どん底
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/10/03 (木) ~ 2019/10/20 (日)公演終了
満足度★★★★★
今年のベスト3に入る素晴らしい舞台だった。「どん底」は20年以上前に見て、チェーホフ同様(失礼!)退屈な芝居と思ったが、こんなに面白いとは。かつて例外的に面白かったのはモスクワのユーゴザーパド劇場の「どん底」。あれは大胆なテキストレジーと、白い群舞のような視覚的演出だったが、今回は、会話劇として内容はほぼ原作通りにやって、大変面白い。(演出による設定の現代化については後述)
俳優、娼婦、女主人、イケメン男、死にゆくアンナ、男爵、生真面目なのに労災に合う不運なダッタン人etc。世のふきだまりに流れ着いたひとりひとりのあきらめと後悔と夢がくっきりと見えた。
それを癒すルカの言葉で、相手の気持ちがはっきりと変わる様子がリアルだった。
ロビーで配っていた人物のイラスト一覧紹介も、事前に目を通すと、作品理解に非常に役立った。
一つ一つのシーンもメリハリがあって、昔退屈に思ったのがなぜだかわからなくなってしまった。
女主人公がイケメンに、別れる代わりに主人を殺してと甘く強く誘惑する場面、あやまって喧嘩でイケメンが主人を殺してしまったあと、イケメンの恋人(女主人の妹)が「ふたりはグルです」と叫ぶ場面など、鳥肌ものであった。
わざと笑いを撮ろうとしなくても、何てことないセリフでも笑いが起き、皮肉や滑稽さの伝わりも十分。
そして、第4幕のサーチン! ルカの印象が強くて、いままでサーチンのことは全く忘れていた。しかし、サーチんこそ、この「どん底」の希望の語り手であり、社会主義思想を非常に婉曲に「よりよきものをめざして」と、つまり普遍的に語っている。解説を見ると、ルカの宗教思想に対して、サーチンの革命思想の対立とあるが、舞台では、サーチんはルカが乗り移ったかのように語る。ルカからサーチンへの精神のリレーがあり、だから、この考えはルカ一人、サーチンと二人だけのものではなく、他の人々にも広まっていくだろうという広がりを感じさせる。
全体は、高速道路の高架の橋脚下の工事中の空き地で、寄せ集めの浮浪者(?)が「どん底」を演じているという枠になっている。いわば「どん底」ごっこ。要所要所で、現代から芝居にストップが入って、それがまた面白かった。客席も大いに笑っていた。逆説的だが、ただロシアの話として再現しなかったからこそ、「どん底」本来のセリフと人物の切実さに集中できたのだと思う。素晴らしいの一言に尽きる。
休憩15分入れて2時間55分という、ほぼ3時間の長い芝居なのに、全く長さを感じなかった。舞台に浸る至福の時を味わった。ルカ役・立川三貴が最高だった。これほどルカ中心の芝居だったとは。これも発見だった。
愛と哀しみのシャーロック・ホームズ
ホリプロ
世田谷パブリックシアター(東京都)
2019/09/01 (日) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★
コミカルな点はおもしろかったが、深みがない。シャーロックとワトソンに人間的苦悩と葛藤の深みを与えようとした点は、十分な成果をあげずに終わった気がする。俳優では広瀬アリスに見とれてしまった。美人はトクである。
休憩15分含め2時間25分
あつい胸さわぎ
iaku
in→dependent theatre 1st(大阪府)
2019/09/26 (木) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★★
期待にたがわぬ、笑えて胸のきゅんとする舞台だった。横山拓也さんの台本も、幅一メートル程度の段々を立体的に組み合わせて、家や、職場や、喫茶店や、街頭を自在にイメージさせる装置も、俳優の自然な演技もとてもよかった。
死と乙女
シス・カンパニー
シアタートラム(東京都)
2019/09/13 (金) ~ 2019/10/14 (月)公演終了
満足度★★★★
