マリンバの観てきた!クチコミ一覧

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私が踊るとき

私が踊るとき

珍しいキノコ舞踊団

世田谷パブリックシアター(東京都)

2010/01/22 (金) ~ 2010/01/25 (月)公演終了

満足度★★★

時の流れといつものキノコ
出演は女性ダンサー6人。伊藤千枝と山田郷美が古顔で、新人だと思っていた篠崎芽美がいつのまにか中堅というか主力的な存在に。茶木真由美は少し前から出演していて、中川麻央と梶原未由は今回初めて認識した。なんだか時の流れを感じる公演だった。

ネタバレBOX

童話の絵本をめくるような感じで、カラフルな衣裳と美術の力を借りつつ、気持ちのいい曲に乗って楽しいダンスが次々と展開する。イデビアン・クルーとか今回のキノコの公演なんかを見ていると、作品中に使われた曲の名前をプログラムに列記して教えてほしいと思うことがたびたびある。
知っている曲でもオリジナルとは別のミュージシャンが演奏していたりする。「fly me to the moon」は最初のナンシー・ウィルソンだけはウチにCDがあるのでわかったが、ほかはいろんなミュージシャンによる同名曲の演奏を繋げていたし、グローバー・ワシントンjr.の「just the two of us」やローリング・ストーンズの「miss you」も演奏しているのは別グループだった。他にも小唄だか端唄だか知らないが邦楽に乗って伊藤が踊ったし、中川も誰が歌っているのかは知らないが「湊の見える丘」に乗ってソロを踊った。バレエ音楽も途中で聞こえてきたが、あれは白鳥の湖だったかもしれない。ダンスの動きとしてはこれまでのキノコとそれほど変わらなかったと思うが、背景に使った映像が非常に効果的で、あれはこれまでになかったものかもしれない。スイスの高原めいたものから、都会のビル群まで。

楽しかったので特に文句はないのだが、作品全体にドラマ性というかストーリー性を持ち込んで、ダンス・ミュージカルみたいなものをいちど創ってみるのも面白いのではないかと、これは気楽な観客の立場として思った。


ドン・キホーテ

ドン・キホーテ

谷桃子バレエ団

東京文化会館 大ホール(東京都)

2010/01/23 (土) ~ 2010/01/24 (日)公演終了

満足度★★★★

4回目のドンキ
「ドン・キホーテ」もバレエの人気演目の一つだが、私自身はあまり見ていない。3年前に3つの舞台を見たっきり。グルジア国立バレエでは主演がニーナ・アナニアシヴィリ、新国立劇場バレエではスヴェトラーナ・ザハロワ、東京バレエ団では小出領子。いずれもメインのダンサーを目当てに見て、その点では文句もなかったのだが、作品的にはあまり面白いと感じなかった。
ところが今回は、これが主役デビューだという林麻衣子や、相手役の齊藤拓の踊りも悪くはないのだが、なんといっても出演者たち全員のマイムを中心にした演技がすばらしくて、芝居でヘタな演技を見るときのようなストレスがまったくないのがよかった。バレエ公演を見て私(演劇ファン)なんかが感じる不満というのは、踊りの技術面とかちょっとしたミスよりも、芝居の下手さというのがけっこう大きいのだ。

ネタバレBOX

プロローグではドン・キホーテ(枡竹眞也)とサンチョ・パンサ(岩上純)が旅に出る経緯が短い場面で描かれる。ここからすでにマイムによる演技の良さが伝わってきた。私が座った席からは顔の表情などはよくわからなかったのだが、それでも二人の動きからは間のいい会話のやりとりがちゃんと感じられた。

第1幕の広場と第2幕の居酒屋の場面には、それぞれに群集や店の客として脇に大勢の人物が登場する。ここでもそれぞれがちゃんと別々の役として自然にふるまっていて、一つのきっかけで全員がいっせいに同じところを見るというような愚行は起こさなかった。ヒロインのキトリが登場するときにもスター登場という大袈裟な感じではなく、最初は街娘の一人という印象だったのが、ストーリーとダンスの展開にしたがって徐々にその存在が重要になっていくという形だし。また彼女と仲のいい二人の友人(瀬田統子、山本里香)という役があり、実際この3人によるマイムのやりとりからは、仲良し3人娘という関係がしっかりと伝わってきた。

舞台中央の踊りはそっちのけで、べつに脇の演技ばかりを見ていたわけではないのだが、踊りさえ見せれば脇は適当で、というのもどうかと思うので。

広場の場面では闘牛士たちの踊りというのがあって、そこでの中心的な存在がエスパーダという役。演じたのは三木雄馬。同じラテン系の男でも齊藤の演じるバジルがお調子者の軽さを備えているのに対して、エスパーダのほうは闘牛士だけに気位の高さが感じられる。配役的にもぴったりで、なかなかサマになっていた。
金持ち貴族でキトリに懸想するガマーシュというモテない男を演じる赤城圭も控えめな良い演技だった。
そういえば、広場にドン・キホーテが現われるとき、乗っている馬が本物だったので、暴れはしないかとハラハラした。

第2幕の第1場、居酒屋の場面で印象に残るのは、ジプシー女を演じた日原永美子の踊り。この人、バレエ団の創作公演では振付作品をいくつか発表していて、特に「タンゴジブル」が非常に面白い作品だったこともあり、どちらかというとダンスよりも振付のほうで注目していたのだが、この日の踊りは野性味たっぷりでとてもよかった。たぶんまともに踊るのを見たのはこれが初めてかもしれない。
それと彼女が登場するちょっと前の、ギターを抱えた二人の女が出てくる場面もなかなか印象的だった。

