5月35日
Pカンパニー
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2022/04/20 (水) ~ 2022/04/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
悲しみと追悼の静かな芝居だろうと思ったら、抵抗と抗議の熱い舞台だった。脳腫瘍で余命3か月の母が、6月4日の息子ジッジの命日に、広場で弔いをしようと決意する。事件から30年後の2019年1-5月の出来事。チェロや本など、息子の遺品を「15分、話を聞くこと」を条件に譲るとフリマアプリに出し、やってきた青年に息子のことを語る。貰い手がいないと、夫が貰い手役を金で頼んだりする。
それだけかと思っていると、夫の弟は政府内で出世している。弟に対し政府・軍への直接の思いをぶつけるシーンもある。母役の竹下景子がはまり役で、知的で静かな気迫が素晴らしかった。当日の死体安置所に多数の死体がおかれていたという話など、取材に基づいたものだろうか。
ウイキペディアの天安門事件の項目は、だれが悪かったのか、学生にも暴力があったなどいろんな情報が書き込まれていて、何が何やらという感じである。政府擁護派の荒らしがあるのだろう。真実はどうだったのか、そして正確な犠牲者数を明らかにするのは歴史に対する責任だと思った。
ミュージカル『アラジン』
劇団四季
電通四季劇場[海](東京都)
2015/05/24 (日) ~ 2023/01/09 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
この昔々のアラビア世界という設定の利点は、女性たちの肌もあらわで胸の谷間が強調された衣装が楽しめるところ。見たことはないが、かつてのSKDのようだろうか。王女ジャスミン役の木村奏絵の品のある美しさと、スラリとしたおへそのに目を奪われた。
ストーリーはいたってシンプル。貧しい青年が王女と結ばれる、ボーイ・ミーツ・ガール物語である。市場で会うシーンは「ローマの休日」のよう。二人の初デュエットもいい。アラジンが「母の自慢の息子になりたい」というのも、物語に親子関係という縦軸を加える。
魔法のランプの精ジーニーが、一番舞台を盛り上げる存在である。この役の俳優(見た回は一和洋輔)の底抜けに陽気な語り口が絶品。
二人が魔法のじゅうたんに載って、満天の星空を飛ぶ「新しい世界」のシーンはセンチメンタルに美しい。まさに二人だけの世界。それ以外にも洞窟でのダンスシーンなど、歌とダンスのショーは、極めて高い完成度だ。美術、しかけ、照明も申し分ない。洞窟で財宝の山がダンサーに早変わりするのは意表を突かれた。5年間、汐留でロングランしているのも、これならわかるという出来である。
ただ大人の哀歓に触れるという点では、父親と家族のきずなの再生を描いたミュージカル「メリー・ポピンズ」の方が勝っていた。あちらもディズニー作品だけれど。
セールスマンの死
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2022/04/04 (月) ~ 2022/04/29 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
だだっ広い舞台の中央に、大きな黄色い冷蔵庫が一つ。舞台天井から2本の電信柱がぶら下がっている。この抽象的な美術が、今回の演出を象徴する。ウイリー・ローマン(段田安則)の挫折と失意と、息子(福士誠治)への幻想にしがみつく現実逃避がいっそう強調される。段田安則のウィリーは、夢破れた男の最後の誇りとあがきと絶望を示して、説得力があった、
家のリビングや、寝室、庭、兄弟の二段ベッドの部屋は箱庭のような移動式で、台車に載せて袖から出入りする。妻(鈴木保奈美)や隣家の関係はドライに、あるいは通り過ぎるように処理する。実際、セットが舞台を通り過ぎていく間に、その上に載った妻の科白が発せられ、隣家の優等生は自転車で舞台を回りながら切れ切れのセリフをしゃべる。