ロベルトは本当に独裁政権の協力者として、ポーリーナを強姦し弄んだ男なのか。段田安則はあくまで無実の善人のように見える。しかし、ポーリーナの宮沢りえの確信に満ちた告発は全く揺らがない。しかし、彼女のおもいこみなのか。かんきゃくはこの両者の間で、まずどちらに味方するか試される。
銃を突きつけて、前非を白状するように迫る、緊迫の連続だった。
宮沢りえの過去に囚われた告発が痛々しく、またまっすぐで凛としてカッコいい。いまさらながら、元アイドルとは思えない迫力だった。
「なぜ私のような人間ばかりがいつも犠牲になるの!」「あなたを殺すことで私が何を失うというの!」のセリフは、地獄を見た女性の言葉として、ゾッとした。
絢爛とか爛漫とか
ワタナベエンターテインメント
DDD AOYAMA CROSS THEATER(東京都)
2019/08/20 (火) ~ 2019/09/13 (金)公演終了
満足度★★★★
青春のおごりと怯えをよく描いていた。あまり努力もせずにスラスラ傑作を書いてしまう人間より、なかなかうまくいかず、それでも諦めずに頑張って達成した人間が、強い幸福を味わえるのだという説はなるほどと思った。普段は才能ないことを嘆きがちだが、凡才には凡才の喜びがあると。
それを、仙人の雲で山頂に連れて行ってもらうより、自分の足で山頂を踏んだ方が意味があるという例えは面白かった。
加治将樹が良かった。
日の浦姫物語
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/09/06 (金) ~ 2019/09/23 (月)公演終了
満足度★★★★
この戯曲の舞台を見るのは二度目。初めてみた大竹しのぶ主演の時は、とにかくクライマックス場面に圧倒された。今回は落ち着いて全体の構造や細部に発見が多々あった。「女の一生」のあのセリフが、一番のクライマックスの決め台詞に使われているのを聞いて、おもわず笑ってしまった。
演出と美術の工夫で、格子状の仕切り板が前後に二列か三列に配されて、その上下の配置で場面転換の変化をつけるのは、シンプルだが奥行きのある変化で良かった。
悪魔を汚せ
鵺的(ぬえてき)
サンモールスタジオ(東京都)
2019/09/05 (木) ~ 2019/09/18 (水)公演終了
満足度★★★★
淀んだ、ゆがんだ血で呪われたような家族の、いじめと卑屈と悪意と反抗がぶつかり合う。名作「夜の訪問者」を思い起こした。ある裕福な一家の居間で、一家の隠微な秘密が明かされていくところは似ている。一方、場面転換があって一週間ほどの時間があることや、一人の介入者でなく、複数の人物が物語を牽引していくところは違う。
一番年下のサラの悪魔的性格が、最後までしたたかに生き続けるところに怖さがあった。長女の春乃役の歪んだ自己愛がすごい。会社の御子柴役も好演。そのほか、俳優は皆、それぞれの役の葛藤、目標と障害をよく捉えて演じていた。
スリーウインターズ
文学座
文学座アトリエ(東京都)
2019/09/03 (火) ~ 2019/09/15 (日)公演終了
満足度★★★★★
クロアチアのオーストリア−ハンガリー帝国時代の人間も含め、100年の歴史の移り変わりを、1945年戦後と1990年のユーゴスラビア分裂の始まりと、2011年のEU加盟の三つの日付の出来事で描く。日時は行ったり来たりする中で、大きな家族の運命が大団円を描く。その影に、皺よせを受けて弾かれた者の悔しさがあることも忘れさせない。出色の舞台であった。
なんといっても、登場人物の存在感が確固としてある。文学座の俳優の層の厚さと安定感が改めてみにしみた。次女役の増岡裕子が、最初は壁家族から浮いた脇役かと思っていると、最後に、彼女がこの家の大黒柱になっていたことが明らかになる。この大化けが良かった。
寺田路恵の没落貴婦人、倉野章子の老け役二人のベテラン女優が良かった。
上川路啓志が語る、敗軍の兵士の悲哀、愛馬との別れの場面も非常に印象深い。深くしみるいい声、いいセリフ術であった。石田圭祐も、いつものことながら、時代に取り残された不器用な男を怪演していた。
√ ルート
Pカンパニー
