満足度★★★★
「維新の名君」明治大帝と、15年戦争に突っ込んで敗戦を迎えた昭和天皇。その間に挟まれて目立たない大正天皇の評伝劇。脳病で何もできずに死んだと思われていた大正天皇が、実は平和な時代の舵取りを目指した開明派だったのではないかという、ユニークな視点で描いている。ぎゃくに、明治天皇と昭和天皇は権威主義的な強権統治を目指したと、昭和天皇への批判になっている。
舞台は、真っ赤な玉座ひとつに、客席から玉座まで通じるレッドカーペットだけ。あとは黒一色の空間で、天皇家の人々、有栖川宮(若い大正天皇の後見役)、牧野伸顕内大臣、原敬、大隈重信、侍従武官が、大正天皇の整然と、死後の回想を頻繁に往復しながら、「天皇の宿命(さだめ)」の前に敗れた大正天皇の悲劇を描く。
どこからフィクションかはわからないが、大正天皇が明治帝や昭和天皇とは違う、気さくで格式張らない「天皇らしくない天皇」というのは、案外史実ではないかと思う。
祖父の意げなる天皇像に憧れて、「栄光の明治」を取り戻そうとする昭和天皇裕仁を見ながら、祖父・岸信介を尊敬する安倍晋三とダブった。一緒に見た友人も同じことを感じたと言っていた。安倍晋太郎は改憲など考えそうもない保守穏健派で早死したので、安倍三代は奇しくも三代の天皇にぴったりあてはまる。
大正天皇の妻の節子(さだこ)に松本紀保。2月に流山児事務所の「雨の夏、三十人のジュリエットが帰ってきた」で元スター役で出ていたが、同じ人とは思えなかった。「ジュリエット」では過去に閉じこもって生きる孤独な元スターのうらぶれ感が漂っていたが、今回は、凛として気品と気迫のある演技。エメラルド色のサテン(?)のドレスも格調高く着こなして、素晴らしかった。