ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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青春の会 父と暮せば 【東京公演】

青春の会 父と暮せば 【東京公演】

ゴツプロ!

シアター711(東京都)

2022/08/31 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

「助けて!」と泣き叫ぶ姉を残して逃げたことを苦にして、50年間誰にも被爆体験を語らなかった故・高倉光男さん。「原爆だけがいけないんじゃないと思います。原爆がいかんで大砲がいいなんてそんなアホなことありますかいな。戦争はいかん。」
現実にこういう思いを抱えた人達がうんといたのだろう。

当日パンフには美津江役・中薗菜々子さんの中学校の卒業文集『わたしの平和宣言』が載っている。彼女は広島出身。今作にとって重要な方言も本物。
竹造役・佐藤正和氏は今作の発起人でもある。二人芝居を自ら主演で背負うこと、思うだにゾッとする。
けれどこの二人の役者は実に魅力的だった。他の役も観たくなる。
館内は啜り泣きと漏れる嗚咽、井上ひさしの最高傑作、是非体感して欲しい。何度観ても新しい発見がある。

ネタバレBOX

「わしの分まで生きてちょんだいよォー」
「おとったんありがとありました。」

竹造は能天気で無神経、但し原爆の話になると人が変わったように憎悪に殺気立つ。
美津江は素直で嘘をつけないお人好し。観客もすぐそれに気付いて好感を持っていく。木下のことが好きで好きで堪らない、でもそんなハッピーな自分自身を許せない。あの地獄を一人だけ生き延びた卑怯な自分が、その上幸せになることは不公平だと思う。

普通に考えれば幽霊の竹造は存在していない。美津江の心の擬人化。どんどん恋が成就していく自身の無意識と理性の葛藤。

演出に多少違和感。リズムが違うのか、ハッピーな展開とそれを阻むトラウマの葛藤が上手く転がっていっていないような。木下正の存在が目に見えて来ない。
美津江は焼け焦げた地蔵の顔を見て、あの日の竹造を思い出す。そして一番の自分の心の重しは、誰よりも竹造の死であることを到頭語り出す。ここの部分が父娘の絶対的な絆を示し、どうしても口に出せなかったトラウマの吐露に繋がる。そこに至るまでの美津江の隠し続けた思いがこの作品の核、そこの部分が足りないような。
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ガマ』
米軍戦史に「ありったけの地獄を一箇所にまとめた戦争」と記された沖縄戦。住民の4人に一人が死亡、おおよそ3ヶ月で県民12万人以上が亡くなった。
岡本喜八の名作『激動の昭和史 沖縄決戦』は映画館だけでも10回近く観ている。新藤兼人の脚本が淡々と事実を積み重ね地獄絵図を記す。しかもこの映画が公開された1971年、沖縄戦を体験した住民が岡本喜八に食って掛かったそうだ。「あの地獄をこんな生ぬるい映画にしやがって!」
余談だがスピルバーグは岡本喜八の大ファンで『シンドラーのリスト』にはこの映画のオマージュがある。(『プライベート・ライアン』にも『血と砂』のシーンがあったような気がするがもう忘れてしまった)。スピルバーグは来日する度に岡本家を訪ねて来たそうだ。昔、奥さんから直接聞いた。「皆、黒澤明監督の事しか記事にしないけど本当よ。」

今作はその黒澤明調に始まる。ガマ(防空壕として使われていた自然洞窟)に入ってくる3人。ひめゆり学徒隊の看護要員(清水緑さん)、鉄血勤皇隊の引率教師(西尾友樹氏)が担ぐのは崖から落ちて意識を失っている負傷した兵士(岡本篤氏)。ランプを灯すとうっすらと中の様子が見えてくる。この照明が絶品で、綿密に繊細に計算尽くされた技術。照明・松本大介氏の見事な手腕。『羅生門』のようなおどろおどろしさから物語は始まる。

この劇団は役者一人ひとりの厚みが売り。黒澤組や喜八組を観ているような感覚で、今回は誰が何の役なのか、登場すると三船敏郎や仲代達矢ばりにゾクゾクする。
この面子を前に堂々と主演を張った清水緑さんは末恐ろしい。

ドキュメンタリー映画『沖縄スパイ戦史』(三上智恵、大矢英代共同監督)も是非観て頂きたい。護郷隊も出てくる。

ネタバレBOX

黒澤明の『白痴』みたいに寓話的にやるのかと思っていたが段々と岡本喜八調に。
岡本喜八映画なら誰を配役するか、妄想して観ていた。

清水緑さん(丘ゆり子若しくは大谷直子)
西尾友樹氏(伊藤雄之助若しくは加山雄三)
岡本篤氏(中谷一郎)
青木柳葉魚〈ししゃも〉氏(佐藤允)
浅井伸治氏(寺田農若しくは砂塚秀夫)
大和田獏氏(常田富士男)

期待しすぎてしまったのか、個人的には不完全燃焼。後半になるにしたがってイマイチ腑に落ちない。
会話に使用する言葉の選び方に違和感。話す内容も今現在の日本人目線で話しているような遣り取りに感じられ、リアリティーがない。わざと意図的にやっているのかと穿って観てしまった。先に結論ありきで作ってしまったような妙な感触。自分の観方が悪いのかも知れない。
それでもこういう作品は絶対に作っていかなければならないし、自分も観ていかないといけない。
加担者