非常に多面的な芝居だと改めて思った。現実を直視できない人間の愚かさを描いたとも、息子をスポイルする父なるものへの批判ともとれる。カネとローンで人を縛り、人間も使い捨てにする資本主義批判ともとれる。時代に取り残された男の悲哀とも、息子をダメにしたのは自分ではないかという疑いと、そんなはずはないという思いとの葛藤もある。アフリカで金を掘り当てた兄の幻は、アメリカ人の目をくらます一攫千金(アメリカンドリーム)のうつろな光を示す。友人が雇おうという話を断り続けるのは、愚かな意地のあらわれだ。以上はウィリーに絞った話だが、それを取り巻く人間関係も最小限にして十分。次男が女たらしで口達者なのは、父の一面をうけついだともいえる。その一方、くそ真面目だけで報われない父を反面教師にしたともいえる。
アンチポデス【4月3日、4日のプレビュー、4月8日~13日公演中止】
新国立劇場
新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)
2022/04/03 (日) ~ 2022/04/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何とも奇妙な芝居。会議室で、物語を作ろうと、そのネタになるものを探すため、それぞれの初体験や、最悪の経験や、時空論etcを語り合う6人の男と1人の女。+仕切るサンディ(白井晃)。そうしても全然物語らしきものが出てこない。
初めてやった時の話を自慢しあうのは、女性に対するセクハラのよう。しかし最初に「ここは聖域だ。ポリティカルコレクトネスも関係ない。これを言ってはいけないのでは、とか気にする必要一切ない」というまとめ役(演出家?)のサンディの言葉のせいで、許されている。居心地悪そうにしていた紅一点サラ(高田聖子)が、自分の番になると、なぜか嬉々として暴露話を始める。男性原理に女性も進んで迎合する姿に作者は皮肉をこめたのだろうか。
大真面目に話しても、周りの期待とずれた話しかできず、自分の経験を物語化したくないと言い出す異分子(ダニーM2=チョウ・ヨンホ)は隠微な形で排除される。「妻に本当のことを言えずに、石とトウモロコシのくずを捨てた」話とか、「鶏を触れなかった話」とか、客席から聞いててもずれまくっている。
サンディは外からの指示にイライラしたり、ペコペコしたり。物語づくりも現代資本主義のもとでは決して自由ではない。マックスやら誰それやらと、名前だけ出てくる人物はスポンサーなのかプロデューサーなのか。かつて人事部からセクハラをやんわり批判されたこともあった。その当の女性は行方不明に。
物語を作ろうとして失敗する、物語批判、アンチロマンの芝居。でありながら、物語を渇望する、アンビバレントが貫かれている。笑えない話や、全然面白くない時間論などが主な話題なのに、しばしば、変なところで笑いが起きる。確かに笑える。笑いはこの芝居の持ち味でもあり、コメディとしても見ることができる。休憩なし2時間
広島ジャンゴ2022
Bunkamura
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/04/05 (火) ~ 2022/04/30 (土)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
牡蠣工場の主任水村(鈴木亮平)が好きな西部劇を見ていたら、目覚めると西部劇の街ヒロシマの馬に。訳ありげなパートの山本さん(天海祐希)は、凄腕の女ガンマン・ジャンゴ(実はアンナ)に。夫殺しで追われ、娘ケイ(芋生悠)との逃避行。立ち寄った町が、水不足に悩み、井戸を独占するティム(仲村トオル=ワンマンな工場長と一人二役)の収奪と専横に苦しんでいた…。
強者の暴力に痛めつけられる弱者のうめきが随所に聞こえる。とくに男性(原理)に抑圧される女性たち。夫を殺したジャンゴもそうだが、山本さんは夫が娘を取り戻しに来るのを恐れているようだ。水村(=馬)の脳裏に現れる、姉・みどり(土井志央梨)の自殺は、「女子力」不足をあげつらう職場のいじめが原因だった。
水村の詩的なモノローグや、活気あるラップもちりばめながら、ファンタジーであってリアルな、弱者と強者のせめぎあいが展開する。