第2幕の第2場では有名な風車が出てくる。ドン・キホーテは風車をドラゴンだと思って向かっていくのだということを示すために、天井部分から実際にドラゴンが姿を見せるのがわかりやすくて親切な演出。この風車や広場の背景などは妹尾河童が美術を担当していて、これもなかなかよかった。

第2幕の第3場は、風車との戦いで意識を失ったドン・キホーテが見る夢の場面。白いチュチュをつけた群舞のダンサーが登場するのはバレエではいわばお約束のようなもの。ドン・キホーテは憧れの女性ドルシネアに会うべく旅立ったという設定になっているので、彼はその夢の中で彼女に出会う。演じるのはキトリと同様に主演の林。もう一つの重要な踊りの役として、森の女王を演じているのが佐々木和葉。彼女は去年「ジゼル」を演じたのを見ているが、そのときとはずいぶん雰囲気が違う。なにしろこちらは女王の役だから。森には白い妖精がたくさんいて、小柄な愛の妖精を演じるのが伊藤さよ子。頭の髪型がなんとなく雷様の子供みたいに思えるのが可笑しい。彼女よりもさらに小さい森のニンフたちを数人の子役が演じていたが、なかなかしっかりした可愛い動きだったので、これくらいなら子供が出てきても許せるかなと思う。

第3幕は貴族の館。どういう経緯でこの場面になるのかはプログラムの粗筋をみないとわからなかったが、要するに終幕なのでダンスショーで盛り上げるということだろう。これもいってみればバレエのお約束。主役のパ・ド・ドゥでは、ヒロインの林が片脚で立って、しっかりと何度も回転していた。遠目にではあるが、活発なキトリ役の雰囲気に彼女の持ち味はピッタリな感じがした。

「ドン・キホーテ」というバレエが、作品として初めて面白いと感じられたのが、なによりも今回の収穫。6月の次回公演「リゼット」も楽しみになってきた。
コルテオ

コルテオ

CIRQUE DU SOLEIL

原宿・新ビッグトップ(東京都)

2009/02/04 (水) ~ 2009/05/05 (火)公演終了

満足度★★★★

満喫
「劇団どくんご」という、テント芝居で全国を巡る劇団を去年初めて見て、珍しい上演形態だと思ったんだけど、考えてみたらテント小屋での上演というのは演劇よりもむしろサーカスのほうが本家かもしれない。
原宿の特設会場で上演されるシルク・ドゥ・ソレイユの公演も、テントとは思えない立派なつくりではあるが、公演が終わると跡形もなく消えてしまうという意味ではサーカスの伝統?を守っている。
過去に「キダム」「アレグリア2」「ドラリオン」と見てきてこれが4度目。座席はなるべく前で見るようにしている。ピエロは出ないが、それに近いコミカルなキャラターは毎回いて、彼らにいじられる危険があるのが難点といえないこともないが、やはり超人的なパフォーマンスを味わうにはなるべく距離は近いほうがいい。

ネタバレBOX

これまでに見たものは、基本的にはステージの三方を客席が囲むかたちだった。しかし今回は中央の円形ステージの両端から花道が延びているので、客席はステージによって二分割されている。幕も両側に垂れている。
小人の婦人が巨大な風船に吊られて旅するところでは、公平にという配慮からか、両方の客席を訪問した。一方では大男も登場させてサイズに変化をつけている。全体の幻想的な雰囲気とあいまって、そのあたりにフィリップ・ジャンティ・カンパニーとの共通点を感じた。カーテンコールの際、黒装束のスタッフが紹介されるところなども。
ファンタジックな設定があって、不思議国の住人たちが登場するというのがこれまでの3作の特徴で、登場人物たちの衣裳やメイクが凝っていた。今回もファンタジー調の設定は同じだが、少し違うと感じるのは、主人公らしき男が天国に召される際に見る走馬灯のごとき幻想を描いている点だろう。あの世やこの世の住人という人物設定のようだから、メイクなどは過去の3作に比べるとそれほど奇抜なものではなかったように思う。
しかしなんといっても中身はサーカスなので、すぐれたパフォーマンスがなければいろんな演出は生きてこない。

というわけで、たいへん満足のいく内容でした。一度は見ておいたほうがいいと思います。それもなるべく前で。


アンチクロックワイズ・ワンダーランド

アンチクロックワイズ・ワンダーランド

阿佐ヶ谷スパイダース

本多劇場(東京都)

2010/01/21 (木) ~ 2010/02/14 (日)公演終了

難解
プレビュー初日とはいえ、役者陣の演技は安定していて、すでに芝居は出来上がっている感じ。
しかし、なかなか難解な内容なので、これからご覧になる方は、体調を万全にととのえてのぞんだほうがいいと思う。
疲れ気味の私は途中でちょっと集中力がぐらついてしまった。

ネタバレBOX

イギリス留学からもどっての第1作目という点に注目したのだが、留学前の最後の作品「失われた時間を求めて」ですでに作風の変化は現われていたわけで、今回はその方向性をさらに推し進めたかたち。一筋縄ではいかないメタ構造は一回見ただけではちょっと歯が立たない。

SF作家の筒井康隆が書いた実験性の高いメタフィクション、たとえば「虚人たち」なんかを連想した。
インコは黒猫を探す

インコは黒猫を探す

快快

シアタートラム(東京都)

2010/01/20 (水) ~ 2010/01/22 (金)公演終了

リニューアル
初演の王子小劇場と今回のシアタートラムでは舞台の広さが違うので、内容的にもかなり変わるのではないかと思っていたのだが、プログラムに載っていた演出・振付の野上絹代の挨拶文を読むと、今回は完全リニューアルだという。