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2019/09/04 (水) ~ 2019/09/08 (日)公演終了
満足度★★★
いろいろ不満はあるが、道徳教育の押しつけと事勿れ主義・出世至上主義の管理職の現実を、いじめ自殺事件を通して描いた功績が何よりも大きい。
セリフの一つ一つは、突飛なものではなく、教育の現場ではよく聞かれるであろうもの。その分、既視感はあった。
学校の現実を、2時間程度の芝居で示すために少々図式的ではあった。
堕落ビト
劇団桟敷童子
サンモールスタジオ(東京都)
2019/08/23 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★
天使の堕胎事件は、1949年11月×日と、やけに日付まで愚痴的なので、モデルになる実話があったのかと思うと、やはりあったそうだ。九大生が、妊娠した相手の諸湯学校教員女性の中絶手術を行って死なせた「九大生死の堕胎事件」。それをモチーフに、田舎の風習と情念、エリート層の家庭の束縛と貧困家庭に育った女性の上昇志向、そのズレ違いが生んだ悲劇を描いた。
おどろおどろしい事件の展開を、群読の登場人物が、ギリシア悲劇のコロスのように、運命として人間を超えた力で事件に突き進んでいく。
コンパクトな1時間40分。
ENDLESS-挑戦!
劇団銅鑼
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2019/08/27 (火) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
女性社長のもと、環境に配慮した産廃処理事業をしている、埼玉の実在の会社がモデル。その取り組みに感動した女性制作者が、作家に執筆を依頼した。
まず説明的。特にはじめの方。産廃処理反対から、洪水の後片付けで会社を見直すようになる住民たちも戯画的すぎる。自然なリアルが基調の舞台とそぐわない。
モデル会社そのものは、主人公の女性社長が目標にする存在として、距離があるのは良かった。この目標の会社の社長はスマートでキビキビして、かっこよかった。好演。
文句はあるとはいえ、一度は仲違いした社員が帰ってきてまた仲間になるところでは素直に感動した。
アジアの女
ホリプロ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2019/09/06 (金) ~ 2019/09/29 (日)公演終了
満足度★★★★
震災と原発事故の放射能で壊滅した東京が舞台上に。傾いたり潰れた家の後ろには何十個も積み上げられた黒いフレコンパックの山。そこで、アル中の兄と、純粋だが精神的に危うい妹が暮らしている。
しつこいが憎めない書けない作家の一ノ瀬を吉田鋼太郎が好演。石原さとみは無邪気さが浄らかさにつながっていた。表情も演技も引き出しが多くて感心した。自然で力の抜けた山内圭哉も良かった。
舞台では、三人のほのぼのとして滑稽な、邪魔っけだけどいないと寂しいという感じの、ちまちました暮らしがある。そこに警官の友人の話や、外出した時の見聞として、中国人などの外国人グループと日本人自警団の対立、小競り合いが、舞台の外では起きていることがわかる、舞台上にリアリティがあるので、言葉だけのその背後の出来事も信じられる。
そうした孤立した、ギスギスした世界で、慎ましい願いが、最後に大きな悲劇の中で、実を結ぶ。小気味好い笑いも多く、ラストも引き締まり、見ていて気持ちよかった。
リハーサルのあとで
地人会新社
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2019/09/01 (日) ~ 2019/09/10 (火)公演終了
満足度★★★★
とにかく徹底的に緻密に作られた舞台。戯曲も、演技も、照明も。特に人物のコントラストをつけ、その心情を反映した照明が巧みで印象的だった。老いた演出家と若い女優の楽屋裏での対話。さらに、若い女優と入れ替わるようにして、死んだ往年の名女優にしてアルコール依存症の、その娘の母親が現れて、演出家と演劇と過去の関係を語り合う。幻なのか、過去の回想なのか。