西部劇での経験を経て、水村は山本さんに少し寄り添い、工場長に対し、前はできなかった自己主張をしてみせる。それがそのまま通りはしないが、一歩前へ踏み出す希望を感じさせるラストだった。
貧乏物語
こまつ座
紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)
2022/04/05 (火) ~ 2022/04/24 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
24年ぶりのこまつ座での再演。初演は見逃したので、舞台で見るのは初めて。小菅で「お務め」中の河上肇に転向を促す判事、特高、内務省に対し、女たちが肇に転向を進めるべきか否かを議論する。そのときの次女ヨシ(安藤聖)の、自らの体験から絞り出すような訴えは圧巻だった。ヨシの唯一最大の見せ場である。
全1幕3場(だと思う)のこれが2場。非常に深刻で深い場面だ。
1場は明るく爆笑場面が多々ある。ここで輝くのが、元女中役の枝元萌と、女優の卵役の那須凛。この二人の存在には、今オーラが出まくっている。すばらしい。ただ、井上芝居としては、二場、三場に遊びが少ない。休憩なし2時間というコンパクトな戯曲になっているのも関係する。
井上ひさしはヨシを主人公に書くつもりだったようだが、ヨシの出番は少ない。河上肇の妻のヒデも、重石のような役で、見せ場は一番少ない。でも、この二人がこの家の中心なので、安定した筋になる。枝元や那須が明後日の方の話をしていても、軸はぶれないので安心してみていられる。井上ひさしの評伝劇以外は、考えてみれば群像劇で、この人が主人公と決めがたいものがある。「きらめく星座」などそう。
ばらの騎士
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2022/04/03 (日) ~ 2022/04/12 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
元帥夫人アンネッテ・ダッシュがすばらしかった。1幕終わりの、年齢による衰え(脚本の指定は32歳だけど)と過ぎ行く時間をしみじみ考える独唱は、作品のテーマを凝縮したもの。3幕最後の三重唱は、三者三様の諦念、喜び、戸惑いが、オーケストラと合わせ、妙なるアンサンブルになって響いた。
2017年の新国立公演、METライブビューイングに続く、3度目の観劇。
3度目にもなると、細かいところにも目が行く。1幕の朝の面会・陳情シーンは、元帥夫人の科白は二つ「(ゴシップもニュースも)知りたくない」と、「こんな髪型、おばあちゃんみたい」。貴族社会が去り行く時代に目をふさぎ、加齢を嘆く心情が、ここに端的に表れている。(大事なのは、長すぎる時間を、「どうやって」耐えるかなの、とこの後の独唱は歌う)
テノール歌手は、ベルカント・オペラへのオマージュであるとともに、風刺。オックス男爵の癇癪で中断するあたりは、とうじのウィーン社会(もっといえば流行)から、イタリアオペラなどもう古い、という宣言のようにも見える。寄付を求める孤児たちは、戦死者の子というから、戦争も背景にある。
オックス男爵を妻屋秀和がやった。時代遅れの帰属意識の滑稽ぶりを強調する演技が、非常にコミカルで分かりやすかった。なじみのある日本人歌手がやったからこそ、(ドイツ語でも)日本の観客に一層わかりやすかったともいえる。最初予定した歌手の都合での交代だったが、怪我の功名であった。
とくに3幕最後の三重唱、二重唱がよかったこともあり、カーテンコールはいつもの倍近く長かった。お義理でなく心からのスタンディング・オベーションも多くみられ、客席の満足度は高かった。4時間10分(休憩込み)予定のところ、終わってみると10分以上延びた。スコアがあるし、テンポも特に遅くしたと思えないが、どこで予定と違ったのかは不明
新パラシュート
平石耕一事務所
シアターX(東京都)
2022/04/07 (木) ~ 2022/04/10 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