私自身はどうしても初演版との比較で見てしまうので、今回はそれほどヘンテコさを感じなかったが、これを初めて見る人はどんな感想を持つのだろうか。そっちのほうがむしろ気になる。

ネタバレBOX

漂流舞台と呼びたくなるような、移動式の舞台が使われていた。この移動式舞台の大きさが、初演時の王子小劇場の舞台サイズだと思っていいのではないだろうか。初演では、戸外やダンスの場面も同一の舞台で展開したが、今回はスペースに余裕があるので、移動式舞台はインコを飼っている青年の部屋という設定に限定して、戸外やダンスの場面では、いったん移動式舞台を後方へ移してから、舞台前面の空いたスペースを使っている。
この移動式舞台の扱いが初日のせいかけっこう面倒そうで、段取り的にもたつくところがあった。

プログラムの挨拶文によると、演出・振付の野上は今年の3月に出産を控えているという。初演では顔を黄緑色に塗った彼女が主役級の活躍をしたのだが、今回は残念ながら出演していない。彼女が演じたパートは、今回初めて見る黒木絵美花という人が担当している。野上同様になかなかダンスがうまい。とても魅力的だということは、本人が劇中で熱心にアピールしているから、たぶん間違いないだろう(笑)。

快快の肉体派といえばまっさきに思い浮かぶのが山崎皓司。そして今回はもう一人、板橋駿谷という役者も出演している。肉体派は同時に「汚れ役」でもあるようだ。

テキスト担当は篠田千明。快快の作品にはチェルフィッチュの影響を感じることがままあるのだが、今回も客席に向かって語りかけるところなどは特にそう思う。青年の部屋に仲間が集まって、酒盛りをしたり、シフォンケーキを作ったり、ゴキブリを退治したりという話の大筋は初演と同じ。ただ、終盤のまとめ方がすっかり変わっている。記憶がだいぶ曖昧になってしまったが、初演ではたしか、原子力発電所の事故によって放射能汚染が起きるという展開だったはず。今回のはそういう破滅的なシナリオではない。2006年の初演時にはたぶんまだ世の中になかっただろうツィッターの話題なども取り込まれている。

EKKKYO-!(公演終了!次回3月[家族の証明∴]は1/30より発売)

EKKKYO-!(公演終了!次回3月[家族の証明∴]は1/30より発売)

冨士山アネット

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2010/01/14 (木) ~ 2010/01/17 (日)公演終了

理屈ぬき
ライン京急、ままごと、CASTAYA Projectまではその先鋭的というか、とんがった表現を面白がることができたのだが、後半のモモンガ・コンプレックス、岡崎藝術座、冨士山アネットでは、最後まで目を開けているのがつらくなった。疲れ気味の体は正直だ。

ネタバレBOX

ライン京急は去年の吾妻橋ダンスクロッシングに次いで二度目。大谷能生の音楽と山縣太一のパフォーマンスという組合せだが、基本的には音楽作品だと私は思っていて、山縣のしゃべりも台詞というよりは歌詞として聞くと受け止めやすい。端田新菜が客演。全然嫌いじゃない。

ままごとは以前にやった「あゆみ」の3人バージョン。黒川深雪、斉藤淳子、中島佳子が出演。二人の少女の、時代を超えたやりとりを上手から下手、奥から手前への移動によって描き出す。以前に見たときは幕が垂れていて、下手から上手への移動はその幕の向こう側に隠れていたが、今回は何もないのでその移動の様子も客席から見える。子供時代の、しかも女の子の心理的な機微を、作者の柴幸男は男なのによく掴んでいるものだと感心する。なんだかものすごく「おセンチ」な世界を描いていて、その辺が女性ファンの心をぐっと捉える所以なのかもしれない。

CASTAYA Projectは、またやってくれましたね、という感じ。作り手の企みが今回は意外と早くに察せられたので、余裕を持って最後まで眺めることができた。立ち上がれとか拍手をしろという挑発には乗らなかったが、「we are the world」は大音響にまぎれて一緒に歌った。こういうプロデュース公演の参加メンバーだから無難に終わったものの、もしも単独公演でこれをやったら「金返せ」の声も出るのでは?

モモンガ・コンプレックスは吾妻橋ダンスクロッシングにおける鉄割アルバトロスケットのようなことをやろうとしたのかもしれないが、ネタ的にはかなり弱いし、最後の群舞もいまいちだった。

岡崎藝術座はいったい何をやろうとしていたのだろう。宇宙時代のロックコンサート?作品として目指しているところがまるでわからないので、はたして目指したところまで到達したのかどうかの判断もつかない。出演は大重わたる、夏目慎也、島田桃衣。

冨士山アネットは前回に次いで二度目。演劇的なやりとりからダンス的な動きへと移行するのが一つの特徴みたいだけど、こういうのは水と油とかCAVAとか、ほかのマイムのカンパニーがもっと巧みにやっている気がするので、パフォーマンスとしてはちょっと物足りない。
S高原から

S高原から

三条会

ザ・スズナリ(東京都)

2010/01/15 (金) ~ 2010/01/18 (月)公演終了

満足度★★★★

奔放なビジュアル
やっぱり5年前の上演作品とはまったく違う演出だった。あのときは4つの劇団が同じ脚本を別演出でやるという企画だったから、舞台装置はほぼ共通ということであまり好き勝手ができなかったのだ。今回は単独だからそれこそやりたい放題にやっている。