加担者

オフィスコットーネ

駅前劇場(東京都)

2022/08/26 (金) ~ 2022/09/05 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

天才生物学者のドク(小須田康人氏)は失職し妻子に逃げられ、今ではしがないタクシー・ドライバー。たまたま乗せた裏社会のボス(外山誠二氏)にある提案をすることで人生が変わる。

タランティーノっぽいパルプ・フィクション(安っぽい犯罪小説)で始まり、ちょっと想像がつかない展開に。一体これは何の話なのか全体像が掴めない。

月船さららさんの出番は少ないのだがエロ要素満点、話法にかなりの工夫を見る。何か『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』みたいな叙情性も流れる。

中盤、停滞してかなりテンションが落ちるが、クライマックスで見事に引っ繰り返してみせる。テリー・ギリアムの感覚、『未来世紀ブラジル』みたいな。

そのクライマックス、ボス役外山(とやま)誠二氏とコップ役山本亨(あきら)氏、それぞれの独壇場たる独演は空気を一気に変えてみせる。狂気と正気がくんずほぐれつ攻守がぐるぐる入れ替わる内に、自分が正気だったのか相手(世界)が正義だったのか最早訳が解らなくなる高揚。ハラハラ見守るだけのドクも観客も言い知れぬカタルシスに呑まれてゆく。
この力ずくのシーンが強烈で観客大拍手。

ネタバレBOX

今作(1973年)はフリードリヒ・デュレンマットの失敗作として叩かれ、最後の戯曲となったそうだ。

アナーキストの青年の演説あたりから、「これは不味いな」と思い始める。50年前の戯曲だからか、『ファイト・クラブ』みたいなアナーキズムが安っぽい。

山本亨氏は東野英心やアンバランスの山本英治を思わせる押しの強さ。
頭痛肩こり樋口一葉

頭痛肩こり樋口一葉

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2022/08/05 (金) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

2回目。
第一幕75分休憩15分第二幕70分。

樋口夏子(一葉)の明治23年(1890年)の19歳から明治31年(1898年)、没後の2年後までをある年の盂蘭盆会(うらぼんえ)、7月16日のエピソードで綴る。(一度だけ例外がある)。

若村麻由美さん一世一代の当たり役、成仏出来ず現世を彷徨う幽霊、花蛍(はなぼたる)。彼女を観る為だけに足を運ぶ価値がある。両の袂をヒラヒラ振り回し、志村けんのコントのような絶妙な間でとぼけてみせる。名演。

またやるならば観るだろう。

ネタバレBOX

元宝塚トップスター、香寿たつきさんの歌声が朗々と響き渡る。

私達の心は穴の空いた容れ物
私達の心は穴だらけの容れ物

幕は400字詰め原稿用紙。樋口一葉(夏子)の生命が枡目から滲み出してゆく。自分の心の宇宙を可能な限り言語化して最後の一滴まで絞り出す。
「私は小説で世の中に取り憑いてやった気がします。」

幕は張り巡らされた網の目にも見える。因縁の糸の網の目に雁字搦めに縛られていく人々。(今作では女性)。誰を恨んでも誰を憎んでもこの構造とこのシステムの中に取り込まれていくだけ。
「でも私、小説でその因縁の糸の網に戦さを仕掛けてやったような気がする。」
虚構で現実に戦を仕掛けるロマンティシズム。

オープニング、5人の女の子達が「ぼんぼん盆の十六日に 地獄の地獄の蓋があく 地獄の釜の蓋があく」と歌いながらお駄賃をねだりに家々を練り歩く。邦子(瀬戸さおりさん)が一厘ずつあげるのだが、その少女達に扮しているのは貫地谷しほりさん、増子倭文江さん、熊谷真実さん、香寿たつきさん、若村麻由美さん!
第二幕のオープニングでは、夏子(貫地谷しほりさん)のもとに童に扮した瀬戸さおりさん、増子倭文江さん、熊谷真実さん、香寿たつきさんが訪れる。
早着替えとメイク直しの凄まじさ、舞台裏ではとんでもないことになっているのだろう。
銀河鉄道の夜

銀河鉄道の夜

東京演劇アンサンブル

池袋西口公園野外劇場 グローバルリング シアター(東京都)

2022/08/26 (金) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『銀河鉄道の夜』と謳われれば兎に角観たくなるもので、「現代劇センター真夏座」の文京シビックホール公演も行った。(初期形のブルカニロ博士オチ〈夢オチ〉で驚いた)。
今回は野外ということで滅茶苦茶期待。ステージから花道が伸びセンターステージもある。後方の櫓も張り巡らされたピアノ線も活躍。壁に投影される映像のレベルが高くセンスよく美しい。作品の視覚化に役立つ。楽曲の質も素晴らしく、歌と踊りのシーンは矢鱈と盛り上がる。

ジョバンニ役の山﨑智子さんはJITTERIN'JINNのヴォーカル・春川玲子似。歌が上手い。
カムパネルラ役は永野愛理さん、綺麗。
語り手は奈須弘子さん、牛乳屋も兼ねる。
ザネリは永濱渉氏、余り出番がなかった。
さそりは青柳万智子さん、かなりの見せ場が。
他のキャラクターは古代ギリシア劇のコロスのように仮面を付けた複数の者達が演じ、影となって作品を彩る。
鳥捕りのエピソードにかなり力を入れていた。