九州北部(佐賀の武雄)の旧家の、戦争中から戦後10年までを描く。次男継男(三國志郎)の婚約者がグラマンの機銃掃射で死んだ、そのグラマンは撃墜され、パイロットはこの家の祖母(内田尋子)の尽力で殺さずに捕虜にした。長男は嫁を残して出征中。継男は徴兵拒否して出頭するが、軍部隊副官の叔父(桑島義明)の力で精神病とされ、特高(鈴木正昭)の監視下に。
深刻な話だが、芝居は明るい。女たちのおかげである。継男の怖いもの知らずの理想主義のせいもある。ただ戦争中なのに軍人や特高の威圧感がなさすぎる。スクリーンに切り取られた映画はいいが、客席と地続きの舞台で、戦争中の空間を現出させるのは難しい(それとも、戦争を特別視しすぎだろうか)。井上ひさし「きらめく星座」や宮本研「反応工程」の達成の貴重さがわかる。
二幕の戦後になると、この明るさが生きてくる。継男はいまや英雄になっておかしくないが、相変わらず、保守的な家のなかの異分子で「ふうけもん」「冷血動物」扱いされている。この異分子と、元軍人が同じ家でぶつかって、芝居の軸をつくる。低い声で重きをなす母(二瓶美江)もよかった。継男の隠れた地主意識を、理解者である元小作の加代子が、我慢しきれずにグサッと指摘して言い争いになるのもアルアルだ。
80分、休憩10分、60分の2時間半
風がつなげた物語
グッドディスタンス
新宿シアタートップス(東京都)
2022/03/31 (木) ~ 2022/04/06 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
セリフがセンスあるし、伏線もしっかりしているし、節々で伏線から新しい展開が生まれ、ラストまでよくできた芝居だった。「月と座る」を拝見。
バス停で本(実は漫画「モーレツ!ア太郎)をよむ女性・瀬戸(旺なつき)に、ひったくりにスマホも財布も取られた千波(野々村のん)が話しかける。「突然、話しかけられて迷惑ですよねー」という感じで。通りがかる女性4人が、なんとなく知り合い、しゃれたセリフから、それぞれの重い人生が見えてくる。
千波が高さ16,17センチはあろう、派手な赤い厚底ハイヒールに文句言うシーンは笑えた。
三十路の地下アイドルの大原瑠花(後東ようこ)の、若さの陰りかけを払い飛ばそうとする精一杯のいきがりぶりがいい。大原のいきつけ(押しかけアイドル?)のスナックのママ田代(鬼頭典子)のうらぶれた色気もいい。最初は一瞬、母娘なのかと思うが、大原は母に捨てられ、田代は、未婚で産んで実家に預けっぱなしの娘に拒まれた。互いに親・娘を思う気持ちで共通するのに、弱みを見せまいと素直になれないで否定しあう姿も切ない。
もちろんバス停は、ホームレスの高齢女性が引きこもり男性に殺された場所。ささげられたガーベラの花が、女たちの間をぐるりと回ってまたバス停に備えられるくだりも絶妙。瀬戸は、女性が死んだ後で「友達になった」という。知らなかったことが申し訳ないと。
座席数100人程度の小劇場がこの繊細な会話劇にピッタリ。口コミサイトの評判もあって、満席。本多グループ経営とはしらなかった。
こどもの一生【4月23日以降の東京公演中止・宮城公演中止】
パルコ・プロデュース
東京芸術劇場 プレイハウス(東京都)
2022/04/03 (日) ~ 2022/04/28 (木)公演終了
もはやしずか
アミューズ
シアタートラム(東京都)
2022/04/02 (土) ~ 2022/04/17 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
子ども時代に、自閉症スペクトラムの弟を事故で亡くした康二(こうじ=橋本淳)。冒頭、幼時のその時の情景から始まり、場面は現在に飛ぶ。互いに30過ぎの康二は妻麻衣(黒木華)の妊活に協力しているが、二人はどこか仮面夫婦のようでぎこちない。康二が煙草を隠し持っているのをしって、「やめるっていったじゃない」と責める麻衣。麻衣が精子提供を受けてることを見つけても、知らんぷりをつづける康二。麻衣は妊娠したが、出征前診断で障害を持つ可能性が「2分の1」と言われ、二人の間の亀裂は決定的になる。そして……。
