ファンを魅了させる作品。
ただ、異なる視点で「乱歩の苦悩に迫りながら文学的本質を描いていない」と厳しい評価を下すかたのレビューもほかの欄で読み、それも一理あると思った。「作家の書ける、書けない」次元で描写が終わっているという批判だが、この戯曲の性格とは少し違うと思うし、そういう批判が出るほど長田さんがかなりの迫り方をしていると私は受け止めた。
その点も踏まえ、今後にさらなる期待を残すという意味で、あえて☆4つとさせていただきました。
日本国憲法
旧劇団スカイフィッシュ
自由学園明日館 講堂(東京都)
2010/11/16 (火) ~ 2010/11/20 (土)公演終了
満足度★★
観客の視線の先にあるもの
広い講堂の中を、体育館のように使い、役者も観客も動いていく。「美術館鑑賞のような・・・」という説明もうなずける。「どこが一番観やすい位置ですか?」なんて開演前に聞く必要はないわけです(笑)。
ライトの設計ということで、旧帝国ホテルのラウンジに似た造りも見てとれ、個人的にも興味深い会場でした。
観客が席にすわって舞台を凝視する一般の演劇と違い、俳優も複数の場所で演じており、自由に動き回る観客たちの視線が別の視線を誘導していく偶発的面白さがある。
ある意味、観客参加型、体験演劇というべきか。
上演時間1時間弱。表現方法としては面白いと思ったが、前衛アートと同様、はっきりした形がないので、演劇を観たという印象とは少し違う。
演劇を実際にやっている人たちはもっと感じ方が違うと思うし、より深く楽しめるのかもしれない。
中学の社会科の授業で憲法前文を暗記させられ、大学でも「日本国憲法」の授業を選択して受けたのだが、「日本国憲法」を実感する内容とは言い難かった。
ネタバレBOX
あえて演劇的感想を述べれば「日本国憲法」を意識することなく生活する我々の中にも日本国憲法は静かに浸透している、ということを漠然と感じとった。そうでも解釈しないと「日本国憲法」というタイトルである必然性がない。
憲法の条文をつぶやきながらマッサージをする女性。マッサージを受けている男性がときどき「のりこさーん」とつぶやく。
「憲法」の2文字はどちらも「のり」と読めるからだろうか。
マッサージをされている男性をまたいで、別の男性が女性に近づき、これまた条文をあたかも愛の言葉のように囁く。
俳優は裸足で区別。しかし、俳優にぴったりくっついて移動したり、俳優の顔を至近距離で下から覗き込んで俳優が噴き出そうになったり、隣で役者のようにポーズをとって眺める観客もいて、最初は仕込みの人もいるのかと思ったが、違うそうだ。たぶん推測だが、そのような観客はふだん俳優さんで、意図的に演劇に参加してしまったのではなかったのだろうか。
離れたところから互いにアイコンタクトをとって動いているような観客もいたので、観ていて本当に惑乱した。
ゼンダ城の虜~苔むす僕らが嬰児の夜~
桐朋学園芸術短期大学演劇専攻
桐朋学園芸術短期大学小劇場(東京都)
2010/11/19 (金) ~ 2010/11/21 (日)公演終了
満足度★★★★
有意義な観劇でした
スタッフ全員がハッピ姿で会場に入るとお神楽が流れ、気分は芝居小屋。舞台中央には花道が設けられ、ワクワクしてきた。会場スタッフが恐縮するほど礼儀正しく親切で好感がもてた。舞台に立つ人以外の仕事も公演の印象を決めるうえで大切。それがよくわかっている人たちだと思った。
この戯曲は夢の遊眠社最後の公演として上演されたエポック的な作品。92年。小劇場ブームも次のステップに進む時期にあたっていました。その作品をいま観劇できた喜びは大きかったです。
演劇を専攻する学生さんたちのパワーに元気をもらいました。この情報を教えてくださった在校生のかたに感謝します。
ネタバレBOX
自分はリアルタイムでは野田秀樹の遊眠社の芝居にはなじめず付いていけなかったクチです。いま改めてこの伝説ともなった作品を観て、野田以前の芝居、野田のあとに続くいまの若手劇団の芝居を考察するうえで非常に興味深かったです。
やはり、野田秀樹の作品の難解さを痛感。
赤頭巾少年と十字軍の子供たちは、新時代の演劇を志す新人たちを暗示しているのかもしれない。
無法松の一生のパロディともいえる人力車を引く男や、赤頭巾少年とフラビア姫との絆を表現する場面はどこか唐十郎のアングラを思わせて興味深かった。若手時代、唐十郎のテント芝居に強くひかれた当代の中村勘三郎が今、野田秀樹に新作歌舞伎を書かせているのだから。
劇中の台詞にもあるように、「クリスマス風」の飾りのついた舞台美術、花道、歌舞伎風の付け打ちなど舞台効果、照明もよく考えられていたと思う。
主役の赤頭巾少年を演じた西田智美さんは長身で舞台映えする容姿。ハスキーな声で声量がないためか、聞き取りにくかったのが残念。だが、大胆な演技は大先輩の高畑淳子さんの若いころを彷彿とさせて楽しみ。
吉野杉、君尾松、肩尾樅のトリオの芝居が印象に残った。こういう役がきちんと世界を伝えてくれないと楽しめないからだ。
この舞台に出た人たちも1人1人巣立ち、やがて十字軍戦士のように演劇の世界で自分の武器を持ち、道を切り開いていくのであろう。そう思って観ていました。