リンゴのエピソードの時にマイク(PA?)トラブルが起こり、その後音声が乱れてしまう。非常に残念なアクシデント。

想像力の果てしない旅に出る少年の一夜。

ネタバレBOX

骨だけの魚やプリオシン海岸で“未来の化石”を発掘する博士達、寺山修司っぽい。さそりの舞で噴水が噴き出す演出。
ラストはあっさりカムパネルラが消え、父親が別れを歌う。不思議な終わり方。

鳥捕りは未来のジョバンニなのかも知れない。
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『○六○○猶二人生存ス』(マルロクマルマルナオフタリセイゾンス)
45分。ろ組。
黒木博司大尉は今井公平氏、樋口孝大尉は宮崎柊太氏、後藤俊康整備員は谷口継夏氏。
魚雷を自ら操縦して敵艦に特攻する人間魚雷兵器「回天」。1944年9月6日、訓練開始初日に黒木大尉と樋口大尉の乗る「回天」は荒波に呑まれて海底に突き刺さる。

休憩10分。

『その頬、熱線に焼かれ』
65分。ろ組。
1955年、「原爆乙女」と称された25名の被爆女性がニューヨークの病院に招かれ、ケロイド治療を受ける。しかし麻酔事故の為、手術中に一人が亡くなってしまう。遺されたメンバーの様々な葛藤。ケロイドの特殊メイク(梅沢壮一氏)が見事で凝っている。

ネタバレBOX

①酸素が無くなるまで二人は、この事故を只の犬死にではなく明治の英雄・佐久間勉(つとむ)大尉のように後進に寄与する有意義な報告をし、戦意高揚の旗印とならんとす。生き残った後藤整備員はこの国の戦争は一人でも多くが死ぬように導かれていく、と嘆く。
②本宮真緒さんのメイクは凄い迫力。谷川清夏(きよか)さんも印象に残った。何と言っても中野亜美さんの存在感に驚く。死ぬのはむごく生き残ることも辛い。

男達は美しき死を願い、女達はそれでもしぶとく生きていく。
矢張りこの作家は短編向きではない。
追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/27 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『無畏』
初演を駅前劇場でフェイスシールド汗ダラダラで観劇。その時は「ここまでやるか」と作家の覚悟に畏れ入る。ちょっと前だったらこの内容はヤバかった。1998年、横浜黄金町のシネマベティでジョン・ウー製作の『南京1937』の上映中、右翼が乱入してスクリーンを切り裂いた。兎に角この手のネタはあれやこれやで潰される。面倒を厭う企業はタブー化して問題を更に深刻にする。ネット全盛の時代、情報はダダ漏れ、隠蔽して封印してしまえば国民は騙されるなんて最早無理。ちょっと知性があれば南京で皇軍が何をしたか?なんてすぐに分かる。
2度目の今回、「作品として随分よく出来ているな」と感心。判り易く丁寧、無駄な遣り取りを削ぎ落としている。初演から弄ったのかは不明だが、かなり観易い。簡潔に松井石根陸軍大将・上海派遣軍司令官の南京大虐殺に至るまでの罪を暴き出している。
大量の書籍が机や床に三箇所山積み、椅子の上に積み上げられた書籍も二箇所配置。ただそれだけの簡素な舞台美術だが非常に効果的。
何故、日本軍は掠奪強姦虐殺放火を大陸中で繰り返したのか?
当時の兵士達が全てを告白するドキュメンタリー映画、『日本鬼子』(リーベン・クイズ)も観て欲しい。

ネタバレBOX

西尾友樹氏が冷徹冷酷に林竜三氏を徹底的に追い詰めるクライマックス。暗闇の中、眼鏡のフレームだけがギラリと光るシーンが印象的。西尾氏はこういう役が本当に似合う。松井石根を抱きかかえてぶん投げる。幼児のように惨めに床に転がされる松井。本当なら三船敏郎のような体格だった方がこの効果は生きた気がする。
興亜観音に参りに行く西尾氏の姿で終わる。

松井石根の私設秘書役の渡邊りょう氏がいい味。こういう日本人が一般的だろう。
伯爵のおるすばん

伯爵のおるすばん

Mrs.fictions

吉祥寺シアター(東京都)

2022/08/24 (水) ~ 2022/08/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

サンジェルマン伯爵といえば『サイボーグ009』の単行本の書き下ろし短編、石森章太郎が彼の正体を推理する作品で知った。不老不死の男、時空旅行者、未来人、宇宙人etc... 、色々な考察がある。
だが今作ではその辺は余り関係ない。18世紀の終わり頃のフランス、ずっと橋の下で暮らしていた浮浪者。奴隷商人の仲介でブルボン公爵夫人に買われる。設定やキャラが『花柄八景』と地続きなのはご愛嬌。
展開は4コマ漫画の連作集を思わせ、業田良家『自虐の詩』を想起。パラパラと捲っている内にいつしか長大な時間の流れを感じさせるテクニック。話は壮大でスピルバーグの狂った映画、『A.I.』や『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』、『火の鳥 未来編』の哲学性も帯びる。