自己弁護やその場しのぎの合間に本音が垣間見える、ひりひりするような口語演劇。何かをずっと胸に秘めての責め合いは心理サスペンスのようだ。妊活や性欲をめぐるえぐい話もあり、まさに他人の家をのぞき見するようなリアリティー。
麻衣は子どもを持ちたいと一途で、康二と結婚したのも、何もかも子ども中心。行き過ぎでついていけないところがあるが、それはそれで筋が通っている。実は康二は、自分のことで精いっぱいで、麻衣のそこがわかっていない。そのためにに起きるずれ、すれ違いは、表面の何気なさに反して、根は深い。
二人の熱演、精密で生々しいセリフのやりとりが光る。康二の母を演じた安達祐実も、怒ったり、イライラしたり、悲しんだりの感情表現が素晴らしかった。
弟の保育園の先生(藤谷理子)の、言葉は明瞭なのに内容のない話しぶり、自分の発言の支離滅裂に対する無自覚ぶりもすごい。ここまでひどいのはないけど、でも似たことはどこにでもありそうで怖かった。
メリー・ポピンズ【3月26日~30日公演中止】
ホリプロ/東宝/TBS/梅田芸術劇場
東急シアターオーブ(東京都)
2022/03/20 (日) ~ 2022/05/08 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
2018年の初演(平原綾香)に続いての観劇。笹本玲奈の回を見ましたが、4年前以上に素晴らしかった。歌も踊りも美術も衣装も、一層ブラッシュアップされたのでは。全体で3回あるメリー・ポピンズが空中を歩く演出はやはり、ファンタジーを盛り上げます。
今回は、おなじみの「チムチムチェリー」、「スーパーカリフラ…」以外の、曲の良さに気づけました。「どくに「鳥に餌を」のバラードでしみじみし、「どんなことだってできる」のポジティブさに励まされる。「ステップ・イン・タイム」(曲調は「スパカリ」と共通点がある)のタップダンスは圧巻。
また、子供も楽しめるファンタジーだけではないことがこのミュージカルのみそ。厳格な父親が、見失いつつあった家族の大切さに目覚める大人のドラマに心打たれます。
音楽劇「夜来香(イエライシャン)ラプソディ」
キューブ
Bunkamuraシアターコクーン(東京都)
2022/03/12 (土) ~ 2022/03/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
日中のスター李香蘭(木下春香)、男装の麗人・川島芳子(壮一帆)、稀代のヒットメーカー服部良一(松下洸平)…。戦時下の中国・上海で歴史的人物たちを出合わせ、名曲をたっぷりきかせるエンターテインメント。「蘇州夜曲」「別れのブルース」「一杯のコーヒーから」。さらに「チャイナタンゴ」も服部良一とは知らなかった。この曲は井上ひさし芝居でおなじみ。自作の芝居で3回も使っている。
物陰にひそむ謎の女(仙名彩世)が共産党の幹部工作員で、実は李香蘭と幼馴染のロシア女性というのが、ひねりがきいている。彼女の狙う音楽会破壊工作が、はたしてどうなるかという興味でストーリーを引っ張る。
音楽会場面と、その企画を練る上海の租界の華やかなダンスホール・ラ・クンパルシータのべ面の比重が大きい。その合間に屋台での交歓や、陸軍本部での軍の方針決定の場など。
彼女たちの断片
東京演劇アンサンブル
渋谷区文化総合センター大和田・伝承ホール(東京都)
2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
7人の女たちの議論から、性、妊娠、中絶をめぐる歴史が紐解かれる。女性の、女性による、女性のための、と言いたいところだが、これは女性と男性のための芝居だろう。「私の体は私のもの」というセリフが印象的だ。
兵士となる人口を増やすため、戦前は堕胎罪によって、中絶は罪とされた。戦後、中絶は合法化されたが、抑制のため「水子供養」(たたり)という脅しが保守勢力によって広められた(知らなかった!)。中絶に男性の「同意」はいらないという主張もあるとか。
気を失っている間に性行為をされた女性。中絶が許されないペルー育ちで、3人目。4人目を中絶した後、5人目を(女友達の支援を力に)夫に産むことを認めさせた女性。それぞれの女性の語りから、様々な生徒妊娠・出産への向き合い方が浮かび上がる。
