ロビー・ヒーロー 公演情報 新国立劇場「ロビー・ヒーロー」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    戯曲も俳優も見事な芝居だった。海軍を追い出されて、仕方なく警備員(ドアマン)をやってる中村蒼(ジェフ)がいい。のびのびした若さとお気楽なお調子者の様子が、全身からあふれていた。細かい所作もよく考えて作りこまれたものだろう。

    ウイリアム(板橋駿谷)が、殺人の疑いで逮捕された弟のために、偽のアリバイ証言をするかどうか悩む。「無実の黒人が刑務所にはいっぱいいるっていうことも知ってる」というセリフで、ウイリアムは黒人の設定? と感じた。眞熊に調べると、米国での上演では黒人が演じていた。そうわかってみると、彼の「この社会は最低だって知ってるさ」等々の科白、ひたすら上に上るための職務への忠実さの裏に、黒人を取り巻く厳しい現実と差別があることがわかる。「お前は黒人だろうに」のようなあからさまなセリフはないので、見のがしやすいが。

    家族や相棒のために嘘は許されるのか、逆に正直に話すことは密告・裏切りではないのか。普通、身内をかばうためのうそは当然と思うが、カントはいかなる場合も嘘を否定した。しかし現実には単純な答えはない。正義とは何かを、具体的に問いかけるいい芝居だった。

    ネタバレBOX

    新人女性警官見習いドーン(岡本玲)を残して、22階J号室にいりびたるビル(瑞木健太郎)の秘密、あるいはウイリアムの証言のうそなどが、すべておしゃべりなジェフの口から漏らされる。その漏らされるまでの過程が、実に緻密で無理がない。最大の山であるウイリアムのうそについては、漏らすつもりはないのに、口が滑ったという場面までの積み上げが実に見事。ただし、それだけ時間がかかる。長すぎると感じる人がいるのはそのせいだろう。

    実は幕間にプログラムのあらすじを読んでいたので、どういう風にウイリアムのうそを漏らすのだろうと思ってみていた。そういう興味で見ると、全然飽きなかった。
    そもそもウイリアムが弟のことをジェフに相談するまでも、十分じらし、そうなる雰囲気を作るまでに手をかけてからである。

    ウイリアムの証言の嘘の事実を知った瞬間、ドーンがにやりとする。ウイリアムをかばっていたビルの評判を、このネタで一気に台無しにできるという思惑からだ。その点、ドーンの動機は正義というより私怨なのである。ドーンが4人いる場で秘密をばらし、一瞬で互いの信頼がバラバラになる展開は予想外で見事だった。
    最後に、ジェフとドーンが仲直り?するのは、無理があるのではないか。

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    2022/05/13 09:16

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