脚本というのは目で読むだけでも内容が理解できるし、朗読されたものを聞くだけでも意味は伝わってくる。
そう考えると、舞台に装置を作ってそこで役者が登場人物を演じるという視覚的な側面は、あくまでも脚本の内容を理解するうえでは、補助的な役割しかはたしていないのかもしれない。

そんな理屈を考えてしまうのは、要するに、三条会の芝居では目に飛び込んでくる事柄と、耳に入ってくる内容が大きくずれているってことだ。

ネタバレBOX

話の舞台は高原のサナトリウムだが、実際の舞台には学校の教室にあるような椅子と机が並んでいるし、奥にはアルミ製の脚立も置いてある。患者たちの服装は学生服で、看護士たちは背中に羽根を生やしたり、手に鎌を持ったりしている。まるで恋人同士のような兄と妹は異様なテンションでじっと見詰め合っていたかと思うと、身体能力を誇示するようなダンスまがいの動きも見せる。頭に鉢巻をした医者も、まるで出ぞめ式のトビ職人のように、脚立の上でいろんなポーズを決める。別れ話を伝えに来た女友達が見舞いの品として持ってきたのはメロンだが、実際に手に持っているのはミラーボール。しかもその伝言は脚立のてっぺんによじ登った女から、積み上げた机の上に立つ男へと伝えられる。終盤で激しい眠気に襲われた患者の一人は、話しかける仲間の声をよそに、回転するミラーボールの光のなかで立ち上がって体を揺らす。

こんな調子で、台詞として耳に入ってくる脚本の内容を、舞台上の出来事、役者たちの振る舞いがことごとく裏切っていく。ふざけている、どこが面白いんだ、という人を説得する自信はまったくないけれど、これが三条会の魅力なんだと思わずにはいられない。
足りてる男

足りてる男

ピンズ・ログ

ザ・ポケット(東京都)

2010/01/12 (火) ~ 2010/01/17 (日)公演終了

満足度★★★★

群像劇の傑作
この劇団を見るのは4度目。初めて見た「ル坂の三兄弟」がものすごくよかったので、そのあとの2本はイマイチだったけれど見続けていたら、今回は「ル坂~」を上回る内容だった。
ウェルメイドな群像劇という点では、去年活動休止したグリングに似たタイプの作品。大勢の人間が出入りする一つの場所を舞台にして、そこでの人間模様を丁寧に描いている。場所の設定がいろんなタレントを抱える芸能事務所だというのが珍しい。芸能界の内幕を描いているところが興味深いし、バックステージものとはちがうけれど、裏側をのぞく面白さではなんとなく共通している。
出演者は13名。一人のはずれもなく、全員が好演している芝居というのは見ていてほんとに気持ちがいい。ナイロン100℃の皆戸麻衣も出ている。

ネタバレBOX

プログラムに載っている簡単な状況説明を引用しておきます。

『2009年の晩秋、芸能事務所「オフィス寺園」のロビー。ドラマ「陽だまりの散歩道」で人気を博したテレビスター寺園昭次郎と、その周辺の人々が織りなす、数日間の出来事』

「足りてる男」というタイトルの意味が終盤でストンと腑に落ちる。
『洪水 - massive water 』

『洪水 - massive water 』

指輪ホテル(YUBIWA Hotel)

イワト劇場(東京都)

2010/01/08 (金) ~ 2010/01/11 (月)公演終了

寅年に羊が兎になる
動物尽くしの寓話的なパフォーマンスだった。

ソロ作品とはいうものの、実は音楽担当のスカンクも重要なパフォーマーの一員だし、ほかにも扮装した3名の裏方さんが登場する。
罠にかかって命を落とし、体が腐敗しかけたウサギの死体に扮するのが羊屋白玉。片脚にスケート靴。野菜などを乗せたカートを押しながら現われる。「羊屋ここに眠る」と英語で書かれた白い墓石も積んでいる。それがまな板に早代わりすると、もう一つのスケート靴のエッジが包丁になって野菜を刻む。出来上がったサラダは最前列の観客にふるまわれた。「食べて」といわれるだけならまだしも、「全部」となるとさすがにあの量では無理だろう(笑)。植物の蔓で編んだ輪がウサギを捕らえた罠ということになっていて、これもカートのサイドにいくつか吊るしてある。舞台下手の天井付近から木の枝が伸びていて、そこへ輪投げの要領で輪っかを何度も投げ上げる。ナレーションがときおり効果的に響く。「生きているときの意味なんて、死んでからでなければわかりゃしない」というのは私の勝手な意訳だが、そんなふうな意味のことをしゃべっていたような気がする。
プログラムの解説によると、序盤のこの場面だけが最初に作られたそうで、残りの部分はあとから追加されたらしい。序盤に限っていえばたしかにソロ作品だといえるし、面白かったのも実はこの序盤だけだったかもしれない。

後半では蚊帳のような薄い幕が舞台奥に広がって、そこに映像が写し出される。蜘蛛が巣を張り、それに蝶が捕まり、それが蛙に食べられ、今度は蛇がそれを飲み込み・・・という食物連鎖を描いた映像が面白かった。これも動物づくし。この映像がなければ作品的にはかなり凡庸なものになっていたかもしれない。

段取りの悪さは承知の上、ゆるいパフォーマンスも確信犯という感じだった。

キミ☆コレ~ワン・サイド・ラバーズ・トリビュート~ 

キミ☆コレ~ワン・サイド・ラバーズ・トリビュート~ 

シベリア少女鉄道

タイニイアリス(東京都)