ブラッド・ブラザーズ
ホリプロ
東京国際フォーラム ホールC(東京都)
2022/03/21 (月) ~ 2022/04/03 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
2幕の思春期になった14歳のミッキー(柿澤勇人)とエディ(ウエンツ瑛士)がとても面白い。客席の笑いも多い。性への好奇心と、素直になれない臆病と、大人への反発、粋がっていながらポルノ映画行きを母親(堀内敬子=要の役として好演、歌も見事)に見抜かれて照れ隠しするかわいさ。等々。そこにリンダ(木南晴夏)が加わった、恋と友情の入り混じった三人関係。これは高校時代に私にも覚えがある。
オロイカソング
理性的な変人たち
アトリエ第Q藝術(東京都)
2022/03/23 (水) ~ 2022/03/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
今は家を出て行った双子の一人・倫子(西岡未央)。彼女が7歳の時に遭った事件。その事件のせいで、10歳の時の学校の性教育でははいてしまい、高校生になると心の傷を埋めるように、だれとでも寝るようになる。双子のもう一人の結子(滝沢花野)が、倫子の恋人(?)だった写真家のルーシー(万里沙)と語り合う32歳の現在と、過去を行ったり来たりしながら、性被害者の問題にじわじわとせまっていく。
若くてパワフルで美しい女優陣の魅力と熱量に圧倒された。狭い会場での熱演、衣装や小道具も段ボールから出したりしまったりの、手作り。幼少期の誕生会や、「サザエさん」の場面はのどかでホッとする。サザエさんを見ながら「カツオはタラちゃんのお兄さんなの?」「サザエさんちは普通じゃないね」「うちも普通じゃないね」と、この家族の事情が分かっていく。母(佐藤千夏)は未婚の母、祖母(梅村綾子)と血のつながりがない。
「引っ越しのバイトは、他人の日記をのぞくようで楽しい」など、ちょっとしたいいセリフもある。
「オロイカ」は天草方言でキズモノのことらしい。漁師のおかみさんたちが「この魚、もってけや。オロイカだ」と使う。芝居では方言もいかされてる。天草から大阪に出て大阪弁になった祖母が、東京で関西弁を直そうと、「ばあちゃんが大阪弁使ったら、10円あげる」と幼い双子にもちかけたり。1時間55分。
泣くな研修医
劇団銅鑼
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2022/03/18 (金) ~ 2022/03/23 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
目頭の熱くなる場面がいくつもある、いい芝居だった。はじめのうち、セット転換が多い気がしたが、意外と流れが滞らない。主役南野隆治(山形敏之)の、幼少期の回想の声とオーバーラップさせることで、転換だけではない、意味のある時間になった。病室、面談室、医局、研修医室、合コン会場、公園等の場面をしっかり背景を変えて見せることで、正統派のリアリズムにたつ劇団の良さが出た。演者の芝居にぐっと感情移入できた。
新米研修医役の山形敏之がよかった。無力感にさいなまれたり、現場の矛盾に憤ったり、若い患者の死に打ちのめされたり、体当たりの演技でこちらも心動かされた。外科医長役の館野元彦は、セリフは少ないが、登場場面をきりっとしめる。何度見てもいい俳優である。予定100分のところ、見た回は95分だった。
舞台『千と千尋の神隠し』【5月17日~19日12時、22日12時、25日12時、6月25日~7月3日の公演中止】
東宝
帝国劇場(東京都)
2022/03/02 (水) ~ 2022/03/29 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