主演の前田悠雅さん、この人は何なんだろう。特徴的なくぐもった鼻声。シーンによって森川由加里だったり水川あさみだったりに見えるが結局誰にも似ていない。凄いカリスマ性があり、作品創作のファム・ファタール的存在。この人を使えば特別な作品が出来上がると作家に思わせる力。ファンの崇拝を集める巫女。なんかカスパー・ハウザーっぽい。
相変わらずの岡野康弘氏の天才振り。この人の声色はどうなっているのか。化物だ。
岡田帆乃佳さんは何でも出来る使い勝手の良さ。どの役もきちんと演じ分けている。
森由姫さんはまさに清純派アイドル、病弱キャラがいい。
仲美海さんもかなり弾けた記憶に残るキャラ。

永遠に死ねない伯爵の素敵な人々との出逢いと別れ。
小泉今日子の『丘を越えて』が宇宙の始まりから終わりまでずっと流れ続けているようなノスタルジー。
観客の誰もが帰り道、ずっと昔にこんな映画を観たことがあるような不思議な気持ちになる。

魔と怨の伝説

魔と怨の伝説

劇団1980

シアターX(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

「何かつまらなそうだな」と内心思っていたのだが、いざ観てみれば大当たり。気の狂った脚本にゾクゾク。これが映画だったらカルト扱いで大井武蔵野館辺りで延々特集上映されていたことだろう。橋本忍監督作品に通ずる魅力。ただ、一般的には訳の分からぬ超論理に敬遠する方が多いことも確か。

東大卒の息子の農林省への就職が決まり、可愛い婚約者をお披露目するホーム・パーティー。一家の幸福の絶頂の時にそれは起こった。真面目一徹の会社役員の父がパーティー後に息子を滅多刺しにして殺した。止めに入る妻も大怪我。逮捕勾留された父の裁判が始まる。仏頂面で何も答えようとしない父。検事と弁護士の攻防。誰にも理解出来ない父の動機。

後方のスクリーンに映し出される映画のスチールのようなスライド写真。非常に解り易い演出。裁判所から話は始まるが、段々と異世界に迷い込んでいく『羅生門』のようなスタイル。

ずっと仏頂面の父親、神原弘之氏が素晴らしい。全く内面が掴めない。
弁護人、青木和宣氏も自然な語り口で巧い。
証人として呼ばれた刑事、木之村達也氏はずっとニコニコ笑っている。この役作りは怖ろしい。
検事補の角島(かどしま)美緒さんは北川景子や葉月里緒奈系の迫力ある美人。
息子の恋人、山丸莉菜さんはいつもながら可愛かった。彼女が出ているだけで作品の生命力が変わる。
巫女の上野裕子さんも強烈。いつの時代の話なのか?

ネタバレBOX

裁判が進んでいくと、殺された息子が証人として現れる。父が完璧に用意した英才教育、何も選択出来ず鬱屈を抱えたまま素敵な家族を演じ続けたこと。
父は捨て子で東北の養護施設を点々とし、ある家族に養子に貰われた。どうにか勉学に励むことで苦境を脱し、一流企業に就職、妻と子を持つ。だが本当の父親を知らない自分には真似事の父親しか出来ないというコンプレックス。

そして時空は遡り、父の産まれた本州最北端の部落。その地は激しい潮流の為、漁業も出来ず、たまに流れ着く難破した船の積荷が生活の糧であった。その年は難破船もなく、食糧難の為、子供を産むことが禁止される。而して産まれた赤ん坊は殺すに殺せず養護施設に捨てられる。

裁判所に会いに来た実の父親を殺そうとする主人公。「俺が本当に殺したかったのは“父親”だったのだ」と。そこに祈りのような歌が流れる。今や廃村となった生まれ故郷の部落で母親達が歌っている。(ここの歌詞がはっきり聴き取れないのが残念)。呆然とする主人公。降り続ける雪。

いろいろと解釈は可能だが、もう少しラストを上手く纏め上げたらとんでもない傑作になり得た筈。息子を殺さなくてはいけなかった理由が観客にも共有できたなら。

冒頭から襤褸を纏った異形の者達がそれぞれ原始的な道具を使って効果音を鳴らし続ける。この演出が禍々しくて蠱惑的。
ナイゲン(R04年新宿版)

ナイゲン(R04年新宿版)

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

成程これが『ナイゲン』か。ワードとしては知っていて、よっぽど完成度の高い戯曲なのだろうと類推。到頭観る機会が来て興味津々。素直に面白かった。伏線回収を含めて見事に練られた脚本。何より演ってる役者陣が楽しそう。作者・冨坂友の母校、千葉県立国府台(こうのだい)高校に実際ある文化祭の内容限定会議、略称『ナイゲン』。自主自立を重んずる校風だった筈が段々と変容し失われていく流れ。冨坂は今作の「どさまわり」的キャラクターで闘争の日々を送ったようだ。

MVPは「監査」の大槻朋華さん。今作で観るのは3回目だがびっくりする程良かった。表情とリズム感、テンポがいい。
「議長」の河西凛氏。この人もいつ観ても良い。売れるんではないか。
「文化副」の兼行凛さん。『青春高校アイドル部』でアイドルをやっていただけに目立つ美人。
ヒールの「アイスクリースマス」の守谷周徒氏は若い時の布袋寅泰にやたら似ている。『INSTANT LOVE』の頃。
「どさまわり」の坂本七秋氏は活動家顔。この人の存在感が作品の肝。
演出の池田智哉氏が「おばか屋敷」で出演も兼ねた。この人のキャスティング・センスは絶妙で役者を見る目が本物。全ての出演者がその力量を発揮していた。
それだけに寺園七海さんと長谷川智也氏の降板が残念。本当はどうなっていたのか観たかった。