2010/01/06 (水) ~ 2010/01/17 (日)公演終了

同時代の楽しみ
2002年に王子小劇場で上演された「耳をすませば」でシベリアデビューして以来、これが16本目の観劇。正直なところ、最初の衝撃を上回る作品には未だに出会っていないというのが実情だが、それでも新作が発表されるたびに劇場に足を運んでしまうというのは、やはり私がシベリア少女鉄道の魔力(というか呪い)の虜になっているからかもしれない。

基礎知識というか、元ネタがわかっていないと楽しめない内容だった。作者の土屋亮一は私よりもずっと若く、作品によっては世代的なズレを感じることもあるのだが、今回はどうにかついていくことができた。私がシベ少を見なくなる日がくるとすれば、それはたぶん作品の劣化ではなく、ジェネレーション・ギャップが致命的になったときだろうと思う(不慮の事故とかは別にして)。

ネタバレBOX

漫画家の仕事場を舞台にした日常的な描写。舞台装置はけっこう写実的で、その後の突拍子もない展開を予感させるところはまるでない。一連の場面が反復されるうちに、有名なテレビドラマや漫画のワンシーンに見立てた台詞が追加され、それが一種のツッコミとして機能している。

ドラえもん、ガンダム、金八先生、古畑任三郎はわかった。料理関連は「美味しんぼ」かなにかだろう。北斗の拳もあったっけ。「天空の城ラピュタ」は未見。

反応のいい客は早々と気づいて楽しそうに笑っていたし、私もだいぶ遅れてからではあるが、徐々に楽しくなってきた。たぶん次回公演もまた見に行ってしまうんだろうなぁ。
不躾なQ友

不躾なQ友

クロムモリブデン

赤坂RED/THEATER(東京都)

2009/12/26 (土) ~ 2010/01/03 (日)公演終了

満足度★★★★

サイコロジカル・コミカル・サスペンス
板倉チヒロと木村美月が欠席で、客演の男優が6人。知っているのは中川智明だけ。独特の間で演技をする人なので、クロムモリブデンの芝居に合うのか心配だったが、うまく持ち味が生かされていた。ほかの5人(花戸佑介、鶴田祐也、武子太郎、小林義典、北川大輔)は初めて見る顔でまったくの未知数。しかしクロムの芝居にすっかり溶け込んでいて、次回もよろしく的な即戦力の雰囲気。もともと役者の個性の強い劇団だが、作・演出の青木秀樹のすぐれた人選能力というものを今回はっきりと認識した。

ネタバレBOX

本業である作・演出のほうも、脳内妄想の舞台化という得意の表現がベストの形で展開されていた。これまでは多少、辻褄があやしくても勢いで押し切る感じだったのだが、今回は脚本が描くストーリーにピンと一本、筋が通っている。
2003年の「直接キス」を皮切りに11作目の観劇になるが、今回がベストといっていいのではないだろうか。
スポーツ演劇「すこやか息子」

スポーツ演劇「すこやか息子」

柿喰う客

王子小劇場(東京都)

2009/12/25 (金) ~ 2009/12/27 (日)公演終了

満足度★★★★

スポーツ演劇というよりは、
体操ミュージカルという感じ。

ネタバレBOX

出演者18名でスポーツをやるには、王子小劇場は狭すぎるのではないか、少人数による対戦型の競技なのか、なんて開演前が考えていたが、なるほど、ラジオ体操とかエアロビクスなら大勢が登場してもほぼ定位置でやれるから問題ないわけだ。

台詞劇としては一人の男の誕生から死までをもっぱら家族関係の変化・増減によって描いている。一方、役者たちの衣裳や動き、それに音楽はエアロビクス体操そのもの。17名は最終的に親戚同士の繋がりができるが、最後まで他人のままでいる1人は音楽の替わり目に掛け声をかける、いわばエアロビのインストラクター。家族劇という視点から見ると、彼は人間の一生を見守る神あるいは運命のような存在だ。一生のうちには家族の死や仲違いもあるが、役者たちはエアロビをやっているので、終始笑顔をたやさない。悲しい出来事と笑顔のギャップがかえって胸に迫る感じで、笑っていこう!という前向きさ、ポジティブ感として伝わってくる。

人物をいくぶん記号化して、短い上演時間でスパンの大きなテーマを、音楽とダンスを交えて描くという意味では、柴幸男の「わが星」に似ている気もするのだが、個人的な好みからいうと圧倒的にこちらのほうが面白かった。上演時間は約50分。

配置と森

配置と森

神村恵カンパニー

SuperDeluxe(東京都)

2009/12/22 (火) ~ 2009/12/23 (水)公演終了

木と林と森
公演を見たあとでチラシを改めて眺めていたら、今回のタイトルが「配置と森」ではないことに気づいた。ふつう「森」という漢字には「木」が3つ入っているが、実は今回のタイトルでは、「森」の部分が6つの「木」からなっている。

去年の初演も見た。会場でもらったプログラムに載っている作者の挨拶文を読むと、今回は初演とだいぶちがっているらしい。しかし前回の内容をかなり忘れているところへもってきてさらに内容を改訂されたら、初演との比較などできるはずがないし、かといって新作として眺めるには妙な既視感もつきまとう。そんなわけで、作品の接し方にちょっととまどいを覚える今回の上演だった。

会場がSTスポットからsuper deluxeに変わったというのもかなり大きい。前者では舞台の三方に壁があったが、後者では三方を客席が囲んでいる。
20センチくらいの立方体のオブジェか何個か、小道具として使われるのは初演と同じ。たぶんタイトルにある「配置」というのはこのオブジェのことで、「森」というのがダンサーを指しているのだろう。
STスポットでやったときには三方に壁があるせいで、舞台自体も立方体の空間という感じがして、「CUBE」という映画なんかを連想した。しかし今回のsuper deluxeはオープンなスペースなので、そういう密室感は消えていた。