映画のファンタジーを、アナログの人力総動員で舞台に見事に再現していた。目を楽しませる満足の3時間(休憩込み)。能舞台をヒントにした橋掛かり付きの回り舞台が、4面をそれぞれ違った場面に衣替えしながら場面転換をスムーズに。妖怪変化の動きはワークショップで試行錯誤したらしい。工夫が見られたのはいろいろあるが、釜爺の6本手、湯婆婆のド怒り顔、三つの頭の頭(かしら=五十嵐結也が半裸で熱演)、龍のハク、巨大化するカオナシ、鳥やネズミのパペットなど。銭婆のもとへ行く水の上を走る列車シーンは、スクリーンの水辺の映像を使って、油屋とは異なる静かな雰囲気を一瞬で創っていた。
映画通りといえば、冒頭、ハクに手を引かれて走る千尋の、上向きに折った手を振りながらのポーズは、「そういえば」と懐かしかった。
カオナシは有名ダンサーの配役で、油屋の中に忍び込むシーンや、水底を泳いで千尋についていくシーン、くねくねしつつキリッとした独特の動きが印象に残った。
宮崎駿映画の中でも、メッセージ性の低い、つかみどころのない作品。舞台を見ながら「鶴の恩返し」の鶴がハクに変わったような、民話的テイストを感じた。千尋が過去を思い出し、ハクが名前を取り戻す場面は素直に心が動いた。リフティングしながら空中(水中)場面をつくっていた。もちろん全編には拝金主義批判、自然破壊の文明批判もちらちらみえる。
粛々と運針
パルコ・プロデュース
PARCO劇場(東京都)
2022/03/08 (火) ~ 2022/03/27 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★★
若手劇作家の中でイチオシの横山拓也の大劇場進出作でまずはめでたい。横山の微細な会話劇を、ウォーリー木下が大舞台のエンターテインメントに見事に仕立て直した。セットは、天井からぶら下がった無数の白いひもが林のように並び、舞台には8個程度のイスとソファー、テーブル。コート、スタンド、振り子時計等々も宙に浮いており、それがシルエットとして、家庭内の様子を象徴したり、蛍光灯や白熱灯がついて、府に気を変えたります。舞台奥にドラムと、アルプホルンの小型原型楽器を電子的にビブラートするような楽器(Didgeridooというらしい)の二人のミュージシャン。奥の壁面には桜をシンボライズした水玉でできた花模様や、様々な中小デザインが、音楽に合わせてダイナミックに展開する。
舞台のバックでこれだけ支えたうえで、6人が演じるのは、夫婦(徳永えり、前野朋哉)とアラフォーの兄弟(加藤シゲアキ、須賀健太)そして老女(多岐川裕美)と子供(河村花)の縫う人の、3組の会話。縫う人の二人は、どこかの桜並木が伐採されて、桜が見られなくなった話をしている。
最初は夫婦が、夫が路上実験中の自動運転車に追突されて、警察に言わんといてくれれば、新車と交換するといううまい話なんや、などたわいもない話から始まる。そして夫婦の妻が妊娠したかもしれないという話から急転直下、本題へ入っていく。兄弟の母ががんで余命いくばくもないから「孫を見せてやれよ」という話もかさなり、産む産まないをめぐってのシリアスないさかいになる。
子どもを産む産まないでシビアにぶつかる演劇は、数年前にどこかの小劇場でも見た。今回もいい芝居だった。男と女の負担の違い、埋めがたい溝が突き付けられて、痛い。横山劇には珍しく、あまり笑いが起きなかったのは不思議だった。休憩なし2時間
客席はずらーッと女性ばかり。本当に99%女性という感じで、しかも若い人が多い。この女性たちが、この芝居をどう思ったか、聞いてみたい。
椿姫
新国立劇場
新国立劇場 オペラ劇場(東京都)
2022/03/10 (木) ~ 2022/03/21 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
ソプラノ中村恵理も、テノールのデソーレも、バリトンのミシュケタも最高だった。オケも軽やかで抒情的で、盛り上げるところはしっかり盛り上げ、すばらしかった。全幕、きき所だらけ。なかでも、3幕のヴィオレッタが、なかなか来ないアルフレッドを焦がれるシェーナの後半が聞かせた。指揮者はウクライナ出身。母国の状況を憂いているに違いないが、音楽にも劇場にもそんなきな臭い気配は一切なかった。
2時間45分(休憩30分)
「最高は一つじゃない」という言葉を「粛々と運針」の須賀健太君が、好きな言葉として挙げていたので、使わせてもらいました。