ネタバレBOX

高校が舞台なだけに一番盛り上がるネタがチャラ男の浮気と尿意。ちょっと笑いの方向性に余りのれなかった。横暴な権力介入と対峙する姿勢を求める「どさまわり」。本来ならその流れで皆が一つになるのが定番なのだが、今作は新しくそしてリアル。“そんなことも同様に下らない”と学校側の要求を茶化して乗り切ってしまう。その終盤の痛快感が今作の人気なのだろう。
追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

追憶のアリラン(8/18~8/26)、無畏(8/24~8/27)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2022/08/18 (木) ~ 2022/08/27 (土)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『追憶のアリラン』
相当手に余る題材でよくぞここまで作り上げた。1910年「日韓併合」という名目で日本の植民地にされた朝鮮。1941年(?)自ら希望して平壌の朝鮮総督府に赴任した三等検事豊川千造(佐藤誓〈ちかう〉氏)。彼に付けられた朝鮮人事務官、浅井伸治氏演ずる朴(パクでありボクでもある)忠男。この二人の友情物語でもある。豊川の妻役の月影瞳さんがやたら綺麗だった。終戦後、北からのソ連参戦で逃げ惑う日本人達。囚えられ公開人民裁判に掛けられる4人の検事。

ネタバレBOX

豊川の歓迎会で彼にせがまれ朴は仕方なく「アリラン」を歌う。高麗王朝末期に作られたとされるこの歌は、架空のアリラン峠を越えていく旅人の歌。何度も何度も朴は歌わされ、歌詞を覚えた豊川は終いには一緒に歌う。「こんな日本人は初めてでした。」、朴は豊川のことが大好きになる。命を懸けて尽くすべき友達のような敬愛。この純情が作品を貫き、泣かされる。

シナリオが混乱してどうも上手くまとまっていない。このテーマ、この題材への評価は高いが、作品の完成度としては弱い。兎に角作者の視点が定まっていない。無難な戦争観に着地するところも好きにはなれない。超人的な“正義に殉ずる人”頼みな物語に違和感。韓国人側から観ると朴が善良な日本人を讃美する構図に作為的なものを感じるのでは。それでも素晴らしい作品であることに間違いはない。

「それぞれの国の人達が親であり子でもあることを感じ取れなかった国に、『大東亜共栄圏』なんて理想を掲げる資格などなかったのだ!」
帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

帰還不能点(8/17~8/21)、短編連続上演(8/25・26)、ガマ(8/29~9/4)

劇団チョコレートケーキ

東京芸術劇場 シアターイースト(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/09/04 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

『帰還不能点』
初演からの二度目。今回は浅井伸治氏が演った役を照井健仁氏が演っている。
近衛文麿と松岡洋右が強烈に焼き付く。
泥沼の支那事変(日中戦争)の収め方が日本の命運を決めた。
良い役者が勢揃い。岡本篤氏と黒沢あすかさんはぐっと泣かせる。

ネタバレBOX

「みんなを救えないことが貴女一人を救わない理由にはならない!」
この一言が全て。

アフターアクトとして、西尾友樹氏と岡本篤氏の一人芝居が付いてきた。
西尾氏作品は山崎を追悼する飲み会に誘われたものの、どうしてもその山崎を思い出せず悶々とする不可思議なコメディ。一体どう受け止めていいものか観客も苦笑い。
岡本氏作品はモロ師岡調の泥酔おっさんモノ。これがやたら上手い。敗戦2年後、岡田と山崎が久方振りに飲む様子。
下山 ~親鸞の覚悟~

下山 ~親鸞の覚悟~

文化芸術教育支援センター

中目黒キンケロ・シアター(東京都)

2022/08/17 (水) ~ 2022/08/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

素晴らしい作品。自分的にこういう方向性の作品は全面的に支持。地獄の末法の乱世、シリアスに煩悩と戦って超越者にならんとする若き僧達。鎌倉時代、1201年の比叡山延暦寺(滋賀県)が舞台。親鸞役の柿本光太郎氏が秀逸。彼の表情一つ一つがリアルな空気感を伝えてくれる。
ずっと生演奏を続ける「竜馬四重奏」の二人、ヴァイオリンの竜馬氏と鼓(他和楽器)の仁氏。要所要所で和琴(わごん)を演奏し浪曲調にうなる高谷秀司(たかたにひでし)氏。細かい工夫が効いていて飽きさせない。子役の男女二人が可愛らしかった。吉良藍流(きらあいる)さんと坂元明登君。こういう真剣に仏教と向き合った作品を今後も期待。

「南無阿弥陀仏」(阿弥陀仏に帰依します)を唱えたのは空也とされていて、法然、親鸞と続いていく。『仏説無量寿経』に説かれた法蔵菩薩の誓願、「全ての衆生(生物)の救済が叶うまで私は如来にはなりません」。而して法蔵菩薩はすでに阿弥陀如来となられている。このことから法蔵菩薩の誓願は叶っており、この世の生きとし生ける全てのものは救済されることがすでに約束されている。これが浄土宗、浄土真宗の教義の中核。