冒頭の首回しの場面は初演にもあった。最初、一人だったのが暗転のあと二人になる。まるで人間が二つに分裂したような印象を与えるあの場面が面白い。そのあとの展開は記憶があいまいになるが、初演よりもコンタクトが増えていたような気がする。二人の関係に何らかの取り決めがあって、その範囲内で自由に動いているという印象なのだが、こればかりは実際に稽古場をのぞいてみないとよくわからない。今回の再演も、最後まで飽きることなく眺めることはできたのだが、動きそのものというよりも、動きの作り方が妙に気になる作品だった。

天国篇 (神曲3部作)

天国篇 (神曲3部作)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

にしすがも創造舎 【閉館】(東京都)

2009/12/17 (木) ~ 2009/12/21 (月)公演終了

聖地巡礼の気分
神曲3部作の最後。3作とも美術作品という要素が色濃い。「地獄編」「煉獄編」はそれでも演劇作品という体裁を保っていたが、この「天国編」になるともはや演劇的な要素はほとんど感じられない。それでもインスタレーション・パフォーマンスという案内表示が示すように、パフォーマーは登場した。
入場者はあらかじめ5名に限定されていて、鑑賞時間も5分と表示されている。

ネタバレBOX

会場に着くと、外の受付で整理番号札がわたされて指定の時間まで待つ。やがて番号が呼ばれて建物の入り口を抜けると、そこでは短い廊下が控えの間になっていて、客は壁際にならんだ椅子に座ってさらに待つこと数分。ようやく奥の黒いカーテンの向こう側へ通される。
かつて体育館だった広いスペースの中央に、大きな白壁がそびえている。入ってすぐに見えるのは2つの壁だが、一回りしてみると向こう側にも壁があり、要するに4つの壁に囲まれた箱型の建造物らしい。1枚の壁の縦横は10メートル以上ありそう。天井部分がどうなっているかは未確認。
最初に見える二つの壁のうち向かって左側。その奥のほうに照明器具のようなものが目印として立っていて、そのすぐそばに小さな入り口がある。
入った途端、もわっとした湿気を感じる。温度もかなりある。中は白い照明がともる白壁の空間。それほど広くはない。ここも一種の控えの間で、右側の壁には奥へと続く黒い穴があいている。穴は腰を少しかがめないと通れない大きさ。穴の奥行きは1メートルほど。通り抜けるとそこには黒い闇の空間が広がっていて、水の落ちる音が聞こえ、いちだんと増した暖気と湿気を感じる。
徐々に目が暗闇に慣れてくると、中の様子がうっすらとわかってくる。床部分の広さは縦横8メートルくらいだろうか。壁の高さはもう少しありそう。奥の壁の天井付近から水が二手に分かれて噴き出している。水は床の奥半分くらいを濡らしていて、観客はその手前に立って眺める。よく見ると、水の噴出口から人間が体半分を乗り出していて、その人物の背中あたりから水は二手に分かれて噴き出している。人物の顔は暗くてよくわからない。上体や手をもがくように時々動かしている。
見せ物としては以上がすべて。何か起きるかとしばらく見守っていたが、変化がないので見切りをつけて外へ出た。入場から退場までに要した時間は20分くらいだろうか。

見終わっての感想。
天国編というわりには決してハッピーなパラダイスの雰囲気ではない。天井近くの穴から上半身をのり出してもがく人は、体が穴につっかえて出るに出られないという印象を与える。背中付近から二手に分かれて噴き出す水は、なんとなく肩から生えた羽根のようにも見える。想像をたくましくすれば、それは天使の翼なのかもしれない。芥川龍之介の小説「蜘蛛の糸」では、地獄から脱出しようともがく主人公の姿が描かれるが、この作品では堕ちかけて天国へもどろうとあがく天使の姿を描いているのではないだろうか。堕天使のことを英語ではfallen angelという。一方、水が流れ落ちる様子はまるで滝のようだし、滝は英語でfallともいう。そんなわけで、まったくもって勝手なこじつけだが、穴につっかえてもがいている人物は、falling angelと呼ぶべき存在ではないのだろうか。
点と線

点と線

カンパニーデラシネラ

川崎市アートセンター アルテリオ小劇場(神奈川県)

2009/12/17 (木) ~ 2009/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

マイム+台詞≠演劇
通常は声を出さないマイム作品で、どうやって松本清張の小説を舞台化するのかと思ったら、今回はなんと、台詞をしゃべった。プログラムにはテキスト協力:小里清とクレジットされている。しかし台詞があるからといって、普通の演劇作品ではない。やはりマイムの要素が濃厚に入っている。

事件を調べる主人公の刑事を森川弘和が単独で演じるほかは、残りの五人(佐藤亮介、鈴木美奈子、関寛之、藤田桃子、小野寺修二)が複数の登場人物(プログラムに記されているのを数えると全部で26役)を演じている。

ストーリーはほぼ原作通りだが、あらかじめ内容を知っていたほうが楽しみやすいだろう。小説の内容をまったく知らずに見た場合、はたして時刻表のトリックを充分に理解できたかどうか、あまり自信がない。

マイムのパフォーマンス自体はこれまで小野寺がやってきたものとそれほど変わらないと思うが、今回は台詞が加わって演劇に近づいているぶん、逆に演劇との違いがよくわかった。