三人の関係も、もしかしたら若い女優は演出家の娘なのかと思わせるセリフも一箇所あるが、ほのめかしただけで、他は他人として貫かれる。事実や現実は宙ぶらりんにされて、心象の中の真実の中で皆生きる。それでも観念的ではなく、大変リアルな土台のある世界がそこにある。演劇論を語る舞台でもある、人生を、若さと老いを、夢と挫折を、愛と別離を語ってもいる。
とにかく一つも無駄な釘のない緊密さに驚いた。栗山民也演出の傑作ではないかと思う。
親の顔が見たい
Art-Loving
ラゾーナ川崎プラザソル(神奈川県)
2019/08/22 (木) ~ 2019/08/24 (土)公演終了
満足度★★★★★
よかった。一人の女子中学生が「いじめ」で自殺し、その遺書(手紙)で名指しされた、5人のクラスメートの女子の親(親代わりの祖父母もいる)、8人が学校に集められ、教師たちと、いじめ問題の真偽、そして、親としての責任に向き合っていく。
次第に明らかになるいじめの内容が深刻で、こんなことを子供が起こしたら自分ならどうするのだろうと考えさせられた。深刻な例として、かつての山形マット死事件を思い出した。あれは、裁判では、結局誰がいじめた(マットです巻きにした)かわからなくなってしまったが、いじめを親たちが必死に隠蔽しようとする姿にダブって見えた。
現役の教師が親の役を演じていたが、うまかった。また、役者ずれした者でない、教育現場にいる人ならではのリアリティーがあった。
畑澤聖吾さんの戯曲は各地で上演されている有名なものだそうだが、よかった。
潜狂
第27班
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2019/08/23 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
満足度★★★★
演劇とジャズをうまーくミックスした作りが良かった。初めて見る作者、劇団だ。ピアノやドラム、ベースのアンプが置かれた舞台で、美術らしい美術はなく、最初は抽象的な話かと思った。しかし、そうではなく、互いにほぼ関係のない5つの話が断片的なシーンをつなげながら同時並行に進んでいく。
暗い過去のあるらしい謎のドラマーと女、借金申し込みをめぐる3人の男女のいざこざ、才能のないピアニストの男と女子高生の危ない関係、病気で余命1年の青年の友情と恋、高飛車男とベーシストの女性の同棲生活。最初は笑いも多かったが、次第に話が深刻になっていき、失意と挫折と孤独に満ちた人生が立ちあがってくる。5つの話を120分あまりで見せるので、一つ一つの話は平均25分程度。コントの積み重ねのようなものだが、5つの話の相互作用で、見ていて痛さがどんどん増していく。8最後のセッションを含めた上演時間は2時間15分、休憩なし)
高飛車男が彼女を罵倒する言葉、女子高生がピアニストをなじる言葉、そうした日常のオブラートをはぎ取った厳しいセリフが、見ていてつきささった。金が絡むことでぎすぎすしてしまう3人の仲もふくめ、「人生あるある」をあちこちに見ることができた。
5つの話はそれぞれ3人の演者で演じ、合計15人。それぞれの話から一人楽器演奏者が出て、最後に5人のセッションで「チュニジアの夜」を演奏した。聞いたことのない曲だが、暗めのブルースの曲想のなかに、時折明るい場面もあり、芝居とかみ合っていた。こういう全体の構成がきれいで、構造的な舞台で感心した。
「ソナタ形式」が典型だが、音楽は構造的なもの。そこにフューチャーした舞台として、パーツを組み上げた構造性が成功していた。
楽器は、ピアノ、ドラム、アルトサックス、トロンボーン、ベース。これだけ楽器も出来て、演じられる人を良くそろえたと思う。
「チュニジアの夜」をまた聞きたい
月ノツカイ
劇団だるま座
アトリエだるま座(東京都)
2019/08/21 (水) ~ 2019/08/25 (日)公演終了
満足度★★★★
死が身近だからこそ、生が輝き、人々の喜怒哀楽もストレートに現れる。いい舞台だった。北海道の架空の炭鉱町コトロが舞台。由里子と健司の若い夫婦が住む、炭住の一部屋で、1973年の炭鉱夫たちの汗と涙とホコリが立ち上がる。