ネタバレBOX

舞台は下山までだが、もう少し教義を語って欲しくもあった。

自分が浄土真宗に興味を抱いたのは、「日本のヘレン・ケラー」こと中村久子さんの話。「お念仏なさいませ。一切は阿弥陀様にお任せすることです。」との言葉に衝撃を受けた彼女、「煮えたぎっていた坩堝は坩堝のまま坩堝でなくなりました。」との境地に至る。あるがままの自分の許容。そのままの自分自身と向き合う為の念仏。「私を救ったのは、両手両足のない私自身の体であった。」とまで綴った。
夢・桃中軒牛右衛門の【8月16日~17日公演中止】

夢・桃中軒牛右衛門の【8月16日~17日公演中止】

流山児★事務所

小劇場B1(東京都)

2022/08/10 (水) ~ 2022/08/17 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

台風直撃にお盆の土曜、ずぶ濡れになりながら地下の小劇場に集った面々。伊藤弘子さんの「お宅らも好きねえ」的ないなせな口上から開幕。主人公・宮崎滔天(とうてん)の妻役・山﨑薫さんとその姉役・伊藤弘子さんの見事な掛け合いで今作の裏事情が語られていく。宮本研の1976年の作品を詩森ろばさんが現代向けにアレンジ。オリジナルを知りたくなる程の大胆な脚色、これを当時宮本研が書いたのなら衝撃的すぎる。
全然難解ではなく娯楽に徹しているので心配しなくて大丈夫。

盟友、孫文(さとうこうじ氏)による清朝政権の武力革命での打破に夢を懸けていた宮崎滔天(シライケイタ氏)。1904年、その夢は破れ浪曲師に転身。桃中軒(とうちゅうけん)雲右衛門(井村タカオ氏)に押し掛け弟子入りし、桃中軒牛右衛門(うしえもん)と名乗る。とはいえ革命の夢を諦めきれない若き中国人達が協力を求めて訪ねてくる毎日。その世話を焼く、妻の槌(つち)とその姉の波。(本当の名前は前田卓〈つな〉、夏目漱石の『草枕』で那美とされているのでこうしたのだろう)。1911年、孫文による辛亥革命が到頭成功するのだが・・・。

さとうこうじ氏は流石。ある種、キーになる役を演らせたら必ず成立させる強さ、凄い力量。
山﨑薫さんのファンなら今作は必見。開幕から終幕まで常に合いの手を入れ続けるような好演。
シライケイタ氏が「誰かに似ているな」とずっと考えていたのだが、IWA JAPANのプロレスラー、松田慶三だった。熊本のお座敷唄「キンキラキン」を木暮拓矢氏と唄い踊りまくるのは名場面。
牛右衛門の弟子、馬右衛門役の星郁弥氏を観るのは今作で三作目、その度にどんどん大物化している印象。一体何処まで行くのか?

各キャストの直筆サイン付き生写真が一枚300円で販売中、要チェック。

ネタバレBOX

裏MVPは井村タカオ氏。彼の独壇場の2シーンが余りにも胸に焼き付く。東京本郷座で成功を収めて今迄溜めに溜めていた鬱憤を吐き出すシーン。肺結核で死ぬ前に亡き妻・お浜(石本径代さん名演)の三味線を伴奏に一世一代の自らの人生の悔恨節を浪曲でうなるシーン。見事だった。

地獄の日中戦争までの間に、こんな夢のようなひと時が流れていたなんて今となっては信じられない。日本は何処で決定的に間違えたのか?日韓併合か?大逆事件か?
あつい胸さわぎ

あつい胸さわぎ

iaku

ザ・スズナリ(東京都)

2022/08/04 (木) ~ 2022/08/14 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

凄まじい傑作。これを見逃すことを考えるとゾッとした。評判の良いものはきちんとチェックしておいた方がいい。観ればすぐに解るように出来ている。
かなり映画向きの題材、今作のラストをきっちり作品化できる奴がいれば凄い技量。(来年公開予定ですでに撮影済み!やれんのか!?)
役者陣はもう何一つ言及する必要がない完璧な布陣。初演の辻凪子さんヴァージョンも観たかった。

主演の芸大生、千夏役の平山咲彩さん。今作を観て彼女のファンにならない人がいるとは思えない。彼女の醸し出す等身大の痛みや生活の質感は至極。少女にこそ、これを体感して貰いたい。
その母、昭子役の枝元萌さん。もうこの方は黒澤明クラスの映画の女優。この人が象徴している表現はすでに作品の枠を超えている。
昭子の勤める縫製会社の後輩、透子役の橋爪未萠里(いゆり)さん。物語のキーパーソン、難役を見事に成立。
縫製会社の新任係長、木村役の瓜生和成氏。全く演技なのか素なのか判断つかない。最早素人には解読不能。
千夏の幼馴染みの役者志望の芸大生、光輝役の田中亨氏。凄くリアル、絶妙な配役。

シングル・マザーで娘を大学にまでに入れた昭子。母子二人の暮らしには近すぎるが故の口に出せない痛みが点在。千夏は小説という手段で胸の内を吐き出そうとするが。

田舎町にやって来たサーカス小屋、その色褪せたテントの美しさ。皆精一杯に優しくて精一杯に正しかった。ただただその無力さに泣くしかない展開。だがそれだけでは終わらない。