冒頭の場面では男女の死体が客席に足の裏を見せるかたちで横たわっていて、それを二人の男が見下ろしている。どうやら青酸カリをあおっての心中らしい、と男の一人がいう。この第一声でオヤッと思い、今回は台詞がつくのだなと頭の準備態勢を切り替えた。ここまでは普通の演劇の流れだが、次に男女の死体がむっくりと起き上がってはまた横になるという動作が始まると、ここからはシュールな雰囲気を持つ従来のマイム作品の色合いになる。二人組の男のほうも、死体の動きに反応したり、あるいはそれをまったく無視して台詞をしゃべり続けたりする。
そのあともこんな調子で台詞劇とマイムの要素が入り乱れながら話が展開する。マイムでは動きがスローモーションになったり、反復したりするし、台詞のほうでも反復や大幅な省略がある。
一人が普通の芝居をしているのに、相手のほうだけがマイム的な動きをする場面を見ていると、なんだか舞台上の時空間が歪んでいるというか、物語の流れそのものが速度変化を起こしているような印象を受ける。
詳しいことは知らないのであれだけど、クラブのDJがレコード盤の回転を手で操作して不思議な効果を出すという音楽がある。あれを聴覚的なデフォルメだと考えれば、こちらの舞台作品では同様の効果を視覚面で作り出しているように思えるのだ。

具体的な内容を言葉でうまく伝えられないのが残念だが、マイムと台詞が融合することで、なんだかものすごくユニークな、従来の演劇では見たことのないものが生まれた気がする。

煉獄篇 (神曲3部作)

煉獄篇 (神曲3部作)

フェスティバル/トーキョー実行委員会

世田谷パブリックシアター(東京都)

2009/12/19 (土) ~ 2009/12/21 (月)公演終了

丸の向こう側
神曲3部作のうちの「煉獄編」。今回は見づらい座席ではなかった。
中盤まではふつうの演劇っぽい展開を見せるが、終盤ではヴィジュアル系というか、美術作品の色合いが濃くなり、やはり作り手がいちばん見せたかったのもこの終盤だろうと思う。
それにしても、中盤までの展開が退屈だったこと。まるで体調の悪いときに見るアンドレイ・タルコフスキー監督の映画のような。
台詞は英語で、字幕がつく。

ネタバレBOX

終盤の、異界を覗く丸窓の場面はなかなかすごかった。日本の古いお寺なんかに、丸窓の和室というのがあるが、ちょっとあれに似ているというか、あれをヒントにしたのでは、なんて勘ぐってしまった。そんなことはないだろうけど。
ふつうのドラマが展開する中で、にわかに視覚的に飛躍した場面が現われるといえば、映画ではキューブリック監督の「2001:宇宙の旅」の終盤を思い出す。ほかにも中田秀夫監督の映画「リング」で描かれた呪いのビデオに映っている映像とか。ああいうのは脚本ではまず描けないし、やはり美術作品としての仕事だろうと思う。
シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー「聖なる怪物たち」

シルヴィ・ギエム&アクラム・カーン・カンパニー「聖なる怪物たち」

公益財団法人日本舞台芸術振興会

東京文化会館 大ホール(東京都)

2009/12/18 (金) ~ 2009/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

意外とエンタメ
タイプの違うダンサー二人の組合せ。アクラム・カーンは民族舞踊から出発している人みたいだし、かたやシルヴィ・ギエムはバレエのダンサー。
変に芸術志向というか、テーマを掲げたような作品だったらイヤだなと思っていたが、ソロとデュオからなる6本ほどのダンスの間に、軽いユーモアを交えたトークが入るという構成で、たとえば大物歌手の共演する「ふたりのビッグショー」みたいな親しみやすさがあった。
ダンサーは二人とも身体能力が非常に高く、筋力、瞬発力を感じさせるシャープな動きが目立った。いちばん最後のデュオではユニゾンで動くところがあり、そこでは特にストリートダンスに近い感じがした。
身長はギエムのほうが少し上回る。腕の長さ、細さにもだいぶ差がある。バレエを踊るならギエムのほうが圧倒的に優位だろうが、しかし小刻みにしかも素早く手足を動かすとなると身長や腕の長さが逆にハンデになる。アクラム・カーンが踊りのベースにしている「カタカリ」というインドの舞踊には、たしか武術的な要素が入っていると聞いた。
ダンスの出自だけでなく、体つき自体も大きく異なる二人だが、とはいっても決して異種格闘技の雰囲気ではない。互いの違いや特徴を残しつつ、ちゃんと一つのダンス作品の中で踊っている。競演ではなく共演している、とでもいうか。

生演奏をする演奏家と歌手が舞台の両端に陣取っていた。どこの国の音楽かは知らないが、民族音楽っぽい。基本的にはその演奏に乗って踊っていて、ドラマ性は感じなかった。舞台装置は白いゴツゴツした感じの壁が石灰岩の岩肌を連想させた。チラシに載っている過去の作品評では「氷山のような」と形容されていたが、私はそれほど寒々とした印象は受けず、むしろ白く乾燥した土地に思えた。

シルヴィ・ギエムというダンサーを知ったのは最近のことで(そもそもバレエを見始めてからまだ日が浅い)、そのときには彼女はすでにクラシックバレエをほとんど踊らなくなり、コンテンポラリー作品のほうへ重点を移していた。
なんとなくその理由を体力的なものだろうと思っていたのだが、この日の彼女の動きを見ていると、それは決して体力的なものではなく、むしろクラシックバレエの動きだけでは彼女が飽き足りなくなってきた、体が満足しなくなってきた、からではないか、と思ったりした。

jam 【活動休止公演】

jam 【活動休止公演】

グリング

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2009/12/09 (水) ~ 2009/12/23 (水)公演終了