そして20年後の同じ部屋に住む由里子と娘。二つの時空が交錯しながら、次第に、73年の出来事、東京の学生運動で起きた事故、さらにさかのぼって、健司と由里子の生い立ちの秘密が明らかになる。
「一山一家」という言葉が出てくるように、危険と隣り合わせの炭鉱夫たちは、情に厚くて皆が助け合って生きている。陰のある由里子役の坂東七笑、炭坑夫のまとめ役の剣持直明、謎の老炭鉱夫のすだあきらがよかった。
人形の家 Part2
パルコ・プロデュース
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2019/08/09 (金) ~ 2019/09/01 (日)公演終了
いのうえ歌舞伎<亞>alternative 『けむりの軍団』
劇団☆新感線
赤坂ACTシアター(東京都)
2019/07/15 (月) ~ 2019/08/24 (土)公演終了
満足度★★★★★
「いのうえ歌舞伎」初体験。面白かった。古田新太の醸し出す「笑い」あり、スリルとスピードの殺陣あり、勝気な姫から破戒僧まで粒だったキャラあり、口先八丁で敵も味方も手玉に取る知的で凝った脚本ありで、最高だった。
しかも今回は黒澤明の映画へのオマージュたっぷりが売りの舞台。中学生の時に友達に誘われて「隠し砦の三悪人」を見て以来の大の黒澤ファンである私としては、涙ちょちょ切れるほど嬉しい舞台だった。
360度劇場と違い、回転はしないけれど、映像を巧みに使った舞台は飽きさせず、面白く、転換も無駄がなく、さすがであった。
シカゴ
TBS/キョードー東京
東急シアターオーブ(東京都)
2019/08/07 (水) ~ 2019/08/18 (日)公演終了
満足度★★★★★
説明不要の人気作。米倉涼子がよかった。やはり同じ演目でも、知っているスターがいるのといないのとでは、見る方のテンションが段違いである。そこ行くと、ブロードウエイの米国キャストに混ざって、我らが米倉がいることで、最高の舞台をみることができた。
話としては、性悪の浮気女が、手練手管で愛人殺しの罪を誤魔化し、無罪になる話。欲望と破倫をたたえ、正義をおちょくるものである。
倫理的にはいただけけない話だろう。これがなぜ、大きなバッシングも受けず、大衆に人気があるのか。
考えてみると、第一に、欲望の肯定は人生の肯定であること。あとでも言うが、「自由」を歌い上げていると取ることもできる。
第二に、ふとしたきっかけで罪を犯した人間でも再起のチャンスはあるという、迷える子羊の救済という見方もできる。この点では、主人公は罪人だけど、救われて欲しいという同情を集める存在であることが必要。そこで、「美人は得」という、いたって下世話な経験則にいきつく。劇自体のストーリーもこのセオリーに乗っかっている。「Rocky rocks Chicago」という新聞の大見出しが象徴している。
第三に、堅苦しい正義・秩序の枠にとらわれない、享楽的な自由を描いたから。束縛から逃れ、常識をひっくり返す爽快感がある。そこがこの舞台の最大のカタルシス。しかも「自由」こそアメリカ資本主義の中心理念である。享楽もまた同じ。またこの自由という隠れテーマが、舞台のバカバカしさ、目を見張るようなスタイリッシュな歌とダンスとかみ合って、「日常からの脱出」という芸術・娯楽がもつ普遍的効用を最大限に味わわせてくれる。傑作である所以である。
DNA
劇団青年座
シアタートラム(東京都)
2019/08/16 (金) ~ 2019/08/25 (日)公演終了
満足度★★★★★
出産か仕事かという女性の生き方の選択と、粉飾決算をめぐって上司に従うか良心に従うかの組織人としての生き方の選択。二つの物語をない合わせて、現実に突き刺さるリアルなドラマで、非常に見応えがあった。現実は変えることが出来るという思いを与えられる、正統派リアリズム演劇に位置づく、心に残る秀作だった。男と女の考えの食い違い、女同士のぶつかり、ヒラメ上司と逆パワハラ的な部下など、身の回りに思い当たることばかりで、いろいろ考えさせられた。