ネタバレBOX

「そんな話は置いといて、まずは腹ごしらえ、ステーキを食おう」。これまでの負け戦の分析ではなく、これからを生き延びる為のルートを探るラスト。「書き続ける事こそが生きる事」と言わんばかりにノートに無我夢中に書き殴り始める千夏。この瞬間こそが文学の誕生で、ひたすら書き殴った文字列がこの世界の根本を揺るがす。生きることは目的なのか、書く為の手段なのか、世界と自分との関係性がぐるぐる廻り始める。クラクラする終幕。
ダンス×人形劇「エリサと白鳥の王子たち」

ダンス×人形劇「エリサと白鳥の王子たち」

日生劇場

日生劇場(東京都)

2022/08/06 (土) ~ 2022/08/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕40分休憩20分第二幕40分。

アンデルセンの『野の白鳥』の舞台化。オリジナルキャラクター、オコジョのチャッピが可愛い。(操演、声は松本美里さん)。縫いぐるみがあれば買ってしまいそうな程。
エリサ役の辻田暁さんはタタタタと走り宙を飛ぶ。
今回の人形は仮面にローブやケープやマントの衣装のみ。魔女の手が何倍にも伸び巨大化する効果など、子供達が怯えまくっていた。
アンデルセンの話は残酷で暗く不条理。

ネタバレBOX

松本美里さんは初登場時の大僧正の左手もやっていたような。ラスト、エリサが編んだ十一着の帷子の片袖が間に合わなくて、人間に戻った王子達の一人の片腕が白鳥の翼のまま。何の説明もなくハッピーエンド風味なのがまさにアンデルセン。
太陽にホエール

太陽にホエール

TKmeets

ステージカフェ下北沢亭(東京都)

2022/07/27 (水) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

正統派アイドル演劇。三谷幸喜の出世作、『やっぱり猫が好き』を思わせるあの空気感。
花奈澪さん、水崎綾さん、永吉明日香さん、遠藤しずかさん、この中の誰かのファンならば必見。絶対に観ておいた方が良い。
同居している四人のOL、アネゴ肌だが歪んだ世界観を持つ水崎綾さん。永吉明日香さんはそのノリに引き込まれてしまう純粋な娘(歌が見事)。花奈澪さんはエロ担当のツッコミ(粗品やぺこぱの松陰寺を彷彿とさせる)。遠藤しずかさんは闇を抱えた変わった娘。
何故かおっさん向けのマニアックな笑いが炸裂する優しい空間に癒やされる。面白かった。

ネタバレBOX

『「分かってる、でも出来ない!」お前は橘いずみか?』のくだりが突き刺さった。
花奈澪さんがほぼ素なのは珍しい。
『おわり』『はじまり』

『おわり』『はじまり』

大駱駝艦

世田谷パブリックシアター(東京都)

2022/07/14 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『はじまり』
キース・レヴィン在籍時のPiLの世界を視覚化したような舞踏。ダリオ・アルジェントの映画音楽を担当していたゴブリンっぽさもある。ラストの曲、『ラララ サピエンス』の言語センスは遠藤ミチロウ的。何か麿赤兒氏とミチロウのキャラ、存在感はだぶる。この曲がなにかの拍子でバズって『パプリカ』のように全国の子供達が踊り出したら面白い。
ボルツマン脳理論はこの世の全ては脳(意識)が見ている夢のようなもの、妄想に過ぎない的な皮肉。(多分)。
谷口舞さん等女性陣の活躍が目を瞠る。あの三人はニュートリノなのか?
田村一行氏の叫び声、「ア゛ア゛ア゛ァァァァァァァ!!」が癖になる。

ネタバレBOX

『おわり』の方が好き。宇宙の謎を解いていく興奮みたいなものがあった。今回は前回と同じキャラ(素粒子)で、目新しさがない。続けて観るのが正解だろう。何事も終わりの方が美しい。

『ラララ サピエンス』のMVはYouTubeで見れるので要チェック。サビは『WOW WAR TONIGHT』っぽい。
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・バルコニー!!

東京にこにこちゃん

シアター711(東京都)

2022/07/21 (木) ~ 2022/07/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『ロミオとジュリエット』のその後を描いた喜劇。このセンスは令和最先端に気が違っている。超満員の観客は新しい笑いに飢えていた。前作、『どッきん☆どッきん☆メモリアルパレード』のラスト、踊り子ありさんと釜口恵太氏のキスシーンが焼き付いている身としては観ざるを得ない。
場内は笑いが絶えず、役者一人ひとり登場するとわっと沸く。四柳智惟(ともただ)氏の作ったオープニング映像、NHK連続テレビ小説風「ジュリさん」が至極の出来。生き延びた二人が子供三人に恵まれて幸せな家庭を築いている。
長女ミア役の加藤睦望さんがガチガチの訛りで一切喋っている内容が判らないのが凄い。九州っぽい方言?
MVPは家政婦として住み着くチューシー役の高畑遊さん。元ハナタラシの大宮イチに似た風貌で、一貫して暴力的。この人の存在感は作品そのもの。