満足度★★★

いつかまた
初演の会場はザ・スズナリで、座席はごく普通の形だったが、今回はベニサンピットとかでよくやっていた「客席・舞台・客席」のサンドイッチ形式。その最前列に座ったものだから、身近すぎる役者の緊張ぶりが、芝居内容を上回る感じで伝わってきた。できればもっと後ろの席で見たかった。

ネタバレBOX

初演は6年前。案の定、内容はかなりの部分を忘れていた。覚えていたのは、舞台がペンションだということ、歳の離れたカップルの存在、あとはとりあえず良い芝居だったという全体的な印象。
夫婦で経営していたペンション。妻の妹も手伝っていたらしい。妻は何年か前に事故で亡くなっている。その後、夫と妹で経営を続けてきた。夫が婿養子だということを姉が問題視する。もし彼が再婚すればペンションの経営が妻の血縁者の手からまったく離れてしまうというのだが、それってそれほど重要なことだろうか。そもそもペンションの所有は誰の名義になっているのだろう。
夫と妹が結婚すればうまく収まりそうな気もするが、人の気持ちはそう簡単には片付かない。好きな人には思いを伝えられず、好きな相手は別の誰かに気があって。
混線気味の恋愛模様を描いた群像劇ってところか。地元の音楽グループにベートーヴェンの第九を指導する音楽家がいて、彼の送別会が開かれようとしている。永滝元太郎が演じるその音楽家先生の胡散臭さは、テレビ版「のだめカンタービレ」で竹中直人が演じた音楽家と対決させてみたくなる。彼が絡む場面は恋愛劇の中でもラブコメのパートといっていい。
合唱の伴奏係を務めるピアノ弾きの女性は、育ちのよさと、異性関係にルーズな雰囲気が同居していて、配役的に松本紀保は合っている気がする。
夫と妹を演じるのはグリングのメンバーである中野英樹と萩原利映。妹が思いを寄せる近所の男を演じる小松和重は初演からの続投。あくまでも脇の人物で、大麻や眠剤を持ち歩くちょっとやばそうな青年役は遠藤隆太。本来はグリングのメンバーである杉山文雄が演じるはずだったが、病気による降板で急遽の代役。風貌はたしかに誰かが指摘していたようにナイロン100℃の大倉孝ニに似ている。一方、台詞をしゃべるその口調は杉山にかなり似ていた。今回でグリングは活動休止ということなので、せっかくだからほかの配役も書いておく。姉役の佐藤直子も初演からの続投。歳の離れたカップルは澁谷佳世と廣川三憲。初演では山脇唯と鈴木歩己が演じていたが、それに比べると今回のほうがありえなさ加減がアップしている。

これまでに見たグリング作品9本の中では、「海賊」がベストだと思う。
くるみ割り人形

くるみ割り人形

井上バレエ団

文京シビックホール(東京都)

2009/12/12 (土) ~ 2009/12/13 (日)公演終了

too many children
先月に続いて2度目のくるみ割り。全3公演のうち、ダンスの主役である「金平糖の精」を島田衣子が踊る13日の回を見る。振付はこのバレエ団の芸術監督だという関直人。11月に東京バレエ団がやったワイノーネン版とはちがい、少女クララは物語の主人公ではあるが、ダンスのメインではない。
クリスマスパーティーの場面を描いた前半では、子供連れの家族が大勢登場する。東京バレエ団のときは、子供役も大人のダンサーが演じていたので踊りの面でもしっかりとしていたが、今回は子供役をそのまま子供が演じているので、彼らの群舞が展開するところでは、まるで子供バレエ教室の発表会に来ているような気分になった。実際、客席の雰囲気もバレエ絡みの知り合いが多数詰めかけている感じ。一般客にはこういうのはちょっと興ざめ。
目当ての島田は後半に登場。相手役の王子は石井竜一。チケット代7000円のほとんどはこの二人の踊りに支払ったといってもいいくらい。ロイヤルメトロポリタン管弦楽団の演奏もいまいちだった。各国の踊りの最後に来る「花のワルツ」はふつうは群舞だと思うのだが、ここでは男女デュオによるパ・ド・ドゥが加わっていた。あとに来る「金平糖の精」の踊りでちゃんとしたパ・ド・ドゥが見られるのだから、その直前のやつは不必要だと思う。

渋々

渋々

親族代表

新宿シアターモリエール(東京都)

2009/12/12 (土) ~ 2009/12/20 (日)公演終了

満足度★★★★

充実のコント
コンビ結成10周年にふさわしい、面白い内容のコント集だった。上演時間は90分。
開演前に寸劇をやって、携帯電話の電源オフを促すのはここ何作かのお約束。それだけのためにずいぶん凝った道具を作っているのは、たぶん演出家福原のこだわりだろう。
5人の作家が提供した8本のコント。上演中は作者名を伏せて、終演後に受付でチラシを配って種明かしをしてくれる。今回は作家当てがかなりむずかしかった。

ネタバレBOX

川尻恵太が担当した3本はどれもコントらしい良作だった。ブルースカイとケラリーノ・サンドロヴィッチの作品を加えた前半の5本が非常に良かった。そしてこの5本は誰が作者なのかがまったくわからなかった。
劇団猫のホテルの役者、池田鉄洋が脚本を書いていることは知っていたが、作品を見るのはこれが初めて。草食系男子をおちょくるという内容はちょっとありがちでイマイチだった。
演出の福原が書いた7本目は、3人が複数の役を演じるという点で、ほかの作品とはちょっとタイプがちがう。コントとしては微妙だが、竹井亮介のしゃべるインチキな方言が妙にツボにはまって、不覚にも腹を抱えてしまった。

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