セールスマンの死 公演情報 パルコ・プロデュース「セールスマンの死」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    だだっ広い舞台の中央に、大きな黄色い冷蔵庫が一つ。舞台天井から2本の電信柱がぶら下がっている。この抽象的な美術が、今回の演出を象徴する。ウイリー・ローマン(段田安則)の挫折と失意と、息子(福士誠治)への幻想にしがみつく現実逃避がいっそう強調される。段田安則のウィリーは、夢破れた男の最後の誇りとあがきと絶望を示して、説得力があった、

    家のリビングや、寝室、庭、兄弟の二段ベッドの部屋は箱庭のような移動式で、台車に載せて袖から出入りする。妻(鈴木保奈美)や隣家の関係はドライに、あるいは通り過ぎるように処理する。実際、セットが舞台を通り過ぎていく間に、その上に載った妻の科白が発せられ、隣家の優等生は自転車で舞台を回りながら切れ切れのセリフをしゃべる。

    非常に多面的な芝居だと改めて思った。現実を直視できない人間の愚かさを描いたとも、息子をスポイルする父なるものへの批判ともとれる。カネとローンで人を縛り、人間も使い捨てにする資本主義批判ともとれる。時代に取り残された男の悲哀とも、息子をダメにしたのは自分ではないかという疑いと、そんなはずはないという思いとの葛藤もある。アフリカで金を掘り当てた兄の幻は、アメリカ人の目をくらます一攫千金(アメリカンドリーム)のうつろな光を示す。友人が雇おうという話を断り続けるのは、愚かな意地のあらわれだ。以上はウィリーに絞った話だが、それを取り巻く人間関係も最小限にして十分。次男が女たらしで口達者なのは、父の一面をうけついだともいえる。その一方、くそ真面目だけで報われない父を反面教師にしたともいえる。

    ネタバレBOX

    最後はウィリーが冷蔵庫の中へ入っていき自殺する。つまり冷蔵庫は「墓」だったのだとわかる。すべては最初から、主人公の墓の前の出来事だったのだ。
    今回は、葬儀でののこされた者たちの会話のシーンはまるまるカットされた。

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    2022/04/21 10:27

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