ネタバレBOX

西原理恵子の『パーマネント野ばら』を「た組。」が舞台化したものがこのテイストだった。原作を更に脚色してあっと驚くラストを作り出していた。

1988年、布袋寅泰がBOØWYの解散後初のソロ・アルバムを作っていた。当時の妻、山下久美子は「布袋君、自分で自分のコピーを始めたら終わりよ。」と言ってBOØWYっぽい曲を全部没にした。(「これだけは残してくれ」と頼んで生き残ったのが『GLORIOUS DAYS』)。
そんな逸話を思い出すかのように成功した前作をなぞってしまったような今作。観客は作家の資質そのものを支持している。もっと自分の才能を信じて新たな地平を開拓して欲しかった。(勿論それなりに普通に面白かったのだが)。『ハローワールド』と云うアニメ映画などと同じく、仮想現実モノの一篇。ネタよりも描き方に頭を捻るべき。ジュリエット視点だけでなく、ミア視点に客をのめり込ませられたら、違った味の作品になった。萩田頌豊与(つぐとよ)氏は随分と痩せていたように見えた。
ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

ザ・ウェルキン【7月21日~24日公演中止】

シス・カンパニー

Bunkamuraシアターコクーン(東京都)

2022/07/07 (木) ~ 2022/07/31 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕65分休憩15分第二幕70分。

ザ・ウェルキンとは英語の古語で“天空”の意味。日本だと“天つ空”みたいな感じか。1759年、ハレー彗星の到来に湧き立つ英国の片田舎。裕福な屋敷の少女が無惨なバラバラ死体で発見される。犯人として男女2名が逮捕され、裁判の後、男はすぐに公開縛首。屋敷の使用人であった共犯の女(大原櫻子さん)は事件のあらましについては黙秘したが自身の妊娠を主張。当時の死刑制度では妊婦は死刑を免れることが出来た。その真偽の判定の為、集められた陪審員は12名の妊娠経験のある女性。ベテラン助産婦・吉田羊さんはかつて自身が初めて取り上げた赤ん坊である彼女の命を何とか救おうとする。

客層は大原櫻子さんのファンが多いのだろう。11000円の高額チケットながら、きっちり入っていた。恐るべし大原櫻子!初めて観たが魅力的な女優。(LIVEはフェスで観たことがあるがピンと来ず)。序盤の鬼気迫った存在感に呑まれた。
吉田羊さんは手堅い。観客のガイドラインとしての役割を粛々とこなす。
那須佐代子さん、凛さんの親子初共演にも興奮。(観ていて初めて知って驚いた)。佐代子さんのメタ台詞、「自分のお腹を痛めて産んだ子ですもの。可愛くない筈がない。」に反応する観客もちらほら。

ネタバレBOX

バケツに小便、搾乳、大原櫻子さんはキャパのデカい良い女優。声色が少々物足りない。
ちょっと遣り取りがTVドラマ調なのが気になるところ。那須凛さん等が突然、「彼女はやっていないんじゃないか」と言い出す展開が不自然。(懸命に搾乳する様子を見ていたからと云うことなのだろうが)。
ホンと演出が上手く噛み合っていない気も。多分“神”が関係する話なのに、日本人には実感として理解出来ない為ズレが生じているのか?悪魔を見た女の話、妄想が現実化したと嬉しそうに語る大原櫻子さんの話。

自分の産んだ娘を自ら手に掛けるラスト。この世からTHE WELKINへと。矢張り足りないのは大原櫻子さんの見ていた風景。何故にハレー彗星をどうしても見たかったのか、だ。生と死の狭間でゆらゆら揺らめく頼りない蝋燭の火。後ろの壁が手前にせり出してくる。

演出加藤拓也氏のけれん味と戯曲の狙いとが互いに殺し合っているような弱さ。ラストはハレー彗星が大原櫻子さんに直撃するぐらいやるべきだった。

吉田羊さん演ずるリズは少女時代、勤め先の屋敷の主人(の友人?)にレイプされ子を孕む。産んだ我が娘は母親の図らいにより小銭で売られる。その娘はサリー(大原櫻子さん)と名付けられ、小さい頃から売春を強要され犯罪の道に走る。散々な人生を送ってきた彼女は、好きでもない暴力的な夫と暮らす日々の中、何処かから理想の男が自分を攫いに来てくれることを夢想している。その願いが叶ったのか、突然男が現れると彼女を誘い連れ去る。だがセクシーで魅力的なその男は邪悪な欲望の塊で、ありとあらゆる悪事を働く。サリーはそんな男の生き様を全肯定する。男に命じられるまま、勤め先の屋敷の少女を誘い出し、少女は身に付けた高価なアクセサリーを奪う為に無惨に殺される。後始末を命じられたサリーは死体をバラバラにして暖炉に捨てる。
「どうでもよかった」とサリーは言う。「死刑を免れたら、アメリカに行って男のように好き放題に生きたい」と。そんなサリーの心象風景に愕然とするも産み捨てた負い目があるのか、リズは彼女の側であろうとする。妊娠が証明され、死刑を免れるサリー。
しかし、大切な娘を惨殺された屋敷の主人(母親)にとってそんな判決を受け入れることは到底出来ない。役人に賄賂を渡し襲わせ、暴力的にサリーを流産させる。このままでは妊娠していないサリーは公開絞首刑にされてしまう。サリーはリズに誰も見ていないこの場で殺して貰うことを懇願する。自身の最期の尊厳の為に。リズは天空を仰ぐ。

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