実演鑑賞
満足度★★★★★
戯曲も俳優も見事な芝居だった。海軍を追い出されて、仕方なく警備員(ドアマン)をやってる中村蒼(ジェフ)がいい。のびのびした若さとお気楽なお調子者の様子が、全身からあふれていた。細かい所作もよく考えて作りこまれたものだろう。
ウイリアム(板橋駿谷)が、殺人の疑いで逮捕された弟のために、偽のアリバイ証言をするかどうか悩む。「無実の黒人が刑務所にはいっぱいいるっていうことも知ってる」というセリフで、ウイリアムは黒人の設定? と感じた。眞熊に調べると、米国での上演では黒人が演じていた。そうわかってみると、彼の「この社会は最低だって知ってるさ」等々の科白、ひたすら上に上るための職務への忠実さの裏に、黒人を取り巻く厳しい現実と差別があることがわかる。「お前は黒人だろうに」のようなあからさまなセリフはないので、見のがしやすいが。
家族や相棒のために嘘は許されるのか、逆に正直に話すことは密告・裏切りではないのか。普通、身内をかばうためのうそは当然と思うが、カントはいかなる場合も嘘を否定した。しかし現実には単純な答えはない。正義とは何かを、具体的に問いかけるいい芝居だった。