もはやしずか 公演情報 アミューズ「もはやしずか」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    子ども時代に、自閉症スペクトラムの弟を事故で亡くした康二(こうじ=橋本淳)。冒頭、幼時のその時の情景から始まり、場面は現在に飛ぶ。互いに30過ぎの康二は妻麻衣(黒木華)の妊活に協力しているが、二人はどこか仮面夫婦のようでぎこちない。康二が煙草を隠し持っているのをしって、「やめるっていったじゃない」と責める麻衣。麻衣が精子提供を受けてることを見つけても、知らんぷりをつづける康二。麻衣は妊娠したが、出征前診断で障害を持つ可能性が「2分の1」と言われ、二人の間の亀裂は決定的になる。そして……。

    自己弁護やその場しのぎの合間に本音が垣間見える、ひりひりするような口語演劇。何かをずっと胸に秘めての責め合いは心理サスペンスのようだ。妊活や性欲をめぐるえぐい話もあり、まさに他人の家をのぞき見するようなリアリティー。
    麻衣は子どもを持ちたいと一途で、康二と結婚したのも、何もかも子ども中心。行き過ぎでついていけないところがあるが、それはそれで筋が通っている。実は康二は、自分のことで精いっぱいで、麻衣のそこがわかっていない。そのためにに起きるずれ、すれ違いは、表面の何気なさに反して、根は深い。

    二人の熱演、精密で生々しいセリフのやりとりが光る。康二の母を演じた安達祐実も、怒ったり、イライラしたり、悲しんだりの感情表現が素晴らしかった。
    弟の保育園の先生(藤谷理子)の、言葉は明瞭なのに内容のない話しぶり、自分の発言の支離滅裂に対する無自覚ぶりもすごい。ここまでひどいのはないけど、でも似たことはどこにでもありそうで怖かった。

    ネタバレBOX

    パンフレットに山内ケンジが書いている。平田オリザ以来の、語尾を濁したり、無意味な間投詞が多かったりの、現代口語演劇を受け継ぐ、加藤拓也の戯曲と演出。誰もがぼそぼそとつぶやくようにしゃべる。これは今の小劇場なら多い。そこから、最後に飛躍が起きるところが今回の芝居のかなめになる。

    子どもが生まれた後の復縁を麻衣が、康二の両親つれて、迫りに来るところ(これも「子供には父親が必要だから」と、子ども優先の都合にすぎない)。康二が弟が事故で死んでからの、自分のトラウマと、それが故の子供を持つ不安を明確に論理的にしっかり語る。なるほど、山内ケンジが言うように、二つの対極的な語り口を、無理なく一つの作品に溶かし込んだのはさすがである。

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    2022/04/04 01:08

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